SS 第四十話「明日を救えバルディオス」

作……エクシードチャージ  監修……岬龍飛
 
ガットラーとの決着をつけられぬまま、マリンは地球の仲間達の所へ戻った。
地球では、全ての者が生きるために努力を惜しまないでいた。BFSの面々はシェルター内で以前食物を不毛化された時に作った、人工栄養食の大量生産に取り掛かっていた。仲間達は暖かく迎えてくれるが、マリンの胸中はとても穏やかとは言えぬものであった……S-1星の歴史を熟知しているマリンは、これからの人類の過酷さを目の当たりにするのだから。
このまま歴史を進めてもまたいずれガットラーが生まれる。その時には自分はいないのだ。結局は無駄ではないかと。
だが、諦める事は出来ない。諦めることは出来なかったが、策は何もない。現在の科学では放射能を除去する事も出来ないし、パルサバーンの亜空間エンジンで故意にタイムスリップを起こす事は出来ても、過去に飛べる保証は殆ど無い。歴史は繰り返す。またタイムスリップが起きる。戦争が行われ、地球は核に蹂躙されるのだ。防ぎようのない輪廻をどうやって変えればいいのか。皆が作業に勤しむ中、マリンは絶望の淵にいた。
「教えてくれよ! 父さん……」
大気圏突入の影響で焼け焦げたパルサバーンのコクピットの中でマリンは一人慟哭する。グローブボックスから写真を取り出し、父の肖像を眺める日々が続く。

ふとある日、彼は写真の裏に書いてある九桁の番号に気付く。何の番号かわからないマリン。以前クインシュタイン博士が言っていた事を思い出す。バルディオスへの変形機構を開発中、パルサバーンのコクピットには不可解なスイッチ類が多々あった。しかし、それは操縦に全く関連の無いものだと。
「まさか……父さんが?」
数ヶ月前バルディオスはパワーアップ改造を施され、大幅にコクピットを改修されたが、そのパネルだけは以前のまま残された。クインシュタインの配慮である。パネルはテンキー型で、非常に小さな字でA・B・Cと表記され三カ所にあった。この番号をアルファベット順に入力すれば……何かが起こるかもしれない。

マリンはBFSメンバーを招集し、キーを入力する。すると、モニターが点灯し、彼らはそれを目の当たりにした。亡くなったはずのマリンの父、レイガン博士が写った。それは記録映像だった。
「父さん!」
「マリンよ、おまえがこの映像を見ているという事は、私はもう死んでいるのかもしれないな」
父の声はマリンに静かに語りかける。彼の父は薄々自分がガットラーに殺されると予測していた……そして、彼はパルサバーンのデータボックスに自分の研究の成果を秘匿していたのだ。
「この研究が終わる頃か、もしくは途中で終わるか。もし途中で終わるのならおまえが引き継いで欲しい」
最後におまえを心から愛している、と言い残し映像は消える。顔を覆い嗚咽を噛み殺すマリン。直後、映像は設計図を次々と表示する。驚く一同。
マリンには見覚えがあった。放射能濾過循環装置の図面だ。自分もその開発に参加していたため、その設計書はほぼ完成していることを確認できた。レイガンは襲撃を受ける直前までデータをパルサバーンに転送していたのだ。
「これがあれば地球は救われる!」
喜ぶBFSの面々。しかし、
「いいえ……無理です」
クインシュタインが目を伏せながら言い放つ。
つまり、それを完成させるにはS-1星でしか精製することができない凝縮放射能性物質「ベルキロウス」が必要不可欠なのだ。亜空間要塞のエネルギー源でもあったその物質が精製出来るのに一体何百年かかるか分からない。「アルデタイト」という物質が無かったせいで亜空間航法機を地球側が大量生産出来なかったように。
そして疑問が残った。この設計理論はすでにこの現代にあるにも関わらず、マリンがいた時代では基礎理論すらなかった。何故か?……それはこの理論が打ち捨てられた証でもあった。これから放射能で汚染された地表より、地下で生活を営む事を選んだ人類にとって実現できない技術など宝の持ち腐れだったのだろうし、新技術の開発を待てないほど、今は生き残ることが先決だった。
万事休すか。しかしここでマリンはある事を思い付く。
「博士、バルディオスを改修し、長期保存する事は可能でしょうか?」
「それは……可能です。ネルドの真空理論と、亜空間エンジンを併用すれば、正確な年数は不透明ですが……数百年という期間は何とかなると思います」
マリンはそれを聞き一つの希望を見いだす。まるで遠い世界を見つめるような眼差しをしているマリンにジェミーが聞く。
「何をするつもりなの? マリン」
「遥か未来の人類に贈り物をしたいんだ。絶望しかない世界の中でたった一つの光を」
マリンは赤い土色で覆われた世界を見た。慣れ親しんだ光景だった。皮肉にも故郷に帰ってきたという言いようのない感覚がこみあげる。
彼は未来で培った、不毛な大地で生き残る術を現代の彼らに伝えなければならなかった。
「まだ俺にはやらねばならないことがたくさんある。ここで立ち止まってたまるか」
マリンの顔に力強さと、笑顔が戻った。




長い時が経った。地球という名がS-1星へと改名されるのに850年。人々は日々を生きるのに必死で、遠い昔に異星人との戦争があったことを辛うじて覚えている者は物好きの歴史学者だけで、記録等と言った物は殆ど存在しなかった。そして、人口増加に伴い人類という種は限界の淵に立たされていた。
そんな中、皇帝は暗殺され、総統となったガットラーは他惑星開拓への道を開く。誰もが生き残る為にそれに随伴する。しかし、ガットラーに反感を覚えるもの、故郷を捨てたくないもの、そして人数調整の為置いてきぼりを食らったもの。ガットラーに随伴していった人間達に比べるべくもないが、急ぎすぎた移民計画のおかげで、辛うじてS-1星は無人の惑星にはならなかった。
皮肉にも大半の人民を随伴したおかげで、残された人々の生存率はあがった。だが、やはり死を待つという運命は変えられないように思えた。

そんな中、三人の少年少女が希望を捨てずにいた。
荒廃した地表を探索し、わずかでも希望はないかと模索する。それは半ば好奇心にも似た、冒険であった。
そして彼らは見つけるのだ。かつてマリアナ海溝と呼ばれたそこは、度重なる環境変化の影響で干からび、1万920メートルに及ぶ大穴をあける。その底で待つ巨大な石の棺を。
長さ120メートルを越す長方形は巨大な建造物であった。冒険者達は石の棺をくまなく調べ、入り口らしき場所に彫り込まれてあるメッセージプレートを見つける。
『平和を愛し、侵略を拒み、故郷を愛する者達にこれを贈る/ブルーフィクサー
(ぼくらの命も みえないけれど 地球を守る祈りで満ちれば)
「これって俺たちのことかな?」
「きっとそうよ! ご先祖様達が残した物なんだわ、きっと!」
「よぉーし、開けてみようぜ! みんな!」
(父母皆があこがれていた 希望のブルーが蘇るでしょう)
かつてブルーフィクサーと呼ばれた者達がいた。
青は平和の象徴。彼らは紛争を取りまとめる、心から平和を願う者という意味で結成された戦士達だった。
そしてフィクサーという言葉にはもう一つ違う意味がある。修復するもの、治癒するもの。
今ここに新たな、そして真のブルーフィクサーが生まれるのだ。
(ブルーブルーブルーフィクサー 明日を救え バルディオス


             終

エクシ解説………衝動だけで書いたと言っても良い作品。多分バルディオス関連の文章で一番古い作品だと思われます(笑)岬龍飛さんからDVDを借りて視聴、更に安く手に入ったバルディオス豪華本を購入して物語の大部分を読んだ後に思ったのは「こりゃ何があっても絶対救われねーわ」でした。でも、何としてでもハッピーエンディングにしてやりたい。マリン達は今までずっと苦しみながら戦ってきたのにご褒美も無し、報酬も無し、救いも無しではやりきれないと思って何とか形にしたのがこのオリジナルショートストーリーでした。大体救いも無しでクインシュタイン達が未来のS-1星を作るのがどうにも納得いきませんし。
まずヒントを得たのはガットラーの逃亡先である地球の超古代。ならばこちらはガットラーのいない時代、ガットラーが時間跳躍した後の未来のS-1星で平和にしてやろうと思った次第です。因みに誓って言いますが、豪華本の酒井あきよしさんのオリジナルストーリーは未見で書きました。
酒井さんのお話はアフロディアが35話・36話で生き残り、ガットラーを追い詰め、戦争が終わった後にパルサバーンで時間跳躍してS-1星に帰還。何気に放射能濾過循環装置がパルサバーンに搭載されていて(笑)S-1星を平和にした後、二人で楽園を築くみたいな話でしたっけか。色々言いたい事はありますがこの作品に関してはノーコメント(笑)
作品コンセプトは「ご先祖様の贈り物(遺跡)からバルディオスが出現!」と主題歌の「父母皆が憧れてきた希望のブルーが蘇るでしょう」と言うくだりから。オープニングから蘇るって言ってんのに何で蘇らないかな、本編は(泣)当時岬龍飛さんに見せた処「これが真のエンディングだ!」と狂喜してくれました(笑)何気に漫画も描き上げている様で完成が楽しみであります。エクシは当時の地球の技術では放射能濾過循環装置は作れないと言う風に書きましたが、龍飛さんの監修でS-1星でしか精製出来ない「ベルキロウス」が必要不可欠と言う感じに変更しました。これなら未来でしか装置が起動出来ない理由も納得する事が出来ます。その節は岬龍飛さん、有難う御座いました。
本来バルディオスと言う作品はバッドエンドが主体なお話で、これは正道ではなく邪道かも知れません。しかし願わくば鬱エンドで終わりたくない、と言う視聴者の方々に喜んで頂ければ幸いです。
それではまた〜(L_L)ノシ