コンバットドール(うすね正俊作 短編集 METAL BOX)

ジャンプ系の月刊等に二回か三回位発表されたことがあるうすね正俊先生の作品です。ずぅっと前にアーマー物ヒーローの感想書いたっけ。今回は戦争物ですね。
今現在うすね先生はエンターブレインコミックビームで「砂ぼうず」を好評連載中。でも、あんまり好きじゃないのよね砂ぼうず。理由は後述。
コンバットドールは近未来、第三次世界大戦で西側と東側の戦いを描いた作品です。当時読んでいて気づかなかったのですが、主人公の陣営は実は社会・共産主義側の軍だと言うこと。では行ってみましょう!


西側と東側の戦争も泥沼と化してきた近未来。長きに渡った三次大戦も諸外国を巻き込み、核兵器こそ運用されることは無かったものの、どこの国家も例外なく疲弊の極みに達していた。東側の新兵器、コンバットドール(以下Cドール)はその熾烈な過程の中で生まれた時代の徒花だったかもしれない。
外骨格強化服と呼ばれたそれは、装着者の動きを完全にトレースし、人間の腕力を数倍に強化、歩兵が持てる機銃等では貫通することが出来ない装甲を持ち、攻撃ヘリにすら対抗できる火力を搭載した、戦場において理想的な機動歩兵である。作戦遂行率が極めて高い為、敵側からは皆殺し部隊・殺人人形等と恐れられていたが、Cドールの技術ノウハウを多大な犠牲の上で西側が入手。無人自動ロボット、対Cドールとして開発されたコードネーム「ピノキオ」の台頭で戦局は再び泥沼と化していく。
Cドール部隊に所属するジムは自分以外の戦友をたった一体のピノキオに殺され、ただ一人生き残り子供ばかりの村に保護される。村は何とか自活していたが、時々来る脱走兵の野盗達に食糧をほとんど持っていかれてしまう。あろう事かその脱走兵とはジムの友軍だった者達だ。村のリーダーテツは命を救ったのだからその脱走兵達を何とかして欲しいと頼むが、友軍とは戦えないとジムは突っぱねる。戦場のそこかしこから回収してきた銃で子供達に拘束されるジム。何日間か飲まず食わずの状況が続くが、そこにテツに内緒で時々食糧を持ってくるのはマユミとマモルであった。本能的にジムを危険な大人では無いと察したのかもしれない。おんぶしてやるとこんなにも子供が小さかった事を実感するジム。
翌日、村に野盗達がやってくる。旧式とは言えCドールを三体確保し、ジムの戦友グリーンが着ていたCドールも随伴していた。裏切りかと思われたが、グリーンは脱走兵である彼らを友軍に報告しようとした所を射殺されてしまったのだ。更に世話係と称して抵抗することが出来ない女の子を一人連れて行こうとする。以前世話係をしていた女の子は過労で亡くなってしまっていたからだ。マユミが連れて行かれる所を必死に止めようとするマモルだったが、Cドールの一撃で絶命してしまう。憤慨したジムはテツに協力することにした。
野盗達のリーダーガッツは以前英雄と称されていた男だった。Cドールで連戦連勝を重ねていた彼は初めての障害であるピノキオに敗退し、脱走兵となって洞窟のアジトに巣を張っていた。マユミは川で脱走兵達の洗濯をさせられていた。テツはマユミの救出を、ジムは脱走兵達の根城である洞窟にナパーム(焼夷弾)で奇襲を掛ける。無事にマユミを救出したジムは英雄だった男ガッツと対峙し、一人また一人と脱走兵達を始末していく。新式と旧式の違いもあったが、それまで戦い抜いてきたジムの戦闘経験が脱走兵達を圧倒していたのだ。子供の頃にラジオで聞いていたガッツの活躍を思い出すジム。英雄に憧れるジムに母親は兵士になって欲しくない、とよく語っていた。大戦中の情操教育がそうさせていたのだが、当時のジムは母親の言葉が不可解だった。戦場に出て、人殺しの鎧を着たジムはその意味を今更悟るのだった。
後はCドール二体となった野盗達。散開し、息を潜めていたジムとガッツは数メートル先の爆発に気づく。駆けつけたガッツが目にしたのは裸になって助けを請う仲間と、あさっての方向に銃撃するジム。その方向にいたのは対Cドール兵器であるピノキオであった。無人の殺戮ロボットであるピノキオはガッツのトラウマとも言えるべき存在だった。パワー・スピード共にCドールの数倍をいくピノキオはCドール装着者にとって天敵ともいえる。その天敵にたった一人で立ち向かうジム。ガッツはピノキオを全く恐れないジムに英雄を見ていた。
ピノキオを倒すには至近距離からのロケットランチャー攻撃しかない。それは誘爆の危険とピノキオの打撃間合いに入ると言う、ある意味捨て身とも言える攻撃方法だった。懐に潜り込んだジムはランチャーをピノキオに放つが、腕でガードされ打撃を受けてしまう。その衝撃でランチャーが撃てなくなったジム。死を覚悟したジムの窮地を救ったのはガッツのランチャーだった。それはジムを救うと言うより、死を恐れる事の無いピノキオに対しての、怒りの激情だったと言える。至近距離で全弾ランチャーを打ち尽くすガッツと凶悪な腕を振り下ろすピノキオ。結果は相討ちだった。
瀕死の重傷を負ったガッツ。彼はピノキオに負け、自身に負けた自分を止めてくれる者を待ち望んでいたのだ。無言でかつての英雄に敬礼するジム。
戦いが終わった後、村では外敵に対しての罠にCドール装着者の生き残りが掛かっていた。それは先日マモルを殴り殺した男だった。全員一致で子供達が殺そうとした時、ジムが止めに入る。もう無き寝入りはご免だと食いかかるテツ。その隙に生き残りが子供の一人を人質にしようとするが、ジムは躊躇無くガトリングガンでその頭を浮き飛ばす。殺し殺される場面を見て戦慄する子供達。
「お前達は人殺しなんかせずにこの森で未来を作っていく事だけを考えていればいいんだ」
そういい残し、去ろうとしたジム。一瞬ジムの中に殺人鬼を見たが、それと同時に子供達にとって彼は英雄なのだ。その背中に「戦争が嫌になったら…ジムだったらいつだって大歓迎だよ!」と子供達は叫ぶのだった。

ジムは戦争をある種の自然現象だと認知し意味も無く戦ってきたが、その森に来てようやく戦いの意味を知る。レーザー兵器を実装したCドールが配備されると、戦局に僅かであったが変化が訪れる。戦争を終わらせる為に必死に戦う、それが理由となるジムにとってそれ以後の戦いは意味のある物になっていく。絶対絶命の状況に陥っても。
「母さん!オレはこの戦場で虫けらの様に死ぬかも知れない。でもね、母さん…オレは知ってるんだ。あの森の中で明るい小さな未来が息づいているのを」


っはい! という感じで装甲兵士戦場物語でした。うすね先生作品でこういうジャンルは全く人気が出なかったと言えますが、戦記物の戦場で子供達のヒーローを描くと言うのは正直大変だったと思われます。しかし、読み切りの内ニ作とも子供達の為に戦う兵士を描いており(結果はどうあれ)私の心に大きく印象を植え付けました。戦争兵器、殺戮兵器に男の子ってロマンを見る傾向があるんですが自分もその一人。でも、ただ人殺しするというのだけは嫌だから子供達(弱者)を守るというテーマが厳然と無いと全く共感できない物でしたね。
様々な短編を経て「キラーボーイ」というバイク漫画を描き、後に宇宙人と人間のハーフと言うダークヒーロー物を描くうすね先生。そのダークヒーローが結構はまったのか、いまだにコミックビームで連載が続いている「砂ぼうず」は輪を掛けてダークな主人公を描きます。どうも、その物語はこの「コンバットドール」の後の世界の様で、荒廃した世界をせこくずる賢く時には汚く生き抜いていく、主人公砂ぼうずの活躍。うすね先生の作品がかなり好きな自分でしたが、この作品だけは全然好きになれなかった。それが今じゃアニメ化にまでなっている始末。どうも自分の感性は一般人とは少し違うのかもね。
嗚呼、また描いてくれないかなぁコンバットドール。砂ぼうずで出してくれてもいいからさー。
それではまた〜。