第12話 赤い戦慄エビル(1992/5/12 放映)

カーター大佐は広瀬正志さんです!

脚本:千葉克彦 絵コンテ:中村隆太郎 
演出:鈴木吉男  作監&メカ作監:加藤茂
作画評価レベル ★★★☆☆

第11話予告
ラダムの幼獣を倒す事に成功した防衛軍。勝利に沸く彼らの前に、赤い閃光が走り抜ける。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「赤い戦慄エビル」仮面の下の、涙を拭え。


「目標はORSのエネルギー供給の要である四箇所のジェネレーターです。この全てを叩いた時、ORS内のエネルギー供給は完全にストップします。これはラダム獣に決定的なダメージを与える事に繋がります。それが今回の作戦の目的です」
 軍の参謀が幹部やスペースナイツのリーダー、フリーマンに対してブリーフィングを行っている。ここは軍本部の作戦会議室。フリーマンは大規模な反抗作戦の為にノアル・アキ・Dボゥイを連れて本部基地に出向していた。参謀は巨大なモニターに投影された地球と、ORSの図を指しながら説明を続ける。
「作戦は二つの段階に分かれます。まず第一陣は陽動です。ラダムの巣とも言えるこの部分、通称蜘蛛の巣。ここを徹底的に叩きます。軌道エレベーターから地上軍のキング、宇宙からクイーンが同時に強襲を掛けます。ラダム獣達がこのキング・クイーンに釣られ蜘蛛の巣に集まってくる、その隙に第二陣がジェネレーターの破壊作戦を行います」
「陽動とは言え、かなり大掛かりな攻撃を掛ける必要がある」
 剃髪のコルベット准将がフリーマンに対して威圧する様に言う。フリーマンは目をつぶったまま聞いている。
「第二陣の作戦は宇宙艇部隊フォーカードが当たります」
「そちらの準備の方は?」
見開いたフリーマンがコルベットに聞いた。
「ああ、順調だとも」 
 そう返事するコルベット。宇宙艇部隊フォーカード。これらは前回、バーナード・オトゥール軍曹の特殊部隊がラダムの巣窟であるORSから奪回してきた高速宇宙艇である。
「フォーカードの各宇宙艇にはパイロット、コパイロット、歩兵五名、特殊工作兵三名が搭乗し、一部隊を編成します。残念ながら、地球の兵器ではラダム獣に決定的なダメージを与える事は出来ません。故に第一陣はクイーンとキング隊、第二陣のフォーカードの攻撃隊員、正確かつ迅速なる行動がこの作戦にとって必要不可欠なのは言うまでもありません。作戦が成功すればラダム獣へのエネルギー供給は完全に絶たれます。ラダムの幼獣にとってはミルクを絶たれた赤ん坊にも等しい状況です。オペレーションサンセット。その成功の暁には、最早地球に降下してくるラダム獣の存在は無くなるのです」
 軍の重鎮達はこの作戦を聞いて拍手を送った。そしてこの作戦の立案者はコルベット准将である。
「フリーマン、これは決定だ。君の部隊には蜘蛛の巣を攻める陽動作戦を担当してもらう」
「主力を囮にとおっしゃるのですか」
「残念ながら、ラダム獣と五分に戦えるのはテッカマンしかおらんからな」
「だとしたら?」
「兵の生還率も考えねばならんのだ!」
 そう言い放つと、コルベットは会議室から出て行った。四機のスペースシップを手に入れてから直ぐにこんな作戦を考え付くとは。フリーマンは作戦自体に異を唱える気は無い。確かに元を断たねばDボゥイへの負担が重なる事は目に見えている。しかしこの作戦自体が、性急過ぎる嫌いがある事、そして何より、コルベットの野心の道具に使われているとしか思えない節がある事が、フリーマンの気が進まない原因だった。
「いいか、この場合注意しなくっちゃならない事は一つ、緊急時の回避運動だ。ボードをよく見てくれ」
 ノアルが教室の様な部屋で、連合軍兵士達に向かってスペースシップの扱いについて教鞭を振るっていた。その様を教室の後ろでDボゥイとアキが見ている。
「結構様になってるな」
士官学校の出身だからよ。でも堅っ苦しいのが嫌で、チーフと一緒に外宇宙開発機構に入ったらしいわ」
 彼は今回作戦に参加する兵士達に対して、レクチャーを行う為に臨時講師としてこの本部基地に来た様だ。連合軍兵士のキャリアと外宇宙開発機構での経験を生かしてのその様は、普通に教師然としていた。
「と言うわけで、問題は地球引力圏内での運動だ。自転とは逆方向に加速した場合……」
「宇宙に上がるのは20年ぶりか! はっはっは!」
「おいそこ! 話を聞いてないとな!」
 ノアルが大声で笑う兵士を注意した。相手はどう考えても老人と言う世代の男だ。
「遠心力を失って地球に落っこちるんだろう?」
「あ、ああ」
「伊達に予備役から引っ張り出されてきた訳じゃないんだからな」
「はっ随分老けた新兵がいると思ったら、ロートルか」
 よく見れば、今回作戦に参加する数人は少年兵、そして退役した老人が多い。これはラダムの攻撃によって殆どの宇宙艇パイロットが戦死した結果であった。
ロートルと呼ばれた男は、席を立って壇上にいるノアルへと詰め寄る。
ロートルでも俺はパイロットだ」
 そう言うと、壇上にいるノアルを放って新兵達に向き直る。
「いいか、ひよっ子共よ。スペースパイロットにとって一番必要なモノはなんだ?」
 そう言って指差された少年兵が弾かれるように立ち上がり言った。
「は、はい! 自分は、ラダム獣の奴らに人間の強さを思い知らせてやります!」
 それを聞いてどっと兵士達から笑いが起こる。まだ実戦経験も宇宙に揚がった事も無い子供の様な回答。彼はラダムを倒すテッカマンを助ける為に志願した様だ。此処でもDボゥイの勇名は響いているようだった。
「おじさん、そのワッツは若いが、シュミレーションでナンバーワンのやり手なんだぜ?」
「ああ、これから始まるのは本当の宇宙戦闘なんだぜ、お坊ちゃん!」
「自分は、子供ではありません! フォーカードの副操縦士です!」
「よし、その意気で頼むぞ。いいか! 一番必要なのは意思の力だ! どんな時にも冷静な判断を下し、どんな事でもやり遂げる強靭な意思の力だ! さぁ野郎共! 声を出せ! 用意はいいか!」
拳を振りあげる老人兵。それに声で応える新兵達。
「俺達の手でラダムを蹴散らすんだ! 宇宙を取り戻すんだ!」
 老人兵の士気高揚の為の演説会と化しているこの状況を見て、ノアルは頭を抱えた。既に誰もノアルの話を聞こうとはしない。それを見てDボゥイはふっと苦笑した。
「軍は君達に陽動部隊に参入して欲しいそうだ。むろん危険は他の部隊の非では無い」
 ジープでスペースナイツ基地に帰還する三人。その途上でフリーマンはノアル達に作戦を説明する。
「いいんじゃないですか?」
「作戦の成功は、我々の陽動に掛かっているんでしょう?」
 ノアルもアキも、今まで修羅場を経験している為かどんな作戦だろうと遂行するだけだ、と言わんばかりだ。
「俺は小細工に回されるより、ラダムと戦う方が良い」
「はっ、言ってくれるぜ。そのサポートをするコッチの事も考えて欲しいよねぇ」
 Dボゥイの言葉に、憎まれ口を返すノアル。むっとするDボゥイ、それを見て笑いを堪えるアキ。三人の意思は同じでは無いが、向いている方向は同じ同士であり、数々の戦場を一緒に駆けた仲間であった。
 その頃、月のラダム母艦基地では新たな刺客が生まれようとしていた。テッカマンオメガのいる謁見の間の壁面から、紫色の粘液と共にドロリと何かが落ちる。それはまるで芳醇な実が、地に落ちる様に似ている。実は地面に暫くうずくまっていたが、立ち上がり、まるで花が開く様にその身体を奮い立たせた。花と言ってもその色は赤く暗い色に染まった鎧であり、禍々しいそのデザインはまさに毒の花と言っても過言ではない。
「目覚めの気分はどうだ? テッカマンエビルよ」
 オメガがエビルと呼んだ赤い騎士に言った。禍々しい毒花は、激しい息遣いをしている。そして、その仮面には赤い眼光が迸った。
 スペースナイツ基地では、ブルーアース号の発進準備が行われている。
「さぁて! 日没を拝みに行くぜ!」
スペースナイツと連合防衛軍共同の初の大規模な反抗作戦だからか、ノアルは気合が入っていた。そして軌道エレベーター前では歩兵部隊が集結し、突入の準備を待っている。
「……了解。陽動第一部隊キング! 作戦開始!」
 気密服を着た兵士達が雄叫びを上げて軌道エレベーターへと突入した。ある者は非常用エレベーターを使って、ある者は上昇用バルーンを使って各々ORSへと目指す。それに呼応してブルーアース号が発進した。
 そして本命である高速宇宙艇フォーカードは陽動を行う第一陣よりも少し遅れて発進する手はずであった。
成層圏を飛ぶ飛行ラダム獣の相手は、防衛軍所属の戦闘機十数機が担当する。これはフォーカードやブルーアース号が進路を確保し、無事にORSへと到達出来る様に用意された部隊である。
高速宇宙艇のコクピットの横にはスペード・ダイヤ・ハートにクラブのマークが描かれている。ダイヤ機の中では、先程の老人兵カーター大佐と、少年兵で士官学校を出たばかりのワッツ少尉が発進準備を進めていた。
「おい新兵、宇宙に揚がるには若すぎるんじゃないか?」
 緊張の面持ちをしているワッツを和らげようと、カーター大佐は軽口をワッツに向けた。
「だ、大丈夫であります。同期の人間も、司令部詰めをやっております!」
「ほぉ、そりゃ大したもんだ」
「はい、オペレーターであります!」
「なら同期に負けん様にしろよ! 頼んだぞ、コパイロット!」
「はい!」
 ワッツはカーターに、力強くそう応えた。
 連合防衛軍本部の作戦司令室では巨大なモニターで作戦の状況を数十人のスタッフが逐一把握している。その中で、ワッツの同期であるオペレーターのルイス少尉が状況を読み上げていた。
「オペレーションサンセット、発動。キング、クイーンとも予定通り行動を開始しました」
 司令室の上段にあるキャットウォークではコルベット達軍幹部がその状況を緊張の面持ちで見ている。
「陽動第一部隊キング、予定より早い地点でラダム獣と交戦に入りました」
 ORSへと侵入した矢先、歩兵部隊のキングはラダム獣と激戦を繰り広げていた。歩兵武器では決定打は与えられないとは言っても、物量に重きを置いた人海戦術でラダム獣を圧倒する。撃退は出来ないまでも、一匹や二匹のラダム獣を退散させる事ぐらいは歩兵でも可能だった。
「第二部隊クイーンはどうした?」
「ラダムの防空ラインを突破中」
 クイーンであるブルーアース号は飛行ラダム獣の壁を抜こうとしている最中であった。ノアル達がいつもやっている事である為、それ程手こずることは無いだろう。
「よぉし! フォーカードを発進させろ!」
 コルベットの号令が飛ぶ。それを契機に、フォーカードの高速艇に火が入った。
「ダイヤリーダー、発進願います!」
「あぁ! ルイスだ!」
 同期の声を聞いてワッツがそう言った。対してカーター大佐は私情を挟む事無く冷静である。
「準備は良いか? 少尉」
「は、はい! カーター大佐!」
 カーターは宇宙艇の船内カメラを確認して全ての要員がシートに着席して身体保持しているのを確認する。宇宙へ揚がる為の最終確認である。
「さぁ、行くぞ!」
「グッドラック! ダイヤリーダー!」
 ルイスのその言葉を受けて、高速宇宙艇は唸りを上げて滑走路を疾駆し、上方を向いた発射カタパルトから滑るようにして発進していった。ダイヤが先頭で次々とフォーカードの宇宙艇が疾駆し、宇宙を目指していく。
「ダイヤ、クラブ、スペード、ハート、フォーカード無事予定通り発進しました」
 作戦の第一段階は無事完遂した。彼らは散開し、各々四箇所のジェネレーターを目指して飛んでいく。
――――−グッドラック、ワッツ!
 ルイスは心の中で同期の親友にエールを送る。
 その頃、クイーンであるブルーアース号はラダムの防空圏を抜こうとしていた。いつもは単機で宇宙へ揚がる彼らだったが、防衛軍の戦闘機隊が支援してくれたおかげで難なく予定時間にポイントに到着出来そうだ。
「クイーン、ラダムの防空圏を突破しました。空軍引き続いて防空圏を攻撃。キング、ラダムと交戦中、進行に手間取っています」
 モニターにラダム獣相手に攻撃している兵士達が写る。その時、画像が切り替わりアキが現状を報告した。
「こちらクイーンリーダー、予定ポイントに到着しました」
 どうやらキングとクイーン、蜘蛛の巣の到達はスペースナイツの方が早かった様だ。蜘蛛の巣、と呼ばれるラダム獣の巣。其処はORSの一部を基部にして、白い糸の様な何かで膨れ上がった繭の様な形をしている。
「何度見ても薄っ気味悪い光景だぜ……」
ノアルが蜘蛛の巣をそう表現した時、Dボゥイが戦闘準備をする為に後部ブロックへと向かった。
「こちらクイーンリーダー、これよりジョーカー、発進します!」
 テッカマンブレードであるDボゥイは、コードネームをジョーカーとされた。どんな状況でも、どんな敵でも相手をする事が出来る、何者にもなれると言う意味でのジョーカー、切り札である。
「テックセッタァー!」
「ラーサー!」
 Dボゥイが雄叫びを上げ、ペガスが応える。テックセットする為にDボゥイが搭乗し、宇宙に放たれた。
テッカマンブレード!」
 ランサーを形成し、ブレードが戦闘態勢を整える。迎撃する飛行ラダム獣の群れに向かって吶喊した。
「ジョーカー、発進しました!」
 ルイスがそう報告した時、歩兵部隊のキングにモニターが切り替わる。
「こ、こちらキング! 前進出来ません!」
 狼狽しながら、現場を指揮する兵士が報告した。ラダム獣の群れがキングの部隊を圧倒し始めたのだ。
「ええい! 何をやっておるのだ!」
苦戦する現場を見てコルベットが無神経に苛ついた。幾ら物量で圧倒をしたとしても、相手も物量で来るのならば拮抗するのは当然だった。
「こちらクイーンリーダー、ラダム獣と交戦に入りました。ジョーカー、蜘蛛の巣に突入します!」
「司令部! こちらキングリーダー!」
 モニターはクイーンとキングに目まぐるしく切り替わり、状況を報告している。今の所キングが劣勢だった。
「キングに増援部隊を送り込め!」
 コルベットの物量で何とかしよう、と言う作戦が伝達される。実質的に、それ以外に方法が無い。ブレードはペガスと共に蜘蛛の巣内でラダム獣を撃破し続けていた。たった一人で何十匹も狩る。幼獣の卵があれば、ランサーを回転させて切り刻む。文字通り蹂躙する、と言う言葉が当てはまっていた。
 そんな作戦の裏側ではフォーカードが無事にジェネレーター近くのスペースポートへと接近した。高速宇宙艇が着陸脚を出してスペースポートに着陸すると、ワッツは深い溜息を吐いた。
「よぉし、タッチダウンだ。初めての本番にしちゃよくやったよ、ワッツ」
「オペレーターが同期の奴で、落ち着きました」
「早く司令部へ報告しろ、少尉」
「え!?」
「早くしろ!」
一息つこうとするワッツにカーターは急かした。陽動がうまくいっていると言っても、ここもラダムの勢力圏である事に変わりは無い。一息つくにはまだ早いとカーターは言っているのだ。
「クラブ、ポイントイン!」
「こちら、ダイヤリーダー、ダイヤリーダー! 部隊の展開終了!」
 ルイスのモニターにワッツが写る。無事な親友を見てルイスは少し緊張を解いて言った。
「大丈夫かい?」
「ああ、ちょっと緊張したけど。そっちは?」
「緊張しっぱなしだよ!」
「オペレーター! 報告はどうした!」
小声でやり取りするルイスを、隣にいるコルベットが威圧した。慌てて本来の仕事に戻るルイス。
「スペード、ダイヤ、クラブ、ハート、フォーカード各部隊ともORS内に侵入しました。ほぼ予定時刻です」
「よぉし!」
 コルベットは状況を見てほくそ笑んだ。しかし陽動部隊のキングは限界を迎えていた。
「こちらキングリーダー! こちらキングリーダー! 撤退の許可願います!」
「持ちこたえさせろ! 増援部隊がじきに着く!」
 増援がじきに来る、と言えば前線の兵士の士気は落ちないだろうとコルベットは考えているようだが、現場はかなり過酷な状況だった。こうなれば時間との勝負である。
「クラブより司令部へ。作業終了まで後10分!」
「よぉし、急げ!」
クラブの工作部隊は順調に作業を進めている。そしてテッカマンブレードはラダム獣を狩り続けてはいるが、幾ら叩いても息つく暇も無く次の獣が出現する。間断なく展開される戦闘で、ブレードのタイムリミットが近付きつつあった。
「クラブ、作業完了です。続いて、スペード、ハートも終了」
「ダイヤはどうした!?」
時限爆弾の設置が完了し、映像はノイズ混じりではあるが揚陸部隊の工作兵が親指を立てて合図を送る。しかしダイヤのモニターだけは空白のままで、報告も無い。
「こちらキング! もうこれ以上の抵抗は不可能です!」
「こちらクイーン、ジョーカーのタイムリミットが間もなくです。作戦の進行状況を教えてください!」
「司令部! 撤退命令を! 司令部!」
 キングの悲鳴が轟き、アキがブレードのタイムリミットを知らせる。作戦は後一歩と言う所なのに、陽動部隊が同時に限界を迎えた。咄嗟にコルベットは指令を出した。
「キング後退! クイーンはそのままだ!」
 ジョーカーであるブレードがタイムリミットを迎えたらどうなるかをコルベットは知っているにも関わらず、スペースナイツのチームには後退を許さない。そしてモニターが切り替わると、ワッツが報告を行った。
「こちらダイヤリーダー! 揚陸部隊、ラダムと交戦中!」
「なんだとぉ!?」
 どうやら陽動に引っ掛からなかったラダム獣がいたようだ。それが例え一匹だとしても、工作部隊にとっては命取りであった。歩兵五名が工作部隊を護衛してはいるが、状況は芳しくない。
「くそぉ……ダイヤの揚陸部隊を呼び出せないのか!」
「ずっとやっておりますが、まだ繋がりません!」
「こちらにも、途切れ途切れの音声しか入りません!」
 高速艇で待機するワッツが叫ぶ。高速艇とジェネレーターは然程離れてはいないとは言え、現場は混乱中の様だ。そして先程から何度も司令部に呼び掛けているアキがまた通信に割り込んだ。
「司令部! 作戦状況を知らせてください!」
「クイーンをダイヤポイントに向かわせろ!」
 アキを見てジョーカーにダイヤを支援させようと咄嗟に思いつくコルベットだったが、ダイヤポイントと蜘蛛の巣は離れ過ぎている。ルイスはそう説明した。
「もう! タイムリミットだって言ってるのに! Dボゥイの回収を! 早く!」
 アキは司令部の「後退するな」と言う指示を無視してジョーカーの回収を行う。ブレードが暴走すれば作戦所では無くなるからだ。
 そんな時、ようやくダイヤの揚陸部隊から連絡が入った。作業が完了し、兵士達が後退を行う。兵士達は高速艇に次々と乗り込んだ。が、それを追ってラダム獣が隔壁を破壊してスペースポートへと乗り込んできた。
「う、うわぁ! 来た!」
 ワッツがそれを見て悲鳴を上げる。高速艇に近付くラダム獣達はそのまま機体の上に乗り掛かってきた。だが、カーター大佐はあくまでも冷静だった。
「よし! GOだ!」
 兵士達が全て乗り込んだ事を確認すると、カーターは高速艇の機体横にある補助バーニアを全開にした。機体がスピンする様に回転し、舳先がスペースポートの出口に向くと、メインバーニアを吹かして脱出する。乗り掛かったラダム獣もその勢いに振り落とされた。
 同時にブレードもタイムリミットを迎えて戦闘を中止し、蜘蛛の巣から脱出する。
「作戦は……? 失敗したのか?」
 ブレードがそう言った刹那、四箇所に設置された時限爆弾が弾けた。ジェネレーターが破壊されたORSは徐々に明滅していた光を失っていく。
「やったぁ!」
 ルイスがたまらず席を立って叫ぶ。イレギュラーはあったものの、どうやら作戦は完全に成功している様だ。ワッツやカーター、作戦に参加した全兵士達がその様を見て歓喜した。
「オペレーションサンセット、ねぇ。なるほど!」
 ブルーアース号のノアルは、ORSから光が消えた様を視認してそう言った。ORSの日没、ラダム達の黄昏。そんな意味合いを込めた作戦名だった。ノアルは軍にしては粋な名前を付けたものだと感心した。ブレードも作戦成功を見届けると、ブルーアース号へと帰還する。
「ワッツ! ワッツ! やったな!」
「楽勝さ! 記念写真を撮って直ぐに戻るよ!」
 そう言って新兵達は笑いあった。今まで苦渋を強いられてきた防衛軍にとって、初めての完全勝利だと言える。コルベットは軍の幹部達と笑いながら握手をしている。彼の野心もこれで達成された事だろう。
 しかし、その時!
「こ、こちらクラブ! 敵襲です! 何者かが……」
 老兵がモニターに出ると、突如通信が途切れた。コルベットは何が起こったのか分からずに狼狽した。そして、ブルーアース号の後部ブロックでは、Dボゥイが何かを感じ取った。
その後、直ぐにスペード機の宇宙艇が何かに貫かれ、大爆発を起こした。その付近には高速で飛行するラダム獣に乗った鎧の騎士、赤い人型があった。次にハートの高速艇に赤い騎士から何かが飛ぶ。ハート機もまたスペードと同じ末路を辿った。赤い騎士の仮面の目に当たる部分には、赤い眼光が走る。
「スペード、クラブ、ハート、通信が切れました! ワッツ! ダイヤ、非常事態だ!」
「逃げろ! みんな逃げるんだ!」
 モニターが切り替わりDボゥイが映し出された。その剣幕はどう見ても尋常ではない。それに、ブルーアース号からダイヤ機に支援に向かう事は出来ない。Dボゥイには「逃げろ」と叫ぶことしか出来ないのだ。
「ワッツ! 逃げろ! 早く逃げろ!」
「逃げろ! 逃げるんだ……早く!!」
 ルイスも、Dボゥイも叫ぶ。しかし状況は無情だった。赤い騎士はダイヤ機を補足すると、いつでも殺せると言わんばかりに追い抜いた。
「追い越された!?」
「な、何ですか!?」
 赤い騎士は直ぐ様反転し、急接近する。
「よ、避けられん! すまんな、ワッツ!」
「た、大佐! あれは……そんな! テッカマンだ!」
 そう言うとワッツの、ダイヤ機のモニターが途絶えた。
「ワァァァッツ!!」
 ルイスはワッツが撃墜されたのを知って叫んだ。コルベットは瞬時に四機の宇宙艇を撃墜された事実を見て、戦慄する。これで地球に残されたスペースシップは、再びブルーアース号一機のみとなった。
そしてブルーアース号にいるDボゥイは無念でコンソールを強かに叩いた。
「どう言う事なんだ!? Dボゥイ!」
「敵の……新しいテッカマンがやって来たんだ!」
「あ、新しい……テッカマン!?」
 ノアルもアキも、Dボゥイの言葉を受けて戦慄した。敵のテッカマン、無情なる残忍な騎士。
――――−今度は……誰なんだ!?
 Dボゥイは、そんな風に考えたが、その言葉を口に出さず、飲み込んだ。いつか必ずまた別のテッカマンが来る事は予見していた。来ないで欲しいと強く願ってはいたが。
 そして多数の残骸や兵士達の死体が浮かぶ虚空で、赤い騎士は深く静かに、こう言った。
「ブレード……次は貴様がこうなるんだ……!」


☆今回もまた書き過ぎてしまいました。台詞多いんだよな、今回。まあでもオペレーションサンセット、無事に?完遂です。と、同時に、ようやくこれでワンクール終了。ディスク二枚目もこれで終了だッ! 次回からはエビルがガンガン出てくるので筆も進む? かも知れません。ブレードの戦闘シーンは相変わらずバンクが多いですが、殆どは防衛軍のアニメが多いので評価は普通でしょうね。ワッツとカーターお爺ちゃんが無残でしょうがない。