第43話 訣別の銃弾(1992/12/15 放映)

タツノコっぽい顔です!

脚本:川崎ヒロユキ 絵コンテ:橋本伊央汰 演出:鈴木吉男 作監&メカ作監:工原しげき
作画評価レベル ★★★★☆

第42話予告
ついに始まったオービタル・リングの奪回作戦。
だが、記憶が欠落し変身できないDボゥイの前に、ラダムマザーが迫る。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「決別の銃弾」仮面の下の涙をぬぐえ。


イントロダクション
ブラスター化の代償として、過去を失い始めたDボゥイ。彼は、その病魔を自覚する事無く戦いに参加し、エビルを撃退した。
「俺は……!!」
「その通りだ。ブラスターテッカマンに進化する事により、君は肉体の組織崩壊を免れた。だが、崩壊は頭部に集中し、神経核は麻痺して君は徐々に記憶を失い始めたのだ」
「俺はミユキの好きな花さえも……!!」
Dボゥイは始めて、自分自身の身に何が起きているのかを認識した。


数ヶ月ぶりに碧の翼は、太陽の光を浴びながら蒼穹を飛ぶ。
 ほぼ全壊した機体も全て新調され、ブルーアース号は試験飛行を終えて、新生スペースナイツ基地の格納庫へと降り立った。乗っているのはアキ、ノアル、そしてバルザックの三人。彼らは修理を終えたブルーアース号で世界を飛び回り、たった今帰還した所だった。
「アキ、直ぐにこのデータ、解析に取り掛かろうぜ」
「えぇ、ブルーアース号が復活して、やっと手に入った世界各地の情報ですもんね!」
 バルザックにそう言われて、アキが応える。三人は喜色満面な面持ちと言う感じだった。やはり空を飛ぶのは爽快であり、心強い戦力が戻ってきた事に皆歓喜している。
 基地内の通路をそう会話しながら歩いている時、ノアルはアキが持っていたデータボードを取り上げながら、 
「ちょい待ち、アキ。コイツは俺がやっておくぜ。お前は行く所があるんだろ?」
 そう言った。仲間の気遣いに、アキは少し困った様な笑顔を見せる。本来データの解析は彼女の仕事ではあったが、基地から離れていた彼女には懸念があった。そう、戦う度に記憶を失うと言うDボゥイの事がいつも気掛かりだったのだ。
 そして今現在Dボゥイは、CTスキャンに掛かりながら懊悩していた。
――――俺は自分がDボゥイと呼ばれていた事も、ミユキが愛していた花の名前も忘れてしまった……今度は何を失うんだ? アキやノアルの事か? それとも……!!
 心中でそう呟きながら、Dボゥイは改めて自分が今どんな状況なのか再認識している状態だった。テックセットする度に記憶を失う。それは彼自身の目的にとって致命的な現状だった。ラダムと名の付く者を全て葬り去る。これは父孝三の願いでもあるし、妹への仇討ちでもある。
だが、もしラダムへの憎しみが、自分が戦うと言う行動原理すら記憶から抹消されてしまったら、自分はどうすればいいのか。守るべき仲間や愛する人の記憶まで失ってしまったら、自分はどう戦えばいいのか。そんな懸念が今、彼を支配していた。
 治療室の隣の経過観察室では、フリーマンやレビン、本田達がDボゥイの検査結果を心待ちにしている。
「ねぇ、チーフ、Dボゥイは大丈夫なんでしょう? 私達の事、忘れたりしないわよねぇ?」
「残念だが、神経核の麻痺を止める事はできない。最新の医療技術を以ってしても、生体組織の処置にも限界がある」
「はっきり言って……気休めか……」
 フリーマンのそう言った説明に、本田は落胆する。そんな時、観察室にアキが入ってきた。
「おう、帰ったか。Dボゥイの検査も、もう直ぐ終わるそうだぞ」
「Dボゥイ……」
 ガラスに貼り付く様にそう言いながら、アキはDボゥイを凝視する。今現状では彼に身体的な苦しみは無い。しかし彼の険しい表情が、彼の苦悩が痛い程にアキには伝わってきていたのだった。
丁度その頃、連合防衛軍兵舎の一室で一人の女性が鏡に向かっていた。野戦服を着た彼女は、イヤリングを外し、唇のルージュを拭き、腰のベルトに刺していたサバイバルナイフを抜くと、自分の髪をばっさりと切り始める。
彼女は数日前までは銃を握った事も無い女性だった。だが、ある報せを聞いて彼女は兵士に志願したのだ。
「出発だ、アンジェラ!」
 部屋の外で待っていた兵士が、彼女に呼び掛けた。
「行ってくるよ……あんた」
呼び掛けられた彼女は、鏡から視線を逸らし、傍らにある写真立てを手に取って言った。精悍な顔付きではあるが、一目で美人と分かる女性。年齢は三十代位であろうか。彼女は、写真立ての前に置いてあった拳銃を取って、腰のホルスターに装備すると、部屋を出た。
微笑みながら写真立てに写っていた男は、テッカマンランスの襲撃で命を落としたバーナード・オトゥールその人であった。
翌日、検査を終えたDボゥイであったが、結局の所その結果は現状維持が望ましい、と言う事だった。神経核の麻痺、頭部に集中した組織崩壊は彼の記憶を徐々に蝕んでいく事を止められない、それだけが分かったと言っても過言ではない。つまりテッカマンとなって戦う事は、最後の手段に用いるべきだろうと言うのが今後の方策だった。最後の手段とは即ち、テッカマンとの対戦である。
そして今、基地の指令所では数人の連合防衛軍兵士が集まって、スペースナイツのメンバーと対面していた。
「諸君、こちらは元防衛軍の兵士達だ」
 オレンジ色の野戦服を着た彼らは、この基地で戦死したバーナード・オトゥールの元部下達である。
「我々は、ゲリラ部隊を組織してORS奪回の為に攻撃を続けてきました。それが最近になって、軌道エレベーター内のラダム獣の数が減ってきている様なのです」
 リーダー格であるハンスが、ORSの現状を説明する。
「彼らはこの事実を我々に伝える為にやってきてくれたのだ」
 本来軍とスペースナイツの両者は水と油の様な組織体系ではあったが、半年以上前の軍司令部の崩壊で、命令系統に致命的な齟齬が生じ、今現在彼らは独立愚連隊となってラダムに挑んでいる。そんな彼ら、最前線で戦う兵士達に、フリーマンは定期的に支援を行っていたのだ。
 そして今、情報をスペースナイツにもたらす為に此処に来たとフリーマンは言っているが実際には、Dボゥイと言う最後の砦を守る為の支援要員として、彼らを仲間に引き入れたと言い換えても良かった。
「ラダム獣の減少は軌道エレベーターの中だけではない。諸君がブルーアース号で集めた情報を解析した結果、世界各地に棲息していたラダム獣も、急速にラダム樹へと変化しているのだ」
「それじゃ……ラダムはいよいよ!」
「侵略は最終段階に入りつつあると思って、間違いない」
 強張ったノアルの言葉に、フリーマンは静かに応えた。
「ど、どぅしよぉ!?」
「ラダム樹が花開く前に、何とか奴らの月基地を叩かねぇと!」
「だけど、ブルーアース号のカタパルトは、まだ修理が終わっていないわ!?」
「月どころか大気圏脱出も無理となりゃあ、打つ手なしか……」
 スペースナイツの面々に動揺が広がる。ラダム樹の花が咲けば、其処彼処に避難している人々を強制的に取り込み、素体テッカマンと化していく。そして月の裏側にあるラダム基地が地球へ到達すれば、取り込まれた人々が全てテッカマンになり、ラダムの尖兵になるだろう。そうなれば人類が敗北する事は目に見えていた。
「そこで諸君は彼らと協力して、ORSを奪回し、その機能を回復してもらいたい」
「ラダム獣が減った隙を突くってワケね」
 ノアルがフリーマンの言葉にそう応える。打つ手が無い訳ではない、フリーマンはそう言いたげに、コンソールを操作してメインモニターにORS概略図を表示した。
「ORSには、八箇所のスペースポートがある。これらを一つでも奪回すれば、再び宇宙へ飛び立つことが出来る。また、通信システムを修復すれば、寸断されている地上の交信も復活させる事が可能だ」
 概略図には地球を中心に、八つの拠点がリングで結ばれている。各々には地球へと降下する為の軌道エレベーターが配置されていた。
「そして、これが最も重要なポイントだが……万が一ラダム樹の開花が始まったら、人々の避難場所としてORSを使用することが出来る」
「なぁるほど!」
「一石二鳥、、ううん、一石三鳥じゃない! ねぇ! ノアルぅ!」
「皆まで言うなって! 今までの借り、全部まとめて叩き返してやるぜ!!」
「軍曹の分もな!」
 ORSの奪還は、言わずもがな人類にとって生き延びる方策であり、悲願である。フリーマンの説明にレビンやノアルが気概を露にする。そしてバーナードの元部下であるハンスにとっては、敵討ちの作戦でもあった。
「レビン、通信システムの復旧作業には君が必要だ。同行してくれたまえ」
「ラーサ!」
「我々に残された時間は少ない。直ちに行動を開始せよ!」
「ラーサ!!」
 フリーマンの号令に、スペースナイツと元防衛軍の兵士達が応えた。
その直後、指令所に入って来た者がいた。少し気だるい表情をしたDボゥイである。
「Dボゥイ!」
「無茶するな!」
 アキとノアルが直ぐに彼の身を案じる様に言って駆け寄った。
「Dボゥイ……?」
 その固有名詞を聞いて、兵士の一人、赤毛の女性が怪訝な声を上げる。つい最近義勇兵に参加したアンジェラと呼ばれた女性である。
 Dボゥイは、アキとノアルに異常は無い、と言う振りをしてフリーマンに向かって言う。
「チーフ……その作戦、俺にも参加させてくれ!」
「だが君は……!」
 フリーマンにとっては正直、Dボゥイを戦いに出したくは無かった。だが、ORSからラダム獣の数が減ったとしても、不確定な要素がまだ幾らでもあった。不確定な要素、それは敵テッカマンの存在である。
 Dボゥイが作戦参加の意思を表した時、兵士達から歓声が沸いた。
テッカマンブレードが一緒に来てくれるなら、作戦は成功したも同じだぜ!!」
 兵士達は今のテッカマンブレードの状態を良くは知らない。折角士気が上がっている所にフリーマンも作戦に参加させる訳にはいかないと、水を差すワケにもいかなかった。
「待って! Dボゥイ!!」
「いいんだアキ! 同じ苦しむのなら……戦いの方がマシだ」
「……っ!」
 だがアキは止めるべきだと思って声をあげたが、Dボゥイ鋭い眼光と言葉で制する。
「よぉぉし気合入れてけよ野郎共ぉ!」
「おぉっ!!」
 かくして、ORS再奪還作戦が開始された。以前コルベット准将が行なった、数百人規模のオペレーションヘブンに比べれば、僅か十数人の必要最小限の作戦であろう。
 その頃、ORSのラダム獣の巣、通称蜘蛛の巣と呼ばれる場所では、獣達の卵、ラダム獣の胎児が卵管を伝って次々と生まれ出でている。その様は何処と無く蛙の産卵に似ているが、大きさは蛙の比ではない。そしてその卵管は天井から伸びていて、そこには巨大な何かが蠢いている。
 その場所はラダム獣の育成培養プラントである。以前、スペースナイツと防衛軍が協力で行なった作戦、オペレーションサンセットにおいて、エネルギージェネレーターは破壊され、ラダム側は無尽蔵とも言える電力供給の恩恵を受けられなくなり、ラダム獣の育成は困難になった。いや、はずであった。
 機械と生物の異形が混在した育成プラントに、音も無く人が現れる。今現在ORSのラダム獣育成の統括を行なっているフォン・リー。テッカマンソードである。
「地球に到達したラダム獣は、オメガ様の求める数となった……お前の役目も終わったわ、ラダムマザー」
 天井を見上げながら、フォンはそう言った。ラダムマザーと呼ばれる個体。天井付近に張り付いているそれはラダム獣を産卵・育成する目的で調整された巨大なラダム獣である。
 Dボゥイ達が旧イスラエル地区で遭遇した超巨大ラダム獣よりは小さいが、それでもその威容は10m以上程の大きさがある。巨大な頭部は王冠の様に左右に広がり、通常のラダム獣とは逆にその胴体は細く長い。実はオペレーションサンセットが行なわれた後でも、ラダム側はラダム獣の育成が大幅に減少されたものの、絶無になったワケではなかった。この、巨大なラダムマザーと呼ばれる個体が、ORSの機械に根を張り、ソーラー発電から直接、エネルギーの供給を可能にしていたのだ。
「お前に最後の命令を与える」
 そうフォンは言うと、精神感応でラダムマザーに指令を与えた。その命令を巨大な獣が受諾すると、形容し難い咆哮をあげる。細い胴体から繋がっている透明な卵管が千切れる様に外れ、隔壁に突き立てていた爪を外すと、ラダムマザーは轟音と共に育成プラントの床に降り立った。
 そして突如その爪を卵管に振り下ろすと、透明な管が液体を溢れさせながら破れ、中に入っていた卵が露わになる。そして丸裸になった、胎児の卵に触手を纏わせると、吸引するかの如く胎児の生命力を吸収していく。生命を吸われた胎児は、急激に干からびていった。ラダムマザーはその動作を繰り返し行い、次々とラダム胎児の生命エネルギーを吸収していった。
「そうよ……そうして我が子を喰らい、力をその身に蓄えるがいいわ。来るべき時に備えてね……ふふふ」
 フォンはその異常な光景を頼もしそうに見ている。彼女の侵入者への罠は、まだ始まったばかりだった。
「高度200kmまでは既に制圧している。其処までなら復旧した軌道エレベーターで行く事が可能だ」
 青空が広がる日中、軌道エレベーター基地前にスペースナイツとハンス達元防衛軍兵士達は気密服を着て集合している。彼らはブルーアース号を降りて、後部コンテナから武器や電子機器を積載したホバークルーザーを降ろす作業を行なっている最中だった。
その最中、Dボゥイ達は改めて天への道、軌道エレベーターを見上げた。
「それより先は、行ってからのお楽しみってワケか……」
「ラダム獣がいるかいないか、それは我々にも全く分からん!」
 ノアルの言葉に、ハンスはそう応える。彼らは何度か此処に来てゲリラ活動を行なっていたが、軌道エレベーターの頂上にあるORS区画はまだ未探索の状況だった。
「ペガスぅ? あんたのご主人は今、色々と大変なんだから、しっかり守ってあげなさいよぉ!」
「ラーサー」
「Dボゥイ! ペガスの準備は万全よぉ! あなたのガードは、バッチシ任せてよぉ!」
「Dボゥイ……ノアルやバルザックも一緒なんだから、無理にあなたが変身する事はないのよ」
「あぁ」
 レビンはペガスに対してDボゥイへのガードを最優先にする、と言う指令を出し、アキはその様を見てDボゥイに語りかける。スペースナイツのメンバーにしてみれば、それだけ懸念する事態であった。もう気軽にテックセットする事は出来ないと。  
「ミセスアンジェラ、武器の使い方は?」
「今日と言う日の為に全部マスターしておいたわよ」
「とにかくあんた、戦争のプロじゃない。常に我々の中央にいてください、いいですね? アンジェラ!」
 防衛軍兵士達の間では、義勇兵に志願したアンジェラの身を案じてそう語り掛けている。
――――Dボゥイ……!
 しかしアンジェラは話半分に、軌道エレベーターを見上げているDボゥイを見つめている。手に持った拳銃を握り締め、彼女はずっとDボゥイの横顔を見続けていた。
 軌道エレベーターで徐々に宇宙へと近付くDボゥイ達。エレベーター内はラダム獣に蹂躙された跡はあったが、電源が回復し搬入用の巨大エレベーターまで復旧する程に施設は整えられていた。以前バーナード達が徒歩でORSを目指した時の、荒れ果てた内部に比べたら格段に昇りやすくなっていた。
 だが、昇りやすくなっても、危険度は過去に比べれば格段に違った。
――――ソード……!
 Dボゥイの額がクリスタルの紋章を象り、彼女の精神感応を感じる。自由に動けるラダムのテッカマンは残り二人。いつも殺意と共に感じるエビルの感応波とは違う。これはテッカマンソードだとDボゥイは断定した。
――――やはり来たわね……ブレード!
 そしてフォンもまたDボゥイの精神波を感じ取り、戦闘態勢を整える為にテックセットを行なう。丸みを帯びた仮面の中で、赤い眼光が煌くのだった。

            〇

「異常なし! この分なら中央コントロールルームまでは、問題無さそうだな」
 ORS区画に入ったメンバーはレーダー機器を見ながらホバークラフトに乗って移動している。やはりORS内は獣達に蹂躙された跡が其処彼処に広がっていた。しかし、
「んっ!」
 突如隔壁をぶち抜いてラダム獣が出現する。ノアルとバルザックソルテッカマン達が前に出ようとしたが、
「ラダム獣の二・三匹、我々で充分だ!」
 ハンス達がそう言ってソルテッカマンの動きを制する。
「伏せてろぉっ!!」
 グレネードランチャーを構えたハンス達防衛軍兵士が前に出て、叫びながら撃つ。放物線を描きながらランチャーの弾頭はラダム獣の頭上で破裂すると、弾頭内に入っていた針状の弾が獣達の頸部を直撃した。直後、ラダム獣が咆哮を上げながら苦しみ、針を中心にして表皮が膨れ上がり破裂する様に爆散した。
「へぇ! やるじゃないの!」
 そうノアルが感嘆の声をあげる。以前のレーザーガンと爆発物だけで戦ってきた連合防衛軍兵士達とは大違いの手際の良さだった。彼らが装備しているのは対ラダム獣用新兵器「ニードル弾」である。外皮が強靭なラダム獣に対抗する為に開発された兵器で、その特徴は対象を内部から破壊する、と言うモノである。
比較的外皮が柔らかい頸部等にニードル状の弾頭を突き刺し、生体信号を読み取って電磁パルスを獣の内部へ送り込み、ラダム獣が体内に蓄積している生体エネルギーを刺激して誘爆させると言う、ある意味ラダム獣だけを殺す為に特化した武装である。それに通常のグレネードランチャーから発射される弾頭である為、新しい銃器を開発する必要の無い、画期的な新武装であるとも言えた。
勿論、これはラダム獣の生体を知り尽くした者でしか作りえない武装である。つまり、これもフリーマンがハンス達に供与した武装の一つであった。フェルミオン砲、ラダム獣の爪を加工した弾頭、そしてニードル弾。ラダムの侵略が始まって以来の過去とは違い、既に地球側はラダム獣を克服していたのだ。
「それにしても妙だぜ、いつもならこぞって出てくる連中が、たった三匹で打ち止めなんてよ」
「中央コントロールルームに急ぎましょう。あそこの機能を回復すればORS内の様子は全て分かるはずだわ」
「ラーサ!」
 アキの提案にノアルがそう応える。バルザックの言う通り、確かにORS区画内は獣達の住処だったはずだ。もう既に、ラダム獣が此処に居座る意義が無くなったのだろうか?
そしてアラスカのスペースナイツ基地では、彼らの動向をオペレーターと本田、そしてフリーマンがモニターで見守っている。
軌道エレベーターエリア、無事通過。間も無く中央コントロールルームに到着します」
「頼むぜぇ!」
 本田はそう言いながら拳を握りつつ応援し、フリーマンは無言で、先程の襲撃以降全く障害に遭わずに中央コントロールルーム付近に辿り着くDボゥイ達を見ていた。うまく行き過ぎている、と思ってもいた。
 そしてコントロールルームの隔壁を開くと、
「おぉっ!?」
「なんてこった!!」
「やってくれるじゃねぇか」
 ルーム内の状態を見て彼らは目を見張った。全ての機器が破壊されている。破壊の規模は小さいが、ラダム獣の様な無差別な破壊とは違い、機器の基盤や中枢回路を効率的に破損させられている。 
「気をつけろ? 敵はまだこの辺りにいるかも知れん!」
 ハンスがそう、他のメンバーに気をつける様に言った。引っかき傷の様な破損が無いのを見れば、この有様はラダム獣が行なった破壊ではないと言う事が窺える。むしろ何かで打撃された跡が多かった。
「レビン、復旧の見込みは!?」
「……通信システムだけなら、何とか!」
 ノアルが破損の状態を聞いてレビンがそう応える。無傷な機器を探すのが困難な位に破損は酷い状況だったが、持ってきた資材を使えば復旧する事も可能であるらしい。
 そしてその頃、第三スペースポートでは、テッカマンソードが瓦礫の上で、ほくそ笑んでいた。
「あと二つ……ブレード、ゲームはまだまだこれからよ!」
 残存していたスペースシップは完全に破壊され、港湾施設もほぼ壊滅状態であり、辺りには炎さえ吹き出ている。空気の流出も起こって、そのスペースポートは完全に港としての機能を失っている様だ。
 レビンの持っている端末に第三スペースポートが異常を来たしている事を示した。これはつまり、このコントロールルームを破壊した主が行なっている妨害だと誰もが思った。そしてその目的は、自分達を月に行かせない事である。
「使用可能なスペースポートで、此処から一番近い所は何処だ!?」
 Dボゥイが鋭くレビンに尋ねる。 
「えぇっとぉ……第八スペースポートよ! あ、あ? ちょっとちょっとぉ!!」
 そう聞くや否や、Dボゥイは乗ってきたクルーザーに飛び乗る。ペガスに追従する様に指示を出し、第三スペースポートに即座に向かった。こうなると時間との勝負であった。 
「Dボゥイ!」
「Dボゥイの奴……ノアル! お前は残ってアキ達を護衛してくれ! 俺はDボゥイを!」
「分かった!!」
「頼んだわよ! バルザック!」
 ソルテッカマン達とレビンの数瞬のやり取りで、今回彼をサポートするのはバルザックと決まった。更に、
「ロイ! お前たち三名は此処に残って通信システムの修理! 俺達はDボゥイの援護に回る!」
「了解!」
 防衛軍の兵士達も、もう一台のクルーザーでDボゥイの支援に当たる事を決める。その時、アンジェラがクルーザーに乗り込みながらリーダーのハンスに叫ぶ様に言う。
「ハンス、あたしも行くよ!」
「君は此処に残ってくれ!」
「行くったら行くよ!」
「だが……アンジェラ!」
 正直な話ハンスは、アンジェラをこの中央コントロールルームの防衛につかせたかった。これから行く場所は敵との交戦確率が非常に高い。一応訓練は受けているとは言え彼女は戦闘経験が皆無な、ただの素人である。
「どうしても聞きたい事があるんだよ……あのボウヤにね」
 しかし彼女はそう、静かに言いながら決意を露わにするのだった。
 ORS区画を高速で進む二台のクルーザー。それにペガスと、バルザックソルテッカマン一号機改が追従している。結局ハンスはアンジェラの必死さに折れる事になった。ハンス達防衛軍兵士の四人がもう一台のクルーザーに乗り、Dボゥイのクルーザーにはアンジェラが乗っている。
「話ってなんだ?」
 Dボゥイがそう、アンジェラに聞いた。気密服の通信機はアンジェラとの個人通信に設定されている。他の者達には二人の会話は聞こえない。
「聞かせて欲しいのさ、あの人の最後を」
「あの人?」
「バーナード・オトゥール、あんたの事ボウヤって呼んでた男の事さ」
「バーナード……オトゥール……?」
 聞き覚えの無い様な顔をして、Dボゥイは訝しげな声をあげる。バーナード軍曹、Dボゥイがブラスターテッカマンに調整されている時、身を挺して彼を守った男である。そしてアンジェラの姓名はアンジェラ・オトゥール。彼女はバーナードの妻であった。
「あんたに会った後……あの人本当に嬉しそうだった。久し振りに本物の戦士に会ったって。本当に嬉しそうに話してくれたんだ……あんたの事」
――――ボウヤ、これから戦場で生きていくつもりだったらコレだけは言っておく。お偉いさんが何と言おうと、戦場で戦うのは俺達兵士だ。死んじまったら元も子もねぇ。まず生き残ること、生きて帰って、仲間の命を守り続けること。それが戦場の掟だ! 軍人として、いや、しがねぇ古参兵からのアドバイスだ――――
 かつて、Dボゥイに対してバーナードの言った言葉である。それはまだ、Dボゥイがスペースナイツに参加したばかりの頃に、バーナード達の任務を手伝い成功に導いた時の言葉だった。
「バーナードは……あたしの全てだった」
 アンジェラは彼を懐かしむ様に虚空を見つめる。
「あの人は戦場へ戻る時、いつもあたしの目覚める前に出て行っちまうんだ。テーブルの上にこの銃を置いてね。会ってる時こそ少なかったけれど、あたしって言う港があるから戦えるって、いつも言ってくれた」
 バーナードは任務の早朝、決まって彼女が寝ている間にそっと、静かに自宅から出て行った。いつ死ぬか分からない、いつも危険な任務に身を置いていたからか、彼はアンジェラと別れの言葉をかわしたり、今生の別れをそれとなく避けていた。それは、必ず帰還すると言う願掛けの様なモノだったのかもしれない。アンジェラの手には鈍く光る火薬式の拳銃が握られている。今となってはそれだけが、バーナードとアンジェラを繋ぐ絆であり、形見でもあった。
「……自分が留守の間これを俺だと思ってろって……でもあの人はもう、帰ってこない……」
「バーナード……オトゥール……」
「御願いだよDボゥイ! あんたあの人の最後を見たんだろ!? あたしに聞かせて欲しいんだよ! あの人の最後を!」
 クルーザーを操縦するDボゥイに、半ば掴み掛かる様にアンジェラは言った。バーナードの最後がどんな風であったのか、それが今一番彼女が気に掛かる事だった。
しかしDボゥイは応えられない。何度も自分を救い、戦士の約束とも言うべき心得を教えてくれた防衛軍の隻眼の男。アックスとの死闘で窮地に立たされた自分を救い、ランスの凶刃に散っていった男。
――――バーナード……誰だそいつは……一体誰なんだ!? 俺はそんな男の事は……! またか! 俺はまた記憶を!?
 疑念が確信へと変わる。そうだ、確かに自分はアックスと戦っている時に誰かに助けてもらった。それは確かに防衛軍兵士の軍服を着た誰かだったが、その顔が靄が掛かったように思い出せない。
「応えておくれよDボゥイ! Dボゥイっ!!」
そして何度も懇願するように自分に聞くアンジェラに対して、意を決したかのように語った。
「すまない……!」
「え……?」
 その頃、中央コントロールルームでは復旧作業が続いている。先程まで照明すら灯っていなかった部屋だったが、今現在では明るくなり随分作業もし易くなっている。メンテナンスハッチに上半身を突っ込み、レビンは修復作業に勤しんでいたが、突然基盤にスパークが走り、ボン!と破裂して黒煙をあげる。
「レビン!?」
「ごほっげほっ」
 その様を見てアキは驚いて声を掛ける。レビンはハッチから脱して激しく咳き込んでいるがどうやら無事の様だ。
「レビン……」
「大丈夫……大丈夫! もぉう! まったくなんてやらしい壊し方なのぉ!? 此処を壊した奴って、けっこぉ性格悪いわよ! 絶対よ!」
 ペンチを握り締めながらレビンは言い、そんな彼を見ながらアキは苦笑した。
実際に此処を破壊したのはテッカマンソードではあるが、彼女もまたアルゴス号のメンバーに選ばれる才覚を有していた。何処をどうやって壊せば復旧作業が滞るかは理解しての破壊行為なのだろう。
「……Dボゥイ」
 そしてアキは離れているDボゥイを気に掛けた。彼女がDボゥイの身を案じるのはいつもの事ではあるが、今度の敵は他のテッカマンの様に直接襲ってくるストレートな相手ではない。アキはまるで、蜘蛛の糸に絡め取られている様な、自分達が罠の中に飛び込んでしまったかの様な感覚に陥って不安に思ったのだった。
「それじゃあんた、いずれは何もかも忘れちまうっていうのかい!?」
 高速で移動するクルーザーの中で、アンジェラは驚愕した。中央コントロールルームを離れてから数時間の間、結局Dボゥイはアンジェラに自分の状態を包み隠さず話した。自分がテックセットする度に、記憶が部分的に欠落すると言う症状を患っていると言う事を。今では殺された妹が好きだった花の名前すら思い出せないと言う事を。そして、Dボゥイは恐怖していた。
「分からない……だが俺は……俺は怖いんだ。ラダムへの怒りを、憎しみを忘れてしまったら……もう奴らと、戦う力すら無くしてしまいそうで……!」
 アンジェラは息を呑んだ。そして、Dボゥイの横顔が苦悩に満ちているのを見てとてもバーナードの最後を聴く事が出来なくなった。アンジェラも理解したのだ。Dボゥイは組織崩壊の影響でバーナードの事を忘れてしまった事を。
「ここで忘れてしまったら、俺は何の為に今まで戦ってきたと言うんだ!! 」
 拳を握りながら吐露する様に言うDボゥイ。そんな彼の様を見て、アンジェラは静かに言った。形見であるレーザーガンを握り締めながら。 
「あんたも……愛していた者を全部ラダムに奪われたんだろ……だったら大丈夫さ」
「え……」
「人の心ってのはそんなヤワじゃない。愛した者を奪われたんだ! その怨みは死んだって忘れやしないよ。 忘れて……たまるかってんだ……!」
「アンジェラ……」
 アンジェラの、悲しみと怒りがない交ぜになった瞳を見る。例え全てを忘れてしまったとしても、人の心の強さをアンジェラはDボゥイに示した。そして、彼女は歌った。
「♪おぉダニィボーイ、笛の呼ぶ声ぇ〜♪」
「その歌は?」
「あの人がよく口ずさんでいた歌さ。谷間にぃ〜山をくだりぃ〜行く夏ぅ〜花も散り果ぁてぇ〜♪」
 夫が良く謡っていた歌をアンジェラは口ずさむ。Dボゥイはやはり聴き覚えが無い歌だったが、どこか懐かしい郷愁に捉われる。バーナードの事は完全に忘れていたとしても、身体はその歌に反応している。
 そしてアンジェラの歌に呼応するかの様に、突然ペガスも音声を発した。
「♪ユクナツーハナモチリハテー♪」
「ペガス! お前!?」
「メモリーバンクニ、ソノオンガクデータガアリマス」
「きっとあの人が教えたんだね……」
 アンジェラはあの人らしい、と想う。そして嬉しかった。例えバーナードが死んでも、彼の歌は何かしらの形でこうして残っている。夫の生きた証があった、それだけでもう充分だった。 
「でかい反応だ!」
 センサーを手にしたハンスがそう言って、Dボゥイ達に合図した。二人は無線をオンにして戦闘体勢を取る第八スペースポートまで後数十キロと言う地点で、ハンス達はクルーザーを止めて、敵の襲撃に備える。
 すると突如前方の床を打ち破りながら、何かが彼らの行き先を遮った。
「攻撃準備! アンジェラ! 君は隠れていろ!」
「ペガス!」
「ラーサー!」
「Dボゥイ! テックセットするな! 俺達に任せろ!」
 テックセットする為にDボゥイはペガスを呼んだが、バルザックがすかさずそれを止めた。眼前にいるのはラダム獣である。ソルテッカマンとニードル弾だけで対処可能かと思われたからだ。だが、
「なんだあの馬鹿デカイ野郎はっ! 撃てぇっ!!」
 その巨躯は明らかに既存のラダム獣とは異なっていた。頭部が大きく頸部が見えない、細い胴体をしていても通常の獣とは数倍大きい。ハンス達はラダムマザーの存在を見て驚愕していた。
 攻撃を行う兵士達。ソルテッカマンの拡散フェルミオン砲が唸り、ハンス達のライフルが火を吹く。ラダム獣の爪を弾頭にした火薬式の機関銃や、火炎を起こすナパーム弾などありとあらゆる砲火がラダムマザーを撃ったが、巨大な獣は意に介さず少しずつ近付いてくる。それに伴いハンス達もじりじりと後退してしまう。
「いつもの奴とは、勝手が違うぜ!」
 何発撃ち込んでも、倒れる事の無い巨躯。バルザックフェルミオン砲を撃ちながら効果が無い事を驚きながら叫ぶ。
「目だ! 目にニードル砲を撃ち込めぇっ!!」
 対ラダム獣の兵器、ニードル弾を構えるハンス達。通常は胴体に近い頸部の真上を狙って撃つ装備ではあるが、巨大な頭部があるせいで脆弱な首を狙えない。それにニードル砲はその特性上、標的の真上で破裂する為、脆い部分と言えば複眼に当たる部分を狙うしかなった。
ニードル弾のランチャーが火を吹く。だが、ハンス達のニードル弾は寸分違わず複眼付近に着弾したが、連鎖誘爆が起きなかった。
「くそっ! 不発か!!」
「生体信号が、普通のラダム獣と違うんだ!!」
「皆、ニードル弾を狙え! 直に衝撃を与えて、誘爆させるんだ!!」
 ランチャーからレーザーライフルへと武装を換えたハンス達は、ラダムマザーの足元へ走る。
「ハンス!!」
「駄目だ! 近付くな!!」
 Dボゥイとバルザックが止めようとするが、防衛軍兵士達はライフルを構えてラダムマザーの顔面を撃った。
「おぉぉっ!!」
 しかし標的はニードル弾、つまり数センチしかない的である。しかもニードル弾が刺さったラダムマザーは絶えず動きまわっている。目標に当てるのは至難の業であった。
 そして、ラダムマザーも自分の足元にいる者達を黙って見ているはずが無かった。顎部がばっくりと割れると、爪の生えた舌から溶解液を振り撒いた。
「ハンスぅぅっ!!」
 アンジェラが叫ぶ。ハンスやその仲間の兵士達は溶解液で断末魔を上げる間も無く溶かされ、殺されていった。残ったのは兵士達が纏っていたプロテクターの残骸だけだった。
「ペガス! テックセッタァァっ!!」
 最早躊躇っている状態ではなかった。Dボゥイはテックセットし、テッカマンブレードへと変身して直ぐ様ラダムマザーの頭部にテックランサーを突き立てたが、いつもなら深々と突き刺さる槍が僅か数センチ外殻を削る事しか出来なかった。バルザックソルテッカマンも、残った数人の兵士達も銃撃するが、巨躯の皮を数ミリ削る事しか出来ない。 
「くそぉっ!! ビクともしねぇっ!!」
 ラダムマザーは巨大な爪と溶解液でDボゥイ達に攻撃を仕掛けてきた。爪は其処彼処の床に穴を空け、バルザックは着地の際その穴で足を取られ転倒してしまう。溶解液の追い討ちがバルザックを襲ったが、間一髪転がって避ける。
 高機動で空中を飛び回りながら攻撃を仕掛けるブレードだったが、通常のラダム獣よりも更に長く多い触手が襲い掛かってくる。ランサーで切り裂きながら本体に近付こうとしたが、腕と腹に触手が巻き付き壁に叩きつけられてしまった。
「Dボゥイ!!」
 バルザックもラダムマザーに突撃してブレードの拘束をフェルミオン砲で解こうとしたが、巨大な爪で薙がれると反対の壁に跳ね飛ばされる。更にソルテッカマンの頭部に、その爪が突き立てられた。
バルザック!?」
 爪はソルテッカマンのバイザーを貫通し、背後の壁に完全に縫い止められている。その直後ソルテッカマンは微動だにしなかった為、ブレードはバルザックが即死したと思ったが、中にいるバルザックは爪が突き立てられた衝撃で気絶していただけだった。
バルザック! Dボゥイ!」
 アンジェラは二人の身を案じて叫ぶ。状況は最悪だった。バルザックは戦闘不能であり、ブレードは身動き取れない。ラダムマザーの前進は止まっていたが、これではスペースポートに向かう所ではない。
 アンジェラは現状を見て、溜まらずに走り出した。
「アンジェラっ!?」
 残った兵士達の止める声も聞かずにアンジェラはラダムマザーの頭部を銃撃しながら走る。
「来るなっ!! アンジェラ! アンジェラぁぁっ!!」
 テッカマンブレードが叫ぶ。しかしアンジェラはそれを聞いたとしても前進を止めるつもりは無かった。
――――やらせるもんか……あの人が目を掛けていたDボゥイを……やらせるもんかっ!!
 そう心中で叫びながら、アンジェラは撃った。自分の命を投げ打ってでも、Dボゥイを助ける事しか頭に無かった。夫であるバーナードはこの青年を守って命を落としたに違いないと、彼女は何の確信も無かったのにそう考えた。だからこそ、バーナードの様に守らなければ。そう思って彼女は走ったのだ。
 しかし、運命は非情だった。
「くはぁっ!!」
「アンジェラっ!!」
 ラダムマザーにはまだ攻撃用の触手が残っていた。鋭利な爪が先端に付いた触手はアンジェラの腹部をいとも容易く貫く。吐血し、ライフルを落としてしまったアンジェラは獣の頭部の真ん前に持ち上げられた。まるで、狩りで得たエモノに対し誇る様に、舌なめずりする様に。 
「ぐふぅっ……ニ、ニードル弾……」
 アンジェラの視界が霞む。目の前のラダムマザーの頭部には数発のニードル弾が刺さっている。
「あ……アンジェラ……アンジェラっ!?」
 ブレードは目を疑った。アンジェラは腰のホルスターから愛銃を取り出すと、正面に構えたのだ。既に致命傷だった彼女は、ニードル弾を誘爆させてブレードの拘束を解こうとしているのだ。
「あ……あたしも……あんたの思い出になるよ……忘れるんじゃないよぉ……その……怒りを……!」
「やめろぉぉぉっ!!」
 アンジェラにはしっかりと、ニードル弾が見えた。そして少しだけ微笑みながら、涙を流した。
「今……そっちに行くよぉ……アンタァ……」
「アンジェラァァっ!!」
 一発だけ、銃声が響き渡った。銃弾は寸分違わずニードル弾を直撃し爆発が起こる。他のニードル弾諸共誘爆が起こったのだ。その爆発でアンジェラは吹き飛び、ブレードは拘束を解かれた。
「うおおぉぉああぁぁっ!!」
 ブレードは拘束が解かれた直後、一瞬でブラスター化する。ブレードはブラスターテッカマンブレードとなってボルテッカ発射口を露にした。
「ボォルゥテッカァァッ!!」
 反物質の唸りであるブラスターボルテッカがラダムマザーを直撃する。通常なら、対消滅が起こりラダムマザーは消し飛ぶはずだった。しかし、
「掛かったな? ブレード!!」
 その刹那、テッカマンソードがそう叫んだ。精神感応でラダムマザーが討たれた事を知ったのだ。
「なにぃっ!? ぐわああぁぁっ!!」
 ソードの精神波を聞いたブレードはその瞬間、閃光を目にする。そして、大爆発が起こった。
「やったぁっ!! 通信システム修復完了よぉ!」
 その頃、中央コントロールルームではレビンが歓喜の声をあげていた。目の前の大きなモニターが点灯し、データを読むことまで出来る様に復旧していた。しかし、突然の衝撃でまたモニターがオフになってしまう。
「えぇっ!? どうしちゃったの? いったい!?」
 レビンは持ってきた端末で現状を調べる。すると、第八スペースポートから数十キロの場所で異常が起こった事を知る。
「これって……衝撃波による影響だわ!」
「衝撃波!? Dボゥイ!」
 アキがDボゥイの身を案じた。やはりついていくべきだったと思い、後悔した。
 そして第七スペースポートでは、テッカマンソードが残骸の上で笑っている。まんまと策にはまったDボゥイを笑っているのだ。
「ふっふっはっは……ラダムマザーはラダム獣の胎児を体内に吸収し、エネルギーの塊となっていた。ボルテッカを放てば、急激な反応により巨大なエネルギー波が放出される。ブレードも無事では済まぬはず……残るは第八スペースポート。ゲームは続くぞ! ブレード!!」
 そう言いながら、テッカマンソードは第七スペースポートを後にした。地球人の月到達の妨害と、ブレードの抹殺、それが彼女に課せられた務めである。それはある意味、九割方成功していたと言っても良かった。
「う……くっ……一体何が起きたんだ……バルザック……バルザック、みんな!?」
 テックセットを解除し、ペガスから出てきたDボゥイはうずくまり、呻く様に言った。しかし周りには誰もいない。ラダムマザーの爆発で全てが吹き飛んでしまったのだ。乗ってきたクルーザーも、ソルテッカマンも、そして……アンジェラの遺骸も。
 立ち上がろうとした時、何かが足に当たる。
「あ……アンジェラ……」
 拾うと、それはアンジェラが持っていたバーナードの形見、火薬式の拳銃だった。
「アンジェラ……許してくれ……俺はあんたを助ける事が出来なかった……」
 Dボゥイは激しく後悔していた。もっとうまく戦えればこんな事にはならなかったと。もっと大きな力で矢面に立ち、敵を圧倒すれば自分以外が全滅する事は無かったと。Dボゥイは心のどこかでブラスター化する事を躊躇っていた。ブラスター化は記憶の欠如を加速させる。巨大な力の行使は、代償が必要だからだ。
――――Dボゥイ……あたしもあんたの思い出になるよ……
 だが、まだ覚えている。今失った仲間も、アンジェラの思いも確かに覚えている。
「俺は忘れはしない……例え全てを無くしても、ラダムへの怒りだけは、決して忘れない!! くぅっ!!」
Dボゥイは立ち上がると、再び第八スペースポートを目指す為に歩き始めた。例えたった一人になっても、記憶を全て失ったとしても、Dボゥイは前に進む事を止める事は無い。
滾る怒りをラダムに叩きつけるまでその歩みは止まらない。それがDボゥイの宿命であり、運命なのだから。 



☆暫くぶりの復活ですが。ちゃんと最終回まで書けるかどうか不安だったりします。
さて、今回の話は無くても実は物語にはさっぱり影響しない、でも良作画の回であったりします。この溢れ出るタツノコ臭(笑)今現在で其処彼処で活躍中の工原しげき作監の作品です。もうこれ一本だけでも名作であり、テッカマンブレードを良く顕した一話だったと言えるでしょう。まあしかし、テッカマンソード嫌がらせ回とも言える話なので、ブレードの戦闘は少なめ。もっと工原ブラスターブレードが見たいよぅと唸ってしまったお話だったので、評価点は残念な四で御願いいたします。