第13話 宿命の兄弟(1992/5/19 放映)

キャー! エビルさんカッコイイーー!

脚本:岸間信明 絵コンテ:坂田純一 
演出:西山明樹彦  作監:敷島博英 メカ作監中村豊
作画評価レベル ★★★★★


第12話予告
アキは街中でDボゥイに似た青年に出会う。二人のDボゥイは引かれ合う様に運命の再会をする。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「宿命の兄弟」仮面の下の、涙を拭え。


「エネルギープラントや貴重な金属鉱石などを積んだ、衛星イオからの輸送船の第二陣、16隻は着陸の際に二隻が炎上した他は無事、地球に到着しました。この作戦の最高責任者であるコルベット准将は作戦の成果について次の様に語っています」
 外宇宙開発機構の団欒室では、スペースナイツのメンバーがモニターテレビでニュースを見ている。前回の作戦、オペレーションサンセットが功を奏したのか、イオからの輸送船団は一人の犠牲を払う事無く、無事に地球に到着している場面が映し出されている。
「今回の作戦の意義は、一重に我が軍の手でORSのエネルギープラント破壊した事にあります。これにより敵はラダム獣の培養が出来なくなって戦闘能力は著しく低下し、輸送船に攻撃を仕掛ける事が出来なかったのです」
「へっ! エネルギープラントを破壊したのはテッカマンブレードと俺達だってのに、何でも軍の手柄にしちまうんだな」
 ノアルがコルベットの言葉を聞いてそう文句を言った。確かに、Dボゥイ達の助力が無ければ作戦は成功しなかった確率が高い。結局、前回の作戦もコルベットの野心の道具にされたと言えなくもない。
「まあいいじゃない。イオからの輸送船の殆どが無事だったのは喜ばしい事だわ。それだけ、人命を失わずに済んだって事だもの」
 そうアキが言う。カル博士が率いる輸送船団第一陣はその殆どの乗組員が全滅した事をアキ達は覚えている。人命の為に、命を守る為に彼らは戦う。その事に対して手柄や名声等を求めないのがスペースナイツである。
 これまで様々な任務を行ってきたスペースナイツは、少しずつではあるが、確実にORSを攻略しつつあった。衛星レーザー砲の無力化、ORSのエネルギープラントの破壊とラダム獣培養の阻止。スペースナイツの面々は、苦境に立たされていた人類が徐々に好転している事を実感し始めている。
「ねぇね、チーフ、今日位はあたし達の非常待機体制を解除してくれるんでしょう?」
「……まぁいいだろう。ラダムも暫くは大人しいだろうからな」
 レビンがフリーマンにそう言うと、指揮官である彼は自由行動を許可した。スペースナイツは基本的に、24時間体制でラダムの侵略に対抗している。前線で戦うDボゥイ達の疲労は確かに溜まりつつあるし、ミリィやレビン、本田達に至っては仕事場と寝所を往復する様な毎日である。ラダムの侵略が一段落している時点で、休暇を与えなければ、とフリーマンも思っていたようだ。
「わぁおやったぁ!」
「三ヶ月ぶりのお休みよ! 何をしようかドキドキしちゃう!」
ミリィもレビンも手放しに喜ぶ。しかし彼らが喜んだ次の瞬間、冷徹な司令官から出た言葉は、
「ただし、15時までだ。それまでに間違いなく基地に戻る様に」
 と言う言葉だった。今現在は朝の九時、つまり十時間も無い休暇と言う事になる。
「15時までかぁ! チーフにしちゃあ気前が良すぎると思ったぜ」
「ナンパする時間が無いからってそうがっかりするな、ノアル」
 ノアルの言葉にそんな風に応対する本田。それでも、暫くぶりの休暇に皆が笑顔だった。だが、そんな中でDボゥイだけは暗く、その表情は重い。そして人知れず団欒室を出て行った。それを見たバルザックが、追い掛けて声を掛ける。
「遊びに行かないのか? Dボゥイ」
 Dボゥイはこのバルザックと言う男を好きにはなれなかった。だが、そんな軽い言葉を受けて無視を決め込むほど、普段のDボゥイは無愛想ではない。Dボゥイはバルザックをジロリと睨んだ。
「お〜っとぉ、何か浮かない顔してるじゃない?」
 そんな言葉を耳にしても、彼は頑なに口を開かなかった。去っていくDボゥイの背中を見て嘆息を吐くバルザック。彼の懸念の原因は、オペレーションサンセット終了間際に出現した、あの赤いテッカマンの存在だった。あのテッカマンは一体誰なのか。その懸念が、Dボゥイの神経を苛んでいたのだった。
 丁度その頃、スペースナイツ基地から程近い海上にある都市で、服屋の試着室である男がGパンに皮のジャンパーを着込んでいた。暗がりでその表情は分からないが、口元が笑みで歪んだ。男は会計もせずに服屋を出て行くと、その直後、レジの前に座っていた若い女性の店主は目を見開いたまま崩れるように倒れこんだ。彼女は外傷も無しに絶命していた。
 私服を着込んだアキとミリィは繁華街に来ていて、そのショッピングモールを歩いている。アキは緑色のワンピースにスパッツ、ミリィは赤いジャケットとミニスカートと言う、今現在の若者の出で立ちである。
「この辺りはまだ無事なんだ」
「こうして、普通の人の生活している場所に来ると、何だかラダムと戦ってるなんて嘘みたいですね」
「うん……あれが目に入らなければ、ホントね」
 そう言ってビルの間から垣間見えるラダム樹の森を見た。繁華街があるこの海上都市は陸と地続きになっていない為、ラダム樹の繁殖から隔絶された場所である。その景観はどちらかと言えば、孤立した人工島と言う言葉が似合う。陸地を追われた人類は、こうしてラダム樹が繁殖する事が無い、海上を基盤とした場所を生活の場にしていたのだった。
「さぁて! まずは洋服から行きますか!」
「よぉーし、買い捲るぞぉ!」
そんな風に気を取り直した二人は、デパートへと歩き出した。
そしてノアルは、やはり同じ街を訪れていて、街外れにある駐車場の様な広い空間でサッカーボールで遊んでいる三人の子供達を見ていた。皮のジャンパーにGパン、そしてお気に入りのスポーツシューズを履いたノアルは、チョコバーを食べつつ、彼らの球捌きを見ている。そしてボールが自分の足元に転がってくると、それをひょいとリフティングし、手に取って少年達に言った。
「俺も仲間に入れてくれないかな? 皆にチョコバー奢ってやるからさ!」
「うん!」
 それを聞いた少年達は目を輝かせて承諾した。交渉が成立して笑みを浮かべたノアルは、手に持ったサッカーボールを大きく蹴り上げると、少年達と一緒に戯れ始めた。
「ちょっと……買いすぎちゃったかな……」
アキとミリィは、両手一杯に箱型の荷物を抱えてエスカレーターで降りている。滅多に無い休暇だからか、今の内に必要な物を買い込んでおかないと、と言う思考が、前が見えなくなるほどのこんな量の買い込みになってしまった。アキはそんな風に半ば後悔していたが、
「あぁ! あのぬいぐるみ可愛い!」
「うそ! ちょっとミリィ! まだ買うの!?」
 ミリィはまだまだ満足していないかのようだった。エスカレーターを降りて彼女が駆け込んだ先は玩具店。その時、ミリィ同様に前が見えなくなるほどの荷物を抱えた女性とぶつかってしまう。
「ご、ごめんなさい!」
「ちょっとぉ! 落とす所だったじゃないのよぉ!」
「だから、ごめんなさいって謝ってるでしょう? あれ?……レビン!?」
「なぁーんだ、ミリィじゃないのよぉ。あら、アキも一緒?」
 その女性、いや男性はレビンだった。いつもの出で立ちとは違い、彼が着ている服はかなり女性らしい。細い足やヒップラインをキュッと締めた様なタイトなスカート、それに伴ってコーディネートされている上着。まるでファッション雑誌に今にも出てきそうな、そんな姿をしていた為、ミリィもアキも分からなかった。
「ねぇなんでこんなトコロにいるのよー?」
「何でもなにも……あたしは昔っから、ここの常連なんだから」
 そう言って微笑むレビン。玩具店の奥には大人向けの鉄道模型、その奥にはコンピューターのジャンク屋と、かなりマニアックな内装をしている店だったようだ。
 そんな彼らの様をアキが見ていたその時、ふとある男とすれ違った。その男は先程服屋にいた男性である。
「……! Dボゥイ?」
 普通ならただの男性とすれ違うだけでは驚きもしないが、その男の顔はいつも見ている彼、Dボゥイの顔そのままだった。だが、Dボゥイと声を掛けてもその男はリアクションも無くエスカレーターを降りていく。
「どうしたんです? アキさん」
「あ、今ね、Dボゥイが……」
「Dボゥイ?」
 アキがそう言うとレビンはエスカレーターの下を覗き込んだ。しかし彼はもう去っていった後のようだ。
「ええ、確かに……でも振り向きもしなかった」
「Dボゥイにしたら初めてのお休みだもの、照れ臭いってのと、誰にも邪魔されたくなかったからじゃない?」
 無視されたアキをフォローする様にミリィが言う。
テッカマンブレードの時は素敵だけど、普段は暗いもんね、彼氏」
 レビンもそう、Dボゥイを評価した。
 しかしアキが街中で見たDボゥイは本人ではなかった様だ。その当人は、スペースナイツ基地のトレーニングルームでサンドバックを相手にキックの練習をしていたからだ。
「よぉ、Dボゥイ。外出しなかったのか?」
 トレーニングルームを通り掛った本田がDボゥイに声を掛けた。本田はスペースナイツの仲間として信頼しているからか、Dボゥイは無視を決め込むことは無い。トレーニングを中断してDボゥイは言う。
「あぁ、街に出たところで、心が休まるわけじゃない」
 そしてまたサンドバックに向き直って蹴りの連打を叩き込む。それを見かねて本田が、
「……なぁDボゥイ。そんな緊張してばかりじゃ疲れちまうだろう。たまには息抜きも必要だぜ。おう、ちょっと俺の部屋に来ねぇか?」
 別段やる事も無いDボゥイは、トレーニングを中止して本田が勧めるまま彼の部屋に案内された。彼は純粋に日本人らしく、そこ彼処に盆栽があり、彼が靴を脱いでくつろぐ床には畳が敷いてある。機械的な内装の中に何故か純和風の家具。他の隊員の部屋とは大違いな部屋にDボゥイは物珍しそうに辺りを見回した。
そして本田は、畳の上の座布団に座り、竹の茎を細かく割って、更にナイフで細い棒状にした。所謂竹ヒゴと呼ばれる細い棒。それは、弾力に富んでいて折れにくい材質である。本田は次にガスバーナーを付けて、真っ直ぐ伸びた竹ヒゴを少しずつ炙って曲げていく。
「何を作っているんだ?」
 Dボゥイは椅子に座りながら本田の職人の様な手作業に興味を持った。
「凧だ」
「タコ?」
「そうだ。いつか本当に平和になったら、思いっきり飛ばしてやろうと思ってな」
 そう言いながら本田は、モニターの上に吊り下げられた和凧を見た。漢字で「風神」と描かれた凧や日本の富士がデザインされた凧等もある。西暦から年号が連合地球暦になった現在でも、日本と言う人種と文化は脈々と受け継がれている様だった。Dボゥイは伝聞で、凧と言う遊びの道具がある事を知ってはいたが、手作り品となると見た事も聞いた事も無い。本田はDボゥイが興味を持ったのを見て、
「どうだ? おめぇさんもやってみるかい?」
 そう言って竹ヒゴを投げて渡す。それを受け取ったDボゥイは、本田の人懐っこい笑みに緊張した表情は幾らか緩和され、笑みを浮かべた。
 指令所である中央ルームでは、フリーマンが時計を見ている。現在午後2時55分。そろそろスペースナイツの隊員達が帰ってくるだろうと、待っている様だ。そして基地通路では、中央ルームへ向かおうとしているスペースナイツの面々が休暇を満喫した事を語り合っている。
「いやぁ、久しぶりに街の空気を吸って、リフレッシュしたなぁ!」
「ホーント! Dボゥイもそうでしょ?」
 ミリィがDボゥイに声を掛けた。先程の男をDボゥイだと思っているらしい。
「? 何の事だ?」
「隠さなくてもいいのよ? デパートにいるのアキさんが見ちゃったんだから」
 Dボゥイは本田と顔を見合わせた。二人とも怪訝な顔をしているのを見て、アキが訊く。
「違うの?」
「おぉ、Dボゥイならずっと俺と一緒に、凧作ってたんだぜ?」
「じゃ人違いだったのかな……でもよく似てたわ」
 その言葉を聞いて、Dボゥイは突如ある考えに至った。自分と似ている男。同じ顔の男。
「そいつは、本当に俺に似てたのか!?」
 突然Dボゥイはアキに掴み掛かって言った。
「え、えぇ」
―――――まさか……
 今、Dボゥイの思考は「嫌な予感」に満たされていた。それも、かなり危険なモノだっただろう。
 そして、アキが見たDボゥイによく似た男は、彼らが訪れた場所に程近い、別の都市の廃墟にいた。男はビルの瓦礫の上で屹立し、辺りを見回している。
―――――久しぶりの地球だが……眺める景色は違っても、人間達は相変わらず愚かしい。俺を感じるか? ブレード!
 男の額に、赤い何かが浮かび上がる。その時、テッカマンブレードであるDボゥイの額にも青い何かが浮かび上がった。それは以前破壊され、今現在ではペガスの胸部に設置してあるテッククリスタルを象ったマークである。
―――――え、エビル!!
頭痛の様な、頭に何かがのしかかる様な感覚に、Dボゥイの表情は歪んだ。
 それは、ラダム特有の通信手段とも言うべき所為であった。精神感応、所謂テレパシーと言う物で、テッカマンにフォーマットされた生命体各々が持つ超能力である。以前、ORS内でテッカマンダガーが近くにいる事を察知出来たのも、これが原因だった。精神感応は基本的に距離の限界が無く、一般的な通信機器とは違って妨害電波等の電磁波で妨害されない、有用性の高い通信手段である。
 その精神感応で彼に良く似た男が自分を呼んでいる。俺はここにいる、早く来いと。
「Dボゥイ?」
 様子がおかしいと思ったアキが手を差し伸べようとしたが、それを強引に振り払った。そしてDボゥイは意を決した様に走り出した。
「Dボゥイ!? 何処行くんだ!」
 ノアルの制止の声も聞かずに、Dボゥイはジープに乗って基地外に出て、ある場所を目指す。其処は、海上都市の対岸に位置する、程なくしてラダム樹の森に完全に埋没しようとしている廃墟であった。男は毒々しい紫の球体が凝り固まった、ラダム樹の森を見上げながら歩いていた。
「今はまだ眠りについているこのラダム樹の森も、やがてその花を一斉に開く時が来る……」
 そしてその歩みを止め、突然振り返って言った!
「その時こそ我々ラダムは……ブレード!」
テッカマンエビル……遂にお前が来たか」
 数メートル離れてDボゥイが到着していた。テッカマンエビル、新たなるラダムの刺客。Dボゥイの嫌な予感は結局的中してしまった。彼の表情は険しい反面、エビルと呼ばれた男はDボゥイに笑いかけながら言う。
「感激の再会だね」
「何しに地上に降りてきたんだ」
「裏切り者を始末する為に。……それ以上の目的があるはずも無いだろう?」
 終始笑顔を絶やさないエビルに対して、Dボゥイの感情は複雑だった。それこそ、ラダムと呼ばれた者には容赦の無いテッカマンブレードであるはずなのに、Dボゥイには逡巡があった。いや、どちらかと言えばラダムである、もしくはそうではない以前に、この男とは戦いたくは無いとDボゥイは願っている。
「エビル……やはり駄目なのか。万に一つも地球侵略を止める事は無いのか」
「我々ラダムが生存していく為には当然さ。弱い者が強い者に食われるのと同じ事だよ」
 エビルはDボゥイを優しく諭す様に語り掛けている。だが、そんな言葉に納得出来るDボゥイではない。
「しかし! テッカマンだって元は皆人間なんだ! お前も! 俺も!」
「いや、ラダムだ」
 笑顔を絶やさなかったエビルは突然、その断言する様な態度で、語調と表情を変える。
「我々がラダムである以上、ラダムの為に働くのは当然だ。人間に味方するお前の方が裏切り者さ!」
「エ、エビル……!」
 Dボゥイの言葉はこの男には届かない。元は人間でも今現在はラダム。自分と同じ様な能力を持ちつつ、同胞であるダガーを殺した裏切り者であるDボゥイ。その対立は確固たる物だった。
すると厳しい面持ちをしたエビルは、再び優しい笑顔に戻って、言った。
「……そうは思わないかい? タカヤ兄さん」
「……シンヤ」
 その二人の会話が皮切りだった。テッカマンエビル、いやシンヤと呼ばれた男は突如飛び上がる。
「テックセッタァー!!」
 右手に掲げた赤いクリスタルはその言葉に応じて翼を広げる様に展開し、クリスタルフィールドでシンヤを覆った。一瞬でテックセットを終えたシンヤは、あの赤い騎士、テッカマンエビルへと変身し、ビルの瓦礫の上へと着地する。そして、構えたランサーを投げ放ちながら叫んだ。
「死ねっ! ブレードォ!」
 Dボゥイの立っている場所にテックランサーが深々と突き刺さった。最早言葉を交わす事も無く、Dボゥイは応戦しなければならない。
「ペガァース!!」
 Dボゥイはペガスを呼び寄せてテックセットしようとするが、このラダム樹の森にペガスが到着するまで時間を稼がねばならない。
「ペガスが発進しました!」
 中央ルームのオペレーターがブルーアースに収納されているペガスが発進した事を報告した。スペースナイツの面々はDボゥイに何か異常が起こった事をそこで初めて知る。フリーマンはノアルとアキに指令を下した。
「スペースナイツ、出動せよ!」
「ラーサ!」
ノアルとアキ、そしてミリィが敬礼で応え、ブルーアース号が出撃する。
そしてその頃、Dボゥイはエビルの猛攻を受けていた。
「おおおおぉぉ!!」
 身長2メートルを越すテッカマンの追撃。それはまるで暴風の如くDボゥイを薙ぎ払おうとしている。全ての攻撃を何とか紙一重でかわすDボゥイではあったが、いつ凶刃を受けてもおかしくは無く、Dボゥイが殺されるのは時間の問題だった。逃げ続けるDボゥイはエビルの攻撃に集中していた為、深さ数メートルの崖に追い詰められている事に気付かなかい。その淵に立ったDボゥイは突然足場が崩れ、崖下に落ちてしまった。
「くっ!」
 落ちたダメージは然程ではないが、動きを止めてしまうのは致命的だった。うずくまったDボゥイにランサーが投擲されようとしたその時、エビルに爆発が起こった。ペガスのミサイルが命中したのだ。
「ペガス! テックセッタァー!!」
「ラーサー!」
 勿論、テッカマンがミサイルの攻撃如きで撃破出来る訳が無い。しかしDボゥイがテックセットする暇は十分に稼げた。飛んできたペガスはDボゥイのいる場所に降りて来ると、背部を展開しDボゥイを受け入れる。
テッカマン! ブレード!」
 テックセットを終えたDボゥイがペガスから離脱して、ランサーを構えて瓦礫の上に着地した。それを見たエビルは、背部のバーニアを展開して飛び上がり、攻撃を開始した。
「ペガスが停止したわ」
 ノアルとアキは状況も分からぬままブルーアース号でDボゥイの支援に来ていた。ペガスの着地地点、Dボゥイのいる場所は先程の街の直ぐ近くである。
「ペガスのカメラアイをモニターするわ……これは!」
「この間の奴だ! 防衛軍の宇宙艇をあっという間に破壊した!」
 二人は映った赤い騎士に戦慄した。今、Dボゥイはこの新しい敵と戦っているのだと理解する。
 そしてテッカマンテッカマンの戦いは激しさを徐々に増していった。槍と槍の強かな打ち合い。
「はぁっ!」
 打ち合いから離れランサーを回転させたエビルは、その突端でブレードの肩を激しく突いた。
「くぅっ!!」
 槍の一撃を受けたブレードはたまらずにバーニアを吹かしてラダム樹の森になったビルの屋上へと退避する。それを追撃するエビルはより高く空へと舞い上がり、ブレードの立っている場所に槍を振り下ろした。その一撃で足場が無くなり、慌ててバーニア噴射で後ろに下がる。攻撃力、速度、そして戦い方のセンス。どれを取ってもダガーとは比較にならない。ブレードはエビルの攻撃をかわす事で精一杯で、激しい息遣いをしている。
「どうした? 隙だらけじゃないか」
 対して、エビルは全く息を乱してはいない。エビルは遊ぶ様な言葉と共に重い槍の一撃を見舞った。
「いつまでもくだらない人間であろうとするから、隙が出来るんだ!」
 打ち合って固まったまま、ブレードとエビルは屋上から落ちていく。地面に落着すると、そのまま地下を数階層貫通して、かつて鉄道が走っていたレールの上へと降り立った。暗闇にも関わらず、彼らの戦い続く。
「おおおぉぉぉ!!」
エビルは雄叫びと共に強烈な体当たりを仕掛けた。
「がぁっ!」
数メートル吹っ飛ばされ体勢を崩したブレードに槍が振り下ろさるが、身体を捻ってかわす。逆にブレードは馬乗りになった状態のエビルに向かって蹴りを打ち込む。蹴りで打ち上げられたエビルはバーニア噴射により空中で体勢を整えるが、其処にブレードの追撃が飛び込んだ。テックランサーの刃がブーメランの様に放たれ、エビルを両断しようとするが、間一髪でかわされる。代わりに、エビルの背後にあった朽ち果てた列車が斜めに切り裂かれ、轟音と共に崩れ落ちていった。
「あっはは、そうこなくっちゃ。さすがだね、兄さん。やっと勝負らしくなってきた」
 まるで子供の遊びの様に、エビルは殺し合いを楽しんでいる。そしてまた槍の打ち合い。バーニアを噴射しながらのランサーの打ち合いは人間の動体視力を完全に超越した早さである。しかし子供の様な無邪気さと、溢れんばかりの殺気が混在したエビルの攻撃は、確実にブレードの心を削っていた。
「ふふふ……同じ母の胎内で一緒に過ごした者同士が争う。自分と戦っているみたいじゃないか? 兄さん」
「くっ……」
 槍を打ち合いバーニアを吹かし、移動したままエビルはブレードに語りかけている。二人は地下鉄の駅へと到達すると、レールを相挟んでホームへと上がり体勢を整えた。
「てやぁっ!」
ブレードは着地したエビルへと向かってランサーを投げつけるが、屈んでかわすエビル。テックワイヤーを放ってランサーを回収しようとしたブレードだったが、その隙をエビルが見逃すはずが無かった。ワイヤーはエビルの槍の一撃で断たれてしまう。エビルはホームの柱に突き刺さったブレードのランサーを地面に叩きつけると、その足で踏みつけた。お前にはもう武器が無いと言わんばかりである。
「俺達は双子だ。元々一つだった物が二つに分かれたんだ。どちらか勝った方一人が、生き残っていけばいい……生き残ればなぁ!!」
 そう言いながら、エビルは腰だめで槍を構えて突進した。ブレードはそれを、空の両手で真っ向から受け止める。そのままエビルの突進の勢いを利用しつつ、最小限の動きでエビルを横にあった崩れた壁に叩き付けた。ランサーを取られたエビルが崩れた瓦礫から立ち上がると、そのまま拳を構えて突進し、ブレードの胸を打つ。二人は各々の武器を失ったとしても、戦いを続ける。即座に立ち上がったブレードを正面に見据えたエビルは両の拳を構えて、格闘戦を行おうとした。しかし、立ち上がったブレードの挙動が何かおかしい。
「ぐぉっ……ぐわあぁああ!」
額の五角形が点滅し、ブレードが頭を抱えて苦しみだした。遂にタイムリミット迎えようとしているのだ。
「……ブレード?」
 そんな彼の挙動にエビルは攻撃を行わなかった。エビルはテッカマンとしての能力は他よりも突出しているが、彼の特筆すべき能力はその多目的汎用性にあった。エビルは頭部アーマーのセンサーを起動させると、ブレードの身体をくまなくスキャンする。そして今宿敵が苦しんでいる原因を瞬時に掴みとった。
「はっははは、分かったぞブレード。お前の致命的な弱点が!」
 ブレードは苦悶しながら、バーニアを全開にしてこの地下から脱出した。階層をぶち抜いて地上へと向かうブレードを追い掛けるエビル。そして地上へと降り立ったブレードはもう一歩も動けない。エビルは、苦しみ続けるブレードへとゆっくり歩みを進める。
その時、レーザーの火線がエビルの足元に着弾した。見上げると、ブルーアース号がエビルを狙っている。
「Dボォーイ!」
 ノアルの支援が間に合った。しかし例えノアル達が戦闘に参加しても、この敵に打ち勝つには至難だろう。
「お迎えが来たようだな、ブレード。……まあいい。素晴らしい思い付きが閃いた。今日の所はこれで引き上げよう」
 エビルはそう言って、ラダムテッカマンが乗る為の飛行ラダム獣に飛び乗り去っていく。ブレードを葬る絶好のチャンスを、意図も簡単に放棄したテッカマンエビル。どうやら、今回の襲撃は彼にとって顔見せのつもりだった様だ。
ブレードもペガスを呼び寄せて、テックセットを解除する。其処にブルーアース号が降り立った。Dボゥイがテックセットを解除すると、崩れる様に倒れこんだ。それをノアル達が受け止める。
「Dボゥイ! 一体、あいつは何者なんだ!? お前を狙ってきたのか?」
「どういう事なの? 教えてDボゥイ!」 
テッカマンは他にもたくさいるのか? 何故黙っているんだDボゥイ!」
「Dボゥイ!」
 ノアルとアキの呼び掛けは続いた。しかしDボゥイはずっと沈黙を守り続けている。彼のその表情は、茫然自失と言っても過言ではなかった。
自分の、実の弟が最大の敵になって現われた。この衝撃的な事実を、Dボゥイは受け止める事が出来ない。
彼の苦難の道は、今始まったばかりであった。



☆正直多いだろ、と思ってしまう文章。しかし出来るだけ本編に沿った文章を、と追求してたらやっぱりこんなになっちゃった。まあそれは良いとして、ブレード対エビル初戦のお話ですね。あぁ、やっぱりエビルの一声一声がもう最高で最高で(笑)他のキャラの言葉なんてガリガリ削っちゃえば良かった、と思ったりもしますが。作画はもう最高ですね。全然作画の質が落ちない。キャラもメカも最高な一話なので満点の★五つで。是非是非皆にお勧めしたい一話であります。