第26話 死をかけた戦い(1992/8/18 放映)

やめてぇぇ!!

脚本:山下久仁明 絵コンテ:澤井幸次 演出:西山明樹彦  作監:室井聖人 メカ作監オグロアキラ
作画評価レベル ★★★★★




第25話予告
エビルの総攻撃により、最大の危機を迎えるスペースナイツ基地。
そのとき、ミユキは仲間を救うため最後のテックセットを。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「死をかけた戦い」仮面の下の、涙をぬぐえ。




イントロダクション
「待て! ラダムの基地は!」
フェルミオンミサイル、発射準備せよ!」
「あぁ!! お兄ちゃぁぁぁーん!!」
「テックセッタァー!!」
テッカマンブレードよ。スペースナイツ基地もろとも! 貴様の息の根を止めてやる!!」
「うぉわあああぁぁぁ!!」





「うおぉぉあぁぁ!!」
「ぬぅおぉぉ!!」
 再びの再戦。ブレード対エビルの戦い。しかし、今回は1対1の戦いではない。1対4、新たな悪魔が三人も参戦してきた。だが圧倒的な戦力の差でも、テッカマンブレードは全く退かなかった。
 打ち合うエビルとブレードのテックランサー。そこでエビルと組み合っている最中に、テッカマンランスが背後から襲い掛かってきた。何とかエビルの攻撃を弾き、ランスの薙刀状の武器、テックグレイブを防御する。しかし地に足が付いていない不安定な状態でガードしてしまった為、ブレードは地面に転倒してしまう。
「とぉりゃああぁぁ!!」
そんなブレードに槍の穂先に斧を付けた様な、テックトマホークが振り下ろされた。テッカマンアックスのランサーを、ブレードは転がって何とかかわす。転がった先にはランスの追撃が繰り出され、ブレードはそれも危うく回避すると、背部スラスターで空に飛び上がった。
「はあぁぁっ!!」
 しかし空には機動性に優れているテッカマンソードが待っていた。棍棒型のテックシレイラを構えて突っ込んできたソードはブレードと組み合うと、地面に戻れと言わんばかりに彼を空から叩き落した。
何とか着地したブレードにテックグレイブが投擲される。バク転でそれをかわそうとすれば、今度はその着地点にテックトマホークが投げつけられた。アックスのランサーも何とか回避したが、ブレードは体勢を崩して尻餅をついてしまう。
「くっ……!」
一瞬でも油断すれば刈り取られてしまう程に、戦況は絶対的に不利だった。敵の人数を減らす所ではない。暴風の様なテッカマン達の攻撃によって、テッカマンブレードは始終翻弄され続けていた。
そして、ラダムのテッカマン達も実はまだ本調子とは言えなかった。テッカマンエビルと同等の実力を持つ敵が三人も増えれば、直ぐにでもブレードは抹殺されてしまうかと思われた。だが実際には、三人のテッカマン達は覚醒してからこれが初の戦闘である。彼らの連携は完璧に練磨されているとは言い難かった。そう言った隙があるからこそ、ブレードは何とか、四人の攻撃をかわし続けられたのである。
そして基地の治療室では、再びミユキが重篤の身になり呼吸マスクを付けて昏睡する状態であった。ミリィとレビン、そしてアキが、観察室でミユキを見守る時間が続く。ミリィは先程までフリーマンの月侵攻作戦のオペレーションを手伝っていたが、彼が指揮に掛かりきりになった為、プログラムを組む余裕すら無い。
ソルテッカマンであるノアルは、レーザーサイトで狙いつつフェルミオン砲でラダム獣の掃討に勤しんでいる。途中ペガスの航空支援を受けつつ、順調にラダム獣を撃破していくが、本当に危険な相手はブレードに任せ切りになっている。四人が持ち込んだラダム獣も、相当な数だった。
「Dボゥイの奴、一匹も倒せねぇのかよ! もう直ぐ30分が経っちまうぞ!」
 ノアルは小高い丘陵地帯から交戦している五人のテッカマンを見つつ、そう言った。
アックス・ランス・ソード、そしてエビルは、多人数にも関わらずソルテッカマンに目もくれず、ブレードを狩り取ろうとしている。つまりノアルは相手にすらされていないと言う事を再認識した。
 そんな無茶を言うノアルにまたラダム獣が迫る。再び光弾で獣を撃破するソルテッカマン。
「くっそぉ! こんな雑魚の相手しか出来ないなんて、情けねぇぜ!!」
 勿論、ノアルにしても敵のテッカマンと言うモノがどんな相手かは理解している。ブレードはよくやっているとも思う。彼がそんな憎まれ口を叩くのは、現状が厳しい局面からこその、独り言の様なモノだった。
 ブレードであるDボゥイもそれを把握していた。もし、ここでリミットの合図である額のパネルが光りだせば、激しい頭痛、認識を削られるような状態に陥り、その一瞬の隙で四人から攻撃を受けてしまうだろう。
 ブレードはスラスターで飛び上がり、四人から距離を取った。そして肩部の装甲を展開すると、
「ボォルテッカァー!!」
 必殺の反物質砲を唸らせた。四人の刺客はそれを予期していたが如く、飛び上がって回避する。テッカマンブレードボルテッカは四人が立っていた場所に直撃し、クレーターを作り、激しい砂煙を上げた。
 そして四人が着地してブレードのいた場所を見ると、彼は撤退していた。余りにも戦力差が明確であり、更に言えばタイムリミットがある事を考えると、ボルテッカによる目くらましで撤退するのが最善だった。
「逃げたかブレード……まあいいさ。いずれにせよ最後は、俺がこの手で貴様の息の根を止めるのだからな……くくっく……」
 あの強敵である兄を退かせて、エビルは恍惚の笑みを浮かべている。今は逃がしてやろう。今度会う時こそ、貴様の最後を拝める時だ……そんな期待に震えながら、エビルは笑っていたのだ。
 Dボゥイはノアルに肩を貸されて、集中治療室にいるミユキに会いに来た。やはり四人のテッカマンを相手にするのは無理が有った様で、Dボゥイは精神と体力が極限まで疲弊しているようだ。
「Dボゥイ!」
「ノアル、敵のテッカマンは!?」
 隣の観察室でアキとレビンが同時に彼らに問うた。それに対して、ノアルは頭を振った。
「そんな……」
苦戦し、誰一人として撃破出来なかったと言う事を受けて、レビンは不安そうな表情をする。つまり敵は健在であり、今以てスペースナイツ基地は絶体絶命だという事だ。
そして、Dボゥイは重篤に陥っているミユキの手を優しく握った。
「ミユキ……」
 ミユキは未だ意識が回復せず、うなされる様に苦しんでいる。鎮静剤も効いているはずなのに、彼女の苦痛は軽減されなかった。組織崩壊とは文字通り身体がバラバラになりそうな苦しみを伴う症状なのだ。
 そして小刻みに感じる振動。それは外で悪魔達がその辣腕を振るっている証だった。
「エビル達めぇ……くそぉ、このままじゃ……」
 ノアルは無力な自分が歯痒かった。そしてDボゥイも、彼らを目前にして殺されないのが精一杯だった事を考えると、現状では彼らにプラスな要素は一つも無い。そしてDボゥイも、この現状に対して歯痒かった。妹が苦しんでいても何もしてやれず、スペースナイツ基地が崩壊直前にある現状を覆すことが出来ない。
「ブレード、隠れても無駄だ! さっさと観念して出て来い! ははっは!」
 エビルがソードと共に文字通り搭乗型のラダム獣で高みの見物を決め込んでいた。破壊活動を続けるアックスとランス、そしてラダム獣の大群が、外宇宙開発機構の施設を次々と蹂躙していた。テッカマンが参戦しているだけで、ラダム獣に襲われた数々の防衛軍基地よりも、破壊の度合いが圧倒的に早い。このまま何もしなければ、一時間にも満たない内にスペースナイツ基地は壊滅するであろう。
おやっさん……この基地も時間の問題だな……」
「チーフ……」
 指令所では、外の現状をモニターで見て、フリーマンがそんな風に本田に語りかける。各所にあるモニターカメラも不通になる場所が多い。施設を放棄するにしてもテッカマンと言う明確な殺意がある限り、逃げる事すら難しいのが現状だった。
 そんな時、突如モニターに通信が入った。映ったのは若い防衛軍士官だった。
「ミスターフリーマン! 応答してください!」
「君は確か?」
 彼は、コルベット准将の側近だった。フリーマンが何度か軍に出向いた時、見掛けた顔だ。
「大変です! コルベット准将がフェルミオンミサイルのカウントダウンを、開始してしまいました!!」
「なに!」
 側近の彼にしてみても、今回の作戦は異を唱えるべきモノなのだろう。彼は機密を漏らすと言う軍機違反で重大な罰を科せられる可能性があるにも関わらず、軍とは関係の無いスペースナイツに通信をしている。
「もう、部下の私では、どうする事も出来ません……ミスターフリーマン! お願いです! 何とか貴方達の手で―――うぁっ!!」
 突如銃声が鳴り響いた。背後から急所を撃たれた若い士官は、崩れ去る様にモニターから消えて絶命した。そしてその後ろには、笑みを浮かべながら銃を構えたコルベットがいる。
コルベット……!」
「私に逆らう奴はお引取り願った!」
「何故だ!」
「地球を守る為だ! 止むを得ん! フェルミオンミサイルは、後20分で発射される。それまでの間、君達は今の調子でラダムの注意を惹きつけておいてくれ。頼んだぞ?」
コルベット! ORSを破壊してもラダム獣は!!」
 コルベットはフリーマンの言葉に耳も貸さず、敬礼しながら通信を切った。
「奴さん……完全にイッちまってるぜ!!」
 本田は、コルベットの目を見てそう表現した。実際、今のコルベットにはどんな言葉も通じない。
そしてフェルミオンミサイルの発射体勢は着々と進んでいる。とてつもなく巨大なミサイルは、発射場であるミサイルサイロには入りきれず、その上部が巨大な穴から顔を出していた。
「メインノズル異常なし。推力エンジン燃焼室異常なし。誘導電波、指令受信機異常なし。液体酸素タンク異常なし。電子サーボ異常なし。制御スタビライザー異常なし。以上、全機関異常なし!」
「よぉし!」
 発射指令所では、オペレーターがミサイルの事前状況を逐一報告している。もはや準備は最終段階に至りコルベットは満足そうに声をあげた。
――――このミサイルで地球が救えるのなら、たかが数億の人間の命等、犠牲になっても構わんではないか。それが分からんとは……馬鹿共が!!
 これまでコルベットは、先程の様に自分を裏切る様な者を処断、或いは更迭して反対意見を封殺していた。明らかにそれは盲進とも呼ぶべき行為であり、彼にしてみれば地球を救う事など二の次であり、大義名分と言う建前が欲しいだけだった。ただ英雄になる。その目的だけがこの愚かな軍人を駆り立てている意識だった。
 その頃、スペースナイツ基地では相変わらず破壊の嵐が巻き起こっている。
「出て来いブレード! 臆病風に吹かれたか?」
 エビルは挑発する様に、そんな風に高所から見下ろしながら言った。既に数十人単位で死傷者が出ている現在、Dボゥイは未だ妹の下を離れる気にはならなかった。と言うのも、ミユキの命も後僅かだったからだ。
「大変だ! コルベットの奴、フェルミオンミサイルで、ORSを落っことす気だ!」
 病室に血相を変えた本田が入ってきてそう言った。
「う、嘘ぉ!!」
「何てことしやがるんだ!!」
 ミリィ以外のスペースナイツのメンバーは、その話を聞かされていなかった。いや、聞く暇も無かったと言うのが正しいだろう。ノアルもレビンも、軍がそんな暴挙に出るとは、と驚いている。
「発射まで、あと20分しかねぇぜ!!」
「そんな! 止める事は出来ないんですか!?」
 ミリィは唯一その話を聞いていたが、まさか本気で実行に移すとは思っていなかったらしい。
テッカマンなら……或いは」
 病室にフリーマンが入りながらそう言った。また小刻みな振動。外はもはや包囲されていると言っても過言ではなかった。ミユキの傍にいるDボゥイは先程から沈黙を保ち、そんな彼を見つつアキはフリーマンに言う。
「でも、今Dボゥイが出て行ったら、エビル達に狙い打ちにされて……」
彼女にしてみれば、Dボゥイの心情を考えると、今回の件をテッカマンに任せる気にはなれなかったのだ。
「非常脱出口がある」
「……そんなモノが、あったんですか」
「出口は二キロ程先だ」
「エビル達に気付かれる可能性は?」
「……無いとは言えない」
「多分、気付かれないな」
 そこでノアルが話に割って入ってきた。
「俺がエビル達の注意を惹きつけておけばいいだけの事!」
「ノアル!」
「どっちに転ぶにしたって、指くわえて待ってりゃそれでおしまいだぜ? やるだけさ!」
「レビン、ペガスに高機動ブースターを取り付けられるか?」
「モチのロンだわぁ!」
「そぉかあ! あれでぶっ飛べば、フェルミオンミサイルの発射場まで20分あれば行ける!」
 メンバー内で、方針は決まった様だ。ノアルが囮になってブルーアース号で出撃し、ブレードが非常脱出口を使って防衛軍本部基地に急行。テックセットしたブレードが発射を強引に止めると言う寸法だ。
 だが、それを耳にしてもDボゥイは動かない。数億の人の命が掛かっている作戦ではあるが、妹がいつ死ぬのかと言う懸念がDボゥイを動かさなかった。そんな彼にフリーマンが声を掛ける。
「……行ってくれないか? Dボゥイ。妹の傍を離れるのは辛いだろうが……」
 Dボゥイは沈黙で応えた。今エビル達が至近に迫ろうとも、ORSが落ちて数億の人間が死のうとも、目の前にある小さな命の灯を見守り続けたい。勿論、Dボゥイには分かっているのだ。今が緊急を要する事態である事も。自分が行かなければ多くの人々の命が無くなる事も。
「……行って?」
 そんな逡巡がDボゥイにあった時、ミユキがか細い声でそう、はっきり言った。彼女はいつの間にか目を覚まし、話を聞いていたのだ。
「お兄ちゃん……行って……」
「ミユキ……!」
「私は大丈夫……だから……うっ……」
「ミユキ!」
 消え入りそうな声でミユキはDボゥイに言った。喋るのも辛いのか、ミユキは無理にでも声を出している、そんな状態だった。
「お願いお兄ちゃん……行ってちょうだい……本当に私は大丈夫よ……!」
 ミユキはずっと握られていた自分の手で、応えるように兄の手を握り返した。ミユキは気丈な少女だった。本当は、いつ自分が死ぬかも分からないのに、恐怖で怯えているのに、傍にいて欲しいのにも関わらず、兄を送ろうとしている。兄には誰かを守る為の、本当のテッカマンでいて欲しいと願ったから、言えた言葉だった。
「……分かった……!」
 Dボゥイは妹の思いを受け取り、彼女の手を毛布の下へと戻すと、立ち上がる。
気丈な少女を見て、スペースナイツのメンバーも彼女の勇気に敬服し、感動していた。
「その代わり、俺が戻ってくるまで……!」
 生きていてくれ、と言う言葉をDボゥイは飲み込んだ。
「約束する……あたし待ってる……お兄ちゃんが帰ってくるまで……」
「ミユキ……」
「だってあたし……あの砂浜……お兄ちゃんと遊んだあの砂浜……もう一回、お兄ちゃんと一緒に見たいから……」
 Dボゥイはミユキの言葉を聞いて、微笑みながら強く頷いた。約束する、自分も必ず戻ってきて、あの砂浜を一緒に見る事を。兄妹同士の、それは堅い絆の約束だった。
 だが、彼らは知らない。これが兄と妹の、今生の別れになると言う事を。
 ノアルが乗ったブルーアース号が出撃する。至極危険な陽動作戦になる為、アキは同乗しなかった。と言うより、ミユキの傍には誰かがついていなくてはいけない、とメンバー内で決めたらしい。それに作戦が始まる前にも、Dボゥイからミユキの事を頼むと、アキは言われているのだ。
「後三十秒で、非常脱出口からペガスが発進します!」
「ラーサ! よぉし! こっちも行くぜ!!」
 ブルーアース号がカタパルトを滑る様に高速で発進する。全てのブースターを連結したブルーアース号は、宇宙へも行ける装備である。だが、そんな巨大な打ち上げ花火の様なスペースシップを、エビル達が見逃すはずも無い。エビル達は天へと向いた打ち上げカタパルトに向かってクラッシュイントルードを行う。四つの光が同時にカタパルトを貫き、連鎖的に崩壊を起こした。
「あああぁぁぁ!!」
 ノアルの雄叫びが轟いた。崩落する様に鉄のパイプとカタパルトの残骸が辺り一面に降り注ぐ。しかしノアルのブルーアース号は、カタパルトが崩落する前に離脱した。
 そして同時に、非常脱出口から高機動ブースターを装備したペガスが射出される様に発進した。飛行モードに変形したペガスの脚部には、巨大なブースターが取り付けられている。真っ直ぐ伸びた通路を超速で進むペガスとDボゥイは、出口を通過すると、地面すれすれの低空飛行で急速に基地から離れていった。
「ペガス、発進完了!」
「どうやらエビル達に気付かれずに済んだ様だ……」
ミリィの言葉を受けて、フリーマンがそう言った。しかし、
「だけど、カタパルトが!?」
「これでブルーアース号は、宇宙に飛びたてなくなっちまった……」
 見れば、宇宙への架け橋である超伝導カタパルトは無残な残骸と化していた。それは取りも直さず、月の裏側にある月面ラダム基地を攻撃できなくなったと言う事に繋がる。だが、今は軍の暴挙を止める事、数億の人間の命を守る事が先決だ、と彼らは理解している。
 そして、搭乗型のラダム獣でブルーアース号を追うエビル。既に大気圏から離脱しようとするブルーアース号を、彼は諦めてはいなかった。
「逃がさんぞぉ! ブレードォ!!」
 エビルにしてみれば、この場でブレードを取り逃がしてしまえば無防備なオメガを突かれる事になる。是が非でも逃がす訳にはいかなかった。ランサーを構えたエビルは、十字型に変形させ、ブルーアース号目掛けて投擲した。槍はブルーアースの右舷ウイングとエンジン部を強かに切り裂く。直ぐに機体は制御不能に陥った。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
 ブルーアース号は錐揉み回転する様にして浜辺へ向かって墜落した。
「ノアルさぁぁーんっ!!」
「嫌ぁぁぁあ!」
「何故だ! 何故なんだぁ!!」
 ミリィの悲鳴が、レビンと本田の叫びが指令所に轟く。しかしフリーマンは無言だった。勿論、彼も同様に心中ではノアルの無事を祈りたい気分であった。
「何故ブレードは現われん? まさかあれには乗っていなかったと?」
 墜落したブルーアース号を確認するエビル。彼は怪訝に思う。もしブルーアース号に乗っていれば、ペガスと共にテックセットしながら出てくるはずなのに。
「と言う事はまだ……ふふふ……いいさ、ゆっくりいぶり出して切り刻んでくれるわ!!」
 エビルはブルーアース号が出撃したと言うこの現況を、深い意味があるとは思わなかった。そのせいで、ブレードには追撃の手が及ばなかったのである。
 そして、ブースターの推力を得て通常の数倍の加速を得たペガスは、防衛軍本部基地を目指していた。機動兵は一機の戦闘機と化し、凄まじい速度で海を渡る。そのソニックブームで、通った後の海には水柱が上がるほどであった。
「お兄ちゃん、そろそろ着く頃ですね……」
「そうね……大丈夫、貴女のお兄さんでしょ? きっと上手く行くわ」
 ミユキのその言葉に、アキがそう答えた。
「そうね……あたしのお兄ちゃんですものね……」
「……あたしも、Dボゥイを信じてる」
 そう言うアキを、ミユキはじっと見た。きっと彼女は兄タカヤに好意を持っている。そして、タカヤも、彼女の事が好きなのだろう。ミユキは直感でそれを理解していた。
「アキさん?」
「うん?」
「お兄ちゃんを……お願いします……」
「あ……」
 アキはそれを聞いて絶句した。まるで遺言の様な、そんな言葉を投げ掛けられて、アキは返事に詰まった。ミユキは自分が死に、元は兄だったテッカマンを全て葬った後に残されたDボゥイを頼むと言っているのだ。
「非常事態! 総員退去せよ! 総員退去せよ!!」
 その時、緊急警報が鳴り、フリーマンからの施設内放送が響いてきた。
「スペースナイツ基地を放棄する。全員直ちに地下の脱出口へ急げ! ……我々は一番最後に脱出する……!」
 指令所の巨大モニターが衝撃で割れ、スペースナイツは正に風前の灯と言う状況だった。ノアルのいない今、ソルテッカマンの援護も無く、テッカマンブレードは不在。もはやフリーマン達は逃げる以外に取れる行動が無かった。
フェルミオンミサイル発射、一分前!」
 そして防衛軍本部基地の発射場施設では、丁度打ち上げまで100秒を切った所だった。
「これでラダムは全滅だ! このワシが地球を救うのだぁ! はっはっは!」
 コルベットは愉悦の絶頂と言った状態である。それは、誰がどう見ても正気の様とは言い難かった。
「ん? なにぃ!?」
 その時突如、ペガスが飛来する。ブースターを切り離し、通常の飛行形態になると、頭部を展開してテッカマンブレードが出現した。ブレードは、発射指令所のドーム型のガラスを突き破って施設内に侵入した。つまりコルベットの目前にぎりぎりの時間で到着したのである。
テッカマンブレード! 何のつもりだ!」
コルベット准将! ミサイル発射を中止してくれ!!」
「発射、三十秒前!」
「もはや後戻りは出来ん!!」
 ブレードはコルベットの説得を試みるが、彼は聞くつもりは無い様だ。用無しであるお前などに構っていられないと言わんばかりである。ブレードはテックランサーを握り締め、この人非人を相手に憤った。
コルベット……お前! お前は人間の心を!」
「持っているさ! 地球を守ろうとする人間の心をなぁ!!」
 テッカマンブレードを前にして、コルベットは威嚇する様な構えを取る。止めるつもりは更々無い様だ。
「ORSを破壊しても、ラダムを全滅させる事は出来ないんだ!」
「ぬぅっ!?」
「二十秒前!」
「出鱈目を言うなぁ! 構わん! 作業を続けろぉ!!」
「出鱈目じゃない! ORSはラダムの前線基地でしか無いんだ!」
「作り話なんぞに、騙されるかぁ!!」
「ラダムの本当の基地は、月の裏側にあるんだ!!」
「ほぉ! 月の裏側にねぇ! よく考えたモノだ!!」
「信じてくれ……」
「十秒前!」
「うおぉぉ!」
 もう時間が無いと思ったその時、ブレードは強行手段に出る事にした。しかし、
「壊しても止められんぞぉ!!」
 ブレードは、テックランサーを振り上げ、近場にある制御コンピューターを破壊しようとしたが、コルベットのその言葉でコンソールの真上で切っ先を止めた。
コルベットは発射のスイッチをリモコン式にして、自らが押す為に隠し持っていた。リモコンには一際大きいスイッチと、その横にはカウントダウンのタイマーがある。それは後8秒を表示していた。
「誰にも邪魔はさせん! ワシが地球を救うのだ! このワシがこの地球上で最も偉大な英雄となるのだ! どうだぁ? 羨ましいかブレードォ? ふはっははっは!」
コルベットォ……!」
 スイッチを押そうとする剃髪の軍人はいつまでも笑い、その笑顔は狂気に満ちていた。
そして、残り一秒となった時、
「悪魔めぇ!!」
 ブレードの絶叫が響いた。コルベットは不敵に笑いながらスイッチを押す。数億人を殺しきる絶望のスイッチ。ラダムのテッカマンと言う悪魔と、妄信に捉われ正気を失ったコルベットと言う悪魔。彼らは人の命を何とも思わない存在だった。
 轟音が鳴り、巨大なミサイルはゆっくりと、しかし確実に上昇していった。
「はっはっはぁ! これで、これで地球は救われるのだぁ! はっはっは!」
「くっ……!!」
 コルベットの狂気の哄笑は続いた。こうなれば、もはや取るべき道は一つしかない。ブレードは飛び上がって発射指令所を脱出すると、空中を旋回して待機しているペガスを呼ぶ。ペガスに乗ったブレードは、巨大なフェルミオンミサイルを目視しつつ追った。だが既に目視不可能な速度で大気圏を脱出しようとしている。
「させるものか……ペガァース!!」
「ラーサー!」
 ペガスがハイコートボルテッカモードへと変形する。フェルミオン供給回路がコネクトされ、ペガスの腕部がブレードの手元に来てグリップが出現する。それを握ると、インジケーターランプが点灯し、ブレードの前にフェルミオンの力場が発生する。そしてブレードは、自分のボルテッカ発射口を展開し、発射態勢を整えた。
「ハイコォートォ!! ボォルテッカァァー!!」
 肩部の発射口の前に四つの燐光が回転し、ブレードのその叫びと共にエネルギーの奔流が迸った。それは既に彼方まで飛んだミサイルを追う様にして伸び上がり、昇り、到達する。
 刹那。光が煌き、青空に巨大な光球が巻き起こった。ブレードのハイコートボルテッカは巨大なフェルミオンミサイルを撃墜する事に成功したのだ。
「うおぁぁ!?」
 眩い光を見て、コルベットは驚愕した。そして理解した。フェルミオンミサイルが撃破されてしまった事を。 そしてその反物質の塊は、そのまま発射場に落下してくる。本来、フェルミオンの光弾は対象に当たらなければ減衰して消滅する。だが、このミサイルが爆ぜた光の球は余りにも極大なエネルギーだった。
「うわああぁぁぁぁ〜!!」
 コルベットの断末魔が鳴り響いた。逃げる間も無く、反物質の塊はそのまま発射場に落着して、対消滅を起こして全てを消滅させる。ブレードは背後に巻き起こる大爆発を見ること無く、ペガスにスペースナイツ基地へと戻る様に命令する。
この結果は始めから予期していた事だった。殺すつもりは無かった。だが、こうする以外に術も無かった。テッカマンブレードは、酷い後味の悪さと共に、帰路に着いた。妹の待つ、自分のホームへと。
「PHYボルテッカァー!!」
 スペースナイツ基地ではエビル達が暴れまわっていて、外宇宙開発機構に所属するスタッフ達は緊急避難の報と共に脱出口へと急いでいた。だが、その脱出口に向かってエビルのPHYボルテッカが直撃される。
「G3エリアが破壊されました!」
「ちょ、ちょっとぉ!! と言う事は!?」
「被害状況は!?」
 フリーマンの問いに、ミリィは顔を覆って頭を振った。避難しようと脱出口に向かっていた者達は全滅し、更に言えば崩落が起こり、既に其処は出口とは呼べない状況に陥っていた。
「非常脱出口への道が、閉ざされたって事か!」
「残念だがこれで完全に袋の鼠だ……」
「チーフ!!」
「……済まん、みんな……」
 その会話は、外宇宙開発機構の施設内に隅々まで届いている。それはミユキの病室も例外ではなかった。ミユキとアキは、フリーマン達の会話を聞いて脱出は絶望的であると理解する。そしてその時、ミユキはベッドから立ち上がろうとした。
「あ! 駄目よミユキさん!」
「アキさん、行かせてください……」
「駄目よ! 今動いちゃ駄目!!」
 アキはミユキを慌ててベッドに戻そうとするが、彼女はアキの一瞬の隙を突いた。アキは鳩尾を強かに叩かれると、気絶してベッドに倒れ伏した。
「御免なさい……アキさん……」
 ミユキは病室を出て、壁に寄りかかりながら外を目指す。息も絶え絶えで、歩く事すら彼女にとっては苦痛だった。
――――殺させはしない……!
 彼女はテッカマンとして、ラダムに対抗するつもりだった。例え敵わない戦いだったとしても。
「うぅっ……!」
 組織崩壊の兆候である赤い線が身体中に現われても、ミユキは一歩一歩、歩いた。病室を抜けて数メートル先の窓を目指す。彼女にとっては、たったの数メートルがとてつもなく長い道に見えた。
 爆発の影響で窓ガラスが散乱する窓枠にようやく辿り着いた。ガラスの破片が素足を傷つけたとしても、痛みが全身を侵していたとしても、彼女は眼下に広がる侵略の様を見て決意した。
――――守ってみせる……アキさんを……お兄ちゃんの仲間を……!
 そして、彼女は身を投げる。その儚く細い身体は、谷底に吸い込まれる様にして落ちていった。
「ごめんなさい……お兄ちゃん……テック……セッタァー!!」
 ミユキはタカヤとの約束を守れそうにない。そう思いながらテッカマンレイピアへと変身した。右腕でクリスタルを掲げると、桃色のボルテックスが彼女の身体を鎧の魔神に仕立てあげる。
「出て来いブレード! ……ん?」
 光が谷底から浮き上がってくるのをエビルは見た。そしてテッカマンレイピアはまるで自分の姿を誇示させるかのように地面に降り立った。小刀状のテックランサー、テックソードを構えて抵抗の意を表す。
「レイピア? ふ……死に損ないめ。ブレードはどうした?」
 レイピアはその質問に応える様に、飛び上がってクラッシュイントルードを発動させた。超音速の体当たり。桃色の光のクリスタルフィールド纏って飛ぶその様は、翼をはためかせる鳥の様だった。
「生きていてくれ……ミユキ!!」
 そして丁度その頃、テッカマンブレードは海を渡っている最中だった。高機動ブースターは燃料が切れた為に投棄してしまった。推力が激減したペガスは、ブレードが焦れるほどに遅い。
 テッカマンレイピアのクラッシュイントルードは当たらない。四人のテッカマン達は、彼女の決死の技をからかう様に、嘲笑う様に直前でかわす。エビルもそんな彼女の決死を鼻で笑っている。
「ハァ……ハァ……!!」 
 光の鳥になった彼女は、その命を削る様にして飛んでいる。誰しもが幼い頃に見た、飛び続けて死んでいく哀しい鳥の童話の様に、レイピアはその命を燃やしてラダムの尖兵達に攻撃を仕掛けていた。
「ミユキ……!!」
 ブレードはまだ海上にいる。スペースナイツ基地までの距離は後100km以上もある。
「ふははっは! そんな子供だましで俺に勝てると思っているのか!? 小賢しい!」
 レイピアの攻撃をかわしながら、エビルはテックランサーを構えた。彼女のクラッシュイントルードは徐々にその速度が落ちつつある。もはや気力の限界が訪れようとしているのだ。
「……っく……ハァ……ハァ……!!」
 レイピアは喘ぐように飛んだ。例え翼が折れようとも、決して屈しなかった。そんな彼女に向かって、エビルは真っ向から槍を構えた。
「地獄へ行けぇぇ!!」
 エビルは、レイピアのクラッシュイントルードをかわして、すれ違い様にランサーを薙ぐ様に打った。
「きゃああぁぁぁっ!!」
 胸を直撃されたレイピアは悲鳴をあげながら墜ちていく。
「あ……あぁ……」
 倒れ伏しうずくまりながらも、レイピアは直ぐ近くに落ちて地面に突き立った自分のテックランサーを取ろうとする。もう一歩も動けなかった。立ち上がれなかった。それでもレイピアは、彼女自身の戦いの象徴とも言える武器を手に取ろうとして手を伸ばした。
 あと数cm手を伸ばせば、自分の武器に届く。だがそんな彼女を嘲笑うが如くに、別の槍が彼女の武器をすっと遠ざけて倒した。倒れたテックソードに手を伸ばそうとしたら、その小刀を叩き折る様に踏み潰された。
レイピアが見上げると、赤い眼をした悪魔達が、自分を見下ろしている。とてつもなく非情で、野獣の様な悪魔達。アックスとランスは、彼女の腕を握り潰すように持って、引き摺りながら基地の外壁へと向かう。これから悪魔達による、楽しい楽しい拷問の時間が始まるのだ。
 そしてようやくブレードは海を渡りきり、地上へ到達した。基地まで後数十キロと言う距離が、ブレードにとっては無限にも感じられた。
「きゃああぁぁぁっ!! うあぁぁああっ!!」
 レイピアは壁に叩きつけられた。更に、エビルはレイピアの手首を壁に固定する為に、真っ二つに折れた彼女の武器、テックソードを突き刺し、貫通させた。
 彼女はまるで磔にされる様に基地の外壁に固定された。その様は旧世代の十字架に磔にされた聖者の様で、見るも無惨な姿である。
「ブレードは何処だ? 何処にいる?」
「答えぬか!」
 エビルが、そしてソードが詰問する様に問うた。
「……あなた達に……殺させはしない……!」
 その時、彼女の脳裏に子供の頃の憧憬が浮かび上がった。兄達と遊んだあの海辺で、一生懸命に走ったあの思い出。目の前にいるもう一人の兄はもうシンヤとは呼べないほどに、残忍な悪魔と化している。彼の声が彼女の記憶を走馬灯の様に呼び起こしたのか、瀕死の重傷だったからか。そしてタカヤの幼い顔を思い浮かべた時、強烈な痛みが胸に走った。
「楽になりたいだろぉ?」
 エビルが、思い出を引き裂く様に、レイピアの胸を二度、交差する様にランサーで引き裂いた。それでもミユキであるテッカマンレイピアは屈しない。
「あなた達にぃ!! 殺させはしないぃ!!」
 悲鳴の様に叫ぶレイピアに、更に追い討ちが掛けられる。腹を、足を切り裂かれても、レイピアは屈せず、「殺させはしない」を繰り返した。
 そしてようやく、テッカマンブレードは廃墟と化したスペースナイツ基地へと到達する。そして見るのだ。基地の外壁に磔にされて、抵抗する事も逃げる事も出来ない妹の姿を。
「ミユキぃっ!!」
 ラダムのテッカマン達は非情で残忍だと言う事は分かっている。それが例え無垢な赤子だったとしても、本能に赴くまま殺しを行うだろう。それは抵抗出来なくなったレイピアに対しても言える事で、これほどの無情をテッカマンブレードであるDボゥイは感じた事が無かった。
「あなた達に殺させはしないぃっ――――」
 そんな風に叫ぶレイピアに、エビルのテックランサーが突き立てられた。装甲の無い、腹部に向かって深々と、突き刺されたのだ。エビルは妹の性格を良く知っていた。恐らく彼女にこれ以上の痛みをもたらしても、大した情報は得られないだろう、と判断した結果の惨殺だった。
 レイピアはテックランサーを背中へ貫通する様に突き立てられ、だらんと力を無くす。
「ミユキぃぃぃぃぃっ!!」
 その、ミユキが止めを刺されたその様を、テッカマンブレードは確かにはっきりと見た。Dボゥイは哀しみの絶叫をあげると共に、精神感応で妹の名を叫ぶ。
「ブレード!?」
 それを四人のテッカマンも感じた。それが引き金とも言えた。
 ごぉんと空気が鳴る。
腹部を突き刺されたレイピアはまだ絶命してはいなかった。それ所か、兄の感応波を受けて、彼女は眩い光を放ち始めた。
「ミユキぃぃっ!?」
 ブレードは後数キロメートルと言う位置で、その眩い光を見た。
 アックス・ランス・ソードは何が起こったのか分からなかった。だが、エビルだけには理解できた。
――――これは……自爆ボルテッカ!?
 エビルがそう思った数瞬後、光の渦が巻き起こった。
――――あなた達に……殺させはしないわ……タカヤお兄ちゃん……!
 ミユキの最後の感応波が、涙と共に辺りに溢れ出す。テッカマンレイピアの、ミユキの叫びと共にそれは塔の様に上り、桃色の光は半径数キロメートルに及ぶ大爆発を発生させた。
 全てが光の中に消えていった。テッカマンブレードも、スペースナイツ基地も、ラダムのテッカマン達も、全てが反物質の光に掻き消され、消えていったのだった。
 そして、浜辺に墜落したブルーアース号は、辛うじてその原型を留めていた。中のコックピットには、コンソールに頭を強かに打ちつけて夥しい血を流したノアルが、意識不明になって倒れ伏している。
「連合地球暦192年、5月6日。スペースナイツ基地は地上から、消滅した……」
 フリーマンの声が、現状をそんな風に表した。スペースナイツと言う組織は、この日を境に人々の記憶から薄れる様に消えていき、公式的には事実上、終わった事になる。
――――あなた達に殺させはしないわ……!!
――――ミユキぃぃぃぃぃっ!!
 その時、人間の尊厳を守った戦士達の、兄と妹の叫びが、木霊になって辺りに響き渡った。求め合う、恋人の様な二人の兄妹の絶叫は、光の中へと永遠に消えていったのである……。



☆今日の反省会はお休み致します。