第14話 血をわけた悪魔(1992/5/26 放映)

何でここだけ酷いのん?

脚本:渡辺誓子 絵コンテ:澤井幸次
演出:高瀬節夫  作監&メカ作監:加藤茂
作画評価レベル ★★★☆☆

第13話予告
思い出の地で再会した兄弟。その穢れなき過去もエビルの前に罠と化す。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「血をわけた悪魔」仮面の下の、涙を拭え。

サブタイ前粗筋
ORSのエネルギージェネレーター破壊の成功により地球に、そしてスペースナイツに束の間の平和が訪れる。だが、心休まる間もなく、Dボゥイは新たなる敵、テッカマンエビルに遭遇したのだった。それは同時に、双子の弟との、悲しい再会でもあった。
「俺達は双子だ。元々一つだった物が、二つに分かれたんだ。どちらか勝った方が生き残っていけばいい!!」


ORSの「蜘蛛の巣」内ではテッカマンエビルが立体映像のオメガに対して報告を行っている。エビルは、前回ブレードと戦った記憶を映像に映して、オメガに見せていた。映像には、テッカマンブレードが頭を抱えて苦しんでいるシーンが映っている。脳内の記憶を映像化する、これもラダムの技術の一環である。
「ほぉお……これがブレードの弱点と言う訳か」
「あぁ、それも致命的な、ね」
「うむ、とすれば奴の始末は、ついたも同然。だがエビル、我々にはまだやらねばならぬ事がある」
「ラダム獣培養の為のエネルギーを奪う……だろ? 忘れちゃいないさ。裏切り者ブレードの息の根を止め、エネルギーを手に入れる。作戦はこの頭の中に出来上がっている」
 それを聞いてオメガは歓喜に奮える。その信頼度は、圧倒的にダガーを上回っていた。
「いぃだろぉエビルよ。好きにするが良い! ふははははは!」
 そう満足そうに笑って、立体映像のオメガが消えていった。
――――ブレード……次に会う時はお前の最後……ゆっくり楽しませてもらうさ……
 そう思い、エビルは不敵に笑う。エビルであるシンヤと言う男は、常に万全を期す男の様だ。彼の考える作戦に、一分の隙もありはしない。そして、ラダム獣の幼虫達はエネルギーの供給を絶たれ、干からびている様だったが、それは彼らの絶命を意味している訳ではない。エネルギーを得る事が出来れば、また再び人類に仇なす存在となるであろう。
 その頃、Dボゥイは中央ルームで花瓶に入った花をじっと見ている。緊張感で満たされ、至極機械的な指令所と言う場所の中で唯一、心の安寧をもたらしたいと思ってミリィが置いたものである。
「気に入った? その花。なーんて花だ?」
 ミリィが椅子に座って花を注視しているDボゥイに声を掛けた。
「……アマリリス……確か花言葉は、沈黙……」
「あら、Dボゥイそんな事知ってるんだ」
 そんな風にミリィは感心した。そして、その場にいるアキやノアルはレーダーで地上の探査を行っている。
「PポイントからSポイントまで、異常なし」
「よぉーしバッチシ。平和なモンだ」
「ラダム獣の攻撃が無いと、こんなに静かだったのね」
「この静けさがいつまで続くやら。だが今度仕掛けてくるとすれば、相手は恐らくあの新しいテッカマン
 Dボゥイがその言葉を受けて反応した。
「ところがこっちはデータゼロ。敵の事を知りたくても奴さんがああも頑固に黙り込んでちゃあねぇ?」
 ノアルはDボゥイを批判する様に言う。事実彼は、前回のエビルとの交戦から、沈黙を守っている。Dボゥイは相手がどんな能力を持っているかだけでなく、敵のテッカマンの呼称すら教えようとはしない。
「Dボゥイは記憶喪失なんですよ! 思い出したくても思い出せない事が一杯あるんです!」
 ミリィがノアルの言葉に反感を持ってそう言った。しかしノアルは反論する。
「思い出していても、言いたくないって事もあるかもよ」
「ノアルさん! そんな酷い事言わないでください! あ、Dボゥイ!?」
 Dボゥイは批判の中心に立たされている事に我慢が出来なくなって、中央ルームを出て行った。
「……最近ちょっと明るくなったと思ってたのにね」
「あの赤いテッカマンに会ってから、すっかり根暗のダークボーイに戻っちまいやがった」
 そうアキとノアルが言った。確かに初めて会った時よりは、喜怒哀楽を素直に出すようになっていた。スペースナイツの調査も普通にこなすし、時にはペガスやブルーアース号の整備も手伝っている。だが、今の彼は誰にも触れられたくない、心の深部に何か傷を負っているかのようだった。
「心配だから、ちょっと見てきます!」
 ミリィがそう言ってDボゥイを追いかけた。
 Dボゥイは、外宇宙開発機構の休憩所でコーヒーを飲んでいた。ここは、開発機構の様々なスタッフが出入りする場所である。夜勤明けの男達や、恋人を話題にする女性達。様々な人間が行き来する中、父親である男性スタッフに再会する母子達がいた。兄、弟、妹、そして両親。Dボゥイは幸せそうに談笑する彼らを見て物思いに耽った。両親、そして弟と妹。其処は一面アマリリスに満たされた夢の様な場所。
 小さな弟は、妹にアマリリスの花を手渡し、その花を今度は兄に渡した。それを客観的に見ているDボゥイ。幸せそうな弟や妹達。だが、そのあどけない弟がこちらを振り向いた時、突如あの赤い仮面の騎士に化けた。
―――うっ……エビル!
 弟の幻影は、巨大なテッカマンと化した。シンヤと言う弟は今現在ではテッカマンエビルなのだ。
「Dボゥイ?」
 そして声を掛けられた。その声の主である幼い妹は、可憐な少女になってアマリリスを手にしている。
「ミユキ!」
 思わずそう叫んで、Dボゥイはコーヒーのカップを落としてしまった。可憐な少女ミユキは、目の前に来たミリィと重なる。自分の妹はミリィと似ている、そう本田に話した事がある様に、容貌よりもその雰囲気が酷似していたのかも知れない。
「……ミリィ」
「ごめんなさいね。驚かしちゃったみたい。ねぇ……ミユキって誰?」
「えっ?」
「ふふ、そんなにあたしに似てるの? Dボゥイの昔の恋人だったりして! ねぇ、誰だぁれ?」
 Dボゥイはミリィの前ではそれほど頑なではない。彼はゆっくりとミリィに言った。
「俺の……妹さ」
「Dボゥイの妹さんに、あたしが?」
「ああ」
「その妹さんがミユキ、そうなんだ。……あっ、Dボゥイ? 妹さんが分かるって、もしかして記憶が!?」
「……っ! いや、俺は……何も」
「でも……」
 Dボゥイは、喋りすぎたと思った。もうミリィに懇願されたとしても口を開かないだろう。そして思った。
―――捨てたんだ……ラダムを倒す為、俺は……俺は過去も何もかも捨て去ったんだ!
 彼の決意は並々ならぬ物だった。Dボゥイは記憶を失っているわけではなかったのだ。反面、もどかしくなってカップが置かれたカウンターを強かに叩く。自分の運命や宿命を、恨むかの様に。
 その時、突然基地の緊急警報が鳴り響いた。Dボゥイとミリィは急ぎ中央ルームへと走り出した。
「攻撃を受けているのは、クーパー核融合発電所だ。エネルギーの供給を絶たれたラダムが、何らかの形でエネルギー確保を図ってくるとは予想していたが……」
 指令所に集まったノアル達。モニターでは発電所が襲われ、防衛軍が蹂躙される様が映し出されている。
「ミリィ、現状は?」
発電所の出力は、どんどん低下しています。やはりあのラダム獣が、エネルギーを吸収しているとしか思えません!」
飛行ラダム獣の群れは送電ケーブル等に取り付き、そのエネルギーを吸収している。そんな様をDボゥイは冷静に観察し、言った。
「身体にエネルギーを貯め込み、ORSに戻る……幼虫に蜜を運ぶ蜂の様に」
「させるか!」
 ノアルがそれを聞いて憤る。そしてフリーマンの指令が下された。
「直ちにラダム獣を撃退し、発電所を守れ!」
「ラーサ!」
 ノアルとアキが応える。しかしDボゥイは、応える間もなく既にブルーアース号へと走り出していた。
「ヒュー! 今日はまた随分とやる気じゃないの!」
「行くわよ、ノアル!」
「ああ!」
 Dボゥイの後を追いかける様に、二人も走り出した。
 クーパー核融合発電所は激戦のるつぼと化していた。海にほど近いその場所で、灯台のある森からその様を笑みを浮かべながら見物しているシンヤがいた。彼の作戦は順調に進んでいる様だ。
「ふふふ……早く来い、ブレード!」
 そして発電所の現場では、防衛軍が壊滅寸前の状態だった。
「こちら第五分隊! ラダム獣の攻撃に苦戦中!至急応援を! うわぁっ!」
 ジープに乗った士官が本部に報告を行っている。飛行ラダム獣が彼らに襲いかかろうとしたその時、レーザーがその飛行ラダム獣を阻んだ。ブルーアース号が到着し、攻撃を開始したのだ。
「連合防衛軍はほぼ壊滅よ。発電施設の被害は、送電ケーブル関係に集中の模様」
「好き勝手やりやがって! 宇宙には一匹も帰さねぇぜ! 頼むぞ!」
 ノアルがそう言った時、Dボゥイが後部ブロックへと駆け出した。
「テックセッタァー!」
「ラーサー!」
 ブルーアース号からペガスが離脱し、テッカマンブレードが出現、空中に群がる飛行ラダム獣に攻撃を仕掛けた。数匹を確実に撃破し、発電所に取り付いている獣らにもランサーの切っ先を向け、
「させるかぁっ!」
 叫びながら投擲する。その槍がラダム獣を貫こうとする直前、別の方向からランサーが飛んできてブレードの攻撃を妨げる。二本のランサーは回転しながら地上に突き刺さる。
「お前は……エビル!」
「待っていたぞ、ブレード!」
 テッカマンエビルは搭乗型ラダム獣に乗って、ブレードよりも高空から見下ろしながら言った。
「真打登場って奴か……やっぱりアイツが裏にいやがったんだ!」
 ノアルは敵テッカマンが出現した事をモニターで確認する。その時、ラダム獣がコクピット部分に覆い被さってきた。レーザーを至近で乱射し、ラダム獣を振り落とすブルーアース号。
「奴はDボゥイに任せて、こっちはラダム獣のお相手だ!」
「ラーサ!」
 二人はラダム獣が群がる発電所へと突っ込んでいった。
 そして、二人のテッカマンお互いの武器を拾い、浜辺近くでお互いの騎馬に乗りながら相対した。
「お前に……ラダムにエネルギーは渡さん!」
「出来るかな?」
 そうお互いに睨み合いながら言う。エビルは爪先でラダム獣に合図を送ると、ランサーを構えて突進した。それに呼応するかのようにブレードも突っ込む。お互いに騎馬から飛び上がって槍を打ち合った。空中でバーニアを吹かしながら、凄まじい剣戟が展開されるその時、エビルの搭乗型ラダム獣がブレードに体当たりを行う。体勢を崩して砂浜に落ちたブレードにエビルの槍が繰り返し振り下ろされる。一撃でも食らえば致命傷になりかねないその攻撃を、転がりながらかわすブレード。そしてまた背部のバーニアで空中で飛び上がると、エビルに対して槍を打ち込んだ。
 その時ペガスは、これ以上ブレードを攻撃させまいとエビルのラダム獣に銃撃を行っている。シンヤが厳選したラダム獣だからか、その機動性はペガスに勝るとも劣らない。ペガスの銃撃を避け続けたラダム獣は、再びエビルを乗せて飛び去った。ブレードもペガスに乗り、それを追う。
「くっそぉ! 追っ払っても追っ払っても直ぐ取り付きやがる!」
 発電所では、ブルーアース号がラダム獣に攻撃を仕掛けているが、レーザーカノンではラダム獣を撃破する事は出来ない。精々取り付いている獣を撃って発電所のエネルギー吸収を止めさせる事しか出来ないのだ。
エビルはある地点に到達すると、ラダム獣から離れて後ろから追ってくるブレードへと突進した。槍の攻撃はランサーで何とか受け止めたものの、その勢いでブレードもペガスから離れてしまう。空中で行われる剣戟。彼らは徐々に降下しながら何合も打ち合う。それが例え生い茂る森の中であっても彼らの槍を阻む物は無い。
そして木の下へと二人が降り立つ。彼らの足元には切り裂かれた木片がばらばらと降り注いだ。
「やる気だね、兄さん」
「お前とは……もう兄でも弟でもない!」
 エビルはブレードの気合と殺気を受けてそう言い、ブレードはエビルに対して肉親に対しての言葉を既に持とうとはしなかった。Dボゥイは兄弟の縁は断ち切る為に戦っていると言っても過言ではなかった。
「過去は捨て去ったと言う訳か……何もかも? そう、ここでの思い出も」
 そう言われてブレードは辺りを見回した。
「覚えてないのかい、この景色を」
「ここは……!」
 生い茂る森、美しい砂浜、そして灯台。Dボゥイはここに見覚えがあった。そして、Dボゥイは幼い少女と、自分の双子の弟が遊ぶ砂浜を見た。自分もそこで走っていた。みんなが、裸足で、笑顔で、遊んでいた。
 幼いミユキが海辺で大きい貝を見つける。それを自分である兄に差し出して「なんて貝?」と尋ねてくる。それをシンヤが奪ってまた追いかけっこをする。海辺で戯れる三人の思い出。そんな幻影をブレードは見た。
「やっと思い出したようだね。僕らの懐かしい思い出の地を」
「エビル……何故ここに!!」
 ブレードは憤っていた。自分の、自分達の淡い思い出が、今現在では死闘の場所になった。これはエビルの心理攻撃だ、と分かっていても彼には思い出を穢された気がして我慢がならない。
「僕達兄弟がよく遊んだ海、砂浜、灯台。人間であろうとする兄さんには……似合いの墓場じゃないか!」
 そう言いながら飛び上がり、エビルはブレードへの攻撃を再開した。
 発電所では、無数のラダム獣への果敢な攻撃を繰り返し行っているノアル達が足掻く。
「駄目だ! レーザーじゃ埒が開かない!」
「やっぱり……テッカマンじゃないと!」
「急いでくれよ、Dボゥイ!」
ブルーアース号では時間稼ぎしか出来ない事を二人は理解している。ラダム獣の蓄電を長く引き伸ばす。それしか出来ない事にノアルは歯噛みしていた。
そしてペガスは、エビルのラダム獣に対して攻撃を行っている。武装を持たない搭乗型ラダム獣は時には体当たりを行ってペガスを翻弄した。この獣はかなりの曲者で、テッカマンが戦いあう場所から徐々に遠ざかっている。それは意図的にエビルが指示したことでもある。
 空中で音速のぶつかり合い。ブレードとエビルはバーニアでの高速移動を行いながら激しい交戦をしていた。打ち合う二人は離れて、地面へと着地した。ブレードは一面花が咲き乱れる場所に、エビルは岩場に。
 ブレードは無我夢中で戦っている時、いつの間にか左手に白い花を掴んでいた。
「どうした? いつもの兄さんらしくないじゃないか」
「くっ……」
「忘れようとしても忘れられない、心の奥に焼きついた思い出が兄さんを迷わせるのかい? アマリリス……ミユキが好きだったこの花が、裏切り者の手向けとなればあいつも喜ぶ!」
「言うなぁっ! 言うな……言うな!」
「ふっ! そうだ……怒りで我を忘れるがいい!」
 エビルはブレードを挑発した。戦いの場をこの地に設定したのも、全て計算の内だった。そして妹の好きな花、アマリリスがDボゥイの心を掻き毟る。ブレードは絶叫した。
「言うなああぁぁっ!!」
 そして、結局エネルギーの確保を阻む事が出来なかった。殆どのラダム獣は、宇宙を目指しながら飛んでいく。それを追撃しながらブルーアース号が飛ぶ。
「くそぉっ! 燃料満タン、お家にご帰還ってワケか、そうはさせないぜ!」
「待って! Dボゥイとペガスが離れすぎているわ。テッカマンの変身リミットまで後三分!」
「ちっ! 世話を焼かせやがって!」
「Dボゥイの傍に、ペガスを誘導しないと!」
「仕方ない、戻るぜアキ!」
 アキは、ラダム獣との交戦に専念していた為か、ブレードのフォローを失念していたようだ。急ぎペガスにDボゥイの元へ戻る様に指示を出す。
「ラーサー!」
 ラダム獣の攻撃を中断して、ペガスはブレードの方へと向かう。果たして間に合うのだろうか。
 ブレードとエビルの交戦は続く。剣戟を打ち合い、時には背後に回ってブレードを羽交い絞めにしようとする。それを察知したブレードは、バーニアと膂力で空へと退避する。着地したその瞬間、突き刺す様にあの感覚が起こった。額の五角形が点滅し、自分と言う認識が削られていく様な感覚。テックセットシステムが暴走し、Dボゥイが人で無くなる、タイムリミットが訪れようとしているのだ。
「うっ! ぐぉっ! ぐあぁぁ!!」
 アマリリスの花の中で足掻くように、跪くように崩れるブレード。
「じ、時間が! ペガス! ペガァァース!!」
 ブレードは辺りを見回したが、相棒である騎馬はまだ到着していない。明らかに距離が離れすぎていているのだ。そして、そんな風に体勢を崩したブレードにエビルのランサーの先端が切り離されて飛ぶ。ランサーの先端はフェルミオンワイヤーと言う光の鞭で繋がれ、思念誘導で自由自在に操ることが出来る武装である。エビルは、その鞭でブレードを絡め取って動きを封じる。更にワイヤーを伝って電撃がブレードに伝わった。
「ぐわぁぁっ!」
「人間であろうとするお前が、テッカマンでいられる時間は30分。それを過ぎれば、お前はもはや人間ではなくなる!」
「貴様……そ、それを! ぐわぁぁっ!」
 ブレードは自分の弱点を把握されている事を今知った。それを考えれば今回、自分を弄ぶ様な戦い方をエビルがしたのも頷けた。だが、それを理解するのが遅過ぎた様だった。
「後一分! 急いでノアル!」
「やばいぜ……こいつは!」
 ブルーアース号の支援より先に、ペガスが到着するようだが、もしブレードがテックセット解除した後のフォローが間に合わなければ、無防備になったDボゥイが殺される。タイムリミットでブレードが暴走しても、テックセットを解除しても、どちらにせよエビルと言う存在があれば危険に変わりは無かった。ノアル達はブレードの元へ一刻も早く向かわなければならなかった。
 そして刻一刻と迫るタイムリミット。ブレードはタイムリミットの激痛とエビルの電撃に苛まれて苦悶した。
「ふはっはは! 戦わずとも時間を待てば! お前は自滅する!」
「ぐぅおわぁぁぁあぁあ!!」
「ラダム獣培養の為のエネルギー、ありがたく頂いていくよ……ふっはっはっは!」
「ぐぅっ……エビル……エビル!」
 苦痛に喘ぎながらも一歩一歩踏みしめてエビルへと向かった。そして、肩の装甲を展開すると叫んだ!
「ボ、ボルテッカァァー!!」
 反物質の粒子砲が唸る直前、エビルはフェルミオンワイヤーを解いてブレードから離脱し、高く空へと舞い上がった。ブレードのボルテッカは、エビルのいた岩場を空しく消滅させるだけだった。
「どぉしたんだい? 的はここだよぉ! 兄さん!」
 ボルテッカを撃ったブレードは微動だにしなかった。まるで意識を失ったかの様に、その場で棒立ちになった。反面、額の五角形のパーツは今まで以上に激しく明滅している。
「もう俺の声も聞こえないのか? ふはっはっは!」
 明滅するパネルが突如、消えた。まるで電池が切れた電灯の様に。パネルは二度と輝かない。
 指令所にある花瓶の一輪の花、アマリリスの花びらが命尽きるように落ちた。それを見て不吉に思うミリィ。
「Dボゥイ……」
 そしてブレードのモニタリングをしていたアキが、今ようやくペガスがブレードに合流した事をノアルに言った。変身リミットも丁度ジャストの時間だ。ブルーアース号は未だDボゥイの元へ到達してはいない。
「ちゃんと戻っていろよ……Dボゥイ!」
 ペガスが其処に降り立とうとした時、エビルは自分の騎馬に乗って去っていこうとしていた。もはや自分のやるべき事は終わったと言わんばかりに。
そしてブルーアース号がブレードのいる場所に到達した時、ノアルとアキは目撃した。Dボゥイが、未だテッカマンブレードでいる所を!
「Dボゥイ!」
「Dボゥイ!?」
 ブレードは強い風で舞い上がった、数多のアマリリスの花びらの中に囲まれていた。
 ブレードの仮面、碧色の眼が、突如紅く染まる。その様は、まるでテッカマンエビルと同じ様な、血に飢えた悪魔の様だった。ブレードはゆっくりと自分に向かって飛んでくるブルーアース号を目にすると、バーニアを全開にして飛び上がった。きりもみ回転をしながら、その凶刃をノアル達に向けた。
「うぉあっ! 上昇だぁ!!」
 ノアルは操縦桿を起こして何とかブレードの一撃をかわした。完全にかわしたと思っても、ブレードのランサーで船の下部を少し削られていた。そして、まだブルーアース号を撃墜する事をブレードは諦めていない。
「まさか……あいつ! くっ!」
 ノアルはレーザー砲を起動させ、照準機をブレードへと狙いを合わせた。
「来るな……来るなよ……Dボゥイ!」
「駄目よノアル!」
アキが照準機の前に立ってノアルを阻んだ。
「どけぇアキ! あいつはもうDボゥイじゃないんだ!」
「駄目よ! あぁっ!?」
 その時ペガスが、ノアル達に急接近するブレードを強制的に回収しようと、頭部を展開しテックセットルームを露にしながら飛んできた。ペガスには、ブレードが意識を失った時や戦闘不能に陥ってしまった時のサポートの為に、テックセット解除を行う自動プログラムが備えてある。だが、それはブレードが動けない時の為の機能である。
ブレードは、背後から接近してきたペガスを見つけると、その肩を左腕ごとランサーで切り裂いた。腕部のバーニアを片方失ったペガスはバランスを維持できなくなって地上に落ちていく。
「ペガスが……! くっ、ひとまず退避だ!」
 ペガスは落着の衝撃で機能を停止した。最早テックセットを強制的に解除することも出来なくなったのだ。
「こちらブルーアース号、テッカマンブレードの変身リミット、タイムアウト。Dボゥイとのコンタクト不能。この状況下での接触は危険な為、一時退避する」
 ノアルはスペースナイツ基地に報告を行い、ブレードから離脱する。それを聞いたミリィが表情を暗くした。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」
そして、横たわったペガスがいるその場所で、紅い眼をしたテッカマンブレードは絶叫していた。その様はまるで悲しみの絶叫の様に聞こえる。それを見下ろしながら、エビルが叫んだ。
「ふはっはっは! 殺せぇ! お前が守ろうとした地球人を! 皆殺しにするまで暴れるがいい!!」
 エビルの哄笑が、ブレードの絶叫がアマリリスの咲き乱れたこの場所に響き渡る。今二人の悪魔が、その凶刃を人類に、そしてスペースナイツの仲間達に向けようとしていた。


☆さて、ジンクスとして変身リミットってのは一度は破らなきゃいけないんじゃない? と言う事で起こりましたリミットアウト。正直さぁ、アキ何やってんの? って思う訳ですよね。ブルーアース号のコンピューターオペレーションってそんなに大変なの? ラダム獣と交戦中にちょっと眼をブレードに向けても良いんじゃないの? 時計ちゃんと見てる? とか思っちゃう。後三分! じゃねーよ!(笑)後でフリーマンから説教三時間の刑だな。まあそれは良いとして(よくない)作画がバランスが良かったり悪かったり激しい回です。確か……この回は修正入ってない……はずです。アマリリスの花を手に取った時のブレードの顔がどーもカッコ悪過ぎて。客観的に見て、本来星4つの所を3にさせて頂きます(←何様)