第22話 ミユキの決意(1992/7/21 放映)

ホント、恐ろしい程似ないわー

脚本:山下久仁明 絵コンテ:澤井幸次 演出:鈴木吉男  作監:室井聖人 メカ作監山根理宏
作画評価レベル ★★★★☆

第21話
兄、タカヤを求めて、一人砂漠を彷徨う少女ミユキ。悲痛な彼女の叫びが、ブレードの心を揺らす。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「ミユキの決意」仮面の下の、涙を拭え。

サブタイ前粗筋
新たに覚醒したテッカマンレイピアは、ラダム基地を脱走し、地球へと向かった。レイピアを追って、地上に降り立ったテッカマンエビルは、テッカマンブレードと激突した。そしてパワーアップしたエビルは、PHYボルテッカを放ち、ブレードのボルテッカを封じ込める事に成功した。一方その頃、二人の妹であるテッカマンレイピアは、その姿を人間に変え、砂漠を一人、彷徨っていた。
「お兄ちゃん……」


Dボゥイがテッカマンエビルに敗れてからの翌日早朝、スペースナイツ基地の最下層にあるシークレットルームでは、ミリィとフリーマンがコンピューターのキーボードを激しく打ち鳴らしている。モニターにはペガスの新たな設計図が表示されているようだ。ミリィがこのシークレットルームに案内されたのはつい昨晩の事だった。フリーマンはミリィにこの部屋の事情を話し、彼女にはコンピューターオペレーティングとペガスの新武装案の開発を手伝ってもらっているのだ。それも徹夜で、である。
第三格納庫では、破損したペガスの修理が行われているが、レビンはペガスを見て嘆息を吐くばかりで、手伝おうともしない。そんな彼に本田がスパナ片手に話しかけた。
「レビン! 少しは手伝え!」
「そんな気分じゃないのよね……あたし」
「レビン……」
「ブレードのボルテッカが通用しないんでしょ? 頑張って直したって、またエビルに壊されちゃうわよ。それじゃ幾らなんでも、このペガスちゃんが可哀想……」
「なぁに! 今度は負けねぇよ!」
「え……どうしてそんな事が言えるワケぇ?」
「あぁ、話してなかったかな? フリーマンとミリィの事」
「聞いてないわよ?」
「実はなぁ!」
 本田が目を輝かしながらレビンに事情を話した。
そしてその頃、意識を取り戻したDボゥイは、レクリエーションルームのマシンを使ってトレーニングを行っている。バタフライマシンと呼ばれる、大胸筋等を鍛えるマシンでDボゥイは無心で鍛錬していた。
エビルには自分のボルテッカが通用しなかった。ならば、ボルテッカに頼らない格闘戦でエビルを圧倒するしかない。そんな風に考えつつ、Dボゥイの闘志は、未だ萎えてはいなかった。
 そんな彼を心配してアキが声を掛けてきた。
「Dボゥイ! もう……大丈夫なの?」
「寝てばっかりじゃ……身体がなまっちゃって、しょうがねぇんだとさ」
 隣では、ノアルが懸垂器を使ってやはりトレーニングしながら、Dボゥイの代弁をした。
「そう……でもあんまり無理はしちゃ駄目よ? その身体、貴方だけのものじゃないんだから……」
「え……ふーん?」
 アキがDボゥイの身を案じての言葉にノアルが邪推する。
「ち、違うわよぉ! 私は……ただ、Dボゥイの身体は、地球の為に大事だって言いたかっただけ!」
「言い訳すんなって?」
 素直じゃないな、と思いつつ、ノアルは釈然としないアキの横顔を見ながらからかう様に言う。
そして、Dボゥイを一瞥すると、
「後は、アキに任せたぜ」
 と言ってその場を去ろうとした。ノアルはDボゥイが無茶をしないだろうかと心配していたのだ。勿論彼自身も、ソルテッカマンを駆る為には耐久力を鍛える為に此処に来なければ、と思ってはいたが。
 そしてノアルが出口に向かおうとした矢先、ドアから突然出てきたレビンにぶつかって尻餅をついてしまう。
「なんだ、レビンかよ」
「邪魔よぉ!」
 彼はそんな風に言って尻餅をついていたノアルの左手を踏みつけながら、Dボゥイの元へと走る。
「痛ぇ!」 
 痛がるノアルの事など気にも留めずに、レビンはDボゥイの前に来て話しかけた。
「ねぇ、知ってる!? Dボゥイ! 今チーフとミリィが何をやってんのか!」
「そう言えば……昨日から姿が見えないわね」
 アキがそう言った。どうやら、事情をフリーマンから直々に聞いていたのは本田だけの様だ。
「ねぇ! Dボゥイ! 知ってる?」
「勿体ぶってねぇで教えろよ!」
 ノアルが左手を振りながら、知ってる? を繰り返すレビンを急かした。
「ペガスをパワーアップする為の、シミュレーションを行っているのよぉ! それさえ完成すれば、もうこっちのもんだって! 本田の親っさんも、太鼓判押してたわ!」
 ノアルもアキも、それを聞いて怪訝に思う。何故自分達にはその話を聞かされていないのか。
「Dボゥイ! 貴方きっと、エビルにも勝てるわよ!」
「本当か!?」
「うん、本当よ! 嬉しいでしょ?」
「あぁ!」
 Dボゥイはその話を聞いて、マシンのトレーニングを止めてレビンの話に飛びついた。Dボゥイにとっては一筋の光明が指した気分だった。だが、ノアルとアキにとっては……。
「あれ? ノアル達は嬉しくないの?」
 そうレビンに言われる前にノアルは駆け出していた。
「あ! ノアル! 待って!」
 それを追おうとしてアキも駆ける。二人が部屋から出て行くのをレビンは不思議そうに見ていた。
 そして、ノアルにアキが追いつくと、彼は走るのをやめて歩き出した。だが、その表情は強張っている。
「ノアル?」
「結局チーフは、Dボゥイを戦闘用の兵器としか見ていねぇんだ! 双子の兄弟なんだぜ? Dボゥイとエビルは! それを……戦わせる事しか頭にないなんて……俺には許せねぇ!」
ノアルは、Dボゥイの人間性を無視して、エビルを倒す事に専念するフリーマンと言う男が許せなかった。アキは、フリーマンがそこまで非道な人間かどうか、推し量りかねている感じだった。彼女はフリーマンが許せないと言うより「どうして」と言う言葉が先行しているのだ。元より、フリーマンと言う男は多くを語ろうとはしない、寡黙な人間だからよく誤解される事ではあるが。
「チーフ!」
「チーフなら、まだ見えてませんよ?」
指令所に入ったノアルは、怒気を隠さぬままフリーマンを呼んだが、女性オペレーターが代わりに応える。
「チーフの部屋か?」
「いいえ、先程連絡を入れたんですけど、不在でした」
 二人は怪訝な顔をした。
「何処にいるんだ?」
 ノアルは例え上官と言えど、仲間の心を踏みにじるのは許せないと一言文句を言うつもりだったが、肩透かしを食らった気分だった。彼がDボゥイをここまで心配し、代わりに文句を言う等、今までに無い事だった。
 シークレットルームでは、未だ作業が続いている。モニターのペガスの設計図は、エラーを起こしていた。
「必要なフェルミオンの容量は、ボルテッカをも上回る。この反物質同士をうまく制御して、エビルを倒す為には、その容量を集積出来るだけの、耐震・耐熱型の反物質制御ユニットをペガスに装備しなければ駄目だ」
「サーキット交換のシミュレート、もう一度やってみます」
「うむ」
 ミリィもフリーマンも、昨夜からずっとこの作業を行っているが、まだ新設計の目処は立たなかった。
 荒涼と広がる砂漠では、ボロ布を羽織った少女が砂漠を渡っていた。何の装備も無く、裸足で一歩一歩、喘ぐ様に歩く。だがそれは、半ば自殺行為に等しい行為だった。灼熱の太陽は、じりじりと少女を渇きの極みへと誘い、焼けた砂は彼女の裸足を埋もれさせながら徐々に焼いていった。
「はぁ……はぁ……何処にいるの……お兄ちゃん……」
彼女はうわ言の様にそう繰り返している。彼女は昨日からずっと歩き通しであり、息も絶え絶えだ。夜の気温は10度以下に下がり、昼は50度以上。寒暖の激しい砂漠をずっと歩き通しだった彼女は、もう既に体力の限界を迎えていた。
そして遂に歩く事も出来なくなって、砂漠の真ん中で倒れこんでしまう。焼けた砂が自身の身体を焼き、空に輝く太陽はじりじりと彼女を少しずつ焼いた。地面からも太陽からも焼かれていく彼女は、もう一歩も動けないほどに体力を消耗し、意識を失っていく。
「タカヤ……お兄ちゃん……」
 彼女はDボゥイの本当の名を知っていた。彼女の名はミユキ。Dボゥイの妹である彼女はラダムのホームである月面ラダム基地を脱走し、地球へと逃亡していた。故に、もう一つの彼女の名は、テッカマンレイピア。
 諜報索敵型であるレイピアは、偵察や斥候等、隠形に特化したテッカマンであり、本来戦闘には向かない。その彼女が、テッカマンにならずにサハラ砂漠の真ん中で力尽きようとしている。手元には自身のテッククリスタルを持っているにも関わらず、である。
そして数十キロ離れたレイピアが降り立った場所には、落下した跡であるクレーターを見下ろす、テッカマンエビルがいた。搭乗型のラダム獣に乗ってエビルは、付近を探索している。
「……此処に落ちたのは間違いない。レイピア……何処だ? 何処に隠れたんだ……」
実はミユキは、エビルに捕捉されない為に人間に姿を変えていたのだ。テッカマンになれば精神波を感知され、たちどころに追いつかれる。諜報索敵型のレイピアは、戦闘ではエビルに対抗する事が出来ない。だからこそテックセットせず、砂漠を徒歩で渡らなければならなかったのである。勿論、理由はそれだけではないが。
「何故ブレードだけではなく、レイピアまでもが我々ラダムを裏切ったんだ……!」
 エビルの疑問も当然だった。調整中だった彼女はその途上で脱走し、地球へと逃亡した。テッカマンへの調整は最終段階に至った状態での事件である。彼女の身に何が起こったのかを確かめなければ、エビルの疑問も晴れる事は無かった。
数km先を見通すセンサーを持ってしても、音速で砂漠を渡っても、相変わらず彼女は見つからない。
「あの二人を会わては、我々が危機に陥りかねん。早くレイピアを探し出さねば……」
 十数キロ先には砂漠を渡るロマの一団が列を成している。それを横目に見たエビルは、焦燥感に捉われていた。彼女は、ラダムの本拠地を知っている。レイピアがブレードと合流すれば、自分達の本拠地を襲撃される可能性があるからだ。
今現在、恐らくテッカマンブレードはエビルと戦闘しても勝てはしないだろう。だが、もし本拠地を襲われてしまうと言うリスクを抱えていたら、ラダムの侵略は頓挫するかも知れない。その中で重要な事は、今現在ラダム母艦基地は修復中であり、拠点は動く事が出来ない。更に言えば今の所防衛に参加出来るのは、テッカマンエビルとテッカマンオメガ、そしてラダム獣だけである。
「何としてもあの二人を会わせてはならない。ならば……レイピアよりもまずブレードを先に!」
 テッカマンエビルは、彼女の探索を諦め、優先順位をブレードに絞り、彼を倒すべくエジプトを後にした。
 数時間後、エビルが先程見たロマの一団は、テントを張って野営の準備を行っている。その内の一つであるテント内で、ミユキは目を覚ました。彼らは、砂漠で意識を失っていたミユキを保護したのだ。乾いた顔を水で濡らされ、水が入った皮袋を差し出される。一団のリーダーである長老や大人達、最年少の少女が自分を見下ろしていた。ミユキは皮袋の水を無我夢中で飲み始める。咳き込みながらも、身体は水を欲していた。
「慌てて飲まんでも、無くなりはせん」
 長老は、そう言って、優しくミユキに語り掛けた。ミユキは乾いた喉を水で潤すと、一息吐いた。
「大丈夫かな?」
「ありがとう……ございます」
「駄目だよ? 砂漠を一人で渡ろうなんてしちゃ? とっても危ないんだから」
 少女はミユキにそう語りかける。少女は10歳以上か。歳の近い者がこの隊商にはいないせいか、少女はミユキに興味があった。ひょっとしたら友達になってくれるかもしれない。そんな少女にミユキは笑い掛けた。
「お姉ちゃん、何処から来たの?」
 しかしミユキはその質問に視線を逸らし、沈黙する。まさか月の裏側から来た、等とは誰も信じないだろう。
「人には答えたくない事もある」
「はぁ〜い」
 長老は、そんな風に柔らかい口調で少女を律した。そして少女は、テントの外に出るとラクダと戯れ始める。
「すみません……私……」
ミユキはそう、済まなそうに長老に言うが、それに対して何も言わなくていい、と長老は頭を振った。彼らロマと呼ばれる者達は、大なり小なり事情を抱えていて放浪する者達だ。特に、ラダムに生活圏を追われてから、こう言った移住生活者は徐々に増えているのが現在の実情である。
その時突然、少女の悲鳴が響き渡った。ラクダが砂に埋もれ、野営場所の中央にアリジゴクの様なすり鉢状の巨大なくぼみが出来上がる。長老とミユキもテントの外に出て、それを目にした。
「助けてぇ!」
 既にラクダはすり鉢状の巣に飲み込まれた後で、少女は逃げる間も無く穴に落ちてしまう。普通に考えれば、こんな巨大なアリジゴクの巣があるワケがない。だが、異星生命体であるラダム獣なら、巨大なアリジゴクと化すのも不思議ではなかった。どうやら隊商の一団は、地中に眠るラダム獣の上を野営地にしてしまった様だ。
「落ちるよぉ!」
 少女はすり鉢に落ち、中央の穴の中にいるラダム獣に殺されるのも時間の問題だった。そして、隊商の大人達は、これ以上の犠牲は御免だと、誰もそのすり鉢の中に入って救助する様子は無い。
 ミユキはそれを見て迷った。右手にはテッククリスタルがある。テックセットしてテッカマンとなれば、少女を助ける事は出来るだろう。しかし、彼女には逡巡があった。テッカマンになればエビルに捕捉される危険がある。それに、自分の身体は……。
 迷うのも数瞬だった。ミユキは持っているクリスタルを高く掲げると、叫ぶ!
「テック……セッタァー!!」
 長老は眩い光に包まれる少女を見た。ミユキは生まれたままの姿になり、クリスタルフィールドの中で徐々に形を変えていく。素体を経て、鎧を纏うのはブレードやエビルと同様のプロセスではあるが、その装甲である鎧は兄達と違って無骨なモノではなく、どちらかと言えば薄い軽装甲を羽織る印象だ。手足の装甲は華奢なラインで、顕になった腰や乳房もまた、軽装甲に覆われていく。そして最後に頭巾の様な仮面を付けると、テックセットを完了した。テッカマンレイピア。その姿は宇宙の騎士と言うより、女忍者と言う出で立ちの薄紅色のテッカマンである。
レイピアは左肩にあるランサープロジェクターから小刀状のテックランサーを形成すると、背部のバーニアで飛び上がりながら、ランサー先端にあるテックワイヤーを少女の手首に巻きつける。レイピアが巣穴から少女を救い出し確保すると、穴の中にいたラダム獣が出現した。
少女を抱えて着地したレイピアに、ラダム獣の爪が迫る。それを飛び上がってかわすレイピアだったが、テックセット時の戦闘経験が皆無の彼女は、自分の動きを制御仕切れていない。着地と同時に彼女は体勢を崩して倒れこんでしまう。野営所に迫るラダム獣。このままでは被害はラクダ一頭では済まなくなる。レイピアは少女を地面に下ろすと、テックワイヤーを獣の足に巻きつけた。
「えぇいっ!!」
そしてバーニアを吹かして飛びながら、獣を野営所とは別方向に強引に向かせる。獣を牽引し、彼らから少し距離をおいたレイピアは、腰溜めにしたテックランサーを構えて突進する様にラダム獣に突っ込んだ。頭部と胴体部の間辺りを激しく突かれたラダム獣は、爆発を起こして絶命する。
爆発の砂煙を浴びはしたが、テッカマンレイピアは無事である。彼女はテッカマンの姿のままで砂漠の民に近寄り、その母に抱えられた少女に手を伸ばした。もう大丈夫、怖くないと。しかし……!
「あぁ……いやぁっ!!」
「……っ!?」
 レイピアは少女に拒否されてしまう。その姿は、先程の可憐な少女ミユキとは全くの別物だったからだ。そして、他の大人達からも同様に、拒否と差別の眼差しと、悲痛な言葉がレイピアへと差し向けられた。
「こっちに来るな! 化け物!」
――――化け物……!? 
 自分の手を見る。素肌ではない。歪な、装甲を纏った凶器の様な手。その気になれば、ここにいる者達を瞬時に惨殺する事が出来る凶刃を持ったテッカマンと言うモノが、周りの人間達にとってはどういった存在なのか、ミユキは改めて知った。それは強い衝撃を伴って、彼女の認識を揺さぶっていく。
「いやあぁぁあぁあああ!! うぅうわああああ!!」
 レイピアは突然頭を抱えて悲鳴をあげた。それを、遠巻きにして見る砂漠の民達。ラダム獣と言う脅威から彼らを救ったとしても、レイピアの異形は同じ人間として彼らに認められなかったのである。先程の優しい長老ですら、彼女に笑みを見せる事は無く、沈黙を保ったままだ。
ミユキは多くの人間達に囲まれていても、どうしようも無く、孤独だった。

 その頃、テッカマンの姿を解き、人間へと戻ったシンヤは、いつもの革ジャンを羽織った出で立ちとは違っている。赤いジャケットと白ズボンに赤いブーツを身に纏ったその姿は、スペースナイツ所属のDボゥイそのものである。彼は防衛軍本部基地を見下ろせる場所に立つと、兵士達が懸命に復旧作業に従事しているのを見ている。壊滅寸前にまで襲撃された本部基地ではあるが、徐々にその機能を取り戻しつつあった。
――――無駄な事をしているな……馬鹿な人間共が……!
 シンヤは、そう鼻で笑う様に心中で侮蔑すると、本部基地へ堂々と侵入する。兵士達の中ではDボゥイの扮装はかなり目立つ。民間人が何の用だ、とすれ違う兵士達は思うが、復旧作業に掛かりきりの彼らがシンヤに文句をつける事は無い。
「君……もしかしてDボゥイ?」
「え? あ、あぁ」
 その中で一人の青年兵がシンヤに声を掛けた。
「わぁ……こんなところでDボゥイに会えるなんて思わなかったなぁ! 感激だなぁ! 僕、入隊してからずっと貴方に会えるのを楽しみにしていたんです!」
 整備服を着た青年兵はまだ十代位の年齢だろうか。大袈裟にそう言う彼は、テッカマンブレードのファンだった。防衛軍に入れば、ブレードと一緒に戦えると思っていたのだろう。 
「……ちょっと握手させてもらってもいいですか?」
 青年は整備服で手をごしごしと拭いて、シンヤに手を差し出す。シンヤは頷きながら応える様に握手した。 
「わぁ……柔らかいや……テッカマンじゃない時は、やっぱり普通の人間なんですね!」
 青年は憧れのDボゥイと握手した手を見てまた感激している。そして、思い出した様にシンヤに言った。
「ここで何をなさってるんですか?」
 一応部外者は立ち入り禁止のはずなのに、何故ここにDボゥイがいるのか青年は不思議に思う。
「……送ってもらえる方法って……無いかな?」
「送るって、スペースナイツ基地にですか?」
「あ、あぁ、そうだ」
「ブルーアース号に、置いてきぼり食らっちゃったんですか?」
「……まぁ、そんな所だ」
シンヤが困った様な笑みを浮かべたのを見て、青年は例え地球を救う憧れのヒーローでも、時たまこんな風に失敗をするのだろうな、と勝手に解釈した。
そしてシンヤは、実はスペースナイツ基地の所在を知らなかった。防衛軍本部基地の所在は知っていても、極秘組織であるスペースナイツが何処にあるのかは判明しなかったのである。だからこそ、Dボゥイの姿になり、話を合わせて基地に送って貰う様にしているのだ。
「……分かりました!」
 青年はシンヤであるDボゥイに微笑みながらそう言った。青年にとっては、困っている憧れの救世主を送ると言う行為に心が躍っている。そしてシンヤも、一瞬その獰猛な赤い目を輝かして不敵に笑った。
 シンヤを連れた青年は飛行場に来ると、上官にヘリを借りれるかどうかを頼んでいる。スペースナイツのDボゥイが困っている、と言う言葉を添えて。
「と言う訳なんです、隊長」
「……わかった」
 青年の上官である空軍士官は、青年兵の頼みを聞いて、ヘリを一機使用する事を許可した。仕方ない、テッカマンブレードには防衛軍基地を救って貰った借りがある。不承不承貸してやる、と言った感じである。
「Dボゥイ! OKです!」
 上官に敬礼し終えると、青年はシンヤに振り向いて親指を立てた。これで労せずスペースナイツ基地を見つける事が出来る。シンヤは内心、そうほくそ笑んでいた。
「一体何処に消えちまったんだ、チーフとミリィは!」
「こっちが聞きたいわよぉ! 親っさん、ホントに知らないの?」
「知らねぇよ。行き先までは聞いてねぇんだ」
 スペースナイツの面々は、指令所に集まっている。フリーマンとミリィが何処に行ったのかは結局判明しないままだった。シークレットルームの位置を知っている者は恐らくバルザックとミリィだけだろう。
そしてノアルは、未だフリーマンに対して怒りの表情を崩してはいない。
「こんな大事な事を俺達に隠しておくなんて、一体何を考えてやがる!?」
「まぁまぁ、そう熱くならねぇで! 二人を待とうぜ」
「親っさんまでそう言う事を!」
 そうノアルが言った刹那、指令所のドアが開いてミリィが駆け込んできた。フリーマンも一緒である。
「出来たわよぉ!」
 ミリィはディスクをレビンに手渡した。徹夜作業ではあったが、疲れよりも喜びが先行している印象だ。
「おぉ! 出来たか!」
「やったわねぇ! これが……やったぁ!」
 レビンもディスクを手にして喜びの絶頂と言う感じである。
「これよ! これなのよDボゥイ! これさえあれば、貴方もうエビルなんて敵じゃないわぁ!」
 そう言って、レビンはDボゥイに迫る。Dボゥイも苦笑しながらではあるが、微笑んでいる。
「親っさん、レビン。後は任せたぞ」
「ラーサ!」
「行くわよぉ! 親っさん!」
「おぅ! 分かったぁ!」
 フリーマンにそう言われて、二人は指令所を出ていき、整備所へと向かった。しかし残った五人の内一人は、その憤りを隠さぬまま詰問する。
「チーフ……俺は納得できねぇ! チーフはDボゥイを何だと思ってるんだ!」
 フリーマンは、ノアルの言葉を受けても無言で冷静である。
「Dボゥイは人間なんだ。戦闘兵器なんかじゃねぇ……それに、Dボゥイとテッカマンエビルは、双子の兄弟なんだぜ!? その二人を戦わせる事しか、それしかチーフは考えてねぇのかよ!」
 Dボゥイはノアルがそう言って、彼が先程から怒っている理由を理解した。確かに、兄弟同士で争うと言う現実は自分にとっても辛い事ではあったが、仲間がそんな風に心配してくれるのも有難かった。
「チーフを責めないで下さい!」
 意外にも、フリーマンを庇ったのは彼と一緒に作業していたミリィだった。
「ノアルさん……どうして解ってくれないんですか? チーフは誰よりも、Dボゥイを仲間だと思ってるんですよ!?」
「俺達だって思ってる!」
「嘘! 嘘よ!」
 ミリィは激しく頭を振った。
「だって、仲間だからこそ、Dボゥイに何かしてあげたい。今Dボゥイの為にあたし達が出来る事、それを手伝ってあげるのが本当の仲間だと思うの!」
 ミリィは今にも泣き出しそうな表情であるが、必死だった。彼女の痛い程の気持ちを、Dボゥイも感じた。
「……私は、Dボゥイ自身の力を強くしてあげる事しか出来ないと思う。そしてチーフもそう思った。だから! チーフは防衛軍にテッカマンのデータをわざと渡したんです!」
 その事実にノアルは絶句した。
「チーフ、本当なんですか?」
 アキがそう語りかけると、フリーマンはまるで重い口を開くかのように説明した。
「私がバルザックボルテッカに関するデータを渡した。それを研究し防衛軍はソルテッカマンを作り上げてくれた。そして私は、フェルミオン砲のデータをフィードバックし、ペガスのパワーアップに取り組んでいたのだ。それが……Dボゥイを強くする最良の手段だと考えてな」
 フリーマンは実際、ペガスのパワーアップを行う研究において行き詰まりを感じていた。スペースナイツの激務と共にテッカマンフェルミオンの研究を行う、それ自体に限界が生じていたのだ。そんな時、振って湧いたバルザックのスパイ事件。それによって防衛軍が新兵器を開発する事に期待した。
自身はフェルミオン砲の開発を既に成功させてはいたが、問題は小型化する上での時間の無さだった。そして、コルベットと言う男の性格も熟知していた。あくまでも地球の技術力でテッカマンを再現するのは不可能だと結論付けていたフリーマンは、ソルテッカマンが敗北する事を予期し、早々にコルベットが手放すだろうと踏んでいたのだった。つまり、最良であり最速であるパワーアップ案だったのだ。
「そして遂にチーフは、ハイコートボルテッカを完成させたのよ!」
「ハイコートボルテッカ!?」
 ハイコートボルテッカ。それは、今の時点でテッカマンブレードの強化をする事は出来ないと判断したフリーマンは、ペガスに新機能を追加してブレードへの強化を行う、そんなコンセプトに基づいたパワーアップ案である。ペガスに小型のフェルミオン砲を装備させ、ブレードのボルテッカと連動して放つ、合わせ技と言っても良いモノだった。
「チーフ……礼を言う」
「……うむ」
 黙って聞いていたDボゥイはそんな風にフリーマンに礼を言った。ノアルの気持ちも嬉しいが、今はエビルを打破する事が最重要事項だからだ。そんな仲間達に恵まれている事に、Dボゥイは深く感謝している。ノアルも、説明を受けてようやく納得した。Dボゥイ自身からそう言う風に言われれば、もう何も言う事は無い。
 その時、突如スペースナイツのレーダーが飛行物体を捉えた。ミリィはオペレーター席についてモニターを起動させる。
「軍のヘリだわ」
「なんでぇ、脅かしやがって」
 アキもノアルも、防衛軍の機影を見て安堵した。だが、それに乗っているのは……!
「ほぉら、見えてきましたよ!」
 軍用ヘリに搭乗した先程の青年が、Dボゥイに扮したシンヤに声を掛けた。
「ふぅーん……こんな所に奴らの基地があったのか……」
「はぁ?」
 シンヤは、青年に向いて笑った。獣の様に。そして紅い閃光が機内に走る。次の瞬間、軍用ヘリは爆発を起こした。青年兵の命を藻屑にして。
「あれは! エビル!」
 機内でテックセットしたテッカマンエビルは、紅い光を纏ってスペースナイツ基地へ飛来する。
「遂に見つかってしまったか……!」
 まさか敵が軍に案内されてスペースナイツ基地の位置を教えてしまうとは、誰一人として想定していなかった事だった。いや、想定していたとしても、それを阻む事は難しいだろうとフリーマンは思っていた。
「ミリィ! 第一級防衛体制!」
「ラーサ!」
 ミリィはコンソールを操作して、防衛施設を起動させた。基地各所にあるハッチから、パラボラアンテナ状の機器がせりあがる。それは、元は衛星軌道上にある発電衛星から電力を受ける為のマイクロウェーブ受信装置である。この受信施設は、地下の超電磁カタパルトを起動させる為の施設だったが、それが打ち捨てられた後、フリーマンはその施設を再利用し、レーザーネットジェネレーターに置換しておいたのだ。
レーザーネットジェネレーターとは、各所にあるアンテナ施設からレーザーを発信し、基地を覆うレーザー障壁を形成する装置である。大量の電力を使用するが、ネットに捉えられたラダム獣等はその障壁と電撃の威力で一時的に動きを制限できると言うモノであった。だが、それはあくまでもラダム獣に対しては、である。
 紅い光を纏ったテッカマンエビルは、そのままスペースナイツ基地に突っ込み、ネットに捉えられた。
「ぬぅっ! うぬぁぁあああ!!」
 だが、捉えられたのも一瞬だけだった。エビルは、電撃を受けながらも、テックランサーを十字ブーメランに変形させて、ジェネレーター発信装置に投擲した。一度の投擲で、回転するテックランサーは数基のジェネレーターを纏めて破壊していく。
 そして、第三格納庫内の整備所では、ペガスの大改造が行われている。エビルの襲撃を受けてDボゥイはテックセットを行おうと、ここに駆け込んできた。
「どいてくれ!」
「まだ駄目よぉ! 駄目だったら! Dボゥイ!」
「エビルが来たんだ!」
「駄目だったら駄目なの!」
 そんなDボゥイをレビンが必死に止める。
「無理言うなって! Dボゥイ!」
 本田も作業を行いながら止めた。そして、衝撃。エビルがビームネットを突破して施設を破壊している音だ。
「何処にいる!? ブレード!!」
 スペースナイツ基地の各所で爆発が起きる。テッカマンエビルは野獣の様に、ブレードを求めていた。
 そしてレビンを押しのけたDボゥイは、ペガスの中へと入ろうとする。
「Dボゥイ! 無理言うな!」
「このままじゃ、基地が危ないんだ!」
「分かっとるから、ワシらだって急いどるんだ!」
 ペガスは外装フレームを完全に分解され、テックセットルームがむき出しになっている状態だった。これではテックセット機能ですら正常に働く事は無いだろう。だが、それでもDボゥイはいても立ってもいられない。
「Dボゥイ! 親っさんやレビンの努力を無駄にしないで!」
 その時、アキがキャットウォーク上からDボゥイを止めた。だが、彼はそれでも無理矢理テックセットルームに入ろうとする。
「冷静になって! PHYボルテッカをどうやって防ぐつもりなの!? 今飛び出したら、またやられてしまうだけよ! この前の戦いを忘れたの!?」
 Dボゥイはその言葉を受けて立ち止まった。言われなくてもよく覚えている。あの敗北感を、自分の必殺技が通じない、無力感を。もしエビルの心変わりが無ければ、自分達は皆殺しにされていたのかも知れないのだ。
 PHYボルテッカは、基本的に対テッカマンに対する装備ではない。実際にはラダムにとってテッカマンの反逆者が出ると言う事は想定外である。PHYボルテッカの本来の用途は、部下のボルテッカと併用して放つ事で、その射線軸を変えたり、制御、威力の調整や、標的の変更を行う為にあるのだ。PHYボルテッカは文字通り究極の攻撃法であるが、基本的に指揮官クラスのテッカマンが装備するシステムだと言える。
「ペガスのパワーアップが終わるまで待って! それしか……PHYボルテッカに勝つ方法は無いわ!」 
 アキは間近でその威力を見ているだけに説得力は強かった。
「早く出てこい! ブレード!!」
 エビルの精神感応が強い。もう目前に迫っている。
「どぉした! ブレード!」
 またエビルが自分を呼んだ。Dボゥイはその度に震える。だが、今は堪えなければならない。確実に勝つ為には、ハイコートボルテッカが必要になる。
 Dボゥイは必死に耐えた。かつて弟だった男が叫んだとしても、精神感応で威圧されても。彼が破壊を行っている現状を受けても、Dボゥイは必死に耐えて、ペガスの完成を待つしかなかった。   

そしてミユキは。再び一人で、砂漠を歩いていた。彼女は隊商の人間達から逃げる様に去った。彼らを救ったとしても拒絶しかないのなら、そこにいるだけでも苦痛だったから。
彼女は一人、ボロ布を羽織って灼熱の砂漠を裸足で歩いている。
「……お兄ちゃん……どこに……どこにいるの……」
 愛するタカヤを求めて、うわ言の様に呟くミユキ。早くタカヤに会いたい。早くタカヤと話したい。
また彼女は一人になったが、状況は隊商に拾われる以前と同じではなかった。
「うぁっ! ああぁぁぁぁぁああうぅぅううう!!」
 突然身体に激痛が走る。そしてミユキは一人、荒涼とした砂漠の上で跪き自分の身体を抱える様に、絹を裂くような悲鳴をあげた。
 

☆おおおぉぉぉぉ!! 今日の反省会!! 特に無し! と言うワケでもないのですが(笑)とりあえずミリィとフリーマンは徹夜作業ってのは決定事項だと思います。そしてあのテッカマン鎧とか雑然に置かれてる場所に案内したに違いない。あれ見てミリィがどう思ったのかが気になる所(笑)16歳の女の子が徹夜とかしちゃいけません、と思うんだけど結構彼女は夜更かしさんなのかも知れませんね。でもそこはフリーマンの事だから「そこにある仮眠ベットを使いたまえ」とか用意してありそうな(笑)作画は凄い質感ではありますが、室井さん作画は顔が大幅に変わるんだよな……とりあえず室井フリーマンがすんごい存在感でビックリする一話だと思います(笑)え? ミユキに関して? テッカマンブレードは硬派な番組だ! 邪な念は捨てなさい!      
以上!(笑)