第41話 エビル・蘇る悪魔(1992/12/1 放映)

いい顔してるねぇ

脚本:山下久仁明 絵コンテ&演出:吉田英俊  作監&メカ作監:佐野浩敏
作画評価レベル ★★★★★

第40話予告
ブラスター・テッカマンとして蘇ったDボゥイ。
だが、束の間の幸せを打ち砕くように、破滅への足音が迫り来る。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「エビル・蘇る悪魔」仮面の下の涙をぬぐえ。


イントロダクション
進化に成功したブレードは、遂にブラスターテッカマンとして蘇った。
「進化したテッカマンだと!?」
「逃がすかぁっ!!」
「うぅ……あぁっ!?」
「ボォルテッカァァーっ!!」
「うわああぁぁぁっ!!」
そして遂に、ランスを倒す事に成功したブレードであったが。
「Dボゥイ!?」
「Dボゥイは……本来使ってはいけない力を放出してしまったんだ……」
「そんな……! じゃあ、ブラスター化の影響って……」
「何処だ……!? バーナード!! うぉわああぁぁぁっ!!」



 
 

「さすがのラダム樹も、アラスカには根付く事は出来ないようですな……」
 新生スペースナイツ基地を見下ろしながら、輸送用ヘリの助手席からパイロットに語りかけたのは、老年の神経医学博士である。彼はフリーマンの要望でこの極寒の地に召喚された者だが、それはつまりDボゥイの症状の確認を行う為である。
彼らが見下ろす基地の全景は、広範囲に渡る氷の大地のひび割れた姿だった。永久凍土であるはずの数百メートルに及ぶ大地がこんな姿になったのは、ブラスターテッカマンのブラスターボルテッカの影響であろう。
 輸送ヘリがヘリポートに辿り着くと、ヘリの傍に一台の車が近付く。フリーマンがドクターを迎えに来たのである。彼は防寒具を着込み、ヘリから降りたドクターと堅い握手を交わして基地内に案内するとDボゥイを見守る治療室の隣、経過観察室に入って来た。
「……! チーフ……」
「何か変わった様子は?」
「昏睡状態が続いたままです……」
 ミリィがそう言って顔を曇らせた。治療室でのDボゥイは外傷も無く、ずっと眠りに付いたままだった。
もう既にブラスター化してから二日が経過している。ブラスター化を勧めたフリーマンにしても、神経医学に精通していると言うワケではない。彼にしても、Dボゥイのブラスター化には不確定要素が多く、何故昏睡状態が続くのか、結果がどうなってこの状態が続くのかが判明しないから、このドクターを呼んだのだろう。
彼にフリーマンは、ブラスター化の経緯などの大体の事情を通信で説明してある。勿論、Dボゥイがテッカマンブレードであると言う詳細等は内密に、と言う条件でこの基地に来てもらっていた。
 老年のドクターはコンソールを操作している医師の隣に着くと、
「頭部の断層映像を頼む」
 そう言ってモニターに注視する。CTスキャナーが横たわっているDボゥイの全身をくまなくスキャンした。そんな彼に、アキは声を掛ける。
「ドクター……宜しく御願いします」
 彼女の言葉に、しっかりと頷くドクター。
固唾を呑んで見守る面々。数分が経過した時、本田達が入ってきてフリーマンに尋ねた。
「どんな様子なんだ?」
本田の言葉に応えようとしたその時、ドクターがフリーマンに振り返った。
「ドクター?」
「脳血流に若干の停滞がある様に見えますが、ブラスター化に拠る後遺症なのか、確認できません」
神経細胞の状態は?」
「問題は無い様に見受けられますが」
「……他に、何か?」
「肉体的な異常は、認められないようです」
 フリーマンはそうドクターに言われて動揺していた。彼は椅子から立ち上がると、
「まぁ後は、本人の意識が戻ってからですな」
 そんな風に言って、ドクターは観察室から退室した。Dボゥイの症状が確認されるまでの暫くの間は、この基地に滞在するらしい。フリーマンはコンソールを操作している医師に彼を客室に案内する様に促した。
「どういうことだ……?」
 部屋がフリーマン達だけになると、彼らは疑問の表情を顕わにした。そんなチーフにレビンが尋ねる。
「確かテッカマンが次の段階に進化した場合、Dボゥイの寿命は長くて半年、って言ってたわよね? チーフ」
「シミュレーションでは、ブラスターテッカマンへの進化に、肉体が対応し切れないと言う結果が出たんだが……加え、各神経細胞に組織崩壊の兆候も見られた」
「それが、ブラスターテッカマンになった途端に、肉体的な欠点まで克服しちまった、ってワケかい?」
 本田はDボゥイの状態をそんな風に例える。何故そうなったか、と言う事を深く考えずに。
「チーフ……?」
 ミリィが俯いて考え込んでいるフリーマンの顔を覗き込んで尋ねた。
「……私のシミュレーションミス、と言う事なら良いのだが……」
「取り越し苦労、って奴かい!」
 バルザックが大仰に手を広げてそうほっとした。
「そんな事だと思ったぜ……心配させやがって……」
 本田は安堵するだけでなく涙目になっている。
「そうよねぇ!」
「本当に……良かったわ!」
 レビンも、ミリィもこの結果に喜びの表情をしてそう口にした。
「Dボゥイ……!」
 ずっと観察室の窓から彼の顔を見ていたアキが、感慨深く言った。この数日、最も生きた心地がしなかったのは彼女なのだろう。寝ても覚めても、仕事をしていても彼女の脳裏には後半年しか生きられない彼の事がチラついていた。いつもの精彩が無い彼女に、フリーマンは少し休息する様に命令した程だった。
 イレギュラーなブラスター化はイレギュラーな結果を生んだ。恐らくこの結果はDボゥイが不完全なテッカマンだからこうなったのだろう、と皆が納得し喜んだ。いや、フリーマン一人だけは、まだ怪訝な表情をしたままだったが。 
「シケた面だな、ノアル」
 ソルテッカマンのハンガー内で、キャットウォークに上る階段に腰掛けているノアルの傍に、バルザックがやってきてそう声を掛けた。ノアルはポッド内に収納されているソルテッカマンを見ながら、
「うん? そうか?」
 そんな風に応える。その表情はどこと無く呆けている感じだった。
「Dボゥイが、無事だった割にはな」
アキ同様、ノアルにしてもDボゥイと一番長い付き合いだけに、彼が無事に今後生きられると言う結果を聞いて心から安堵したのだ。緊張を解いたと言っても過言ではない程に。
「……この先、ソルテッカマンしか頼るモノが無くなっちまうって所だったんだぜ?」
勿論それだけでは無い。あのテッカマンと言う脅威にソルテッカマンだけで挑むと言う事を考えると、今後の戦いが気が気でなかったと言うのも安堵する理由の一つだ。
「そいつぁシビアな話だ! ラダムにしてみりゃこんなモノ、ガラクタ同然だもんな」
 本当は親友マルローの形見であるソルテッカマンをそんな風に卑下するのはバルザック的に気が引けたが、現実的にソルテッカマンがテッカマンに敵わないのは身を以て知っているからこその言葉だった。
「本当に良かったぜ……」
「またお宅と一緒に、ブレードの後ろで二人三脚ってワケか」
「あぁ、Dボゥイの足を、引っ張らないようにな?」
 ノアルはバルザックに振り向いて笑みを浮かべながら軽口を叩く。いつもの調子が戻ってきたらしい。
「へっ、お互いにな」
 バルザックもノアルの言葉を受けて、そんな風に笑みを浮かべながら皮肉を返すのだった。
 その頃、月のラダム基地では、シンヤがテッカマンエビルとなって司令官であるオメガに対面していた。
「身体の状態はどうだ?」
「もう完全に回復したよ、ケンゴ兄さん」
「うむ……」 
「今度こそこの手で! ブレードを仕留めて見せるさ」
「私は、この母艦と同化してしまった身体。本来なら同行する所だが……」
確かに、テッカマンオメガは謁見の間の玉座に位置する場所に、まるで彫像の様にそびえ立って動かない。こうしてエビルと会話している間でも、母艦の修復作業に没頭している様が窺えた。
「頼んだぞ、シンヤ……最早頼れるのは、お前だけだ」
「分かってるよ、兄さん。じゃ!」
 そう返すと、エビルは謁見の間を出て行った。その後ろ姿を頼もしそうに見送ったオメガは、たった一人だけしかいないはずのこの母艦で、一人ごちた。
「長い道のりだったが……我々ラダムも、ようやくここまで来た。不完全なテッカマン、ブレードとレイピアを作ってしまったが、我々にはエビルがいる! あいつが、必ずやブレードを倒してくれよう」
 オメガは我々、と言う言葉を使った。それは今生き残っているエビルやソード達に向けた言葉では無い様に見えた。
「我々ラダムが地球に降りる日は近い! 後はこの母艦の修復を待つだけだ……」
 そしてその時ラダム母艦の中枢に位置する場所の水槽で、何かの生き物が蠢いていた。小さい何か、それはラダム獣の様な、或いは別の何かの生命体だった。
 一応の所、Dボゥイに命の別状は無いと判断され、集中治療室から一般の病室に移される。彼の状態を看ようと病室を訪れたアキだったが、
「あ……Dボゥイ?」
 病室のベッドには誰もいなかった。意識を取り戻したDボゥイは既に自分のユニフォームである赤いジャケットを着て、ある場所に来ていた。
数十メートルに及ぶ広いブロック。天井には照明が設置されていて、空気はどちらかと言えば暖かく、人口建造物が密集したこの基地にしては、珍しく土の臭いが充満している場所。其処は様々な植物を育てる為のプラントであり、土のある所はこの極寒のアラスカではその場所しかない。
そんな土のある場所に、数個の墓碑があった。先日テッカマンランスの襲撃を受けて散った防衛軍兵士の亡骸を、フリーマン達が手厚く葬ったのだろう。その墓碑の一つ、大きなサバイバルナイフが供えてある墓の前にDボゥイは訪れていた。手には酒瓶を持っている。
「バーナード……」
 そう一言だけ口にすると、Dボゥイは持っていた瓶を開けて中身を全て墓碑に振り撒いた。それは酒が何よりも好きだった彼への、手向けだった。
――――俺はあんたに誓う。必ず、ラダムを倒してみせる……!
 そんな風にDボゥイは想う。ブラスター化に成功したあの瞬間、バーナードが身を挺して自分を守って散った事を彼は知っていた。バーナードが致命傷を受けたからこそ、怒りの化身ブラスターテッカマンになれた、とも思っている。そんな彼に対して、Dボゥイは恩を感じると共に深い畏敬の念を感じていたのだ。起きたばかりの彼は、まず自分がするべき事はこれだ、と心に決めていたのかも知れない。
「此処に来てたの、Dボゥイ」
 そう背後から声を掛けたのはアキだった。彼女はDボゥイが何処に行ったのかを聞きつけて、このプラントに辿り着いた。しかし、Dボゥイは無言だった。
「まだ寝てなきゃ駄目じゃない?」
 そう続けて言われると、彼はようやくアキに振り返った。 
「アラスカの地下に、こんな植物プラントが残っていたなんて……二百年前に閉鎖された宇宙開発基地なのにね」
 彼女は、この広いブロックを見回してそう語った。久しぶりの二人だけの時間。もう既に彼はしっかりと一人だけで立ち上がっているのを見て安堵し、今度はそんな彼にどんな態度で接しればいいのか分からずに、辺りを見回しながら世間話をしようとした。
 しかし、Dボゥイは怪訝な表情をしている。不思議そうな、物珍しいモノを見る目で、彼女を見ている。
「ね、Dボゥイ……どうかした?」
「俺は、相羽タカヤだ」
 そう、Dボゥイは、はっきりと口にした。
「え……えぇ、知ってるわ」
「だったら、Dボゥイなんて呼ばないでくれ」
 その言葉を受けて、アキはまるで愛の告白を受けた様に感じた。
「Dボゥイ……あ!……タカヤ……さん」
 アキは顔を真っ赤にして、Dボゥイの本名を呼ぶ。彼女はDボゥイが、自分の本名を呼んで欲しいと願っているのだと思った。二人だけでいるこの瞬間だけはそう呼んで欲しい。それは今までの様な、仲間としての関係から脱却したいのだと、Dボゥイがそう想ってくれたのだと、アキは判断した。
 だが、Dボゥイは素っ気無くその場を立ち去ろうとする。彼女を怪訝に見る表情は崩していない。それをアキは、彼なりの照れ隠しだと思う。
「Dボゥイ……」
 立ち去っていく彼を、少し浮かれ気味に、微笑みを絶やさずにアキは追い掛ける。だが彼女はここで、決定的な勘違いをしていたが、そんな事を知る由もなかった。
 丁度その頃、月から離れたテッカマンエビルは騎乗型のラダム獣に乗り、ラダムの前線基地であるORSのラダム獣育成プラントに立ち寄っていた。他のテッカマンと合流する為である。ORSからは時折ラダム獣が降下する様が見えていて、今現在でも地球にラダム樹を生やす事に余念が無い。
育成プラントをモニターする部屋を訪れたシンヤは、シャッター式のドアを開いてソードに声を掛ける。
「ソード」
「エビル様! 傷はもう宜しいのですか?」
 テッカマンソードの人間の姿であるフォン・リー、彼女は注視していたモニターから振り返ると、そんな風な言葉をシンヤに返した。
ラダムのテッカマンはラダム獣の育成や統率を思念波で操作するらしく、彼らにとっての統括は見るだけで行う事が出来る。つまり機械類の補助は必要とせず、モニターで状況を観察するだけでいいのだ。
「ランスはどうした?」
 フォンのその言葉を受けても、シンヤは余計な心配は無用だ、と言わんばかりに話を進める。
「エビル様が到着するまで、待てと止めたのですが」
「……俺に無断でブレードを?」
シンヤはそれを聞いて顔をしかめた。怒気を顕わにしている表情だ。
「それから間も無くして、感応波が途絶えました」
「馬鹿めっ! ブレードは何処にいる?」
 シンヤはランスが死んだ事を受けても、仲間である意識など皆無と言った感じである。命令違反、更に無駄死にした同胞など最早同胞ではないと言った表情で、死者に唾を吐く様なそんな顔をしながら、自分の敵である兄の居場所をソードに尋ねた。 
「詳しくは分かりませんが、アラスカの方角から感応波をキャッチしています」
「アラスカ……? ソード、お前も来い」
「いえ、私は此処に残ります」
「何?」
「オメガ様に、ラダム獣の統率を任されておりますから」
「お前は、兄さんの言う事しか聞けないんだな?」
「はい」
 フォンははっきりとそう応えた。幹部であるエビルに向かって、当然の様に彼の命令に逆らっている。ここでエビルは、オメガに通信してソードを随伴させる様に命令する事も出来たが、
「まぁ、いい」
 と言って一人で出撃する事にした。他のテッカマンの手など借りずにブレードを討ち果たす。それだけの為に今まで自分の身体を鍛え続けた彼にとっては、そんな面倒事を行うつもりは毛頭無かった。
 直ぐにまたテッカマンの姿になって騎乗型のラダム獣に乗ると、エビルは地球に降下し始める。
「ブレード……今度こそこの手で、貴様を地獄に送り届けてやる!!」
 早くブレードと戦いたい。早く自分の力を奴に試したい。そんな心境に支配されているテッカマンエビルは、一刻も早く兄に会う事を、心から渇望していたのだった。
 Dボゥイが復活して喜び合うのも束の間、スペースナイツの面々はブリーフィングルームに集まり、敵ラダムの調査結果などの報告をする会議を行っている最中だった。 
「ラダムはアルゴス号を乗っ取り、乗組員達を素材にテッカマンを誕生させた。恐らく、ラダムと言う生命体は自分自身で侵略行為を行う事が出来ない存在なのだ」
 フリーマンはまずそう切り出した。異星生命体ラダムとは一体どんな生態を持っているか、それらの整理をする為の会議であろう。ラダムの正体を突き止める。それは彼が一番懸念している最優先事項だった。
「しかし、ラダム獣は現実に地球に攻めてきてんだぜ?」
 バルザックがフリーマンの言葉にそう反論する。
「だが、ラダム獣はラダムそのものではない。主人に仕える下等な生命体でしかないのだ」
「ラダム獣を操っている奴が、テッカマンと言うワケか……」
 ノアルがラダム獣もテッカマンも、結局の所ラダムの尖兵である事をフリーマンの言葉で理解した。つまり、今までラダムと戦ってきた彼らでさえ、ラダムの本体と言う部分に触れてすらいない事を悟ったのだ。
「そして、テッカマン達はラダム獣の統率役……言わば、羊飼いとして地球に派遣された」
「相羽一家が犠牲となってしまったんですね……」
 ミリィが顔を曇らせながら、ミユキの事を思い出す。
「しかし、問題はその先だった。ラダム獣とテッカマンとの間に、納得できる接点を見出せなかった」
 同じラダムの尖兵として地球に派遣された彼らではあるが、かたや植物の塊の様な生命体と、機械パーツに覆われ生体改造された強化人間。その両者は余りにもかけ離れた存在だった。精々今現在で分かる事は、ラダム獣はラダムテッカマンの命令に忠実であると言う事だけだ。
「ねぇ……何の為に、ラダム獣を地上に送り込んでいるのかしら?」
 レビンが怪訝な顔で言う。ラダムの目的、単純な事ではあるが、彼らの目的が明確に見えてこない事に、彼らは不安を募らせている。
「ラダム獣は、地上では殺戮を繰り返している。だが、本来の目的は自らが植物として大地に根付く為の、環境作りだったのだ」
「しかし、ラダム樹を地上に生やして、どうするっていうんだい?」
「その答がこれだ」
本田がそう尋ねると、フリーマンは置いてあったリモコンを操作して隣のブロックに通じる窓のシャッターを開かせる。花が開いているラダム樹を目にして息を呑む面々。
「ラダム樹の花……」
ミリィはコレを見るのは三度目になるが、何度見ても慣れない異形だった。もう一度リモコンを操作してライティングされると、クリスタルの中の素体が見えてくる。Dボゥイはそれを見て、直ぐに俯いた。アキもそれを目にした後、直ぐに視線を逸らす。この素体テッカマンになった人間は同じ外宇宙開発機構の職員であるし、ひょっとしたら、ラダム樹の調査を熱心に行っていたアキがこうなる可能性もあったのだ。ラダム樹の花と素体に異常は認められない。ブラスター化の時に増幅器として使ったラダム樹の花はまだ健在の様だ。
「このラダム樹の様に、体内に人間を取り込み、テッカマンにする為……」
「つまりテッカマンを培養する事が目的の、植物生命体と言うワケですね?」
「その通りだ」
 アキの質問に、フリーマンが応える。そう、つまりラダム樹とは、相羽一家を襲ったモノと同一の、簡易テックシステムと呼ぶべき存在だった。
「ミユキさんが言ってた、ラダム樹の花が咲いた時、地球侵略は達成されるって、この事だったんですね」
「参ったな……ラダム樹は地球全体に広がっちまってんだぜ! 生き残った人間は一人残らずテッカマンにするってワケかい!」
 ミリィもバルザックも、ラダムの目的が見えてきて戦慄した。地球人の総テッカマン化、それがラダムの目的だったのだ。
/「でもぉ、あくまでテッカマンはラダム自身じゃないワケでしょう?」
だが、それでもまだ彼らは全ての答えに行き着いてはいない。パズルのピースが全て揃っていても、未だ空白は埋まらない様なもどかしさ。そんな現状をレビンが不思議に思う。
「だとしたら、ラダムにとって地球の人間をテッカマンに変えた所で、何の得になるって言うんだ?」
 本田がその場にいる者達の代弁者になった。ラダムのテッカマンがラダム自身でないと言うのなら、侵略者の目的の根幹は何なのか。地球人類を全てテッカマンに作り変えて無敵の軍隊を作り、新たな侵略を行うつもりなのか。ただ単純にラダムの部下となる同胞を増やす為だけなのか。ラダムの本体、と言うモノを誰も見た事も無く、彼らの侵略の理由が明確に見えてこないのは至極不気味だった。
「それが、今後の課題だ」
 フリーマンがそう、議論を締めくくる。
「そこまで分かれば十分だ」
 椅子に座っていたDボゥイが立ち上がって言った。
「俺はチーフに感謝している。おかげで俺はブラスターテッカマンになれたんだからな」
 ブラスターテッカマン、Dボゥイの新たな力。この力と月へ行く機動力があれば、ラダムと名の付くモノを全て消滅させる事が出来るだろう。それは取りも直さず、Dボゥイの最終目的なのだから。
「でも、今更ラダム獣を全部切り倒すなんて無理だわ」
「要は、月の裏側にあるラダムの本部基地だ。そいつを俺が叩き潰す。そうすれば、全てが終わると俺は思ってる」
 ミリィの不安げな言葉に、Dボゥイは頼もしそうに応えた。勿論、彼の行動原理は復讐だけではない。地球を救うと言う使命も忘れてはいない。それはDボゥイの父、相羽孝三の願いだったからだ。それが例え弟であろうと兄であろうと、ラダムの侵略を推し進めるテッカマン達を全て倒してみせる。殺してみせる。
 だからこそDボゥイは仲間達を見回した。地球を救い、ラダムを叩き潰す。スペースナイツのメンバー共通の目的は、最初から変わりは無い。Dボゥイは共通の目的を持つ同志達を見つつ、改めてラダムへの闘志を再燃するのだった。
 そんな風にメンバー全員が心を一つにしている時、テッカマンエビルはシンヤの姿に戻って、吹き荒ぶ風を受けながらアラスカの大地を踏みしめていた。
――――ブレード……!
 この大地の、何処かに自分の敵、そして兄であるブレードがいる。シンヤの双眸はまだ見ぬブレードの姿を睨みつけていた。シンヤはタカヤの感応波を頼りに歩き出す。此処からそう遠くない場所に、奴はいるはずだ。舗装された道路を、シンヤは一歩一歩、新スペースナイツ基地に向かって歩いていったのだった。
ブリーフィングが終わって、Dボゥイは自室でベッドに腰掛けて休息を取っている。壁に貼ってあるミユキの写真に視線を向けると、ベッドに寝転がった。その写真は、ミユキと再会したばかりのあの時、海辺で少しだけ一緒に歩いた時にノアル達に撮って貰ったモノだろう。写真のミユキは儚げではあるが、微笑んでいる。  
その笑みを見る度に、ラダムに対する怒りと憎しみが沸々と蘇る。本当はブルーアース号が飛びたてるのなら、今直ぐにでも月に行って奴らを叩き潰したい、仇を取りたいとDボゥイは思っている。寝ても覚めても、そんな事が頭の中で巡り、Dボゥイは空き時間を有意義に過ごせずに苛立ちを募らせていた。
その時、突然モニター通信のベルが鳴った。Dボゥイは物憂げにベッドから起き上がると、モニターの向かいに置いてあるリクライニングシート上のリモコンを操作して通信をオンにする。
「ね! Dボゥイ」
モニターに映ったのはアキだった。彼女は何故かタンクトップとショートパンツと言う、必要以上に薄着のままでDボゥイに話し掛けている。特にタンクトップのシャツは胸の部分しか覆っておらず、その姿はどこか扇情的で、極寒のアラスカには似つかわしくない。まるでこれから常夏の島でヒッチハイクして、ビーチバレーでも楽しむ様な姿だ。
 実はこれはアキの精一杯の自己主張とも言える行動だった。Dボゥイは、自分の事を名前で呼んで欲しいと言った。これはアキにとって、自分と彼の距離が近くなった証拠だと思ったのだ。端的に言えば浮かれていると言っても良い。ずっと彼の身を案じ、支えてきた彼女にはそんな風に一般的な恋人同士が行う様な、女性的な自己主張を一度はしてみたいと思っていたのかも知れない。
 勿論、そんな薄着でDボゥイの部屋に行く事は出来ないし、モニター越しの会話が関の山ではあったが。
 そんな彼女をDボゥイは無言で見つつ、シートに腰掛ける。 
「ブルーアース号の修復は、順調な様よ? あ……!」
「なぁ……アキ。何度も言わせないでくれ」
 アキはDボゥイ、と言う言葉を反射的に使ってしまっていた。それに対しDボゥイは怒りもしなかったが、少し不機嫌そうな表情をする。彼女の精一杯の勇気を、まるで気にもせずに、一蹴する様に。これはミユキの事を思い出して苛立ちを募らせていたのにも遠因があった。
「でも……急にそんな事言われたって……」
アキは顔を真っ赤にして、どことなく落ち着かない表情でDボゥイの顔を正視出来なくなる。実の所、彼女は今の年齢に達するまでこう言った恋人同士の付き合いをした事が無く、非常に疎い。それは彼女が男勝りな気性を持っていたからか。自分よりも強く、雄々しい男性を探し求めていたからか。
終始うつむいてもじもじするアキは言う。
「今までずっとDボゥイって呼んでたんだし……」
「俺を……Dボゥイと呼んでいた?」
「え?」
 突然、リクライニングシートに深く座っていたDボゥイが前のめりになってそう聞いてきた。 
「どうして俺を、Dボゥイと呼ぶんだ?」
「あ……どうしたの? 突然?」
「大体、Dボゥイって言うのは、どう言う意味なんだ?」
 その一言は、余りにもアキにとって強い衝撃を伴う言葉だった。 
「Dボゥイ……!」
Dボゥイ、デンジャラスボゥイ。その言葉の意味を彼は全く覚えていない。そう名付けられた記憶を、経緯を、まるでその部分がすっぽりと抜け落ちた様に、彼は自分が相羽タカヤと呼ばれていた様に思い込んでいる。
自分の素性を隠す為に記憶喪失だと偽り、ノアルが彼の行動から揶揄する様にDボゥイと名付けた事の顛末を憶えていない。その言葉はある意味、非常に異常な発言だった。
アキは直ぐに着替えてフリーマンの私室に向かった。
「何っ!?」
息を切らせて彼の部屋に飛び込んできたアキの言葉を聞いて、フリーマンは激しく動揺する。
そしてまたDボゥイの再検査が行われた。考えてみれば、目覚めたDボゥイが全く完治している様に見えたからか、意識が目覚めたら再び症状の確認をすると言う事を誰もが失念していた。
もう何処も悪くないと主張するDボゥイを、万が一の為に検査を行うのだとフリーマンは説得して、再び彼をCTスキャンに掛けた。老年のドクターは頭部の断層映像を見つつ、アキとフリーマンに説明した。 
「記憶中枢に問題があるかどうか……この、僅かな脳波の乱れが、脳細胞の異常を示しているのかも知れません」
「この程度なら、問題は無かったはずでは!?」
「以前、身体の各部に発生していた、神経組織の崩壊が、脳に負担を与えている事も考えられます」
「うっ……!」
 フリーマンはそれを聞いて愕然となった。端的に言えば身体全体の組織崩壊が脳神経に集中する事になったと言う事だ。脳神経の組織崩壊、それは記憶の喪失と言う症状を伴って彼に発現していたのだ。
「今後、ブラスターテッカマンになる度、脳に負担が掛かれば記憶中枢の機能障害が進行することも……そうなれば、視覚異常や記憶の混乱、更に欠如と言う症状が現われる事も充分に考えられます」
 そう、確かにブラスター化が成功した直後のDボゥイは視覚異常を起こして盲目になっていた。記憶の混乱や喪失は、Dボゥイと言う人格自身を崩壊させてしまう序曲でしかないと言う事なのだろう。
 アキはドクターの言葉を聞いて落胆し、フリーマンは目を伏せる様に歯噛みした。現状の医学では彼の脳神経崩壊を食い止める事も出来ないし、Dボゥイにテッカマンになって戦うな、と言えるはずも無い。つまりは現状維持し出来るだけDボゥイを戦わせない様にするしか、症状の進行抑える事は出来ないのだ。  
「ブレード……」
 そんな悪いタイミングで、シンヤはスペースナイツ基地の在り処を突き止め、既に潜入していた。彼が基地の搬入口で感応波を最大限に発すると、それに応える様にDボゥイの額にクリスタルの紋章が浮かび上がる。
「Dボゥイ!」
その時アキが彼の行く手を阻む様に彼を抑えた。Dボゥイは前をしっかりと見据え、目の前にいるアキなど眼中に無いと言わんばかりに、彼女の手をどけて先を急いだ。
「エビルが……」
「あ……なに?」
 アキは、どんどん先を進む彼の腕にしがみつくが、Dボゥイは歩みを止めようとはしなかった。
「エビルが基地に潜入している!」
「待ってDボゥイ! Dボゥイ!!」
 彼に症状の説明をしようとしたが、アキは言い淀んでしまう。例えDボゥイと言う言葉が彼のニックネームだと、テックセットする度に記憶を失っていくのだと、説明してもDボゥイは戦いを止めないだろう。
「俺はテッカマンブレード、相羽タカヤだ! 奴らを倒さなければいけないんだ!!」
「あっ!!」
腕にしがみつくアキを、Dボゥイは振り払った。まるで思い合っていた事など忘れてしまったかの様に。そして走り出した。エビルがいる場所に向かって。
「Dボゥイ……」
一人取り残されるアキ。しかし呆然としている訳にも行かず、敵のテッカマンが侵入してきた事をフリーマンに伝える為に、彼女も走り出すのだった。
搬入口に車でやってきたDボゥイは、照明が落ちた暗がりの中で立ち塞がるシンヤを、ヘッドライトの光で確認すると直ぐに降りて対面する。
「久しぶりだね、兄さん」
「エビル……やはり生きていたか!」
「当たり前さぁ! 兄さんとの決着を付けるまでは、死ねないよ?」
笑みを絶やさずにそう言うシンヤ。Dボゥイは突然怒りを露わにして襟首に掴みかかった。
「俺も! お前達を倒すまでは、死ぬわけにはいかないっ!!」
襟首を掴みながら、シンヤを激しく揺すった。彼らの再会は半年振りになるのか。最後に会ったのはミユキが散華した時の事。それを思い出して、Dボゥイは激情に捉われている。
「はっきり言ってくれるじゃないか……」
そして、掴んだまま側面のドアに押し付けた。ドアが強引に開かれ二人は部屋になだれ込むと、其処は植物プラントを観察する為の展望室であった。狭い展望室それ自体には昇降機能があり、三階程の高さに上昇出来る仕組みになっているらしい。
掴みを振りほどいたシンヤに、右拳を振り上げるDボゥイ。その右拳をすっとかわして両腕で掴むと、Dボゥイを左側面の壁面に強かに叩き付けた。その衝撃でスイッチが入り、展望室は徐々に上昇していく。
「俺達は双子だよなぁ?」
せまい場所で組み合う二人。直ぐにまた襟を掴んで壁に叩き付けるDボゥイ。
「んぅ! 兄さんの好きな兄弟愛はどぉしたんだいぃっ!?」
掴みを振りほどいて兄を押すシンヤ。Dボゥイの右肘が部屋の隅に設置してあった植物観察用のモニターにぶつかって割れる。組み合って壁に叩き付ける二人の暴力が展望室内で何度も巻き起こり、壁や設置された機器がその度に破壊されていった。
「何の話だっ!!」
 また強引に組み合う。Dボゥイには全くためらいが見られなかった。今までシンヤの姿を前にすれば、どちらかと言えば腹を探る為の会話を行ってきたDボゥイだったが、こんな風に激情を顕わにして暴力的になるのは、今までに無かった事だ。
「そう言う事か……」
「俺にあるのは、ラダムへの怒りと憎しみだけだぁっ!!」
「ぬぅぅっ!!」
 シンヤは渾身の力でDボゥイを壁に押し付け、彼の首を掴んで締め上げる。口元がひきつり、シンヤはサディスティックに笑った。それをDボゥイは、空いている足でシンヤの腹を蹴る。倒れこむシンヤだったが、直ぐにDボゥイの目の前に立ち塞がった。
「昔はこうやって喧嘩もしたよねぇ? えぇえっ!? 兄さぁんっ!!」
「あぁあっ!!」
 シンヤもDボゥイの激情に応える様に、彼の両肩を掴んで雄叫びをあげた。シンヤの両腕を振り払い、仇敵の首を絞めようとして壁に押し付けようとするDボゥイだったが、逆に腕を取られ、押し込まれてしまう。
「おわぁっ!!」
 押し込まれた壁面の対面にあるのは、植物プラントを見渡す為の展望ガラスだ。展望室が三階分の高さに上ったその直後、Dボゥイとシンヤは窓ガラスを打ち破って植物プラントへと落下する。
 激しくガラス片が乱れ飛び、押し込んだシンヤも勢い余って落下する。下が土ではあるとは言え、三階分の高さから落ちれば生身のDボゥイ達はただでは済まないはずだった。だが、丁度二人が落下する真下にあったのは照明器具だ。
 屋根付きの照明器具は本来、プラント全体にスプリンクラーによる雨を降らせた時の雨よけ器具だった。その屋根の天板がクッションとなってぶち壊れたおかげで、二人は傷を負う事無くプラントへと降り立った。
うずくまっていた二人は直ぐに立ち上がって睨み合った。
「せっかく昔を思い出させてやろうとしたのに……そう言うつもりなら仕方ない……」
 シンヤはそう言うと、懐から即座にテッククリスタルを取り出して叫んだ!  
「テック! セッタァァっ!!」
 紅い眩しい光が周りに満ちると、テッカマンエビルの輪郭がその光から浮かび上がる。腋に取り付けられた高機動用フィン、ラムショルダーを装備した肩と、凶悪な爪の様な掌。三叉矛を象った冠や全体的なカラーリングは何処と無く毒の花を思い起こさせる血の色の様な赤と暗い茶褐色。そんなテッカマンエビルのテックセットはブレードのテックセットとは正反対な印象を受けるが、それでも尚彼の変身する様は美しかった。
翼を大きく左右に伸ばした様なクリスタルが粉微塵に割れると、エビルのテックセットは完了した。
「くっ! ペガァスっ!!」
「ラーサー!」
 Dボゥイはそれを受けて即座に自分の相棒の名を呼んだ。基地内にエマージェンシー警報が鳴り、ブルーアース号のエンジン調整を行っていたレビンと本田がペガスが出撃していくのを見て驚愕する。
だが、エビルはDボゥイの相棒が到着するまで待ってやるほど親切ではない。エビルは右腕のラムショルダーを構えると、生身のDボゥイに切り掛かった。
「死ねぇっ!!」
 Dボゥイはその凶刃を飛び退ってなんとか避ける。ラムショルダーの刃が、Dボゥイの背後にあった鉄骨を粉々にした。彼はペガスが到着するまでの数分を生身で耐えねばならない。
屈んだ状態のDボゥイにエビルが飛び上がって躍り掛かり、ラムショルダーを振るって彼を切り裂こうとする。地面に刃が突き立てられ深く刺さったとしても、テッカマンの膂力で地面ごと切り裂き刃がDボゥイを追った。執拗に振るわれる刃をDボゥイは土埃に塗れながらも何とかかわしてきた。
Dボゥイも逃げてばかりいるのではない。傍らに落ちていた鉄パイプを拾い上げると、
「だぁぁっ!!」
 両腕で構えてエビルに対し反撃を試みた。生身であっても、哀れな狩られる側ではないと言う意思表示を見せて精一杯反抗した。勿論、テッカマンと言う存在は鉄パイプごときで阻める相手ではない。
攻守を兼ね備えるラムショルダーでDボゥイの鉄パイプを防御すると、空いていた左腕でDボゥイの身体を強かに殴る。辛うじてその攻撃をパイプで受け止めたが、その衝撃でパイプはひしゃげ、もんどりうってDボゥイは倒れ伏した。
「ブレード! これが最後だ!!」
 巨大な鉄扉の前に倒れ伏したDボゥイに、エビルが悠然と叫びながら迫る。武器も無く無防備なDボゥイだったが、その表情に諦めは無い。そしてその直後、Dボゥイの背後にある鉄扉がゆっくりと開いていった。
「ペガス!」
「ラーサー!」
 ペガスがようやく到着して、鉄扉をその怪力で開いていった。Dボゥイの号令を受けると、胸部のバルカン砲が火を吹きテッカマンエビルを怯ませる。この基地に到着してからペガスの武装もラダム獣の爪が加工されたモノが装填されているらしい。エビルはその銃撃が鉛の弾丸で無い事を一瞬で悟り、何とかラムショルダーで銃撃を受け止め凌いだ。
「ペガス! テックセッタァァっ!!」
 その隙を見逃すDボゥイではない。テックセットコードをペガスが受けると、背部パネルを展開しつつ背中をDボゥイに向ける。走り出したDボゥイがテックセットルームに搭乗し、背部パネルが閉められると、直後頭部を展開して射出される様にテッカマンブレードが出現する。
テッカマン! ブレード!!」
 飛び上がったブレードは、エビルの後方に着地すると、そう雄叫びを上げて戦闘態勢を整えた。兄弟の再戦はまだ始まったばかりであった。
 そして丁度その頃、ブリーフィングルームに集まったスペースナイツの面々は警報を受けてフリーマンから事情を聞いている最中だった。
「それで、Dボゥイの身体が、どうしたって言うんだ!?」
「彼は今、記憶の混乱を起こしている」
「自分がDボゥイと呼ばれている事さえ分からないのよ」
 バルザックの言葉を受けて、フリーマンとアキはDボゥイの現状を説明した。
「そんな……!」
 ミリィがそう言いながら表情を曇らせた。つまりこれはブラスター化の影響でそうなったと言う事を、彼らは理解する。
「これ以上戦えば、症状が進行する恐れがある……ノアル! バルザック!」
「ラーサ!!」
 二人が同時にそう応え、スペースナイツはDボゥイの支援に出撃するのだった。
 植物プラントではテッカマン同士の戦いが巻き起こっていた。それは、先程展望室内で起こった暴力の比では勿論無い。両者は突進し両手で組み合うと、力比べで相手を威圧しようとする。しかしここでテッカマンブレードは違和感を覚えた。エビルのパワーが増している様な感覚がある。 
「てぇっ!!」
 このまま組み合うと力で負ける様な気がしたブレードは、組み合いから離れ、空中で槍をランサープロジェクターから取り出し、テックランサーを合体させて構えた。エビルもそれに応じて、両腕を上げると、虚空からランサーを形成して迎撃態勢を整える。
「どぉおりゃああぁぁ!!」
 雄叫びを上げながら走り出し跳躍すると、テックランサーをエビルに向かって渾身の力で叩き付けた。だが、エビルはその攻撃を真っ向から受け止める。ブレードのパワーで土を踏んでいたエビルの爪先が少しだけ埋没した。着地したブレードは、何度もランサー攻撃を行うがエビルは的確にその攻撃を受け止めいなしていった。
 ブレードはここで思った。テッカマンエビルの技能や膂力が今までに遭遇した時のとは、比べ物にもならない事を。激しくぶつかり合う槍と槍。叩きつけられるランサーを時にはテックシールドで防御し、テッカマンブレードはエビルの攻撃を辛うじて凌いでいく。
 叩き付ける槍の攻撃がいつしか押し合いになった直後、テッカマンエビルは押し合いから脱して、ランサーを十字型にしてブレードに投げ付けた。
「とぉぉっ!!」
地面を切り裂きながら迫るランサーを、バク転で何とか回避するブレード。十字ブーメランとなったテックランサーをエビルは軽々と跳躍して空中で回収すると、一瞬でランサーモードに戻し、そのままブレードのいる場所に向かって吶喊した。
「うぉあっ!?」
 ガキィンと鈍い音が鳴って、ブレードのランサーは弾き飛ばされた。同時に体当たりを食らってブレードは地面に倒れ伏してしまう。先程ブレードが行った空中からの振り下ろしを、今度はテッカマンエビルが行い、これをテッカマンブレードは受け止められなかったのだ。
この時点で、両者の実力は拮抗してはおらず、明らかにテッカマンエビルが優位に立っていた。弾き飛ばされたブレードのランサーは、バーナードが葬られた墓碑の直ぐ傍に突き立った。
「……さらばだっ!! ブレードォっ!!」
 倒れ伏して、無防備なテッカマンブレードテッカマンエビルは大きく槍を構えると、一番装甲の薄い腹部、剥き出しの素体に向かってテックランサーを振り下ろす!
「ぐぉわああぁぁぁぁっ!!」
 断末魔が、植物プラントに響き渡った。
テッカマンブレードの命運や、如何に!?






佐野先生原画の凄い回です! この話は前後編で分かれて、次の回になると凄い違和感がある妙な話ですね。月面のイブとかナスカとか思い出します(笑)それにしても誰しもがイケメン&可愛いキャラばっかりでビックリですよ。本田は男前でレビンなんて凄い美形に映っていますね。アキの勇気を出してタンクトップはちょい浮かれ過ぎな感もしますが、まあ半年の寿命から生還したんだから勘弁してあげてください、と言う感じでしょうか。話は別に何一つ進んじゃいませんが、次回でシンヤが休憩してくれないとソードのお話が組み立てられないので、仕方なくまたヤラレキャラを演じてもらう訳です。だから前編は活躍しないとねエビルさんは(笑)
作画見事としか言い様が無い描写ばかり。特にキャラの表現が凄い細かくて、一人一人の表情が一番多彩な話です。この回だけで良いから一度だけ見ておけ! と言う位のお話でした。