第17話 鋼鉄の救世主(1992/6/16 放映)

殺す気満々!w

脚本:岸間信明 絵コンテ:澤井幸次 
演出:鈴木吉男  作監&メカ作監:加納晃
作画評価レベル ★★★☆☆

第16話予告
バルザックが手に入れたデータを元に、防衛軍では秘密兵器の開発が進む。その頃Dボゥイは、暴走の恐怖と戦っていた。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「鋼鉄の救世主」仮面の下の、涙を拭え。


サブタイ前粗筋
従軍記者、バルザック。その正体は、連合防衛軍の特殊工作員だった。テッカマンの解析データを手に入れるべく活動を開始した彼は、偽の情報を流してDボゥイ達を出動させ、スペースナイツ基地を捜索する。そして遂に、フリーマンのシークレットルームを発見するが、待ち受けていたフリーマンは自ら解析データをバルザックに渡した。その不可解な行動に疑問を抱きながらも、バルザックは基地を後にするのだった。





 ニューヨーク郊外にあるマンハッタン地区に程近い場所に、その軍事施設はあった。表向きは軍とは無関係の廃墟として映っているが、その中は最先端技術によって作られた工場が存在し、連合防衛軍特殊部隊ブラウンベレーの根城でもある。だがそんな最先端の軍事施設であっても、ラダムの侵食は抑えられない。其処彼処に点在するラダム樹の森が確実に肥大化しているのは明白だった。
 そんな施設の一室に、あのバルザックアシモフと言う男がいる。彼は自室の洗面所にてカミソリで髭を剃っている。あの、スペースナイツ基地にいた時の無秩序に生やした髭が一掃され、彼の素顔が現われた。鋭利な顔つきと精悍な目。普通に見れば美形とも言える顔でもあるが、その容貌は触れればタダでは済まない、カミソリの様に危険さを伴う何かを持っていた。
 彼はローションを叩く様に顔に塗ると、部屋を向き直った。そして入り口近くにある一枚の絵に近付く。フードを被った女の絵ではあるが、その女の目に偽装された何かが光った。
「ヘェイ! オペレーターの彼女ぉ! 髭が無い俺ってなかなかイカすだろぉ?」
 偽装された超小型カメラの間近に近付き、バルザックはからかう様にしてそう言った。監視されている事等とっくにお見通しだと言わんばかりに。女性オペレーターはそんな彼の様を見て絶句した。
 工場の隣にある開発室では、新たな新兵器の設計図が表されている。それは、人型の鎧の様な図面だった。防衛軍のコルベット准将は設計図を見ていて、褐色の肌を持つ白衣の青年が図面を指しながら説明している。
「モニターレンズは、0コンマ2ルクス、自動追跡焦点機能は勿論、各ユニットの脱着可動性能も問題ありません。ご覧の様に、シミュレーションのデータからも、パワードスーツの有効性が立証されました」
「うむ……」
 そう言ってコルベットは開発室の小窓から工場を見下ろした。其処では急ピッチで新兵器の開発に勤しむスタッフ達が動き回っている。
「ふっふふ……完成が待ち遠しいわ。で? バルザック少佐が持ち帰ったテッカマンブレードのデータから得た反物質素粒子フェルミオンの実用化の方はどうなっている?」
「そちらの方も、完成まで後僅かです」
「宜しい……我々は遂に、対ラダム用の最高の兵器を手にする事が出来るのだ!」
「肝心の、フェルミオンを製造する粒子加速器は、その後どうなっていますか?」
「問題はそれだ。ラダムの連中は、フェルミオンの臭いをかぎつけると、蜜に群がる蜂の様にやってきて破壊しよる。だが心配するな、Drマルロー。手は打ってある……」
 コルベットは、そう言って、新兵器を我が子の様に慈しみながら、改めて見下ろした。

 誰かが基地の通路を走っている。それを後ろからゆっくりと追う様に追従する自分。其処は、色の無い世界だった。全てが白黒で象られたその世界で、自分が見知った女性を追う。手には長槍を持ち、自分は背部のスラスターを噴射させると一瞬で女性の背中に詰め寄り、槍を振り下ろした。
「きゃあああぁぁぁ!!」
 女性の悲鳴が響き渡る。槍は、女性の胸を正確に貫いている。血塗れになった彼女がいる事で、其処だけ何故か世界が紅くなる。そして自分は、その槍を無造作に抜いた。女性は崩れ落ちるように絶命した。
「アキぃぃー!!」
 女性は男性と一緒に逃げていたのか、女性が殺されたのを知ると、男性もこちらに向って叫びながら走ってくる。自分は、その男に向って槍を真横に薙いだ。男は胴体から真っ二つになって、悲鳴をあげる間も無く絶命する。また世界が部分的に紅くなった。
 その世界での自分は単なる殺戮者だった。仮面越しに行われる殺戮はどう足掻いても止まる事無く、自分はそれをまるで客観的に見ている傍観者だった。
「Dボゥイ!」
 また新たな標的が現われた。その標的は自分に対して呼びかけている様だ。
「やめろ! やめるんだDボゥイ!」
「お願い! 私達、今まで一緒にやってきた仲間じゃない!」
少し背の高い女の様な男と、恰幅のある中年の男が自分に交互に呼び掛ける。そんな言葉に自分は耳も貸す事は無い。自分はゆっくりと二人に歩み寄ると、槍を振り上げながら絶叫する。
「うおおおぉぉぉ!! 死ねええぇぇぇぇ!!」
「やめてぇぇ!!」
 突然、その二人の前に少女が躍り出た。しかし振り上げた槍はそのまま投擲され、少女はそれを受けて、くの字になって貫かれ、吹っ飛ぶ。だが、槍を受けた少女はまだ生きていた。その顔が自分を見る。
「お兄ちゃぁん!」
 少女は、別の髪の長い少女になってそう叫んだ。
 その時、Dボゥイはようやく悪夢から解放され目覚めた。この不吉な悪夢は、最近になって見る頻度が多くなっている。これは確かに悪夢かもしれないが、もしあの時、自分が自我に目覚めなければ普通に有り得た未来だった。殺戮者になって仲間に手を掛ける。そんな「もし」が今、Dボゥイを毎晩苦しめている原因だった。
 すると、ベッドの近くにあるモニター装置が点灯して、ミリィが自分に呼びかけてきた。
「Dボゥイ? チーフが呼んでるわ。お寝坊さんで怒られても知らないから」
「あぁ……今行く……」
「どぅしたの? 怖い夢でも見たの?」
そう言って力無く応えるDボウイにミリィは笑い掛けた。その笑顔を彼は真っ向から見る事が出来ない。無理も無かった。夢とは言え、自分の手で彼女を何度も何度も殺しているのだから。現在午前9時20分。どうやら寝汗をシャワーで洗い流す時間も無さそうだ。
「お早いお着きだこと」
「ノアル!」
 指令所に駆けつけたDボゥイにノアルがそうからかい、アキが諌めた。そしてフリーマンの説明が始まる。 
「では簡潔に話をしよう。君達に、テキサスに向って欲しい」
 そう言って、オペレーターのミリィに合図すると、正面モニターに映像が映った。
「なぁんだ! こりゃあ?」
「レトロもトロトロじゃない?」
巨大な円形の機械、と言うより何かの施設だったが、それを見て本田とレビンが呆れる様に言った。どう考えても、それは100年以上前に建造された施設だったからだ。
「これは21世紀に作られた、反物質を作る粒子加速器だ」
反物質? そんなもの、何に使うんですか?」
 アキはそうフリーマンに疑問を投げ掛けたが、彼はそれを何故か無視した。
「それにしても馬鹿デカイなぁ! 当時はこんな大規模な施設を使わなけりゃあ、反物質を製造出来なかったのか」
「暫く使用されていなかったが、現在は軍が徴用して再び稼動している。だが、何分施設が古い為に自動防衛システムが使い物にならない」
「無理ないわねぇ。こんなにボロっこいんじゃ!」
 フリーマンの説明が続き、レビンがそう応える。本田も、今度の任務の内容がどんなもので、自分とレビンが何故中央ルームに呼び出されたのか薄々気付き始めていた。
反物質の作り出す巨大なエネルギーに惹かれ、ラダムが奪いに来る可能性は極めて高い。君達の任務は、この施設をラダムの攻撃から守ることだ。ノアル・アキ・Dボゥイは、ブルーアース号でラダムの襲撃に備えろ。ミリィは本部にて待機。レビン・本田は現地の自動防衛システムを使用可能にする事。以上だ」
「ラーサ!」
 総員がその指令を受けて敬礼しながら了解する。Dボゥイはいつもの如く敬礼をする事はないが、その表情は何処か上の空でぼんやりしている。ノアルに声を掛けられて、はっとなった。
「Dボゥイ? まだ目が覚めないの?」
 ミリィのその言葉を受けて、ようやく彼は指令所の入り口目指して走り出した。ミリィはDボゥイを前にして終始笑顔だったが、彼が行った直後、
「まだ……この間の事が気になってるのかしら……」
 そう言って彼女は表情を曇らせた。Dボゥイの前では気付かない振りをして笑顔でいる。それが彼女に出来る優しさであり、任務において彼を励ます、一人のオペレーターとして出来る唯一の事がそれだった。
「不安なのだろう。いつまた自分が暴走するのかと思って」
フリーマンも、Dボゥイの変調に対しては勿論気付いている。だが、それを指摘した所で問題が解決するはずも無い。これは、彼自身が乗り越えるべき障害なのだ。
―――――だがDボゥイよ、お前は戦うしかない。好むと好まざるとに関わらず……!
 そうフリーマンは、厳しい表情と態度で、彼の宿命を思った。
 
 マンハッタン郊外を見渡す事が出来る基地の大窓から、二人の青年がスラムを見下ろしている。特殊工作員少佐のバルザックと、新兵器開発部門の主任であるDrマルローだ。
「偶然とは言え、こんな近くに俺達の故郷があるとはね。ここまで臭ってくるようだぜ。懐かしいスラムの臭いがよぉ」
 バルザックは自分の赴任地がまさか故郷の直ぐ近くだとは思っていなかった様だ。しかしDrマルローは違う。この連合防衛軍の兵器開発基地と言う場所で、ずっと詰めっきりで新兵器を開発していたのだ。
「そうさ、私も研究が思う様に進まない時にはいつもここにやって来て、あのスラムを眺める。すると、スラムの臭いが蘇って反吐が出そうになる。また研究に没頭出来るって寸法さ」
「ふっ、世界中がラダムのモノになっても、あのスラムだけは残しておいて欲しいもんだな」
 バルザックもマルローも、このマンハッタン郊外のブロンクスで育った孤児だった。二人は今日一日だけの休暇を故郷に降り立つ事で満喫しようとしている。それは、彼らが無力な少年であった時期を再確認する為の作業とも言えた。
其処は、汚れた空気と小便の臭いが混ざり合った、むせ返る様な貧民街だった。崩れ掛けた壁面しかない路地裏、辺りにはゴミが散乱し、座り込んでいる路上生活者が点在する。その内の一人である少年が彼らに施しを求めた。バルザックは少々の小銭を少年に与えるが、その金を少年の親である男が根こそぎ奪ってしまう……そんな現実的にも、精神的にも荒みきった場所である。元々荒廃した場所でもあったが、ラダムと言う侵略者が来た事でその拍車が掛っている様に見えた。こんな状況では、ゴミを漁って食べ物を得る事も出来ずに餓死していく者も多いだろう。
そんな荒んだ街並みの一角にネオンライトのCが欠けている「Cats」と言うバーがあった。二人は地下にあるその店に立ち寄って、バーの入り口にある戸を押し開けて中を見た。閑散としたスラムの中で、此処だけは何故か人が満ちている。老いも若きも、男も女も区別無くこの場所に詰める様にひしめいていた。
「全く懐かしい臭いだ」
「忘れようったって忘れられるもんじゃない。身体の芯まで染み付いているんだからな」
 マルローが、そしてバルザックがそう口にした。此処は冬場に良く暖を取る為に来た馴染みのバーだった。店内にいる客達の服装に比べれば、バルザックは連合防衛軍の軍服、マルローは開発室の白衣と、二人はかなり場違いな人間である。そんな場違いなバルザックに肩を叩いて声を掛ける男がいた。服は煤で汚れ、髪を無造作に伸ばし無精髭を生やした歯並びの悪い男は、野卑な笑みを浮かべながら言った。
「へへへ……旦那ぁ、良い服着てんじゃねぇか。一杯奢ってくれよぉ」
 バルザックは振り向いて男を一瞥した。男は半ば酔っ払っているらしく、バルザックが防衛軍の人間だと理解していても金の無心に余念が無かった。そんな男を見下しながら、
「メイラー……」
 バルザックはその男の名を呼んだ。一瞬、名を呼ばれた男の表情が凍りつく。
「俺だよ、この顔を忘れたってのか?」
「バ、バルザック!」
 凍りついた表情は、直ぐ様恐怖の表情へと変貌した。そして、メイラーはその場で尻餅をついてしまう。そんな様をバルザックとマルローが笑みを浮かべながら見下ろして詰め寄る。
「思い出したか? よく三人でつるんで、かっぱらいをした仲だったよなぁ?」
「……そぅとも」
「あの頃はマルローが計画を立て、俺が盗みに入る。お前は……見張り役専門だったっけな」 
 メイラーは動揺していた。彼らの口ぶりではメイラーと呼ばれるこの男も同世代の人間だったが、その様は変わり果て20歳中盤とは思えない位にやつれている。そんな彼が、二人に詰め寄られて絶句していた。冷や汗を垂らしながら、その表情は恐怖に塗れていた。
「あれは確か……13年前か」
 マルローがそう言って昔を思い出す。13年前、自分達の運命が変わった日。
 少年時代のバルザックが、女店主に向かってナイフを突きつける。手拭で顔を覆い隠した二人は、小さいフードマーケットに押し入り、店主を脅しレジから金を根こそぎ奪おうとしている。
「早くしろ! この辺りは30分毎にパトカーが巡回して来るんだ!」
「心配ねぇ! お回りが来たら直ぐに合図のベルが鳴るはずだ!」
 少年のマルローは急かすが、バルザックはポケベルを片手に紙幣や小銭をバッグに入れている。
マルローは無理な計画は絶対に立てず、周辺の気配りに余念が無い。バルザックもマルローの言う事を良く聞いて、決して無茶な盗みはしなかった。そんな用心深い「仕事」を、三人は10数件立て続けに行ってきたのだが、仲間の裏切りと言う事態は想定していなかった様だ。
「何処だ?」
「あ、あそこだ! 二人ともあの店の中にいる!」
 車から降りた軍服の上に長いコートと目深い帽子を被った男は、二人を捕らえる様に警官達に目配せした。
「ご苦労だった。消えていいぞ? 早く行け!」
 男が少年時代のメイラーに向かって封筒を差し出す。密告の報酬を奪う様に受け取ったメイラーは、一目散に街の闇の中へ消えて行った。そして男は、投げ捨てられたポケベルを粉々に踏み砕き、少年達を捕えた。
「ゆ、許してくれ! あん時ゃあ怖くて! ……何がなんだか分からなくてぇ!」
 しどろもどろになったメイラーは取り繕う言葉を探したが、ついて出てくる言葉は言い訳しか出なかった。彼らは自分に報復に来たのだと思ったのだが、
「何を怯えているんだ? 私達はあんたに感謝しているんだ」
「そうとも、今の俺達があるのも、みんなあん時のおかげだぜ」
「えぇっ!?」
 バルザックはメイラーに手を差し伸べ、彼をカウンターに着かせた。そしてそれ以後の事の顛末を話した。
 留置所に入れられた二人は、自分達が捕まった訳は裏切り者にある、と直ぐに分かった。留置所にレイラの姿がいなかったからだ。そして、鉄格子の外に先程の軍人が来て、彼らを見ながら、ほくそ笑みながら言う。
「二人とも飢えているな。さすが軍が目をつけていただけある。この世界から抜け出す為には何でもやる目だ」
 バルザックはカウンター席に座り、メイラーのコップに酒を注いだ。メイラーを真ん中にして、バルザックは左隣に、マルローは右に座った。つまり彼を囲む様に座っているとも言える。
「あの男は、軍の機密任務に携わっている男だった。どうだ、驚いただろ?」
「あ、あぁ」
「俺達は軍の施設に収容されて、様々なテストを受けた。その結果、マルローはIQが180もある事が分かり、科学班に配属され、俺は盗みのテクニックと度胸を買われて特殊部隊に回されたってワケ!」
 閃きと演算に優れた天才とも言うべきマルローと、相手に気取られる事無く盗みを働き身体的に優れているバルザック。12歳の頃に軍に収容された彼らは、突出した能力を持った者達だった。そして今現在マルローは開発部主任、バルザックは少佐になっている。これは異例の早さと言っても良かった。
「あんたのおかげで親も兄弟も無く、このスラムでいつも飢え、寒さに震えていた私達の未来が変わったんだ」
「あぁ、そぉとも。だから……遠慮ぉなくやってくれ」
「あ、あぁ」
 メイラーは正直、彼らの行く末等に興味は無かったが、目の前の酒があれば何でも良かった。三人はカップを乾杯する様に鳴らす。そして、メイラーだけがその酒を飲み干した。それをじぃっと見つめる二人。
「かぁーっ! 染みるぜ! うっ!? ぐっぅぅ……!」
 メイラーは突然顔色を変えて、カウンターに突っ伏す様に倒れこんだ。
「おいおい! もう酔っ払っちまったのかい?」
「しょーがねぇ野郎だなぁ!」
 二人は、わざとらしく大袈裟に大声でそんな風に言った。メイラーと言う男は既に白目を向いて絶命していた。二人がそんな演技をした事で、人死にが出たと言う事に誰一人として気付く事は無い。
「……だがあの時俺達を売った罪は、償って貰わなけりゃあな」
「つくづく運の無い男だ。ここで顔を合わせなければ、まだ生きられたものを」
 そう言ってマルローが懐にしまったのは錠剤入りの瓶だった。それは即効性の毒であり、水に入れれば一瞬で溶解する、特殊な錠剤だった。正確には、急性の心臓発作を誘発する錠剤で、死体には一切証拠が残らない。これも軍で作られた暗殺用の道具である。
 バルザックは、メイラーが此処に出入りしている事を内偵の調査員から予め聞いて知っていた。自分達を売った奴がまだ生きている。ならばお返しをしなければ、と思い立ち此処に来た。休暇の今日に限って、もしメイラーが来なかったら、彼らは安酒を飲んで終わる所だったが、結局メイラーは来てしまったのだ。
「でも、おかげで有意義な休暇になったさ。じゃ、ソルテッカマンの完成を祝って!」
 二人はメイラーの死体の前で、改めてカップを鳴らし、酒を飲み交わした。
 
翌日の夕方頃に、スペースナイツの面々は目的地に辿り着いた。テキサス州にある粒子加速施設は、見た目を上回る酷い有様だった。老朽化から放棄された施設であるが、取り壊す予算すらなかったのかもしれない。
「うぇ〜ぁああ! なぁんだぁこりゃあったくぅ! あちこちガタが来てるじゃねぇか!」
配電盤に身体を突っ込んでヘッドライトを付けた本田が呆れ返る様に言う。レビンも同じく別の配電盤に頭を突っ込んで作業しているが、こちらは物珍しさに喜んでいる様にも見えた。
「見て見てぇ! こんなに古いチップ使ってるわよぉ!」
「あぁ、いちいち驚いてちゃキリがねぇよ!」
 目下、二人は自動防衛システムの復旧に取り掛かっていた。そして、Dボゥイ達ブルーアース号の三人は施設上空を周回しながら護衛任務を続けている。
「自動防衛システムは? まだ修理出来ない?」
 アキが通信で本田達に尋ねた。
「何せ部品が製造中止の物ばかりだからなあ。後二時間は掛かるな!」
「軍も来てくれるそうだから? その二時間が勝負って訳か」
 ノアルが期待していない、と言う風でそう言った。施設はだだっ広い平野に敷設されている。
「いっぺんに多方面から敵が来たら持ちこたえられるかどうか……」
たった一機のブルーアース号と、テッカマンだけと言う面子では、さすがに守りきれるかどうかアキにも自信が無かった。そもそも、数で劣るスペースナイツがこう言った固定施設の護衛任務を請け負うには、いつも手数が足りないのだ。それに、今回に限っては懸念もある。
「ああ、こっちも大急ぎでやってるからそれまで踏ん張ってくれよ。頼んだよぉ!」
「頼んだわよDボゥイ。あたし応援してるから!」
 いきなり割り込んできたレビンが、笑顔でそう言った。そして通信が切れる。Dボゥイはそれを見ても終始俯き加減だった。そんなDボゥイにアキが声を掛ける。
「……浮かない顔ね」
「もし……もし俺がこの前の様に自分自身を見失ったら、暴走を始めたら……直ぐに逃げろ……!」
「Dボゥイ……」
 アキがそう言った時、ノアルはコックピットシートから降りて彼の肩にポンと手を置いた。ブルーアース号は今現在オートパイロットで周回している。
「ありがとうよ。その忠告は、しっかり頭に叩き込んどくぜ」
 ノアル達はDボゥイが毎晩仲間達を殺す夢を見ていると言う事を知らない。しかし、出会った時と比べたら、Dボゥイが自分達の事をどれだけ心配しているかは痛いほどに伝わっていた。
 日没して現在は午後七時前辺り。既に雲ひとつ無い夜空には明るい程の月があがっている。
「静かだな……嵐の前の静けさって奴かな」
 そうノアルが言った時、夜空に赤い何かが光った。と同時に、アキがレーダーを見て血相を変える。
「あぁっ! ラダムと思われる飛行物体多数接近中!」
「来た……!」
 そして、赤い光点が幾多も現われる。飛行ラダム獣が群れを成してこちらに接近しているのだ。
「こちらブルーアース号、ラダム発見、ラダム発見! 迎撃体制に移ります! 以上!」
「来たか!」
 スペースナイツ基地でもその通信を受けてフリーマンが険しい表情になる。本当は今の現状での交戦は避けたかった所だ。今朝のDボゥイの変調を見れば、明らかに不安要素が多い。
「頑張ってねDボゥイ……大丈夫なんだから!」
 ミリィが祈る様にそう言った。
「くっそぉ! 間に合わなかったか!」
 粒子加速施設では作業中の本田が悔しがっている。砲台関連は大体修理が終わり、それを統括するシステムの復旧に取り掛かっていた矢先の事だった。
「手動でなら、北側の対空砲だけは使えるわ!」
「よぉっし! ここはお前に」
「任せたわよ! ね、おじ様!」
 そう言ってレビンは、施設の北側に向かって走り出す。
「お、オジサマだとぉ……!? くそったれぇ!」
 彼の年齢は42歳だが、おじさまと呼ばれたのが相当頭に来たらしい。持っていたスパナを床に叩き付けた。
 上空では、ブルーアース号と飛行ラダム獣の交戦が始まっている。レーザーキャノンで迎撃するノアル。
「頼むぜDボゥイ!」
 そう言ったが、何故かDボゥイは副操縦席を立とうとしない。
「何してんだ! 早く行くんだ! 奴さん達は直ぐ其処まで迫ってんだぜ!?」
「Dボゥイ! テッカマンになって出動して!」
 二人がそう言ってもDボゥイは動けなかった。以前出撃を躊躇した様な時とは違う。あの時は、暴走の不安があると言う感情だけしか無かったが、今度はその不安に相まって、自分が持つ力と言う物に恐怖していた。自分が暴走すれば容易く仲間の命を絶ってしまう。そんな恐怖がDボゥイの闘志を萎えさせているのだ。
 ノアルがレーザーカノンで飛行ラダム獣を撃つ。だがやはり撃破するまでには至らない。
「生憎迷ってる暇は無いんだ。お前が此処に残ってたって、なんにもならねぇんだよ!」
彼の容赦の無い叱咤が飛ぶ。そして地上では、レビンが対空砲台で迎撃を開始していた。
「キャッホォー!!」
 実弾を装填した砲台が連続で火を吹く。レビンは砲台に乗ってご機嫌に連射しているが、やはりラダム獣を破壊する程の威力は無い。
「Dボゥイ! しっかりして!」
 今ラダムを撃滅する事はDボゥイにしか出来ないのだ。現状を見たDボゥイは意を決する様に叫んだ。
「テックセッタァー!!」
「ラーサー!」
後部ブロックに駆け込みテックセットルームに身を投じるDボゥイ。そしてペガスが出撃する。
テッカマン! ブレード!」
ペガスの上に飛び乗ったテッカマンブレードが、テックランサーを構えて戦闘態勢を整えた。
「遅いわよ! ブレード!」
 レビンが対空砲を撃ちながら言った。よく考えればブレードを実際に見るのはこれが初めてかもしれない。
「うおおぉぉりゃあぁ!! うっ……!?」
ブレードは交戦を開始した。しかしその動きにはいつもの精彩さが無く、ラダム獣をランサーで撃破しようとすれば身がすくんで見逃してしまう。一瞬、ラダム獣がアキの姿に重なった。再度攻撃しようとしても、今度はそれがノアルと重なりミリィとも重なる。槍を持って敵を撃破する、殺す。それが自分の気の迷いだとしても、それは裏を返せばブレードにとっては仲間を殺す事に重なってしまうのだ。
そんな風にラダム獣を見逃す内に、ブレードはラダム獣達に包囲されつつあった。そんな戸惑いに満たされたブレードをレビンが救う。背後に迫ったラダム獣を対空砲で強かに撃つ。
「レトロの対空砲だって、ふっ飛ばす位出来んのよ! あたしのブレードを傷物にしたら、承知しないんだから!」
 そう叫びながら、レビンは対空砲を連射した。しかし、ただでさえ老朽化した施設にその速射は凄まじい負荷を与えている。本田が修理を行いながら慌て始めた。
「あちゃあぁぁ〜レビン! 無茶するなよ! それ以上撃ったらぶっ壊れちまうぞ!」
 本田のそんな警告も、激しい銃声でレビンには届かない。手元のパネルが危険表示を示しても、レビンは構わずに撃ち続けた。どの道、雲霞の如く迫るラダム獣に対抗するには撃ち続けるしかないのだ。
「許さないんだから!」
 そう闘志を燃やすレビンだったが、遂に砲台の限界が訪れた。
「ちょっとぉ! 何なのよ一体!?」
銃弾も出ず、左右に振るはずの砲台の基部が暴走を始めて制御不能になり、突如爆発を起こす。レビンはその爆風にふっ飛ばされ、倒れ込んだ。
「痛たた……いやぁ……血ぃ!」
 レビンの右足は砲台の破片を受けたのか、傷を負ってほんの少しだけ血が出た。負傷度としては軽症に近い物だったが、彼は自分が負傷した事、血を見た事で動けなくなってしまう。そんな彼に獣達がゆっくりと迫る。
 依然としてテッカマンブレードには逡巡があった。獣を前にして槍を振り下ろそうとしてもその手が止まってしまう。仲間の姿とラダム獣が重なる。先程出撃した直後から、まだ一匹も倒す事が出来ない。
「Dボゥイの動きがおかしいわ!」
「迷うのは命取りだぜ!」
 二人もブレードの身を案じるが、彼らが出来る事はラダム獣を一匹でも多く施設から遠ざける事しか出来ない。そして、ブレードの幻覚は遂に仲間達の悲鳴が聞こえてくるまでになっていく。アキが、ノアルが、ミリィが、本田とレビンが、自分を恐怖の表情で直視している。彼の負の感情は今絶頂を迎えていた。
「うぉわああぁぁ!! やめろぉ!! みんな俺の前から消えろぉ! 消えるんだぁぁ!!」
 錯乱してブレードは当たり構わず槍を滅茶苦茶に振り回した。自分に近付く者全てが、恐怖し、自分自身もその力に恐怖している。そんなブレードでも仲間の窮地を見た時、一瞬だけ我に返った。
「なにぃっ!?」
 先程自分を支援してくれたレビンに陸上型のラダム獣が迫っている。それを目にして、ブレードはレビンを救う為にペガスから離脱し、ランサーを構える。レビンの叫びはブレードにも届いていた。
「来ないでぇぇー!!」
「うぅっ!?」
 負傷しているレビン、ラダム獣を見てブレードはまた逡巡した。今度はラダム獣がミユキと重なる。一瞬の躊躇と、背後からの飛行ラダム獣の体当たりによってブレードの救出は阻まれてしまう。
「いやああぁぁ!!」
 体当たりを受けたブレードは辛うじて屋上の端に掴まるが、振り下ろされそうとするラダム獣の爪は今にもレビンを捉えようとしていた。
その時である!
 青い光の弾が空から飛来した。その光弾は的確にラダム獣に命中し、レビンとブレードの前で跡形も無く消え去っていった。ラダム獣の破片は全く残らず、消滅させると言う異様に二人は言葉も無かった。
「レビン! 大丈夫か!?」
 防衛システムの修理を中断して、本田がレビンの身を案じて屋上施設へとやってきた。だがレビンも、そしてブレードも何故か空を見て呆然としている。
「おい! レビン! どうした! ……なんだ!? あいつは!!」
 本田は、レビン達を釘付けにしている空を仰ぎ見て驚愕した。屋上施設にある一際高い構造物の上に人型をした、誰かがいる。鋼鉄の鎧を纏ったそれは月光に照らし出されて、その威容を誇っていた。


☆今日の反省会ぃぃ。何でマルローは毒薬を持ってたんですかっ?(笑)いっつも持ち歩くのはちょっとヤバイ人だろう、と思って脚色してみました。まあでも、本当にメイラー探してぶち殺そうとも思ってたかもしれないよね。軍に入って教育受けたとしても、かなり大変な目に合っていたかも知れないんだし。特にバルザックは大変そうだ。今回以降、Dボゥイの苦悩は日増しに重なり、どん底を味わう事になります。どん底に叩き落されるDボゥイと、栄光を手にしてご満悦なバルザック。この好対照が、今回のお話の最大の魅力かもしれません。いいよいいよぉ! もっと悩むのだ!(笑)
ttp://www.youtube.com/watch?v=YAyb7sSGKRI&feature=relmfu
恒例の動画。