第18話 栄光への代償(1992/6/23 放映)

そのマスク、嫌いじゃない

脚本:岸間信明 絵コンテ&演出:西山明樹彦 作監&メカ作監:加藤茂
作画評価レベル ★★★☆☆

第17話予告
ソルテッカマンとして、栄光への階段を昇るバルザック。だがその果てに、悲劇は待ち受ける。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「栄光への代償」仮面の下の、涙を拭え。


サブタイ前粗筋
テッカマンブレードのデータから、反物質素粒子フェルミオンの実用化に着手した連合防衛軍は、テッカマンに代わる新兵器の開発を急いでいた。一方、テッカマンとして30分のタイムリミットを過ぎると自分が暴走する凶器と化す事にDボゥイは苦悩していた。そんな悩めるDボゥイはフェルミオンの製造施設をラダムの手から守る様命じられた物の、予想以上の苦戦を強いられるのだった。その時!
「おい……レビン! どうしたんだ? うぉっ……な、なんだ!? あいつは!!」


月下に佇んだ、緑が混じった白鎧。それは鎧と言うより機械的な何かであった。しかしそのシルエットとデザインは明らかにテッカマンの様相をしている。ブレードが流線型の形をしているとするなら、この機械鎧は少し角ばった、無骨な硬質感を醸し出していると言えるだろう。
機械鎧は、長い黒光りするバズーカ砲の様な銃器を右肩に構えていて、それにはレーダーとドーム、所謂レドームの様なパーツと、頭部を保護すると同時に照準機を兼ね備えた様なヘルメットパーツが備えられている。黒いバズーカは可動式アームで背部に接続されているらしく、駆動音と共に背部に収納されると、レドームとヘルメットも同時に外れて折り畳まれた。
素顔が顕わになると思われたが、ヘルメットが外れてもその下にはゴーグルが備えられた仮面を被っている。その仮面のゴーグルが月光に反射すると黒光りする様に光った。
「て、テッカマン!?」
「いや、ちょっと違うみたいだぜ?」
 本田はレビンに肩を貸しながら、そう言った。
「そ、そう言えば何となくコッチの方はセクシーじゃないわね……」
 屋上の端に掴まっていたブレードがレビン達の傍にやってきた。そしてブレードは機械鎧を見あげる。その機械鎧もブレードを見下ろしている。すると、再び背部にあったバズーカが展開し、右肩に構えるのと同時に、右腕に付いている機械パーツと接続して正面を撃つ様なポーズを取ると、エネルギーがバズーカの銃口に集約されていった。
「……っ!!」
 ブレードや本田達はそれを見て身構えた。そのバズーカの攻撃が自分達を撃つと思われたからだが、突如機械鎧はジャンプし、飛行ラダム獣の粘液弾をかわした。彼の立っていた小高い構造物がラダムの攻撃で爆散する。それを見たブレードは今は驚いている場合ではないと、槍を構えて応戦しようとしたが、それよりも先に機械鎧がラダム獣の群れへと突っ込んでいった。
彼の脚部にはどうやらスラスターユニットが装着されているようだ。彼は少し空へと舞い上がった後に、ジェット噴射で降下しながら先程集約したエネルギーを解き放った。
ドォォンと凄まじい咆哮を上げるバズーカ。先程見た青い光弾がラダム獣にヒットすると、球状のエネルギーが爆発、炸裂し跡形も無く消滅させた。機械鎧はその攻撃を連続で撃ち放ち次々と獣を消滅させていく。
「な、なんなのあのメカ!?」
レビンも本田も、そしてブレードもその圧倒的な攻撃力に驚愕していた。
――――ラダム獣を一瞬の内に……あいつは、一体!?
ブレードは今まで自分しかラダムに対抗出来ないと言う、存在理由を根本から覆されるような光景を見て言葉も無く、無意識にテックランサーを握り締めてしまう。
高空では、ノアル達が交戦しながら、その様を見てやはり驚いていた。
「なんだあれは!? テッカマンニューフェイス登場ってか?」
「だけど、同士討ちなんておかしいんじゃない?」
 そうアキが言った直後、数機の航空機と、それを護衛する戦闘機群がブルーアース号上空に現われる。
「連合防衛軍!?」
「ま、来ないよりマシか」
 そして、圧倒的な機械鎧の反撃を受けたのを契機に、飛行ラダム獣も陸上型も繭の様な状態に変化して地上に落ちると、急速にその身体を回転させて潜り始める。
「ラダム獣、地中へと逃亡します!」
 スペースナイツ基地では、ミリィの報告を受けたフリーマンは険しい顔つきをしている。不測の事態を受けるとラダム獣と言う生物は体勢を整える為に撤退をする様に仕込まれている様だ。
 戦いはとりあえず終息し、辺りに沈黙がよぎる。機械鎧は戦闘を中止すると地上に降り立ち、レビン達から少し離れて何かを待っている。そこに、ブルーアース号が降下し、ノアル達もブレードとレビンの傍に来た。
「何モンだ、あいつは?」
「さぁね」
 一応、スペースナイツは助けられた格好になった訳だが、ノアルは自分達の御株を奪われた気がして面白くない。そして、先程到着した軍の輸送機クラスの航空機が、その機械鎧の付近に降下する。ハッチが開くと、スロープから軍の高官風の男と白衣を着た褐色の青年が降りてきた。
「よくやった……!」
 高官は機械鎧の前に立つと、感無量と言った風で右手を差し出す。機械鎧も、それに応える様に握手した。
「よくやったぞ、大成功だ。ソルテッカマン一号機、完成ですな、Drマルロー!」
「ええ……!」
ソルテッカマン!?」
「なんだぁ? そりゃあ!」
 アキはそれを聞いて驚き、ノアルは軍が関係していると知って更に顔をしかめた。どうやら、あのメカは人口の産物で、軍の所有物であるらしい。そしてアキはレビン達に視線を移すが、
「私達も、あんなの初めてみるわよ」
 メカニックに詳しいレビン達がそう言うのなら、恐らく新兵器の類だと言う事になる。
「Dボゥイは知ってるのか?」
 テッカマンと言う単語から本田はそう聞くが、呆然としているテッカマンブレードの反応を見れば分かるだろう。あんな兵器は見るのは誰しもが初めてだった。
 そしてマルローと呼ばれた科学者が、ソルテッカマンのチェックを行っている。
フェルミオン砲発射の衝撃にも、特に異常は無い。想像以上に良い出来だ……!」
「そぉともマルロー。さすがにお前が作っただけの事はある」
 機械鎧が始めて口を開いた。そして、鎧は駆動音と共に身体の各所を展開し始めた。どうやらロボットだと思われたそれは、人が着る、もしくは搭乗する事で稼動するシステムらしい。既存の技術としてはパワードスーツと呼ばれるモノに酷似している。
 そしてその中に搭乗している人間が顕になっていく。黒と灰色のアンダースーツを着た彼はスペースナイツの面々に向かって声を掛けた。
「やぁ! 久しぶりだな、スペースナイツのボーイズ&ガールズ。最も今はガールは一人だけかぁ?」
 そう言って、カメラのシャッターを切る真似をする。一瞬、誰かは分からなかった彼らだったが、その声と所作を見て見当が付いた。
バルザック!?」
「髭が無い俺も、なかなかだろ?」
「見違えちゃったわね……!」
 レビンがそう言って彼の素顔に歓心するが、アキやノアルは彼に対して警戒心を強めた。
「それより、これは一体どう言う事?」
「そうだ! 何であんたがそんなぬいぐるみに入ってんだ?」
 アンダースーツを着たバルザックは、ヘッドセット付きのヘルメットを外す。一応最新技術の塊でもあるソルテッカマンを「ぬいぐるみ」と酷評するノアルに、バルザックが反論した。
「へっ! ぬいぐるみとはご挨拶だな。今はそっちの方が、ただのぬいぐるみだぜ!」 
「……っ!」
 ブレードを指差しながら、バルザックはそう言う。そして、徐々に近付きながら、辛辣な言葉が続いた。
「ラダムと戦えるのは俺だけだと粋がってたのは誰だっけかな。どうだ? ブレード、感想は? たった今目の前でこの俺がラダムを倒したんだぜ?」
「くっ……」
 バルザックが、ブレードの前に立って痛烈な言葉を浴びせた。その言葉に、ブレードは一切反論出来ない。
「最早役立たずのお前は必要ない。30分で化け物になるばかりか、仲間の危機も救えない! また暴れ出さない内に、さっさとDボゥイに戻ったらどうだ? ……えぇ? 化け物さんよぉ!!」
「化け物」と言う言葉がブレードの中の、Dボゥイに突き刺さる。バルザックの言う言葉はどれも的を得ている言葉だった。先程の無様な戦い。レビンの危機に役に立たず、ラダム獣にすら勝てない。そして……己の心にすらDボゥイは勝てなかった。「化け物」と言う言葉は彼の、そんな弱い心の象徴とも言えるべき単語だった。 
「なんて事を! あ、Dボゥイ?」
 アキが反論しようとしたが、ブレードは無言で、ペガスへと歩いていく。そんな彼の後姿に、バルザックはトドメと言わんばかりの哄笑を浴びせかけた。それはまるで敗走して撤退する兵士や戦士の背中に投げ掛ける、追い討ちとも呼べる行為である。
そんな自尊心と功名心の絶頂にあったバルザックの肩を叩くのは、先程のマルローだ。バルザックは彼に笑い掛けながら、ソルテッカマンを仰ぎ見て言った。
「マルロー、素晴らしいじゃないか。あの掃き溜めの様なスラムを這いずり回っていた俺達が、ありとあらゆる地位と名誉を手に入れる事が出来るんだ。このソルテッカマンで!」
「あぁ……!」
 二人はソルテッカマンを見て自分達の今後の栄光を思った。異星人の兵器に頼らずに、ラダムを撃退する。英雄になる。それがどれだけの快挙かを二人はよく理解していた。
「貴様にこの気持ちが分かるか? Dボゥイ!」
 スペースナイツ基地ではミリィがオペレーター用のヘッドセットを置きながら、混乱の極みにいると言う風で言った。彼らの会話も映像も、全てこの指令所へと伝わっている。
バルザックさんってカメラマンでしょう? なのにどうして!?」
「彼はただのカメラマンではない。テッカマンのデータを盗む為に、軍が送り込んだスパイなのだ」
 フリーマンはミリィの言葉を受けて静かに説明し始めた。それを聞きながらミリィは動揺している。あんな気さくなカメラマンの人がスパイだった……それは彼女に少なからずの衝撃を与えていた。だが、フリーマンは全て既知の事の様に淡々と語った。
「盗み出したそのデータで、テッカマンボルテッカの原理を解明して作られたのが……あの新兵器」
「そんな……Dボゥイ……」
 それを聞いてミリィは不安がった。よりにもよって、こんなタイミングの悪い時に新兵器が投入されるとは。しかし、バルザックの支援のおかげでレビンの命が助かったと言う事もまた、れっきとした事実であった。

 粒子加速施設では、工作員の兵士達が忙しく動き回っている。外見の防衛システムは確かに老朽化してはいるが、内部の加速施設に関しては全く問題が無い様だ。現在は稼働率70%。ラダムがまたいつ襲来するかも分からない為、時間を短縮する為に、工作員兵士の指揮官は90%へと稼働率を上げる様に指示した。
 そして、スペースナイツの面々は未だ加速施設の防衛の為に、其処に待機を命じられた。施設の閑談室の様な場所で、ノアルとアキ、レビンと本田が話している。Dボゥイは其処にある長椅子に横になり、顔は何かの雑誌を乗せて寝ているが、恐らく眠ってはいないだろう。
「もしかしたら、チーフはこの事を知っていたのかもな」
バルザックの正体も、目的も?」
「ああ」
「そうかも知れないわねぇ。あのチーフなら!」
「うむ……わざとテッカマンのデータを渡したってワケか」
 四人は、ソルテッカマンの性能について論議を交わしている。彼らの見解は、あの新兵器がテッカマン反物質を操る技術の一端を使用していると言う事に関して一致していた。そしてそれを敢えて軍に流したのは他ならぬ自分達のリーダーであるフリーマンだと言う事に関しても。彼らは、フリーマンと言う男の人となりをよく理解していた。
「目的は?」
「軍にテッカマンと同じ武器を持つ、ソルテッカマンを大量に作らせる事」
「なるほど。ソルテッカマンで構成された軍隊が出来れば、ラダムに十分対抗できるって筋書きか……」
「なによぉ! それじゃDボゥイの立場が丸っきり無いじゃない!」
 四人が寝ているDボゥイに視線を移す。そしてアキが近付きながら言った。
「元気出して、Dボゥイ。どんなにソルテッカマンが大量生産されても、テッカマンブレードは、貴方一人なんだから。ね? Dボゥイ」
「いーじゃない? 俺が俺がって頑張らなくて済むしさ!」
 ノアルがそんな風に言うと、Dボゥイは突然立ち上がって部屋を出て行く。アキの制止の声も聞かずに。

粒子加速施設のコントロールルームでは、バルザックとマルロー、そして昨晩の高官がいる。高官の名はボガード大佐と言い、コルベット准将の子飼いの配下であり、特殊部隊ブラウンベレーの指揮官でもある。
「この調子だと、後一時間程でソルテッカマンに必要なフェルミオン粒子が取り出せるでしょう」
 マルローがそう言った。粒子加速施設の稼動は順調だった。しかし、フェルミオンが精製されると言う事は取りも直さずラダムがいつか襲来すると言う事だ。この一時間が勝負だと言える。
すると其処に、コルベット准将から通信が入った。彼は、あのソルテッカマンの開発施設にいるらしい。
「どうだボガード大佐、計画の進行具合は」
「全て順調です」
「宜しい。Drマルローと共に、それをニューヨークへ持ち帰ってきてくれ給え」
「はっ! 分かりました!」
「それから、其処にバルザック少佐はいるか?」
「はい、バルザックです」
 モニターにバルザックが現われる。それを見てコルベットは愛用のパイプ煙草を撫でながら上機嫌で言った。
「今回の任務ご苦労であった! 進んでソルテッカマン第一号となってくれた事の礼を言う。直ちに大統領閣下に報告した所、大変喜んで頂いた!」
「恐縮です」
「そこで軍は、君を中佐に昇進させる事に決定した。Drマルローも、この研究所の責任者となる。いずれ正式の辞令が行くだろうが、まずはおめでとう!」
「ありがとうございます!」
「過分な幸せです……」
 バルザックもマルローも、満面の笑みでそう応える。
「では、後で会おう」
 そうコルベットは言葉を締めくくると、通信を切った。そしてマルローは隠しもせずに笑う。本来、余り感情を出さない彼が、感無量と言った表情でバルザックに言った。
「これで科学技術長の長官も夢では無くなった……!」
 それを見て、バルザックは無言で頷き、彼としっかりと手を握り合う。
「人生最良の日だ……!」
「まだまだ……これからは毎日がそうさ!」
 そう言って、バルザックは野心を剥き出しにしながら、笑った。

 その頃Dボゥイは、焦燥感と苛立ちで一杯になっていた。ペガスが置かれている朽ちた格納庫で一人、たまらずに壁を殴る。別に自分のお株を奪われた事に対して焦っているワケではない。ソルテッカマンが大量に量産されてラダムに対抗出来るのなら、それはそれで良かった。Dボゥイに功名心など一欠片も無いのだ。
だが、自分がどんな思いで戦ってきたのか、と言う事を否定されたのは我慢がならなかった。バルザックは言った。自分の事を「化け物」だと。Dボゥイは自分が持つ力に誰よりも恐怖している。だがそれでも「化け物」ではない、自分は人間だと言い聞かせてまで戦ってきた事は一体何だったのか? 
それに、恐怖で身が竦む己にも苛立っていた。仲間の危機を救えない。そんな不甲斐ない自分が許せない。
既に自分は、侵略者に堕ちたテッカマンを一人葬ってきた。そして今度は実弟がその牙を剥き出しにして襲ってきている。自分は、ペガスによってもう一度テッカマンになった時、奴らラダムのテッカマンを一人残らず葬り去ると、心に誓ったではないか。そんな誓いも、目の前にある恐怖に打ち勝てず、自分と言う個が崩れ去りそうになってきている。それが今の、Dボゥイの現状だった。

一時間後、無事にフェルミオンが生成され、マルローとボガード大佐はフェルミオンをニューヨークへと移送する為に輸送機に搭乗しようとしている。マルローが持つ白く大きなケースには、反物質粒子フェルミオンタンクが数本分入っている。たった数本ではあるが、この一帯を確実に消し去るほどの威力を持つ危険物だ。
後部シートに座ったマルローは、バルザックに向かって片目をつぶりながらサムズアップした。彼もそれに応えるように、笑いながら親指を立てる。
しかしその時、発着しようとしていた垂直離陸機のその至近、それも地中からラダム獣が出現する。
「ラダムだ!」
「くそっ、地下から来たか! よぉしっ!」
 そうバルザックは叫ぶやいなや、即座に基地の中へと走っていく。ソルテッカマンに搭乗する為だった。
 輸送機に陸上型ラダム獣が襲い掛かる。目前まで迫った獣は、コクピットのフロントガラスをその爪で打ち破ると、そのまま操縦者を串刺しにした。その返り血を顔面に浴びたマルローは、恐怖に塗れる。ボガード大佐も拳銃で果敢に応戦するが、鉛の弾丸では獣の皮を削る事も出来ないだろう。
 防衛軍のミサイル車輌が応戦をしてはいるが、元が空軍の部隊で編成されている為、時間稼ぎにもならない。飛び立てない戦闘機など格好の的であり、次々と破壊されていく。奇襲としては最悪のタイミングだった。其処に居合わせたスペースナイツも持っている武装で応戦するが、やはり効果は無い。
「ちきしょう! 蚊にさされたほども感じねぇのか!」
本田の持つ銃もかなりの大口径であるはずだが、それを食らってもラダム獣は怯みもしなかった。
「このままじゃやられちまうぜ!」
テッカマンじゃないと……この危機は!」
「おい! Dボゥイは!?」
混乱するノアル達。この騒ぎは施設中に響いているはずだった。それでも彼は来ない。
「私、探してくる!」
 アキがその場を離れて走り出した。
輸送機内では、応戦していたボガード大佐が血塗れになり倒れて絶命した。シートベルトをしてケースを抱えたままマルローは萎縮してしまっていたが、自分が座っているシートが射出座席だと言う事に気付き、シートの左サイドにある脱出レバーを引いた。コクピットの風防ガラス、つまりキャノピー部分が火薬で吹き飛び、座席がそのままロケットモーターで真上へと打ち出され、20mほど上昇した。そしてシート上部からパラシュートが展開し、なんとか逃げられるとマルローは思ったが、そのパラシュートを根元から飛行ラダム獣により切り裂かれてしまった。
「これだけは、離すものか!」
 ケースを抱えたままマルローは落ちていく。射出座席はパラシュートを失って急速に勢いを増し、地面へと叩きつけられた。マルローはその勢いでシートから投げ出されてしまう。落下の衝撃でダメージを負ったマルローは、その場で動けずにいた。
 その時、慣れ親しんだ駆動音とジェット噴射音が聞こえてきた。空を見上げたマルローは、ソルテッカマンを目撃する。
バルザック!!……うぅっ!」
 バルザックソルテッカマンは倒れていたマルローに気付く事無く、ラダム獣の群れへと突っ込んでいく。

そしてDボゥイを探していたアキは、ようやく格納庫で彼の影を見つけた。
「Dボゥイ!」
 アキは格納庫へと入ってくると、彼に声を掛ける。しかし彼は微動だにせず、後ろを向いたままだ。
「Dボゥイ、急いで。ラダム獣が襲撃してきたわ」
「俺よりも……バルザックに頼んだ方がいい」
 そう、彼は静かに言う。アキは勿論その言葉に納得が行く筈がなかった。
「何を言っているのよ? 逃げてばかりいたら、今まで貴方がしてきた事が、みんな無駄になってしまう!」
 アキはそう言いながら、彼の肩に手を添えた。Dボゥイは、その手の温もりを感じて、今まで瞑っていた目を見開いた。
「もう一度でいいから……テッカマンになって! あなた自身の為に……迷ってないで、それで答えを見つけるのよ!」
 自分がしてきた事を、彼女は理解してくれている。何度も自分は助けられ、何度も彼らと共に戦った。
 それでもまだ、決心がつかない。また昨晩の様な戦いをしてしまったら、今度こそ自分と言う存在理由がなくなってしまうかも知れない。だから、また目を瞑ってしまった。
 そんなDボゥイを必死で励ますアキ。彼女は彼の正面に来て懇願した。
「お願い、Dボゥイ!」
 Dボゥイはゆっくりと目を見開き、彼女の目を見た。そしてDボゥイはようやく決意を固めた。
「あぁ……分かった。やるだけの事はやってみる」
「Dボゥイ!」
ひょっとしたら、これが最後の出撃になるかも知れない。最後だと言うのなら、精一杯やればいい。そして、自分以外の誰かが、ラダムと戦うと言うのなら、それでも構わない。
 ただ今は、この目の前にいる仲間の為に力を振るおう。そう心に決めたDボゥイは、叫ぶ!
「ペガス! テックセッタァー!!」
「ラーサー!」
 テックセットルームが展開すると、Dボゥイは飛び乗るように搭乗する。そして、腕部と脚部のスラスターを全開にしたペガスは朽ちた格納庫から出撃した。
テッカマン! ブレード!」
 テックランサーを形成したDボゥイは、ブレードとなって戦闘態勢を整え叫ぶ。これが最後の戦いになるかも知れない、そんな覚悟を伴いながら。
「喰らえぇ! 雑魚共め!」
 ソルテッカマンのフェルミオン砲が火を噴く。その青い光弾に触れたモノは何であろうと消し去っていく。どんな敵が来ようとも、全て力で捻じ伏せて見せよう。そんなバルザックの闘志が燃えていた。しかし、敵の群れに攻撃を仕掛けていたその時、まだ地中に隠れていたラダム獣が突如出現し、彼の背後から襲いかかってきた。
「なにぃっ!!」
 バルザックが気付いた時、もう至近まで迫るラダム獣は爪を振り下ろそうとする直前だった。今撃てば、ラダム獣を撃破する事は出来ても、フェルミオン砲の威力が自分を傷つける恐れがある。回避するか、それとも撃つか。それを逡巡していた時、ラダム獣の頭部を貫いて、長槍がバルザックの足元に突き刺さった。テッカマンブレードが参戦してきたのだ。
 ランサーをワイヤーで回収すると、ブレードはペガスから飛び降りる様に離脱し、ラダム獣を次々と屠っていく。ある者は両断され、またある者はブレードの体当たりで穴を開けて撃破される。そう、これがいつものブレードの戦いだった。その様を見てレビンが、そしてノアルが頼もしそうに声を上げる。
「いいわよいいわよぉ! 素敵よぉ!」
「その調子だぜ! Dボゥイ!」
 スペースナイツ基地では、そんな破竹の勢いを無言でフリーマンが、そしてミリィが応援している。
「頑張って! Dボゥイ!」
 そしてその頃、負傷したマルローは、足を引き摺りながら施設へと戻ろうとするが、その行く手をラダム獣達が阻んだ。と言うより、完全に囲まれている。これは、マルローがフェルミオンケースを持っているからであろう。
「バルザァァック!」
 マルローは叫ぶ。親友に助けを求める為に。そして、その叫びを聞いたバルザックが気付いて声を上げた。
「マルロー!」
 そして、彼らを囲んでいるラダム獣達に狙いを定めるが、アキがそれを止めた。
「撃っちゃ駄目! 人がいるわ!」
フェルミオンのケースが壊れたら、この施設ごと吹っ飛ぶぜ!」
 ノアルが冷静に言った。確かにフェルミオン砲は威力のある新兵器ではあるが、こう言った局面ではそれが弱点にもなっていた。射撃兵器に頼るソルテッカマンは、近接武器で戦うテッカマンブレードの様なオールマイティさが無いのだ。バルザックソルテッカマンのバイザーの中で親友を助けられない自分に歯噛みした。
 それに気付いているのはマルローも同じだった。彼は渾身の力で走り出し、フェルミオンのケースを出来るだけ自分から離す様にバルザックに向かって投げつける。勿論、ラダム獣がそれを追った。
「撃てぇ! バルザック!」
 マルローは自分がケースを持っている事で彼が撃てない事を理解していた。自分はもう助からない。ならば俺ごと敵を撃てと、彼は決死の覚悟でそう叫び、マルローはラダム獣の爪に捉えられた。背中から胸へ貫通する様にして爪が突き刺さり、マルローはまるでゴミの様に振り払われ、地面へと叩きつけられた。
それを確かに目の当たりにするバルザック。自分達が勝つ為に、マルローは命を差し出してケースを安全な場所へと投げた。今までの彼との思い出が脳裏を駆け巡り、バルザックは絶叫した。
「許せぇぇ!! マルロォォ!!」
 ソルテッカマンはフェルミオン砲を撃ち続けた。親友の心を受け取った彼は、フェルミオンケースに群がるラダム獣を一掃していく。溢れんばかりの闘志で敵を撃つ彼の叫びは、哀しみで彩られていた。
 獅子奮迅の戦いを見せているのはソルテッカマンだけではない。テッカマンブレードもまた、徐々に敵を殲滅しつつあった。しかし、今回に限って敵は多かった。ソルテッカマンとブレードの両者が戦っても、未だ相当数のラダム獣が残っている。これはフェルミオンと言う特異なエネルギーがある結果だった。
「もうじき30分になるわ!」
テッカマンの変身リミットが!」
 アキが腕時計で彼の出撃時間を見て言う。ブレードはいつもの様に身体が動く事に心の底から安堵している。まだ自分は戦える、人間の心のままでラダムと戦えるのだ、と思いつつラダム獣を撃破するが、頭部の五角形のパーツが点滅し始めると、また幻覚が彼を襲った。迫り来るラダム獣が、怯えているミリィに重なる。
「うぅっ!? うおわぁぁぁ!!」
 彼は恐怖に打ち勝つ為に戦っていた。仲間の為に、誰かを守る為に戦っていた。だが、変身リミットが近づけば、彼の意識の抵抗力は著しく低下する。己と言う認識を削られるテックシステムの暴走は、そんな強い心を惑わせ、再びブレードから戦闘能力を奪うのだ。
「まただわ!」
「しっかりしろ! Dボゥイ!」
 仲間達の声援も彼には届かない。そんな一瞬の隙でラダム獣の爪がブレードの仮面を強かに叩いた。それを受けたブレードは、本来なら直ぐに立ち上がれるはずだったが、迷いと言う幻覚と、精神を支配されるリミットの両極面に翻弄されて、ブレードは立ち上がる事が出来なくなった。Dボゥイとテッカマンのシステムが完全に拒否反応を起こしているせいか、彼の全身からスパークが走る。これは今までに無かった事である。
「危ない! Dボォォイ!」
 アキが叫ぶ。ブレードは動けない。ラダムの攻撃がうずくまる彼に振り下ろされようとしたその時、轟音と共にラダム獣が消滅した。ソルテッカマンが最後の一匹を倒し、ブレードを救ったのだった。
 戦闘が終了した。辺り一面は戦闘の影響で焦土と化している。防衛軍の戦闘機の残骸や、ラダム獣の死骸、そしてあちこちにクレーターを作るほどのフェルミオン砲の影響が戦闘の壮絶さを物語っていた。
「どうやら……無事の様ね……」
 アキはその様を見て、フェルミオンケースが破砕する事無く戦闘が終了出来た事に安堵した。そして、ソルテッカマンの装甲を展開してバルザックが降りると、マルローが倒れている場所へと走り出した。
「マルロー……マルロー!」
 抱き起こして彼の名を何度も呼ぶバルザック。マルローは静かに目を開いて、たどたどしく声を上げた。
「フェ、フェルミオンは……」
「安心しろ……無事だ!」
「……良かった……これで、二階級特進だ……じょ、上官だぜ……」
 血塗れのマルローは、もう自分に時間が無い事を悟っている。思わずその血に塗れた手を取るバルザック
「私の分まで……け、権力と……名誉を……」
「ああ! 必ず成り上がってみせる! 必ず!」
 マルローはバルザックの言葉を聞いて、満足そうな笑みを浮かべると、力尽きるように絶命した。
「あぁ?……マルロー! マルロォォォ!!」
 夕陽が二人を照らしだす。バルザックは掛け替えの無い幼馴染であり、親友であるマルローを失った。その亡骸を抱きしめる様に、バルザックは涙する。そんな様を、Dボゥイとアキ達は力なく見ている。そして……
「Dボゥイ!」
 バルザックはマルローの亡骸をそっと横たえると、怒りの表情で彼に向き直った。
「戦場で恐怖に勝つ事の出来ない者はただのクズだ!!」
 バルザックはそう言い放った。先程のブレードの戦いを目にした彼は、最早我慢がならなかったのだ。
親友を失ったばかりの、それはある意味八つ当たりとも取れる言葉だったが、もしもっとブレードがうまく立ち回っていたら、マルローと言う、稀代の科学者を失わずに済んだかも知れない。それもまた、事実だった。 
「俺はお前に勝ったぞ! お前はもうただの、化け物だ!」
 再び「化け物」と言う言葉がDボゥイに突き刺さり、彼の心に響き渡った。化け物、テッカマンブレードと言う恐ろしい化け物である自分。
「違う! 違ぁぁぁう!!」
「Dボゥイ!?」
 アキやノアル達は、Dボゥイの心の叫びを聞く。耳を塞ぎ、バルザックの言葉を聞くまいと全身で否定する。そんな風にうろたえる彼を、スペースナイツの面々は初めて見た。それでも、バルザックの辛辣な言葉は続く。トドメと言わんばかりのその言葉が突き刺さる。
「これから先、俺の邪魔をするなよ! 化け物さんよぉ!!」
「う、うぉわあああああぁぁ!!」
 Dボゥイはバルザックの言葉を遮る為に駆け出した。殴り掛かるでもなく、ただただ突進してその言葉を止めようとする。そんな彼に対し、バルザックは銃を無造作に抜き放ち、トリガーを引き絞った。
「Dボォォイ!!」
 銃声が響き渡った。Dボゥイは銃弾を受けて、バルザックに届く前に倒れ伏した。
 その頃、コルベット准将は彼らの様相を見つつ、憤慨しながら言った。
バルザック中佐の言う通りだ! もはや、テッカマンブレードは危険な暴走マシーンに過ぎん! 直ちにDボゥイを逮捕し、その身柄を拘束しろ!」
 そして、Dボゥイは両手を手錠で繋がれ、担架で運ばれていく。アキは彼の身を案じて前に出るが、
「麻酔銃だ、死ぬ事は無い」
 バルザックがそう言ってアキを阻んだ。本田は下士官に掴み掛かりながら言う。
「Dボゥイは俺達の仲間なんだ! 勝手な真似はさせんぞ!」
コルベット准将の命令だ! 逆らう者は同罪だ!」
 本田はそれを聞いて諦めた様に下士官から手を離した。そして、担架に乗ったまま、意識を失ったDボゥイはそのまま連行されていく。
「チーフ!?」
 勿論その状況はスペースナイツ基地にも伝わっている。ミリィの言葉を受けたフリーマンは静かに、
「やむを得まい……」
 そう言って指令所から出て行った。
 そしてDボゥイは鉄格子の檻に入れられ、言葉を失っていた。麻酔の効果が切れ意識を取り戻していても、彼の目には以前のような力は無い。Dボゥイは、牢の中で何を見るでも無く、茫然自失となって虚空を見つめていた。


☆今日の反省会です。ソルテッカマンデビュー、例えて言うなら平成仮面ライダーで二号ライダーとかが出てきた感じでしょうか。あの主人公ライダーをないがしろにして販促するバンダイの陰謀がバネェ。じゃなくて(笑)Dボゥイが戦う理由が未だ明確になっていないからこその葛藤回とでも申しましょうか。この時点で、周りへの情報は制限されまくっているので、未だスペースナイツの面々やバルザックは、彼が戦う真の理由を理解していない。だからこそ誤解も生じるワケだけど、そう言った齟齬があって、復活する様と言うのもお約束でたまらない感じがあります。作画は後半に至れば至るほど、良さが見えてくる、良い回だったかも知れませんが、やはりブレードバンクが多いのでフツーの三でお願い致します。
恒例の動画はhを付けてご覧ください。
ttp://www.youtube.com/watch?v=X4wEq2nKnSo&feature=relmfu