第31話 復讐の街(1992/9/22 放映)

脚本:山下邦明 絵コンテ&演出&作監&メカ作監板野一郎
作画評価レベル ★★★★☆

第30話予告
仲間の敵を討つためラダム獣を待ち続ける女。夢無き者の掟がレビンの心を揺らす。
次回 宇宙の騎士テッカマンブレード「復讐の街」仮面の下の、涙をぬぐえ。


イントロダクション
連合地球暦192年5月6日、スペースナイツ基地は地上から姿を消した。荒廃した地上で人類は来襲するラダム獣の前に、恐怖の日々を送っていた。そして、五ヶ月の放浪を経て、アキ達と再会したDボゥイは、ラダムの基地がある月面へ向かうパワーを得る為に、地上に降りたアックス・ソード・ランスの持つクリスタルを求めて、旅を続けていたのである。



「あーあ! 何処も彼処も真っ黒けのけ! こう暗いと心も身体も暗ぁーくなっちゃいそ。ねぇ? Dボゥイ」
「まぁ、な」
 レビンはいつ終わるとも知れない夜の、黒い森の様な街道を眺めながら、隣に座っているDボゥイに声を掛ける。Dボゥイも外の風景に飽きが来ているのか、至極適当に生返事をした。
 現在、五人はルーマニアを出てハンガリーチェコを通過後、ドイツへと到達している。プラハから続く古城街道を通り、ひたすら西を目指すスペースナイツの面々は観光街道であるこの道も、ラダム樹の森と化している事に半ば辟易していた。
「あーら? Dボゥイは、アキさんさえいれば明るいわよねー!」
「ピンポーン! それ正解!」
 話題に飢えていたのか、ミリィがからかう様に後ろの席にいるDボゥイに声を掛け、それに乗っかるようにノアルも話に入ってくる。アキは交代制なのか、グリーンランド号を運転しながら始終無言だ。
「ね、Dボゥイ。アキみたいに、禄に料理も出来ない女より、炊事も洗濯も掃除も上手なあたしの方がお買い得よぉ? どぉ? あたしに乗り換えてみなぁい?」
 それはちょっと勘弁かな、とDボゥイが思った矢先、突然のブレーキングではしゃいでいる三人が、席から投げ出されそうになった。特にレビンは立ち上がってDボゥイに声を掛けていたので、ほぼわざとDボゥイに向かって倒れ込む。
「あーらアキったら! あたしに嫉妬しちゃったワケぇ?」
「何言ってるの! あれよ!」
「馬ぁ鹿が見るぅ! なんてのは、無しにしてよね!」
 レビンが立ち上がって遠くを見ると、飽きていた暗い森が途切れて小さい町が見え始めている。が、その様子は普通ではなく、ノアルも怪訝な声を上げた。
「あぁ? 何だありゃあ?」
「地上の明かりの、照り返しだ!」
「ただでさえエネルギーが足りない、こんな時に?」
 Dボゥイやミリィの言う通り、古いアーチ型の橋と川を挟んでの対岸にある古城の町には、今時には無い派手な明かりが灯っている。基本的に今は戦時下と言っても過言ではなく、夜に明かりを灯すと言う事は自殺行為に等しい。エネルギーが有限である以上に、ラダム獣を呼ぶ狼煙にもなりかねないからだ。
 そして突然グリーンランド号は、急発進してその町へと向かう。立っていたレビンは後部ブロックに続くドアに叩きつけられる格好になった。
「痛っあ! やっぱりアキ! 私に嫉妬してるんでしょ!?」
「まさか!」
 勿論それは故意によるものだが、アキはそんな風に強く言って否定した。

 町中に到着した五人は、光源の原因を見て呆れ返っている。
「えぇ? 何なのあれ!?」
「酒場……みたいだな」
 「BAR」と派手なネオンの光が辺りを照らしていた。所々ネオンライトが消えていても数km先から分かる光は、どう考えても今の現況下では考えられない派手さだった。
 ノアルを先頭に、五人は酒場に足を踏み入れた。その中では野卑で屈強な男達がビールジョッキを片手に騒がしく酒を飲み交わしている。その様は肉体労働を終えてストレスを発散させているブルーカラーの団体、と言った風な連中である。
 その中の一人が、ノアル達を見ると突然難癖を付けてきた。
「なぁんだぁ? おめぇら!」
「店長は何処だ?」
「へっ!! ここは俺達の酒場だ! 余所モンは出ていけぇ!」
 ノアルがそう尋ねても、彼らは全く取り合わないばかりか、歓迎する気も更々無いようだ。
「酒を飲むのは構わん! だが、外のネオンだけは消してくれ!」
「なぁんだとぉ!?」
 ノアルはかなり穏便に勧めたつもりだったが、どうやら彼らの反感を買った。Dボゥイも彼らの態度に我慢出来なくなり、声を荒げて言った。
「エネルギーを求めて、ラダム獣が来たらどうなるか分かるだろ!」
「へへへっ! 聞いた風な事抜かすんじゃねぇや!」
「何がおかしい!?」
「来るなら来やがれってんだ!」
「おうよ、ラダムが怖くて酒が飲めるかってんだ! なぁみんな!」
「人が折角良い気持ちでやってんだ! 邪魔すんじゃねぇ!」
 下卑た笑いと野卑な態度が五人に向けられる。Dボゥイは、最早彼らと話しても無駄だと思って、店に奥に歩き始める。
「うろうろするんじゃねぇ! とっとと出てけぇ!」
 そんな風に言われても、Dボゥイはひたすら無視した。そして配電盤を探しあてると、ブレーカーのレバーを下げた。突然暗くなる店内。
「どうした!」
「な、何しやがる!」
 暗い店内で、Dボゥイは突然誰かに突き飛ばされた。そしてまた派手な明かりが灯る。
「余所モンのガキに、とやかく言われる筋合いはねぇ! そんなにラダムが怖けりゃ、とっととお家へ帰るんだな! ぼうや!」
 ブレーカーレバーを上げながら、倒れ込んだDボゥイに屈強な男が睨みを利かせた。
「なんだとっ!!」
「やる気かぁ!?」
理の通じない男達に、Dボゥイは苛立ちを募らせ立ち上がって言ったが、即座に止めに入ったのはノアルだ。
「やめるんだ、Dボゥイ!」
そして更に、酔っ払い達の「出てけ! 出てけ!」と合唱するようなシュプレヒコールが酒場内を満たす。
「行こう、Dボゥイ」
「だが……!」
「いいから! さぁ!」
Dボゥイの肩を無理矢理引っ張って引き摺るように店内を後にする。
「お酒臭ぁい!」
「出ましょう」
 ミリィやアキもその大合唱と酒癖の悪さを目にして店から出た。
「出て行かねぇと、追ん出すぞ!」
「分かったわよぉ! 出て行くわよぉ! ふぅーんだ!」
 レビンも彼らの嫌悪を受けつつ、酒を飲んでいる男達の懐にある銃を目にしながら、店を出る。
しかし、唯一「出て行け」を繰り返さない寡黙な長身の男も、その中には混じっていた様だ。 
「あんな人達なんて、それこそラダム獣にやられちゃえばいいのよ!」
 店から出ると、ミリィはそんな風に言って反感を露わにした。
「そんな事言わないの!」
「だぁってぇ! アキさん」
Dボゥイもまだ納得いかない感じである。ノアルに押さえつけられて無理矢理外に出てきた、と言う感じだ。
「こんな御時世じゃ無理も無いわよ」
 レビンも、彼らを見てそんな風に評した。今現在の地球人は、侵略者に土地を奪われ自暴自棄になっている地区もあったほどだ。それでも、スペースナイツの面々は警告を欠かさずに行い、人々の安全を守ってきた。
「でも……いいの? ノアル」
「仕方ねぇだろ? それより、いい考えが閃いたぜ」
「良い考え? なにそれ?」
 まあ立ち話もなんだ、と言いつつ、五人はまずトレーラーに戻った。そして運転席下部にある居住ブロック内のブリーフィングルームで食事を取りつつ、話を始めた。
「あれだけのエネルギーが垂れ流しになってやがるんだ。必ずラダム獣がやってくる」
「ちょっと待ってよ……それじゃ、あの人達はどうなるの?」
 トレーには非常食糧である栄養ブロックやゼリーが乗っている。ゼリーをスプーンですくいながら、アキはノアルの言葉に怪訝な声を上げた。
「俺達で何とかする。ラダム獣を一匹だけ残してな」
「一匹だけ残す?」
「一匹だけ残して、どうするんです?」
「わざと逃がすのさ」
「逃がすぅ?」
 ミリィがワケが分からない、と言う感じで素っ頓狂な声を上げた。
「あぁ、そしてその後を俺達が追跡する。ラダム獣が敵のテッカマンの元へ帰る可能性も無くは無いと思うからな」
「なぁるほど、漠然と探すより、可能性が高くなるってワケね」
 レビンがそのノアルの案を聞いて、敵の所在を確かめると言うのは、有益かも知れないと思う。定期的な補給を受けられない彼らにとっては、ヨーロッパ全域を探し続ける程のエネルギーは無いからだ。
「そぉ言う事! どうだ? みんな?」
「じゃああの人達を囮に使うつもり?」
「仕方無いだろ、他に方法が無いんだし」
 アキは民間人を餌にするのはあくまでも反対、と言う感じだが、どちらにせよ彼らがあの場所をどく気は無いだろうし、消灯して酒を飲む気は更々無いと言う感情も理解してはいる。
「そぉうよぉ! あんな人達なんて怖い目に会えば良いんです!」
「試してみる価値は……あるかも知れないな」
 Dボゥイも、その案は一理あると言った感じである。ミリィに至っては先程の野卑な感情をぶつけられたのが相当嫌だった様だ。
「Dボゥイが乗り気なら……あたしも賛成するけど……もしかしたら!」
「どうした? レビン」
 レビンは、壁に設置されたモニターの傍にある簡易コンピューターを起動させて現在の地図を表示させた。
「あの人達、軍の銃を持っていたのよ。確か……この辺りには、ヨーロッパ中央部基地があったはずだわ」
「軍の基地!?」
「あの人達、そこで働いてた生き残りじゃないかしら?」
「その基地って、どの位の人間が働いてたんだ?」
「確か、1000人前後だったと思う」
「あそこにいたのは20人位だったわ」
「1000人中の20人……か」
 Dボゥイは生き残った20人の彼らを思う。ノアル達も、ラダムに襲われて壊滅状態になった彼らの気持ちは痛い程に理解できる。外宇宙開発機構の人員の大半も、テッカマンと言う暴風に晒されて殺されたのだから。
「だとしたら、奴らがああなっちまう気持ち、分からん事も無いな……」
「そうかしら……あたしはあの人達も、ノアルと同じ事を……考えていると思うわ。だからあたし達を巻き込まないように、あんなお芝居をして……」
 しかしレビンは、彼らが自棄になってあんな風になっているのではない、と否定する。そして彼らは非戦闘員ではなく、この町でラダムを待ち伏せしている軍人なのだと推測した。確かに推測通りなら、町に住民がいないのも納得できる話だ。
「えぇ? 嘘ぉ! あんな人達が?」 
「あたしには、そう思えるのよ……」
 ミリィの信じられない、と言う声に、レビンは静かにそう応えた。
そして、アキが軍の基地地図を見ながらはっと気付いた。
「まさか……もしかしてあの人達、ラダム獣と刺し違える気なのかも知れないわ!?」
「冗談じゃねぇ!! そんな、生っちょろい考えの通じる様な相手じゃねぇぜ!」
「ま、いずれにしても、確かめた方が良さそうね!」
「確かめるって?」
「あたしに任せて!」
 ノアルの疑問に、レビンはそんな風に応えてトレーラーから出て行った。
そして再び派手なネオンライトに満たされたバーを訪れる。
「またかよぉ!」
「まだうろうろしてやがったのか! とっとと帰れ!」
 ドアをくぐると、また荒くれ共の野卑な野次が飛んできた。
「何よぉ、その目! 一杯ぐらい飲ませてくれたって良いじゃないのよぉ! けち! 飲ませてよぉ!」
今度のレビンはその勢いに飲まれない。今回は酒を飲ませてもらうと言う形ばかりの名目がある。カウンターに付くと、髭を生やした屈強な男が並々と注がれたビールジョッキをテーブル上で滑らす様に彼に渡した。
「そいつを飲んだら帰るんだ。この辺りをうろちょろするんじゃねぇ。いいな?」
「ありがと! 分かってるわよぉ……うっ! げほっ!」
 一気に飲み込もうとして咳き込むレビン。周りから爆笑が湧き起こる。
「もぉ気が済んだか?」
「笑わなくたって良いでしょ? 初めて飲んだんだからぁ! それにまだ、全部飲んで無いのよぉ?」
「まだ飲む気か? まぁいい。ビールってのは、こう飲むんだ!」
 それを見て、髭の男は見本を見せるつもりでビールジョッキを呷り始めた。
「ところで……あんた達もしかしたら、ラダム獣と刺し違える気なんじゃない?」
「ぶっ! げほっ!」
 レビンのその一言に、今度は髭の男が咳き込んだ。 
「図星でしょ!」
「……俺達の気持ちが、貴様なんぞに分かってたまるか!! 何を嗅ぎまわっている貴様!?」
 下を向いていた髭の男は、突然レビンに向かって銃を突き付けながら、威嚇する。すると、周りに荒くれ共達も酒を飲むのを止めて、銃口をレビンに一斉に向ける。その様は、まさに統制の取れた軍人のそれである。
「動くな!!」
「ここへ何しにきた!? 答えろ!!」
「な、何よいきなり! こう見えても、れっきとしたスペースナイツの一員なんだからね!」
「なにぃスペースナイツだ? 貴様がか!?  ふふふ……はっはっは!!」
 髭の男は銃の狙いを外さずに、笑い出す。このなよなよした女の様な男が、長きに渡ってラダムと戦ってきたスペースナイツの一員だと言う事が信じられるはずも無い。
「……出鱈目を言うな。痛い目に遭うぞ!」
「ら、乱暴はよしてよ! 本当なんだからぁ!」
「伍長!」
「はっ!!」
 伍長と呼ばれたこれまた屈強な男が、レビンの頭を即座にテーブルへと押さえつけた。
「痛ったぁい!! やめてよ!」
「やめないか、伍長」
 突然凛とした声が響き渡った。そして、カウンターの奥から長身の男が出てくる。すらりと伸びた手足、短く切り揃えられた金髪。そこらにいる野卑な連中とは違う落ち着いた佇まい。その男は連合防衛軍の軍服を乱す事無く着こなし、彼らに静かに語りかけた。
「た、隊長!」
「放してやりなさい」
「しかし……こいつは……」
「放せって言ってるじゃないのよぉ!!」
 レビンは上役がいる事を知って強気で抗っている。が、顔を下に抑えつけられている為に誰が命令しているのかは見えない。
「命令だ、伍長。放したまえ」
「はっ」
 長身の上官は、命令と言う言葉を使ってレビンの拘束を解く。押さえつけられていたレビンはようやく解放されて、長身の男を見上げる。
「あぁ! 痛かった! はっ……」
「悪いな……根はいい奴らなんだが……私がこの部隊の隊長だ」
「隊長……さん?」
 その瞬間、レビンはその隊長と呼ばれた男に釘付けになった。自分よりも背の高い、文字通りスラリとした痩せ型の体型。静かな物言いと、麗人と呼べる程の美形な容貌。
「この付近一帯は危険だ。早急に遠くへ避難したまえ」
「は、はぁ……」
「私も今からパトロールに出る。途中まで送っていこう」
「は……はい!」
 レビンは頬を赤らめながら、隊長をじっと見入っていて、何を言われているのか曖昧だった。
曹長、ここは任せる」
「はっ」
「軍曹、伍長、行くぞ」
「はっ!」
周りの荒くれ共に先程の醜態は微塵も感じられず、その隊長が通る所には全て敬礼を行う兵士然とした者達がいた。そして麗人の隊長は、呆ぉっとしてカウンターから動けないレビンに振り返りながら声を掛けた。
「さぁ、行きましょう!」
「か、かぁっこいぃ〜!」
 その涼やかな横顔で見られたレビンは、頬を赤らめ、上気してにやけながら、そう言った。

 翌日の朝になって、五人は周辺調査を行う事に決めた。Dボゥイとアキはジープに乗って、近場にある発電所施設に出発する所である。 
「ねぇ、どうして行かないの? レビン」
「あたしだって、忙しいの」
「いつもなら絶対付いていくのに?」
 ミリィの疑問に、レビンはコンパクトで化粧をしながらそう言った。いつもDボゥイに付かず離れずの彼が、何故か今日に限って同行するつもりは無いらしい。ミリィとノアルはグリーンランド号で留守を守る事にした。
「Dボゥイなんて目じゃないの! それにぃ、たまには二人っきりにしてあげなくちゃ。ねぇ、アキちゃん?」
「レビンったら……」
発電所までの地図だ。気をつけていけよ」
「ラーサ!」
「何かあったら、直ぐに連絡を入れる」
 Dボゥイはノアルから地図を受け取り、アキはいつもの返答と共にジープのエンジンを掛けて発進させた。今の所、ラダム獣の影も無く、この近くに電波障害になる様な状況は無い。
「いってらっしゃーい!」
 二人が出発するとミリィがそう言って手を振った。そして、ノアルはまだ化粧しているレビンに声を掛ける。
「夕べ、酒場に行って良い男でも出来たのかな?」
「あれぇ? 昨日帰ってきた時に言わなかったかしら? いたのよ! 良い男が!」
 ノアルはほんの冗談で言ったつもりだったが、レビンは完全に昨晩出会った男に惚れ込んだ様だ。それを聞いたノアルはからかい顔から呆れ顔に変化させながら問う。
「で、また行くワケ?」
「とぉーぜん! いってきまーす!」
 そう言うと、グリーンランド号の格納庫から自前の電動スクーターを出した。
「ラダム獣がきたら、どうする気だ?」
「そぉよ、危ないわよ?」
「だぁいじょうぶよぉ! ノアルとDボゥイが、助けに来てくれるんでしょ? その時は宜しくねぇ! ばいばーい!」
 独特なエンジン音を響かせて、スクーターに乗ったレビンは一目散にまたあの酒場へと向かった。
「うらやましいよな、あの性格」
「ですねぇ?」
 彼のその妙な行動力を二人は呆れ果てながら見送ったのだった。

 数十km離れた発電所では、廃墟と化した建物類を見てDボゥイとアキが息を呑んでいる。
「ひどい……ここまで滅茶苦茶にされてるなんて……」
「ラダム獣のせいだけじゃない」
「どう言う事?」
「この斬り口はアックスだ。奴がここに来たんだ」
 見れば、発電所の外壁らしき巨大な壁には、歪で大きな十字の斬り口があった。この技は離れていても相手を切り裂く技、アックスショットの跡に違いなかった。
「じゃ、やっぱりあの酒場の人達は……」
「あぁ、勝てない事が分かっていても戦う気なんだ、奴らは!」
 これでテッカマンアックスが再びあの町を襲撃する可能性は非常に高い事が分かる。Dボゥイ達は即座にあの町に戻って迎撃態勢を取るべきだと悟るのだった。 
「ぅんもぉ! 何べん言えば分かってくれるのよぉ! ラダムってそんなに甘く無いんだってばぁ!」
「何と言われようと、私達は逃げるつもりは無い」
 そして時刻は夕刻になろうとしたその頃、酒場ではレビンの懸命な説得が試みられている。酒場の男達は隊長の手前、レビンを無理矢理酒場から追い出す様な事はしない様だ。
「な、なんなの? あの音」
 その時、ブザーの様な音が酒場の中で鳴り響く。それを聞いた周りの男達は、顔色を変えた。場の雰囲気が変わった。昨日の髭の男はビールジョッキをゴクゴクと呷ると、
「へっ……来やがったか……」
 そう、静かに言った。その容貌は、死を覚悟した戦士の顔だった。
「遂に奴らが来た! 総員、戦闘配置!!」
「おぉぉっ!!」
 長身の隊長の言葉に、兵士達の雄叫びが巻き起こった。先程の音は町の少し離れた場所にあるレーダー施設からの警告音である。ラダム獣が襲来した時に響く呼子笛と言う訳だ。
曹長、お前の分隊はここでDフォーメーションだ」
「イエッサー!」
「軍曹、お前の分隊は外でVフォーメーション」
「イエッサー!!」
「伍長、お前の分隊は私について来い」
「イエッサー!」
「君は地下シェルターへ。早く!」
 隊長は適確な指示を出して、慌しく動く兵士達。そして最後にレビンに声を掛けた。ラダムが襲来した以上、最早レビンを遠ざける事は出来ない。地下にあるシェルターへの避難を勧めたが、
「いいえ、あたしも戦うわ。でも死ぬ為じゃないの。あなた達と生き残る為に!」
 そう、レビンははっきりと応えた。一般人ならラダムが来たと聞けば直ぐに逃げ出すのに、この女の格好をした男は逃げないと言う。隊長は彼がスペースナイツの一員だと言うのはあながち嘘ではないと悟った。
「準備出来ました!」
防衛軍の野戦服を着て、身の丈と同じ位の巨大なレーザーライフルを持った伍長が傍に来て言った。
「よし、城跡に着き次第、ニュートロン砲を出せ」
「イエッサー!!」
「私と来たまえ」
「はいっ!」
 レビンと隊長、そして伍長の小隊は直ぐ様駆け出した。
「来たか!」
 そしてグリーンランド号の運転席で待機していたノアルとDボゥイも、ラダムの襲来を感知した。しかし後部ブロックへと駆け出そうとしたDボゥイを、ノアルが何故か止める。
「待てDボゥイ! お前はまだだ」
「何故だ!」
発電所をやったのは、アックスだって言ってたよな」
「あぁ」
「また来るかも知れねぇ。だったらギリギリまで、お前は待つんだ。俺がやばくなったら、合図を送る。それまでは此処を動くな」
「しかし、ノアル一人じゃ!」
「無理はしねぇって! 30分経ってからアックスが来たらたまんねぇだろ? 奴らを思うお前の気持ちは良く分かる。だからこそ今は耐えるんだ」
 自分が時間稼ぎするから、待機しろと言うノアル。彼の言う通りだった。タイムリミットが来てからアックスと交戦では敗北する可能性が強くなる。
「俺を信じろ! Dボゥイ」
 そうもう一度強く言うと、ノアルは後部ブロックに向かい、ソルテッカマンを装着して出動した。
「第二分隊、準備完了! 敵影無し!」
 地上の歩兵部隊であるマルゥ軍曹は巨大な20mmガトリングガンを構えながら、通信インカムでそう叫んだ。
「屋上レーザー砲準備完了! 上空に敵影!!」
「まだだ! 出来るだけ近くまでおびき寄せるんだ!!」
 酒場を要塞に見立てたゴードン曹長は、そう指示してギリギリまでラダム獣を引き付ける。
「あれは!?」
 そして交戦が始まった。上空で青色の対消滅爆発による、花火の様な戦火を見て隊長は声を上げた。
「あたしの仲間が、ラダム獣と戦ってるのよ!」
「じゃ昨日の!」
「えぇ!!」
 レビン達は酒場から数km離れた古城に来ている。上空の対消滅爆発はソルテッカマンの攻撃による物だ。
「ちっきしょおッ!!」
 ソルテッカマンであるノアルは脚部のスラスターを全開にして、建物の屋上から屋上へと着地しながら空中戦を展開していた。空は飛行ラダム獣の編隊で夜空が覆われる程の数が群がっている。
「何て数だ!! キリが無いぜ……!」
その戦闘はグリーンランド号からでも垣間見える。
「くっ……!」
 激しい戦火を見て我慢するしかないDボゥイは、運転席で歯噛みする。未だノアルからの通信はない。
「撃てぇ!!」
 そして町の地上部隊は陸上型のラダム獣と交戦を開始した。 
「ひるむなぁっ!! 撃って撃って撃ちまくれぇ!!」
 歩兵部隊が、大口径のレーザーライフルを撃ち鳴らし、マルゥ軍曹はガトリングガンを乱射した。20mmのアーマーピアシング弾が唸りを上げて陸上型ラダム獣へと集弾する。意外にも現行の武器よりは効果があるようだが、やはりラダム獣の皮一枚を削る位の事しか出来ない様だ。曹長と軍曹は、次々と襲来する巨大な蜘蛛の化け物と激しい交戦を繰り広げていた。
 そしてレビン達は古城に辿り着き、設置してあるエレベーターを降りた。
「伍長! エネルギー制御室へ三人回せ! 後は屋上で待機!」
「イエッサー!!」
 五人の兵士達はそのままエレベーターに乗って所定の位置へと向かう。どうやらこの古城は中身を大幅に改築されているらしい。地下には核融合プラント、そして、
「ここは?」
「ニュートロン砲の格納庫だ」
「ニュートロン砲?」
 目の前にはエレベーターに乗った10数メートルに及ぶ大きな砲が設置されている。固定砲台としてはかなり巨大なもので、地下の融合炉と直結した物であるらしい。
「地下核融合発電プラントから、高速中性子と熱線を増幅させ発射する」
「そんな、無茶よぉ!!」
 メカに詳しいレビンは、その巨大なレーザー砲がどれだけ危険な物かを一瞬で理解した。融合炉と直結した砲は連射には向かず、一度しか撃てない決戦兵器だった。更に言えば有り余る余剰エネルギーで暴発の可能性もある危険な武器だったのだ。
「奴らを倒すにはこれしかない」
「でもそれじゃ貴方達だって!」
「覚悟の上だ。死んでいった仲間の恨みを晴らせるなら……」
「晴らしてどうすんのよぉ!! そんな事して、死んでいった仲間達が喜ぶとでも言うのぉ!?」
「私は全力を尽くすだけだ。結果は誰にも分からん」
「あたしが絶対、死なせないわ!」
 ニュートロン砲の台座には照準用の簡易コクピットの様な物が設置されていて、長身の隊長はレビンの反対を押し切って乗り込もうとしている。
「一つ言っておくが……」
「え……なに?」
「私は、女だ」
「えぇ!? 嘘ォ!!」
「嘘ではない。私の名はアンナ・ホワイト」
「信じられない!」
「これを見たまえ」
「これが……貴女?」
男装の麗人であるアンナは、レビンに懐中時計を見せた。時計を開くとスカートを履き、防衛軍の仕官と寄り添いながら映っているアンナの写真がある。
「あぁ」
「こっちの人は、恋人?」
「だった……」
「だった?」
「死んだ。敵のテッカマンに襲われて」
時計を仕舞い、ニュートロン砲に乗り込むアンナ。それを呆然としながら見るレビン。もうこの巨大な砲を撃つ決心は既に固まっている様だ。しかしレビンにはまだ一つ疑問があった。
「でも、何故貴女は女を捨てなきゃならなかったの?」
「恋人が死んだからではない。千人以上いた仲間達の仇を取るには、兵士として生きるしかなかった。そして、生き残った仲間達も、そんな私に付いてきてくれた」
「ふぅーん? 健気ねぇ?」
 少し嘲る感じでレビンは言う。その態度が癇に障ったのか、アンナは少し憤った様だ。
「どういう意味だ?」
「気持ちは、っまぁ、分からないでもないけど、だからって、無理して男の振りをする必要も無いんじゃない?」
「君だって、無理して女の振りをしているではないか」
「ブーっ! 残念でしたぁ! 私は好きで女になったの!」
ニュートロン砲は副座式になっているらしい。アンナが砲の制御座席に乗ると、レビンはレーダーやミサイル発射を統括する前部席に座り、コックピットを保護する様なガラスのキャノピーが閉まる。
「……この方が、自由になれるからねぇ」
「自由に?」
「あたしって、小さい頃から料理とかお裁縫とか洗濯が、大好きな男の子だったの。だからかなぁ……女に生まれれば良かったって、いつも思ってたのよねぇ」
ニュートロン砲が昇降エレベーターで格納庫からせりあがって行く。その間、レビンの話をアンナは黙って聞いている。
「他人には色々言われるけど、あたしは平気! だってこれが一番自分に、素直な姿なんだもん」
「だから私にも、もっと素直になれ、と言いたいのか?」
「さぁねぇ? でも惜しいわぁ。貴女がホントの男だったら、あたしマジで惚れちゃったのに」
 そして、ニュートロン砲が古城の屋上部分へと到達した時、警告音が鳴った。制御座席の通信モニターに、血相を変えたゴードン曹長の顔が映る。映像は妨害電波があるせいかノイズ混じりだった。
「どうした!?」
「奴です!! 奴が来ました!!」
 次に映ったのは、あの斧の悪魔である。彼は搭乗型のラダム獣に乗って襲来してきた。
「奴だ……!!」
テッカマンアックス!!」
 遂に敵のテッカマンが攻撃を開始した。しかしこの時点でまだDボゥイはアックスが来た事を知る術は無かった。指揮官が乗る搭乗型ラダム獣が放つ妨害電波で数km位の距離なら通信も辛うじて使えるが、街の郊外にいるグリーンランド号までは通信が途絶した状態になっていたのだ。
「ぬぅぅうう!! つえぇぇぇっ!!」
光の刃を放って暴れまわるテッカマンアックス。善戦していたゴードン曹長やマルゥ軍曹だったが、ここで一気に劣勢に追いやられていた。
「奴だけは逃がすな!!」
「死にやがれぇぇっ!!」
 今自分達が出来るのは、敵のテッカマンをこの要塞酒場に引き止める事だった。そして彼らは、切り札であるニュートロン砲を町に直撃させ、諸共に死する覚悟だったのだ。
「ゴードン! マルゥ!!」
「隊長ぉぉっ!! 今です!! 撃ってください!! 奴が……仇が目の前にいるんだぁっ!! 隊長ぉっ!!」
 ノイズ混じりの通信で、ゴードンがガトリングガンを撃ち鳴らしながら叫ぶ。
「俺達の事は、考えるな! 早く! 早く撃つんだ!! アンナァァァっ!!」
 アンナは仲間の悲鳴の様な叫びを聞いて逡巡した。今撃てば確かにアックスに致命傷を与えられるだろう。しかしそれは仲間の全滅を意味していた。
「うわっはっはっはっは!!」
「これ以上は持たん……ためらわずに、早く撃ってくれぇぇぇっ!!」
 テッカマンアックスの哄笑が響き渡る。20mmのアーマーピアシング弾はやはり敵テッカマンにかすり傷一つ負わせる事は出来ていない。そして、身体中に巻いた弾帯を全てガトリングから撃ちだしていたゴードンは、回る銃身がガキンガキンと空撃ちの音を立てた時、死を覚悟した。
「どぉした、弾切れか? ならば死ねぇぇいっ!!」
 テッカマンアックスが持っているランサーを高く掲げた。
「……っ!!」
「アンナ!?」
そしてその時、レビンの制止も聞かずにアンナは制御レバーを操作してトリガーを引いた。
「うぉっ!! なにっ!!」
 夜空を貫く様な、強い光が迸った。それはブレードのボルテッカ程ではないが、上空にいる飛行ラダム獣の一角を確実に消し去っていった。
「Dボゥイか!?」
「合図だ!!」
 その強い光を見てノアルはブレードのボルテッカだと思い、グリーンランド号に待機していたDボゥイはその光をノアルからの合図だと思った。
「奴が来るぞぉ! 応戦態勢を取れ!! ニュートロン砲を守るんだ!!」
「イエッサー!!」
「すっごぉい!! これならアックスだって!!」
「しかしチャージに10分も掛かる。今敵に仕掛けられたら!」
「奴がそっちへ向かいました! 何故作戦通りに俺達を撃たなかったんですか!?」
 彼女は曹長達を犠牲にして作戦を遂行しなかった。通信モニターでゴードンがそう疑問を投げつけてきた。
「作戦変更だ! これより、生きる為の戦いを命ずる!」
「しかし……」
「生きていれば、いつかは奴を倒すチャンスが来る。いいな、曹長、これは命令だ!」
「い、イエッサー!!」
 ゴードン曹長は、敬礼しながら通信を切った。死ぬ為の作戦など、本当は彼らだって馬鹿げていると思っていたのだ。だから、これからは生き残る為の戦いを行う。例えそれが命令と言う形だったとしても、ゴードン曹長は指揮官であるアンナを信頼しているのだ。
 そして前部座席にいるレビンに指示を出した。
「ミサイルのナビゲートを頼む」
「イエッサー! 前方のラダム獣、距離5㎞! 一時の方向にアックス!!」
「エネルギーチャージ続行! ミサイル発射!!」
砲の上部に設置されているランチャーから、二発ずつ発射されるミサイル。計四発のミサイルは勢い良く空中を飛ぶテッカマンアックスへと飛来する。
「小賢しい真似をしおってぇ!!」
一瞬、アックスのランサーが煌く。音速の振り下ろしは、一撃で四発を同時に斬り裂いた。
間近に接近してきたアックスから、直ぐにニュートロン砲に向かって追撃の一撃が放たれる。今度は光の刃を放ってきた。アンナもレビンも、砲を護衛していた伍長も、その光刃がニュートロン砲のコックピットを直撃すると思って死を覚悟した。
ドォンと言う音の数瞬後、ニュートロン砲のコックピットはアックスショットの余波でキャノピーが全壊したが、中にいたレビン達は無事である。間一髪、レビン達は光刃の直撃を免れていた。そしてニュートロン砲の傍らには白い槍が突き刺さった。
「Dボゥイ! 遅いじゃないのよぉ!!」
 レビンが叫ぶと、白い槍はテックワイヤーで回収された。そして、高機動チャージであるクラッシュイントルードが残存のラダム獣を掃討し始める。飛行ラダム獣や陸上ラダム獣はその攻撃でほぼ全滅に追いやられた。
「ブレード!?」 
テッカマン!! ブレード!!」
 テッカマンブレードが高らかに叫ぶ。テッカマンブレードは、アックスがレビン達を狙って攻撃を仕掛けた時、テックランサーをアックスが乗るラダム獣に投擲して、その攻撃をほんの少し逸らしたのだ。
「あれが!テッカマンブレード!!」
「そぉよ! カッコイイでしょ!!」
 噂に聞くテッカマンブレードを目にしてアンナは驚いている。まさに鬼神、魔神の様な戦いぶり。人類の救世主と言われる事を、素直に頷ける。
 そして空中でのテッカマン同士の戦いが開始された。
「聞けぃブレード!! こいつらを生かしておいたのは、お前をおびき寄せる為だ!」
「なんだとぉっ!!」
「ここならランサーもボルテッカも、思う様に使えまい!!」
 アックスとブレードが打ち合う。実はノアルが防衛軍兵士を囮にして敵を誘き寄せるのも、アンナが自分達を囮にして敵を呼び寄せるのも、アックスがわざと彼らを生かしておいてこの場所を戦闘地帯にするのも、全て思惑が同じ様に重なっていた。
 そしてアックスが設定したこの戦闘ステージは、遮蔽物が多い市街地である。近接格闘に特化した彼ならではの作戦だった。以前のイラン・イラクの紛争地帯の様に、ブレード特有の俊敏な高機動戦闘と長射程ボルテッカは封じられる事になる。
 アックスはそのまま打ち合った状態から、ブレードを渾身の力で弾き飛ばした。
「砲が!!」
 飛ばされたブレードはニュートロン砲の砲身へ落着した。これでチャージを終えたとしてもニュートロン砲は撃つ事も出来なくなった。
「その甘さが命取りとなるんだ、タカヤ坊! ぬぅっ!?」
 アックスは古城の屋上へと着地してブレードに歩み寄ろうとしたが、其処へ銃撃が走った。アンナとレビンがレーザーガンを構えてブレードを援護している。
「させるかっ!!」
「大丈夫!? Dボゥイ!!」
 そして更にアックスの背後には城砦の一部から伍長が長大なロングレーザーライフルを構えて撃った。
「くたばれぇっ!!」
「ぬぅぇいっ!!」
 その攻撃を受けつつアックスショットを伍長に放つ。城砦が粉々に切り裂かれ、屋上から落とされる伍長を、空中で何とか受け止めるのはソルテッカマンだ。ノアルも全てのラダム獣を掃討して、決戦場であるこの古城屋上へと駆けつけたのだ。
「遅くなって悪い、Dボゥイ! 野郎ぉっ!!」
「貴様はガラクタ! くたばれぇいっ!!」
 アックスは振りかぶると、光刃をソルテッカマンに放つ。
「うぉっ!!」
 ノアルはその攻撃をまともに受けてしまうが、その打ち込んだ後の隙をテッカマンブレードは逃さなかった。アックスのテックランサーにテックワイヤーが巻きつき、牽引してテッカマンアックスから武器を奪い取る。
「ぬぅっ!! しまったぁっ!?」
「おおぉっ!! てやぁっ!!」
ニュートロン砲の残骸から飛び出る様に出現するブレード。テックランサーでアックスの顔を強かに何度も叩いた。激しい攻撃の後に、トドメと言わんばかりの飛び蹴りがアックスの腹部に叩き込まれる。
 飛び蹴りで距離が数メートル離れると、テッカマンアックスは思念で搭乗型のラダム獣を呼び、そのまま飛び乗ってブレードから急速に離れていく。
「アックス! 逃げる気か!?」
「逃げるのではない! 楽しみを次回に取っておこうと思ってな! ふはっはっはっは!!」
 戦闘場所を間違えたワケではない。しかしこの場は対等に戦うには邪魔が多過ぎる。そう思って、捨て台詞の様な哄笑を響かせテッカマンアックスは去っていった。
「待て!! アックス!!」
「惜しかったな。あと一息でクリスタルを奪えたのに」
「あぁ……そう簡単に勝てる相手じゃない」 
 ソルテッカマンに肩を叩かれたブレードは、そう応える。奴を倒すのは一筋縄ではいかない。それはテッカマンブレードであるDボゥイが、一番良く理解していた事だった。
「アックスは、いつか私達が力を合わせて倒してみせる、必ず! だから……アンナ達も、生きる為に戦って!!」
 それを見て、レビンはアンナに力強く、そう言った。男らしからぬ横顔ではあるが、レビンの力強さがアンナに伝わった。そして、それを聞いたアンナは、一筋だけ涙を流した。
「アンナ……」
「死んでいったあの人や、みんなの分も生きるさ。レビン達の様に、生きる為に戦っている仲間の為にも」
 もう自暴自棄な戦いはしない。惨めでも、例え敗北を喫しても、どんな事をしてでも仲間と共に生き残る、強い意志をレビンはその涙から感じた。
「それともう一つ。女は女らしく!」
「レビンはレビンらしく!」
「そうね!」
そう言い合って、二人は堅い握手を交わした。
「いつか、また会える日を楽しみにしているわ!」
「あたしもよ!」
 そんな二人を、生き残った兵士達とDボゥイ達が見た時、夜が白み始めた。明けない夜は無い。
こうして仲間の仇を取る為だけに存在した復讐の街は、その役目を終えた。しかしスペースナイツの、Dボゥイ達の戦いは、ますます熾烈を極めていく事になるであろう。


☆さてはて、えー今日の反省会ですが。反省が多過ぎて何から話せば良いのやら。まず今回の話は脚本以外全て板野一郎さんが作ったと言っても過言ではない、一つの作品の様なもの、と言えるでしょうか。この時は現役敏腕アニメーターだった板野さんがテッカマンブレードに関わると言うのは良くも悪くも凄い事なのですが、どうにもこうにも描写に納得のいかない部分がありまくり。まず、劇中ではラダム獣が凄く脆い。歩兵の武器でも撃破している描写があって「ひゃーどうしてくれんねん!」とか思っちゃいました(笑)序盤でノアルが「ラダム獣一匹まともに倒せない軍が〜」って言ってたのに、歩兵の武器で撃墜される飛行ラダム獣とかいてどうしてくれる、と言う感じでした。
ニュートロン砲がレビン曰く使うのは無茶だ、と言う言動も良く分からない。使えばボルテッカに匹敵する程の超兵器だと言うのも納得行かない。凄いじゃんニュートロン砲。防衛軍の本部基地に何故これが無かったのでしょうかと凄い不思議です。
あと基本的に戦場を選ばないテッカマンブレードに対して、アックスが「ここではボルテッカもランサーも思う様に使えまい」と言うのも何か良く分からない。ちゃんと戦えてるし問題無さそうでしたが。うーん一体今回の脚本にしろアニメにしろ、どう言う事なんだろうかと不思議な点ばかりが目立ちました。
多分31話を作る上で話の詰めをちゃんとしてい無かった事、板野さんが前の話を見ていなかった事、等が考えられます。動画評価はさすが板野さん、しつこいほどに描き込んでいますね。特に穴だらけになって死ぬラダム獣が見ていて最高でした(笑)だから撃破しちゃ駄目だってば!!