第19話 心閉ざした戦士(1992/6/30 放映)

いやー無謀な戦いでした(笑)

脚本:渡辺誓子 絵コンテ:中村隆太郎 演出:高瀬節夫  作監&メカ作監須田正己
作画評価レベル ★★★★★

第18話予告
ソルテッカマンを先頭に、防衛軍の反抗作戦が始まる。その頃、捕われのDボゥイは悪夢と戦っていた。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「心閉ざした戦士」仮面の下の、涙を拭え。


サブタイ前粗筋
ブレードの危機を救い、ラダム獣を撃退したのは連合防衛軍の対ラダム兵器、ソルテッカマンであった。更に驚くべき事に、そのソルテッカマンのパイロットとして姿を見せたのは、あのバルザックであった。テッカマンブレードは、最早不要なのか。思い悩む中、Dボゥイは再び襲ってきたラダム獣の前に、暴走への恐怖から戦いを放棄してしまった。連合防衛軍により危険人物として断定されたDボゥイは、為す術も無く逮捕、連行されていくのだった。



 ソルテッカマンの実戦投入から数日後、コルベット准将は反抗作戦を立案し、地上の軌道エレベーター入り口に大部隊を集結させている真っ最中であった。唯一ラダムに対抗出来る戦力、ソルテッカマンがあるからこその作戦であろう。防衛軍本部では、険しい表情をしつつも、自信に満ちたコルベットの姿があった。
「後続部隊、配置を急がせろ!」
 今度こそ勝利し、あの緑色の化け物共を全て一掃してみせる。そんな気概が見て取れる中、サブモニターにフリーマンから通信が入る。コルベットはそんな彼に一瞥もくれずに言った。
「戦勝祝いには早過ぎる様だが?」
「第二次反抗作戦、オペレーションヘブンは予定通り決行の様だな」
「この軌道エレベーター奪回作戦に不服かね?」
ソルテッカマンは、あくまでもテッカマンのレプリカ。無謀だとは思わないのか?」
 フリーマンはどうやら、この作戦を警告しているらしい。無表情ではあるが、データを譲渡した彼としてはいささか早急な作戦であり、危険だと思っている様だ。
「まぁ、忠告は一応聞いておこう。だが、わしはわしのやり方でやる」
「相変わらず強引だな」
「ふっ、お前こそいらぬ画策はせぬ事だ」
 そう言い合った後、少しばかりの沈黙。フリーマンは本題に入ろうとしたが、
「Dボゥイを引き渡してもらう、と言うのも無駄の様だな」
「気の毒だがそう言う事だ」
 そんな風に本題の交渉も終わってしまう。栄光も、名誉も、そして異星人のテクノロジーでさえも。全てを手に入れようと欲しているコルベットに、そんな交渉が通るはずも無かった。
「分かった。君とソルテッカマンの健闘を祈っている」
 そう言うと、フリーマンは通信を切った。それを横目で見つつコルベットはほくそ笑む。
――――フリーマン、今度ばかりはワシが笑う番だ……!
「オペレーションヘブン開始! 軌道エレベーターから、ラダム獣を一匹残らず叩きだせ!」
 コルベットの号令が、指令所に響き渡った。

 その頃、歩兵部隊を追従させたソルテッカマンの先遣部隊はラダム獣と交戦していた。飛びかるレーザーの砲火、ロケットランチャーが火を吹くその戦場で、バルザックは冷静にソルテッカマンに装備されたフェルミオン砲を撃ち込む。ラダム獣は例外なく、その反物質の奔流に晒されて消滅していく。
「やった!」
 歩兵の一人が歓喜の声をあげた。たったの一撃で、あの無敵の緑獣が消滅する。その威力に感嘆していたその時、別の歩兵がラダム獣の触手に捕われてしまった。
「うわぁぁあぁあ!!」
「ちぃっ!」
 脚部のスラスターをホバーにして短く吹かし、直ぐ様そのラダム獣に向き直る。照準を合わせたバルザックは、触手に捕えられた兵士の危険などお構い無しに躊躇無くフェルミオン光弾を放った。対消滅爆発で消滅するラダム獣。兵士はその衝撃波に吹き飛ばされたが、何とか無事である。
 バルザックは先日の戦闘以来、ソルテッカマンを完璧に使いこなしていた。今の様に兵士が近くにいた場合でも、その照準を標的の中心から僅かにずらし、対消滅爆発の範囲を完全に把握して撃破する。時には一発の光弾でラダム獣を二匹纏めて屠る事も出来た。
「へっ! 痛めつけられてきた地球人の大逆襲、全人類の夢が掛かった戦いだってか?」
 また別のラダム獣が壁を突き破って出現する。対して冷静に照準を合わせるバルザック。腕部に付いたレーザー発信機から赤い光線が発せられレーザーサイトになり、黒光りするフェルミオン砲の銃身からエネルギーの集束音が鳴る。
「新しい英雄伝説誕生には! うってつけの舞台だぜ。そうとなれば!」
 轟音が唸る。青い光弾が飛来し、為す術も無く撃破されるラダム獣達。特にこの様な狭所では、小回りの利く者の方が圧倒的に有利である。
 現在ソルテッカマンの先遣部隊は軌道エレベーターを通って、ORS近くにまで接近している。破竹の勢いと言うのはまさにこの事で、補給部隊を追従させたソルテッカマンに適う者は今の所、いなかった。
―――――地球最強の力……たっぷり見せてやるぜ……!
 ソルテッカマンのバイザーの中で、バルザックは不適に笑いながら、そう思った。

「チーフ! Dボゥイは釈放されないって、一体どう言う事ですか!?」
 その頃、スペースナイツ基地のソフト開発室ではキーボードを弾くフリーマンと、それに抗議するスペースナイツの面々がいる。Dボゥイが軍に連行されてから数日、全く対抗策を見出さないフリーマンにアキが憤慨していた。対して、フリーマンは彼女に一瞥する事も無く一心不乱に何かのソフトを作成している。
「打つ手は無いなんて、そんな……」
 ミリィが不安がりながらそう言った。先程、フリーマンは軍に抗議したが突っぱねられ、Dボゥイは帰されない、そう彼らにいい聞かせたばかりの事である。
「お偉いさんが考える事はみんなおんなじさ。用の無くなった者は始末する……だがチーフ! あんたもそんな奴らと一緒だとは思わなかったぜ!」
 ノアルは壁を殴りながらフリーマンにそう言った。今まで散々言い様に使ってきた癖に、コルベットテッカマンブレードを暴走マシーンとしてDボゥイを連れて行った。だが、正確には用が無くなったから始末するのではない。反応弾すら効かなかったテッカマンと言う兵器を、彼は心底恐れている。自分の意のままにならない者などこの世にはあってはならない、そう思っているのだ。
「チーフ!」
 アキは何度も先程から呼び掛けているのに、フリーマンは全く応えようとはしない。
「こうなったら、連合防衛軍に直談判だ!」
 二人のそんな様を見て、ノアルは開発室を出て行った。アキもそれには賛成で、フリーマンには何も言わずにノアルを追う。
「Dボゥイ……可哀想……」
 今頃軟禁されて何をされているのか分からない。ミリィはそう言いながら、彼の身を案じる。
「あぁん、もう! チーフの事、断然見損なったわ! もうちょっと頼れる良い男だと思ってたのにぃ!」
レビンもアキとノアルに同感だ、と言わんばかりに大袈裟に言った。しかし本田は、何も抗議する事はない。
「仕事に戻るぞ、レビン」
「ちょぉっとぉ!?」
 そう言って本田は部屋を出て行く。レビンもそれを追い掛ける様に出て行った。そして通路を進む本田に声を掛けるレビン。本田は丸めた紙の設計図を持ちながら、整備所に向かっている。
「ちょっとぉ! Dボゥイが帰って来ないって言うのに、仕事するつもりぃ!?」
「当然だろぉが」
「だってさぁ! Dボゥイが……」
「少なくとも、今の地球に何が必要か分からん男ではない。フリーマンと言う奴はな」
「でもぉ!」
「だからワシらは……これだ!」
 丸めた設計図で、レビンに頭を冷やせ、仕事をしろと言わんばかりに、ポンと彼の頭を叩く。
「……分かったわよぉ」
「じゃ、掛かるぞ!」
「でも、もしDボゥイに何かあったら、あたし絶対許さないからねぇ!」
「あぁ、分かった。分かったぁ!」
 二人はそんな風に話しながら、ブルーアース号の整備所へと歩いていった。
 そして複雑なプログラミングを終えたフリーマンは、コンピューターからデータディスクを抜き取った。ミリィもレビンや本田と同じく彼に愛想を尽かし、その場をそぉっと出て行こうとしたが、
「ミリィ、特別任務を頼む」
「は、はいっ!」
 そう言って呼び止められてしまう。フリーマンはディスクをミリィに手渡して、
「至急の仕事だ。直ぐに掛かってくれ」
 内容はその中に入っているらしい。ディスクを見ながら怪訝な表情で返事するミリィ。そして、仕事を終えたフリーマンは、開発室を無言で出て行った。

連合防衛軍基地の検査室では、牢から出されたDボゥイが苦悶の表情で声を上げていた。軍医達が彼に近付こうとするが、Dボゥイは全てを拒絶する様にそれを振り払おうとする。
「俺に……触るな!」
「何も怖がる事は無い。テッカマンブレードの装甲に関するデータを取るだけだ」
「このスキャナーに入るだけで良いんだ。後は我々に任せて」
 軍にはフリーマンから必要最低限の情報しか渡されていない。バルザックが盗んだデータにしても、ボルテッカの分析データを渡されただけで、Dボゥイがテッカマンになれるシステムについては軍も知りたかった最重要項目である。
「もうたくさんだ! う……」
冷静な軍医達に囲まれてDボゥイは激しい息遣いをしている。そしてその思考は限界を来たしていた。彼らを拒絶しようとするDボゥイは突如棒立ちになり、またあの幻覚を見る事になる。
「さぁ……」
 さぁ、ここに入りなさいと軍医達が手を伸ばす。その手が、表情が、言葉が。あの赤い悪魔と重なる。
―――さぁ……ブレード! くっくっく……!
「うわぁあああぁぁぁ!?」
 怖い。何もかもが怖い。視界は赤くなり、頭痛にも似たあの金切り音が頭の中に響き渡る。Dボゥイは無茶苦茶に腕を振り回し、近付く軍医達を振り払い完全に錯乱状況に陥った。彼らは半ば嘆息する様に諦めると、
「鎮静ガスを使え」
 そう言ってスプレー型の催眠ガスをDボゥイに吹き付ける。Dボゥイは糸の切れた人形の様に、その場に倒れ伏した。
だが、彼の幻覚は消えなかった。夢の中でもDボゥイは血塗れのランサーを握っている。また誰かの悲鳴が聞こえ、その身を八つ裂きにされた。自分の身体は今以て、思い通りにはならない。
―――そぉだ……それでいいのだブレード……ふっふっふ……!
 エビルの笑みが響く。血を分けた悪魔の双子は、自分を褒めてくれている様だ。そして、まだ標的は残っている。ノアルもアキも、本田やレビンも、自分を見て恐れ慄いている。
 ブレードは仮面に紅い光を宿すと、雄叫びを上げながら槍を振るった。一閃、真っ二つに切り裂かれる仲間達。胸を貫かれるノアル。そして、ブレードは残ったアキを見て、その紅い目を細めた。まるで、獰猛な獣が舌なめずりする様な表情。自分は殺戮者になって、恍惚の笑みを浮かべている。そして、恐れ震え上がって逃げる事も出来なくなっているアキの表情が、自分にとっては最上の喜びだった。
「うわあああぁぁぁあああ!!」
 絶叫を上げたDボゥイが、意識を取り戻した。検査は既に終わって、また独房に放り込まれている。ベッドの上で自分の手を見る。血塗れだったはずの自分の手には、一滴も赤い液体は付いていない。寝ても覚めても、悪夢の中にただ一人いる、それが今のDボゥイの現状だった。
いっそ気が狂ってしまえば楽になるのだろうかと考える程に、Dボゥイは自分に、もう一人の自分に追い詰められている。
「違う……俺は……化け物じゃない……」
 そう言って、Dボゥイはベッドにうずくまって寝る事も、考える事も止めてしまった。

「おい、放せよ! 幾ら面会禁止とは言っても、ちらっとぐらいは会わせてくれてもいいだろうが!」
「駄目だ駄目だ! さっさと帰れ!」
 防衛軍本部の入り口では、文字通りノアルとアキが門前払いを食らっていた。叩き出されたノアルが抗議の声を上げるが、軍の士官達は聞く耳も持たない。そんな彼らに殺気の眼差しを向けるアキは士官の一人、その鳩尾に気合の拳を叩き込んだ。
「あぁー!?」
 ノアルが素っ頓狂な声をあげる。そして急所を突かれた男は、今度は首筋に肘を叩き込まれて失神した。曲がりなりにも軍の士官相手にこんな暴力をアキが進んでするとは、ノアルは思っても見なかったのだ。
「な、なにっ!?」
 女性の暴挙に驚いたもう一人の士官が応戦しようとしたが、その一瞬の隙をいつの間にか男の背後に回っていたノアルが突いた。首筋に手刀を叩き込むと、もう一人も崩れ去る様に失神する。
「お、おいアキぃ? どうするつも……」
「チーフが当てにならない以上、仕方が無いわ。急ぐわよ! ノアル!」
「ふぇ〜! あのお堅いアキがねぇ……?」
 ノアルはアキと同僚になってから結構な時間を過ごしてきたが、こんな一面を見たのは初めてだった。何がそう彼女にさせるのか。二人は軍の留置所方面に走り出した。

一方ORSでの攻防は未だ続いている。階段上に出現したラダム獣にレーザーとミサイルの雨が集中し、足止めが行われていた。その間、ソルテッカマンであるバルザックは補給を受けている。背部のラックに、真新しいフェルミオンの粒子が詰まったタンクが横から挿入され、補給が完了しようとしていた。つまり今応戦をしている部隊は、補給している無防備なソルテッカマンを守る為の時間稼ぎを行っていると言う事だ。
そしてバルザックフェルミオン弾の装填をバイザー表示で確認すると、足元にあるラダム獣の死骸を見た。
「ふっ、俺に輝かしい未来を与えてくれるとなれば、その醜い姿も愛しく見えるぜ!」
 バルザックの撃破数はもうじき三桁に到達しようとしていた。数えるのが馬鹿らしくなる程に戦闘は圧倒的に有利に進んでいる。そしてその一匹一匹は自分が成り上がる為の道具だ。バルザックは、今兵士達の期待を一心に背負い、英雄への道をひた走っている。それが死んでいった相棒、マルローとの約束なのだから。
「こちら第一部隊、Gエリアからラダム獣を排除。これから―――」
 定時連絡を行っている通信兵が次の目標に向かおうと報告していたその時、閃光が走った。
「なにぃっ!」
 直後、辺り一面に爆風が巻き起こる。歩兵部隊はそれに晒され、殆どの者が飛ばされ引き千切られ、死んでいく。それはソルテッカマンを整備、補給を行っていた者達も同様である。唯一無事なのは、ソルテッカマンを装着していたバルザックだけだった。
「う……!?」
 その爆風の渦の中に誰かがいる。鎧を着て、爆風など意に介さない何かが。段々と輪郭がはっきりして、バルザックはそれが何者なのか理解し、息を呑んだ。
「て、テッカマンエビル……」
 紅い眼光に紅い鎧。あの、テッカマンブレードと激戦を繰り広げたラダム側のテッカマンが出現した。
 実は「テッカマンエビル」と言う呼称はスペースナイツや連合防衛軍には当初知らされていなかった。Dボゥイが頑なにこの敵の名を告げなかったからである。しかしペガスに録音された音声内容、ブレードとエビルの会話からこの敵の名が「テッカマンエビル」だと知ったのはつい最近の事であった。
「おぉ!? あれは!!」
 コルベットが本部基地の指令所で声をあげた。ソルテッカマンのカメラアイから現状が映し出されている。
「IHエリア執行部隊、通信が途絶えました!」
あの「悪魔」の名を冠する、敵のテッカマンが出現し、指令所は混乱を来たしている。明確な「意思」を持つ敵が出現しただけで、ソルテッカマンに追従していた部隊を全て失ってしまったからだ。
「全部隊は、Gエリアに集結! 総力をあげて、ソルテッカマンの援護に当たれ!」
 すかさずコルベットの号令が飛んだ。混乱するな、落ち着けと言わんばかりに。
―――頼むぞ……ソルテッカマン!
 そして、コルベットバルザックの、いやソルテッカマンの健闘を祈った。
テッカマンエビル……とうとう出てきやがったな。名前をあげるには、格好の獲物だぜ!」
 バルザックが、照準機ごしに闘志を燃やす。そして、ソルテッカマンがいたGエリアに後続部隊が続々と集結し、敵のテッカマンを中心に囲む様に配置した。
「ウジ虫どもが……ここまで這い上がってくるとは。俺のいない間に好き勝手をしてくれたようだな?」
 テッカマンエビルはそう、流暢な英語で口を開いた。考えてみれば、この状況は防衛軍が敵の異星人と初めて邂逅を果たした事になったと言える。エビルを取り囲んだ防衛軍兵士達は、そんな敵の様を驚愕しながら目撃するのだった。しかし!
「撃てぇ!!」
 言葉が分かるからと言って和解出来る訳ではない。人類は数億の人間を目の前の敵に刈り取られてきたのだ。和解する時期等とうに逸しているし、人間を「ウジ虫」と称した相手にこちらの言葉が届く訳は無い。
指揮官の号令が飛ぶと、囲んでいた兵士達が一斉に攻撃を開始した。エビルを中心にして円を描く様に激しい攻撃が行われる。それをエビルは黙って受けている。幾ら撃っても、ミサイルで爆発を起こしても、敵は全く揺らぐ事無く、まるで足が床に突き刺さっているかの様に、エビルはその場を動かなかった。
 そして微動だにしないエビルの代わりに、テックランサーの先端が飛ぶ。光のワイヤー、フェルミオンワイヤーで繋がれたランサーの先端は、凶器と化して連合防衛軍兵士に襲い掛かり、切り刻んでいった。ランサーの先端は思念誘導で自由自在に操る事が出来る。時には兵士達の背後の壁を切断し、崩落に巻き込んで殺す。取り囲んでいた兵士達は悲鳴を上げながら惨殺されていった。
「ふっふふ……」
殺戮の饗宴がテッカマンエビルと言う、この敵から行われている事は確かではあるが、その開催主は微動だにせずに笑っている。飛び駆るランサーだけは激しく動き回っていても、敵は動くまでも無い、と思っている。つまり、兵士達は遊ばれていると言う事に他ならなかった。

テッカマンエビルが現われたらしいぞぉ!」
テッカマンはどうしたんだ!」
その頃、基地に潜入したノアルとアキは兵士達の混乱を隠れながら耳にした。
テッカマンエビルが……」
「兎に角、Dボゥイが先よ!」
 通路を出て、二人は走る。潜入する前に基地の構造やDボゥイの独房に至るまでの道のりは大雑把に知ってはいたが、セキュリティをどうやってこなすかが二人の課題だった。
「っ! ちっ……行き止まりかよ!」
「あら? ストレートに行けるとでも思ってた?」
「おぉおぉ! いつになく厳しいお言葉!」
 目の前には「OFF LIMIT」と書かれた扉がある。つまり立ち入り禁止、ここ以降は暗証パスが必要な重要箇所と言う事だ。アキは扉の傍にあるパス入力のテンキーの前に立つ。
「アキ、ここは軍だぜ。電子ロックのパスワードは、毎日変えられるんだ。他を探した方が―――」
「黙って!」
 ノアルは立ち入り禁止のドアの前に寄りかかりながらそう言うが、アキはピシャリとその言葉を遮る。そしてアキがテンキーを押そうとしたその時、突如ノアルが寄りかかっていた扉が開く。二人は慌てて隠れたが、誰かが出てくる気配は無い。それ所か、何重にもある電子ロック付きのドアが次々と開いていって、二人に道を開いていった。物陰ごしに二人はそれを見て、怪訝な顔をする。
「どういう事よ? これ……」
「軍の罠とは思えないし、先に進むだけよ!」
「お、おい! やべぇぜこりゃあ!?」
 アキは躊躇無くドアをくぐって先に走り出した。そして到達した先は、留置所の看守が常時いるはずの受付である。だが、其処にも誰一人門番として立ちはだかる者はいなかった。
「こりゃあ参った。受付の一人もいないとはねぇ」
 ノアルが呆れ顔でそう言い、受付のコンピューターを見る。
「……変だ? ここの連中全員に集合命令が掛かってやがる。見張りも残さずに」
「また電子ロックが……?」
 アキが看守受付から留置所に入ろうとした矢先、再び電子ロックが解除された。この先にある留置所には犯罪人や重要参考人等が拘留されているはずのブロックである。これは幾らなんでも異常だと二人は思った。
「待て、アキ! 今メッセージが入ってきた」
 PCのモニターに表示されたのは「SAVE D−BOY ―MILLY―」と言う言葉だ。メッセージは一瞬表示され直ぐに消えていった。
「Dボゥイをお願い……ミリィ……かぁーっ!!」
「そうだったの……!」
 ノアルはメッセージを見て頭を抱え、アキは全てを悟った。
「軍のコンピューターをハッキング出来る情報を持っているのは、外宇宙開発機構広しと言えども、一人しかいねぇ……」
「チーフね」
「ったく、味な真似してくれるぜ!」
 二人はフリーマンの意思をようやく理解した。
「えへ♪ さすが、チーフのソフトはすごぉい! 特別任務完了!」
 外宇宙開発機構の開発室では、先程のデータディスクでハッキングを終えたミリィが微笑んでいた。
最後の関門を難なく突破した二人は、独房のドアに備えられている小さな窓を一つ一つ確認する様に覗き込んでいった。
「ノアル!」
 そしてようやく二人は見つけるのだった。何もかも拒絶してベッドにうずくまっているDボゥイの姿を。

 テックランサーの先端は、相変わらず兵士達を蹂躙していった。瓦礫を盾にしていても、何でも切り裂き貫通するテックランサーを阻む事は出来ない。兵士達の悲鳴が巻き起こり、その場は死体で埋め尽くされようとしていた。そして、テッカマンエビルはやはり動かず、数々の銃撃を受けても全くの無傷である。テッカマンエビルにとっては防衛軍兵士の攻撃など、浴室で浴びるシャワーと同じ様な物だった。
ソルテッカマンはどうした!」
 兵士の一人が銃を撃ちながら叫ぶ。Gエリアに集結した後続部隊は全滅寸前となっている現状を受けても、ソルテッカマンからの銃撃は一向に無かった。だがバルザックは物陰に潜み、機会を狙っている。
「慌てなさんなって! 一撃必殺、今直ぐあの世に送ってやるぜ!」
 銃撃を受けているエビルが、別の攻撃隊に向いてランサーを指した。先端が飛び交い、また兵士達を惨殺する。だが、その状況はバルザックが潜んでいる場所からしてみれば背後を向けた格好になった。その一瞬の隙を、バルザックは見逃さない。レーザーサイトを起動させ、照準をエビルの背中に合わせる。轟音が鳴り響きフェルミオン弾が発射され、それに勘付いたエビルがこちらに向き直るが、しかし青い光弾は見事にエビルにヒットした。
反物質対消滅爆発が辺りを照らす。相手が物質であれば、一瞬で消滅するはずの絶滅兵器だ。しかし、光が少しずつ晴れていくと、紅い鎧の輪郭が徐々に浮き彫りになる。
「な、なにっ!!」
バルザックは驚愕した。フェルミオン光弾を受けても、テッカマンエビルは超然として立っている。鎧に一切の破損は無く、テッカマンエビルは全くの無傷だったのだ。
「ふっふふ……」
 エビルは余裕の笑みを漏らしている。そして脆弱な防衛軍兵士とは違う、簡単に壊れなさそうな玩具を見つけると、テッカマンエビルはそれに向かってゆっくりと歩き始めた。

「どうした! Dボゥイ!」
 ノアルとアキはDボゥイの独房に入ると、助けに来た自分達を見ても何の反応もしない彼に戸惑っていた。俯き、冷や汗を垂らしながら、彼は自分達の目を見ようとはしなかった。
「俺に……俺に構うな……」
 そう、Dボゥイは搾り出す様に呻く。
「そうしてやりたいが、生憎いつまでも落ち込んでもらっちゃ困る風向きでね」
「地球には、貴方が必要なのよ」
「ラダムとまともに戦えるのは、お前だけってのは悔しいが、明らかな事実だからな」
「ラダム……」
 それを聞いてDボゥイにはまた、あの金切り音が頭に響き渡る。目の前には仲間達が血に塗れ、それを行う自分の姿が脳裏に焼きついていた。
「やめろ……やめろぉ!!」
「ディ、Dボゥイ!?」
突然、Dボゥイはノアルの襟首を掴んで暴れ始める。
「しっかりしろ! Dボゥイ!」
 ノアルは、その腕を引き剥がして彼の左腕を後ろ手に、羽交い絞めにして取り押さえる。
「やめろぉ!! やめてくれぇ!!」
「Dボゥイ……」
 もがき苦しむDボゥイを見て、アキは不安な眼差しをした。こんなに取り乱した彼を見るのはバルザックに「化け物」と言われた時以来だ。いや、それ以上に今度は取り乱している。
テッカマンになって、ラダムと戦う! それがお前の全てじゃなかったのか!? Dボゥイ!」
「やめろ! 俺は……俺は誰も……誰も殺したくはないんだぁ!!」
「お、お前……」
 ノアルとアキは、その言葉を聞いて全てを理解した。Dボゥイは暴走を恐怖しているのではない。暴走して、誰かを傷つけると言う自分の行為が、容易に人を殺してしまうだろうと言う自分の力を恐怖している事に。
「もう何もかもたくさんだ! 放っておいてくれぇ!!」
「Dボゥイ!!」
 ただずっと見ていたアキが動き、Dボゥイをノアルから引き剥がして壁に押し付ける。それでも彼は叫び、錯乱して暴れるのをやめない。そんなDボゥイの顔にアキの平手が数発轟いた。すると、錯乱していたDボゥイが静かになった。
「Dボゥイ! いつもの……いつもの貴方はどうしちゃったの! 貴方は、いつも自分の為に戦ってきたじゃない! それを……それを!」
 アキは、目に涙をためながら、Dボゥイの疲弊しきった顔を睨む。こんなに取り乱し、こんなにも情けない彼をアキは見たくは無かったのだ。いつもラダムと言う敵を憎み、超然として緑獣を葬るヒーローがこんな様になっている事にたまらなく我慢が出来ないでいた。そしてアキは力なくDボゥイの前でひざまづいた。

 一方、ORSではソルテッカマンとテッカマンエビルの戦いが続いていた。エビルの槍を回避し、フェルミオン弾を撃ち込むが、直撃してもエビルの猛攻は止まらない。防衛軍兵士達が槍で切り刻まれ、獰猛な猛獣の如きエビルを止められる者は誰もいなかった。
「ちっ!! タフな奴だぜ!!」
 バルザックは自身の兵器が敵に通用していない事に驚愕してはいたが、負けたとは思ってはいなかった。恐らくフェルミオン弾を続けて浴びせれば、何らかのダメージにはなるはずだ。いや、ならなければならない。自分はこんな所で終わる男ではないはずだ。そんな風にバルザックは自分に言い聞かせ、攻撃を続けた。

 そして、留置所内の独房でとりあえず落ち着き壁際に座りこんだDボゥイは、淡々と呻く様に話している。
「この身体に……エビルやダガーと同じ、悪魔が……悪魔が棲んでいる……俺は……いつ殺人マシーンになるか分からないんだ……!」
「Dボゥイ……お前……くそっ!!」
 ノアルもアキも、彼の真意をようやく知った。いつも自分の為に戦っていたと思っていた彼は、誰よりも人の命を大切にする者だった。唯我独尊に見える態度はそれを押し隠す虚勢にも似た行為だったのかも知れない。 それだけに、テッカマンになると言う事は彼の恐怖の象徴とも言える行為だったのだ。
「俺は……化け物になるかも知れない……!」
 そんな彼を、アキは哀しみの眼差しで見る。誰かを守りたいのに、誰かを殺してしまう。テックセットすると言うのは、そんな相反する行為だったと言う事を、二人はDボゥイを見て改めて認識するのだった。

ORSでは、屍の山が築かれていた。数百人単位いた防衛軍兵士達は僅か数人残すだけとなっている。そんな中、ソルテッカマンとエビルは宿敵同士の様に対峙していた。未だソルテッカマンは無傷で健在である。
「ブレードはどうした?」
「さてね? 人の事より自分の事を心配した方が良いんじゃないか?」
「ふっ……雑魚が」
「雑魚かどうか……やってみなけりゃ分からないぜ!!」
 そう叫び、バルザックは脚部スラスターを起動させて、高機動戦闘を行う。音速で飛び回り、壁を蹴り、エビルを翻弄しようとした。そんなソルテッカマンを、追いもせずにエビルは悠然と立っている。
「例えテッカマンエビルと言えども、こいつを全部撃ち込めば!」
 フェルミオン弾の残弾数も残り少ない。しかし今までの攻撃が効いていないはずがない。バルザックはそう思っていたが、
「ふっ……まだ分かっていない様だな……」
 エビルはそう言った。その地球の新兵器は自分には通じないと言う事を。だがバルザックは認める訳にはいかない。壁を蹴り、数メートルエビルの真上を取ると、気合と共に叫んだ。
「喰らえぇぇ!!」
 フェルミオン光弾を三発、連続で撃ち放つ。三発の光弾はエビルの頭部に連続でヒットし、青い対消滅を起こし球状に爆発が広がった。
「もう一丁!!」
 ソルテッカマンは着地して、トドメの一撃と言わんばかり光弾を撃つ。合計四発のフェルミオン弾は見事にエビルに着弾した。
ソルテッカマンの攻撃が止んだら、総力を挙げて援護だ!」
 生き残っている防衛軍兵士達が数人、壁を盾にしてそう言った。あの紅い化け物を倒せば自分達の勝利は目前だと。そう信じて疑わなかった。
「これだけぶち込めば!!」
 ソルテッカマンはフェルミオン砲を収納してエビルの有無を確かめる。バルザックも、自分の勝利は揺らがないと信じずにいられなかった。だが、結果は非情な物だった。
 青い奔流が薄まる。だが、あの紅い鎧が再び光の中から出現した。そう、これがテッカマンと言うモノだった。反応弾を無効化し、物質を対消滅させる反物質粒子、フェルミオン弾を受けても揺らがず全くの無傷。それがテッカマンと言う脅威だったのだ。
「くっ……ちぃっ!!」
 再びソルテッカマンは、砲を構えて射出形態を取り、レーザーガンと共有になっているトリッガーを引き絞る。だが、引き金は空しい音を立てるだけだった。フェルミオン弾を全て撃ち尽くしてしまったのだ。
「うぅっ……!」
 弾切れになったソルテッカマンは、限りなく戦闘力が激減する。そんなソルテッカマンへエビルは一歩一歩近付こうとしたその時、兵士達の援護がエビルの背後に浴びせられた。勿論そんな攻撃等通じる訳も無いが、
「よぉしっ!」
 バルザックはエビルの気が逸れたその刹那にスラスターを全開にして飛び上がり、兵士達の背後についた。継続戦闘を行うにしても、まずは補給を行わなければならない。
「ふっ……ボルテッカを少しは研究したらしいが、所詮サル真似!」
 エビルは銃撃を受けながら、地球人を嘲笑う様にそう言った。そして、ソルテッカマンと兵士達を纏めて葬り去る為に、胸部装甲にあるボルテッカ発射口にエネルギーを集束し始めた。バルザックテッカマンブレードボルテッカを何度か目撃した事がある。あの威力、あの殲滅能力を、今度は自分達に向けられると知って戦慄した。
「あぁあっ……!?」
「本物がどう言うモノか……見せてやる!!」
 直後、紅いエネルギーが激流となって巻き起こる。胸部装甲から、エビルのボルテッカが放たれた。それは、ソルテッカマンが起こす、小規模なボルテッカを連続して放つと言う攻撃と比べたら天と地の差程に威力が違った。まるで自然の脅威の様な、嵐が巻き起こる様な暴風。それがテッカマンボルテッカと言うモノだった。
 危険を察知したバルザックは兵士達が群れているその場所から慌てて離脱する。が、その暴風は面で迫ってくるモノだ。幾らソルテッカマンが高機動が出来るとは言っても、その嵐の影響から逃れる事は出来ない。
「うわあああぁぁっ!!」
 バルザックは悲鳴をあげた。無様に、みっともなくその悲鳴が指令所に響き渡る。
「第一部隊、第二部隊、全て通信が途絶えました!」
「こちら第三部隊……ラダム獣の……ラダム獣の群れが! ぎゃあぁ―――」
オペレーターは通信が途切れた事を報告する。ORSに上がった連合軍兵士の部隊はこれで全て全滅したと見ていいだろう。コルベットは冷や汗を垂らしながら、自分が敗北した事を認識した。また負けた……今度と言う今度は、勝てる自信があっただけに、その衝撃は計り知れない物だっただろう。
 そして、ORS下部の隔壁を打ち破って、ラダム獣達が降下する。それを高見しているエビル。
「後はお前達で十分だ……好き勝手にしてくれたお礼はしなければならない。行けっ! ラダム獣よ! 人間共を存分に叩き潰してくるがいい!!」
 指令所のオペレーターは未だ戦闘が終結してはいない事を緊急で伝えた。
「ORSより、多数のラダム獣降下!」
「なんだとぉ!?」
 泣きっ面に蜂とはこの事である。コルベットはこれ以上ショックを受ける気にはならなかった。
「落下予測地点は……す、少しお待ちください……っ! ここです!!」
「何ぃっ!?」
「この、連合防衛軍本部です!!」
 コルベットはそれを聞いて戦慄した。そしてスペースナイツ基地でも、フリーマンとミリィはその状況を理解している。フリーマンは無言で冷静な表情をして、ミリィは本部基地にいるDボゥイ達の身を案じた。
 そして、留置所内のノアル達は、力なく頭を垂れたDボゥイを前にして、言葉を失っていた。もう戦いたくはない。自分が戦えばまた人を傷つける。そんな恐怖に叩きのめされているDボゥイは、この基地に危機が迫っていると言う事など、知る由もなかった。


☆今日の反省会ぃぃぃぃぃ!! 今日は反省がありません!! つーか凄い作画の質です。マジOVA、マジレベルファイブですよ。いや、ゲーム会社じゃないですが(笑)バンクなんてひとっつもありません。まさかの全部書き下ろし。テッカマンブレードの底力を見た気がします。つかリアルタイムで見てた時もすげーすげー言いながら見てた十代だった様な気がします。何かジンクスみたいなモノがあるんじゃないでしょうか? 曰く「エビルが登場する回は極めて良作画」ってな感じで(笑)構成も凄く緻密かつハード。Dボゥイの苦悩と、防衛軍やバルザックの危機を上手く両建てで展開する描写が凄いと思いました。兎に角ソルテッカマンもエビルも良く頑張った! 偉い! 次回でソルテッカマン編が終わり、その次はレイピア編が始まる感じかな? ガンガン書きますので、あなたは期待してもいいし、しなくても良い!(笑)