第15話 魔神蘇る(1992/6/2 放映)

こんなのへっちゃらだぜ!

脚本:あかほりさとる 絵コンテ: 殿勝秀樹
演出:鈴木吉男  作監:室井聖人 メカ作監オグロアキラ
作画評価レベル ★★★★★

第14話予告
遂に、変身リミットを越えてしまったテッカマンブレード。悪の心に支配されたDボゥイに仲間の叫びは届かない。次回、宇宙の騎士テッカマンブレード。「魔神蘇る」仮面の下の、涙を拭え。


サブタイ前粗筋
ORSのエネルギー供給システムを失ったラダムは、新たなエネルギーとして、地上の核融合発電所を狙い攻撃を開始した。発電所を守る為、出動したスペースナイツであったが、それは同時に、ブレードの弱点を突くエビルの罠であった。エビルの卑劣な作戦に、ブレードは防戦一方となり、遂に30分の変身リミットを越えてしまった……!


雷光が轟く。空は曇天で満たされ、今にも雨が降り出しそうな悪天候だった。其処に突然破壊の嵐が巻き起こる。地面は抉られ、木は薙ぎ倒され、頑強な岩は両断され崩れ落ちた。その破壊を起こしている主は、変わり果てた、あのテッカマンブレードだ。その仮面には紅い眼光が走る。
「ハァーッ! ハァーッ!」
 ブレードは激しい息遣いをしている。既に変身リミットを越えて数時間が経とうとしていた。彼は、真っ直ぐに何かを目指す。その途上にあった物は何であろうとことごとく切り裂き破壊して、彼の通った後には何も残らない。それが、例え生きている物でも、例え味方だったとしても例外ではない。
そして突如、彼が進む途上に連合防衛軍が立ち塞がった。重戦車や対空ミサイルランチャー等を備えた一個中隊が集まっている。
「撃てぇーっ!」
 仕官が全戦闘車両に攻撃を命じた。戦車砲、ミサイル、ありとあらゆる強力な砲弾が雨の様に降り注ぎ、ブレードを直撃し、炎上した。
「やったか!?」
 爆炎が収まると、炎に照らし出されたブレードを視認する事が出来た。あれほどの爆薬を受けてもブレードは無傷である。彼の立っている地面を抉る事は出来ても、その鎧には傷一つ付けられない。士官が再び攻撃の号令を出そうとしたその時、
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
 ブレードが絶叫と共に飛び上がり、テックランサーを戦車隊に対して投擲した。真上から貫かれた戦車は爆発を起こす。更にブレードは、戦車に突き立ったランサーにワイヤーを絡ませ、回収する直前に横一文字にワイヤーを手繰る腕を薙いだ。重しでもあるランサーは腕の軌跡、そして遠心力に合わせて飛び、横に並んでいる戦車を数台纏めて連続で切り裂いていく。圧倒的防御力と桁外れの戦闘力。これはテッカマンである以前に、Dボゥイの卓越した武術や格闘術の結果であった。
「馬鹿が……ラダム獣一匹倒せない軍が奴を止められっかよ!」
ノアルは壊滅していく防衛軍を見ながらそんな風に舌打ちした。
「でも、何とかして止めなきゃ!」
「分かってる!」
 彼らはブレードにつかず離れずブルーアース号で追従している。事の起こり、防衛軍とブレードの衝突はある意味偶然であり、必然だった。ブレードが進む途上である部隊に遭遇し、彼らを壊滅させてしまったのだ。本来味方であるはずのテッカマンブレードが自分達を攻撃する。そんな訳の分からぬ事態に、防衛軍は応戦するしか術がなかったのである。そして今現在、増援の第二攻撃隊がブレードと交戦を行っている状況だ。
「くそぉ……本当にお前、悪魔になっちまったのかよ!」
 旋回しながらノアルは、ブレードが防衛軍を蹂躙する様を目撃する。既に死傷者は数十人単位に昇っていた。勿論、ノアル達は連合防衛軍に対して、警告を行った。だが、彼らは相手がテッカマンブレードだったとしても撤退しなかった、いや出来なかったのである。
「こうなったら、刺し違えても……!」
「やめるんだ、ノアル」
 突如サブモニターにフリーマンの映像が映って彼を制止した。
「チーフ! でも他に方法が!」
「落ち着きたまえ。ブルーアース号の体当たり如きでブレードを倒せるとでも思っているのか」
 確かにフリーマンの言う通りだった。今ノアル達が攻撃を仕掛けても無駄死にする結果に間違いはない。
「じゃあ! どうすれば!?」
「アキ、生体センサーを発射したまえ」
「生体センサー?」
「脈拍、肉声、何でもいい。彼を徹底的にチェックするんだ」
 ブルーアース号にはラダム樹やラダム獣等を調査する目的の為に、生体センサーが備えてある。今回の様な、初めてテックセットシステムが暴走すると言う事態を彼らは想定した事も経験した事が無い。フリーマンは兎に角、ブレードの情報が欲しかったのだ。
「戻す方法があるんですか!?」
「分からん。だが、何としても見つけなければならない。出来なければ……地球はテッカマンにより滅亡する!」
 絶叫して動きを止めたブレードの頭上をブルーアース号が飛ぶ。その、一瞬のすれ違いに下部の射出口から生体センサーが発射される。三基のセンサーは数センチの小さな物で、彼の肩と膝のアーマーに吸着した。
 尚も雄叫びを上げながら、ブレードの攻撃が轟く。ランサーによる攻撃で戦車を、時には道を阻もうとする岩を。ただ立ち塞がる物を叩き潰す。そんな単純な目的の為に彼の破壊は続いていった。
 そんな状況を中央ルームでミリィが見ている。その雄叫び、絶叫を耳にしてミリィは独り言のように言った。
「Dボゥイ……悲しそう……」
――――悲しそう……?
 フリーマンはミリィの言葉を反芻した。何故悲しいのか? 何に対して悲哀があるのか。
 そして、ブレードであるDボゥイは夢を見ていた。悪夢と言う名の、無限に続く迷宮を。三人の少年少女が走る。自分を追い掛けて来る弟と妹。この幻想は、以前見ていたよりも時代が進んでいる思い出なのか、彼らの年齢は十代前半の様に見えた。いつも三人で遊ぶ思い出。其処には、常にアマリリスの花が一面に咲いていた。時々後ろを振り返っては、彼らが笑顔で追い掛けて来るのを笑いながらDボゥイは見ている。
 しかしその幻影が突如闇に包まれ、少年であるDボゥイは四肢を植物のツタの様な物で拘束された。
「あ? ああぁっ!?」
 もがいても彼は動けない。いつの間にか、紫色の球体が密集した、ラダム樹の森の中に自分は立たされていた。その闇の中で、見知った少年の姿を見つける。
「シンヤ!?」
 Dボゥイがそう言った時彼はゆっくりと振り返った。その容貌は少年から大人の顔になり、笑顔だった彼の表情は殺気で満たされていた。彼はゆっくりとこちらに歩みを進めると、右手の虚空から槍を出現させる。歩いてくるその姿は、徐々に赤くなって、テッカマンエビルへと変貌した。
「死ねえぇぇ!」
 ランサーを携えたエビルはそう叫びながら突進してきた。ツタで動きを封じられたDボゥイはかわす事が出来ない。その槍で串刺しにされたDボゥイは、悲鳴をあげた。
その悲鳴が絶叫に重なる。ブレードは立ち塞がる数多の物を、敵であり弟でもあるテッカマンエビルだと思い込まされて、錯乱して攻撃を仕掛けているのだ。撃ち放たれたミサイルを両断し、戦車を膂力で叩き潰す。その動きが錯乱の結果だったとしても、的確で鋭い攻撃だった。
「こちら……第五中隊……テッカマン……第二防衛ライン突破! きゅ、救援を……」
 瀕死の兵士が本部基地にそう通信した直後、力尽きる。阻む物が無くなったブレードは、悠然とその戦場から離れていった。そしてスペースナイツ基地では防衛軍本部からの通信でコルベットが憤っている。
「フリーマン! これは一体どう言う事だ! テッカマンは、どうなってしまったんだ!」
「前にお話した恐れていた事態が発生しました。テッカマンブレードの変身リミットを越えてしまったのです」
「30分を越えたら暴走すると言うアレか!」
 フリーマンは以前、防衛軍基地に出向いてテッカマンの性能及び作戦における制限を説明している。
「これを見たまえ! 現在の速度でブレードが進めば、50分後、KR235エリアに突入する。あそこは運よくラダムの攻撃を逃れた数少ない市街地だ。既に、住民は避難を始めているが、市内はパニック状態だ。恐らく避難は間に合うまい。よってこれ以上の被害を防ぐ為、軍は決定を下した!」
 メインモニターの地図上にブレードの進路が表示され、砦のようなマークは防衛軍の部隊であろう。その先には大きいマークで表示された市街地がある。テッカマンブレードは、無作為に真っ直ぐ進んでいる訳ではなかった。より人が多い場所に向かって進んでいるのだ。何をする為に? 勿論、破壊や殺戮を行う為に。
 そして、コルベット准将は宣言する様に言った。
「1430時、最終防衛ラインを突破された場合、テッカマンに対し……反応弾を使用する!」
指令所にいるスペースナイツの面々が、その場にいたバルザックでさえその言葉に驚愕した。
「Dボゥイ……」
 ミリィがそう言いながら彼の安否を気遣った。其処にいた誰しもが、最早Dボゥイは帰ってこないと思った。
反応弾とは、連合防衛軍が所有する大量破壊兵器の呼称である。旧世代の戦術核の威力をそのままに、しかし放射性物質は発生しないと言う比較的クリーンな兵器。連合防衛軍が所有する兵器としてはORSの衛星レーザー砲に次ぐ威力を持つ物であり、双方共にラダム獣に対して唯一効果のある兵器ではある。だが、大規模な破壊が起こる事を前提に使用する兵器である為、議会や大統領の承認が必要不可欠となる。
 実質的に言えば、今ブレードが歩みを進めている場所は荒野、居住地区や街等何も無い場所である。ブレードから市街地まで10kmも無い。これ以上彼を市街地に近づければ反応弾を使う暇が無くなるのだ。
「なんですって!? チーフ!!」
「は、反応弾……!?」 
ノアルとアキも、それを聞いて絶句した。
「ちくしょぉ! 軍の奴ら!」
「よって、1430時までにテックセットの解除が出来ない場合、ブルーアース号は安全高度まで退避せよ」
「チーフ! まさかDボゥイを!」
「……以上だ」
 見捨てる気ですか!? とアキが続けようとしたが、フリーマンは一方的に通信を切った。アキはフリーマンの通信が切れても食い下がった。ブルーアース号のコックピット内の会話は常にスペースナイツ基地でモニターされている。聞こえていないはずが無いのだ。だが、既に何も言う事は無い、と一方的に通信を切ったフリーマンに、アキはもう期待する気は無かった。
「ノアル! Dボゥイに近づけて!」
「アキ!?」
「何とかしてDボゥイに呼びかけてみるわ!」
「分かった!」
 アキはブルーアース号の船外スピーカーをMAXにすると言った。
「Dボゥイ! Dボゥイ! 聞こえる? アキよ! おねがい、Dボゥイ! 元に戻って!」
 アキは声の限りにそうブレードへと呼び掛けた。徐々に彼へと接近するブルーアース号。だが、ブレードは歩みを止める事は無い。
「私達が分からないの!? Dボォォーイ!!」
 そんな風に何度も呼び掛けた時、ブレードが突如歩みを止めた。それを見てアキは声が届いた、と期待で胸を膨らませる。だが!
「うおおぉぉぁぁぁ!!」
 ブレードの仮面に紅い眼光が灯り、背部バーニアスラスターを全開にして叫びながら襲い掛かってきた。
「急速上昇!!」
 ブレードの挙動を見て瞬時に操船するノアル。ブレードは飛び上がると、更にランサーをブルーアース号へと投擲した。それを紙一重でかわすが、無理な機動をした為かコックピット内の衝撃は尋常ではなかった。
投げたランサーをテックワイヤーで回収し、着地したブレードに向かって突如サーチライトの光が当たった。それと同時に通信が入り、ブルーアース号に対して防衛軍仕官が警告した。
「スペースナイツ引け! テッカマンに第三次攻撃を加える!」
「冗談じゃねぇ! 俺達はなぁ!」
 そう言いながら抗議しようと思ったノアルだったが、仕官はそれを聞かずに攻撃を開始した。誰もノアルとアキの言葉を聞こうとはしない。フリーマンも、防衛軍も、そしてDボゥイも。
第三防衛ライン、つまり最終防衛ラインの部隊は、テッカマンを遠巻きにして攻撃を開始した。彼ら最終防衛ラインの役目は「時間稼ぎ」と「死守」だった。
それはある意味、反応弾ミサイル発射の準備時間を稼ぐ為の捨て駒だと言えるだろう。
防衛軍本部、その指令所の上にあるキャットウォーク上でコルベットがその状況を見て歯噛みする。だが、自分達の部隊が蹂躙されている事に対して憤慨しているのではない。
テッカマンをこんな形で失う事になるとはな……反応弾発射用意!」
 そう号令が飛ぶと、本部基地の地表に大きな発射口が開く。ミサイルサイロ、それは西暦時代の旧核兵器発射施設である。発射施設は全て地下へと敷設されており、防衛軍は核兵器を全て排除し、その弾頭を核弾頭ではなく、反応弾頭へと換装して打ち出す。
イムリミットは刻一刻と刻み、ミリィが顔を曇らせていく。
 その頃、ORSで文字通り高みの見物を決め込んでいるエビルはオメガに報告を行っている。
「これでブレードは人間達が始末してくれるさ。いや、どっちかって言うと、ブレードが全ての人間を始末してくれるかもしれない」
 テッカマンエビルがオメガに向かってそう言った。以前の通り、オメガは月のラダム基地にいて動けない。目の前にいるのはオメガの立体映像であり、通信でもある。
「ブレードは万が一にも、戻ることは無いのだな?」
「心配かい? ……無いさ、絶対にね。本当は下に降りて、ゆっくり見物したいんだけどね……」
 そう言った彼の仮面の下は、歪んだ笑みに満たされていた。
テッカマンエビルは地球に降りて、ブレードが破壊の限りを尽くす場面に何故か居合わせようとはしなかった。今現在のブレードは暴走状態であり、破壊衝動に駆られた存在ではあるが、ラダムの尖兵となった訳ではない様だ。もしブレードがラダム側に堕ちたとするなら、エビルが接触しても何ら問題が無いはずであるし、仲間になったのなら、共に地球人を蹂躙するはずだ。
そして今現在のブレードに触れる事はエビルですらしなかった。ブレードは優先順位として、自分に危害を加える者を攻撃対象とする。それがテッカマンの様な危険な者だとするなら尚更、エビルはその場にいる事は出来ないと思っているのだ。
現在、1428時。落雷が落ち、雨が降り始めた。最終防衛ラインの部隊は雨が降り出す前に殲滅された。
「最終防衛ライン突破されました! 反応弾発射一分前!」
 その報告を聞いたフリーマン達は、ブルーアース号に指示を送る。
「ブルーアース号、こちらフリーマン。タイムリミットだ。急いで安全圏に退避したまえ」
「嫌です」
メインモニターにアキが映ると彼女は退避勧告を拒否した。そしてノアルもフリーマンに食い下がった。
「あいつは! 人類のたった一つの希望なんですよ!? それを自らの手で葬るなんて!」
 アキもノアルも、フリーマンの命令を聞く気にならなかった。人類の希望であるテッカマン。だが、それ以前に彼は自分達の仲間だ。呪縛に捉われた彼を救いたいと二人は思っている。
 しかし意外な事に、フリーマンの言葉は、 
「いや……テッカマンならば生き残る」
 と断言するように言った。その場にいた者達、そしてアキやノアルもこの言葉に動揺した。
「早く離脱しろ! 急げ!」
「ラ、ラーサ!」
 フリーマンのその言葉を受けた二人は、半信半疑ながらも彼の言葉に従った。
「反応弾! 発射ぁ!」
 そして防衛軍本部では、拳を振り上げながらテッカマンに対しての反応弾発射をコルベットが号令した。本部にあるミサイルサイロから、轟音を上げながら一つのミサイルが飛び立った。MRBM、準中距離弾道弾と呼ばれるサイズのミサイル。それは一定の高空へと飛び上がり、弧を描くように下を向くとテッカマンがいる場所に向けて一直線に降下する。その様を雲上からノアル達は目撃した。
 分厚い雲を掻き分けて、ミサイルが接近すると、ブレードはそれを見上げた。その刹那、激しい光が巻き起こる。光は、まるで太陽の様に光り輝き、雨雲で太陽光を遮られた地上を照らし出し、轟音を上げて爆発した。
「Dボォーーイ!!」
 アキが叫ぶ。灼熱の太陽は半径数キロメートルを焦土と化し、その巻き起こった光はドーム状に輝いた。光のドームは数秒間だけ辺りを照らし出すと、急速にその勢いを弱めていく。
「アキ……アキ!」
 その様をずっと見ていたアキは、ノアルに声を掛けられても直ぐに反応できなかった。はっとなってノアルに振り返る。
「近付くぞ!」
「……ラーサ」
 ブルーアース号は爆心地点へと急行した。厚い雨雲を抜け、反応弾が炸裂した場所へと降下する。爆発の影響で地面はクレーターと化している。爆熱で土は溶け、中心地点では煙と炎が巻き起こっている。そして二人は目撃するのだった。テッカマンブレードが、燃え上がる炎の照り返しを受けて、はっきりと視認出来る。
「Dボゥイ!」
「何て奴だ……!」
 アキがその様を見て喜び、ノアルは驚愕した。爆発の衝撃波や灼熱の炎を受けても彼はそれを物ともせず、大地に根を下ろす様にしっかりと立っていた。そして彼の鎧は欠損も無く、傷一つ付いていない。
「む、無傷です! テッカマンは、依然進行中!」
 報告と映像を受けたコルベットはその状況に恐怖で戦き、後ずさり、追い詰められた様に背後の壁に寄りかかった。防衛軍は、と言うか彼は完膚無きまでに打ちのめされ、敗北した。どんな兵器を投入しても彼を殺す事が出来ないと言う事が証明されてしまったのだ。それはコルベットが持つ虚栄心の失墜をも意味していた。
「もう……誰も彼を止められない……」
 そしてスペースナイツ基地のフリーマンも現状を見てそう、呟いた。この結末を予測していたとは言え、実際にそれを目の当たりにすれば驚愕せざるをえない。彼は漠然とこの結果を予測していたのは、テッカマンがラダム側の上位兵器であると言う事と、これまでにDボゥイがテッカマンとして戦ってきたデータがあるからこそであった。そしてラダム側の最強兵器であるテッカマンブレードは、再びその歩みを進める。
「うぉおおおぉぉぉ!!」
 雷光が轟くと、ブレードも絶叫を上げながら槍を振り下ろす。また、彼は悪夢を見ていた。
 無限に続く迷宮の様なラダム樹の森。薄気味の悪い暗がりから、あの男が追い掛けて来る。シンヤと呼ばれた自分の弟、テッカマンエビル。Dボゥイは幾ら走っても走っても、彼を引き離せない。シンヤはゆっくりと歩いているだけなのに。そしてDボゥイはラダム樹の森を抜け、月下に立つ三人の男女を見ると叫んだ。
「助けて! 父さん! 兄さん!」
 三人は見知った顔である、Dボゥイの家族だった。尊敬すべき父、頼れる兄。女性は顔が判別出来ないが、恐らく兄の恋人だろう。三人は彼の叫びを受けて振り返ると、禍々しいテッカマンへと変貌する。
「あぁっ!?」
 彼は悲鳴をあげて後ずさった。後ろにはシンヤ、そして前には父と兄が来る。逃げ場を失ったDボゥイは、突然足場が崩れ落下する感覚に陥る。悪夢にはよくある、あの落ちる感覚だが、その絶望は普通の人間が感じる比ではない。そんなDボゥイに細くか弱い手が差し伸べられた。その手は、落ちる自分を助けてくれた。
「ミユキ……!」
 その手はあのアマリリスを持つ少女だった。彼女はその身を持って助けようと必死だった。そんなミユキを見て安堵したDボゥイだったが、彼女が徐々にその姿を変貌させるのを見て愕然となり、拒絶した。
「うわぁっ! は、離せぇ!」
「お兄ちゃん!」
 自分は兄の味方だ、と彼女が言ってもDボゥイは信用する訳にはいかなかった。鎧の人型であるテッカマン、それは自分の敵であり、恐怖すべき肉親なのだ。Dボゥイは落下すると言う結果が分かっていても、その手を振り払うしかなかった。悲鳴をあげながらDボゥイは奈落の底へと落ちていった。
 Dボゥイは自分に滴り落ちる水滴を感じて意識を取り戻した。水面と波紋が占める清廉で美しい空間、自分は其処に横たわっていた。傍らには先程の少女がすすり泣きながら自分を見下ろしている。水滴は彼女の涙だった。そして其処は、彼女の心象風景なのかもしれない。
「ミユキ……」
 彼女はDボゥイを心から心配していた。それを感じる事が出来たから、ミユキが例えテッカマンに変貌したとしても、Dボゥイは彼女を信頼した。ゆっくり起き上がって、彼女と見詰め合った。それは半ば恋人同士の様にも見える。そしてミユキはDボゥイが無事だと分かると、静かに微笑んだ。
「きゃぁああああああっ!!」
 しかしその女神の様な笑顔が突如、真っ二つに切り裂かれた!
 ミユキは頭部を両断されて金切り声を上げる。その後ろにはあの紅い悪魔、テッカマンエビルがいた。
「甘いよ、兄さん」
 彼女は夥しい血を吹き上げて絶命した。そしてエビルは、その赤く濡れた槍をDボゥイに対して血振りする。ミユキの血が、彼の顔面を塗れさすと、Dボゥイは悲哀と絶望の絶叫を上げた。
「ミ……ユ……キ……」
 その絶叫は、現実世界ではうわ言の様に繰り返されるブレードの言葉となった。テッカマンブレードに設置された生体センサーは、反応弾の直撃を受けても機能を停止しなかった。光=物質変換機能で生み出されたテッカマンのアーマーは、覆われている素体はおろか、付着したセンサーにまで防御力が適用されるらしい。
 そしてセンサーはDボゥイの脳波が乱れている事を示していた。うわ言の様にブレードはミユキを呼ぶ。その音声を聞いたミリィがはっとなって言った。
「ミユキ……さん……あっ!」
「ミリィ、何か知っているのかね?」
 フリーマンはミリィに尋ねた。今はどんな些細な情報でも重要だ。
「Dボゥイの……妹さんの名前なんです!」
 ミリィはフリーマンにDボゥイの妹の事、自分がそのミユキと言う少女と似ている事を告げた。それを聞いてフリーマンは打開策を思いつく。と同時に、コンソールを操作して本田達を呼び出した。
「メカニックルーム、ペガスの修理状況は?」
「おう、今連絡しようと思ってた所だ」
「バッチリ終わったわ。後はお願いよ、チーフ!」
「ミリィ、君に特別任務を与える」
「えっ?」
 フリーマンは通信を切ると、ミリィに振り返って言った。
「ペガスと共に直ちに現場へ急行、Dボゥイを説得してくれ!」
「あたしが!?」
 それを聞いたノアル達が会話に割り込んで言った。
「チーフ! 無茶です! ミリィに説得なんて!」
「他に手があるのか?」
 そうフリーマンが言うと、ノアル達は言葉を返せない。
「時間も無い。危険な賭けだが、最早我々には彼女に、ミリィに託すしかないのだ。Dボゥイを……悪魔とした彼を、救う為に!」
外部からの攻撃ではテッカマンに一切通用しないと言う事が分かった今、後は彼の自意識に呼び掛けて暴走を止める以外他に手は無い。ミリィがそのミユキと言う少女に似ていると言う事が、人類唯一の希望だった。
「……っ!」
 ミリィは、目の前に置かれたアマリリスを見て、決意を決めると、外宇宙開発機構の垂直離陸機に乗ってブレードが歩みを進める場所へと急行した。
「後二キロで街に突入するわ!」
 ブルーアース号でブレードを見下ろしながら言うアキ。其処は大きな川と、それを渡る為の遠大な橋のある場所だった。つまりここが街の入り口でもあり、この橋を通過してしまえば街は直ぐ目の前だった。
ノアルはそれを聞いて歯噛みした。自分には見ているだけしか出来ないと。その時、ブルーアース号を追い抜く様に垂直離陸機が到着する。そして通信が入った。胸ポケットにアマリリスの花を刺したミリィである。
「こちらミリィ、只今到着しました。これより、着陸します」
 ミリィの表情は暗く重い。幾ら特別任務とは言っても、テッカマンに生身を晒す、それがどんなに恐ろしいのかは彼女にも分かっている。それでも、これ以上Dボゥイに人殺しをさせたくない、戻ってきて欲しいと言う強い願いと思いが、彼女の恐怖を押し殺していた。
「気をつけてミリィ。Dボゥイを……お願いね」
「アキさん……ラーサ!」
 小降りだった雨は、今現在では豪雨となって地表を叩く。ブレードが歩みを進めるその先に、ミリィは垂直離陸機を降下させ、後部にあるハッチからペガスと一緒に姿を現した。そして叫ぶ様にブレードに声を掛けた。
「もうやめてDボゥイ! これ以上……これ以上誰も傷つけないで!」
それを見ても、ブレードは意に介さず歩みを止めない。
「お願い……戻ってきて! あたし達の所に! Dボゥイ!!」
 悲痛な声がブレードへと向けられた。ミリィとブレードはもう三mと離れていない。そして、その少女を視認して叫びを受けたブレードは突如ビクッと身を震わせた。あのどんな砲弾でも、どんな兵器でも後退する事が無かったテッカマンブレードが、一人の無力な少女を見て動揺している。
「お願い! Dボゥイ!」
 仮面から見えるその少女が、あの妹と重なった。あの、愛すべき可憐な妹に。だが突如その姿は、紅い眼光のテッカマンへと変わる。それを目にしたブレードは、持っていたランサーを手放して、ミリィへと突き進んだ。その巨大な空の両手をミリィの首に絡ませると、徐々に絞め上げていく。
「うっ……ディ、Dボゥイ……あぁっ」
 テッカマンの怪力で締め上げられれば一秒と持たず首の骨を折られるはずなのに、そうはならなかった。Dボゥイの意識が辛うじて残っているおかげで、その締め上げる力は強くもなり弱くもなって致死には届かない。
 彼女の胸元にはアマリリスがちらついた。そして、ミリィの自分を呼びかける言葉がブレードの神経を揺り動かす。その言葉と姿は、妹のミユキと少しずつ重なっていった。
「D……ボゥイ……!」
「お兄ちゃん!」
 少女達は、交互に自分を呼んだ。アマリリスの花が彼と自分達を繋ぐ絆の様に、ブレードの仮面の中でちらつく。そして何度も何度も、彼女達は自分を叫ぶ様に呼んだ。
 それでも、暴走したブレードはミリィとミユキを殺そうとして、彼女を頭上高く掲げる様に締め上げる。そして遂に、彼女達の絶叫も頂点を極めた!
「Dボォーィイ!!」
「お兄ちゃぁぁーん!!」
――――パァーン!!
ブレードの、何かが砕け散った。それはテッカマンの暴走を促していたシステムだったか。土砂降りだった雨はいつしか晴れ、雲間から太陽の陽が、天への回廊の様に降り注ぐ。と、同時にブレードの紅い眼光は、いつもの碧の光へと変わっていった。ブレードはミリィを手放すと、崩れ落ちるように膝をついて意識を失う。そしてその傍らには、手放されたミリィが倒れこみ、胸に携えていたアマリリスの花びらが散るように落ちた。
「今だ! ペガス!」
 ノアルとアキが、ペガスに指示を出した。動けなくなったブレードを、ペガスが抱えてテックセットルームへと収納した。アキとノアルはブルーアース号を垂直着陸機の近くに降下させると、倒れていたミリィに駆け寄る。アキに抱かかえられたミリィは、か細く声を出した。
「アキさん……Dボゥイは……」
 大丈夫だと頷くと、ミリィは満足そうにして意識を失った。首を絞められはしたが、命に別状は無い様だ。
 そしてペガスの背部パネルが展開すると、Dボゥイも崩れ落ちる様に倒れ込んだ。そこにノアルが駆け寄る。
「大丈夫か! Dボゥイ!?」
「ミ、ミリィは……」
 そう言って彼女を心配した。アキからミリィは無事だと聞くと、少しだけ微笑む。
 そして、傍らに落ちていたアマリリスの花びらを手に取り握り締めると、その表情はみるみる怒りに塗れた。
「……よくも……よくも!!」
「Dボゥイ?」
 震えだしたDボゥイに声を掛けたノアルだったが、
「ORSだ! 俺を……ORSに連れて行け!」
 突然Dボゥイはノアルに掴み掛かって言った。
「無理よ! そんな身体で!」
 実際に、テックセットしてから数時間が経過している。30分の戦闘時間でも本人にとってはかなりの負担で、今現在は立つ事すらままならない位に消耗しきっている筈なのに、彼は諦める事は無かった。
「どうしても行くんだ……頼む!」
 あのDボゥイが頭を下げてノアルに必死に懇願している。こんなDボゥイを、ノアルは初めて見た。
 そして、スペースナイツ基地へと帰還した四人は直ぐ様ブルーアース号にブースターを接続し、ORSへと飛び立った。そして再びテックセットを行い、精神感応でエビルの反応を探るテッカマンブレード
「エビル……許さん!!」
そして、エビルの反応を大まかに掴むと、肩の装甲を展開して叫んだ!
「そこか! エビル! ボルテッカァァー!!」
 反物質粒子砲が煌いた。反物質を粒子ビームに乗せて発射するボルテッカの射程距離は、数キロメートルに及ぶ。Dボゥイは自分の体力が限界に近付いている事を理解していた。最早ランサーを携えて格闘戦を行う体力は無い。故に、ボルテッカの長距離射撃で短気決戦を行ったのだ。
「何ぃっ!! 馬鹿な!?」
エビルが気付いた時には既に遅かった。オメガへ報告を行っていたORSの一区画はボルテッカを受けて貫通し、そのエネルギーの奔流を受けたエビルは宇宙に放り出された。直撃は避けた物の、さしものエビルもこの奇襲は想定外だっただろう。撃ち終わったブレードは、ペガスの上で崩れる様に意識を失った。
「なかなかやるね……兄さん……ふっふふ」
 宇宙に放逐されたエビルはアーマーの其処彼処にひびが入り、かなりのダメージを負った様だ。そのまま、宇宙の闇へと吸い込まれる様に消えていった。
 戦いが終わり、スペースナイツ基地へと帰還したDボゥイは、いつもの様に基地の屋上で月を見ていた。今日も良い月夜だと彼は思っていた。其処にミリィが訪れたが、声を掛けづらい雰囲気だったので、屋内に戻ろうとするが、
「ミリィ」
「え?」
 Dボゥイは気配と足音で彼女だと気付いていた。月を凝視したまま、彼は言葉を続けた。
「すまない……辛い思いをさせたな……ありがとう、ミリィ」
 その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべるミリィ。Dボゥイと彼女は一緒に月を見上げる。仲の良い、兄と妹の様に。それを、屋上の入り口からノアルとアキが見守る様に見ていた。
 そして、バルザックの私室では聞き覚えのある声が響いている。あの威圧的な言葉しか口にしない軍人だ。
「今回の事態で、テッカマンブレードが諸刃の剣である事が分かった。もはやテッカマンは信用がおけん! 作戦を急げ! 以上だ」
 バルザックの私室にあるモニターには、コルベット准将が任務を簡潔に伝えている。
「了解……さてぇ! そろそろ動くとするか……へっ」
 バルザックは、不敵に笑いながら、そう言った。


☆はてもさても。今回も時間掛かりましたけど何とか出来ました。一番悩んだのはアレですね、反応弾直撃して何故か生体センサーが無事ってトコロ(笑)テッカマンじゃなきゃ蒸発してるはずなのに。仕方ないのでテッカマンに付いてるモノはその恩恵を受けるって事で何とか納得しましょう。あと、この話のアキの扱いが本当に酷い。ヒロイン誰?って改めて思っちゃう話でもあります。作画評価は文句なしの満点です。当然ですよね、オグロアキラさん最高だね。さて、このお話でエビル登場編は一段落、次回からソルテッカマン編が始まります。皆様宜しくお願い致します!
あ、後内緒で動画のURLをアップしておくんだぜ。
http://www.youtube.com/watch?v=x7JG02f017s&feature=relmfu