第32話 待ちわびた少女(1992/9/29 放映)

グロリア怖いですw

脚本:千葉克彦 絵コンテ:澤井幸次 演出:鈴木吉男  作監&メカ作監:須田正巳
作画評価レベル ★★★★★


第31話予告
ラダム樹の森が迫る中、古城に住み続ける少女とロボット。琥珀色の迷宮の中でDボゥイ達が見たものは。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「待ちわびた少女」仮面の下の涙をぬぐえ。


イントロダクション
連合地球暦192年5月6日、スペースナイツ基地は地上から姿を消した。荒廃した地上で人類は来襲するラダム獣の前に、恐怖の日々を送っていた。そして、五ヶ月の放浪を経て、アキ達と再会したDボゥイは、ラダムの基地がある月面へ向かうパワーを得る為に、地上に降りたアックス・ソード・ランスの持つクリスタルを求めて、旅を続けていたのである。


 相変わらずのラダム樹の森をひた走るグリーンランド号。鬱蒼と生い茂る、と言うには余りにも醜悪な形をしているラダム樹を見て、アキは溜息を吐きながら言う。
「ラダム樹の森、広がる一方ね……」
「広がるだけ広がって、どーなっちまうんだろうなぁ」
 ノアルも、アキに同調する様にそう言った。数ヶ月前よりも、更に醜悪になったラダム樹は、森と言うより既に湿地帯と言っても過言ではない程に、液状化してその範囲を徐々に徐々に広げていっている。
 グリーンランド号は今現在、西ドイツ地方からフランスに渡る国境付近を通過した場所、ヴォージュ・デュノール地方にいる。其処はある意味近代的な街には縁遠い、田舎の田園風景が広がるはずの場所だった。
 突然、運転席真後ろに備え付けられたコンピューターコンコールから警告音が鳴る。周辺の地形やグリーンランド号が通れる部分を探してオペレーターをしていたミリィが、それを見ながら言った。
「レーダーに反応、森の中から何か出てきます! それも多数! こちらに向かって接近中!」
「なんだって!?」
「あれは!?」
 運転しているノアルが声をあげ、Dボゥイも視認出来る程の数百メートル先に、ラダム獣の群れがぞろぞろと蠢いている。グリーンランド号を止めて、二人は戦闘準備を行う為に後部ブロックへ駆け込もうとしたが、
「待って! あれを見て!!」
 レビンがそう言ってノアルとDボゥイを止めた。見ると、蠢いていたラダム獣の群れはグリーンランド号に接近しようとしていたわけではない様だ。群れは近場にいるグリーンランド号に目もくれず、そのまま地中に穴を掘って埋まろうとしている。蜘蛛型の陸上ラダム獣は、大気圏突入する為の形態、つまり繭の様な形になり、ピンク色のツタを地面にめり込ませた。これが彼らの「根」であり、この形態自体が「球根」なのだろう。
「これから……植物形態になるんだわ……」
「直に見るのは初めてだけど、こういう風になるワケ……!」
 今までどんな組織よりも先んじてラダム獣の研究を行っていた彼らでも、ラダム獣が植物の球根になるその瞬間を目の当たりにした事は無かった。確かに獰猛で危険なラダム獣を捕獲して、球根形態になるまで眺めているワケにもいかないだろう。
「元を断たなきゃ始まらねぇか……雑魚を相手にしててもしょうがない。日暮れも間近だ、先へ進もう」
 ノアルは今の現状を払拭する様に建設的な意見を言った。そして、窓から見上げてみると小高い山の上に古い城がある。中世風の宮殿の様な城は、今にもラダム樹の森に侵食されようとしている。
「へぇ……あんな所に城が。行ってみようぜ、今夜の宿に、もってこいだ」
「まだ誰か住んでるかもしれないわよ?」
「なら、尚更だ。立ち退いた方が良いって忠告してやらなきゃ。このままじゃ、ラダム樹の森に飲み込まれるのも、時間の問題だぜ」
 アキの言葉に、そう応えると、ノアルはグリーンランド号を動かして山道を登っていった。
 城の入り口らしき場所まで来ると、五人とペガスはトレーラーを降りて大きな門の前で改めてその城の威容を見上げる。木の門の上には騎馬に乗った騎士の美しいレリーフが施され、城の周りには小さいながらも立派な堀がある。
 レビンは小ぶりな橋を渡り、門の前で城に呼び掛けた。
「もしもーし! ……誰もいないのかしら?」
 レビンは出来るだけ大きな声で呼び掛けたにも関わらず、返事や反応は無い。
「ペガス! こっちに来い!」
「ラーサー」
 ノアルが呼ぶと、ペガスが重い足音を響かせて門の前に来た。
「どうするの?」
「こうするんだよ。ペガス、この扉を開けるんだ」
 アキの疑問に、ノアルがそう応えた。どうやらペガスのパワーで門を無理矢理壊して開けるつもりの様だ。
「ラーサー」
「止しなさいよ! ペガス、開けちゃ駄目!」
「ラーサー」
 すかさずアキが止めに入って、門を開けようとしたペガスがその腕を止める。しかし、
「開けるんだペガス」
「ラーサー」
 またノアルの命令がペガスを動かす。更にまたアキが止める。
「駄目よ!」
「ラーサー」
「開けるんだ!」
「ラーサー」
「駄目よ!!」
「ラー……? 」
 アキとノアルの繰り返しの押し問答で板挟みになり、遂にペガスが目を回す様に左右のカメラアイが点滅した。自分はどうすれば良いものかと、その指は頭を指して混乱している。
「二人とも止めてよ! ペガスが困ってるじゃないの! うぁっ!?」
その時扉の裏側で何かの音が鳴る。鍵を開けた音だ。突然の事で扉から慌てて離れるレビン。少しずつ開く扉を見て息を呑む五人。
「こ、これは……」
 扉を開いたのは少し古めの外観をしたロボットだった。全身黒光りするボディ、頭部にはセンサーアイの類がある無骨なメカがガラスのケースで覆われている。人間よりも明らかに大きな巨体ではあるが、2.7mあるペガスよりは小さく、腕の先端には三本の指で構成された器用そうなマニピュレーターがある。
「当城ヘノオ客様デゴザイマスカ?」
黒いロボットはセンサーと口にあたる部分を光らせてそう音声を出した。意外にも流暢な英語。それを見たペガスはセンサーアイを光らせ、ロボットもそれに返事する様に、まるで共鳴する様にセンサーを光らす。
「オ客様ナラ御案内セヨト、仰セツカッテイルノデスガ」
 そして黒いロボットの言われるままに五人とペガスは城の中を案内された。外壁から庭を挟んで、本館に入ろうとする最中に、アキはノアルに声を掛ける。
「ノアル……」
「大丈夫だって! 折角のご招待だ。受けなきゃ悪いだろ?」
「そぉーそ!」
 アキは漠然と遠慮したい気持ちだったが、応えた二人は至極気楽だった。
 石像が立ち並ぶ通路を歩いている最中、黒いロボットは後ろから付いてくるペガスを見つつ、傍らで歩いているミリィに声を掛けた。
「私ハ自分ノ仲間ニ会ウノハ初メテデス」
「貴方の方が賢そうね。お名前は?」
「私ハ、ロビィト言イマス」
 本来、ロボットと言うのはこう言った、何かに対しての反応や感想を言う自発的な機能は制限される。だが、このロビィと言うロボットは人と円滑に会話する為に、かなり高度な人工知能が備えられているらしい。
「宜しくね! ロビィ!」
 ミリィはそう言ってロビィに笑い掛けた。
 中庭の通路から本館へと渡る時、外観を見た面々は嘆息するように声を上げる。
「素敵……!」
「コイツは……時代モンだぜ……」
 まだ館内に入っていないにも関わらず、中庭にあるテラスには一級の調度品が其処彼処にあった。円柱に備えられた明かりや天井から降りたシャンデリア。ドアは何故か3m以上の大きな物ばかりで、中央には布を携えた天使の胴像が飾られている。
「時代モンって言うなら、彼の方よ。あのボディは半世紀前のモデルよ? まぁ中身は、かなり弄ってるみたいだけどねぇ」
まだ初期の人工知能が開発された段階のモデルだとレビンはロビィの構成を一瞬で見抜いた。50年以上前のボディであると見抜けたのは、彼がメカニックである以上にロボットと言うモノに心酔しているからであろう。
そんな会話をしていると、突然ロビィは立ち止まった。ノアル達に振り向いて話していたレビンはロビィにまともにぶつかってしまう。
「コチラデ、オ嬢様ニオ会イクダサイ」
「お嬢様?」 
そう言ってロビィは一際大きい白い扉を開く。中に入ると二階に繋がる広場と階段があるが、これもまたかなり大きい代物だった。階段は踊り場を経て左右の部屋に行く事が出来る構成、所謂振り分け階段と言うモノだ。白い壁面やモノクロチェックで構成された床は、宮殿にある様な大理石で構成されている。
階段ホールを訪れた彼らから、またもや溜息がこぼれ、ノアルは口笛を鳴らした。上級階級出身である彼ですら、この構成には息を呑んでいる。
「すっごぉい!」
 レビンが思わずそう口を開いた時、女性の、それも若い声が階段ホールに響く。
「まぁ! ロビィ! やっぱりお客様だったのね?」
そう言って少女が、微笑みながら階段を降りてくる。スカートを少しだけ持ち上げながら、見知らぬ少女はスペースナイツの面々の前までゆっくりと、上品に軽やかに歩きながらやって来た。
一瞬、ノアル達は旧世紀にあった古い映画に出てくる様なワンシーンをリアルに垣間見る。彼女の出で立ちはこの連合地球暦には似つかわしくない、宮廷貴族のそれである。碧色の豪奢なドレス、そしてエスコフィオンと呼ばれる被り物。15世紀のフランス貴族がしていたその姿は、彼女の動作や周りの調度品と相まって、至極美しい雰囲気を醸し出していた。目の前まで来た少女にしても、その容貌は可憐と言っても過言ではない。
「ようこそ、私どものお城へ。私、グロリアと申します」
「私、ミリィです。宜しくね?」
 雰囲気に呑まれていた面々だったが、ミリィは自分と同年代の少女を見てほっと安堵しながら、そう語り掛けた。その言葉に、グロリアは微笑みを返す。
薄暗い厨房でお茶を淹れるロビィ。彼の指はかなり繊細な作業も可能な様である。そして応接間に通された面々はグロリアと対面しながら椅子に座って話をしている。
「構いませんのよ? どうぞお好きなだけ、ここに泊まっていってくださいませ」
「あの、貴女の他にどなたかいらっしゃらないのかしら?」
 グロリアの言葉に、アキがそう言った。この城でまだロビィとグロリア以外の人影を見ていない。
「本当は、お爺様が皆さんをおもてなしするべきなのですけど……お爺様、近くの街に用があると出掛けたきり、戻ってきてくださらないのです……」
グロリアはそう言って少し表情を暗くした。そんな彼女にミリィが話しかけた。傍の壁にはこの城の主人であるグロリアの祖父の肖像画がある。
「いつ頃出掛けたの?」
「あれは……半年ぐらい前でしょうか……」
「半年!? そんな前に?」 
「ラダムが大規模な攻撃を仕掛けてきた頃か……」
「ラダム樹の森が、一斉に変化を見せた時ね」
ノアルがそう言い、アキはスペースナイツ崩壊直後にラダム樹が湿地帯化した事を語った。
「じゃあ、今は貴女一人なの?」
「いいえ、ロビィが一緒です」
 ミリィの言葉に、グロリアは寂しくないと言う感じで言った。その時、応接室の扉が開いてロビィがカップが乗ったワゴンと共に入って来た。
「オ待チドウ様デス」
ロビィは巨体ながらも、テーブルに置かれたカップに三本指で器用にお茶を淹れた。
「ドウゾ」
「あ、有難う」
 レビンがそれを戸惑い気味で受け取った。紅茶は一切カップからはみ出す事も溢れる事も無い。
 ノアルがそれを横目で見つつ、グロリアに声を掛ける。
「なぁ……お嬢さん。この城を出て、お爺さんを探しに行ったらどうかな?」
「どうしてですの? お爺様が戻ってくるまで、城を留守にするなんて出来ませんわ。そう、お爺様と約束したんですもの」
「……城の周囲に、奇妙な森が出来ているのは気付いているだろう?」
今度はDボゥイが控えめに言った。ノアルにしてもDボゥイにしても、このまま彼女をここに住まわすワケにもいかないだろうと思っている。
「昔は……あんなモノ無かったのに……」
「あの森、どんどん広がっているのよ? その内この森も飲み込まれてしまうわ」
「そんな事、信じられませんわ」
 グロリアはアキの言葉にきっぱりとそう返した。彼らの勧めを拒絶・否定する、それはある意味、世界の情勢から隔絶した場所にいる事を示している。彼女は周りや今の世界がどうなっているのか全く理解していないらしい。
「グロリア、君のお爺さんは、もしかしたら……」
「ノアル」
 ノアルは、そんな彼女を見て、彼女の祖父はもう戻ってはこないのでは、とはっきり口に出そうとしたが、アキがそれを止めた。10代半ば、それに箱入りのお嬢様である彼女に、そんな事をいきなり言うのは性急過ぎると思ったからだ。
「さぁ、お話は夕食の後に続けましょう? ロビィ、お部屋にご案内して? そうね……北の塔のお部屋がいいわ」
「分カリマシタ。ドウゾコチラヘ」
 グロリアはそんな彼らの態度を知ってか知らずか、とりあえず一旦彼らをもてなす事に決めた。今現在この城の主人はグロリアであり、ロビィはそれに従順だった。
「ミリィさん?」
「あ、はい?」
「ちょっと私のお部屋へいらっしゃいません? 多分、私のドレスが合うと思うの。貸してあげられるわ?」
 案内されようとした面々の一人に、グロリアは声を掛けた。確かにミリィは少女と同じ背格好をしている。
「え……でも」
「そうねぇ! やめておいた方がいいわよぉ? ミリィにドレスなんて似合いそうにないもの!」
「そんな事ないわよ! お願いするわぁ、グロリア?」
 恥をかく前に止めておけとレビンは言うが、レビンには怒り顔で、グロリアには笑顔でミリィはそう応えた。
「あ、ちょっとミリィ!」
「べーっ!」
「んもぅ……似合いっこないのに!」
 表情がくるくる変わるミリィを目にして、レビンはそんな風に言うのだった。
「ウワォ? ゴージャスじゃない!」
 北の塔と呼ばれる場所に来たレビン達は、寝室へと案内された。部屋は一級品のホテルの様な内装であり、カーテン付きのベッドが備えられている。部屋は良く手入れされている様であり、一筋の埃も一切無い。
「うわぁっ……私ここに決−めた!!」
 更に隣にはもっと広い寝室がある。夕刻近くでありながら、部屋の窓は大きく光を取り込み、カーテン付きのダブルベッドや豪奢なソファーのある部屋を見て、レビンはそう声を上げた。どうやら先程入った部屋は主人に付き従う従者専用の部屋であり、奥のこの部屋が本当の客室の様だ。どれを取ってもグリーンランド号に備えられている簡易寝台とは比べ物にもならない部屋であり、今夜はゆっくり高級感に浸れながら寝れそうだ、とレビンはベッドにダイブしながら感動している。
「御自由ニオ使イクダサイ」
「やったぁ!!」
「皆サンノオ部屋モ、奥ニ続イテオリマス」
 そんな部屋を一人一部屋と言う寛大な厚遇を受け、残りの三人も部屋に案内されたが、通路に立っているペガスは部屋のドアをくぐる事すら出来ない様子だ。
「貴方ハ無理ノヨウデスネ。広場デ、オ待チ願エマスカ」
「そぉしとけ、ペガス」
「ラーサー」
 ノアルの勧めに、ペガスはそう応えて先程の階段ホールへと向かった。
「夕食ハ六時ヲ予定シテオリマス。ソノ前ニシャワー等浴ビテ、オクツロギクダサイ」
「サンキュー!」
ソファーに座ってくつろぐノアルは、出て行くロビィにそう声を掛けた。
「見た目はごついが、なかなかの執事ぶりだな」
「あたしもああいうの、一台欲しいわぁ」
 ベッドに腰掛けながら、レビンはそんな風に言ったが、アキは正直今の現状を楽観していない。
「そんな事より彼女、グロリアよ」
「少し……風変わりな子だな」
 Dボゥイはそう言いながら窓の傍へ近付く。北の塔と呼ばれるこの部屋は、ラダム樹の森が見下ろせる程に高い位置にあるらしい。
「なぁに、お城に住むレディーなんてあんなモンだろ。だがな……どう思う? Dボゥイ」
「死んでしまったんだろうな……彼女のお爺さんは」
「それだよ……彼女を説得して、この城から連れ出さないと」
「出来る事なら……彼女を傷つけない様にしたいわね」
「あぁ……」
 ラダム樹を見ながら、Dボゥイはそんな風に、静かに言った。
 その頃、グロリアはミリィを自室に案内していた。様々なドレスが収納されている部屋はDボゥイ達が案内された客室とは違い、高い天井の広い部屋だった。壁に内蔵されているクローゼットの引き戸もかなり大きい。そしてクローゼットの中には、色取り取りのドレスが仕舞われている。
「さぁ、好きなのを選んでみて?」
「わぁっ! すごぉい!! これ、みぃんな貴女の?」
「えぇ。そうね……これなんかどうかしら。着てみて?」
「えぇ!」
 グロリアはその中から、ピンク色のドレスを出してミリィに渡した。そして、窓際のタンスの上にある小箱から、一つネックレスを取り出す。箱は開くと同時に、日傘をした貴婦人の人形がくるくると回りながらせりあがり、オルゴールを鳴らせる。
「うん、これがきっと似合うわ!」
「でも……いいの?」
「私ね? 自分と同い歳位の人と会ったのは、初めてなの」
「え?」
「ミリィさん、私とお友達になって、いただけませんか?」
「さん付けはよして? ミリィでいいわ」
「ありがとう、ミリィ!」
そう言って笑いあう少女達。小箱のオルゴールは室内に鳴り響き、貴婦人の人形は傘を差したままくるくると踊る様にずっと回っていた。
 夕刻になり、各々は部屋に備えられたシャワーを浴びてリフレッシュすると、丁度食事の時間になった。食堂の席についたスペースナイツの面々だったが、まだミリィとグロリアは来ていないらしい。
 暗がりの厨房ではロビィが器用に食事の支度をしている。オーブンから料理を取り出して皿に盛ろうとしたその時、ロビィはペガスに声を掛ける。
「ペガス、手伝ッテ貰エマセンカ?」
「ペガス、ロビィノヨウナコト、デキナイ」
「料理ヲ運ンデクレルダケデ良イノデス」
「ソレナラデキル」
 そんなロボット同士の仕事の取り決めが決まったその時、席についたノアルは既にテーブルに配されているワインを飲み始めていた。
「コイツはいい酒だ!」
「飲みすぎないでよ?」
「食前酒だよ、食前酒」
そうアキの言葉にノアルは気軽に返した。ラダム樹の森が目の前にある以上、アキは安心する気にはなれないらしいが、レビンもノアルもすっかり高級ホテルに泊まっているお客の気持ちでいた。
「オマタセイタシマシタ」
 ノック音が鳴ると、入って来たのはロビィではない。料理が乗ったワゴンと一緒に入って来たのは、右腕にキッチンクロスを携えたペガスだった。その巨体からして、クロスを持つ無骨な腕にしろ足元にあるワゴンにしろ、どう考えても戦闘用のロボットがする佇まいではない。
「ペガス……どうしちゃったの!? あんた!」
「ロビィヲテツダッテイマス」
「あぁ……そう。じゃあこれを機に色々習っておくといいわ?」
「ラーサー」
 そうペガスが返事を返した時、グロリアが食堂に入って来た。
「遅くなって申し訳ありませんでした。さ……ミリィ?」
 促されて入って来たミリィは、少し俯いていた。何故かと言えば、いつも着ている服とは違って気恥ずかしいからだ。入って来たミリィを見て、四人はいつものミリィではない儚げな少女を見て驚きの声を上げる。
「ヒュー! こいつぁ驚いた……」
 ピンク色のドレスは至極彼女に似合っていて、グロリアに劣らぬ気品があった。首に下がったネックレスはそのドレスにぴったりとマッチしていて、髪は赤いリボンで結っている。いつも活気に満ちた少女であるミリィが、グロリアの手によって「お姫様」に変身した様な、そんな感覚を伴っていた。
 ミリィが自分の席の傍に来ると、ロビィが後ろに回って座り易い様に椅子を引いてくれた。
「あ、ありがとう」
「ドウイタシマシテ」
 気恥ずかしさからか、いつもはお喋りなミリィが言葉少なめである。そして、ペガスはロビィのその所作をしっかりと見ていた。
 レビンの隣についたミリィは、
「ふふっ」
 と、彼に向かって余裕の笑みをした。先程似合わないからやめておけ、と言われた事に対する宛てつけの笑顔だった。レビンは席を立ってミリィを見ると、
「くやしぃ〜! 似合ってるじゃないのよ!!」
 とそんな風に身を乗り出して悔しがった。そして、
「あぁっ!?」
レビンが椅子に座ろうとした時、ペガスが丁度椅子を引いた。思わずレビンは転倒してしまう。どうやらペガスはロビィの所作を見て席につこうとする人間に対して椅子を引く、と言う事を憶えたようだが、タイミングが全く合っていない様だ。
「ペガス……なんてことすんのよ!!」
「ドォイタシマシテ」
「あ……んもぉ!!」
そんな彼とペガスを見てみんなが笑いあう。楽しい晩餐は、今始まったばかりであった。
食事が終わった数時間後、城からピアノの曲が鳴り響いている。フレデリック・ショパンノクターン第二番。それはグロリアが夜を想って奏でている曲だった。それを聞きながら、Dボゥイとアキは塔の展望台とも言えるバルコニーから月を眺めている。中世で言えば其処は監視台であるはずだが、周りの景観や微かに聞こえる夜想曲のおかげで、現実離れした空想的な雰囲気を二人は感じていた。
「こんなのどかな夜を過ごすなんて、いつ以来かしら」
「あぁ……久し振りだな」
塔は高い位置にあるせいか、吹き荒ぶ風が心地よい。この塔まではラダム樹が出す胞子でさえ届かない。
「ミリィがうまく説得してくれると良いんだが」
「そうね……」
 しかし、幾ら幻想的な雰囲気だったとしても、二人は現実を忘れるつもりは無い。眼下に広がるラダム樹がそれを忘れさせてはくれない。二人は同年代のミリィに託すつもりで、そう言った。 
 グロリアの私室では、城の主人である彼女がグランドピアノを奏でている。その目の前で、ミリィは先程の出で立ちのまま彼女に語り掛けた。
「ねぇ、グロリア。私達と一緒に街に行った方がいいわ」
「どうして?」
「城が、ラダム樹に飲まれてしまうかも知れないのよ?」
「私……お爺様をここで待つって約束したの」
「明日になれば、私達出発するわ。そしたら、また貴女一人になるのよ? 一人ぼっちで、いつ戻るか分からないお爺様を待ち続けるの?」
ミリィの説得にピアノを弾く指が突然止まる。強情ではないが、彼女は頑なだった。
「ミリィ……貴女がここに残ってくださらない? せめて、お爺様が戻ってくるまで」
「……それは出来ないわ」
ミリィは頭を振った。まるで現実感を伴わない言葉を言うグロリア。ミリィはスペースナイツのメンバーとしての使命がある。だからこそはっきりと彼女の申し出を拒絶した。
「出来ないなんて言わないで? ねぇミリィ、あたしと一緒に、ここで暮らしましょう?」
「グロリア……」
 グロリアにはやはり寂しさがあるようだ。同年代の初めての友達を得て、彼女は心から一人ぼっちに戻りたくは無いと言う意識と、楽しく語り合う友人と離れ離れになるのが嫌でミリィに無理強いをした。ミリィは、そんな事を言う彼女を見て、言葉を詰まらす様に困惑するのだった。
暗い階段を一つ一つ確かに歩く二人の影があった。階段の横には手入れや修復されていない横穴があり、其処に蝋燭が灯った燭台を向けると、一斉に蝙蝠が飛び出してきた。
「わわっ……」
「おぉっ」
 地下倉庫への階段を降りているのは、レビンとノアルだった。レビンは蝙蝠の群れや薄暗い地下を見て怖がっているが、ノアルはちょっとした冒険気分であった。
「かえりましょぉ? 地下室なんか勝手に降りて、どうしようって言うのよぉ!」
「こういう古い城には、酒蔵に年代モノのワインが眠ってるもんさ」
「だからって勝手に!」
「あのお嬢さんとロボットじゃ、味なんて分かりっこないだろ?」
そう言ってノアルは燭台を持って先に進み始めた。
「あ! ちょっと待ってよぉ!」
 レビンは今こうしている事をかなり後悔している。夕飯が終わった後、地下を散策しようとノアルが提案したのが切欠ではあるが、まさかこんなに薄暗い場所だとは思っていなかったようだ。
 そうこうしている内に、地下の行き止まりに二人は来た。 
「ここだな……」
「ノアルぅ!」
 レビンはまだ帰ろうと彼の腕を引っ張っているが、木製の扉を見てノアルは目を輝かした。
「お……なぁーんだよ、電子ロックか! レビン、頼む」
 意外にも、木製の扉は偽装された近代式のドアだったらしい。
「んもぉ……本当に良いワインがあるんでしょうねぇ? ……何よ、ロックは解除されてるじゃないのよ」
「えぇ?」
「ここをこうしてやればぁ!」
 スライドする様にドアが開く。その時、二人は中を見て一斉に声を上げた。
「あぁっ!」
 そして丁度その頃、二人の傍にいたペガスが、警告音を発しながらDボゥイに言った。
「ケイコクシマス! ドウタイハンノウタスウセッキンチュウ! ラダムジュウノカノウセイアリ!」
「何ぃっ!!」
 外を見ていたDボゥイとアキは、同時にラダム樹の森を見た。確かに彼方の方から何か聞き覚えのある足音が聞こえる。ラダム獣がその爪を地面に突き立てて進軍している音に良く似ていた。
「付いて来い! ペガス!!」
「ラーサー!」
 Dボゥイは即座に城の入り口に向かった。
「ロボット製作施設としては、なかなかのモンじゃない? きっとロビィも、ここで作られたのねぇ」
「ふぅーん……」
 地下倉庫に眠っていたのはどうやらワイン倉ではなかったようだ。ロボットのボディを横たえる為の台や機械類が其処彼処にあった。地下倉庫の壁はレンガのままなので、近代的な技術部屋と中世風の背景が妙なアンバランスさを醸し出している。
蝋燭を持ったノアルは少し落胆気味に興味が無さそうにそこらを見回しているが、機械に貼り付けてあった写真を見つけると手に取ろうとした。しかしちょっと触れただけで貼り付けてあった写真は床に落ちる。
「グロリアと、彼女の爺さんか……?」
 写真には快活そうなグロリアが老紳士風の男に抱きつきながら一緒に写真に写っている。その隣にはロビィもいた。ノアルは写真を裏返すと、英語で書かれている言葉を読み上げる。
「グロリア14歳の誕生日に……マルセイユにて。連合地球暦169年8月……169年!? 20年以上前だぞ!! ……どう言う事だ?」
「変ねぇ……ロビィの為の設備にしては、大掛かり過ぎるけど……」
 レビンは怪訝な声を上げた。大掛かり過ぎると言うのはつまり、本格的過ぎるらしい。ロビィをメンテナンスするのならば、ここまで細かく、ここまで大仰な施設は必要ないはずだ、とレビンは思ってそう言った。
「はっ!!」
「どうしたのよ?」
「レビン! おぁっ!!」
 ノアルはレビンのその言葉で、憶測から確信へと変わったが、突如衝撃が走った。
「ペガス!」
「ラーサー!」
「ペガス、テックセッタァーっ!!」
 城の外へと出たDボゥイは、バーニアを噴射させて飛んできたペガスに向かってテックセットを行う。辺りを見回せば、既に何匹かのラダム獣が城に取り付いていた。
テッカマンブレード! うおぉぉあぁっ!!」
 テックセットを終えたテッカマンブレードが勇猛果敢にラダム獣を城の外壁から次々と叩き落とす。
「きゃあっ!!」
 ラダム獣はグロリアの部屋にまで迫って窓ガラスを突き割るが、間一髪獣をブレードが叩き斬った。
「さぁ、早く逃げないと!」
「駄目よ、私、お爺様にお城の外に出るなと言われているの」
 ミリィがグロリアの手を取って逃げるのを勧めたが、彼女は今目にした醜悪な獣を見ても、顔色を変えずにそう言った。ミリィは信じられない風でグロリアを見ながら言う。
「何を言ってるのよ!? ラダムが攻めてきてるのよ!?」
その時、突然ドアを叩く音がした。アキが部屋のドアを叩きながら叫んだ。
「ミリィ!! グロリア!? ここにいるの!? 早く外へ!!」
そうアキは警告したが、突然それを拒絶するかの様に、傍にいたロビィは部屋の鍵を掛けてアキがは入れないようにした。
「あ!? ロビィ!?」
「地下にシェルターがあるの。そこに隠れていればいいわ。行きましょう?」
 そしてグロリアはミリィの腕をガッチリと掴むと、部屋の奥へと向かおうとする。
「放して……放して!!」
ミリィは戦慄した。彼女が掴む力は同年代の少女とは思えない程に強い。強引に振り払う事も出来なかった。
「大丈夫よミリィ。シェルターなら安全。其処ならずっと三人で暮らせるわ」
「嫌……!!」
ミリィがそう拒否したとしても、彼女は決して手を放そうとはしなかった。
ラダム樹のツタが城の内部にまで入ってきている。恐ろしい程の侵食率だった。そしてラダム獣やラダム樹は、ここにテッカマンブレード達がいるから攻撃をしてきたのではない。ラダムの森林を広げるのに邪魔なこの石の城をそろそろ取り壊そうとして攻めてきているのだった。
「てやあぁっ!!」
果敢に戦うテッカマンブレードだったが、其処彼処に入り込むツタをどうする事も出来ず、ラダム獣は無限に湧いてくる。幾ら倒しても獣が尽きる事はなかった。
「おわぁっ!」
ラダム獣を撃破した直後に、直ぐに次の獣が襲いかかってきてブレードはその爪に叩き落された。無限に襲い来るラダム獣がまるでブレードに覆い被さる様にその体躯で下敷きにしようとしたが、
「おぉっとぉ!!」
その時、ソルテッカマンのフェルミオン砲が煌いた。獣の頭部を狙撃してブレードの危機を何とか救う。
「大丈夫か、Dボゥイ!!」
「あぁ……だが、このままでは!」
追い払おうとか、殲滅するとか言う問題ではない。此処は既にラダム獣のテリトリーであり、ラダム樹の森は見て分かる程に徐々に広がる様を見せている。
「ラダムの森を広げようってワケか。このままじゃ、袋の鼠だぜ! 山道を塞がれる前に、此処を降りないと!!」
「Dボゥイ! ノアル!!」
 その時、グリーンランド号に乗ったレビンが二人に声を掛けた。
「みんなは!?」
「アキとミリィ、それにグロリアがまだなの!!」
「何してやがんだよ!!」
「ノアル、グリーンランド号を頼む! 俺はアキ達を!」
「任せとけぇっ!!」
 ブレードは槍を携えて城の中に突っ込み、ノアルは雲霞の如く迫るラダム獣の群れに照準を合わせた。
「一緒に来て?」
「駄目よ!! 外に逃げるの!!」
「私はお爺様と約束したの。この城でお爺様の帰りを待たなくてはならないの」
 ミリィは相変わらずグロリアの細腕を振り払う事が出来ず、グイグイと引っ張られていく。城は徐々に崩れ、中央にあったグランドピアノは床が抜けて徐々に傾いている。そんな状況下にあっても彼女はさも当然の様にそう言ってミリィを引っ張っていく。
「ミリィ! グロリア!? 何してるの!? 早く逃げるのよ!!」
 アキは部屋の鍵を外そうとノブを渾身の力で開けようとするが鍵が掛けられていて入る事も出来ない。
 そしてミリィはグロリアよりも更に強い力でロビィによって持ち上げられた。聡明な執事ロボットは何が正しいかを分かっているにも関わらず、彼女の命令には逆らえない様だ。
「やめて! ロビィ!」
「さぁ、ミリィをシェルターへ連れて行きましょう?」
「やめて……ロビィ……」
 ミリィがロビィに語り掛ける。センサー部分が激しく明滅している。
「そのまま連れてきて」
「ロビィ……放して……」
 ミリィの言葉とグロリアの言葉でロビィはセンサーをまた明滅させた。
「私ハ……私ノ受ケタ命令ハ……」
 ロビィは迷っているのだ。現状を理解してれば避難するのが先決であるはずなのに、グロリアの命令を最優先で守らねばならない事に迷っているのだった。
 その時、突如天井が崩れ始めた。ラダム樹のツタが遂にグロリアの部屋を破壊し始めた。
「きゃあぁっ!!」
抱き抱えられたミリィが悲鳴を上げた時、天井の瓦礫が彼女たち目掛けて降ってきた。
壁の崩落はドアのノブにも降り注ぎ、アキは部屋の中にようやく入る事が出来る様になった。見ると、ミリィもグロリアも瓦礫で怪我を負っていない。ロビィがその身を挺して二人をかばったのだ。ロビィは瓦礫がぶつかった影響で右腕に損傷を受け、オイルが漏れている。グロリアは床にうずくまって動かない。
「グロリア……グロリア!?」
「ミリィ! グロリア! 何してるの、早く逃げるのよ!!」
「私はお城の外へは出ないわ。お爺様と約束したの」
 まるで、壊れたレコードの様に繰り返される言葉。彼女はあくまでも頑なで、ミリィと一緒にこの場所に留まりたい様だ。それがどんな結果を及ぼすかを想像できずにいる。
「だって……!!」
「駄目……お願い! 私と一緒に――――!?」
ミリィに伸びようとしたグロリアの手を、ロビィが押さえ付けた。
「オ逃ゲ下サイ。オ嬢様ハ、私ガシェルターニオ連レシマス」
「ロビィ……!」
 その時、グロリアの命令にロビィは逆らった。先程までグロリアの言う通りに動いていたはずの執事ロボットはミリィを逃がす様に促したのだ。
「ミリィ! 早く!!」
「ロビィ……有難う!」
「私ノ最優先命令ハ、人間ノ命ヲ守ルコトデス」
 人間の命、と言う言葉を聞いて、その時ミリィは理解した。同年代でありながらあり得ないほどの怪力、壊れたレコードの様な繰言。グロリアはもしかしたら……。
「ミリィ! 早く!」
「グロリアも、早く逃げて!」
「ロビィ! やめて!」
 ロビィは右腕を損傷していてもグロリア抱き抱えた。彼女の言うシェルターに連れて行く為に。
 そしてアキと共に脱出しようとしたミリィではあったが、突然ラダム樹のツタが伸びて道を塞いでいく。
「あぁっ!!」
 通路がひび割れ、いつ崩落するか分からないと思ったその時、ツタは真っ二つに両断された。
「Dボゥイ……」
 ほっと安堵する二人。ブレードが二人の救助に間に合ったのだ。最早入り口は閉ざされ、飛び降りるしか逃げる方法は無い。テッカマンブレードは彼女らを抱えると、窓を突き破って脱出を試みるのだった。
 まだ私室から避難していないグロリアはロビィに静かに語り掛ける。まるで諦める様に。
「ロビィ……ミリィを行かせてしまうのね?」
「コノママデハ、危険デスカラ」
「貴方は、私を一人にはしないわよね?」
「旦那様ガ私ニ命ジタ事ハ、オ嬢様ヲオ世話スル事デス」
「ロビィ……どうしてお爺様は戻ってきてくれないのかしら?」
「可能性トシテハ……イエ、分カリマセン」
 彼ほど聡明なロボットなら、幾らでも仮定の話をする事が出来るにも関わらず、ロビィは分からないと言う。
「ミリィ達ト外ニ出マスカ?」
それが最後の選択肢だった。だが頭を振ってグロリアは当然の様に応えた。
「いいえ。私はここでお爺様を待ちます。そう約束しているのですから」
「分カリマシタ」
 そう言うと、二体はゆっくりと部屋から出て、彼女の言うシェルターに向かうのだろう。
 そしてスペースナイツの面々は、山道がラダム樹に覆われる前にグリーンランド号で何とか脱出し、遠くから崩壊していく城を見守っている。
「グロリア達は……」
「地下のシェルターとやらに、逃げ込んだと思うがな……」
「……本当に、そう思う?」
「あぁ……一途に爺さんの帰りを待とうとしていたからな」
 ノアルがミリィの言葉に、そう応えた。本当にシェルター等があったのだろうか。そもそも、彼女は?
一歩一歩中庭の通路を歩いていくロビィ。既に崩落に巻き込まれない場所はそこしか無い。
瓦礫の下敷きになったオルゴール。壁の破片が鍵盤に落ちて鈍い音を響かせるピアノ。数時間前の煌びやかで華やかな貴族の生活は、たったの数分で見る影も無かった。
「まるで夢みたいね……あのお城にいたなんて」
「あぁっ……! お城が……」
そして城は、ラダム樹に飲み込まれる様に崩壊し、その姿を掻き消していく。
「俺達は……誰かの思い出の中に、紛れ込んじまったのさ……」
ノアルが持っていた写真を手放した。写真は風に吹かれ、ラダム樹の湿地帯に落ち、そのまま飲み込まれていく。それを見たレビンがノアルに尋ねた。
「何なの? それ?」
「さてねぇ? 思い出の名残かな……」
連合地球暦192年において、科学の進歩が格段に進んだとしても、未だ人間の判断力を越える程の人工知能やコンピューター等と言った物は公式的には誕生しなかった。
だが一部の例外を除いて、人間とほぼ同じ容姿と言動をするロボットが、其処には確かに、存在していたのかも知れない。




☆はいっ! 本当にどーでもいい話ですが(笑)これがタツノコだよな! と思う一話でした。放浪、そしてたった30分枠での短すぎて切な過ぎる一期一会。何ともタツノコ臭がするお話なんですが、別に物語的には何一つ話が進まない話なのですよ(爆)ミリィ回でありながらミリィとは何にも関係ないし。精々ミリィがフランス人だとかそんな感じ?(笑)後自分は勘違いしてたんですが、グロリアロボ(笑)は本当のグロリアが病死か事故死? した後に作成されたんでしょうね。てっきりグロリアロボ作成してマルセイユまで連れて行ったのかと思ってました(笑)作画はマジで綺麗です。タツノコ作品に多く関わっている須田さんの技量が満遍なく生かされている回なので評価は満点でお願いいたします。