第21話 甦った悪魔(後編)

第三帝国の野望を挫くべく送り込まれた、殺し屋で構成された連盟の刺客と、アルデバロンの暗殺部隊はお互いに殺し合った末、全滅と言う愚かな結果に終わった。生き残ったのは宿敵同士のマリンとアフロディアだけだ。
いつの間にか肩の傷を応急処置されているアフロディアが野営テントの中で意識を取り戻す。任務の為、マリンを殺す為に銃を握るが満足に構える事が出来ない。そんな彼女がテントの外にいるマリンを見つけた。マリンは死んだ者達の墓を作り終えたばかりであった。クロスやジョンの遺言通りに。そればかりでなく、敵である暗殺部隊の墓もそこ彼処にあった。マリンは人殺しはもうたくさんだった。そう、銃を構えるアフロディアに言う。彼は全くの無防備だ。そんなマリンに疑問を投げかける。何故自分を助けたのかと。父を殺したのは我々であり、マリンにとっても自分は仇のはずだ。しかしそんな問いに女を殺す銃は持たないと答えるマリン。甘い!と激昂するアフロディアは銃を撃つ。狙いは外れ、木で作られた墓の十字架が消し飛ぶ。弟を殺された時に女を捨てた。アフロディアにとって最早マリンを仇として見る以外に選択肢は無かったのだ。
そんな二人を取り囲む様に飢えた狼が再び来襲した。人間が殆ど死に絶えたこの時を待っていたのだ。テントに逃げ込む二人。そこで思わずアフロディアは設置されたバリア発生装置を作動させてしまう。大量にエネルギーを発生させる装置は第三帝国に知られる恐れがあることを彼女は忘れていた。慌ててスイッチを切るマリン。時既に遅く、一瞬で消えたエネルギー反応は敵に感知されてしまった。原野に防衛部隊を出し、更に両軍の首脳に期限を短縮する様に要求するハイウード達。
一方、狼に依然として包囲されている二人は起死回生を狙う。テント内で爆破装置をセットし、穴を地面に掘って避難。爆弾を炸裂させる事で狼達を一網打尽にしようとしていた。避難用の穴の中で一枚だけあった耐熱シートを二人で被った時に目が合った。直後、爆発は横と縦に広がり、狼達を焼き尽くす。土砂を被ったシートをどけて生き残った事を痛感する二人。たった一人になろうとも目的は遂げる。しかしそう思う二人に別の敵が襲ってきた。寒さと豪雪という名の、自然が今度の相手だった。
二日に期限を短縮された連盟とアルデバロン。世界連盟はオリバーと雷太にいつでも戦闘可能な状態で待機する様に言う。いつか必ずバルディオスが必要な時が来る。もしマリンからの連絡が来なければ二人だけで戦うしかなかった。対してガットラーの対応は余りにも容赦の無い物だ。期限までは待つが、脅しに屈する訳にも裏切り者を許すつもりも無い。ベリシアを焦土と化す光波爆弾の準備をし、返答と共に発射するつもりだった。それによって核基地内のクールを焼き殺す事は出来るが、ミサイルが誘爆するかどうかは非常に危険な賭けであった。
行軍が不可能な程の猛吹雪。二人は洞窟に逃れ枯れ枝を燃やし寒さを凌いでいた。そんな中マリンがアフロディアの容態が悪化している事に気づく。衰弱や高熱、ナイフの傷も化膿している。気丈にも銃を向けようとするが取り落としてしまう始末だ。一度助けた命を決して諦めない。マリンはそう言ってアフロディアの手当てを行う。彼女はマリンと行動している間ずっと疑問だった。何故そこまで自分を助けるのか。何故仇である自分に優しいのか。
「勝手な言い種かも知れないが、俺が殺したお前の弟の分まで生きて欲しいんだ。俺は誰も殺したくはなかった。この戦いで一体何人の人間が死んだ? 戦いが生んだのは、死体の山と飢えた狼と、核兵器をおもちゃにして浮かれている馬鹿野郎だけだ!」
常にメカとメカで戦ってきた二人は、命の尊さと言うものを忘れていたのかも知れない。生身で大地を歩き、生身で殺しあう。今回の戦いでそれを痛い程に痛感した。その中でこぼれていく命を救えないマリンには常に憤りがあったのだ。本来のマリンは戦いを好まない、優しさと愛に満ちた男であると言う事をアフロディアは理解する。
「マリン……もしお前が弟を殺さなかったら……いやありもしない事を考えるのはよそう」
アフロディアは言葉の先を続ける事が出来ない。もし続けたら自分が自分で無くなる。しかしマリンはその言葉を聞いてハッとなった。復讐の鬼と化した彼女にも未だ人並みの感情が残っている。怒りや憎しみ、わだかまりが無ければ自分達は同じ道を歩めるかも知れないと。だが二人共、それ以降言葉をかわす事は無かった。その夜、二人は寒さから身を守る為に一枚の毛布で身を寄せ合って眠る。その様はまるで、恋人同士であった。
一夜明けた洞窟。気がついたマリンは自分の胸で眠っているアフロディアを見て笑みを浮かべる。その矢先、四人の兵士から銃を向けられている事に驚愕するマリン。第三帝国の防衛部隊に発見されてしまったのだ。
基地内に連行される二人。クールとハイウードがそれを迎える。上層部にゲームの駒の様に扱われた自分達が今度は核を使ってゲームをすると言うのだ。一蓮托生、彼らは生きていながらその生を実感できない亡者となっていたのかも知れない。そんな話の中、クールはアフロディアに自分達の仲間になる様に言う。第三帝国の女王、それも悪くないと答えるアフロディアは彼らの仲間になる事を選ぶ。その言葉に絶句するマリン。仲間になった彼女は肩の治療をする為に医務室へと案内され、マリンは両首脳の返答後に銃殺される身となった。クールは彼女を元から信用するつもりは無かった。だが、これから第三帝国が存在するには子孫が必要だ。地球の女性は幾らでもいるが、S-1星の女性はこれから滅多に手に入る物ではない。クールの顔に下卑た笑みが浮かぶ。
遂に両首脳からの返答が来た。世界連盟は打つ手を失い、要求に応じる通信を彼らに送る。対して明らかに強硬な姿勢を取るアルデバロン。一時間後のベリシアの異変がその返答と言えた。光波爆弾が発射される様を見て、アフロディアを完全に見捨てる事になったガットラーに苦渋の表情が浮かぶ。激昂したクールは仲間達に水爆発射の準備をする様に命じるのだった。核ミサイルサイロが次々と開き、全てを焼き尽くす悪魔が目覚め始めた。
医務室へと案内されたアフロディアは治療装置で完全に肩の傷を癒す。全く元通りの身体になった彼女は手術用のメスを取って監視兵の首に突きつけた。武器庫への案内をさせた彼女は兵士を殴り倒す。マリンを裏切ったと見せかけたのは、元の身体に戻る為だったのだ。
核ミサイルの前で今にも銃殺されようとしているマリン。彼の説得はクール達に全く届かない。ハイウードの目は既に正気を失っているとも言えた。引き金が引き絞られようとするその一瞬、ミサイル格納庫に飛び込んだアフロディアがクールを撃ち抜いた。マリンに銃を投げ渡し応戦する二人。たちまち五人の兵士を打ち倒し、残るはハイウードとなったが、負傷したハイウードは司令室に逃げ込みミサイルを発射の秒読みを開始させてしまう。滅亡を狂喜するハイウードをためらい無く殺すアフロディア。司令室の通信装置でアルデバロンに任務完了を告げると発射されるミサイルを防ぐべく二人は行動する。ICBMは一度成層圏外へと向かい目的地に飛来するシステムだ。宇宙空間で爆発させれば影響は最小限に抑えられる。アフロディアは自動操縦のスーパーバーンを呼び、マリンは三大メカを呼び寄せた。マリンは即座にバルディオスへとチャージアップし、アフロディアは司令室にてミサイルが誘導電波に引き寄せられる様にICBMを操作する。電波を発してミサイルを引き寄せながら宇宙空間へと向かうバルディオス。スーパーバーンに搭乗し、アフロディアもそれを追った。地球を離れ宇宙空間を飛ぶミサイルとバルディオス。既に爆発させても良い距離でアフロディアの通信が飛ぶ。ガットラーが光波爆弾を地球に送ったと言うのだ。ならばその爆弾とミサイルをぶつけ爆発させる事で危機を回避しよう。しかしそのタイミングは非常に危険な物だ。レーダーに爆弾、ミサイルを捉え秒読みを開始する。目の前に迫った光波爆弾の前で誘導電波を解除し、スーパーバーンとバルディオスは亜空間へと退避する。宇宙空間に強い光が灯った。
現空間へと復帰するマリン達。お互いに賞賛しあうが、次の戦地では敵同士。迷いを捨てアフロディアはアルデバロンの総司令官へと戻った。仲間達が敵の司令官と協同した事に疑問をマリンに投げ掛ける。マリンは地獄を旅してきた、と一言。余りに多くの事があった。核兵器を悪魔と言うが、それを作ったのは人間だ。狂気と殺戮の旅をしてきたマリンにとって人間が最も恐ろしい悪魔であったが、そうであって欲しくは無いと願うばかりであった。核兵器を秘匿した基地は数多くあり、未だその殆どがまだ発見されていない。人の野望の証である悪魔達は、目覚めの日をずっと、待ち続けている。

エクシ感想……狂気にゆがんだハイウードがなかなか宜しい。ってこの人はブライトさんじゃないか(泣)マリンの台詞がいちいちカッコいいので今回はちょっと書きすぎた感があります。しかし前編は男達の熱い話で後編はラブロマンス。このバランス感覚がバルクォリティって感じがしますね。あれ、混成部隊って八人しかいなかったんだ、と改めて思ったり(笑)