最終話 マリン対ガットラー 宿命の対決!

辛うじて機能している冷凍冬眠エリアにガットラーはいた。そこへ現れるマリン。
「地球は汚染された……いずれはあの星がS−1星になる。それなのにお前は一人で何をしにきたのだ」
悠然と佇むガットラーに銃を構えるマリン。
「地球はまだ完全にS−1星になっていない。俺達は運命に支配されない。だが、お前を生かしておけばまた戦争が始まる。だから俺はここに来た。ガットラー、お前を倒しに来たのだ!」
「しかしお前には撃てまい。この後ろにある人工冬眠カプセルの制御装置がある限り。撃てば一万人のS−1星の民間人が全て死に絶えるのだ」
「くっ……」
「それに儂を殺せば彼らは永遠に目覚めることなく宇宙を放浪し続ける。誰かがこの装置を制御しなければならない。お前はS−1星人でありながら全ての同胞を滅ぼしつくすつもりか?」
構えた銃が震える。そして突如銃を投げ捨てると、猛然とガットラーに突進し殴りかかる。
「くそぉぉぉっ!」
ドスッとガットラーの腹部に拳が当たる。しかし彼は平然とした表情でマリンの襟首を掴んだ。
「ふんっ」
そのまま後ろに投げ飛ばした。無様に転がるマリン。鉄の床が彼の身体を強かに打つ。
「儂はここに眠る同胞達と共にまた新たな旅に出る。そこにまた何がいようと侵略し、支配するだろう」
それを聞いて起き上がったマリンが激昂する。
「何故だ!? 何故支配しようとする! 何故侵略しようとする! 共存し分かり合おうとしない?」
再びマリンは猛然と駆け出し、飛び回転横蹴りを放つ。しかしその蹴りを流し気味にキャッチしリフトアップしつつ投げ飛ばした。高く叩きつけられたマリンは朦朧としながらも立ち上がる。
「我が人民の為だ。住む星も無く宇宙を彷徨う同胞達の為だ。人の心は弱く、支配されなければならない。そしてそれは他の惑星人に対してもそうだ」
ダッと駆け出したガットラーは立ち上がったマリンの腹部に重いパンチを放つ。
「ぐふぁっ!」
胃液が逆流しそうになるボディブロー。ボクシングチャンプ時代のパンチに衰えは無かった。渾身の一撃はマリンの立ち上がる力を萎えさせる様な勢いだった。たまらず膝をつくマリン。
「人は支配される事で安息を得るのだ。支配とは力だ。力こそは即ち悪だ。だが悪と言われようと、独裁者と言われようと、儂はこの道を突き進む。支配される事で真に戦いの無い世界が築かれるからだ」
目の前に立つ巨漢の存在が大きい。マリンはこの野望に燃える男を倒す事は出来ないと思い始めた。彼の言葉が、そして彼の体躯の全てが自分を圧倒する。
しかし逞しく大きい存在にマリンはまたも殴りかかる。顔面を拳で打つ。彼は避けもせずに掌底でマリンの顔を打った。横蹴りで彼の鳩尾を打った。しかし強固な筋肉が急所を急所とさせない。足を掴まれ受身も取れずに床に叩きつけられる。無駄と分かりつつもマリンはガットラーへと向かった。そしてその度に投げ飛ばされる。
まるで大きな障害にぶち当たる感覚。とうとうマリンは立ち上がる気力を失いかける。だが、ある疑問が生まれつつあった。それが最後に立ち上がる気力を残した。
「なら教えてくれ、ガットラー」
「うん?」
もうファイティングポーズも取ろうともしない、マリンは幽鬼の如く立っているだけだ。
「その支配とやらの為にアフロディアは死んだのか?」
「!!」
「もう一度聞く。ガットラー、何故彼女は死ななければならなかったんだ?」
静かに語りかけるマリンの目は哀しみに満ちていた。対して、ガットラーはその言葉で激しく動揺していた。
「支配される世界を前にして何故彼女を見殺しにしたんだ?」
「黙れ……」
「お前も俺も彼女を愛していた。だが、支配と言う力の為に彼女は死んだのではないか」
「黙れ……黙れ!」
アフロディアと言う言葉を耳にしてガットラーは酷く動揺し、激昂していた。彼の身体が小刻みに震える。そして虚ろだったマリンの表情に力強さが戻り、声の限りに叫んだ。
「支配する力とはたった一人の女すら守れないのか? どうなんだ! ガットラー!!」
「黙らんかぁ!」
ダッと駆け出しその巨腕をマリンに対して振り下ろす。マリンの顔面を狙った殺すつもりの拳だ。
全く無防備を晒すマリン。その目前に迫る必殺の拳を眺めながら、彼は過去を思い出していた。
――――日本の言葉でな、柔よく剛を制すって言葉があるんだ。
あれはBFSの訓練場で雷太とスパーリングをしていた時だった。自分の勢いがそのまま投げに繋がる。柔道着を着た雷太にマリンは全く手が出せなかった。強烈な一本背負いで訓練場の床に叩きつけられたマリンは何が起こったか理解出来ずに呆然と雷太を見上げる。
その豪放、快活な笑みがマリンの胸中に蘇った。
「てぇりゃあぁぁぁ!!」
ガットラーの拳が空を切る。急に沈み込んだマリンがその腕を後ろ向きで掴み、一瞬の気合を発して起死回生の投げを放つ。日本の国技、柔道の一本背負いが奇麗に決まる。凄まじい勢いの拳がそのまま投げに繋がった事でガットラーは数メートル吹っ飛んでいった。鉄の床が今度はガットラーの背中をしたたかに打つ。
「がはぁっ!」
投げを放った直後、マリンは膝をつく。今の投げで全ての力を使い切った様だった。
「フフフ……ハハハハ!」
大の字で寝ていたガットラーが笑う。そして今の投げのダメージ等然程にも感じずにむっくりと起き上がった。
「それでこそマリンだ。その一瞬の爆発力。ここ十数年、ワシを平伏させた者はいなかった」
肩で息をするマリンに言い放つガットラー。もうマリンには立つ力すら無かった。
「お前こそ儂が求めていた男だ。どうだマリン、儂と共に来ないか」
「断る! だ、誰がお前なんかと。お前と俺は一生交わる事が無い道を歩んできたはずだ!」
その言葉を聞いてふっと目を伏せるガットラー。
「そうだな……その返答もある意味、儂が望んでいた物かも知れん」
そう言うと、ガットラーは冷凍冬眠エリアの奥へと歩き始める。傍らで膝をついているマリンに目もくれずに。
「例え一人になろうと儂は自分がS−1星人であると言う誇りは捨てない。儂は儂の夢を追い続ける。それが徒労に終わるかどうかは分らないが、何もせずにいるよりはましだ」
制御装置にあるコンソールでボタンを数個押す。そしてマリンに向き直り、マントを翻すと言った。
「このエリアは数分後、空間跳躍を行う」
「ガットラー……」
狼が旅立つ。宇宙の果てに安楽を捜し求める狼がまた、再び旅立つのだ。
「さらばだマリン。誇り高き民族の血を捨てた、愚かなる地球人よ……」
パルサバーンは冷凍エリアから飛び立つ。その数瞬後、冷凍エリアは空間跳躍を行い巨大な宇宙船の欠片は跡形も無くなっていった。
そしてパルサバーンは地球へと向かう光となった……。




☆解説
本当のシナリオは、駄々っ子の如く殴りかかるマリンを抵抗もせずに見下ろす大人、みたいな感じなんですよ。こんな会話も、技の応酬もさっぱりありません。何かもう、頭だけ抑えられて「ほーら殴れないだろー」みたい感じで嫌なんですよね、あれ。まあその無力感もバルディオスの魅力の一つと言うか。
本当のシナリオで、一番納得がいかないのが「一緒に来ないか」です。屈強なガットラーに対してマリンの力はさっぱり通じない。そんな弱い男をガットラーがスカウトするとは思えなかったのです。一矢報いてこその「儂と一緒に来い」であり、敵味方を無にして右腕になって欲しい、だと思うんですよね。
ぶっちゃけるともっとヒーロー的にすれば「これは月影長官の分!」「これはアランの分!」「これは雷太の分だぁぁぁーッ!!」って一方的に殴らせたかったんですけどね。で、更にガットラーが膝をついて「こ、この儂が膝をつくだと!? 認めん……認めんぞ!!」と言う超展開をですね……つかどこのジャンプ漫画だよ!!!!(笑)
ラストシーンなんだから、どちらもカッコよくなきゃ嘘だよね。特にマリンは皆の思いを背負っているのだから。楽しんでいただけたなら幸いです。と言う感じで今日はここまで。
それではまた〜(T_T)ノシ