第36話 決戦!! アックス(1992/10/27 放映)

奥義! 〇〇〇〇斬!!(笑)

脚本:渡辺誓子 絵コンテ&演出&作監&メカ作監板野一郎
作画評価レベル ★★★★★

第35話予告
雌雄を決するブレードとアックス。
アックスの猛攻の前に、ボルテッカの使えぬブレードは最大の危機に陥る。
次回 宇宙の騎士テッカマンブレード「決戦!! アックス」仮面の下の涙をぬぐえ。


イントロダクション
クリスタルを求めて、イングランドへと渡ったDボゥイは、ラダム樹に侵された大聖堂でゴダードこと、テッカマンアックスと遭遇した。アックスのクリスタルを無傷で手に入れるにはボルテッカは使えない。そんな不利な状況の下、遂にかつての仲間アックスとの戦いの火蓋は切って落とされた。
「うわああぁぁあっ!!」
「今度こそ最後だ! さらばだ! ブレードォっ!!」




 激しい金属音が鳴った。周りにいる者達は誰もがテッカマンアックスの斧がテッカマンブレードの頭部を打ち砕いた音だと思った。
「ぐぅっ……くっ!!」
 だが、振り下ろされたテックトマホークの斧はブレードのテックランサーでどうにか受け止められた。そのままアックスはランサーに力を込めてブレードの防御を崩すかと思われたが、
「あぁっ!?」 
 テックトマホークへ込められた力はいきなりふっと消え、刹那でブレードのテックランサーはあっという間に奪われて数メートル前方に回転して飛び、地面に突き刺さる。
「しまった!!」
アックスのテックランサー、テックトマホークは、刺突用の槍に、斧が施されている武器だ。それはトマホーク(手斧)と言うより、ハルバード(斧槍)に近い武装であると言える。アックスは、その槍部分と斧部分の間にある窪みでブレードのランサーの持ち手を器用に引っ掛けて、数瞬の間に奪ってしまったのである。
「それまでだっ!!」
 そして再び斧槍が振り下ろされる。もうブレードに残された武装はテックシールドしかないが、テックトマホークの重い一撃はテックシールドでは防ぎきれないかも知れない。腕ごと両断、もしくは叩き潰される可能性があるし、シールドを取り出す暇も無かった。だが、
「何ぃっ!?」
 アックスのランサーはブレードの眼前でビタリと止まっている。テッカマンブレードは俗に言う真剣白羽取りで、アックスの斧槍を両手で受け止めたのだ。本来、真剣白羽取りと言う技は映画や時代劇等で使われた脚色とも言える架空の技である。どんな達人であろうとも、自らの中心線上で刀を掌で受け止めると言う事は、本来無理があるのだ。人の膂力でそれを行おうとすれば、刀は掌を切り裂くか、もしくはすり抜け、真っ二つにされてしまうだろう。だが、テッカマンの膂力と鋼の様な掌であれば、それがはじめて可能となるのである。
「とぉりゃあぁ!!」
 受け止めた斧槍をそのまま引き、ブレードは足に付いた樹液を引き千切り、アックスの腹を蹴って投げる。所謂「巴投げ」と言う技を白羽取りから続けてテッカマンブレードは放った。Dボゥイが日本人だから出来たのではない。これらは全て、目の前にいる元師匠から教え込まれた技なのだろう。
「ふっ! やるなぁっ!!」
 元々、バーニアスラスターを持つテッカマンに投げ技等通用しないが、それすらも使わずにアックスは難なく着地して元弟子を讃えた。
 イングランドカンタベリー大聖堂、アックスの根城と思われる場所にやって来たスペースナイツの面々は、テッカマンアックスと交戦中であった。Dボゥイを支援するソルテッカマンの二人は身動きが取れず、テッカマンブレードは今現在、苦戦中である。
 テックランサーをワイヤーで回収したテッカマンブレードテッカマンアックスと改めて相対した。
「うぅっ!? くっ……」
だが、ラダム樹が出す樹液の粘液がまだ足に纏わり付いている。ブレードは自分の足の周りにランサーの刃を突き立て、自分の足が樹液から離れられる様に切り裂いていった。
「でやぁっ!!」
その隙を逃さぬと、アックスがまた光刃を雄叫びと共に放ってきた。樹液から脱出したブレードは飛び上がると、大聖堂の壁を足場に見立てて強く蹴る。
「はぁっ!!」
所謂三角飛びを行い、アックスに向かって吶喊した。槍と槍がぶつかり合い、アックスはブレードの突撃の勢いを受けて大きく地面に二本の足による轍の跡を残す。だが、アックス自身は微動だにしておらず、ブレードの激しい突撃も蚊が刺したと言った様子だ。
それを遠くから見ているアキ、ミリィとそしてレビン。
「Dボゥイ……」
「Dボゥイ!」
 何も出来ない自分達が歯痒い。見ているだけに我慢できなくなったレビンは、周りで倒れ伏している仲間達に声を掛けた。
「もぉ! ノアル!」
 青いソルテッカマンは全く動かない。アックスの攻撃で激しく吹っ飛ばされたノアルは気絶している様だ。
バルザック! パワーアップしたんだから、そんなねばねばぐらい、何とかしなさいよぉ!」
 今度は樹液で拘束されている一号機改に声を投げ掛けた。
「出来るんなら、とっくにしてるぜ! くそぉ、この腕さえ抜ければ!」
 バルザックの鎧は胸辺りまで樹液が覆っている。脱出するには仲間の手を借りなければ無理だった。
「ふっ!!」
鍔迫り合いから大きく蹴りを放つテッカマンアックス。その丸太の様な太い足を飛び上がってかわすブレード。そして着地すると、ランサーを構えて鋭く突きを繰り返した。だがその突きですら、体を捻るだけでアックスは難なく回避している。
「ほぉ、少しは腕をあげたな、タカヤ坊! こいつは力勝負でも結構楽しめそうだ!」
「くっ……!」
「さぁて、力・技・癖、そして性格まで! 何もかも知り尽くしたワシとタカヤ坊が、どう戦うか!?」
 テッカマンアックスであるゴダードは、この戦いを楽しんでいた。肉と肉のぶつかり合い、武器と武器の激しい打ち鳴らしを心から喜び、滾っていた。
――――アックス……!
 反面、アックスと激しい戦いを繰り広げるDボゥイは、哀しい目をしていた。ゴダードと槍をぶつかり合わす度に、一つ一つの思い出が思い起こされる。まるで、脳裏から記憶がこぼれ出す様に。
それは十代半ば頃だったか。赤い道着を着たシンヤと白い道着を着た自分が、道場で組み手を始めようとしている。シンヤはゴダードとトレーニングをした際に、右腕を負傷し包帯を巻いていた。まだ完治していないにも関わらず、シンヤはタカヤと空手の試合に臨んだ。 
「はじめ!」
 ゴダードの号令と共に、シンヤが激しい蹴りを放ち続けた。
「はぁっ! てやぁっ! たぁっ!」
 上段、下段、中段。連続の蹴りは兄を翻弄すると思われたが、タカヤはそれらを難なく適確に受けている。
 そして少し距離を置くと、突然タカヤの右足による蹴りがシンヤの右腕を捉えた。
「くっ……」
 シンヤは痛みで腕が上がらなくなる。更に間髪入れずタカヤは攻撃の手を緩めなかった。
「はあぁっ!」
「うぁっ!」
 右の正拳突きがピンポイントにシンヤの右腕、それも包帯を巻いている方を正確に捉える。シンヤは激しい突きで立っていられなくなりガクっと膝を付いた。
「それまでっ!! 今日は、タカヤ坊の勝ちだな」
「ちぇっ、この怪我さえなければね」
 ゴダードの号令で二人の練習試合はタカヤの勝利で終わる。シンヤはやはり不満げな顔をしているが、怪我があっても精一杯やったと言う達成感もあった。
「残念だったな、でもこの次がある」
「いい蹴りだったぞ! シンヤ」
「兄さんこそ、いい正拳突きだったよ」
 タカヤは微笑みながらシンヤを讃え、シンヤもタカヤを感嘆している。
「互いに褒め合いか? はっはっは!」
 そんな二人の様を見て、ゴダードは豪快に笑った。つられて二人も笑い出す。幸せだったあの日々、それはゴダードやシンヤがいたからこそだった。
 そんな二人が今では激しい殺し合いを行っている。
「はぁああっ!!」
「まだまだぁっ!!」
激しく槍を打ち鳴らす度に、思い起こされる記憶がDボゥイを苦しめ、哀しませていた。今度はあの組み手の後、ゴダードと二人で話している記憶が蘇ってきた。
ゴダード……」
 現在の自分達と過去の自分達の姿が重なり、また数年前のあの日に戻る。
「いい勝負だったぞ、タカヤ坊!」
 師匠であるゴダードはタカヤの目を正面から見て、そう褒めた。赤い目をしていないゴダードが自分にそう語り掛けている。師匠を見上げるタカヤの顔はまだ幼くあどけない。
「うん、怪我を気にして手を抜けば、傷つくのはシンヤだからね。あいつはそういう奴だから」
「分かってたさ、タカヤ坊が意識してシンヤ坊の右腕を攻めてた事ぐらい」
そう言うとゴダードは少年の肩に手を置いて、満面の笑みを浮かべた。
「あれでよかったんだ。思いっきりやってもらって、シンヤ坊も喜んでるさ」
ゴダード、でもこの事は、シンヤには内緒だよ?」
「わかっとる!」
右目を瞑って、ゴダードはウインクをする様な仕草をする。シンヤは手加減される事も、気を使われることも嫌い、そんな弟を兄であるタカヤは心配している。二人のそんな関係を熟知しているゴダードは、少年達に合わせる様にしてウインクしたのだ。筋肉質で厳ついコーチのそんな様を見て、幼いタカヤは思わず笑った。
「でぇりゃあっ!」
かつての師匠にブレードは分離したテックランサーを投げつける。それを斧槍で弾くアックス。
そう、あの時の優しく雄々しい目をした師匠はもういない。今目の前にいる緑色鎧の男は、ヨーロッパ地区の人間を幾万も殺し、自分の妹に斧を打ち込んだ非情な殺人鬼だ。
ブレードはランサーをワイヤーで回収し、アックスはその隙を逃さずに光刃放つ。ブレードは紙一重で飛び上がって回避する。そんな激しい戦いが繰り返し行われ、アックスの声を聞く度にDボゥイは郷愁に捉われた。
「惜しい惜しい! もう少しで命中だったのにな!!」
「くっ……」
「だがこの次はそのどてっ腹にしっかり打ちこんでくれるぞぉっ!!」
 また光刃が煌き、ブレードは望まない戦いを強いられるのだった。
その頃、大聖堂から数キロメートル離れた場所で、長大な砲を後部車輌に積んだ四輪ジープが止まった。連合防衛軍特殊工作員の服を着込んだ兵士達の一人が、立ち上がって双眼鏡を見つつ辺りを探索している。
そしてウィスキー瓶の栓を開けている指揮官らしき男に声を掛けた。
「見当たりませんぜ? 軍曹、ブレードがこの辺りにいるって情報、ガセじゃないんですか?」
無言で瓶を呷る、軍曹と呼ばれた中年の、隻眼の男。彼はバーナード軍曹。以前テッカマンブレードと共にORSの宇宙艇奪回任務を果たした歴戦の兵である。彼は今現在、防衛軍の任務とは別に、Dボゥイ達と合流しようと彼らを探している最中だった。
「助かったぜ! ノアル!」
 大聖堂前では、二号機のノアルが意識を取り戻し、低出力のレーザーでバルザックの一号機改の樹液による拘束を断ち切っていた。だが、まだ朦朧とするらしく、ノアルは二発目のレーザーを撃った段階でまた尻餅を付いてしまう。
「なによぉ! 二人とも男でしょ! 立ちなさいよぉ!」
 ノアルの意識を回復させたのは他ならぬレビンの煩い叱咤があったからだった。バルザックは、二度のレーザーガンの支援を受けて右腕の自由を取り戻すと、自分のランチャーガンをレーザーモードにして残りの拘束を自力で解いて立ち上がった。脚部スラスターでホバリングしてノアルに近付き、声を掛けるバルザック
「大丈夫か!? ノアル!」
「何とか……生きてるぜ……」
 まだ意識が朦朧としているのか、ノアルはいつもの軽口が言えないでいる。
彼らがそんなやり取りをしている間でも、ブレードとアックスの死闘は続いていた。 
「ぐぉっ……」
「ふっふっふ!」
 ブレードの装甲の無い腹を強かに殴るアックス。そして一瞬の剣戟が起こると、ブレードは大きく弾かれ、大聖堂の壁面に飛んでいき、壁を突き破って聖堂内に倒れ伏した。状況は劣勢であるようだ。
「やってくれるじゃないの!!」
「今までの分もまとめて一気に行くぜ! ノアル!!」
「ちっ! 俺の台詞を取りやがった!」
 バイザーの中で軽く頭を振ると、ノアルはそう憎まれ口を叩きながら、バルザックと共に戦線復帰した。
「くっそぉ……ボルテッカさえ使えれば……!」
 テッカマンブレードは大聖堂内でそう口惜しげに言う。彼は、自分の中で一番強力な武器を封じられたまま戦うと言う事がこれほど苦しいとは思ってもいなかったのだ。
「死ねぇっ! ブレードォ!! うぉっ!?」
 倒れ伏したブレードに再びアックスショットを放とうとしたその時、ソルテッカマンのフェルミオン砲がアックスを捉えた。二機のソルテッカマンはアックスを中心にして回りながらフェルミオン砲を撃ち込んでいく。
「三対一になったらこの勝負、どっちに転ぶか分からねぇぜぇっ!!」
ようやく調子を取り戻したノアルが、そう絶叫しながらアックスに対抗した。
テッカマンアックスは光刃をノアルのソルテッカマンに放つが、
「同じ手を何度も食うかよ!!」
 時にはかわし、例え直撃を受けても攻撃を続けた。バルザックとノアルの前後からの二面攻撃は、アックスの動きを効果的に封じている。
「おのれぇっ! 小賢しい真似をしおってぇ!!」
距離を離しての二面攻撃はアックスにとって不利だった。光の刃を飛ばすアックスショットは片方にしか攻撃出来ず、ノアルが攻撃を受けている間に背後からバルザックが拡散フェルミオン砲でアックスの背部を撃つ。元々アックスは一対一に特化したテッカマンであり、こう言った多面攻撃には脆い部分もあった。だが、
「何っ!?」
 アックスが動きを止めたのを見て、背後から攻撃するバルザックが声を上げた。見れば、アックスのテックランサーが赤く光り輝いている。
「鬱陶しいガラクタどもめがぁ!」
「……逃げろ! 逃げるんだぁっ!!」
 ブレードの声が轟く。ブレードですら、そのアックスの様を見た事が無い。テッカマンは意味の無い事はせず、それは何かの前触れだと判断してノアル達に危機を告げたのだ。
「何をする気だ!?」
 アックスの意図が掴めず、ノアル達はとりあえずブレードの言う通り敵テッカマンから距離を置く。何かしらの攻撃の前触れだとしても、数十メートルの距離を置けば大丈夫だろうと判断したからだ。しかし!
「消え失せろぉっ!!」
 アックスのランサーが回転しながらノアル達に放たれた。エネルギーの塊の様なランサーがノアル達が退避した付近に着弾すると、凄まじい衝撃波を発生させる。それは地響きが起こり、地面が捲り上がる程の強大なエネルギーだった。
「ぐぉわああぁぁぁっ!!」
 直撃していないにも関わらず、ノアルはそのエネルギーの余波で吐血し、苦悶の叫びをあげる。
「うおわあああぁぁっ!?」 
 バルザックも同様に、そのエネルギーを浴びて鎧の各所から火を吹き上げて倒れ伏した。
「きゃぁっ!!」
 遠くから彼らの戦いを見ていたミリィがその強大な衝撃波と音を受けて悲鳴をあげた。数百メートル程の距離から見ている彼女らでさえ、今の攻撃に身震いした。着弾した場所は大きなクレーターが出来上がる程の威力で、其処に残されたのはノアル達の無惨な姿だった。
「ノアル! バルザック!」
 ブレードが聖堂内からようやく立ち上がり、彼らの安否を気遣う。だが、彼らに近付こうとすれば、目の前にはアックスがいて救出する事も出来ない。
「生きてはいるが……動けねぇぜ……」
 二号機の各所からは煙が吹いている。ソルテッカマンはピクリとも動かず、完全に機能を停止した。ノアルにしてもかなりの傷を負っている様だ。
「あいつ……あんな飛び道具を……!」
 一号機改も同様に酷い損傷を負った。装甲表面は元の姿が想像出来ないほどに折れ曲がりひしゃげ、折角のパワーアップもこうなれば無惨であるが、まだ機能停止には陥っていない。強化されたからこそ、ノアルの機体よりも受けたダメージが少ないのかも知れない。
 アックスのこの攻撃はバーストアックスショットと呼ばれている。エネルギーをテックランサーに込めて光の刃を放射するアックスショットと同じ原理ではあるが、そのエネルギーを極限まで溜めて投げつける攻撃であり、言わばアックス唯一の、多に対する技だと言えるだろう。
「ブレードを始末するには邪魔が多すぎる。ここは一つ、お前に頼むか」
 そうテッカマンアックスは大聖堂に纏わり付いている異形のラダム樹に声を掛けた。すると地響きが起こり、ラダム樹の野太い根が、ツタが生えていく。
「何っ!?」
 ブレードと距離を置いていたスペースナイツの面々はその様を見て驚愕した。
「な、何よあれ!?」
「Dボゥイ!?」
 どうやら、異形のラダム樹はこの地域一帯に根やツタを地中に生やしていたようだ。ラダム樹にとってはこの地域一帯は自分のテリトリーである。アックスとブレードは野太い根に囲まれ、飲み込まれていった。
「ブレードを引き離すつもりか! っくっそぅ!!」
 バルザックが何とか立ち上がって、見上げながらそう叫ぶ。まるで巨大なドーム型の構築物の様に、ラダム樹はその姿を変容させてブレードとアックスを覆い隠している。
「弾切れかよ!? ついてねぇな!!」
 ノアルのソルテッカマンはエネルギーを使いきり、バルザックの機体は動けても、フェルミオン砲発射機構が機能不全に陥っている。つまりこの時点で、ソルテッカマンの二人は戦線から脱落した事になる。
 そしてアックスの強大な攻撃をセンサーで探知した特殊工作員の一人が声を上げた。
「北東五キロ地点に、ボルテッカ級の高熱現象あり! 戦闘が行われている模様! 間違いありません、テッカマンです!」
「……どうやらやっと、坊やを見つけたらしいな……急ぐぞぉ! 野郎ども!」
「了解!」
 バーナードの声を受けた兵士達は、ジープを疾駆させ、交戦している彼らの下へ急行した。
 そして巨大なラダム樹ドームの前では中に閉じ込められたアキがラダム樹に近付こうとするが、
「Dボゥイ……うっ……!」
触れようとすると紫の樹液が滲み出した。ペガスやソルテッカマンですら、それに捕えられたら動けなくなるのを知っているアキは、それを見て後ずさる。生身の人間だったら触っただけでも危険に陥るだろう。
 そしてラダム樹内にいるブレードは周りを見渡し、完全に閉じ込められた事を悟った。
「ラダム樹特製コロセウムって奴よ。これでやっとサシで勝負が付けられる……今度こそあの世へ送ってやるぞ!」
「エビルを……お前達を一人残らずこの手で葬り去るまで、俺は死なん!!」
 最早孤軍奮闘する以外に打開法は無いと考えたブレードは、そう絶叫してアックスと相対した。
「ならば尚更死んでもらわにゃならんな! シンヤ坊を守るのは、ワシの役目! ふっふっふ……そう! そしてそれが、昔のタカヤ坊の願いでもあったな?」
「くっ……!」 
「はっはっは! アルゴス号の出発前、宇宙へ出て、もしシンヤ坊に何かが起きたら、その時は頼む。そうワシに頼んだのはタカヤ坊、お前じゃなかったかな?」
 Dボゥイはアルゴス号出発前の船内で、ゴダードにそう言った事がある。ゴダードはそれを受けて、誓いの握手を堅く交わしたのだ。それは、数日前に山で遭難し掛けた時の懸念が、タカヤであるDボゥイにはあったのかもしれない。
そしてその誓いはやはりシンヤには内緒で交わされた約束だった。ゴダードがラダムになった今でも、その約束は変わらず、例えシンヤがラダムの幹部になったとしても、彼には語っていない言葉だった。
だが、今のシンヤがこの約束の話を聞けばどう思っただろうか。
「あの時とは全てが変わったぁっ!!」
 刃が煌き激しい打ち合いが始まった。ブレードの激情がゴダードの言葉を掻き消したいが為に。
「何も変わっちゃいない。ワシがアックスになり、シンヤ坊がエビル様になっただけの事」
「なにぃっ!!」
「そしてシンヤを傷付けようとする奴をワシが始末する事にも、変わりは無い!」
「くぁっ!」
 ブレードの激しい打ち込みを跳ね返し、重く斧槍を凪いだ。
「例え相手がタカヤ坊! お前でもなぁっ!!」
 そしてまたブレードに斧槍を構えて走り出し、打ち込む。何度も何度も、テッカマンブレードのその命が途切れるまで、テッカマンアックスの猛撃は終わることは無いだろう。
 其処は極寒の地アラスカ。その地下施設では、スペースナイツチーフであるハインリッヒ・フォン・フリーマンが深夜であるにも関わらず、コンピューターを相手にキーボードを打ち鳴らしている。
「その様子じゃ、三日は寝てない様だな……無理も無いか」
 そう言ってプログラミングルームに入ってきたのはスペースナイツの一員であり、フリーマンの古くからの友人、メカニックマンの本田である。彼は一息入れる為か、自分とフリーマンの為にコーヒーが入ったカップを持ってきている。
「ブレードのパワーアップに、ラダムの研究。あんたにはまだ、やらなきゃならん事が山の様にあるからなあ」
「済まない」
 コーヒーを渡されて、短くフリーマンはそう応えた。
「はぁ……全く、何処も彼処も大忙しだ」
 そう言う本田も、急ピッチの作業のせいでしばらくまともに寝ていないのが現状だった。そんな風に一息入れようとした二人だったが、
「本田さん、ブルーアース号の出力調整完了です。最終チェックを御願いします!」
「ラーサ!」
 本田が何処にいるかを聞きつけた作業員から突然モニター通信が入る。他のメカマンも当然寝ずの作業に掛かりきりの様だ。とりあえず返事した本田だったが、直ぐにまた別の作業員からモニター通信が入る。
「ブースターの反動吸収装置と冷却ユニットがうまく作動しません。至急来て貰いたいのですが。あ、それから――――」
「分かった分かった! ブースターユニットのデータバンクをトレースしておけ。直ぐそっちへ行く」
 たった一分間でもその場所にいれば、矢継ぎ早に通信が入ってくるだろう。それ程にこの新しい拠点での作業は苛烈を極めていた。
「一息入れる暇も無し、かぁ」
 そう言ってコンソールの上にコーヒーカップを置くと、本田は部屋を出て行った。それを見送ったフリーマンもふっと一息入れてモニターから視線を外す。映っているのはテッカマンブレードに関する重要なデータだろう。そして、本田達の作業は多忙を極めてはいるが、その努力は着々と結実していると言えた。現に、もう少し期間を置けばブルーアース号が大気圏内を飛べるに至るまで修復作業が進んでいるのだ。
「バーナード軍曹、Dボゥイを頼む……!」
 そして、フリーマンは独り言の様にそう言った。彼らがDボゥイ達を必ず救ってくれると信じて、今は自分の作業に没頭する。またフリーマンはキーボードを叩き始めるのだった。
 ラダム樹のコロセウム内では、相変わらずブレードとアックスの死闘が繰り返されている。 
「アックス……何故ボルテッカを使わん!?」
「ふん、ボルテッカを撃てないタカヤ坊を相手に飛び道具を使うとは、元師匠の沽券に関わる!」
ゴダード……!」
「心配せんでもお前などこいつで十分! 真っ直ぐ地獄へ叩き込んでやるわぁっ!!」
ガキンと打ち鳴らされる槍と槍。迫る刃にパターン等あるはずも無く、様々な角度から攻撃が走る。アックスはブレードと槍での鍔迫り合いを行うかと思われたが、
「うぉっ!?」
組み合った状態で片腕をブレードの脇に差し込むと、その場で回転、遠心力を使って虚空に彼を投げつける。更に宙に浮いたブレードに向かって回転するランサーを投擲した。しかしブレードは樹の天井に着地すると、ツタを蹴って迫るランサーをかわし、更に脇腹のフィンを展開、推進力を得て勢い良くアックスへ向かうと、
「てやぁっ!!」
そのまま鋭くランサーを振り下ろした。しかし寸前に飛び上がってそれを紙一重でかわすアックス。相変わらず見た目は鈍そうでも、凄まじい素早さで回避を行うテッカマンだった。それは取りも直さず、元弟子の攻撃を全て見切っているからであろう。
「良い攻撃だ、ブレード。惜しいな、それだけの腕を持ちながら、どうしてもラダムに戻る気は無いのか?」
樹の根に食い込んだランサーを回収すると、アックスは槍をブレードに向けながらそう言った。
「例え地球最後の人間になろうとも、ラダムになどなるものかぁっ!!」
「毛嫌いされたものだなぁ! だが、ラダムも人間も宇宙が作った存在、生きる権利に差など無い!」
「……っ!」
「ラダムが人間を滅ぼすのも、人間が生きる為に獣を殺すのも同じ事。自然の営みなのだぁっ!!」
「なにぃっ……」
「ラダムが選んだのがたまたま地球だっただけの事……ラダムに侵略されるのは、宇宙が定めた運命だったのよ!」
「俺がお前やシンヤと戦うのも、ただの運命だと!?」 
「そう言う事になるな!」
 ブレードは自分のランサーを握り締める。運命、そんな言葉で片付けられては溜まらない。父もミユキも、そんな運命に翻弄されて命を絶たれた。自分だけではない。何億と言う人間がそんな運命の為に命を失ったと言う事にブレードの怒りは煮え滾るほど激情に駆られた。
「っく!!……それが俺の、地球の運命なら! 俺がこの手で打ち砕くぅっ!!」
 雄叫びと共に、テッカマンブレードは自らの運命とラダムと言う敵に立ち向かう為に、槍を振るうのだった。
「ちっ! 手も足も出ないって事は、こういう事を言うのかよ!」
「くっそぉ!」
 ラダム樹コロセウムの外では、ノアルとバルザックソルテッカマンを降りて歯噛みしていた。フェルミオン砲も無く、ペガスも大地に縛り付けられたまま沈黙している。
「もぉ! 早くしないと! こんな閉鎖空間で敵のボルテッカを受けたら、ブレードだって一たまりも無いわよぉ!」
「変身リミットだって迫ってるわ……」
 レビンが叫び、ブレードのテックセット時間をいつも気に掛けているアキがそう呟いた。
「分かっちゃいるが、どうしようもないな!」
「くっ! 手をこまねいて見ているしかないのか!」
 何か武器があれば。だが、機能を失ったソルテッカマンなど鉄の塊でしかない。レビンにしても修理を行う工具を持ってきておらず、今現在の彼らはただの足手まといと言っても過言ではなかった。
 そんな彼らが叫ぶ様に話しているのが気に入らないのか、コロセウムに変化した異形のラダム樹から再び樹液が噴出される。
「あぁっ!?」
乱れ飛ぶ樹液が彼らを襲おうとしたその瞬間、頭上で何かが炸裂した。榴弾の様な小型の弾頭は、弾けるやいなや辺りに冷凍ガスを放出して樹液を一瞬に氷付けにする。
「何っ!?」
 そして一台のジープが彼らの傍に止まると、ボディアーマーを付けたバーナードがノアル達に声を掛けた。
「立派な装備も、持ってるだけじゃ宝の持ち腐れだぜ?」
「あ、あんたは?」
「自己紹介は後だ。坊やはこの中か?」
軍曹はラダム樹コロセウムに目を向けてノアルに尋ねた。 ノアル達とバーナード軍曹はこれが初対面だった。Dボゥイもこんな型破りな兵士がいた、とノアル達に話す事も無い。
「坊や? Dボゥイの事か? 誰だか知らねーが、コイツを破るのは容易なこっちゃなさそうだぜ?」
「ラダム樹だって所詮は植物よ。植物なら、枯らせば良いって事さ!」
「草刈りみたいに簡単に言ってくれるぜ……」
 だが、バーナードはラダム樹に対してある程度の知識を持っていた。それは誰であろう、ノアル達の上司であるフリーマンからの情報であり「枯らせば良い」と言うのはある意味比喩であろう。
「エネルギーライン、スタンバイオッケー!」
「砲身、スタンバイOK!」
「センサー、スタンバイオッケー!」
 バーナード麾下の兵士達が手際良く後部にあるフェルミオン砲を組み立てていく。コンパクトではあるが、ソルテッカマンが装備するフェルミオン砲よりも高効率の光弾が撃てる最新式の兵装だ。先程の冷凍榴弾にしても、これらは全てフリーマンから供されたモノであり、ラダム攻略の研究成果は着々と実っている様だ。
「あそこだっ! ボケっとしてねぇで、ラダム樹退治だ!」
「了解!」
 バーナードは巨大なラダム樹コロセウムをセンサーで測ると、一際エネルギー反応が濃い部分を探し当て、部下に号令を下した。
「あたしも行くわ!」
「あたしも!」
 そんな彼らに追従しようとアキとレビンが戦闘に参加すると言い出した。だが、
「足手まといだ。ほら、これでそこの二人を守ってやんな」
 冷凍榴弾が入ったグレネードランチャーをアキに放り投げた。樹液を凍らしたとは言っても、異形のラダム樹はまだ健在なのだ。ラダム樹に通用する武装があるのは心強く、負傷者がいるのなら待機するしかない。
「ボウヤの事は、俺達プロに任せときな!」
 そう言うと、バーナード達はジープを疾駆させる。エネルギー反応が濃い場所、つまりラダム樹のコアとも言うべき場所に近付く為に移動するのだ。
「こいつを退治したら、いつもの奴を御願いしますよ! 軍曹!」
「あぁ! 酒はこれで最後だが、女なら……」
 運転している兵士に向かって、開いた酒瓶を差し出しながら軍曹は言う。他の二人から下卑た笑いが漏れ出る。いつもの奴、酒と女は兵士達にとって生きる糧であり、刹那の逢瀬であったとしても、それが彼らの戦う原動力だった。
「終わるまで酒、取って置いてくださいよ!」
「分かってるぜ!」
 運転している兵士は呆れた顔でそう言い、バーナード軍曹は部下達に快く言葉を返した。
「……死ぬなよ、ボウヤ」
 そして、独り言の様に静かに、Dボゥイの身を案じるのだった。
 ブゥンブゥンと大振りされる斧槍。だがその切り返しは思いの他素早く、一向にアックスの隙を付けない。
「とおりゃあっ!!」
 また斧槍が振り下ろされると思って身構えたと思えば、今度は刺突の槍で激しく突いてきた。
「ぐあっ!! っく! まだまだぁっ!!」
胸部装甲に刺突をまともに喰らったが、テッカマンブレードの胸部は他の鎧よりもぶ厚い為か、アックスのランサーでも突き通せない。しかしその打突攻撃で大きくブレードは吹っ飛ばされてしまう。槍を地面に突き立ててその威力を殺し、まだ戦えると吼え続けた
「どおりゃあっ!!」
そして背部のバーニアを吹かしてダッシュし「ボォッ」と空気の壁を突き破る様な、鋭い突きを放った。だが突きを放ったその場所にはアックスが掻き消えるように、残像を残して飛び上がった。渾身の突きをアックスはジャンプしながらかわし、同時に右蹴りをブレードの顔面に見舞う。
「うっ!? がっ!!」
 のけ反ったブレードにアックスは宙に滞空したまま、斧槍を振り下ろした。ブレードの首を囲う鎧に斧が突き立てられる。鈍い音がして、装甲に巨大な切り口の跡が刻まれた。危うく頭部に振り下ろされる所だった。アックスの足が地に着いていれば、斧はそのまま鎧で止まらず、素体である内部まで裂いていたかもしれない。
 アックスの突き立てられたランサーを腕で除けると、ブレードは肩で息をした。殺されずにいるのがひどく難しい。アックスと言う敵は真に恐るべき敵だった。 
「どぉした? ブレード。スタミナ切れか? ふん、スピードも落ちてきたぞ?」
見れば、テッカマンブレードの鎧は傷跡だらけだった。傷の無い部分を探すのが難しいほどに、ブレードはアックスの攻撃に翻弄され、少しずつボロボロになっていたのだ。
対して、アックスのテックアーマーには傷一つ無く、息はまるで乱れていない。テッカマンアックスと言う戦士はブレードの様に無駄な力を使わず、必要最低限の力で斧を振るい、必要最小限の動きで敵の攻撃をかわしてきたのだ。これがブレードとアックスの大きな違いだった。
「ならば、そろそろトドメと行くか。エビル様も、お前の死を心待ちにしているだろうからな」
「あ、あの構えはっ!?」
 後ろ手にランサーを持った右腕を大きく開き、左腕もそれに応じて大きく、ゆっくり開く。
その動きの過程を見てブレードは戦慄した。タカヤがその技を最初に見たのは彼が幼い頃、アジア圏で行われた中国武術の演武会での事だ。青龍偃月刀と呼ばれる中国の英雄が主に使った槍を持ち、黒い武術着を着たゴダードが演武を行うと、観客席から拍手喝采が巻き起こった。演武の終盤はその技で決める事が多く、共に見ていたシンヤと一緒に感激したものだ。
「最後はワシの得意技で葬ってやろう! お前が何度挑戦しても破れなかった、この技でなぁっ!!」
 その技に憧れたタカヤとシンヤは、槍術の時間でゴダードが言う様に何度も挑戦したが、二人一緒に攻めたとしても破れなかった。その挑戦は、アルゴス号が飛び立つ前までずっと行われ、結局誰一人彼のその技を越える事は出来なかったのだ。恐らく、今現在テッカマンエビルがその技に挑もうとしても、破る事は出来ないかも知れない。
――――ゴダードが技を仕掛けてくる前に……!!
「おおぉぉっ!! はぁっ!!」
ブレードは、技に入る前のモーションを妨害すればアックスの技を封じられると思った。そして自らのテックランサーを頭上で大回転させると、アックスに向かって投げつける。
「はぁっ!! 無駄だ無駄だぁっ!!」
だが数瞬早くアックスの技が始まってしまった。巻き起こる刃の暴風。それがアックスの得意技である。ブレードのテックランサーは文字通り付け焼刃となり、その嵐の様な大回転に弾かれて二つに分離し、地面に落ちてアックスに踏み砕かれる。
「うぅっ!! 見えない!!」
「ふっふっふ!! どぉーした? どうしたブレードぉっ!!」
 ブレードは焦燥感に捉われた。全くアックスの槍が見えない。動きを追えない。それ所か、槍を操る腕さえも、その動きの軌跡を読む事が出来ない。それほどに速く、それほどに力強い。例えて言うなら死角が無いのだ。上から攻めれば八つ裂きにされ、下から攻めれば斧が振り下ろされる。まさに暴風の様な刃の嵐は、一歩一歩徐々に迫り来て、ブレードは絶体絶命になった。 
 その頃、バーナード軍曹は右目に付けたセンサーでラダム樹コアの中心点に狙いを付けていた。 
「方位良し。仰角六十度! そうじゃない、もうちょい下ぁ!!」
 ラダム樹と言う植物生態は、大なり小なりエネルギーの塊を抱えている。その源泉であるコアは、ラダム樹を構成する上で必要不可欠なモノだ。そんな基部であるエネルギーコアを、フェルミオン砲で効率良く狙い撃つ事により、ラダム樹自体を自壊させるのがバーナードの狙いだった。
「急げぇっ!! ボウヤが死んじまったら、元も子もねぇぞぉっ!!」
 部下達にバーナードの号令が轟いている最中、コロセウム中ではアックスが無言でブレードに詰め寄っている。徐々に近く付く刃の暴風。コロセウムの端に追い詰められ、テッカマンブレードは逃げ場を失っていく。
「くっ!!」
意を決したかのように、ブレードは自らの手を鋭角的に変形させた。それはクラッシュイントルードの時に身体をスリム化させた時と同様だが、変形させた部分は手のみ。つまり、その部分だけは鋭い武器になったと言っても過言ではなかった。そしてそのままダッシュする。大回転されている斧槍に向かって。
「死ねえぇっ!! ブレードォっ!!」
 がきぃんと、一際鈍い音が闘技場に響き渡った。
「ぐぉっ! くっ……!」
斧槍の刃は右肩のボルテッカ発射口とランサープロジェクターを破壊し、深く食い込んでいる。だが、そういった機械パーツがあったおかげで、ブレードの身体にはダメージが無く、激しい斧槍の回転は肩アーマーで止まったのだ。
「急所を外したのはさすがだ! だが、これで貴様もぉっ!!」
 また距離を取られ、あの技を受けたらもう後が無い。ブレードは反撃の暇が取れずに動く事が出来なくなった。元師匠に隙は無く、武器もほぼ無い。圧倒的優位に立っているアックスは、勝利を確信した。
「撃てぇぇっ!!」
 その時、バーナードの号令が飛んだ。フェルミオン粒子が凝縮された光弾が異形のラダム樹コアを打ち抜いた。その衝撃は中にいるアックスとブレードにまで轟いた。
「うぉっ!?」
「今だっ!!」
一瞬のアックスの隙を見つけたブレードは、左の鋭い抜き手を構えると、アックスの右肺を激しく突いた。
「ぐぉおっ!? ブレェードォッ!!」
抜き手は深々とテックアーマーに食い込み、内臓にまで達しているのか血が夥しく流れた。一目見ても、それは致命傷だった。今まで膝を付いた事が無いアックスが、ガックリと崩れ落ちる。
「っぐぅ……強くなったな、タカヤ坊……」
ゴダード……」
 ブレードは右肩アーマーを破壊した斧槍を抜きアックスと向き直る。
「昔のタカヤ坊とは大違いだ!……肉を斬らせて骨を断つ……さすが死線を潜り抜けてきただけの事はある……師匠ながら、惚れ惚れしたぞぉぉっ!」
 血を流しているゴダードの素顔が見える。彼は笑っていた。愛弟子が自分を越えたその瞬間を垣間見れた事に、歓喜を表している。
「……強くなどなりたくなかった……出来る事なら……変わりたくなど無かった!」
 だが、ブレードの仮面の下ではゴダードの言うタカヤ坊が哀しい目をしていた。変わりたくは無い、それは心から吐露する感情だった。かつての師を乗り越えたその表情は、ただ悲しみに満ちていたのだ。
 そしてエネルギー源を失ったラダム樹は徐々に徐々にその姿を枯れさせていく。エネルギーコアを失った影響でその体躯を維持できなくなって自壊しているのだ。
 アックスは重傷を負い、彼らを覆い隠すラダム樹も枯れ果てた。状況は起死回生の逆転をしている。しかし、
「……だがな、タカヤ坊……お前を月に行かせるわけには……クリスタルを渡すワケにはいかんのだ……!」
ゴダード!?」
そう言ってテッカマンアックスゆっくりと立ち上がり、胸に収納されたボルテッカ口が顕わにした。
「約束を破ってすまんが……ボルテッカを使わせてもらう!」
「なにぃっ!!」
「エビル様の為、死んでもらうわぁぁっ!!」
猛然と駆け出してブレードに組み付くテッカマンアックス。ブレードの両腕を掴んで押さえ込むと、そのままボルテッカ発射口を赤く輝かせる。
「アックス!! 貴様ぁっ!!」
「ぬうぉわあぁぁっ!! 死ねえぇっ!! ブレードォォっ!!」
ラダム樹を枯らせたバーナードは、そのままラダム樹コロセアムに穴を空ける為に砲を連続発射した。幾度も撃つと、ようやく中が見える。その時彼は目にするのだ。敵のテッカマンがブレードに組み付いて、決死のボルテッカを放とうとする瞬間を。
「うぉっ! あれは!! どけぇっ!!」
部下の兵士をどけて砲手を代わると、バーナードはアックスの頭部に狙いを定めた。
「逃げろぉぉっ!! ボウヤぁぁっ!!」
 高効率のフェルミオン砲弾がアックスの頭部を直撃した。
「があぁっ!!」
仮面の右側部分だけが弾け飛び、ゴダードの素顔一部が顕わになる。本来、フェルミオン砲はテッカマンには効果が無い。だが、ボルテッカを撃つ直前のテッカマンには、そして瀕死の傷を負ったアックスには効果があった。そのダメージで、アックスはブレードの拘束を解いてしまった。
 アックスの両腕から解放されたブレードは、右の抜き手を構え、叫んだ!! 
「さらばだ……ゴダードォっ!!」
「うぐぉわああぁっ!!」
ブレードは抜き手でアックスの中心点を激しく突いた。其処は人間で言う所の急所、心臓がある部分だ。
「うっ!?」
ゴダードが激しく吐血した時、月にいるシンヤはゴダードの異変を感じ取った。精神感応でのテッカマンアックスの断末魔を、テッカマンエビルは感じたのだ。
夥しい返り血を浴びたブレードは、アックスから急遽離れる。
「ふっふっふ……うぶぅぉぉ! うぐおぉぉぉっ!!」
テッカマンアックスがボルテッカを放った。微笑みながら。それは愛弟子が師匠を超えた祝砲だったのか。一瞬だけテッカマンと言うモノが、人間に戻ったからなのか。
そしてアックスはボルテッカを離れていこうとするブレードには撃たなかった。放とうとするボルテッカのエネルギーを押さえ込んだ。対消滅爆発が起こる。それは拳銃が砲身に異物を詰め込まれ破裂する様な暴発と言っても良かった。
ある意味、テッカマンレイピアの自爆ボルテッカに似た現象がまた起こったのだ。それは、ラダムのテッカマンが取る最後の手段だった。ゴダードは自分のクリスタルを一切残さない為に、自らのボルテッカを自分に向けて暴発させ、散華したのだ。
「うぉわぁぁっ!!」
至近にいたブレードはその対消滅爆発のエネルギーに跳ね飛ばされた。そしてその極大なエネルギーはラダム樹のコロセウムを吹き飛ばし、大聖堂の横に大きなクレーターを作るのだった。
 バーナード達の協力により、樹液から解放されたペガスはブレードを搭乗させ、テッカマンブレードはDボゥイに戻る。恐ろしい程の集中と疲弊に苛まれたDボゥイは、ペガスから崩れ落ちるように降りた。それをアキが抱き止める。
「Dボゥイ……」
 アキはDボゥイがかつての師匠と戦ったと言う事実を知っている。その師匠は先程の爆発で死亡し、Dボゥイに敵テッカマンを倒したと言う喜び等は皆無である。そんな彼の気持ちをアキは痛い程に理解していた。
「クリスタルは?」
 そうバルザックに問われたが、やはりDボゥイは無言だ。
「そんな……」
 ミリィが落胆顔で言う。こんなに苦戦し、手に入れた結果は敵テッカマンの撃破だけ、と言う事に誰もが落胆したのだ。だが、Dボゥイはそれ以上に辛い現実を受け止めなければならなかった。傷だらけになり、師匠を殺してしまったと言う罪に苛まれ、更にクリスタルは手に入らず、月に到達する事が出来ないと言うこの過酷な現実を。
 そんな風に落胆している彼らに声を掛ける者がいた。
「落ち込んでる暇はねぇぜ。ボウヤには、これからやってもらわにゃならねぇ事があるんだからな」
「あんたは……バーナード軍曹!」
 隻眼の野卑な態度、自分をボウヤと呼ぶその声。Dボゥイは兵士の生き様を教えてくれた彼、バーナード軍曹に会えた事に驚き、落胆した顔も少しだけ明るくなった。
「約束を憶えているか?」
「あぁ……!」
 そう言って酒瓶を差し出されると、その口をDボゥイが握った。戦場での掟。必ず生き残り、仲間の命を守ると言うあの掟を、また会ったら酒を酌み交わそうと言う約束をDボゥイは確かに、はっきり覚えていた。
そして月のラダム基地の人口区画では、シンヤが私室で椅子に座り、静かに目をつぶっている。まるでゴダードの死を悼むかの様に。
――――ゴダード……
 心の中で、そう一言だけ呟く。だが、ラダムが仲間の死を悼むのは一瞬だけである。
黙祷を止め、目を見開いたシンヤの目は、確かに血の色の様に赤かった。



☆っはい。想像以上に時間が掛かりましたが、やっと出来ました、アックス決戦後編。やっぱり好きな話は何度見ても飽きないですね。この話は特に板野作画が輝いています。ブレードの足が土を踏む表現とか、残像とか、派手なアクションとかもう大好物ですね。後、今回は独自の解釈をガンガン入れています。アックスの新技とか、ラダム樹はどうやったら枯れるのか、とか。まあ実際、ラダム獣は少なからずのエネルギーを求める嗜好性があるので、獣が樹にチェンジした時は、やはりそのコアとも言うべきエネルギーの源泉があるのだろうと思います。飛行ラダム獣とかどうやって飛ぶのかわかんないけどね!(笑)
と言う事で、今日の作画評価は満点の五! 激しい戦いでしたが、これが本来のテッカマンブレードと言う作品だ、と思うわけでありますね。