第16話 裏切りの肖像(1992/6/9 放映)

ほっかむりバルザックカワイイw

脚本:あかほりさとる 絵コンテ:澤井幸次 
演出:宮崎一哉  作監:アート・歩夢 メカ作監:アート・巧夢
作画評価レベル ★★☆☆☆

第15話予告 
二つの顔を持つ男、バルザックアシモフ。今、もう一人の彼が暗躍を始める。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「裏切りの肖像」仮面の下の、涙を拭え。

サブタイ前粗筋
イムリミットを過ぎてしまったテッカマンブレードは、人としての心を失い、単なる戦闘兵器として暴走していた。軍は、ブレードを止めようと攻撃を繰り返し、遂には反応弾まで使用するがブレードに効果は無かった。そんなブレードを、正気に戻したのはミリィの必死の叫びであった。そして、意識を取り戻したDボゥイはエビルに向かって必殺の、ボルテッカを放った。その頃、バルザックは……
「さてぇ! そろそろ動くとするか!」


私室のベッドで就寝していたDボゥイは悪夢に苛まれていた。現在深夜の午前2時。テッカマン暴走事件が起こってから数日、毎晩の様に見る夢が彼を苦しめていた。呻くように、ようやく悪夢から開放される様に目覚めた時、身体中や手は寝汗でべっとりとなっていた。
アキは今日に限って何故か眠れず、科学雑誌を読んで眠気を誘おうとしていた。それでも眠れなかった彼女は私室のベランダに出て外の空気を吸おうと思いつく。その時、隣の部屋のベランダにDボゥイがいる事に気付いた。何か思い詰めた様なそんな重い表情。アキはそれを見て「どうしたの?」とか「眠れないの? 私もなの」等といった世間話をする気には、何故かなれなかった。
その頃、基地内では、フリーマンが全ての勤務を終えてエレベーターに乗ろうとしている。それをエレベーターシャフトの排気口から侵入した何者かが見ていた。全身を黒いタイツで覆われた不審人物、それは特殊装備に身を固めたバルザックアシモフだった。バルザックはフリーマンがエレベーターに乗って地階に向かおうとした時、そのエレベーターの上に音も無く降り立ち、寝そべるようにして張り付いた。
――――毎晩毎晩、何処に向かってる? ……今日こそ教えてもらうぜ、フリーマンさんよぉ。
 エレベーター内の表示が地下八階を示した時、フリーマンは何故かその階には降りず、自分の腕時計を操作した。すると、階数を表示するパネルカバーが上へとスライドされ、その下にはテンキー式のボタンが出現する。テンキーを押して暗証番号を入力すると、エレベーターの入り口と対面方向にシークレットドアと通路が現われ、普段使われる事が無い秘密のエレベーターへの道を開いた。それを唖然としながら見るバルザック
「ほっほぅ……こう言う仕組みがあった訳ね、やってくれるじゃないの。益々興味が湧いてきたぜ」
 バルザックはここ数日、フリーマンの動向を窺っていた。しかし何故か地下8階で待ち伏せしてもフリーマンは現われない。そこで今日は、彼につかず離れずその行動を見ようとしていたのだった。音も無くフリーマンに追従する彼の動きは、熟練の潜入工作員のそれだった。
 フリーマンがシークレットエレベーターに乗ると、それを追う様にしてバルザックも飛び移った。そのエレベーターは数分と経たずに地下15階へと降り立つ。恐らくこの施設の最下層に位置する場所だろう。フリーマンはその最下層で誰にも知られずに何かをしている。そう思ったバルザックは彼を徹底的にマークした。
 エレベーターを出たフリーマンは、そのまま一本道の通路の奥へと歩いていく。それを知ったバルザックは天蓋にある整備用ハッチからエレベーター内に入った。着地と同時に身を隠し、フリーマンを追おうとしたが、
「……っ!」
 見えない何かを感じ取り、エレベーターから出られなくなった。腰に備え付けてある様々な装備から、サーマルゴーグルを取り出す。それは、物体が放出する赤外線の熱分布を視覚的に見る事が出来るゴーグルだ。主にそれは、赤外線のトラップ等を見破る為の装備である。それで通路内を見たバルザックは、
「へぇ……用心深いこったぜ。こりゃ一騒動起こさなきゃ駄目かな」
 そう独りごちた。通路には幾恵にも張り巡らされた赤外線トラップの群れがあった。様々な角度で張られている赤外線は、地面に張り付いて匍匐で渡る事も、避けながら歩く事も出来ない程に厳重だった。恐らくフリーマンがこの通路を渡りきった時に自動的に設置される仕組みなのだろう。例え今ここを突破したとしても、通路奥にある部屋にはフリーマンがいる。バルザックはこの場は一度退き、体勢を立て直す事にした。
 そう彼が決めた時、エレベーターの階数表示のパネルの一部が光った。それにバルザックが気付く事はない。
 部屋に戻ったバルザックは、ハンディコンピューターと通信用機器を使ってある文章を作成し始めた。
「ORS攻撃の為の新型ミサイル実験は、第11エリア47地区にて行う予定……こんなもんか。こいつを軍の回線でおおっぴらに流せば……」
 そう言ってエンターキーを押して文章を送信する。ラダムと言う異星人達は、こう言った情報にかなり鋭敏に反応する。それが誤情報でも偽情報でも、兵器と呼ばれるモノには必ず動くのがラダムである。
「頼むぜラダムさんよ……うまく食らいついてくれよ?」
 そう言ってバルザックはハンディPCを閉じると、期待する様にベッドに横になった。
「派手になるぞ! こりゃあ!」
 そして次の日、格納庫の整備所に来たバルザックは、レビン達と話をしていた。彼は、明日にはここを発って別の仕事に就く予定だ、と話している。それを聞いてレビンが残念がっている。
「とりあえずここの仕事もひと段落したんでね」
「そんなぁ! ね、もう少しゆっくりしていけばいいじゃない」
「ああ、俺もそうしたい所だけど、後の仕事が詰まっててね。あ、そうそう、親っさん、こないだの写真出来てるよ、家族に送るんだろ?」
「おおぉ! 悪ぃなあ」
「なぁに、サービスサービス」
 そう言ってバルザックが封筒に入った写真を本田に手渡した。それを見てミリィも感心している。
「あたしのもとっても綺麗に撮れてたわ!」
「おぉお! こりゃいい! 中々の男前に映っておる!」
「あぁ、残念だわぁ。私の写真集出す時は、貴方に撮ってもらおうと思ってたのにぃ」
「そいつはどうもぉ」
 等と、折角出来た友人との別れを惜しみつつ彼らは楽しそうに談笑している。意外にも、バルザックと言う男はその気さくな性格からかスペースナイツの面々からは評価が高い。ある、一人を除いては。
其処に、ブルーアース号に乗るいつもの三人が通り掛かる。ノアルが彼らの談笑を見て尋ねた。
「偉く皆楽しそうじゃないの。なんか良いことあったの?」
「逆ですよぉ!」
バルザックが、明日でさよならだそうだ」
 本田とミリィがそんな風に言った。間近まで来たノアルがバルザックに聞いた。
「へぇえ、帰っちまうんだ」
「あんた達には世話になったなぁ。特に……Dボゥイ」
 そんな風に言いながらバルザックは笑い掛けた。そこで、レビンが思いついた様に言う。
「そう言えばDボゥイって、プライベートな写真一枚も撮ってもらってないじゃない? ね、記憶がちゃんと戻って家族に再会した時の為に撮って貰ったら?」
「家族……」
 レビンの言う通り、Dボゥイはバルザックに一枚も写真を撮られていない。と言うより、敢えて自分の写真を撮らせない様に、撮られる事を避けていたと言っても過言ではなかった。独り言の様にDボゥイはそう言うと、踵を返す様にしてその場を離れる。レビンが止める間もなく。そんな彼にバルザックが追従した。
外宇宙開発機構のヘリポート発着場で、Dボゥイは一人先程の言葉、家族と言う言葉を反芻していた。自分の家族、兄や弟、そして妹達。彼らは今一体何処で何をしているのだろうか、と思いを馳せる。
そんな時、追いかけて来たバルザックがDボゥイに近付いた。それに気付いたDボゥイが振り返るが、
「何悩んでるんだい? 出来損ないのヒーローさんよぉ」
と、突然バルザックは不躾に、挑発する様にDボゥイに言った。
「なにぃっ?」
その言葉に憤慨する様に応えるDボゥイ。以前の様に、バルザックはDボゥイに対してだけ、挑発する様な、からかう様な態度を改めることは無い。それはこんな二人きりの時によく起こる。そのせいもあってか、Dボゥイは数週間と言う期間一緒に過ごしていたとしても、彼を信頼する事も無く、打ち解ける事も無かったのだ。
 丁度その頃、バルザックの資料を見ているフリーマンは、通信機のスイッチを入れて何者かと会話している。
「私だ。頼んでおいたバルザックアシモフについての調査の結果は?」
 密かにフリーマンは、別ルートでバルザックの調査を行っていた。勿論、彼はバルザックの正体に見当は付いているが、念の為の調査を前もって行っていたのだ。
「何が言いたい!」
「30分で正義から悪に変わっちまう、不完全だねぇ……ホント!」
 出来損ないと言われた言葉に苛立つDボゥイだったが、30分のリミットを言われては返す言葉も無かった。
「もしお前さんの、その不完全さを取り除いたテッカマンを、人間の手で作り出す事が出来れば、お前さんも楽だと思ってね」
 バルザックはそう言いながら、発着場の手すりに寄りかかった。それを聞いてDボゥイは断言する。
「そんな事、出来るものか!」
「そりゃぁ分かんねぇぜ、やってみねーと。ホンっト羨ましいぜ、地球でただ一人ラダムと戦える男か。是非代わって貰いたいもんだ」
「代われるものなら……とっくに代わっているさ!」
 野卑な言葉を続けるバルザックに、Dボゥイはそろそろ我慢が出来なくなっている。それに、自分よりも優れた者がいると言うのなら、Dボゥイ自身、代わって貰いたいとも思い始めていた。
「そぉかい? 俺に言わせりゃ、お前さんは自分の境遇に酔ってるだけだぜ、違うかい? 自分しかラダムと戦えないって言う、運命にな!」
「貴様ぁ……!」
 貴様に何が分かる!? 誰にも俺の気持ちが分かる物か!! と続けようとしたDボゥイだったが、二人の会話を緊急招集のサイレンが中断させた。サイレンの音で其処彼処に留まっていたハゲタカが飛び去る。
「失敬、少し興奮しちまったようだ。良いのかい? またラダムが来たみたいだぜ?」
 そう言ってバルザックは非礼を詫びた。サイレンが鳴り響くのを聞きながら、Dボゥイは彼を睨み付けるが、その場を離れて走りだした。
「ま、せいぜい頑張ってくれや! 30分だけのヒーローさんよぉ?」
 また容赦の無いバルザックの言葉が、Dボゥイの背中に突き刺さる。全く先程の言葉を非礼だとは思っていないが、そう言われる事もまた事実だった。その言葉に少し立ち止まるDボゥイだったが、直ぐに発着場の入り口へと走り出した。
「へっ……ラダムの奴ら、どうやらうまい事食らいついてくれたらしいな……」
 そのラダムの襲撃は、バルザックの偽情報の結果だった。吹き荒ぶ風が、彼の髪や髭を揺らした。
 ブースターが接続されたブルーアース号が飛ぶ。いつもの出動ではあるが、アキが怪訝な顔をしている。
「でもおかしいわね……第11エリア47地区、あんな何も無い所にラダムが如何して?」
「一応小規模だけど、軍の研究施設があっただろう。軍が極秘で何かやってんのに、気付いたんじゃねーの?」
 そうノアルが返す中、アキは隣に座るDボゥイの表情が重く暗いのを見て、心配そうに尋ねた。
「Dボゥイ?」
「え? あぁ、いや、大丈夫だ」
 Dボゥイは前回エビルの策略によりリミットを越えてしまった事を未だ気に病んでいる。それに念を押す様にフリーマンから通信が入った。
「余計な事かも知れないが、一応言っておく。Dボゥイ、タイムリミットには気をつけてくれたまえ」
 Dボゥイはそれを聞いて更に表情を強張らせた。言われなくても分かっている。あんな思いをするのは金輪際御免だ、とDボゥイは考えている。
「ノアル、アキ、君達もDボゥイがテッカマンになっている間は、常にその事を頭に置いて行動してくれ」
「ラーサ!」
 しかしDボゥイの不安は消えない。もし敵のテッカマンが現われたら、その時はどうすればいいのか。あの、自分の弟でもあり、策略や奸計に富むエビルと言う男に。
「心配するなよDボゥイ。俺達もフォローするからよ! そうだな……25分過ぎたら派手にレーザーでもぶっ放して知らせるか!」
そんな俯き加減の彼にノアルは言う。そんな励ましも、今のDボゥイにとっては気休めでしかなかった。
「こんにちは」
「やぁ」
 バルザックはスペースナイツ基地の通路で女性職員に会釈した。其処は昨晩フリーマンが訪れたエレベーターに続く通路である。彼は、至極自然な風でエレベーターに乗り、見せ掛けの最下層へと降下する。B8階に到達すると、バルザックは懐からハンディPCを取り出した。
昨夜見た時には、階数を表示するパネルの中にコードナンバーを操作するテンキーが収納されていた。彼には、フリーマンの様にテンキーを出現させる為の腕時計が無い。そこで彼は、表示パネルの四箇所のビスをドライバーで外しカバーパネルを取った。その中は剥き出しの回路が見える。次にハンディPCの右横に収納されている画鋲程の大きさの無線端末機器を取り出すと、剥き出しの回路に差込み、ハッキングを開始した。数秒後、PCのモニターに完了の表示が出ると、直ぐ様回路がスライドしてテンキーが出現する。更に、ハッキングが続き、テンキーの暗証番号を表示させた。その通りに暗証番号を押すと、エレベーターは別の通路を開き、隣のエレベーターへの道を示す。これだけのセキュリティにも関わらず、彼にとっては何の障害にもならなかった。バルザックは余裕のつもりか、ピュウと一つ口笛を鳴らして、地下へのエレベーターに搭乗した。
第11エリアでは、既にブルーアース号とラダム獣が交戦していた。ノアルはレーザーで飛行ラダム獣を蹴散らしながら、施設への防衛に勤しむ。そして、Dボゥイは、後部ブロックでテックセットの準備を行った。
「ペガス! テックセッタァー!!」
「ラーサー!」
 Dボゥイはペガスの背部パネルが展開されると、テックセットルームに搭乗する為に走り出した。
―――――ま、精々頑張ってくれや! 30分だけのヒーローさんよぉ?
 だが、バルザックの言葉が頭に浮かんで立ち止まり、何故かDボゥイは前に進む事が出来なくなってしまう。
 地下15階である最下層に到達したバルザックは、昨晩着ていた特殊装備付きの潜入服に着替えると、サーマルゴーグルを装備して通路の奥へと視線を移した。
「タイムリミットは、30分か……」
 エレベーター内でハンディバックから装備を選ぶバルザック。それには楔が先端に付いたワイヤーを射出するワイヤーガンやスモーク弾、音も無く刃付きの円盤を撃ち出す特殊銃等、ありとあらゆる潜入装備が詰まっている。それは、昨晩エレベーターシャフトに侵入した時、今日の為に置きっ放しにしておいた装備だった。
 バルザックはワイヤーガンを組み立ててゆっくりとエレベーターの外、通路の天井を見る。赤外線トラップの無い場所にワイヤーガンを撃つと楔状の先端が天井へと食い込んだ。そしてワイヤーガンを半分に分解して、繋がったワイヤーと自分の腰にあるベルトに装着し、ボタンを押すとワイヤーが巻き上げられバルザックは天井から吊り下げられた。どうやらこのワイヤーガンは、ワイヤーを射出して巻き上げる銃身部分と、握る部分である銃把とで分かれる様になっており、それを次々に切り換える事で様々な角度に移動出来る装備らしい。
宙に浮かんだバルザックは今度は新しい銃身部分を組むと通路奥へとワイヤーを射出、銃把から取り外すと、今度はその反対部分からワイヤーが射出され、先端がエレベーター内の壁に食い込んだ。これで、一本の長いワイヤーの掛け橋が出来た事になる。天井に吊り下がったワイヤー部をベルトから外すと、バルザックは靴の爪先にあるフックをワイヤーに掛け、するすると昇る様にトラップの山を横断した。途上、どうしてもトラップにぶつかってしまう場所があると、腰の装備からワイヤー付きの吸盤を天井に貼り付け、今渡っているワイヤーに接続し巻き上げ、うまく自分が通れる様に角度を調節してやる。小さい穴の隙間に自分を通す様なそんな作業を、ずっとバルザックは繰り返し行った。
その頃、ブルーアース号はラダムと交戦していたが、何故か未だテッカマンブレードが出撃していない。
「ちぃっ! Dボゥイはまだか? 何やってんだよあいつ!」
 ノアルがレーザーを乱射しながらブレードの出撃の為の時間稼ぎをする。そしてアキは後部ブロックに通信で呼び掛けた。もう既にDボゥイが後部ブロックに行ってから10分程が経過しようとしていた。
「Dボゥイ! どうかしたの!? Dボゥイ!!」
 通信が入ってアキの叫びを聞いたDボゥイは我に返り、テックセットルームへと身を投じた。そしてペガスがブルーアース号から射出され、テックセットが完了する。
テッカマン! ブレード!」
 戦闘準備が完了すると、ブレードは獣の群れへと躍り掛かった。
「どぉりゃあああぁぁ!!」
 襲い掛かる飛行ラダム獣に対して、ブレードはまるで八艘飛びの様に取り付いてはランサーを振り下ろし次々と撃破していく。そんな彼の様を見てノアル達は驚嘆していた。
「……奴さん偉く気合が入ってるじゃないの……」
「え、えぇ」
 そして、バルザックの方ではようやく赤外線トラップの群れを掻い潜り、赤外線が無い場所へと降り立ち、通路奥へと走り出した。途上、通り掛った場所に光センサーが設置されていたらしい。この手のトラップはサーマルゴーグルでも判別は出来ない。センサーに引っ掛かったバルザックは、天井に設置された放射型の対人用レーザーガンの襲撃を受けた。レーザーガンが起動しても構わずに走るバルザックだったが、身体の各所に熱線がかする。そして走る目前にどう考えても回避出来ないレーザーガンが出現する。頭に装着していたゴーグルがそのレーザーで弾き飛んだ。バルザックは、飛び退き様に腰から特殊銃を取り出し、レーザーガンに向けて撃ち放つ。連続で射出された刃が付いた円盤は、音も無くレーザー機器の剥き出しになったコードを切り裂き、機能を停止させる。最後の一発が、彼の足元をかすめた。
「ふぅ……物騒なモンが備えてあるぜ……ったく!」
 最後の難関を突破したバルザックの目前には、フリーマンがいつも訪れるシークレットルームがあった。
「おおぉぉ!!」
 ブレードの猛進は続いていた。その様は息つく暇も無い、休まずに行われる蹂躙だった。
「あんなに張り切ってたんじゃ、身が持たないぜあいつ……」
 ブレードの奮戦を見ているノアルはそう言った。
「ノアル、時間は!?」
「まだ10分経過しただけ!」
「そ、そぅ」
 アキもノアルと同じ心境だった。いつも戦うブレードの余裕の無さ、そのハイペースな戦いぶりを見てアキは得体の知れない不安を感じていた。
 そして同じ頃バルザックは、宝物庫への鍵を解いている最中だった。リミットは30分。潜入の時間は既に20分を過ぎているが、Dボゥイが出撃を逡巡した事で、時間に余裕はあった。そしてハンディPCと言う鍵を差し込んで、バルザックは宝物庫への扉を開く。其処には驚くべき物が其処彼処点在していた。
「ここは……! 大正解だな、こりゃあ……」
 其処には小規模ではあるが工場とも呼べる作業場だった。至る所に中世の鎧の様な物が置いてある。端の方には廃棄された鎧の各部が雑然と置かれ、そして中央には、作り掛けではあるが配線が繋がって屹立している、テッカマンの模造品の様な物があった。それは何処となくブレードの意匠に通じたデザインをしているが、人が装着して動かす機能を持つ、強化服と言った部類の物であるらしい。
 ここは、フリーマンがブレードのデータを分析して新兵器を生み出す為の工房だったのだ。これらを一人で組み上げるフリーマンと言う男は一体何者なのだろう、そんな風にバルザックが感じた時、工房の奥から銃を構えたフリーマンが気配もなく出現する。
「待っていたよ、バルザック少佐」
「う……っ!」
 振り向いたバルザックは銃を突きつけられて動けなかった。フリーマンは中央ルームには最初からいなかったのだ。どうやらブルーアース号に最初に通信を行っていたその時から、彼は此処にある端末でノアル達と会話していたらしい。そして彼は、左手に持った透明なデータカードを見せると言った。
「君の探している物は、このテッカマンの分析データだな」
 バルザックは絶句していた。実際に彼がこの部屋を嗅ぎ付けた事をフリーマンが知ったのは、昨晩エレベーター内に設置されていた隠しカメラからだったが、本日付で此処を出て行くとなれば、網を張るのも当然だった。軍の犬、スパイでもある彼は佐官の地位にいる工作員であり、誰にも知られずにテッカマンの機密データを奪う事を任務としていたのだった。
 そしてふっと皮肉そうに笑うと、バルザックは開き直る様に言う。
「何から何まで、お見通しだったと言う事か。食えない人だぜ、あんた。軍にも情報網を持ってたって訳か。さて俺をどうする? 告発するか? それとも軍相手の取引に使うかい?」
 バルザックはそんな風に破れかぶれになってまくし立てた。どの道、命じられた任務もこれで失敗だ。煮るなり焼くなり好きにすればいい、そんな風に思っていた。
 だが、更に彼は驚いた。フリーマンは銃を下ろすと、データカードをバルザックへと投げ渡したのだ。
「……!?」
「……持っていきたまえ」
「ば……馬鹿なっ!?」
 カードを受け取ったバルザックは、今までに見た事も無い様な表情で動揺した。このデータは地球ではない、異星人のテクノロジーの塊であるはずだ。それこそ、軍が喉から手が出るほどに欲しがっていた重要な機密。コピーではあるにしても、そんな重要な物を、投げ渡されたバルザックの心境は混乱の極致にあった。
「何が望みだ!? 金か! それとも軍での地位か!」
 フリーマンは答えない。冷徹なその表情には一切の変化がなく、彼とバルザックは対照的だった。軍人にとっては任務と栄光が全て、そんな思考で動く彼にとって、フリーマンの行動は不可解なだけだったのだ。
「地球人類全ての為に、とか言うヒューマニズムって奴か? いや違うな、あんたそんな甘い男じゃない!」
「どう取って貰っても結構。兎に角君は、これで任務を無事果たした訳だ」
「くっ……」
 バルザックはデータカードを懐に入れると出口へと駆け出していった。それをフリーマンは無言で見送った。
 そして、テッカマンブレードの猛攻は続き、殆どのラダム獣は屠られ戦いはスペースナイツの勝利で終わろうとするその時、飛行ラダム獣の一団が軍の施設へと一直線に向おうとしていた。それを見てノアルが焦る。
「やべぇ! あそこをやられちまったら、ここの施設は全滅だぜ!」
「ペガス!」
「ラーサー!」
 ブレードはペガスに乗ると、その一団へと飛んだが、群れが施設に達する方が早いだろう。ブレードは間に合わないと判断して、肩の装甲を展開した。
「くそぉ……ボォルテッカァァー!!」
 必殺の反物質粒子砲が唸る。それラダム獣の一団に的確に命中し、全てを消し去っていった。
「くぅ〜っ! やったぜぇ!」
「ノアル! 時間は!?」
「まだまだ! お釣りが来るほど!」
 作戦は成功した。施設は損壊の跡が見られるが、完全に機能は失ってはいないだろう、そんな風にノアル達は考えていた。実際には無人の廃墟だった物を守らされていた訳だが。
 ブレードはブルーアース号の下部ハッチから収容されると、テックセットを解除する。少し疲労感のある顔で、Dボゥイがコックピットに入って来た。
「ご苦労様!」
「今日は時間厳守したじゃないの」
「あぁ……」
ノアル達がそう言ってDボゥイを労う。しかし、彼に勝利の笑みは無かった。未だ、彼の表情は不安と戸惑いに包まれていた。それを見て、アキがまた不安を募らせていった。
「戦況は?」
 スペースナイツ基地の中央ルームに戻ってきたフリーマンが、ミリィにそう尋ねた。
「あ、はい! スペースナイツ、無事敵を撃退しました。ブルーアース号、テッカマン共に異常無し。現在帰投中です!」
「……分かった」
フリーマンがそう応えた頃、バルザックジープに乗って外宇宙開発機構の通用門前にいた。そして後ろを振り返り、スペースナイツ基地を見やりながら思う。
――――厚意は有難く貰っておく、フリーマン。だがな、俺はあんたの掌の上で踊る様なタマじゃないぜ。忘れるなよ、この礼は近い内に、必ず返してやる……!
 そうして、サングラスを掛けながら、
「あばよ! スペースナイツ。今度会う時は、戦場でだな!」
 と言ってバルザックジープを走らせ、スペースナイツ基地を後にした。
 丁度その時、帰還したブルーアース号が高度を下げて着陸態勢を取ろうとしていた。
スペースナイツのDボゥイ、連合地球防衛軍所属のバルザック少佐。二人の思い、暴走に怯える不安が、栄光を掴みたいと言う功名心が。交錯する様に、すれ違っていった。



☆今日のお話はインターミッションと言う感じでしょうか。なので戦闘シーンはバンクが多い事多い事。それでもバルザックの潜入風景ってのは中々面白かったです。バルザックの潜入用装備が面白いのが多過ぎて。かなり未来のお話のはずなのに赤外線トラップを掻い潜るシーンはすんごいアナログ。何故か変に描写が細かいんだよね。それにしてもシークレットルームでフリーマンがえんやこらーって言いながらテッカマンレプリカのパーツを持ち上げたり作ったりしてる所を想像してちょっと笑った(笑)
例によって一応動画のURLを掲載するけど、皆には内緒だよっ!
ttp://www.youtube.com/watch?v=Hf6NBKRlBGw&feature=relmfu
hは自分で付けてね!