第28話 白い魔神(1992/9/1 放映)

豪快なアックスさんが大好きです

脚本:あかほりさとる 絵コンテ:ねぎしひろし 演出:友田政春  作監&メカ作監:井口忠一
作画評価レベル ★★★★☆



第27話予告
ラダムに制圧され荒廃した地球。そんな中、人々の心を支えていたのは謎の戦士だった。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「白い魔人」仮面の下の、涙をぬぐえ。


イントロダクション
エビル・アックス・ソード・ランス、四人のテッカマンの攻撃を受け、スペースナイツ基地は壊滅状態に陥った。だがテッカマンブレードは、連合防衛軍の無謀な作戦を阻止する為に出撃し、基地を守る事は出来なかった。この、絶体絶命の危機に一人ミユキは、自らの身を省みずエビル達に立ち向かっていった。
「あたしがみんなを守ってみせる……!」
「ミユキィィィっ!!」
連合地球暦、192年5月6日。地球はスペースナイツと防衛軍を失い、そして五ヵ月後……。



 スペースナイツ基地が崩壊してからの五ヶ月後。妨害勢力が無くなったラダムと言う侵略者は、地球を着々と侵攻し、その勢力範囲をほぼ全域に及ぼしている。ORSから降下するラダム獣は、そのままラダム樹へと変化するパターンが多くなり、地球を自分達の根城にするべくその根を植えつける事に勤しんでいた。
 旧西暦時代の紛争地帯、中東でもそれは同様で、今現在では国と言う垣根は取り払われてはいるが、かつて紛争地帯のど真ん中だったイラン・イラクの国境付近も、例外ではない。人々は誰しも、自分よりも数倍大きいラダム獣を相手に息を潜め、恐怖に怯えていたのだった。
 オアシス付近にあるその村でも侵略の魔の手が届き、ラダム獣が一匹、我が物顔で村内を闊歩している。住民達は各所にある小屋で隠れつつ、銃を構えながらその巨体が通り過ぎるのを待っていた。
「……まだ動くんじゃない!」
 その隠れている一団の中で一人の少年が、ラダム獣が通る様を物珍しそうに視線で追う。が、老人がそれを小声で律した。少ない動作だけでもそんな風に咎められてしまう様に、ラダム獣という猛獣は音に敏感である。気付かれれば全て殺し尽くされてしまう程に、小屋の中は緊張で埋め尽くされていた。
 一人の村民がラダム獣の挙動を見て、もう一人に無言の指差し合図を送る。手元に持っていた装置のスイッチを押すと、突如ラダム獣の足元が小規模の爆発を起こした。醜い咆哮を響かせた獣は、その体躯が丸ごと入りきる穴にもがきながら落ちていく。
穴はそれ程深くは無く、獣にとっては段差程度の深さだった。だが、村民達レジスタンスの狙いはその穴の底に敷き詰められているゲル状の黄色い粘着剤で、ラダム獣を絡め取るのが目的だった様だ。
ラダム獣は咆哮を上げながら脱出しようと試みるが、もがけばもがくほど粘着剤に絡め取られていく。
「へへへ……やったぜ!」
「天下のラダム獣も、ああなると形無しだな!」
小屋から出てきたレジスタンス達はそんなラダム獣の哀れな様を見下ろし、ほっと安堵する様に言い合った。しかし彼らは、構えた銃をラダム獣に向けて撃つ気にはならなかった。それを見て同様に小屋から出てきた少年が不思議がって、傍にいた老人に尋ねた。
「お爺ちゃん、どうしてあいつをやっつけちゃわないの?」
「ラルフ、それは無理なんじゃよ。ワシらの武器では、ラダム獣を倒す事は出来ないんじゃ。ラダム獣を身動き取れない様にする……これがワシらには精一杯じゃ……」
 少年ラルフの言葉に、村の長老であるムバラクが無念そうにそう応えた。実際に、彼らが持つ旧火薬式の銃器ではラダム獣に傷一つ付けられない。それでもレジスタンスであるゲリラ兵達は役立たずの銃器を捨てる気にはならなかった。それは言わば、自分達が侵略者に屈しない、御守りの様な象徴だったかもしれない。
「ふぅん……白い魔人が来てくれたらなぁ……」
「白い魔神?」
 ターバンを巻いた褐色の少年ラルフの言葉に、ムバラクは孫を見つつ尋ねた。
「昨日、村に来た人が言ってたよ。ラダム獣を片っ端からやっつけちゃう、魔神がいるんだって」
「……そんなモノはただの噂じゃよ」
「違うよ! その人はちゃんと見たって言ってたよ!」
 少年はそんな風に声を荒げた。ラダム獣と言う、恐怖の象徴を倒す魔神がいるという、不確かな希望に少年はすがりたかったのだ。だが、老人は希望を持つ事も無く、今を生きるのに精一杯だった。
「ラダムに世界中制圧されて以来、電話やテレビはおろか、一切の通信が通じんのじゃ。砂漠一つ、山一つ向こうでは一体何が起こっているのやら。流れてくるのは噂くらい。中にはとんでもないデマもあるじゃろうて」
「でも……白い魔神がいたら、僕達こんな怖い目に遭わなくてもいいのに……」
 ラダム獣がまた、もがき苦しみながら、少年の希望を嘲笑うかのように咆哮を上げる。このラダム獣もいつかはラダム樹に変態し、この村を異星の森に変えてしまう恐れがあるだろう。それでも、彼らレジスタンスの人々は為す術がない。
「僕……白い魔神は、テッカマンブレードだと思うんだ!」
テッカマンブレード……!」
 この中東の村にも、異星の侵略者を打ち倒す英雄、テッカマンブレードの勇名が轟いていた。ある意味、テッカマンブレードと言う固有名詞は、人類の希望を象徴する言葉だった。
 だが、彼が所属するスペースナイツと言う組織は数ヶ月前に瓦解とした、と言う事もムバラクは聞いていた。
「ラルフ、夢の様な事は信じん方がいいぞ。ワシらは、自分達の力で、生き抜いていかねばならんのじゃよ」
「でも……白い魔神さえ来てくれたら!」
「ともかく! ここの地下にある発電所から、電気を取る間だけでも化け物共には大人しくしてもらわんと。何せこいつらときたら……エネルギーと名の付く物には直ぐに群がりおる」
 少年の言葉を老人はそう言って遮った。孫の夢想を平時には聞いても良いが、今は自分達の生活を守らねばならない。レジスタンス達は罠に掛かったラダム獣を見るのを止めて、村の中心地近くにある発電所へと向かう。取り残された少年も、無言で渋々彼らについていった。
 その時、少年は長身の男にすれ違った。村民が見慣れない男は、穴に近付き罠に掛かったラダム獣を見下ろしている。ラダム獣は脱出出来ないと言う事をようやく悟ったのか、動きを止めて静かになった。ターバンで顔を覆い隠し、表情すら読み取れない男は、そんな獣の様をつぶさに観察していた。
 男達が鎖を引いて巨大な鉄板を引き上げている。その鉄の蓋に覆われた地下には、この村が出来た当時から設置されている発電機が隠されている。鉄板である地下への蓋、扉はちょうつがいで固定されており、本来は人力ではなく機械を使って開くものだが、その機械を動かす動力源も確保できないのが現状だった。
「よぉし! OKだ、並んでくれ!」
 男達が蓋を開いて、地下にある発電機を起動させると、村民達がぞろぞろと地下への階段前に並ぶ。背中には小型の充電器であるエネルギーパックを背負っている。このパック一つで数日分の電力が確保できる様だ。
「お前さん、この土地は初めてかな?」
 ムバラク発電所を遠巻きに見ながら、日陰に座って休んでいる男に声を掛けた。
「エネルギーを求めてこの村に来たんじゃろう。今や、エネルギーは貴重品じゃからのう、何処の土地でも配給制にしておるんじゃ。ラダム獣に襲われないようにこそこそとな……」
 老人は、現状をそんな風に自虐的に言った。今現在、人類が生活を営む為にはエネルギーが必要だった。食糧を得るにしても水を確保するにしても、まずそれらを精製する機械を起動させねばならない。もし機械に頼らない生活をすると言うのなら、数世紀前の農耕生活に逆戻りとなる。特に中東のこの場所では、畑を耕す事もままならず、ラダムに世界中が制圧された現在でも、機械に頼る生活を余儀なくされていたのだった。
「あ、あのぅ……お兄ちゃんも、飲む?」
 ラルフは男に近寄って、水筒を差し出した。男は終始無言だったが、一度頷くと水筒を受け取る。
その時、地鳴りの様な振動が起こった。村の小屋を打ち壊して、ラダム獣が出現する。 
「ラダム獣だぁ!! 早く蓋を閉めろ!!」
「近寄らせるな!」
 村民達はパニックに陥った。マシンガンやライフルで応戦するが、毛ほどにも感ていない。獰猛な獣は村の発電機を目指して襲ってきた。
「ラダム獣! まだいたんだ!」
「くぅ……発電機を壊されたら、この村はお終いじゃ!」
 ラルフもムバラクも、その様を見て戦慄した。どうやら、この獣は先程捕獲したラダム獣が呼び寄せたもののようだ。ラダム獣は性質上群れで行動するが、各々意思の疎通が出来ている様で、何らかの理由で動けない状態に陥ると仲間を呼ぶ。更にこの村には発電機がある事も、襲来する理由の一つだった。
 たった一匹のラダム獣でも、それはこの村にとっては最大の脅威だった。数人のゲリラ兵達が応戦していたが、その爪と触手で、ある者は重傷を負い、ある者は刺し殺されていった。
「いかん、逃げるんじゃ!」
抵抗勢力が無くなっても、全ての人間達を殺すまでその進撃は止まらない。ラダム獣はラルフとムバラク達に目をつけると、追いかけてきた。
―――白い魔神が来てくれたら……お願い! 白い魔神! 来て! 白い魔神!
 ラルフは走りながら必死に願う。テッカマンブレードがいれば、自分達を助けてくれるはずだ。しかし、
「俺が囮になる! このまま走り抜けろ!」
 ムバラク達と一緒に走っていた男はくるりと踵を返すと、銃を構えながら初めて口を開いた。
「しかし……」
「急げ!」
 ムバラクとラルフは逡巡したが、男に急かされて走り出す。どの道、丸腰な彼らが囮役をやれるはずも無く、逃げる以外に道は無かった。
 男は立ち止まって、ラダム獣の正面で銃を構えた。一発、二発とハンドレーザーガンを発射した。それは寸分違わずラダム獣の頭部へとヒットする。獣は男のいる場所へ爪を振り下ろすが、男は飛び退って頭部へ連続に撃ち込んだ。ラダム獣にとってはダメージにもならない銃撃ではあったが、他の部位よりも脆弱な頭部を何度も撃ち込まれると、男を殺そうと猛然と追い掛けて来る。
「危ない!」
 ラルフは祖父と一緒に近場にある建物へと隠れると、男の戦闘を息を呑んで見守った。男はラダム獣を惹きつけつつ、別の建物の中へと走り去る。其処へ、ラダム獣が猛然と体当たりした。このままでは男が隠れている建造物が崩れ、ラダム獣に殺される前に瓦礫に押し潰されてしまうだろう。
「白い魔神、早く来てよ! でなきゃ、あの人が死んじゃうよ!」
 ラルフは手を合わせて必死に祈った。しかしその時、粉塵から光弾が飛んできた。光弾は振りかぶったラダム獣の足を直撃すると、爪の部分を残して千切れ飛ぶ。更に、光弾が飛来し、頭部、そしてトドメに胴体を直撃する。ラダム獣は跡形も無くなっていった。
 ムバラク達の前で、ラダム獣は撃破された。それは今までに見た事も無い状況だった。そして、粉塵から何かが歩いてくる。それは人型だったが、明らかに先程の男とは図体が大きい、鎧を着たような何かだった。
「あれは……白い魔神……あの人が、テッカマンブレードだったんだ!」
ラルフはその何かを見て、歓喜の声を上げる。鎧の何かは、オレンジ色の眼光と共にゆっくりとラルフ達のいる所に歩いてきた。 
「白い魔神が……テッカマンブレードが来てくれたんだ! これで僕達は助かるんだ! もう怖い思いをしなくてもいいんだ!」
 ラルフはその「魔神」を見ながら、祖父に向かってそう叫んだ。ムバラクにしても、今信じられない様な状況を見た後の事だ。孫の夢想も噂ではなかったのかも知れないと思う様になっていった。だが、
「あぁっ!?」
 粉塵が晴れると少年は「白い魔神」の姿をはっきりと見た。青と白の装甲。それは連合防衛軍が開発したパワードスーツ、ソルテッカマン2号機と呼ばれるモノだった。ソルテッカマンは構えた砲を収納すると、照準バイザーに隠れた頭部を顕にする。その出で立ちと稼動する度に出す駆動音は、機械鎧と言ってよかった。
「はぁっはっは! ラダム獣を倒すとはこれはまた!」
突如、空から豪快な笑いと共に、何者かがソルテッカマンに声を掛けた。見上げると、数百匹の飛行ラダム獣の群れがいる。そしてその中央には搭乗型のラダム獣に乗った緑色のテッカマンがいた。
テッカマンブレードだと思いきや、地球人が作ったガラクタではないか!」
 そのテッカマンは斧のようなテックランサーを構えてソルテッカマンを嘲笑った。出で立ちは騎士と言うより、鎧武者に近い。ずんぐりした体躯と丸太のような手足。旧世紀の実在上の人物、武蔵棒弁慶の様なそれは、テッカマンアックスと呼ばれるラダムの尖兵である。
「残念だったな、Dボゥイじゃなくて!」
テッカマンブレードじゃない?」
 機械鎧と鎧武者の会話を聞いて、ラルフは怪訝な声を上げた。しかしその状況を見てあのラダムと一緒にいる鎧武者が敵であり、機械鎧を着たあの男が味方だと言う事は辛うじて理解出来た。
「まぁだ逆らい続けるつもりか! 所詮貴様らなど、我らラダムの敵ではないのだぁ!!」
 テッカマンアックスは赤い眼光を煌かせながら、既にこの機械鎧と何度か交戦した事がある風に言った。
「相手になるかどうかは、やってみてのお楽しみだぜ!!」 
 ソルテッカマンは、再びフェルミオン砲構えると、テッカマンアックスに向かって光弾を発射する。二発・三発とフェルミオン弾を発射するが、搭乗型のラダム獣の機動性は凄まじく速い。
「はっは! そんなヘナチョコ弾になぞ、当たるものかぁ!!」
「ヘナチョコだって!? 表現が古いねぇ!!」
 ソルテッカマンはそう叫びながら、光弾を乱射した。狙って撃っているにも関わらず、フェルミオン弾は一度もかすりもしなかった。テッカマンアックスがランサーを振り回すと、先端の斧にエネルギーが集約される。
「つあぁぁあっ!!」
 そして気合の叫びと共にその斧を振り下ろした。ソルテッカマンとの間合いは遠く数メートルも離れている。しかし、その集約されたエネルギーが振り下ろされると同時に射出された。エネルギーは弧を描く様に飛んでいき、光の刃となってソルテッカマンに飛来する。
「どぉわっ!」
 一度はその攻撃をかわすソルテッカマンだったが、光刃は地面を切り裂きながら次々と彼に襲い掛かってくる。かわした光の刃は建造物を切り裂いてもまだ進む。凄まじいエネルギーの奔流だった。
「がぁっ!!」
 遂にソルテッカマンはまともに喰らってしまった。胸の装甲に切り裂かれた様な跡が残る。アックスショットと呼ばれるその攻撃は、点ではなく線で襲い掛かる、範囲の広い恐ろしい攻撃である。 
「あぁっ!」
 攻撃を受けたソルテッカマンを見てラルフが声を上げる。ソルテッカマンは胸部装甲を切り裂かれ、その威力で尻餅をついて動きを止めてしまう。
「はぁっはっは! どぉーした、もうお仕舞いか!」
「く……くっそぉ……」
 アックスの哄笑が響き渡り、ソルテッカマンは何とか体勢を立て直して立ち上がろうとする。が、その動きは緩慢で駆動音もギギギと嫌な歯車音を鳴らせた。攻撃を受けた衝撃で一部機能が傷害を起こしているのだ。
「白い魔神! 白い魔神!」
「ラルフ! 危ない! 待つんじゃ!!」
 少年は、ムバラクの制止を聞かずに自分達を助けてくれるはずであろう魔神に駆け寄ろうとする。
「こっちへ来るんじゃない! 早く逃げるんだ!」
 ソルテッカマンがそう、ラルフに向かって叫ぶ。すると、少年は途中で立ち止まってソルテッカマンに向かいながら俯き加減で言う。
「駄目だよ……僕達どうせ殺されちゃうんだ!」
 少年は自分が無力だという事を、誰よりも痛感していた。彼は夢想ばかりしている訳ではなかったのだ。銃を持つ大人ですら侵略と言う力の前に無力を感じるこの時代で、ラルフは絶望に屈しそうになっている。
「馬鹿! 諦めるな! 男はどんな時でも決して諦めちゃ駄目だ!!」
 ソルテッカマンはそんな少年を叱咤した。そして立ち上がると、再びフェルミオン砲を構える。
「でも僕には! 白い魔神のような力も何も!」 
「白い魔神に頼るな! 自分の力で切り開くんだ!」
 そう叫ぶと、ソルテッカマンは照準をアックスに合わせて撃ち放つ。だが、相変わらずフェルミオン弾は当たらない。テッカマンアックスは弾道を完全に見切っていて、もう乗っているラダム獣に回避させず、ほんの少しの身体の捻りで光弾を紙一重でかわしている。
「ふん、ガラクタが! つぇぇぇい!!」
 また光の刃が飛来する。脚部のスラスターを吹かしてジグザグに動き回っても、音速を超える光刃はソルテッカマンを翻弄した。
「くぅっ!!」
 回転する様にかわすソルテッカマン。このエネルギーの刃はかすっただけでも、凄まじい衝撃だった。
 それに、ソルテッカマンは先程の光刃をまともに喰らってしまった影響で、みるみる動きが悪くなっている。それでも彼は諦めず、フェルミオン砲を構えた。 
「うわはっはっは! 無駄だ無駄だぁ!!」
 豪快な笑いでソルテッカマンを嘲る。砲がまた火を吹いたその時、テッカマンアックスは凄まじい動きで飛び上がり、ソルテッカマンに向かって直接斧を振り下ろす。
「うぉっ!!」
反射的に、ソルテッカマンは砲の銃身でその凶刃を受けてしまう。スパークが起こり、小規模な爆発が起こった。斧は一撃でフェルミオン砲に機能障害をもたらし、攻撃のショックと爆発でソルテッカマンは地面にめり込む様に転倒した。
「ぐぅぉぁあ!!」
「はっはっはっは! トドメだ! 死ねぇぇぇ!!」
 転倒した彼に最後の一撃を見舞おうとするテッカマンアックス。高らかにランサーを構えたアックスは、勝利を確信した。その時である!
「うぉおおおぉぉっ!?」
 太陽から光が迸った。緑色の光は、アックスの上半身に直撃し、彼の背部の装甲を焼いた。だが、緑色の光線は何故かアックスの背中から逸れる様にずれて、近場にある建物に当たって対消滅を起こした。
「ぐっう!? なにぃ!?」
光線を撃った者を見上げるテッカマンアックス。すると其処には、太陽を背にした白い鎧の騎士がいる。白い騎士は、展開された肩の装甲を閉めると、高らかに叫んだ。自分の愛馬に向かって。
「ペガス! クラッシュ! イントルード!」
「ラーサー!」
 白い騎士は装甲を変形させてスリムになる。乗っているロボットも鋭角的な戦闘機へと変化し、緑色の光が騎士と戦闘機を包み込み、驚異的な速度でラダム獣の大群に向かって体当たりを行う。超音速の体当たりで、彼らが通った後には残骸しか残らない。掻き消す様に一気に数百の敵を屠ると、白い騎士は愛馬である戦闘機から離れて、残存のラダム獣を適確に潰していった。
「凄まじい……まさに、魔神じゃ!」
「あれが……本当の白い魔神!」
ラルフとムバラクは、噂だった白い魔神を実際に目にした。夢では無い、本当の白い魔神がここにいる。ラダムと言う悪魔を倒す魔神は実在したのだ。
白い魔神、彼の名は、テッカマンブレード
全ての飛行ラダム獣を叩き潰したテッカマンブレードは愛馬であるペガスに降り立つと、肩に設置されているランサープロジェクターで、光である無から有を出現させる。双刃の付いた巨大な槍、テックランサーを形成し、鎧武者に向かって叫んだ。
テッカマンアックス! お前の相手は俺だ!!」
「ブレードか!!」
 アックスはブレードを見ると戦意を剥き出しにして叫んだ。ブレードは、アックスの直ぐ近くにペガスを降下させると、ランサーを構えて鎧武者に相対した。
「Dボゥイ……!」
 擱坐したソルテッカマンはヘルメットバイザーを外した。ソルテッカマンに乗っていたのは、テッカマンブレードが所属するスペースナイツのメンバー、ノアル・ベルースだ。
 彼らは、スペースナイツと言う組織が壊滅しても、未だラダムと戦っていた。諦めず、決して屈せずに侵略者と戦ってきたのだ。
「どぉうりゃああああ!!」
「つあぁぁぁっ!!」
 ブレードとアックスの剣戟が始まった。重い槍と双刃の槍が打ち合う。さすがに斧の名を冠しているだけあって、テッカマンアックスのパワーは想像以上だった。
「ふぅん!!」
 またあの光の刃を放つアックス。地面を切り裂きながら、線での攻撃がブレードに襲い掛かってきた。
「てやぁっ!!」
 しかしブレードはアックスよりも僅かにスピードが勝っている。ブレードは光刃を飛び上がって回避すると、双刃の槍を分離させて、片方をアックスに投げつけた。
「ふっ!」
 テックトマホークでブレードのランサーを弾く。着地したブレードは、左手にテックシールドを装着し、テックワイヤーを出してランサー回収しようとする。だがそれは、ブレードのフェイントだった。
「ぬおぉっ!」
 ワイヤーはランサーを回収せずに、テッカマンアックスの右足首に巻付く。渾身の力でブレードが牽引すると、テッカマンアックスは体勢を崩して倒れ伏した。
「うおおぉぉぉっ!!」
 右手に構えたもう一本のランサーを逆手に構えると、ブレードは倒れたアックスに必殺の一撃を見舞う。
 がきんと鋼と鋼がぶつかり合う音が鳴り響いた。見れば、ブレードのランサーはアックスの頭部を捉えてはいない。左頬をかすめて地面に刺さっている。
テッカマンアックスは、ブレードの攻撃と同時に、自身の斧を突き出してブレードの肩を強かに叩いた。その影響で、ブレードの攻撃は左側に逸らされ、アックスの頭部を捉える事が出来なかったのだ。
 そして攻撃の後の隙を見逃さないアックスは、空いている左拳でブレードの装甲の無い腹部を殴る。
「ぐっう!」  
「ふふん、ツメが甘いな、タカヤ坊!」
「……くっ!」
 腹を叩かれたブレードはガクリと膝を付いた。直後、一瞬でテッカマンアックスは飛び上がり、搭乗型のラダム獣に乗った。
「ま、待て!!」
「今日のところは退却するとしよう! 次に会える時を楽しみにしているぞ!! うわっはっはっは!!」
 そんな風に豪快に笑うと、テッカマンアックスは去っていった。豪快にして緻密な戦いぶりを発揮するテッカマンアックス。今回は奇襲のボルテッカで意表を突けたが、テッカマンエビルと同等以上の能力を持つ彼を倒す事は至難の業である事をブレードは改めて認識した。
 そんな彼の肩を、ソルテッカマンのマニュピレーターが優しく叩いた。
「ノアル……」
 ブレードであるDボゥイに、ノアルは微笑み掛ける。彼の勇姿を見るのは随分久しぶりだった。
「やっぱり、白い魔神はいたんだね!!」
「あぁ……!」
 そして少年と老人は、噂ではなく、本当にラダムと戦う戦士達がいる事を目にした。彼らは決して諦めず、屈する事無く今も目の前で戦い続けている。
「でも、あのお兄ちゃんもカッコ良かった!」
 その声を受けて、ノアルはサムズアップで応えた。
「僕も、白い魔神に頼ってばかりじゃ、いけないんだね!」
「ラルフ……!」
「お爺ちゃん、僕も戦うよ!」
 戦士達の生き様、戦いを見て少年は、生き残る事や諦めないと言う意思を持つ事も、戦いの一つなのだという事を理解したのだった。
「五ケ月ぶりの感動の再会って奴だな、Dボゥイ」
「あぁ……」
 村の近くにあるオアシスで、夕陽を見ながらDボゥイとノアルは堅い握手を交わした。戦友であり親友であるDボゥイとノアル。ここ中東で出会えた幸運を二人は喜びあった。
「しかし、今までどうしてたんだ?」
「五ヶ月前のあの日……」
 連合地球暦192年の5月6日の、あの日を追想するDボゥイ。
 あの時、Dボゥイは確かに見た。自分の妹であるミユキ、テッカマンレイピアが四人のテッカマンに惨殺され、彼女は自爆する様にボルテッカを放ち、散華した事実を。
「俺がスペースナイツ基地に戻った時には、基地は跡形も無かった」
 テッカマンブレードは廃墟になったスペースナイツ基地で立ち尽くした。レイピアの自爆ボルテッカは半径数kmを対消滅の爆発で飲み込んだのだ。辺り一面、自分が生活していたあの基地は見る影も無い状況だった。
「みんなの事は気にならなかったワケじゃない。ただ……俺にはやらなければならない事があるんだ。残りのテッカマンを全員倒し、ミユキが教えてくれた月のラダム基地を叩き潰す……そればかり、この五ヶ月間考えていたんだ」
 立ち尽くし、絶望する暇は彼には無かった。例え仲間が行方不明になったとしても、立ち止まる訳には行かなかったのだ。ミユキの敵討ちと、地球を守る為の戦い。それだけが彼を動かす原動力だった。
「Dボゥイ……」
 例え一人になっても、やはりDボゥイは戦っていた。ノアルは彼の怒りと無念が痛い程に感じられた。
「なんとしても月へ行く。その為に宇宙船を探していたんだ」
「だが……今や宇宙船は世界の何処にも無い」
 そう、これはDボゥイがスペースナイツに来た時から分かっていた事だ。外宇宙開発機構を失った今、自力で宇宙に上がるには、ORSへの軌道エレベーターを登るか、宇宙船で強引に大気圏を脱するかしかない。前者はDボゥイも試みただろうが、ラダム獣の巣である軌道エレベーターを登るのは危険が大きかった。ラダム獣の相手をしている間に、タイムリミットが来てしまう、では意味が無い。
「残された方法は、テッカマンのクリスタルが持つフィールドジェネレーター機能を応用して、一気に宇宙へ飛び立つ事だが……俺のクリスタルでは……」
 しかし、Dボゥイはテッカマンのクリスタルを使って軌道上に上がる方法を新たに見出していたのだ。ラダムのテッカマン達はフィールドジェネレーター機能を使えば亜光速で進む事が出来る。彼らが月から地球、地上から宇宙へと、自由自在に移動出来るのはこの機能がある為だった。
だが、フォーマット途中からテックシステムから脱したテッカマンブレードのクリスタルには、その機能が備わっていない。
「ははぁん? それで他のテッカマンのクリスタルを手に入れようと、世界中を飛び回っていたってワケね。全く、ご苦労な事だぜ」
 ノアルはDボゥイの孤独な五ヶ月間をそう評した。世界がラダムに屈しても、彼だけは全く変わらずに戦いに身を置いていた。正直、ノアルは半ば呆れていたのだ。そのDボゥイの一途さに。
「ノアル」
「ん?」
「ミリィやチーフは無事か?」
「おいおい、もっと素直になりなよ、Dボゥイ。一番会いたい奴の名前が出てないぜ?」
 スペースナイツのメンバーは全員無事だ。そうノアルはDボゥイをからかう様に言う。これもミユキがテックセットし、敵テッカマン達の気を逸らしてくれた結果だった。彼女の時間稼ぎは、無駄ではなかったのだ。
 夜になって、オアシス近くには巨大なトレーラーが停泊している。居住型の水陸両用トレーラー、グリーンランド号の傍では、野営している三人の男女がいる。
「ちょっとぉ、ミリィ! この野菜、ぜーんぜん切れてないじゃなぁい!」
「レビンこそ何よぉ! ニンジン隠さないでよぉ!」
「だってあたし、ニンジン嫌いだモン!」
「あぁ! 鶏肉ぅ!! あたし駄目だって言ったじゃない!」
「あたしは好きなの!」
「脂身取ってよぉ!」
「あー聞こえない聞こえない!」
 メカニックであり、誰よりも女らしい男であるレビン。スペースナイツのオペレーターを務め、その身を以ってブレードの暴走を止めた勇気ある少女ミリィ。二人はまな板を相手に、包丁を持ちつつ楽しげに炊事当番を行っている。
そんな二人を微笑みつつ皿を洗っているのは、スペースナイツのメンバーであるアキだ。彼女はDボゥイの仲間であり、大切な人であった。
「あ……」
 足音を聞いて視線を動かすアキ。其処には二人の男がいる。一人はソルテッカマンで村を救おうとしたノアル。そしてもう一人は、赤いジャケットを着た、出会う事を待ち望んでいたあの男だった。
「ほら、Dボゥイ!」
 ノアルが彼の肩を強引に押した。
「Dボゥイ……」
 アキは、洗ったばかりのコップを取り落としてDボゥイの傍に走り寄った。
その音で、ミリィとレビンも気付いた。かつての仲間であるDボゥイが直ぐ其処にいる。
「アキ……」
 待ち望んだ彼の声を、アキははっきりと聞いた。
「おかえりなさい……」
 アキはそう、静かに言う。目に涙を溜めながら。するとDボゥイも、それに応える様に、しっかりと頷いた。 
「……Dボゥイ!!」
 アキは、色んな感情が綯い交ぜになって、堪らずにDボゥイの胸へと飛び込む。そして泣いた。必ず会えると、必ず生きていると信じていた。そんな彼が、今此処にいる。そんな幸福をアキは感じていた。
 Dボゥイも、胸で泣くアキを慈しんで、しっかりと抱き締める。こんなにも温かいものか。放浪の五ヶ月を経てDボゥイは、人の温もりを、アキを確かに肌で感じていたのだった。



☆さて、今日の反省会です。何だか久しぶりな感じがしますな(笑)今回の話からOPが第二期になりましたね。
正体を隠しての表現って結構難しいと思った感じです。一応、Bパートまで誰が誰だか分からない様に描かれてますが……バレバレですよねー。実はソルテッカマンに乗ってたのはアキだったり、とか!? ほら、コミックス版ではアキもソルテッカマンに乗るしさ(笑)そう言えばエンディングテロップでお爺さんの本名が分かりますけど、この人どう言う地位の人なのか微妙に判断しづらいところ。長老と言う感じにも見えるし、でもリーダーって感じでも無いしで。あと、前半ではジプシーの人達もいるのにそんなにエネルギー必要なの? とか考えたりもしますね。まあ世紀末はエネルギーエネルギー言わないと危機感が無いのかも知れません。作画はかなり良い感じでしたか。ブレードのラダム獣掃討はバンクでしたけど、アックスとの戦闘はかなり動いてたので四で御願いします。