第39話 超戦士ブラスター(1992/11/17 放映)

ジャキン!!

脚本:岸間信明 絵コンテ:殿勝秀樹 演出:西山明樹彦 作監:敷島英博 メカ作監中村豊
作画評価レベル ★★★★★



第38話予告
生と死の狭間で一人戦うDボゥイ。迫り来るランスの牙の前に一人の男が立ちはだかる。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「超戦士ブラスター」仮面の下の涙をぬぐえ。



イントロダクション
アラスカに完成した新スペースナイツ基地へと帰還したのも束の間、Dボゥイの肉体の組織崩壊は最早テックセット出来ない程に進行していた。
「不完全な君がブラスター化するには、肉体的に無理がある。仮にブラスター化に成功しても、その命はもって半年。その上、成功の確率は50%だ」
「それでも構わない! やってくれ、チーフ! 俺は戦わねばならないんだ!」
その肉体を、ブラスターテッカマンに進化させる事を決意したDボゥイは、生か死か、50%の確率に全てを賭けるのだった。



スペースナイツ基地に再びラダム獣が襲来する。とは言っても、此処はグランドキャニオンではなく、極寒の地、アラスカである。本来、ラダム獣はエネルギープラント等が無ければ無闇には建造物を襲わない。だが、この元宇宙基地である新生スペースナイツの根城を襲う様に仕向けているのはテッカマンランスであった。彼は、水中ラダム獣が追跡したグリーンランド号の足跡を辿って、この基地に行き当たったのだ。
飛行ラダム獣が繭を投下すると、繭は陸上ラダム獣に変化する。陸と空から無数の敵が襲い来る。獣達は、マイクロウェーブ波を受信するアンテナや地上にある建物を蹂躙し始めた。一部の建物にいたスタッフ達が地下を目指して避難を開始するが、爆発に巻き込まれて死傷者が出る。
そして襲撃の余波は、地下深くにある実験施設にも響いていた。建物が破壊される度に、天井から細かい埃がスペースナイツのメンバー達に降り掛かって来て、彼らに動揺が走った。
「持ってくれよぉ……」
「後一時間だってのに……!」
 ノアルとバルザックがそう言って、この最悪のタイミングで敵の襲来が起こる事を歯噛みする。
「Dボゥイ……」
 アキは、宙吊りにされたペガスを見上げて彼の苦悶の声が聞こえた様な気がした。
「くうぉあぁあぁっ!!」
 実際に、ペガス内部で調整を受けている彼は凄まじい苦しみに必死で耐えている。しかし、この小刻みな振動が彼にどんな影響を与えるか分からない。重傷患者の手術にこういった最悪の状況が良くない結果を生み出しかねない、そう思ってアキは調整作業を行っているフリーマンに声を掛けた。
「チーフ、一度中止した方が良いんじゃ……」
「チーフ……」
「チーフ!」
 Dボゥイを心配する余り、レビンやミリィも同様に声を掛ける。
「それは出来ない」
だがフリーマンは、メンバーに振り返ってそう静かに言った。
「ただでさえブレードのブラスター化には極めて不安定な要素が多い。もし途中で調整を中断したら50%どころではない。ブラスター化の副作用で、Dボゥイの肉体は完全に自己崩壊してしまうだろう」
「……っ!!」
 それを聞いて絶句する面々。もう引き返す事も中断する事も出来ないと言う事を知り、彼らはまた動揺した。
 だが、そんな風に焦る彼らに、元防衛軍特殊部隊軍曹の、バーナードが余裕たっぷりに言う。
「なぁに、要するにあと一時間、ここを死守すりゃあいいんだろ? フリーマンの旦那ぁ?」
「そう言う事になるな」
 もう後戻り出来ないのなら、踏ん張るしかないと言う事を聞いて、レビンが握り拳を振り上げた。
「やるわよぉ! ブレードの為なら、本気で命懸けなんだから!!」
「おうともよぉ!!」
 本田も巨大なスパナを持ってそれに応える様に叫ぶ。
そして、フリーマンは座り込んでいる歴戦の兵に言った。
「バーナード軍曹」
「おう?」
「作戦の指揮は軍曹にお任せします。宜しいですか?」
「あいよ! へへへ……」
 気軽に応えた隻眼の兵士は、持っていたライフルを肩に担いで立ち上がると、自分の部下と、スペースナイツの面々に向かって言った。 
「いつも俺は部下共には何としても生き延びろと言ってきた。戦場じゃ生き残った者が勝ちだからな……」
 常に生き残れ、それはDボゥイにも語り掛けた言葉だった。生き残り、再び仲間の命を助ける。例え軍の命令に背いても、何よりも命を大事にする彼らしい言葉だ。
「だがな、今日は違う。何としてもボウヤを守り抜け! てめぇの身体がどうなろうとな!!」
「おぉっ!!」
 そうバーナードが叫ぶ様に言うと、ノアルが、バルザックが、アキやレビン、そしてミリィでさえも、気合を入れて、拳を高らかに揚げて応えた。この大一番を死守すると言う目的で、彼らは一丸となったのだ。
「よぉーし、じゃここにいるメンバーで三チームを編成する。例え上官でも、文句は言わせねぇぜ?」
「へっ、分かってるさ、元軍曹さん!」
 バーナードがそう言って、バルザックが応える。彼らは同じ軍隊にいた同士ではあったが、その階級は大いに開きがあった。バルザックはオペレーションへブンが失敗した時点での階級は中佐、バーナードは軍曹である。バルザックにしてもバーナードにしても今現在はスペースナイツに参加している義勇兵と言う立場だった。 
軍曹がコンソールを操作すると、このアラスカ元宇宙基地の図面がホログラフィックで表示される。宇宙基地は地下に施設の殆どを埋没させていて、どちらかと言えば台形を逆さまにした様な形をしていた。
「まずソルテッカマンの兄ちゃん達は、バケモノ共の数を、なるたけ減らしてくれ」
「オーライ、毎度毎度の雑魚掃除ってワケね?」
 そうバーナードに言われて、ノアルは応えた。既にソルテッカマンを装着する為のアンダースーツを着ている二人は、いつでも出動出来る様、迎撃体勢を取っていた。
「本田とオカマちゃんは、俺の部下と基地内に侵入する敵を防げ。場所はここと、ここ。二人一組でチームを組め!」
 二人一組、つまり軍隊用語で言う所のツーマンセルで本田とレビンは指名された。バーナードの部下も四名いて、丁度三部隊の編成が出来上がる。ツーマンセルはある意味お互いをフォローし合って生存率を高める有益な戦術である。
しかしオカマと言われたのが微妙に気に食わないのか、
「ちょっとちょっとぉ! ちゃんとレビンって呼んでよぉ!」
「静かにして、レビン。それで? 私は何処を守ればいいの?」
 レビンが抗議の声を上げるが、アキがそう言ってピシャリと黙らせて言った。
「あ、あたしも! 何処ですか?」
「嬢ちゃん達は俺と一緒にここにいろ。ボウヤを守る最終防衛線ってワケだ」
「ラーサ!!」
 アキと、そしてミリィもそれに応える様に胸の前で腕を構えて了解する。これはある意味バーナードなりの美徳である。例え最悪の状況にあったとしても、全滅するかも知れないと言う危機にあっても、女性や子供は最後の最後に死んだ方がいい。それは彼の主張でもあった。
「勿論、フリーマンの旦那にも戦ってもらいますぜ?」
「こう見えても、射撃の成績はAだった……」
 実弾式ライフルを投げ渡され、そう言いながら受け取るフリーマンも元軍人である。彼は弾装を外して弾を確認する。連合地球暦となった現在で、レーザーガンの様な銃器とは違い、火薬式の銃器は珍しい部類にある。
「この銃の弾は特別製だ。ラダム獣の爪を加工して作った弾頭で出来ている。奴らを戦闘不能に追い込む位の威力はあるだろう」
 フリーマンは、ラダムに対抗する為には通常のレーザーガンでは効果が無い事を理解している。そこで、ラダム獣の残骸から爪を回収し、テッカマンソルテッカマンに頼らない歩兵用の武装を模索していたのだ。そこで行き着いたのが、このラダム獣の爪の弾頭だった。
 彼がコンソールを操作すると、様々な武装が収納されているケースが床からせり上がる。
「他にも、ショットガンタイプ、マシンガンタイプ、爆裂弾タイプがある。好きなモノを持って行きたまえ」
「なるほど、目には目を、ラダム獣にはラダム獣の爪ってワケか」
「ありがてぇ!」
 ノアルとバルザック、そしてバーナードの部下達や一番武器に縁遠いミリィでさえも、それらの武装を物色する。レビンや本田、ミリィは本来非戦闘員ではあるがスペースナイツに任命された時点で、ある程度の戦闘レクチャーは受けているのだ。
「よぉーし! ぼやぼやしてる暇はねぇぜ! 野郎ぉ共かかれぇっ!!」
「ラーサ!!」
 各々、武装を受け取ると、バーナードの号令を受けて散開した。
 その頃地上では、自動防衛機構が氷を模した擬装用ハッチから出現し、対空砲撃を開始する。空を埋め尽くす飛行ラダム獣がそれを受けて爆散した。この防衛砲台に装填された弾もラダム獣の爪を用いているらしい。だが所詮動かぬ砲台では雲霞の如く迫り来る陸上ラダム獣の波を止められない。次々と砲台は駆逐され、戦況はやはり芳しくなかった。
 散開したスペースナイツの面々が各々の防衛任務に就いた直後、実験ブロックの入り口に、二重の分厚い隔壁が閉じられた。これでこのブロックから出られる唯一の出口が塞がれ、実験施設は密室になった。
「これでとりあえずは大丈夫だ。この強化単結晶合金の扉なら、ラダム獣の攻撃にも耐えられるだろう」
「ヒュー! そいつはありがてぇや。仮に破られても、死ぬ時ゃ可愛い姉ちゃん二人と同じ棺おけってワケだ」
 フリーマンがそう言うと、バーナードは口笛を鳴らしながら陽気に応えた。
「……ちと色気が足んねぇがな?」
「あぁん!!」
 軍曹はそう、素っ頓狂な素振りで傍に立っていたミリィの尻を素早く触った。ミリィは悲鳴をあげながら飛び上がる。そんな少女の反応がおかしくて軍曹は豪快に笑った。
「んもぉ〜!!」
 また触られては溜まらないと、ミリィは膨れながら助平親父から距離を取る。そんな風の二人を見ていて、アキは緊張を緩めて微笑んだ。とても絶体絶命とは思えない状況だったが、彼がいてくれるからそんな悲観的な現況が払拭されるのだ。
 相変わらず地上部にある基地は蹂躙され尽くされ、壊滅状況に陥っている。そんな時擬装用の隔壁が開いてソルテッカマンの二人が出撃しようとしていた。
「さぁ! ショータイムと行こうぜ、ノアル!!」
「エンドマークまで一時間、果たしてどっちが主役かな?」
襲来する飛行ラダム獣が粘液弾を二人がいる場所に撃つ。
「決まってるぜぇっ!!」
 そんな襲撃を華麗に回避し、バルザックは叫び、バックパックに装備された拡散フェルミオン砲を撃つ。
「生き残った方だろぉっ?」
 ノアルもそう叫びながら、フェルミオン砲を展開し、戦闘を開始した。
「そう言う事ぉっ!!」
 もう何度目の防衛戦だろうか。しかし彼らのフォーメーションは長い旅を経て、極限までに練磨されている。こうしてラダム獣の襲撃の波は、彼らによって一時的に阻まれるのだった。
 そんな彼らの戦いぶりを崖から見下ろす一人の男がいた。
「ふん……」
 赤いコートを着て長い髪を後ろ手に結んだ男の名はモロトフ。またの名をテッカマンランス。彼は先程までテッカマンの姿でいたが、今現在はテックセットを解き、ノアル達の奮戦振りを鼻で笑っている。
そして、ソルテッカマン達が出てきた隔壁のハッチに目を付けたのであった。
「ふふん、レビンとのコンビも、久しぶりだな!」
「そう言えばここんとこペガスとばっかだったもんねー」
 新生スペースナイツの基地通路をレビンと本田がそう言いながら巡回している。普段彼らが持つ事は無い、長大なライフルを携えながら。そう話している時に、また小刻みな振動。レビンは持ち慣れないライフルのせいで体勢を崩しそうになるが、それを本田の大きな腕が受け止めた。
「おぉっと!」
「もぉっ! こんなの持ってたんじゃ、腕も足も太っとくなっちゃうじゃないのよぉ!!」
「いいじゃねぇか。男らしいレビンにイメチェンってのも」
「冗談じゃないわよぉ。進化したブレードには、変わらず美しいあたしを見てもらうんだから!」
 そう、いつもの様にふざけた態度で言った直後、レビンは表情を曇らせる。 
「……生きて……出てくるわよね? 親っさん」
「あぁ! 絶対にな!」
 恐らく、Dボゥイがテッカマンとして出撃しなければ、一蓮托生の状態に彼らはあった。そんな風に不安そうに言うレビンを、本田は微笑みながら元気付ける。
――――必ず出てこいよ……Dボゥイ!
 本田は信じていた。Dボゥイと言う男を。その信念を。そして、仲間としての絆の力を信じていたのだ。
 丁度その頃天板を外し、暗いエレベーター内にモロトフは降り立っていた。階下のボタンを押すと、エレベーター内の電灯が灯り、降下していく。
「ふふふ……」
 テッカマンである彼が、こうして人間の姿になって潜入するのは理由がある。外で戦っているソルテッカマンの二人に邪魔されない様にする為だ。その気になればソルテッカマン達とブレード、三人を相手に戦う事も辞さない程自信に満ちている彼ではあるが、基地防衛にテッカマンブレードがいつまで経っても出撃しない事をモロトフは不審に思った。物事をスマートかつ迅速に処理したい彼にとっては、ブレードが出てくるまでアックスの様に暴れるよりは、基地に潜入しDボゥイの暗殺を行う、と言う方法に出たのだろう。
「待て! 何者だ! この先は立ち入り禁止だ!」
 だが、辿り着いたその階に、エレベーターの前で警備していたバーナードの部下に発見されてしまう。ライフルを向けられ威嚇する兵士に対し、モロトフはあくまでも無表情でエレベーターを降り、彼に歩み寄った。
「き、貴様ぁ……所属部署と姓名を名乗れ!!」
「名前はモロトフ。所属は……ラダムだぁっ!!」
 モロトフは素早くダッシュすると、一瞬の内に兵士の懐に入り、兵士の首を絞め上げた。
「くっぐあぁっ!!」
 バーナードの部下であるその兵士にしても、相当の修羅場を潜った完全武装の男達であるはずなのに、刹那の間、銃撃も出来ずに首を取られた。それも左の片手で軽々と持ち上げられ、兵士はその強力な握力で絞められ、遂には鈍い音が鳴る。首の骨が折れた音だ。
「ふん!」
モロトフはゴミを投げ捨てる様に兵士をコンクリートの壁に投げつけると、絶命した彼は強かに叩き付けられ、壁にめり込んだ。その腕力や素早さ、人としての能力を完全に逸脱している。
妙な方向に首が折れ曲がった兵士をその場に残し、モロトフは通路を進み始めた。しかし、足元に設置されたセンサーが侵入者を感知し、天井に設置された指向性爆弾が破裂する。
 通路に爆裂音が響き渡った直後、更に通路の曲がり角から兵士達がミサイルランチャーを構えて躍り出て、爆心地にいる敵に向かって撃つ。彼らは素手で仲間が殺された所を一部始終聞いていたのだ。最早敵か味方か、等と言う問答は必要ないと言わんばかりに銃撃する。更にレビン達もその攻撃に加勢し、マシンガンやショットガンを乱射した。
「あの世へお逝きぃっ!!」
「狭い通路の中じゃ、逃げ場は無いぞぉっ!!」
 通路が銃撃の弾痕でボロボロになり、最後にまたミサイルを撃ち放たれ爆煙が巻き起こった。
 銃撃を中止して、その結果を見定める兵士達。
「おぉっ!?」
 煙が晴れるより早く、何かが爆煙から出現する。鉈の様な武器が振り下ろされた直後、レビン達の目の前に残ったのは、兵士達二人の下半身だけだった。
 モロトフは天井の爆弾が破裂した直後に、テックセットを完了させていた。今目の前に出現したのは、テッカマンランス。ラダムの尖兵であり非情な殺人鬼であり、スペースナイツや人類にとって最大の脅威である。
「うっ!? おあぁっ!!」
 ランスは一瞬で兵士二人を惨殺し、後ろにいたレビンと本田には目もくれず、もう一人の兵士を捕まえて本田達の前に突きつけた。この間に経ったのは数秒ほどである。恐ろしい程の素早さだった。
「くっ……やめろ! レビン!!」
 本田が慌ててレビンの銃撃を止めた。今撃てば兵士を殺してしまう。
「これも君達クズ共の愚かな弱点だ。いかに勇敢な戦士と言えども、仲間を盾にされると必ず躊躇する……」
 テッカマンランスは流暢な英語でレビン達に語り掛けつつ、歩み寄って来る。
「卑怯よぉっ!!」
「ブレードは何処だ! 私はブレード以外に興味は無い。蟻共を踏み潰したところで退屈なだけだ」
「蟻だとぉっ!! 舐めおってぇ!!」
「ふ、伏せろぉっ!!」
 本田がランスのその言葉を受けて憤慨していたその時、捕まえられていた兵士が突如叫んだ。爆裂弾が詰まったバックパックから何かのピンを抜きながら。
「あっ!?」
 本田とレビンはその叫びを受けて跳ねる様に飛び退り、体勢を低くした。直後、兵士のバックパックが大爆発を起こす。どうやら抜いたピンは、中に詰まった爆発物を着火させる為のモノだったらしい。爆裂弾タイプのラダム獣の爪の弾頭は、周囲に夥しい弾痕と爆煙を残す。
 人質になる位なら、爆発して諸共に果てる。兵士の覚悟は、彼自身の遺体を残さない程に粉微塵になった。 
「や、やったのかしら?」
「分からねぇ……気をつけろレビン!」
 煙が収まり、爆発した場所へと戻る二人。だがその先に見たものは驚くべき光景だった
「はっ!?」
「おぉっ!!」
 テッカマンランスは健在だった。だが立っている場所が明らかにおかしい。彼は壁に直立しているのだ。レビン達から見れば、丁度真横に立っていると言う不可思議な現象で、重力を無視していなければ出来ない芸当だった。
「ふん……原始的な武器だ」
 ランスは自分の右胸に刺さった針を抜いた。零距離で爆裂したラダム獣の爪の弾頭はランスのテックアーマーにほんの少しだけ傷を残していた。その傷を受けて、彼の頭部に付いた鶏冠状のパーツが跳ね上がった。どうやらその鶏冠は彼が怒りに塗れると起き上がる様になっているらしい。
「が……蟻如きが、この私の身体を傷つけるなど断じて許せん。その報い……君達の武器で受けるがいい!」
ランスは破裂した兵士のショットガンを何時の間にか奪って本田達に向けた。それを携えて一歩一歩壁に直立しながら歩いてくる。三連バレルのショットガンにはやはりラダム獣の爪の弾頭が詰まっている。
「死ねぇっ!!」
「レビン! 伏せろぉっ!!」
 本田がレビンに飛び掛る様に押し倒した。直後ショットガンは乱射され、本田達がいた背後の壁を穴だらけにする。すると、経年劣化で脆くなったコンクリートの壁が崩れ落ちてきた。丁度本田とレビンが倒れ伏している場所に降りかかった。二人はその瓦礫を受けて気絶してしまう。
 動かなくなった二人はまだ生きている。そんな二人に対して、ランスは壁に直立するのをやめて床に立った。
「さて、せめてもの慈悲だ。貴様らの武器で死ぬがいい」
そう言いながらランスは引き金を引き絞った。が、ガキンと引き金を引いても弾丸は出ない。二度、三度と引いても出ない。どうやら先程撃ち過ぎて弾が無くなった様だ。
「ふん……弾切れか。運のいい蟻共だ!」
 ランスはその気になれば自らのランサー、テックグレイブを使って本田達にトドメを刺す事は出来たが、何故かそうはしなかった。一度こうと決めたら遣り通す主義なのか、それともただ面倒なのか。ランスは持っていたショットガンを怪力で捻じ曲げ投げ捨てると、背部のスラスター噴射しながらで通路をダッシュし始めた。
「ブレードめ……何処に隠れようと必ず見つけ出してやるわ!!」
 かくしてレビンと本田は何とか生存できたが、これでランスの障害は最終防衛線のアキ達だけとなった。
研究室ブロックでは、アキとミリィが固唾を呑んでペガスを見上げている。
「あと五分……」
 既に数十分が経過していた。フリーマンはモニターを見ながら言った。後たったの300秒なら、敵の襲撃に対して間に合うと思った。だが、壁に張り付いて座っていたバーナードは足音を察知する。
「ん……来たぜ!」
小声で他の者に声を掛ける。
「散れっ!!」
 バーナードに小声で命令され、四人は巨大な扉の両側に配置した。持っているライフルを携えながら。
「敵……だな」
「じゃあ、敵のテッカマン!」
 彼は近付いてくる足音で敵と判断し、アキはラダム獣よりも脅威である敵テッカマンの存在を認識した。
「でも仲間って事も……」
「ンな事ぁねぇ」
「どうしてです? きゃっ」
 ミリィが怪訝に思ってそう尋ねた直後、隔壁を激しく叩かれて瘤のように盛り上がった。
「嬢ちゃん、あんたのダチで、ボウヤの他にこんな真似出来る奴いるかい?」
「で、ですね……」
「ミリィ……下がっていたまえ!」
「ラ、ラーサ」
 最早四人は覚悟を決める時だった。フリーマンが傍にいるミリィを気に掛けた直後、隔壁扉に穴が空く。敵テッカマンによる抜き手で、扉は数箇所穴を開けられ、徐々にその強度が脆くなっていった。
「いいか、扉が破られると同時に一斉攻撃だ……五分だ! 後五分ペガスに近付けさせんじゃねぇぞ!!」
 バーナードが他の三人にそう命じた時、五箇所目の穴が開く。隔壁扉は丁度人が通れる大きさにくり貫かれ、強かに叩かれるとズズンと大きな音と共に倒れ込み、破られた。
「行けぇっ!!」
 両側に配置していた四人は、扉が倒れ込んだ直後に躍り掛かって銃撃する。暗闇に向かって皆腰だめに構えたマシンガンを乱射する。薬莢が辺りに散乱し、数秒の後にバーナードが号令を出した。
「よぉーし、やめろぉ!!」
 撃った暗闇の先は硝煙で火薬の臭いが辺りにたちこめる。ミリィは恐る恐る他の者に尋ねた。
「や、やっつけたんですか?」
「……っ」
アキが暗闇の先に突入する。銃をいつでも撃てる様に構えながら、扉の外側をくまなく見回した。
「誰もいないわ」
「なんだとぉっ?」
 確かに誰かがいたはずだ。現に扉はこうして破られている。銃撃を察知して一度扉を離れたのか。しかし!
「はっ!?」
 アキは気配を感じて上を見た。すると、テッカマンランスは天井に直立しながら余裕の腕組みをしている。
実はテッカマンランスのテックアーマーには、重力制御能力が付随している。この機能を使えば慣性の働く宇宙のような無重力下であっても、障害物や隔壁に降り立つ事も出来るし、重力下の地上でも壁に直立する様な芸当が可能になるのだ。司令官の補佐を行う参謀型としてはある意味上位の装備であり、テッカマンとしては特殊な装備であるかも知れない。
そして勿論、身体の表面に銃弾を歪曲させる様な障壁を張ることも可能である。この機能を使ってレビン達やアキ達の銃撃を回避し続けてきたのだろう。さすがに至近距離で自爆されたら無効化出来ない様だが。
 アキは驚愕して銃を天井に向けようとしたが、それよりも早くテッカマンランスは目にも止まらぬ素早さで彼女の目の前に降り立ち、アキを強かに叩いた。
「ああぁっ!!」
 アキは持っていたライフルでその攻撃を反射的に受け止めたが、テッカマンの怪力で大きく吹っ飛ばされてしまう。常人ならその掌底で重傷を負ってもおかしくは無い、強かな攻撃である。アキの卓越した身体能力があるからこそ、軽傷で済んだのだろう。吹っ飛ばされたアキはバーナードに受け止められるが、遂に実験ブロックに敵の侵入を許してしまった。扉を潜って四人を見ながらランスは言う。 
「君達も救いが無いな……私が此処に来た事実だけで、君達の兵器が私に通用せん事位、分かりそうなモノだが……ブレード如きの出来損ないと違い、私は完全なテッカマンなのだからな」
赤い目を光らせ、目線を上に上げると、ペガスが宙吊りにされて様々な配線を付けられているのを見つけた。
「其処にいたか……だがブレード、不完全な貴様が今更何をしようと言うのだ?」
最終防衛線の四人はテッカマンを前にして固まり、動けなかった。彼の素早さは銃弾さえ回避し、直撃を受けても跳ね返す。しかしバーナードだけは、腰の手榴弾に手を伸ばし、ランスの隙を窺った。
――――後一分……!
 秒数を数えていたフリーマンは無言でそう心の中で呟く。
「くっ……」
 調整は最終段階を迎え、Dボゥイの脳裏には今までに出会ったテッカマン達の残影が蘇る。ボルテッカで消し飛んだダガー、笑みを浮かべながらボルテッカを撃ち放つアックス、仲間達を守る為に散華したレイピア、そして未だ決着の付いていないテッカマンエビル。彼らの姿が繰り返し浮かびあがっては消えていくのを思い浮かべ、Dボゥイは絶叫を上げた。 
「うぉわああぁぁあっ!!」
 その叫びを受けて、アキがペガスを見上げる。遂に調整が終了を迎えるのだろう。
「Dボゥイ!?」
「貴様達! ブレードは何をしている!?」
 ペガスの配線が吹き飛びスパークが走るのを見て、ランスが彼らに威嚇する様に言った。今攻撃を受けたらDボゥイにどんな影響が起こるか分からない。そんな時、突如バーナードが腰の後ろに装着された手榴弾を外しながら叫び、走り出した。
「みんなぁっ!! 伏せろぉっ!!」
「おのれ性懲りも無く!!」
「でえぇああぁぁっ!!」
バーナードは手榴弾を投げずにランスに突進していった。それを受けてテックランサーを構えたランスは、バーナードの胸板を刺し貫く。だが、バーナードは致命傷を負いながらも手榴弾を持ったままランスの首に腕を巻きつかせ、目の部分に直接手榴弾を当てながら起爆した。
強烈な光が迸る。テッカマンランスはその光で右目の視力を失った。
「どぉだぁっ!! 宇宙用信号弾の味はぁっ!!」
 宇宙用信号弾とは、爆発力の無い閃光手榴弾の一種である。テッカマンに対して何一つ現状の武器が効果無いと知っていたバーナードは、時間稼ぎの為に決死の覚悟でランスの目潰しを狙ったのだ。
「ぬぉわぁっ!! ぐぅっ! おのれぇっ!!」
「ぐわああぁぁっ!!」
しがみ付いていたバーナードを強引に引き剥がすランス。致命傷を受けたバーナードは何とかフリーマンに受け止められた。
その時、ペガスが動き出した。
「なに!?」
腕に装着された固定具をその強力な腕部で壊しつつ外し、宙吊りになった状態から脱する。轟音と共にペガスがアキ達の目の前で着地する。
「Dボゥイ!」
「危ないアキさん!!」
 駆け寄ろうとしたアキをミリィが抱きつきながら止めた。ペガスが着地したとは言っても、まだ固定具が降ってくる恐れがあったからだ。
「や……やったか!?」
 フリーマンはペガスの状況を見て成功の可否を見定めた。すると、ペガスの頭部が開き出現する人影が。
「あれは……」
 その人影はテッカマンブレードだった。ブレードは碧の眼光を煌かせ、腕組みをしつつランスを睨み付ける。
「あれが、進化したテッカマンなの!?」
「進化したテッカマンだと!? 馬鹿な、何一つ変わっていないわ!!」
 ミリィの言葉を受けて、テッカマンランスはそう声を上げた。テッカマンが進化出来る等、彼は聞いた事も無かったからだ。その時、テッカマンブレードは突如雄叫びを上げた!!
「うおおぉぉっ!!」
 突如ブレードに変化が起こった。全身が碧の光、フェルミオン光に包まれ、外装のテックアーマーがまるで燃え上がる様な現象が起こると、その煌きの中から巨大なテックアーマーが出現する。ボルテッカ発射口を兼ね備えた巨大な肩は更に大きくなり、斜め上に鋭角的な外装を施す。腹部が見えていたボディのテックアーマーも同時に巨大化し、素体部分が見えなくなり、腋のフィンもそれに伴い装甲に覆われていく。勿論、下半身の装甲も隙間無く強化され、装甲の脆弱なテッカマンブレードがマッシブに変化していく印象があった。
「おおぉぉぉわあああぁぁっ!!」
 そして頭部の装甲形状も変化しガッシリとした仮面を装着し、最後に背部から巨大なフィンスラスターが伸長して変身を完了させた。これがDボゥイの、テッカマンブレードの新たな姿だった。
「こ、これが……!」
「進化したテッカマン、ブラスターテッカマンの姿だ」
 フリーマンがそう、アキに言った。その威容を形容するなら、翼をはためかす美しき白鳥の様であり、無慈悲な侵略を行うラダムに対しての、恐ろしい怒りの鬼神でもある。
その名もブラスターテッカマンブレード
「ブラスターテッカマンだと!? ば、馬鹿な! 我ら以上の完全体など存在しない! これでも喰らえぇぇっ!!」
 ランスは目の前に起こった現象を深く理解出来ずに、動揺しながらもブラスターブレードに奇襲を仕掛けた。両肩の三つの穴からレーザー光が迸る。フェルミオンの光の矢を無数に撃ち放つテックレーザーと称される武装だ。それはダガーのコスモボウガンと同種の武装であるが、速射力と連射力は桁違いの威力だった。
 両肩から放たれたテックレーザーは見事にブラスターブレードに集弾し直撃して爆風を起こした。通常のブレードならその攻撃を受けただけで戦闘不能になってしまう程の威力だといえるだろう。だが、
「ふん、他愛も無い……うん!?」
 ブラスターブレードは爆風から突如飛び出してきた。
「何っ!?」
 そしてテッカマンランスの首を掴むとそのまま壁に叩きつける。いや、そのまま壁を貫通し、まるで掘削するように各階の頑丈な床を打ち破って地上を目指していった。物凄いパワーだった。
「ブラスターテッカマンか……凄ぇじゃねぇか……」
 両テッカマンがいなくなった実験ブロックで、フリーマンに支えられたバーナードは急所を刺し貫かれ、瀕死だった。
「目が見えねぇのが残念だが……そ、そのパワー……ビンビン身体で感じるぜ……」
 力無く、既に視力すら侭ならないが、彼はDボゥイの生命力を、ブラスターブレードのパワーを肌で感じ取っていた。そして懐からウィスキー瓶を取り出し、
「これで一安心……ぐっぅう」
 栓を口で外し一口呷ると、呻き声を上げて瓶を取り落とす。
「バーナード!」
「バーナード軍曹!!」
 決死でランスに特攻した時間稼ぎは無駄では無かった。 
「ボ、ボウヤぁ……」
 アキとフリーマンに看取られ、バーナードは今わの際にそう一言告いで絶命したのだった。
「うぉわああぁぁっ!!」
 雄叫びをあげながら上昇する両者。ブラスターブレードは基地の隔壁すら軽々と打ち抜いていく。
「むぅっ!?」
「な、なんだ!!」
 丁度交戦していたバルザックとノアルがいた足元を打ち破ると、ブラスターブレードはランスを掴んだまま地上に躍り出た。 
「あれはっ!! ブレードっ!?」
 テッカマンブレードの形状がどう見てもいつもの姿とは違う。それを見てノアル達はDボゥイが調整を成功させて生まれ変わったのだと悟る。
「は、放せっ!! ボルテッカァァっ!!」
 超スピードでまだ上昇するブラスターブレード。ランスはブラスターブレードの掴んでいた右腕を両腕で何とか引き剥がした直後、首部に装備されているフェルミオン発射口を展開させ、ボルテッカを撃ち放った。
「ふん、幾ら進化したと言えども、この至近距離からのボルテッカではひとたまりも……」
 ランスのボルテッカ発射口は三門しかなく、ある意味テッカマン中では最も威力の低い武装であるが、ほぼ零距離からの反物質粒子砲はどんなテッカマンであろうとも消滅を免れないモノである。しかし!
「何っ!? まさかっ!!」
 赤い光の中からスパークを迸らせながら、ブラスターブレードが出現する。進化したブラスターテッカマンの装甲表面には、不可視の強力なフェルミオンバリアが施されている様だ。
ブラスターブレードは、背部スラスターを全開にして、ランスに掴みかかった。
「うぉわぁっ!?」
「クラッシュっ! イントルードっ!!」
 真上に何とか上昇し、回避したランスだったが、ブラスターブレードはすかさず特攻攻撃クラッシュイントルードでランスを追う。
「うおぉっ!! くあっ!!」
 音速の体当たりすらも凄まじく強化されている。ランスは重力制御能力を最大限に使用して特攻攻撃を跳ね返そうとしたが、逆に弾かれる始末だった。パワー、スピード、防御力、全てにおいて圧倒されているテッカマンランスは、ラダム獣の群れに混じって撤退を行おうとした。
「逃がすかぁっ!!」
 ブラスターブレードはガシンと音を立ててボルテッカ発射口を展開した。だが通常のブレードとは大いに違う。胸の前で両腕を水平に構えると、両肩と両肘の装甲がスライドする様に外側に展開した。肩と腕に三門ずつ、更に両腰に二門ずつ。計18門のボルテッカ発射口が顕わになった。
「うぅっ!! あぁあっ!?」
 それを目にしてテッカマンランスは恐れおののいた。自分自身の六倍モノ火力を想像する事が出来ずに、ランスはブラスターブレードから必死で距離を置いた。つまり死の恐怖を感じて怯え、逃げ惑ったのである。
 ごぉんと虚空が振動する。ブラスターブレードのエネルギーの集約する音だった。スパークを走らせながら、胸の前の空間が湾曲した。それに伴い、ブレードを中心にして重力波の変動が起こる。重力波とは通常で言えばブラックホールが存在する様な空間で起こる事象のはずだった。つまり、マイクロブラックホール並のエネルギーの集約が、ブラスターブレードに起こりつつあったのだ。
 それを受けて、周りに散在していたラダム獣に変化が起こった。陸上ラダム獣はまるで重力の塊に押し潰される様に圧壊し、空を漂っていた飛行ラダム獣さえも衝撃波で消し飛ばされた。これは全て、ボルテッカを撃つ前の余波である。余波だけで周囲にいるラダム獣を撃滅してしまう程に、そのエネルギーの集約は長大で強大だった。
「こりゃあやばそうだぜ!? ノアル!!」
「危ねぇっ!!」
 重力波が自分達に及びそうなのを見て、地上から見上げていたバルザックとノアルは危機を感じた。もう既に避難している時間が無い二人は、ラダム獣達が蹂躙した基地の残骸に隠れた。
「はあぁぁあぁっ!!」
 呻く様に、野性を剥き出しにする仮面の中のDボゥイは絶叫した!!
「ボォルゥテッカアアァァっ!!」
 ボルテッカを越える超ボルテッカ、ブラスターボルテッカが放たれた。発射される瞬間、ブレードのテッククリスタルが集約されたエネルギーの象徴となり、粉々に砕け散ると、暴風の様なエネルギーの奔流が巻き起こる。それはノーマルテッカマンボルテッカの比ではない。それは射撃する様な攻撃ではなかった。碧の光が面で襲ってくる、まるで天災の様な現象と言っても過言では無かった。
「うわああああぁぁあっ!!」
 目の前に迫る、碧の光のヴォルテックス。その渦が自分を呑み込んだ瞬間、テッカマンランスは断末魔の絶叫を上げた。反物質の台風とも言えるエネルギーが彼の全身を消滅させていったのだ。
 そして爆発。テッカマンランスとラダム獣の一群はその光に呑まれた瞬間巨大な火柱を上げた。そのエネルギー量は、テッカマンレイピアがその命を使ってエビル達を撃退させたあの時のエネルギーとほぼ同等だったと言える。
 全ての敵を撃破し、勝利したスペースナイツではあったが、ソルテッカマンの二人は建物に隠れたモノの、ブラスターボルテッカの余波で動けない程のダメージを受け、擱坐していた。
「凄ぇぜ! これが進化したテッカマンのパワーかよ!」
 バルザックはその壮絶な力を見て、頼もしくもあったが、恐ろしくもあった。
「ともかく、これでエンドマークってワケだ……」
「そのようだな……」
 戦闘が終了した時は既に夜になっていて二人は夜空を見上げた。北極圏の近くにあるアラスカには、また美しいオーロラが見えていた。
 崩壊し掛かった実験ブロックに、Dボゥイを収納したペガスが降り立つ。ブラスターボルテッカを撃った直後に発見されたブレードは、元のテッカマンに戻り意識を失っていた。それをペガスがテックセットルームに収納し、スペースナイツのメンバーの前に帰ってきたのだ。
「Dボゥイ!!」
 背部パネルが開き、Dボゥイが出てきたが、直ぐに膝を付いてしまう。アキが彼に駆け寄るが、Dボゥイの様子がおかしい。目は真っ赤に充血している。彼は視覚に変調を来たしていた。
「Dボゥイ? Dボゥイ!! チーフ……これは……」
「Dボゥイは……本来使ってはいけないパワーを放出してしまったんだ……」
 フリーマンが静かに、そう言った。まさか、目が見えなくなるとは思ってもいなかったらしい。
「そんな! じゃ、ブラスター化の影響って……!?」
 アキはそれを聞いて不安に思った。まさかこのまま更に他の感覚が消失していくのではないか、そんな風に動揺したのだ。
Dボゥイは確かに組織崩壊の危機から免れた。だが、ブラスター化に成功しても余命は三ヶ月となった。更に言えばこれは誰も成しえていない調整の成果であるから、今後どんな影響が起こるか、誰にも、分からないのだ。
「何処だ……みんな!? アキ……バーナード!」
 Dボゥイは立ち上がって、暗闇を歩く様に手を出して探した。
「何処だ……何処にいるんだ……!?」
 そんな目の見えない彼の姿が他の者達にとっては哀しく、辛い結実だった。
「何処だ……バーナード……」
 Dボゥイの足が、バーナードの遺体に触れる。彼が既に亡くなった事実を言うのが辛くて、堪らなくなって、アキは目を背けた。
「うぅっ!! うぉわああああぁぁぁぁっ!!」
 絶句するメンバーの前でDボゥイは絶叫する。確かにテッカマンブレードはラダムの襲撃に完全勝利したが、その代償は大きかった。バーナード軍曹の死と、Dボゥイの視覚の変調である。
残りのラダムテッカマンは三人。だが、これから彼の身に何が起ころうとも、Dボゥイは戦いを選ぶだろう。例え目が見えなくなろうが、四肢が千切れようが、戦いが行えるのなら、戦い続けるのだろう。
全てのテッカマンを葬り去るまで、その戦いには果ては無い。



☆っはい。さてもさても、ようやく出来た初のブラスター化の回でしたが……どうなんだろう、ちゃんと表現出来ているのでしょうか。やっぱり映像の迫力には負けるよなー。それでも無い頭捻って何とか作り上げたんです。コレを読んで、ブラスターテッカマンの迫力が追体験出来たらイイナ、と思っております。
 作画はやっぱり最高。41話の原画も勿論良いんですが、やはりブラスター初回は何度見ても最高の原画だと思います。後、サブリミナル画像(笑)オウム事件が起こって以来、そう言う画像は自粛されて言ったんだとか。これも時代ならでは、ですね。