第25話 新たなる悪魔(1992/8/11 放映)

ホント、このカット描いたの誰よ。

脚本:川崎ヒロユキ 絵コンテ:中村隆太郎 演出:鈴木吉男  作監:須田正巳 メカ作監:加野晃
作画評価レベル ★★★★☆

第24話予告
タカヤとミユキ、ようやく再会した宿命の兄妹は一時の安らぎを得る。
だが、そこに現れた4つの影。
次回 宇宙の騎士テッカマンブレード「新たなる悪魔」仮面の下の、涙をぬぐえ。


イントロダクション
Dボゥイは、アキの心に触れ、初めて己の過去を明らかにした。父孝三の手によって、唯一人ラダムの精神支配を免れた相羽タカヤ、Dボゥイはラダムの侵略から地球を守る為にテッカマンとなった肉親を、その手で倒さなければならなかったのだ。だが、Dボゥイには更に、哀しい運命が待ち受けていた。
「どうしても……どうしても、伝えなきゃいけない事があって……私が……死ぬ前に……」
「死ぬって、ミユキぃ!?」 
「あたしは……あたしは! お父さんと同じ……排除された、不完全なテッカマンなの!!」
「う……うぉわあああああああぁぁぁ!!」




「うぉああああああああああぁぁあああ…………あ……っ!」
 Dボゥイは絶叫をあげて、そのまましゃがみ込んだ。またラダムのせいで、自分の大切な家族が踏みにじられた。彼は唸る様にその絶望と怒りを堪えつつ、頭を抱えて苦悩した。
 ミユキは、兄に告白して涙している。彼女もミリィと同じ16歳と言う少女の年齢だった。
「ミユキさん……あなた……」
 アキはこの兄妹の酷薄な宿命を見て戦慄している。この2人にどう言った言葉を掛ければ良いのか分からなかった。いや、誰であろうとこの2人を慰められる様な言葉を掛けられる者などいないだろう。
 するとスペースナイツの面々が集中治療室に入って来た。彼らは兄妹の再会を邪魔したくはなく、治療したばかりのミユキを気遣って部屋の外で待機していたのだが、Dボゥイの異常を聞いて入ってきたのだ。
「どうしちまったんだ!? Dボゥイ!?」
 ノアルが三人を見て当惑し、Dボゥイに話を聞こうとするがうずくまって頭を抱える彼は無言だった。
「何があった! アキ!?」
「ちょ、ちょっとぉ!」
 本田とレビンがアキに声を掛けるが、同様に彼女も絶句している。
そして、そんな三人を見たフリーマンは全てを悟った。彼女が、何故ラダムから離反した事を。父相羽孝三と彼女は、同じ道を辿るであろうと言う事を瞬時に悟ったのだった。
 ミユキは、涙を拭き取ると、うずくまっているDボゥイに視線を移した。遂に言ってしまった。最愛の兄と、いつかは別れの時が来る事を。しかし、今は悲しみに打ちひしがれている時ではない。丁度今、スペースナイツのメンバーが此処に揃っているのだ。彼女は悲しみに暮れるDボゥイが心配ではあったが、最後まで使命を果たさなければ、と思い毅然な表情を取った。
「スペースナイツの皆さん、私は……ラダムの秘密を皆さんに伝える為にやって来ました!」
 そうミユキが言った時、Dボゥイは反応した。ラダムの秘密……自分の知らない奴らの情報と実態。
「聞かせてくれないか……ラダムの秘密を?」
 一同は彼女の言葉に驚き、フリーマンは冷静に彼女にそう、聞いた。ミユキは小さく頷くと、身体を起こして、ベッドの片隅に座って彼らに向き直る。
「ミユキ……!」
 まだ起きてはいけないと、Dボゥイはミユキの肩に手を置いて彼女の身を案じるが、彼女はDボゥイの手に自分の手を重ねて大丈夫だ、と微笑んだ。それはとても果かなげで、消え入りそうな寂しい笑みだった。
 時刻は北アメリカ時間で言えば夕刻。兄妹の傷だらけの再会から10数時間が経とうとしている。そんな中、スペースナイツの面々は彼女の話に聞き入った。
「ラダムは、地球を自分達に適した環境にする為に、ラダム樹を繁殖させています。それが彼らの侵略の形なのです」
「だが、今のところ、ラダム樹自体は人間に害を及ぼしてはいないが……」
 現状のラダム樹をフリーマンはそう言及した。獰猛で無差別に暴れるラダム獣とは違い、人間の呼吸気管に少なからずの害を与える胞子を撒いて、繁殖するだけのラダム樹が決定的な害悪だと、彼は判断出来ないのだ。
「ラダム樹の花が……開いたら……」
「は、花!?」
 ノアルは何度もラダム樹の調査に赴いたが、花が開く、開花する等と言う話も兆候も聞いてはいなかった。
「ラダム樹の花が、一斉に咲いた時……」
 ミユキは、自分でその話をしている間、ラダムの侵略形態に対して戦慄していた。手を重ねたDボゥイも動揺に戦慄し、滝の様な汗をかいている。
「その時、地球は……地球はラダムのモノとなり、侵略は達成される……そう、私達は教えられています……」
 其処彼処に生えるラダム樹が一斉に花開く、その様を想像して一同は震えた。彼らのラダム樹と言う生物は、人間の一般知識で言う植物には当てはまらない生態だと言う事だ。季節に関係なく、ただ目的の為に一斉に全ての花を開かせると言う異様な樹、ラダム樹。その花が開けば、どんな事態になるかは想像も出来ないが、恐らく人類にとって絶望的な状況が待っているのだろう。スペースナイツの面々はその事実に驚愕していた。
「ラ、ラダムめ……!」
 ノアルは、侵略者が何かしらの目的を持って妙なモノを植えているのだ、と漠然に思っていたが、まさかそんな意図があるとは考えも付かなかった。
「その為に、テッカマンの頂点に立つオメガは、残りのテッカマン達の覚醒を急いでいます」
「な、何だと!?」
 Dボゥイが声をあげた。残る不明のラダムテッカマンは四人。いや、頂点に立つと言うオメガを除けば三人。
「オメガって……!」
「そいつが、奴らのボスなのか!?」
 ノアルが最大の敵の名を聞いて驚愕し、アキがその頭領であるオメガの正体を訝しがる。正確には嫌な予感がした、と言うべきか。
「残りのテッカマンって言う事はぁ、前に倒したダガーでしょ? ボスのオメガでしょ、あとエビルと、それとDボゥイとミユ―――」
「余計な事言っとらんで、話を聞け!」
レビンが指折り数えるのを本田がそう諌める。そんな彼らに、ミユキが敵の詳細を応えた。
「今覚醒しつつあるのはアックス・ランス・ソード。前に死んだダガーの仲間です」
「なるほど……オメガの下に四人のテッカマンがいるってワケか……」
 スペースナイツの面々は彼らラダムテッカマンの詳細を聞いた。これから戦うであろう敵の名前をその心に刻み付ける。そして、沈黙を保っていたスペースナイツのリーダーが聞いた。一番知りたいと思う実情を。
「彼らは今、何処に?」
「……月の裏側です……!」
 ミユキは、意を決する様に口を開いた。それを聞いて愕然とし、目を見開くフリーマン。一同もそれを聞いて驚愕していた。ラダムの本拠地は月の裏側にある……ORSは彼らの前線基地でしかなかったのだ。
「月の裏側に……ラダムの基地が!!」
Dボゥイも、その真実に驚愕してそう言った。今までラダムとの戦闘を行う上でORSには何度も上がったが、ボスであるオメガに会う事も無く、本拠地と呼ばれるモノも無かった。それを不思議に思っていたのだ。
「お兄ちゃんを逃がした後、お父さんはアルゴス号を自爆させたわ……そして、爆発のショックで制御不能となったラダムの船は、月の裏側に不時着した……」
 相羽孝三は、タカヤを脱出させ、船が地球へ舵を取ったその途上で反旗を翻し、アルゴス号の核融合炉を爆発させた。テッカマンになれず、短命であるにも関わらず、その命をラダムに一矢報いる為だけに使ったのだ。
「し、知らなかった……! ラダムの基地が月の裏側にあったなんて……!」
 ブルーアース号で今までに何度か地球を離れ、月よりも更に遠い場所に行った事もあるDボゥイは、その真実をもっと早く知っていれば、と悔やんだ。それはノアル達も同様だ。月の裏側は基本的に地球から全く見る事は出来ないが、観測衛星等を使用すれば見れない事も無い。が、そう言った観測衛星も全てラダム獣に潰されてしまった現在は、ブルーアース号の様なスペースシップで観測しなくてはならない。もっと早く月を調査していれば、いずれ分かったであろう真実である。
 そして、ミユキがラダムの事実を話している丁度その頃、月の裏側にあるラダム基地内の玉座の間では、新たな悪魔が産まれていた。三人は、培養槽を突き破る様に出て玉座に降り立つと、その赤い眼光を煌かせる。
「アックス・ランス・ソード。お前達の覚醒を心待ちにしていたぞ。お前達はORSに待機しているエビルと合流し、裏切り者テッカマンブレードを葬り去るのだ」
 その場にいないテッカマンオメガが、三人の悪魔にそう声を掛けると、彼らは玉座に向き直りながら、
「はいっ!」
 テッカマンアックスがはっきりとそう応えた。彼は少し背が低いが、他の誰よりもがっしりとして丸みを帯びた重装甲とごつい体躯を持った近接格闘に特化したテッカマンである。
「ははーっ!!」
 テッカマンランスがかしこまってそう応えた。ランスは逆に背の高いテッカマンであり、リーダーを支える参謀型。胸の中央には特徴的な角があり、その戦闘力はエビルに次ぐモノを秘めている。
「……」
 しかしテッカマンソードは何も応えなかった。ソードは他の2人とは違い、レイピアと同じ女性型のテッカマンである。だが女性型とは言っても、その装甲はレイピアよりも遙かに厚く、頭部から伸びた長い髪の様な装甲は高機動スラスターとスタビライザーを兼ね備え、分類としては護衛型に相当した。
三人はテッカマンオメガの指令を聞いて、即座に行動を起こす。赤い光に包まれると、クリスタルフィールドの助力を得て地球へと飛んだ。
テッカマンブレードよ……もはや貴様に未来は無い……!」
 オメガは、ラダム艦基地の深部と融合、接続されて脈動している。もはや彼自身がラダム艦だと言っても過言は無かった。今、ラダムのテッカマンは全て覚醒し、ブレード抹殺の準備は整ったと言わんばかりである。
テッカマンオメガは、月の基地から動く事は出来ないのです。地球を救うには、ラダムの月基地を攻撃してオメガを倒すしかありません……!」
「ノアル! アキ!」
「よぉし!」
「行きましょう! 月へ!」
ミユキのその言葉に、跳ねる様に反応するDボゥイ。その呼応を受けて、二人もラダムの本部を強襲する気だった。今基地を襲えば、三人のテッカマンの覚醒を止められるかも知れないという思惑もあったからだ。が、
「待ちたまえ」
 それをフリーマンが即座に止めた。
「月面ラダム基地への攻撃は、失敗は許されない。軽率な行動は控えたまえ」
「な、なんだってぇ!?」
「そんな?」
 ノアルとアキは納得行かないと言う風だ。そしてフリーマンはミリィを見ると、
「月基地への攻撃オペレーションをシミュレートする。それが完成するまでは、月基地への攻撃はしない。ミリィ、準備を」
「ら、ラーサ……あ、Dボゥイ!?」
 ミリィがコンピュータールームへと駆け出そうとしたその時、腕で彼女を遮って止めたのはDボゥイだ。
「俺は……出撃する!!」
彼は二人以上に納得が行かないと言う顔をしている。その双眸は怒りに満ち溢れていた。
「作戦など必要ない!! 俺はこの手で! この手で……ミユキを不幸にした奴らに、復讐するんだ!!」
「勝手な行動は許さん」
 拳を握り締め、怒りに支配されたDボゥイ。フリーマンは再び冷静になれと彼を止めた。確かに敵の大本陣を狙う作戦となれば慎重になるのは普通の事ではあるが、いかにも今のDボゥイは冷静さを欠いていた。
「お兄ちゃん!」
 そんな怒りの化身になろうとする彼にミユキがベッドを立って追い掛けようとするが、力無く倒れこんで、傍に立っていたフリーマンに抱き支えられる。
「うぅっ……うああああぁぁうぅぅ!!」
「ミユキ!? どうしたミユキ! しっかりしろ!! しっかりするんだ!!」
突然ミユキが苦しみ始めた。フリーマンはミユキをベッドに戻し、我を忘れたDボゥイが駆け寄った。
「ミ、ミユキ!! しっかりしろ! あぁっ……!?」 
 ミユキは苦しみながらDボゥイのジャケットを掴む。その時、Dボゥイは見た。彼女の手に、身体中に、赤い線が走っているのを。これは素体テッカマンへと変身する時の現象に良く似ている。
「こいつは……」
「ミユキさん!?」
 傍にいたアキも、本田も彼女の異変を見て思った。これは明らかにテッカマンに調整された弊害であると。
「メディカルスタッフに連絡を!」
「ラーサ!」
 フリーマンがノアルにそう呼び掛ける。
「ミユキ! ミユキ……ミユキぃぃっ!!」
そしてDボゥイは、ミユキの手を掴み、彼女を抱き締める様に泣いた。彼女の痛みは自分の痛み。出来るなら代わってやりたかった。それも出来ぬままDボゥイは、彼女を抱き締める事しか出来なかった。
そして先程月基地を飛び立った三人は、既にORS付近へと到達していた。エビルやレイピアにしても言える事だが、彼らの様な後期に覚醒した、もしくはラダムによる完全な調整を受けたテッカマンは、亜光速航法が出来る様だ。途上で調整を中断された、未完成なブレードにはこう言った機能は無い。
日が沈み、夜になってもミユキの状態は芳しくなかった。呼吸マスクで辛うじて息をするミユキの傍を離れないDボゥイ。アキも、彼とつかず離れずの距離で隣の観察室で見守っている。
そしてコンピュータールームでは、フリーマンとミリィがモニターを見ながら激しくキーボードを打ち鳴らしている。そんな時、カップが乗ったトレーを持って本田が部屋に入って来た。
「少し休んでお茶でもどうだい? 格納庫のコーヒーメーカーはドイツ製だ。味も格別だぜ?」
「すいません」
 ミリィがモニターからすこしだけ目を逸らして礼を言った。そしてフリーマンにもコーヒーを供すると、
「ドクターから聞いたよ……あの子、そう長くないんだってな」
 と本田は言った。フリーマンは置かれたコーヒーを一口含むと、説明する。
「彼女は連鎖反応的に組織崩壊を起こしている。彼女の体質がテックシステムに適合しなかった為だ」
「ひでぇ話だ……」
「それって、Dボゥイも知ってるんですか?」
 ミリィは先程の状態を見て、彼女が普通の人間ではない事は分かっていたが、彼女が短命である事までは聞いていなかった。フリーマンはその質問に沈黙で応えた。
「チーフ、あんたはそれを知ってて、Dボゥイを止めたんだろう? 妹が生きてる間だけでも、一緒にいさせてやろうと……」
フリーマンは、また沈黙でそれに応える。フリーマンと言う男は冷静沈着で、無言で何も語ろうとはしない男だが、誰よりも感傷的であり、それを飲み込んで一同を統率する男であった。
 深夜の治療室では、ようやくミユキは安定したのか、意識を取り戻した。
「ミユキ……大丈夫か?」
 ずっと傍にいたDボゥイが声を掛けた。
「うん……」
 アキも、彼女が目覚めた事に気付いて、傍にやってきて静かに声を掛ける。
「何か、私達に出来る事、無い?」
「海が……見たいな……」
「……海?」
 ミユキは、何か遠くを見つめる様な目でアキに言う。
「子供の頃、お兄ちゃん達と遊んだ砂浜……」
 幼少の頃にリゾートに訪れていた相羽一家がよく遊んだその海は、以前エビルがブレードを誘い込んで暴走させたあの砂浜であった。
「大きな発電所灯台があった、とっても綺麗な海だったわ……」
 水着になったシンヤやタカヤが楽しそうにはしゃぎ、一面に咲いた花を摘み取るミユキの思い出が2人の中で弾ける。まるで昨日の事の様に思い出せるあの日々。
「……行こう、海へ! 身体の具合が良いのなら、今直ぐにでも!」
 Dボゥイはそう言って急かした。彼女がいつ死に至るのかと言う事も現代の医療技術では正確にははっきりしない。彼にしてみれば時間が惜しかったのだ。
「身体の事なら心配しないで。でも……夜が明けてからにして……」
 そう言ってミユキはDボゥイから視線を逸らした。彼女がそう言う理由がいまいちはっきりしないので、Dボゥイもアキも不思議に思いながらお互いに顔を見る。
「夜は……月が見えるから……」
 そうミユキが言うと、二人は押し黙り、彼女の思いを知った。彼女は今まで気勢を張ってここに来たのだが、様々な恐怖を思い起こす「月」と言うモノは、もう見たくないと思っているのかも知れない。
 ミユキはそう言うと、静かに涙を流しながら、眠った。
そして、ORSに到着した三人は、培養球に入ったエビルを前にしていた。
「待っていたよ、アックス・ランス・ソード。俺の傷も後僅かで癒える。待っていろ……テッカマンブレード!!」
 そう言ってエビルは、ブレードに対する闘志を剥き出しにして、吼えるように言った。
 そして翌日。防衛本部軍基地の地下では、コルベット下士官や技術官を従えて通路を歩いている。
「歴史に名を残した軍人は、必ず運命的な決断をしている。アルデンヌの森を突破したグーデリアン、モスクワを守り抜いたゲオルギー・ジューコフ。そしてノルマンディー上陸作戦を指揮した、アイゼンハワーモンゴメリー。彼らはみな、無謀とも言うべき作戦を成功させたが故に勝利を手にしたのだ」
 コルベット准将は、歴史の英雄達の名を列挙させて、彼らにそう演説ぶる様に言う。その数十倍以上の無謀な作戦が考案され、失敗したと言う事実に関しては言及せずに。
「しかし、准将……今度の作戦は……!」
 下士官が、コルベットに進言する様に言う。今度の作戦は、誰がどう考えても無謀に等しいと思っているのだろう。だが、最重要機密とされるドアを指紋パスで通り抜けながらコルベットは断言する様に言った。
「反対意見等に耳を貸すな! 我々はラダムに勝利すれば、それで良いのだ」
 ドアを潜り抜け、奥に進むと広い場所に出る。通路に繋がったキャットウォークから見下ろすと、円柱状のの空間がある。それはつまりミサイル発射場なのだが、どう考えてもそれは規格外と言える程の大きさだった。
「我々に勝利をもたらす女神! これが……新開発の超高分子フェルミオンミサイルだ……!」
 それはミサイルと言うには余りにも太い代物だった。人類の歴史上から考えても、これ程の太さを持つ大陸間弾道弾は無いだろう。ロケットエンジンもそれに合わせて強化されている。
 実質的な問題で言えば、コルベットは更迭直前の身であると言っても過言ではなかった。度重なる失敗で、彼は進退窮まっている状態だった。それを一気に挽回せんと、彼は今度こそ、と要らぬ闘志を燃やしているのだった。
「なぁんてこった……」
 ノアルが周りを見てそう、表現した。ノアルとアキ、そしてミユキとDボゥイは、ブルーアース号でかつてラダムと戦闘を行った場所、つまりクーパー核融合発電所へ来ていた。しかし、数ヶ月前までは無かったはずのラダム樹が、何時の間にか周りを取り囲み、美しい景観はラダムのモノとなって損なわれている。実は核融合発電所が襲われたその時に、ラダム獣はこの地に根を残していた様だ。
「……帰ろう……ミユキ」
 彼女の傍にいるDボゥイがそう言った。彼は、ラダムと言うキーワードのある場所にいさせてはいけないと思ってそう言うのだが、
「いいのよ、お兄ちゃん。例えラダム樹に侵されていても、やっぱり此処は、お兄ちゃんとの思い出の場所だもん」
 ミユキはラダムの恐怖よりも、故郷に来た様な郷愁と、懐古の心が勝っていて余り気にならないようだ。そしてDボゥイと腕を組みながら、
「少しでいいから、ね? 歩こう?」
「あ、あぁ」
 そんな風に彼女は、微笑みながら言う。Dボゥイは、ミユキの子供の様にはしゃいでいる雰囲気を見て、動揺しながらも彼女と一緒に海の方へ歩いていった。
 そしてコンピュータールームでは、相変わらずミリィとフリーマンの作戦シミュレートプログラムが組まれていた。
「パターン17、一秒3.5時間換算による、攻撃シミュレーションです」
「駄目だ。30%効率アップ」
「ラーサ!」
 ミリィは即座に対応してキーボードを打ち鳴らす。そんな風に作業している彼らを、邪魔する様にモニター通信が入った。コルベットからである。
「ここにいたか、久しぶりだな」
「オペレーション設定の途中です。ご用件は後ほど」
 そう言って今は構っている暇など無いと言わんばかりに通信をフリーマンは切ろうとしたが、
「私が超高分子フェルミオンミサイルを持っていると聞いたら、この通信を切れるかね?」
フェルミオンミサイル……」
 フリーマンはスイッチを押す手を止める。そして立ち上がりながら、コルベットの通信に向き直った。
「ふはっは! どうやら話を聞いてもらえそうだな?」
 基本的にコルベットからの通信は碌な事が起きないとフリーマンは思っているが、今回の通信はまた別格な嫌な予感がした。そしてコルベットは、いつも横柄ではあるが、今回に限っては余裕の表情を崩さなかった。
「あははっ! まだ冷たいよぉ? ねぇ、お兄ちゃんも来てごらんよぉ!」
 ミユキは靴を脱いで、服の裾をあげながら裸足で海の中に入って楽しんでいる。水の感触を味わいながら、風を感じながら彼女はDボゥイにそう笑い掛けた。
「あ、あぁ」
 そう返事するDボゥイだが、彼は砂浜に腰掛けて動こうとはしなかった。Dボゥイはとても楽しむ気にはなれなかったのだ。
「……ねぇお兄ちゃん……アキさんの事、好きなの?」
「え……」
 突然妹がそんな風に聞いてきて、Dボゥイは戸惑った。
「隠しても駄目よ? ホントの事教えて」
 ミユキは笑い掛けながら、Dボゥイを見つつ、有無を言わさぬ様な雰囲気で聞く。
「あ……あぁ……アキは、俺にとって、掛け替えの無い……仲間だよ……」
 Dボゥイは、戸惑いながらも、本心からそう言った。ミユキはそれを見て、満足そうに微笑む。
「そう……良かった。お兄ちゃんって、小さい頃から人一倍寂しがり屋だったでしょ? だから、あたし結構心配してたの。だって……お父さんもシンヤお兄ちゃんも……それにあたしだってもうすぐ……」
 ミユキはどこかしら安堵しながら、しかし寂しそうにそう言った。いずれ自分も死んでいく。残された兄がこれからどうやって生きていくのか、大切な人は傍にいるのか、信頼出来る友人はいるのか。そんな風に彼女は兄タカヤの事を思って言ったのだった。
 そしてDボゥイも無言だった。目の前にいる妹は確かにミユキなのに、いずれ亡くなる命だと言う確固たる現実が、堪らなく理不尽だとDボゥイは思っている。
「でも安心した!」
 そう言ってミユキは、Dボゥイの傍に走り寄って顔を近づけながら言う。曇った表情を一瞬で払拭しながら、今度は悪戯っぽく笑いながら。
「お兄ちゃん、一つ言って良い?」
「な……何?」
「ちょっぴりアキさんに、やきもち焼いちゃった!」
「えぇ?」
「ふふふ! 嘘よ! 冗談、じょーだん!」
 そう言ってまたミユキは笑う。ほんの少しの本心を隠して、彼女はいつまでも笑った。そんな風に笑いかけられたDボゥイも、彼女につられて、少しだけ優しい表情になっていく。
「……なに話してるんだろうな……あの二人」
 ノアルは遠巻きに彼らの邪魔をする事なく、無邪気にはしゃいでいるミユキと動かないDボゥイを見てそう言った。そしてアキも、家族と言う絆を見せられて、その中には入ってはいけないと言う、見えない壁を感じて終始、無言だった
「無茶だ!! ORSにフェルミオンミサイルを撃ち込んだらどんな事態を引き起こすか! 知らんとは言わさん!!」
 フリーマンは、コンソールを強かに叩きながら、そう叫ぶ様に言った。その剣幕はいつもの彼とは言い難いものだ。
「勿論だとも。ORSに撃ち込まれたフェルミオンミサイルは、フェルミオン粒子をリング内の隅々まで充満させ、一斉にフェルミオン反応を起こして莫大なエネルギーを放出する。ORSに住むラダム獣共の全てを抹殺しても余りあるエネルギーをな」
 コルベットはORSとミサイルの図を表示しながらそんな風に言った。
「そこでだ、君達スペースナイツには、フェルミオンミサイル発射までラダムの注意を惹きつけてもらいたい」
 どうやらスペースナイツに用があったのは、この事らしい。つまりミサイル発射までの時間稼ぎと陽動を頼もうと思っている様だ。だがフリーマンはコルベットの要望は聞けないと言う感じに背を向けた。
「准将、即刻作戦を中止するのだ。ORS内部に、フェルミオン反応を起こしたら大変な事になる!」
「た、大変な事?」
 ミリィは、説明を聞いていてラダム獣が一掃されるのなら良いのではと思っていた。だが、この話にはまだ続きがあるらしい。
「……莫大なエネルギーが放出されれば、ORS自体が崩壊を起こし、地球の引力に引かれて地上に落下する!! もしそうなれば、赤道周辺は壊滅し、数億と言う人間が死ぬ事になるんだぞ!!」
 ミリィはそれを聞いて口を押さえて絶句した。だが、コルベットは百も承知と言わんばかりだった。
「全人類の未来を救うという作戦だ! 数億の犠牲など小さいものだ!!」
「ひ……酷い」
「なにぃ?」
「軍って、そんなに偉いんですか!? 人の命を天秤に掛けるほど、偉いんですか!?」
 ミリィは目の前の至極勝手な軍人を前にして怒りに震えていた。誰が何と言おうと、そんな作戦が許されるはずは無いと。
「命に大きさなんてありません! 代わりなんてありません!!」
「黙れ!」
「たった一人の命だって、その人の家族とか友達とか、周りのみんなからすれば大きいはずです! 人が……人が命を亡くすって、そう言う事じゃないんですか!?」
 ミリィは目に涙を溜めながら、最後は涙声になってでもコルベットにそう叫ぶ様に言った。それは、Dボゥイの妹ミユキを思っての言葉だった。誰にだって大切な人がいる。例え短い命だったとしても、大きさになど代わりが無い……そんな必死の嘆願だった。
「ORSこそラダムの基地だ!! 例え如何なる犠牲を払おうとも、私はORSを攻撃する!!」
 だが、功名心に駆り立てられたこの愚かな軍人には、そんな少女の叫びも聞こえない。
「それは違うんだ!! ラダムの、ラダムの基地は!! 准将! 聞きたまえ!! ラダムの基地は!!」
 そうフリーマンが説明しようとした時、基地のサイレンが鳴り響いた。突如、ラダム獣がORSから飛来してきたのである。
「基地がラダム獣の襲撃を受けているわ!!」
「なにっ!!」
 そして、その報は海辺にいるDボゥイ達にも届いた。彼は即座にミユキを連れてブルーアース号に乗り込む。
 基地はレーザーネットジェネレーターを数基稼動させて防衛に当たっていたが、前回エビルに襲撃を受けた時に殆どのジェネレーターを破壊されていた為、ラダム獣には大して効果が無かった。次々とジェネレーターアンテナを破壊されて、基地はほぼ丸裸にされていく。
 側近からスペースナイツ基地が襲撃されたと言う報はコルベットにも届いていた。
「ワシの願いが天に届いたと言う事か! 精々ラダムの相手をしていてくれよ?」
「待て! ラダムの基地は! 待て、コルベット!!」
 フリーマンは敵の本拠地が別にあると伝えようとしたが、通信を切られてしまう。
「いかん……」
 コルベットが作戦を強行すれば数億の人間が死に絶え、更にスペースナイツ基地はラダムの襲撃に晒されている。フリーマンはこれ以上無い程の苦境に立たされていた。そしてコルベットにとっては、スペースナイツが襲撃され、壊滅したとしても自分の腹は痛まない。むしろ気に入らないフリーマンと言う男がいなくなればコルベットとしても十分に良い結果だった。
フェルミオンミサイル、発射準備せよ!」
「はっ!」
 下士官にそう言うと、コルベットはほくそ笑んだ。これで自分は歴史に名を残す名将として讃えられる。准将から元帥を狙うのも、これで夢ではなくなったと。そしてコルベットの号令通り、兵士達は超巨大ミサイルを打ち上げる準備を行う。それによって何億の人間が亡くなろうとも、それには全く疑問を挟まずに。順調に、ミサイルにフェルミオン粒子が注ぎ込まれていった。
 続々とスペースナイツ基地を目指すラダム獣達。其処に、迎撃する為にブルーアース号が到着した。
「お兄ちゃん!」
 Dボゥイが席を立つと、ミユキ彼に声を掛けた。
「心配するなミユキ。俺はラダムに負けはしない!!」
 Dボゥイはミユキに、安心させる様にそう言って後部ブロックへと駆け込むと、声高らかに叫ぶ。
「ペガス! テックセッタァァー!!」
「ラーサー!」
テッカマン!! ブレード!!」
 テックセットを完了したブレードは、ラダム獣に踊りかかる。例え短い命だったとしても、大切な妹や仲間達を守る為に、Dボゥイはテッカマンブレードと言う修羅になって戦いを行う。
「よし、俺もソルテッカマンで出るぜ!!」
 ブルーアース号はテッカマンブレードの援護を受けて、無事スペースナイツ基地の格納庫へと降り立った。そして、ノアルも戦闘に参加する為にソルテッカマンの元へと走り出そうとしたその時、
「ミユキさん!? ミユキさん、どうしたの!?」
 アキが後ろを振り返ると、ミユキがうずくまって立ち上がれないでいた。
「うぁ……ううぁぁぁぁああああ!!」
 ミユキの手を取ったアキがそれを見て驚愕した。ミユキの身体中にはあの赤い線がまた見えている。それも、今度はくっきりとはっきりと見えるのだ。ミユキは身体中の痛みに堪えきれずに、悲鳴をあげた。
「ああああぁぁぁ!! お兄ちゃぁぁぁーんっ!!」
 アキとノアルはそれを戦慄しながら見た。今まではしゃいでいたミユキが、打って変わって連鎖反応的に組織崩壊を起こすその様を。二人は一瞬、どうすれば良いのか分からなくなって唖然とする。そしてミユキは、実は彼に心配を掛けまいと無理をしていたのだ。本当は、海辺で少女の様に遊んでいた時も、辛くて起き上がれないほどに彼女は疲弊していたのだ。
 テッカマンブレードの進撃は続く。其処彼処にいるラダム獣を狩る様に撃破していくその様は、ラダムに対しての怒りが爆発していた。ミユキにこの獣共を見せてたまるか、全て微塵に切り刻んでやる、と闘志を極限まで燃やしていた。
 しかしその時、ブレードの額のパネルが光る。精神感応波をキャッチしたのだ。
「……っ!?」
 だが、これは何かおかしい。この反応は、どう考えても一人ではない。エビルだけではない。
 そしてその時爆炎を背後に、四人の男女が歩いてきた。男が三人、女が一人。その誰もが見知った顔だった。
「兄さん? 今日こそ兄さんを地獄に送ってあげるよ!」
「シンヤ……貴様ぁ……!!」
 妹の命を弄んだラダムの尖兵。テッカマンエビルと言う悪魔。だが、その悪魔は一人だけではない。彼らはブレードを見ながら笑った。無駄な足掻きをする愚かな裏切り者を、からかう様に邪悪な笑みでブレードを見て笑っていた。
 そして四人は、クリスタルを取り出すと同時に右手を掲げて叫んだ!!
「テックセッタァァー!!」
 四人が赤い光を纏って一瞬で変身した。四人は赤い眼光を光らせながらブレードの前に着地すると、誇示するように自らの仇名を叫ぶ。
テッカマンランス!!」
テッカマンアックス!!」
テッカマンソード!!」
テッカマンエビル以外の、新しい悪魔達。それを見てブレードは戦慄した。エビルと自分は今の所互角である。だが、エビルと同様の力量を持つテッカマンが四人も目の前にいる。
「くっ……!」
ブレードはその様を見て歯噛みした。つまり、それは圧倒的な戦力の差があると言う事に他ならなかった。
「はっはは! テッカマンブレードよ。スペースナイツの基地諸共、貴様の息の根を止めてやる!!」
 そうエビルは宣言する様にブレードに言った。
 そして、ミユキの命はもう既に風前の灯だと言っても過言ではなかった。ストレッチャーで医務室に運ばれる間、悲鳴をあげる彼女に、アキはどんな言葉を掛ければ良いのか分からなかった。
更に、軍本部基地では、愚かな剃髪の軍人が、再び愚考を犯そうと舌なめずりをしている。
どの状態を見ても、Dボゥイやスペースナイツ、そして全人類にとってプラスな要因は何処にもなかった。
「うおおぉぉぉぉあぁぁ!!」
だが、それでも、テッカマンブレードは戦いを挑む。テックランサーを構え、ラダムテッカマン達に躍り掛かるのだ。それが負ける事が必至な戦いだったとしても、例え一欠片でも、勝因が無かったとしても。


☆ミユキちゃん編の前編と言う感じでしょうか。どれを取っても、主人公達は大凶レベルの不幸が降り掛かる酷いお話でしたね(泣)四人のテッカマン達がまた凶悪で凶悪で。次回では更に凶悪になると言う救いなんて無いお話でしたね。それにしても、何でこう言うタイミング悪い時に真空管ハゲが関わってくるのかってのも不幸物語を助長させる要因でした。ブレード暴走時はちゃんと市民の安全とか考えてたのに、頭のネジが一本飛んでるとしか思えませんね。作画は上がったり下がったりしてましたが、総じて考えれば普通に良いお話だったと思います。特に深夜のお見舞いに来た時のミユキの作画が別人クラス。このカットだけ別の誰かが描いてるとしか思えない瞬間でした(笑)あ、後ブレードの戦いバンクや止め絵も今回は何か良かったです。なので、評価は四で御願いします。