第43話 訣別の銃弾(1992/12/15 放映)

タツノコっぽい顔です!

脚本:川崎ヒロユキ 絵コンテ:橋本伊央汰 演出:鈴木吉男 作監&メカ作監:工原しげき
作画評価レベル ★★★★☆

第42話予告
ついに始まったオービタル・リングの奪回作戦。
だが、記憶が欠落し変身できないDボゥイの前に、ラダムマザーが迫る。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「決別の銃弾」仮面の下の涙をぬぐえ。


イントロダクション
ブラスター化の代償として、過去を失い始めたDボゥイ。彼は、その病魔を自覚する事無く戦いに参加し、エビルを撃退した。
「俺は……!!」
「その通りだ。ブラスターテッカマンに進化する事により、君は肉体の組織崩壊を免れた。だが、崩壊は頭部に集中し、神経核は麻痺して君は徐々に記憶を失い始めたのだ」
「俺はミユキの好きな花さえも……!!」
Dボゥイは始めて、自分自身の身に何が起きているのかを認識した。


数ヶ月ぶりに碧の翼は、太陽の光を浴びながら蒼穹を飛ぶ。
 ほぼ全壊した機体も全て新調され、ブルーアース号は試験飛行を終えて、新生スペースナイツ基地の格納庫へと降り立った。乗っているのはアキ、ノアル、そしてバルザックの三人。彼らは修理を終えたブルーアース号で世界を飛び回り、たった今帰還した所だった。
「アキ、直ぐにこのデータ、解析に取り掛かろうぜ」
「えぇ、ブルーアース号が復活して、やっと手に入った世界各地の情報ですもんね!」
 バルザックにそう言われて、アキが応える。三人は喜色満面な面持ちと言う感じだった。やはり空を飛ぶのは爽快であり、心強い戦力が戻ってきた事に皆歓喜している。
 基地内の通路をそう会話しながら歩いている時、ノアルはアキが持っていたデータボードを取り上げながら、 
「ちょい待ち、アキ。コイツは俺がやっておくぜ。お前は行く所があるんだろ?」
 そう言った。仲間の気遣いに、アキは少し困った様な笑顔を見せる。本来データの解析は彼女の仕事ではあったが、基地から離れていた彼女には懸念があった。そう、戦う度に記憶を失うと言うDボゥイの事がいつも気掛かりだったのだ。
 そして今現在Dボゥイは、CTスキャンに掛かりながら懊悩していた。
――――俺は自分がDボゥイと呼ばれていた事も、ミユキが愛していた花の名前も忘れてしまった……今度は何を失うんだ? アキやノアルの事か? それとも……!!
 心中でそう呟きながら、Dボゥイは改めて自分が今どんな状況なのか再認識している状態だった。テックセットする度に記憶を失う。それは彼自身の目的にとって致命的な現状だった。ラダムと名の付く者を全て葬り去る。これは父孝三の願いでもあるし、妹への仇討ちでもある。
だが、もしラダムへの憎しみが、自分が戦うと言う行動原理すら記憶から抹消されてしまったら、自分はどうすればいいのか。守るべき仲間や愛する人の記憶まで失ってしまったら、自分はどう戦えばいいのか。そんな懸念が今、彼を支配していた。
 治療室の隣の経過観察室では、フリーマンやレビン、本田達がDボゥイの検査結果を心待ちにしている。
「ねぇ、チーフ、Dボゥイは大丈夫なんでしょう? 私達の事、忘れたりしないわよねぇ?」
「残念だが、神経核の麻痺を止める事はできない。最新の医療技術を以ってしても、生体組織の処置にも限界がある」
「はっきり言って……気休めか……」
 フリーマンのそう言った説明に、本田は落胆する。そんな時、観察室にアキが入ってきた。
「おう、帰ったか。Dボゥイの検査も、もう直ぐ終わるそうだぞ」
「Dボゥイ……」
 ガラスに貼り付く様にそう言いながら、アキはDボゥイを凝視する。今現状では彼に身体的な苦しみは無い。しかし彼の険しい表情が、彼の苦悩が痛い程にアキには伝わってきていたのだった。
丁度その頃、連合防衛軍兵舎の一室で一人の女性が鏡に向かっていた。野戦服を着た彼女は、イヤリングを外し、唇のルージュを拭き、腰のベルトに刺していたサバイバルナイフを抜くと、自分の髪をばっさりと切り始める。
彼女は数日前までは銃を握った事も無い女性だった。だが、ある報せを聞いて彼女は兵士に志願したのだ。
「出発だ、アンジェラ!」
 部屋の外で待っていた兵士が、彼女に呼び掛けた。
「行ってくるよ……あんた」
呼び掛けられた彼女は、鏡から視線を逸らし、傍らにある写真立てを手に取って言った。精悍な顔付きではあるが、一目で美人と分かる女性。年齢は三十代位であろうか。彼女は、写真立ての前に置いてあった拳銃を取って、腰のホルスターに装備すると、部屋を出た。
微笑みながら写真立てに写っていた男は、テッカマンランスの襲撃で命を落としたバーナード・オトゥールその人であった。
翌日、検査を終えたDボゥイであったが、結局の所その結果は現状維持が望ましい、と言う事だった。神経核の麻痺、頭部に集中した組織崩壊は彼の記憶を徐々に蝕んでいく事を止められない、それだけが分かったと言っても過言ではない。つまりテッカマンとなって戦う事は、最後の手段に用いるべきだろうと言うのが今後の方策だった。最後の手段とは即ち、テッカマンとの対戦である。
そして今、基地の指令所では数人の連合防衛軍兵士が集まって、スペースナイツのメンバーと対面していた。
「諸君、こちらは元防衛軍の兵士達だ」
 オレンジ色の野戦服を着た彼らは、この基地で戦死したバーナード・オトゥールの元部下達である。
「我々は、ゲリラ部隊を組織してORS奪回の為に攻撃を続けてきました。それが最近になって、軌道エレベーター内のラダム獣の数が減ってきている様なのです」
 リーダー格であるハンスが、ORSの現状を説明する。
「彼らはこの事実を我々に伝える為にやってきてくれたのだ」
 本来軍とスペースナイツの両者は水と油の様な組織体系ではあったが、半年以上前の軍司令部の崩壊で、命令系統に致命的な齟齬が生じ、今現在彼らは独立愚連隊となってラダムに挑んでいる。そんな彼ら、最前線で戦う兵士達に、フリーマンは定期的に支援を行っていたのだ。
 そして今、情報をスペースナイツにもたらす為に此処に来たとフリーマンは言っているが実際には、Dボゥイと言う最後の砦を守る為の支援要員として、彼らを仲間に引き入れたと言い換えても良かった。
「ラダム獣の減少は軌道エレベーターの中だけではない。諸君がブルーアース号で集めた情報を解析した結果、世界各地に棲息していたラダム獣も、急速にラダム樹へと変化しているのだ」
「それじゃ……ラダムはいよいよ!」
「侵略は最終段階に入りつつあると思って、間違いない」
 強張ったノアルの言葉に、フリーマンは静かに応えた。
「ど、どぅしよぉ!?」
「ラダム樹が花開く前に、何とか奴らの月基地を叩かねぇと!」
「だけど、ブルーアース号のカタパルトは、まだ修理が終わっていないわ!?」
「月どころか大気圏脱出も無理となりゃあ、打つ手なしか……」
 スペースナイツの面々に動揺が広がる。ラダム樹の花が咲けば、其処彼処に避難している人々を強制的に取り込み、素体テッカマンと化していく。そして月の裏側にあるラダム基地が地球へ到達すれば、取り込まれた人々が全てテッカマンになり、ラダムの尖兵になるだろう。そうなれば人類が敗北する事は目に見えていた。
「そこで諸君は彼らと協力して、ORSを奪回し、その機能を回復してもらいたい」
「ラダム獣が減った隙を突くってワケね」
 ノアルがフリーマンの言葉にそう応える。打つ手が無い訳ではない、フリーマンはそう言いたげに、コンソールを操作してメインモニターにORS概略図を表示した。
「ORSには、八箇所のスペースポートがある。これらを一つでも奪回すれば、再び宇宙へ飛び立つことが出来る。また、通信システムを修復すれば、寸断されている地上の交信も復活させる事が可能だ」
 概略図には地球を中心に、八つの拠点がリングで結ばれている。各々には地球へと降下する為の軌道エレベーターが配置されていた。
「そして、これが最も重要なポイントだが……万が一ラダム樹の開花が始まったら、人々の避難場所としてORSを使用することが出来る」
「なぁるほど!」
「一石二鳥、、ううん、一石三鳥じゃない! ねぇ! ノアルぅ!」
「皆まで言うなって! 今までの借り、全部まとめて叩き返してやるぜ!!」
「軍曹の分もな!」
 ORSの奪還は、言わずもがな人類にとって生き延びる方策であり、悲願である。フリーマンの説明にレビンやノアルが気概を露にする。そしてバーナードの元部下であるハンスにとっては、敵討ちの作戦でもあった。
「レビン、通信システムの復旧作業には君が必要だ。同行してくれたまえ」
「ラーサ!」
「我々に残された時間は少ない。直ちに行動を開始せよ!」
「ラーサ!!」
 フリーマンの号令に、スペースナイツと元防衛軍の兵士達が応えた。
その直後、指令所に入って来た者がいた。少し気だるい表情をしたDボゥイである。
「Dボゥイ!」
「無茶するな!」
 アキとノアルが直ぐに彼の身を案じる様に言って駆け寄った。
「Dボゥイ……?」
 その固有名詞を聞いて、兵士の一人、赤毛の女性が怪訝な声を上げる。つい最近義勇兵に参加したアンジェラと呼ばれた女性である。
 Dボゥイは、アキとノアルに異常は無い、と言う振りをしてフリーマンに向かって言う。
「チーフ……その作戦、俺にも参加させてくれ!」
「だが君は……!」
 フリーマンにとっては正直、Dボゥイを戦いに出したくは無かった。だが、ORSからラダム獣の数が減ったとしても、不確定な要素がまだ幾らでもあった。不確定な要素、それは敵テッカマンの存在である。
 Dボゥイが作戦参加の意思を表した時、兵士達から歓声が沸いた。
テッカマンブレードが一緒に来てくれるなら、作戦は成功したも同じだぜ!!」
 兵士達は今のテッカマンブレードの状態を良くは知らない。折角士気が上がっている所にフリーマンも作戦に参加させる訳にはいかないと、水を差すワケにもいかなかった。
「待って! Dボゥイ!!」
「いいんだアキ! 同じ苦しむのなら……戦いの方がマシだ」
「……っ!」
 だがアキは止めるべきだと思って声をあげたが、Dボゥイ鋭い眼光と言葉で制する。
「よぉぉし気合入れてけよ野郎共ぉ!」
「おぉっ!!」
 かくして、ORS再奪還作戦が開始された。以前コルベット准将が行なった、数百人規模のオペレーションヘブンに比べれば、僅か十数人の必要最小限の作戦であろう。
 その頃、ORSのラダム獣の巣、通称蜘蛛の巣と呼ばれる場所では、獣達の卵、ラダム獣の胎児が卵管を伝って次々と生まれ出でている。その様は何処と無く蛙の産卵に似ているが、大きさは蛙の比ではない。そしてその卵管は天井から伸びていて、そこには巨大な何かが蠢いている。
 その場所はラダム獣の育成培養プラントである。以前、スペースナイツと防衛軍が協力で行なった作戦、オペレーションサンセットにおいて、エネルギージェネレーターは破壊され、ラダム側は無尽蔵とも言える電力供給の恩恵を受けられなくなり、ラダム獣の育成は困難になった。いや、はずであった。
 機械と生物の異形が混在した育成プラントに、音も無く人が現れる。今現在ORSのラダム獣育成の統括を行なっているフォン・リー。テッカマンソードである。
「地球に到達したラダム獣は、オメガ様の求める数となった……お前の役目も終わったわ、ラダムマザー」
 天井を見上げながら、フォンはそう言った。ラダムマザーと呼ばれる個体。天井付近に張り付いているそれはラダム獣を産卵・育成する目的で調整された巨大なラダム獣である。
 Dボゥイ達が旧イスラエル地区で遭遇した超巨大ラダム獣よりは小さいが、それでもその威容は10m以上程の大きさがある。巨大な頭部は王冠の様に左右に広がり、通常のラダム獣とは逆にその胴体は細く長い。実はオペレーションサンセットが行なわれた後でも、ラダム側はラダム獣の育成が大幅に減少されたものの、絶無になったワケではなかった。この、巨大なラダムマザーと呼ばれる個体が、ORSの機械に根を張り、ソーラー発電から直接、エネルギーの供給を可能にしていたのだ。
「お前に最後の命令を与える」
 そうフォンは言うと、精神感応でラダムマザーに指令を与えた。その命令を巨大な獣が受諾すると、形容し難い咆哮をあげる。細い胴体から繋がっている透明な卵管が千切れる様に外れ、隔壁に突き立てていた爪を外すと、ラダムマザーは轟音と共に育成プラントの床に降り立った。
 そして突如その爪を卵管に振り下ろすと、透明な管が液体を溢れさせながら破れ、中に入っていた卵が露わになる。そして丸裸になった、胎児の卵に触手を纏わせると、吸引するかの如く胎児の生命力を吸収していく。生命を吸われた胎児は、急激に干からびていった。ラダムマザーはその動作を繰り返し行い、次々とラダム胎児の生命エネルギーを吸収していった。
「そうよ……そうして我が子を喰らい、力をその身に蓄えるがいいわ。来るべき時に備えてね……ふふふ」
 フォンはその異常な光景を頼もしそうに見ている。彼女の侵入者への罠は、まだ始まったばかりだった。
「高度200kmまでは既に制圧している。其処までなら復旧した軌道エレベーターで行く事が可能だ」
 青空が広がる日中、軌道エレベーター基地前にスペースナイツとハンス達元防衛軍兵士達は気密服を着て集合している。彼らはブルーアース号を降りて、後部コンテナから武器や電子機器を積載したホバークルーザーを降ろす作業を行なっている最中だった。
その最中、Dボゥイ達は改めて天への道、軌道エレベーターを見上げた。
「それより先は、行ってからのお楽しみってワケか……」
「ラダム獣がいるかいないか、それは我々にも全く分からん!」
 ノアルの言葉に、ハンスはそう応える。彼らは何度か此処に来てゲリラ活動を行なっていたが、軌道エレベーターの頂上にあるORS区画はまだ未探索の状況だった。
「ペガスぅ? あんたのご主人は今、色々と大変なんだから、しっかり守ってあげなさいよぉ!」
「ラーサー」
「Dボゥイ! ペガスの準備は万全よぉ! あなたのガードは、バッチシ任せてよぉ!」
「Dボゥイ……ノアルやバルザックも一緒なんだから、無理にあなたが変身する事はないのよ」
「あぁ」
 レビンはペガスに対してDボゥイへのガードを最優先にする、と言う指令を出し、アキはその様を見てDボゥイに語りかける。スペースナイツのメンバーにしてみれば、それだけ懸念する事態であった。もう気軽にテックセットする事は出来ないと。  
「ミセスアンジェラ、武器の使い方は?」
「今日と言う日の為に全部マスターしておいたわよ」
「とにかくあんた、戦争のプロじゃない。常に我々の中央にいてください、いいですね? アンジェラ!」
 防衛軍兵士達の間では、義勇兵に志願したアンジェラの身を案じてそう語り掛けている。
――――Dボゥイ……!
 しかしアンジェラは話半分に、軌道エレベーターを見上げているDボゥイを見つめている。手に持った拳銃を握り締め、彼女はずっとDボゥイの横顔を見続けていた。
 軌道エレベーターで徐々に宇宙へと近付くDボゥイ達。エレベーター内はラダム獣に蹂躙された跡はあったが、電源が回復し搬入用の巨大エレベーターまで復旧する程に施設は整えられていた。以前バーナード達が徒歩でORSを目指した時の、荒れ果てた内部に比べたら格段に昇りやすくなっていた。
 だが、昇りやすくなっても、危険度は過去に比べれば格段に違った。
――――ソード……!
 Dボゥイの額がクリスタルの紋章を象り、彼女の精神感応を感じる。自由に動けるラダムのテッカマンは残り二人。いつも殺意と共に感じるエビルの感応波とは違う。これはテッカマンソードだとDボゥイは断定した。
――――やはり来たわね……ブレード!
 そしてフォンもまたDボゥイの精神波を感じ取り、戦闘態勢を整える為にテックセットを行なう。丸みを帯びた仮面の中で、赤い眼光が煌くのだった。

            〇

「異常なし! この分なら中央コントロールルームまでは、問題無さそうだな」
 ORS区画に入ったメンバーはレーダー機器を見ながらホバークラフトに乗って移動している。やはりORS内は獣達に蹂躙された跡が其処彼処に広がっていた。しかし、
「んっ!」
 突如隔壁をぶち抜いてラダム獣が出現する。ノアルとバルザックソルテッカマン達が前に出ようとしたが、
「ラダム獣の二・三匹、我々で充分だ!」
 ハンス達がそう言ってソルテッカマンの動きを制する。
「伏せてろぉっ!!」
 グレネードランチャーを構えたハンス達防衛軍兵士が前に出て、叫びながら撃つ。放物線を描きながらランチャーの弾頭はラダム獣の頭上で破裂すると、弾頭内に入っていた針状の弾が獣達の頸部を直撃した。直後、ラダム獣が咆哮を上げながら苦しみ、針を中心にして表皮が膨れ上がり破裂する様に爆散した。
「へぇ! やるじゃないの!」
 そうノアルが感嘆の声をあげる。以前のレーザーガンと爆発物だけで戦ってきた連合防衛軍兵士達とは大違いの手際の良さだった。彼らが装備しているのは対ラダム獣用新兵器「ニードル弾」である。外皮が強靭なラダム獣に対抗する為に開発された兵器で、その特徴は対象を内部から破壊する、と言うモノである。
比較的外皮が柔らかい頸部等にニードル状の弾頭を突き刺し、生体信号を読み取って電磁パルスを獣の内部へ送り込み、ラダム獣が体内に蓄積している生体エネルギーを刺激して誘爆させると言う、ある意味ラダム獣だけを殺す為に特化した武装である。それに通常のグレネードランチャーから発射される弾頭である為、新しい銃器を開発する必要の無い、画期的な新武装であるとも言えた。
勿論、これはラダム獣の生体を知り尽くした者でしか作りえない武装である。つまり、これもフリーマンがハンス達に供与した武装の一つであった。フェルミオン砲、ラダム獣の爪を加工した弾頭、そしてニードル弾。ラダムの侵略が始まって以来の過去とは違い、既に地球側はラダム獣を克服していたのだ。
「それにしても妙だぜ、いつもならこぞって出てくる連中が、たった三匹で打ち止めなんてよ」
「中央コントロールルームに急ぎましょう。あそこの機能を回復すればORS内の様子は全て分かるはずだわ」
「ラーサ!」
 アキの提案にノアルがそう応える。バルザックの言う通り、確かにORS区画内は獣達の住処だったはずだ。もう既に、ラダム獣が此処に居座る意義が無くなったのだろうか?
そしてアラスカのスペースナイツ基地では、彼らの動向をオペレーターと本田、そしてフリーマンがモニターで見守っている。
軌道エレベーターエリア、無事通過。間も無く中央コントロールルームに到着します」
「頼むぜぇ!」
 本田はそう言いながら拳を握りつつ応援し、フリーマンは無言で、先程の襲撃以降全く障害に遭わずに中央コントロールルーム付近に辿り着くDボゥイ達を見ていた。うまく行き過ぎている、と思ってもいた。
 そしてコントロールルームの隔壁を開くと、
「おぉっ!?」
「なんてこった!!」
「やってくれるじゃねぇか」
 ルーム内の状態を見て彼らは目を見張った。全ての機器が破壊されている。破壊の規模は小さいが、ラダム獣の様な無差別な破壊とは違い、機器の基盤や中枢回路を効率的に破損させられている。 
「気をつけろ? 敵はまだこの辺りにいるかも知れん!」
 ハンスがそう、他のメンバーに気をつける様に言った。引っかき傷の様な破損が無いのを見れば、この有様はラダム獣が行なった破壊ではないと言う事が窺える。むしろ何かで打撃された跡が多かった。
「レビン、復旧の見込みは!?」
「……通信システムだけなら、何とか!」
 ノアルが破損の状態を聞いてレビンがそう応える。無傷な機器を探すのが困難な位に破損は酷い状況だったが、持ってきた資材を使えば復旧する事も可能であるらしい。
 そしてその頃、第三スペースポートでは、テッカマンソードが瓦礫の上で、ほくそ笑んでいた。
「あと二つ……ブレード、ゲームはまだまだこれからよ!」
 残存していたスペースシップは完全に破壊され、港湾施設もほぼ壊滅状態であり、辺りには炎さえ吹き出ている。空気の流出も起こって、そのスペースポートは完全に港としての機能を失っている様だ。
 レビンの持っている端末に第三スペースポートが異常を来たしている事を示した。これはつまり、このコントロールルームを破壊した主が行なっている妨害だと誰もが思った。そしてその目的は、自分達を月に行かせない事である。
「使用可能なスペースポートで、此処から一番近い所は何処だ!?」
 Dボゥイが鋭くレビンに尋ねる。 
「えぇっとぉ……第八スペースポートよ! あ、あ? ちょっとちょっとぉ!!」
 そう聞くや否や、Dボゥイは乗ってきたクルーザーに飛び乗る。ペガスに追従する様に指示を出し、第三スペースポートに即座に向かった。こうなると時間との勝負であった。 
「Dボゥイ!」
「Dボゥイの奴……ノアル! お前は残ってアキ達を護衛してくれ! 俺はDボゥイを!」
「分かった!!」
「頼んだわよ! バルザック!」
 ソルテッカマン達とレビンの数瞬のやり取りで、今回彼をサポートするのはバルザックと決まった。更に、
「ロイ! お前たち三名は此処に残って通信システムの修理! 俺達はDボゥイの援護に回る!」
「了解!」
 防衛軍の兵士達も、もう一台のクルーザーでDボゥイの支援に当たる事を決める。その時、アンジェラがクルーザーに乗り込みながらリーダーのハンスに叫ぶ様に言う。
「ハンス、あたしも行くよ!」
「君は此処に残ってくれ!」
「行くったら行くよ!」
「だが……アンジェラ!」
 正直な話ハンスは、アンジェラをこの中央コントロールルームの防衛につかせたかった。これから行く場所は敵との交戦確率が非常に高い。一応訓練は受けているとは言え彼女は戦闘経験が皆無な、ただの素人である。
「どうしても聞きたい事があるんだよ……あのボウヤにね」
 しかし彼女はそう、静かに言いながら決意を露わにするのだった。
 ORS区画を高速で進む二台のクルーザー。それにペガスと、バルザックソルテッカマン一号機改が追従している。結局ハンスはアンジェラの必死さに折れる事になった。ハンス達防衛軍兵士の四人がもう一台のクルーザーに乗り、Dボゥイのクルーザーにはアンジェラが乗っている。
「話ってなんだ?」
 Dボゥイがそう、アンジェラに聞いた。気密服の通信機はアンジェラとの個人通信に設定されている。他の者達には二人の会話は聞こえない。
「聞かせて欲しいのさ、あの人の最後を」
「あの人?」
「バーナード・オトゥール、あんたの事ボウヤって呼んでた男の事さ」
「バーナード……オトゥール……?」
 聞き覚えの無い様な顔をして、Dボゥイは訝しげな声をあげる。バーナード軍曹、Dボゥイがブラスターテッカマンに調整されている時、身を挺して彼を守った男である。そしてアンジェラの姓名はアンジェラ・オトゥール。彼女はバーナードの妻であった。
「あんたに会った後……あの人本当に嬉しそうだった。久し振りに本物の戦士に会ったって。本当に嬉しそうに話してくれたんだ……あんたの事」
――――ボウヤ、これから戦場で生きていくつもりだったらコレだけは言っておく。お偉いさんが何と言おうと、戦場で戦うのは俺達兵士だ。死んじまったら元も子もねぇ。まず生き残ること、生きて帰って、仲間の命を守り続けること。それが戦場の掟だ! 軍人として、いや、しがねぇ古参兵からのアドバイスだ――――
 かつて、Dボゥイに対してバーナードの言った言葉である。それはまだ、Dボゥイがスペースナイツに参加したばかりの頃に、バーナード達の任務を手伝い成功に導いた時の言葉だった。
「バーナードは……あたしの全てだった」
 アンジェラは彼を懐かしむ様に虚空を見つめる。
「あの人は戦場へ戻る時、いつもあたしの目覚める前に出て行っちまうんだ。テーブルの上にこの銃を置いてね。会ってる時こそ少なかったけれど、あたしって言う港があるから戦えるって、いつも言ってくれた」
 バーナードは任務の早朝、決まって彼女が寝ている間にそっと、静かに自宅から出て行った。いつ死ぬか分からない、いつも危険な任務に身を置いていたからか、彼はアンジェラと別れの言葉をかわしたり、今生の別れをそれとなく避けていた。それは、必ず帰還すると言う願掛けの様なモノだったのかもしれない。アンジェラの手には鈍く光る火薬式の拳銃が握られている。今となってはそれだけが、バーナードとアンジェラを繋ぐ絆であり、形見でもあった。
「……自分が留守の間これを俺だと思ってろって……でもあの人はもう、帰ってこない……」
「バーナード……オトゥール……」
「御願いだよDボゥイ! あんたあの人の最後を見たんだろ!? あたしに聞かせて欲しいんだよ! あの人の最後を!」
 クルーザーを操縦するDボゥイに、半ば掴み掛かる様にアンジェラは言った。バーナードの最後がどんな風であったのか、それが今一番彼女が気に掛かる事だった。
しかしDボゥイは応えられない。何度も自分を救い、戦士の約束とも言うべき心得を教えてくれた防衛軍の隻眼の男。アックスとの死闘で窮地に立たされた自分を救い、ランスの凶刃に散っていった男。
――――バーナード……誰だそいつは……一体誰なんだ!? 俺はそんな男の事は……! またか! 俺はまた記憶を!?
 疑念が確信へと変わる。そうだ、確かに自分はアックスと戦っている時に誰かに助けてもらった。それは確かに防衛軍兵士の軍服を着た誰かだったが、その顔が靄が掛かったように思い出せない。
「応えておくれよDボゥイ! Dボゥイっ!!」
そして何度も懇願するように自分に聞くアンジェラに対して、意を決したかのように語った。
「すまない……!」
「え……?」
 その頃、中央コントロールルームでは復旧作業が続いている。先程まで照明すら灯っていなかった部屋だったが、今現在では明るくなり随分作業もし易くなっている。メンテナンスハッチに上半身を突っ込み、レビンは修復作業に勤しんでいたが、突然基盤にスパークが走り、ボン!と破裂して黒煙をあげる。
「レビン!?」
「ごほっげほっ」
 その様を見てアキは驚いて声を掛ける。レビンはハッチから脱して激しく咳き込んでいるがどうやら無事の様だ。
「レビン……」
「大丈夫……大丈夫! もぉう! まったくなんてやらしい壊し方なのぉ!? 此処を壊した奴って、けっこぉ性格悪いわよ! 絶対よ!」
 ペンチを握り締めながらレビンは言い、そんな彼を見ながらアキは苦笑した。
実際に此処を破壊したのはテッカマンソードではあるが、彼女もまたアルゴス号のメンバーに選ばれる才覚を有していた。何処をどうやって壊せば復旧作業が滞るかは理解しての破壊行為なのだろう。
「……Dボゥイ」
 そしてアキは離れているDボゥイを気に掛けた。彼女がDボゥイの身を案じるのはいつもの事ではあるが、今度の敵は他のテッカマンの様に直接襲ってくるストレートな相手ではない。アキはまるで、蜘蛛の糸に絡め取られている様な、自分達が罠の中に飛び込んでしまったかの様な感覚に陥って不安に思ったのだった。
「それじゃあんた、いずれは何もかも忘れちまうっていうのかい!?」
 高速で移動するクルーザーの中で、アンジェラは驚愕した。中央コントロールルームを離れてから数時間の間、結局Dボゥイはアンジェラに自分の状態を包み隠さず話した。自分がテックセットする度に、記憶が部分的に欠落すると言う症状を患っていると言う事を。今では殺された妹が好きだった花の名前すら思い出せないと言う事を。そして、Dボゥイは恐怖していた。
「分からない……だが俺は……俺は怖いんだ。ラダムへの怒りを、憎しみを忘れてしまったら……もう奴らと、戦う力すら無くしてしまいそうで……!」
 アンジェラは息を呑んだ。そして、Dボゥイの横顔が苦悩に満ちているのを見てとてもバーナードの最後を聴く事が出来なくなった。アンジェラも理解したのだ。Dボゥイは組織崩壊の影響でバーナードの事を忘れてしまった事を。
「ここで忘れてしまったら、俺は何の為に今まで戦ってきたと言うんだ!! 」
 拳を握りながら吐露する様に言うDボゥイ。そんな彼の様を見て、アンジェラは静かに言った。形見であるレーザーガンを握り締めながら。 
「あんたも……愛していた者を全部ラダムに奪われたんだろ……だったら大丈夫さ」
「え……」
「人の心ってのはそんなヤワじゃない。愛した者を奪われたんだ! その怨みは死んだって忘れやしないよ。 忘れて……たまるかってんだ……!」
「アンジェラ……」
 アンジェラの、悲しみと怒りがない交ぜになった瞳を見る。例え全てを忘れてしまったとしても、人の心の強さをアンジェラはDボゥイに示した。そして、彼女は歌った。
「♪おぉダニィボーイ、笛の呼ぶ声ぇ〜♪」
「その歌は?」
「あの人がよく口ずさんでいた歌さ。谷間にぃ〜山をくだりぃ〜行く夏ぅ〜花も散り果ぁてぇ〜♪」
 夫が良く謡っていた歌をアンジェラは口ずさむ。Dボゥイはやはり聴き覚えが無い歌だったが、どこか懐かしい郷愁に捉われる。バーナードの事は完全に忘れていたとしても、身体はその歌に反応している。
 そしてアンジェラの歌に呼応するかの様に、突然ペガスも音声を発した。
「♪ユクナツーハナモチリハテー♪」
「ペガス! お前!?」
「メモリーバンクニ、ソノオンガクデータガアリマス」
「きっとあの人が教えたんだね……」
 アンジェラはあの人らしい、と想う。そして嬉しかった。例えバーナードが死んでも、彼の歌は何かしらの形でこうして残っている。夫の生きた証があった、それだけでもう充分だった。 
「でかい反応だ!」
 センサーを手にしたハンスがそう言って、Dボゥイ達に合図した。二人は無線をオンにして戦闘体勢を取る第八スペースポートまで後数十キロと言う地点で、ハンス達はクルーザーを止めて、敵の襲撃に備える。
 すると突如前方の床を打ち破りながら、何かが彼らの行き先を遮った。
「攻撃準備! アンジェラ! 君は隠れていろ!」
「ペガス!」
「ラーサー!」
「Dボゥイ! テックセットするな! 俺達に任せろ!」
 テックセットする為にDボゥイはペガスを呼んだが、バルザックがすかさずそれを止めた。眼前にいるのはラダム獣である。ソルテッカマンとニードル弾だけで対処可能かと思われたからだ。だが、
「なんだあの馬鹿デカイ野郎はっ! 撃てぇっ!!」
 その巨躯は明らかに既存のラダム獣とは異なっていた。頭部が大きく頸部が見えない、細い胴体をしていても通常の獣とは数倍大きい。ハンス達はラダムマザーの存在を見て驚愕していた。
 攻撃を行う兵士達。ソルテッカマンの拡散フェルミオン砲が唸り、ハンス達のライフルが火を吹く。ラダム獣の爪を弾頭にした火薬式の機関銃や、火炎を起こすナパーム弾などありとあらゆる砲火がラダムマザーを撃ったが、巨大な獣は意に介さず少しずつ近付いてくる。それに伴いハンス達もじりじりと後退してしまう。
「いつもの奴とは、勝手が違うぜ!」
 何発撃ち込んでも、倒れる事の無い巨躯。バルザックフェルミオン砲を撃ちながら効果が無い事を驚きながら叫ぶ。
「目だ! 目にニードル砲を撃ち込めぇっ!!」
 対ラダム獣の兵器、ニードル弾を構えるハンス達。通常は胴体に近い頸部の真上を狙って撃つ装備ではあるが、巨大な頭部があるせいで脆弱な首を狙えない。それにニードル砲はその特性上、標的の真上で破裂する為、脆い部分と言えば複眼に当たる部分を狙うしかなった。
ニードル弾のランチャーが火を吹く。だが、ハンス達のニードル弾は寸分違わず複眼付近に着弾したが、連鎖誘爆が起きなかった。
「くそっ! 不発か!!」
「生体信号が、普通のラダム獣と違うんだ!!」
「皆、ニードル弾を狙え! 直に衝撃を与えて、誘爆させるんだ!!」
 ランチャーからレーザーライフルへと武装を換えたハンス達は、ラダムマザーの足元へ走る。
「ハンス!!」
「駄目だ! 近付くな!!」
 Dボゥイとバルザックが止めようとするが、防衛軍兵士達はライフルを構えてラダムマザーの顔面を撃った。
「おぉぉっ!!」
 しかし標的はニードル弾、つまり数センチしかない的である。しかもニードル弾が刺さったラダムマザーは絶えず動きまわっている。目標に当てるのは至難の業であった。
 そして、ラダムマザーも自分の足元にいる者達を黙って見ているはずが無かった。顎部がばっくりと割れると、爪の生えた舌から溶解液を振り撒いた。
「ハンスぅぅっ!!」
 アンジェラが叫ぶ。ハンスやその仲間の兵士達は溶解液で断末魔を上げる間も無く溶かされ、殺されていった。残ったのは兵士達が纏っていたプロテクターの残骸だけだった。
「ペガス! テックセッタァァっ!!」
 最早躊躇っている状態ではなかった。Dボゥイはテックセットし、テッカマンブレードへと変身して直ぐ様ラダムマザーの頭部にテックランサーを突き立てたが、いつもなら深々と突き刺さる槍が僅か数センチ外殻を削る事しか出来なかった。バルザックソルテッカマンも、残った数人の兵士達も銃撃するが、巨躯の皮を数ミリ削る事しか出来ない。 
「くそぉっ!! ビクともしねぇっ!!」
 ラダムマザーは巨大な爪と溶解液でDボゥイ達に攻撃を仕掛けてきた。爪は其処彼処の床に穴を空け、バルザックは着地の際その穴で足を取られ転倒してしまう。溶解液の追い討ちがバルザックを襲ったが、間一髪転がって避ける。
 高機動で空中を飛び回りながら攻撃を仕掛けるブレードだったが、通常のラダム獣よりも更に長く多い触手が襲い掛かってくる。ランサーで切り裂きながら本体に近付こうとしたが、腕と腹に触手が巻き付き壁に叩きつけられてしまった。
「Dボゥイ!!」
 バルザックもラダムマザーに突撃してブレードの拘束をフェルミオン砲で解こうとしたが、巨大な爪で薙がれると反対の壁に跳ね飛ばされる。更にソルテッカマンの頭部に、その爪が突き立てられた。
バルザック!?」
 爪はソルテッカマンのバイザーを貫通し、背後の壁に完全に縫い止められている。その直後ソルテッカマンは微動だにしなかった為、ブレードはバルザックが即死したと思ったが、中にいるバルザックは爪が突き立てられた衝撃で気絶していただけだった。
バルザック! Dボゥイ!」
 アンジェラは二人の身を案じて叫ぶ。状況は最悪だった。バルザックは戦闘不能であり、ブレードは身動き取れない。ラダムマザーの前進は止まっていたが、これではスペースポートに向かう所ではない。
 アンジェラは現状を見て、溜まらずに走り出した。
「アンジェラっ!?」
 残った兵士達の止める声も聞かずにアンジェラはラダムマザーの頭部を銃撃しながら走る。
「来るなっ!! アンジェラ! アンジェラぁぁっ!!」
 テッカマンブレードが叫ぶ。しかしアンジェラはそれを聞いたとしても前進を止めるつもりは無かった。
――――やらせるもんか……あの人が目を掛けていたDボゥイを……やらせるもんかっ!!
 そう心中で叫びながら、アンジェラは撃った。自分の命を投げ打ってでも、Dボゥイを助ける事しか頭に無かった。夫であるバーナードはこの青年を守って命を落としたに違いないと、彼女は何の確信も無かったのにそう考えた。だからこそ、バーナードの様に守らなければ。そう思って彼女は走ったのだ。
 しかし、運命は非情だった。
「くはぁっ!!」
「アンジェラっ!!」
 ラダムマザーにはまだ攻撃用の触手が残っていた。鋭利な爪が先端に付いた触手はアンジェラの腹部をいとも容易く貫く。吐血し、ライフルを落としてしまったアンジェラは獣の頭部の真ん前に持ち上げられた。まるで、狩りで得たエモノに対し誇る様に、舌なめずりする様に。 
「ぐふぅっ……ニ、ニードル弾……」
 アンジェラの視界が霞む。目の前のラダムマザーの頭部には数発のニードル弾が刺さっている。
「あ……アンジェラ……アンジェラっ!?」
 ブレードは目を疑った。アンジェラは腰のホルスターから愛銃を取り出すと、正面に構えたのだ。既に致命傷だった彼女は、ニードル弾を誘爆させてブレードの拘束を解こうとしているのだ。
「あ……あたしも……あんたの思い出になるよ……忘れるんじゃないよぉ……その……怒りを……!」
「やめろぉぉぉっ!!」
 アンジェラにはしっかりと、ニードル弾が見えた。そして少しだけ微笑みながら、涙を流した。
「今……そっちに行くよぉ……アンタァ……」
「アンジェラァァっ!!」
 一発だけ、銃声が響き渡った。銃弾は寸分違わずニードル弾を直撃し爆発が起こる。他のニードル弾諸共誘爆が起こったのだ。その爆発でアンジェラは吹き飛び、ブレードは拘束を解かれた。
「うおおぉぉああぁぁっ!!」
 ブレードは拘束が解かれた直後、一瞬でブラスター化する。ブレードはブラスターテッカマンブレードとなってボルテッカ発射口を露にした。
「ボォルゥテッカァァッ!!」
 反物質の唸りであるブラスターボルテッカがラダムマザーを直撃する。通常なら、対消滅が起こりラダムマザーは消し飛ぶはずだった。しかし、
「掛かったな? ブレード!!」
 その刹那、テッカマンソードがそう叫んだ。精神感応でラダムマザーが討たれた事を知ったのだ。
「なにぃっ!? ぐわああぁぁっ!!」
 ソードの精神波を聞いたブレードはその瞬間、閃光を目にする。そして、大爆発が起こった。
「やったぁっ!! 通信システム修復完了よぉ!」
 その頃、中央コントロールルームではレビンが歓喜の声をあげていた。目の前の大きなモニターが点灯し、データを読むことまで出来る様に復旧していた。しかし、突然の衝撃でまたモニターがオフになってしまう。
「えぇっ!? どうしちゃったの? いったい!?」
 レビンは持ってきた端末で現状を調べる。すると、第八スペースポートから数十キロの場所で異常が起こった事を知る。
「これって……衝撃波による影響だわ!」
「衝撃波!? Dボゥイ!」
 アキがDボゥイの身を案じた。やはりついていくべきだったと思い、後悔した。
 そして第七スペースポートでは、テッカマンソードが残骸の上で笑っている。まんまと策にはまったDボゥイを笑っているのだ。
「ふっふっはっは……ラダムマザーはラダム獣の胎児を体内に吸収し、エネルギーの塊となっていた。ボルテッカを放てば、急激な反応により巨大なエネルギー波が放出される。ブレードも無事では済まぬはず……残るは第八スペースポート。ゲームは続くぞ! ブレード!!」
 そう言いながら、テッカマンソードは第七スペースポートを後にした。地球人の月到達の妨害と、ブレードの抹殺、それが彼女に課せられた務めである。それはある意味、九割方成功していたと言っても良かった。
「う……くっ……一体何が起きたんだ……バルザック……バルザック、みんな!?」
 テックセットを解除し、ペガスから出てきたDボゥイはうずくまり、呻く様に言った。しかし周りには誰もいない。ラダムマザーの爆発で全てが吹き飛んでしまったのだ。乗ってきたクルーザーも、ソルテッカマンも、そして……アンジェラの遺骸も。
 立ち上がろうとした時、何かが足に当たる。
「あ……アンジェラ……」
 拾うと、それはアンジェラが持っていたバーナードの形見、火薬式の拳銃だった。
「アンジェラ……許してくれ……俺はあんたを助ける事が出来なかった……」
 Dボゥイは激しく後悔していた。もっとうまく戦えればこんな事にはならなかったと。もっと大きな力で矢面に立ち、敵を圧倒すれば自分以外が全滅する事は無かったと。Dボゥイは心のどこかでブラスター化する事を躊躇っていた。ブラスター化は記憶の欠如を加速させる。巨大な力の行使は、代償が必要だからだ。
――――Dボゥイ……あたしもあんたの思い出になるよ……
 だが、まだ覚えている。今失った仲間も、アンジェラの思いも確かに覚えている。
「俺は忘れはしない……例え全てを無くしても、ラダムへの怒りだけは、決して忘れない!! くぅっ!!」
Dボゥイは立ち上がると、再び第八スペースポートを目指す為に歩き始めた。例えたった一人になっても、記憶を全て失ったとしても、Dボゥイは前に進む事を止める事は無い。
滾る怒りをラダムに叩きつけるまでその歩みは止まらない。それがDボゥイの宿命であり、運命なのだから。 



☆暫くぶりの復活ですが。ちゃんと最終回まで書けるかどうか不安だったりします。
さて、今回の話は無くても実は物語にはさっぱり影響しない、でも良作画の回であったりします。この溢れ出るタツノコ臭(笑)今現在で其処彼処で活躍中の工原しげき作監の作品です。もうこれ一本だけでも名作であり、テッカマンブレードを良く顕した一話だったと言えるでしょう。まあしかし、テッカマンソード嫌がらせ回とも言える話なので、ブレードの戦闘は少なめ。もっと工原ブラスターブレードが見たいよぅと唸ってしまったお話だったので、評価点は残念な四で御願いいたします。

大河原展への一人旅

実物大の手

さて、日記と言うかレポートと言うか。



・三日
最後の四連休は一日目は友人達と一緒に友人宅にてアニメ見たり映画見たり。
エヴァQだっけ。あんなに疲れるアニメ映画は久し振りでしたね。つかエヴァは心を削られるアニメなんだと久し振りに実感した気分。
口直し(?)に持っていった吹き替え版コマンドー(笑)皆さん楽しく鑑賞されていました(笑)やっぱりコマンドーは最高の娯楽映画だよね。見たのは玄田さんバージョン。今見ると突っ込み所満載なんだけどそれがまたイイ(笑)




・四日
深夜に解散したので目覚めたのは昼頃。起きてしばらくうだうだしてどーしよーどーしよーと悩んでいた。んで、結局出掛ける事に。
バイクに荷物積んで下道、海岸線をひた走る。小田原辺りまで来て、まだどーしよーと悩む自分(笑)今ならまだ引き返せるよ? と思いつつ、何故か東名にバイクを乗り上げ。入ったのは確か三時過ぎ位だったか。
浜名湖まで来て、もう戻れない太陽の牙ダグラムと歌いつつ、関西方面を目指す。カーナビを見ると目的地到着まで三分の一位までしか来ていなくて軽く眩暈がした。
因みに自分のマイバイクはPS250。タンクは12Lしか入らず、燃費は37.2km/Lくらい。
まあこれはカタログデータみたいなもんで、傾斜とか電力とかは余り考えられいない。1リッター25キロ走れれば御の字と言ったところか。
途中凄く寒くなってきて焦る。出てきた時が25℃越えてたから大丈夫かなと思ってたがすっごい甘かった。バイクに備えつけておいた温度計見たら10℃辺りまで下がる下がる。
因みに着ていた装備はフライトジャケット、Tシャツ、ジーパンと言う超軽装(笑)ツーリング凄い舐めてた。仕方ないのでSAにあったファミマで長袖シャツを購入。Tシャツの下に着込んで、ズボンは防寒(&防水)ズボンを履いて凌ぐ事にした。
カーナビ通りに来て正直どういうルートで関西まで来たのか覚えてないんだけど、名神道路とか? 色々。考えてみたら、名神とは名古屋-神戸の頭文字を取ってメイシンなんだろうけど、そう言えば地元の横羽道路(ヨコハネ)は横浜-羽田、横横道路(ヨコヨコ)は横須賀-横浜と訓読みなのになんで名神道路はナコウ道路と呼ばねーの? と疑問符があったり(笑)ホント走ってる時は碌な事を考えないね(笑)
高速の渋滞は車の右をすり抜け。安全を気にしながら渋滞の車を20キロから30キロ位ですり抜ける。一番左側の路肩を走行するのは違法だけど、すり抜けは違法じゃないって教習所の人も言っていたよ。




・五日
京都に到着したのは大体深夜一時を回った辺りだったか。
そろそろ宿の事を考えなきゃいけない時期に来ていた。おせーよ(笑)
連休二日前位にはビジホを予約しようかどうしようかとかうだうだ考えていたが、遅いですよね、ホントに(笑)と言う事で行き当たりばったりでの宿探し。京都南インターを出た所でラブホ街を発見、こうなったら一人ラブホでも決め込むか、と思ったが何処も其処も満室状態。皆さんお盛んです事ね、オホホ(笑)ラブホの周りを走り回ってると怪訝な顔で自分を見る人達多数。価格は一晩、もしくは七時間で5000円位? 下手なビジホよりも数段安い。
まあどの道見つからなかったで、ネカフェで寝る事にする。大きな駐車場、二階建てで下はコンビニ、と言う場所を見つけて此処に決めた。
以前池袋でフラット席ってのが良かった記憶があったのでそれにしたんだけど、自分は規格外のデカさなので(笑)寝るのに難儀する。
二時位に寝て何度も起きて、結局出たのが大体九時辺り。一晩寝てドリンクバーでガブガブ飲んで2000円ちょっとってのは凄い安い。そりゃネカフェで日々を過ごす人間がいてもおかしくはないよな、と思ったりした。
因みに大井松田ICから京都南ICまで3500円。ETC安い。これは休日半額料金らしい。ETCの車載機は内臓式で、どうも調子が悪く壊れているからETCカードで一般に来ている、と言う設定で乗り切った(オイ)
京都を散策。久し振りに京都に来たが此処ほど車で移動するのが面倒な場所は無い。街は格子状の真っ直ぐ道路で一方通行も多い。此処ほどバイクが有効な場所は無い様に思えた。つか、此処でバイク便とかやったらそれなりに儲かるんじゃない? 途中交差点で後ろの原付のおじさんがマジマジと自分のバイクのナンバープレートを見て珍しげな顔をしていたのが印象的。そりゃそうだ、京都に横浜ナンバーのバイクがいる事自体がおかしいんだから(笑)
とりあえず猫寺へ行ってお守りを買うのが京都に寄った目的。途中、安倍晴明神社に寄って厄除け桃を撫で撫でする。
猫寺は称念寺と言う場所だったが、電話番号検索で全然別の場所が出たりして迷う。仕方なくバイクを止めてPSヴィータのインターネットで検索。それでようやく場所が判明して猫寺でお守りゲット。此処でしか買えないお守りだから同僚のを含めて六個位買い込む。つーか無人でお守りを売るのは此処くらいかもしれない(笑)

さらば京都して、残りの数十キロを走る。やはりネカフェでの就寝は凄い疲れが残っている。
大阪、兵庫県と来て兵庫県立美術館へ辿り着いた。車の駐車場は大わらわだったけど、バイクは美術館前の大きな公園の前に好きに止めろとのお達し。考えてみれば関西は東京ほどバイクは多くなく、専用駐車場も余り見掛けなかった。東京とかアキバとかだったらちょっと止めようものなら直ぐ違反だもんな。やはり京都にしろ大阪にしろバイクは有意義な様に見えた。レンタルバイクとかあったら儲かるんじゃないの?
美術館内。ロッカーとかあったりして凄い便利。しかしチケット販売の窓口がもたもたしてるせいで凄い行列に。天井から吊り下げられたプロジェクターやテレビモニターでアニメOPがガンガン掛かる。覚えてるのを挙げると、ヤッターマン・ゴーダム・ガンダムダグラムボトムズガッチャマンガオガイガーってところだったかな? レイズナーは無かった様に思える。途中のアバン映像とかあってもワケ分からんからかもなー。それにしても美術館と言う荘厳で静かな場所で大きめではないにしろアニメOPの曲が流れてくるのは至極妙な雰囲気だと思った。この雰囲気はどちらかと言えば、テーマパークに近い印象だ(笑)
ロッカールームの前には実物大ガンダムの手がズドンと置いてある。お触りは禁止、だけどカメラはフリー。記念撮影する人で一杯だった様に思える。
そして大河原展へと入場。入場口では再生テープでの展示内容説明機が500円で貸し出しされてた。銀河万丈伊藤静の音声を選択出来る。しかし何故伊藤静なん? でも聞く体力が無かったので、音声案内はスルーした。凄い面白かったかも知れないのにね。きっとボトムズの場所に言ったら「私が! 私が異能者であったなら!」って叫ぶに違いない(笑)大体入り口辺りでサンプル音声が「ジィィーク! ジオン!!」だったからね(笑)
フロアガイドを改めて見ると、予想通りと言うか何と言うか、やはりリアルロボの部分が展示の超目玉と言った感じだった。勿論カメラは厳禁。展示は大体アニメ会社から提供された設定書が大まかなモノが多い。それに合わせて当時物の玩具も所々ガラスケースにて展示されていた。ダグラムは超貴重品である所の1/48デュアルモデル。ターボザックと右肩を連結するパイプがなくなっている所が印象的だった。自分が持ってるのは左が欠けてるのよね(笑)
大まかに言うと、第一ブースが初期作品系(ガッチャマンなど)でデビューしたて。第二ブースはゴーダムとか、メインをそろそろ任せてみよう的な時期。第三ブースではダイターン・ザンボット・トライダーとメインのメカの初期イラストが主だった。第三が一番大きく、ガンダムダグラム、そしてボトムズブース。ボトムズブースは大河原氏の思いが強く色濃い部分であり、其処だけ別格と言える場所。
そして実物大スコープドッグとの再会。コイツに会う為に遠路はるばるやってきたと言っても過言では無い。実物大スコタコの詳しい製作現場はこちら。
http://ironwork.jp/monkey_farm/botoms/botom-top.html
やっぱりコゴローさんから借りてくるのは相当大変なんだと思うのよね。実際これ設置するのに凄い搬入作業だと思うし。そしてやはりと言うか、実物大ボトムズの所は凄い賑わっていた。
暫くボトムズを見て、名残惜しい気分で次のブース。第四ブースは可愛い系と言う事でヤッターマンと言ったタイムボカンシリーズ。ガラットやグランゾートアイアンリーガー。そして何故かその場所にGガンダムが(笑)これは、大河原さん的に言えば、Gガンダムタイムボカン的なガンダムだから、と言う配慮で一緒にしたらしい。まーガンダムのブースにGガン混じってたら確かに違和感半端ないもんな(笑)
第五ブースはリアル系からの派生作品と言った感じか。レイズナードラグナーがメイン。そう言えばF91も最初は慣れなかったけど、F91はやっぱりこの胸が全部排気ダクトだよな、と妙に納得する自分だった。
第六ブースは勇者系。ガオガイガーマイトガイン。映像モニターは全部見てないけど勇者シリーズの合体動画の詰め合わせな感じか。GGGの合体はやっぱりかっこええわー。ところでGGGの初期イラストとかあったんだけど、すっごい細かった! マジ病気なんじゃないのこのガオガイガー!? とか思った(笑)
第七ブースは総合と言う感じかな? ガンダムSEEDやGブレイカー。デバンダーとかボトムズとかガンダムのMSV系。そして今まで協賛でデザインしたモノが多く展示されていた。くるり号とか良く知らないのもあったね。

という感じで二周位して回ってきました。やっぱり銀河万丈の音声案内は聞くべきだったか。もう来る事は無いと思うけど、もし東京でもやるってのなら何度も行っちゃうな。関西だけで終わるのはちょっと勿体ない感じがしました。
んで、終わりじゃないのよ。帰りがあるのよ、と思ったんだけど、美術館回ったら凄い疲労感。見終わったのは五時位だったけど、もしこれで帰ろうと帰路についたら事故る可能性大だと思って京都に帰ってくる。そして昨晩使ったネカフェでまた仮眠を取る事にした。だって会員証作ったしさ、京都からなら帰るにしても楽そうだったし。
フラット席はもう寝難いのが半端無いので、今度はリクライニングチェア席にて仮眠。疲れているとは言っても、眠いかどうかと言われるとあんまり眠くは無い。だけど無理に寝るしかない。寝付くまで進撃の巨人読んだりする。
既刊を大体読んだけど火薬技術があるならブレードで削り取るんじゃなくて爆薬をうなじに設置すればいいんじゃないか? とかグレネードランチャーとか開発しろよとか凄い思う。近接戦闘で予備のブレード何本も用意するよりはその方が効率いいじゃないの?
三時間かそこら寝ると、身体に力が戻ってきた。時間は11時過ぎ。と言う事で東京に戻る事だけを考える。何かもう気分はクライマー。登頂場所が実物大ボトムズって感じでしょうか。





・六日
行きにしても帰りにしても、やはり寒さは難敵だった。大まかに寒い場所は富士山付近、そして甲賀信楽辺り。温泉とかあるらしいけど良く分からない場所に行っても時間を費やすだけだと思って走りきる。そしてやはり渋滞があったが、行きに比べれば大分マシ。12時を回ると皆SAで寝る事を考えるので、やはり移動は徹夜で走るのが正解の様だ。愛車PS250も調子は悪くはないが、所々でのガスチャージに気を使う。自分のには付いているが、もっと古いバイクになると燃料計が無いのもあるので、バイクでの長距離移動は経験がかなり必要になるかもしれない。左のオクロックとか思い出したわ。今は誰もピースとかしないのな(笑)
静岡のSAに来てガスチャージとカレーライスを補給。考えてみれば凄い無計画な強行軍だったので、地元の何かを食べると言う事を全然考慮してない自分にちょっと自嘲したりする。因みにそれらしい物は夕方辺りに食べた焼きそばとたこ焼きのみ(笑)何しに来たんだろうね俺は。
SAを出る辺りになると急に空が明るくなってきた。時間は五時早朝。後一時間半も走れば自宅に着く。厚木ICを出ると、何とも懐かしい気分になる。ようやく異郷から帰ってきた気分だったのかも。
自宅に着くなり暖かい風呂に入って泥の様に眠る。そう言えば連休最終日は友人と一緒に晩御飯でも食べようか、と思ったけど、スカイプで会話している最中で頭痛くなってきて断念。熱測ったら37度越えてた。薬飲んでガッツリ寝る。

と言う事で三日間のバイク旅行は終了です。やはり一人旅はイイですね。因みに自分土産はプラモと図録のみ。お土産は猫寺お守りだけと言う(笑)

第42話 激突! 赤い宿敵(1992/12/8 放映)

俺らホントに子安が大好きです(笑)

脚本:あみやまさはる 絵コンテ&演出&作監&メカ作監板野一郎
作画評価レベル ★★★☆☆

第41話予告
戦うたびに記憶を失うDボゥイ。宿命の名の元に、研ぎ澄まされたエビルの技がブレードに炸裂する。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「激突!赤い宿敵」仮面の下の涙をぬぐえ。


イントロダクション
ブラスターテッカマンに進化したDボゥイの肉体からは、組織崩壊の症状は消えていた。だが、
「ね! Dボゥイ! ブルーアース号の修復は、順調な様よ? あ……!」
「なぁ……アキ。何度も言わせないでくれ」
「でも……急にそんな事言われたって……今までずっとDボゥイって呼んでたんだし……」
「俺を……Dボゥイと呼んでいた?」
「え?」
「どうして俺を、Dボゥイと呼ぶんだ?」
「あ……どうしたの? 突然?」
「大体、Dボゥイって言うのは、どう言う意味なんだ?」
「Dボゥイ……!」
「それで、Dボゥイの身体が、どうしたって言うんだ!?」
「彼は今、記憶の混乱を起こしている」
「自分がDボゥイと呼ばれている事さえ分からないのよ」
「そんな……!」
Dボゥイは、進化の副作用により記憶を失い始めていた。そんな中、パワーアップしたエビルが再び襲い掛かる。Dボゥイは自分の症状を自覚する事無く、エビルに立ち向かうのだった。
「……さらばだっ!! ブレードォっ!!」
「ぐぉわああぁぁぁぁっ!!」




 辺りに沈黙が流れた。
 テッカマンエビルの必殺の一撃は、ブレードの素体が剥き出しになっている腹部を捉えたかに見えた。
「……くっ!?」
 しかし間一髪、テッカマンブレードは身体を捻ってその一撃をかわしていた。ランサーの槍はブレードの左わき腹を少しだけ抉っているだけにとどまっている。
「くっ……はっ!」
 テッカマンブレードはランサーを回収して、そのまま飛び上がって植物プラントの天蓋をぶち抜いた。
「くっそぉ!!」
 ほんの数センチの差でかわされてしまった事をエビルは悔しがる。そしてエビルもスラスターを起動させ、ブレードの後を追う。氷の大地を貫通して出てきた二人は、再び空中で交差し激しい火花を散らした。数瞬剣戟を行った後、二人は距離を取って着地する。
「こうやって戦うのは久し振りだね。ミユキが死んだ以来かな?」
「シンヤァっ……!」
「腕が疼いていたよ……兄さんに俺の動きが見切れるかな!」
 妹の事を言われブレードが憤ったその直後、突然数十メートル離れていたエビルが消え、目の前に現われる。
「う!? うぉあっ!!」
 一瞬で距離を詰めたテッカマンエビルはテッカマンブレードの頭部を激しく蹴った。ブレードは仰け反りながら吹っ飛ばされ、更にまた消失する様に掻き消えたエビルはブレードが吹っ飛ばされた後方に一瞬で移動し、
「とぉあっ!」
その背中を蹴り下ろす。ブレードは空中から氷の大地に叩きつけられた。
「以前のエビルとはまるで動きが違うわ!」
「まるで別人の様だぜ!」
「もぉ! ノアルとバルザックは、まだなのぉ!?」
 指令所に集まった他のスペースナイツのメンバーは、基地外にあるカメラで二人のテッカマンの戦いに注視している。本田もアキも、テッカマンエビルがまるで消失した様に超高速移動するその様を見て驚愕していた。
「チーフ! スピード、パワー、瞬発力、過去のデータと比べて、全て30%アップしています!」
 ミリィがキーボードを叩きながら、現状のテッカマンエビルをそう分析する。
「それじゃあ、エビルもDボゥイと同じ、進化したテッカマンになっちゃったワケぇ!?」
「いや、そうではない。ブラスターテッカマンになっても、普段の戦闘力は変わらないはずだ」
 フリーマンの言う「普段の」と言う言葉は、ブラスターテッカマンに進化する前の一段階目、ノーマルテッカマンの状態の事を言っている様だ。
「それじゃあどうして!?」
「恐らく、人為的に肉体を極限状態にまで鍛えた結果だ」 
「最近姿を見せないと思っていたらそういう事だったのかい!」
 本田が合点がいった様にそう言った。実にテッカマンエビルがスペースナイツの前に姿を現したのは半年以上の期間に及んでいる。シンヤが療養中に行ったトレーニングの成果は確実に実を結んではいるが、ブラスターテッカマンの爆発的な能力に比すれば、未だエビルはブラスターテッカマンに及ぶモノではないとフリーマンは判断したのだ。
「いつまで穴の中に隠れている気だい? 兄さん!」
 エビルが大穴に沈んだブレードにそう声を掛けた。ブレードにしても、数度槍を交えた段階でいつものエビルとは違うと感じてはいたが、まさかここまでの実力の差があるとは思っていなかった。
「うおわぁぁっ!!」
 勝機が見出せないブレードは、突如穴から飛び出して奇襲を仕掛けたが、エビルはその行動を読んでいた。また超高速でその突進をかわし、ブレードの背後を取って背部スラスターを全開にする。
「今までと同じだと思ったら大間違いだよ! 兄さんっ!!」
 背後から突進したエビルは、ブレードの背中に強かに体当たりした。
「ぐああっ!!」
 体当たりして氷壁に突っ込み、そのまま巨大な氷の山々を貫通する。氷山を四度貫通した所で、エビルの突進はようやく止まり、ブレードは氷壁に埋没したまま動けなくなった。
「ふはっはっは……どうしたんだい兄さん? 勝負はこれからだよ!」
 エビルはブレードとの戦いを楽しんでいる。両腕にラムショルダーを構えて、第二ラウンドだと言わんばかりにブレードを攻撃しようとしたが、
「何っ!!」
 突然邪魔が入った。ノアルのソルテッカマン二号機がテッカマンエビルを砲撃する。
「クズ共がっ!」
 ブレードがその動きを捉えられないのと同じく、エビルにソルテッカマンのフェルミオン弾は全く当たらない。しかしエビルがノアルの攻撃に気をとられている間に、氷の山に埋没したテッカマンブレードバルザックの一号機改が救出した。
「行くな! Dボゥイ!」
「なにっ!?」
「ここはノアルに任せろ!」
 バルザックはそのままブレードに肩を貸すと、脚部のスラスターを吹かして基地に帰還する。
「ははっは! どうした! 何処を狙っている!!」
 ノアルとテッカマンエビルの交戦は二度目となるが、今まで以上の速度を持つエビルにフェルミオン弾を的中させる事は出来ない。だが、ノアルはエビルに命中させるのが目的ではなかった様だ。
「へっ! 分かんねぇのかよぉっ!!」
 氷山の頂上に降り立ったテッカマンエビルには標準を合わせず、その下の氷の山にフェルミオン弾を叩き込む。すると、連鎖的に爆発して頂上にいたエビルを巻き込んで崩落を起こした。
「何っ!? うっ! ぐぉぉっ!?」
 どうやら、その氷山には爆発物が取り付けられていたらしい。今までの銃撃はそのトラップゾーンにエビルを引き込む為の陽動だったのだ。氷山の崩落に巻き込まれたテッカマンエビルは、氷の大地をぶち抜き、湖の水中にまで落とされる。勿論、数トンの氷の崩落に巻き込まれたとしてもテッカマンを倒せるワケではない。ブレードを救出する為の時間稼ぎの為にエビルをトラップに引き込んだのだ。
エビルは直ぐに湖から脱出して、先程までブレードと戦っていた場所に戻る。が、其処には誰もいなかった。
「ふん、逃げたか、ブレード……つぇあっ!!」
 構えていたラムショルダーの刃を、傍らにあった小さな氷山に対し、気合を込めて振る。
「まあいいさ。俺がいつまでも兄さんの下ではない事が分かっただろう。ゆっくりと兄さんが出てくるのを待たせてもらうよ」
 そうエビルが言った直後、氷山が斜めに定規で切った様にずれて崩れていく。ラムショルダーの刃はテックランサーに比べれば非常に短い刃なはずだった。普通に考えればそんな刃で小さいとは言え数メートルもある氷山が切れるワケが無いのだが、エビルはその驚異的な能力でかまいたちの刃を走らせ、氷山を叩き斬ったのだろう。
その実力は、確実にかつて倒した師匠であるテッカマンアックスすら越えていると過言ではなかった。
「離せ! 何故止める! 俺はエビルと戦わなければならないんだ!」
 ほぼ無理矢理にテックセットを解除させたDボゥイを、ノアルが羽交い絞めにして指令所に連れてきた。だがDボゥイはその押さえ込みから脱してノアルを一本背負いで投げる。周りにはDボゥイを心配して集まったスペースナイツの面々がいて止めようとするが、彼は是が非でもエビルと戦う気でいた。
「君はこれ以上テッカマンになったら、記憶を失っていくのだ!」
「記憶!?  何を言っている!!」
 フリーマンがそう言って説得しようとするが、Dボゥイには心当たりが無い。何故仲間が止めようとするのか見当も付かないばかりか、戦いの邪魔をした事に相当腹を立てていると言った状態だった。
「ディ、Dボゥイ……あ!」
「俺の名は相羽タカヤだ! 何度言えば分かるんだ!」
 アキがそれを見かねて声を掛けようとしたが、Dボゥイは激昂する様にそう言った。
「ほら見ろ! お前は、自分のニックネームさえ忘れちまっているじゃねぇか!」
 ノアルがそう言ったが、やはりDボゥイは自分に起こった異変に気付く事はない。
「アキ! 俺は何処かおかしいのか!?」
「ぁ……」
 怒りの表情を向けられて、アキは思わず視線を逸らす。自分は相羽タカヤだ、と言われたら最早言葉を掛ける事すら出来なくなった。
「はっ、みんな何か勘違いしてるんじゃないのか?」
「Dボゥイ……!」
 ノアルはそんな風に言うDボゥイに、至極落胆した。数日前の信頼する仲間同士の絆が殆ど消えて、まるで出会った時のDボゥイの様に、今の彼は何を言っても聞かないデンジャラスな少年と化している。
「俺は! 俺はエビルを倒すんだ!」
 そして再び戦う為に、司令所を出て格納庫へと向かおうとするDボゥイ。
「待てよ!」
 その後をバルザックが追った。絶句していたノアルも、説得する為に彼を追おうとするが、フリーマンがそれを故意に止めた。
「自覚していないDボゥイに、事実を伝えるのは難しい」
「でも! アイツ本人が自覚した時には、もう遅いんだ! もう……」
 ノアルは歯噛みする様に下を向いて言う。アキも、ミリィも皆Dボゥイが記憶の混乱で心無い発言をした事を理解してはいる。だがそれでも、今まで苦難を一緒に乗り越えてきた彼らにとっては、それが一番辛い現実だった。
 その頃、ORSのラダム獣育成プラントではフォン・リーがホログラム通信でラダムの首魁であるテッカマンオメガと対面していた。ラダム獣投下の統括報告を行っている様だ。
「ご苦労だったな、ソード」
「はっ、降下予定のラダム獣は間も無く全て地上へと降り立ちます」
 今現在、ラダム獣の投下は一切行われていない。既に予定数を越え、これ以上は必要無いと言う事らしい。
「これで一切の準備が整ったワケか……後はこの私と共にラダムの母艦が発動した時、地球は我々ラダムのモノ……嬉しくないのか?」
「あ……いえ!」
 テッカマンオメガが全ての準備段階を終えた事を聞いて歓喜に奮えるが、フォンの表情に喜びの表情が無い事を怪訝に思い聞いた。フォンは慌てて取り繕う様に言う。
 そして育成プラントのモニター室に自分の弟がいない事を不思議に思い彼女に尋ねる。
「エビルの姿が見えんが?」
「お一人で、ブレードを倒しに行かれました」
「なに?……今のブレードは我々に対する憎しみだけで戦っている。奴を侮ってはならぬぞ。ソード、ならば何故お前はエビルと共に戦わんのか!?」
 突然口調が変わり、オメガはテッカマンソードであるフォンを叱責する。
「私は、オメガ様より命令を頂いてはおりませんので」
 だがフォンは、頭を垂れて冷静に言った。オメガだけに忠誠を誓っていると言う態度である。
「相変わらずだな……では改めて命ずる。エビルと共に裏切り者ブレードを倒すのだ」
「分かりました」
 使命を受理して、改めてフォンはブレード打倒の為にアラスカに向かう事を決意し、言った。それを見て、テッカマンオメガは溜息を漏らす様にフォンに語りかける。
「……シンヤはタカヤの事になると冷静さを失う事がある。だが私は、この母艦と一体となり動く事は出来ぬ。フォン、弟の事を頼んだぞ。……お前達を、失いたくない……」
感慨深くそう言うと、ホログラム通信が消えていく。フォンは愛しい人に手を伸ばそうとする。だが実体ではない彼に触れることは敵わない。
「オメガ様……ケンゴ……」
フォンはテッカマンオメガの仮面の下に、相羽ケンゴの姿を思い描いていた。左手の薬指にある指輪を見ながら過去を思い出す。
大学の研究室時代に知り合った相羽ケンゴと言う男は、どんな男性よりも魅力的で、天才肌な人間だった。それでいて思慮深く、時には豪放で皆を包み込む優しさを併せ持つ、リーダーに相応しい才覚を持つ男だった。
 知り合ってから間も無く互いに惹かれあい、恋人同士となった後でもケンゴはフォンに一層愛情を注いだ。研究に没頭するとベッドに向かう事すら忘れてしまうフォンに、優しく毛布を掛けてくれる様な、そんな男だった。
 ――――ケンゴはあたしを見守ってくれた。どんな時でも……。
 そして結婚指輪を渡された時の幸せなあの一瞬を、フォンはいつでも思い起こせる。
「今度は私がケンゴを、いや、オメガ様を守って差し上げる番。例えどんな姿になっても……!!」
 フォン・リーはそう言いながら、テックセットした。人の姿から鎧の甲冑を纏ったテッカマンソードとなる。
彼女のテッカマンオメガへの忠誠は愛情故だった。だが、オメガへのその愛情が永遠に実を結ぶ事は無い。
テッカマンブレードとエビルの対戦から数十分、アラスカ大地を踏みしめながら、エビルが言う。
「兄さん! インターバルは終わりだ。そろそろ第二ラウンドを始めようじゃないか?」
 仮面の眼光を光らせながら、エビルはブレードとの対戦を心待ちにしているのだった。 
「ちょっとDボゥイ! 駄目だってばぁ!」
「邪魔するな! 俺はエビルを倒さなければならないんだ!」
 格納庫では、レビンがペガスの前でDボゥイを押しとどめていた。そんな彼に本田は冷静に言う。
「相手は攻めてこねぇんだ。自分から攻撃を仕掛ける事も、無いだろう」
「あいつが俺を呼んでいるんだ!」
 実際に、テッカマンエビルは精神感応で何度もDボゥイを呼び掛けていた。
「おい! 少し顔貸せや」
 そう言って、Dボゥイの肩を叩いたのは、ソルテッカマン着用のアンダースーツを纏ったバルザックだ。Dボゥイは、バルザックに引っ張られる様に格納庫の外へと連れて行かれた。そんな二人を見て怪訝な表情をする本田とレビンだった。
 格納庫の外の壁に二人は寄り掛かると、バルザックはDボゥイに語り掛けた。
「なぁ、Dボゥイ」
「ディ……ボゥイ? あぁ、皆が俺につけたニックネームだったな」
 何時の間にそんなニックネームを付けたんだ、とDボゥイは思う。これはある意味かなり重篤な記憶障害だった。Dボゥイと呼ばれていたその事を忘れると言う事は、そう名付けられた経緯を思い起こせなくなったと言う事であり、自分の記憶自体が曖昧になっていく事を示している。
今現在はテッカマンエビルと戦わなければならないと言う強い意志があるから良い物の、テッカマンになって戦えば益々記憶障害が起こり日常生活に支障を来たす可能性があった。だからこそ皆が彼を止めたのだ。 
「Dボゥイ、止めても無駄の様だから止めやせんが、その代わりアキの為にDボゥイと言う言葉だけは忘れるな」 
「……?」
 だが、バルザックは敢えて彼を止める気は無かった。怪訝な顔をするDボゥイに更に語り掛けた。
「お前は確かに相羽タカヤさ。だがな、アキ達はDボゥイって名前のお前と戦ってきたんだ。Dボゥイって名前のお前とな。今のお前にとっちゃ、どうでもいい言葉かも知れない。だが、アキにとっては、自分とお前を繋ぐ大事な言葉なんだ。それだけは、憶えておくんだな」
 バルザックは強調するように「Dボゥイと言う名前のお前」と言う言葉を繰り返した。そう、スペースナイツのメンバーにとってはDボゥイと言う言葉は希望に等しい言葉だった。だからこそノアル達は落胆したのだ。相羽タカヤではない、Dボゥイと言う人間と戦ってきた事を誇りに思っていると言ってもいい。
 そしてアキにとって、その言葉は絆を象徴していた。二人を繋ぐ為の、大切な言葉なのだ。
「ま、女捨てて此処に来た俺の言う台詞じゃねぇけどよ。じゃあな!」
「あ……バルザック……」
 去っていくバルザックの背中を見る。そして、皆が呼ぶDボゥイと言う言葉を深く考えようとするが、
「迎えに来たよ……兄さん?」
「エビル……!!」
 Dボゥイはテッカマンエビルの精神感応でその思考を邪魔される。基地に一歩一歩近付く敵の存在を感じ取って、Dボゥイは再び格納庫へと向かった。
「チーフ、このままでは基地に……!」
ソルテッカマン、出動!」
 基地外のカメラで近付いてくるエビルを見て、フリーマンはそう指示を出した。だがその直後、
「フリーマン! Dボゥイの奴が!」
「チーフ! ペガスが出撃しました!」
「Dボゥイ……!」
 やはり避けられない戦いなのか。フリーマンはDボゥイの記憶障害がこれ以上進行しない事を祈るのだった。
「来たか!」
 雪煙を巻き上げて近付いてくる者達を見やるエビル。それは青と緑の機械鎧、ノアルとバルザックソルテッカマン達だった。そんな二人に、お前らには興味が一切無いと言った感じでエビルは尋ねる。
「ブレードはどうした?」
「俺達が相手じゃ、不服の様だな!」
「当然だ」
「それはどうかな? さっきみたいに返り討ちにしてやらぁ!」
 その言葉を契機に二対一の戦闘が始まった。テッカマンエビルを囲む様に砲撃するノアルとバルザック
「このクズ共が!」
 エビルは吐き捨てるようにそう言うと、ソルテッカマン達の猛攻を軽々と回避する。そして、
「なにっ!?」
 一瞬でバルザックの直ぐ傍に近付き、通り過ぎると同時にソルテッカマン一号機改の拡散フェルミオン砲の発射口を二門とも叩き斬る。バルザックはバイザーに砲が完全に使用不能になった表示を見て狼狽した。
 更に追い討ちを掛ける様に、一号機の頭部を掴んで潰す様に氷の板に叩き付ける。
「どぉわぁっ!」
 一メートルはある分厚い氷を貫通し、バルザックは氷湖に沈み込んでしまう。
「あの野郎ぉ! はっ!? バルザァァック!?」
 相棒が敵に襲われているのを見た直後、突如飛来してくる物体があった。それは誰であろう相棒であるバルザック本人だった。フェルミオン砲を構えているノアルは、飛来してくるバルザック機を受け止められないと判断して、直ぐに回避行動を取った。
「ぬぅおぁっ!!」
 また氷の板をぶち抜いて湖へと沈むバルザック。これで二人の、ソルテッカマンのフォーメーションは完全に崩されてしまった。
「畜生ぉ何処だっ!? 出てきやがれ!!」
 先程からテッカマンエビルの姿を視認出来ない。しかしノアルがそう言った直後、テッカマンエビルの仮面が目の前に現われた!!
「なにぃっ!?」
「はあぁぁっ!!」
 そのままノアルの二号機をアッパーして打ち上げる。数メートル上がった後、テッカマンエビルはその打ち上がった真上に一瞬で移動し、今度は蹴り落とす。
「ぐぉあぁっ!」
 ノアルが絶叫を上げて飛んでいった先は、先程バルザックが沈み込んだ氷湖への穴だった。
 ソルテッカマンではテッカマンには対抗できない、と言う問題ではない。テッカマンエビルは全く本気で二人を相手にしておらず、まるで壊れにくい玩具を弄んでいると言っても良かった。だがもうこの二人を相手にして遊ぶのも飽きてきた所だ。狙った通り二体同時に動けなくなった所に、トドメの一撃を放とうとする。
「口で言っても分からん奴には教えてやる。貴様らのその命でなぁっ!! サイボル――――!?」
 その時、エビルの背後に飛来する物がいた。Dボゥイが搭乗した機動兵ペガスだ。
「ふっ! テッカマン! ブレードォっ!!」
 雄叫びと共にテッカマンブレードが出現、ノアル達が沈んだ穴の前に着地して弟に相対した。
「エビル!」
「待ちかねたぞブレード!!」
 双子の兄の言葉に奮起するテッカマンエビル。ようやく本番がお出ましだ、と言わんばかりだった。
そしてブレードの足元では湖から浮き上がった二人が顔を出したきた。
「痛ぅ……強烈だな」
「死ぬかと……思ったぜ……Dボゥイ!?」
「馬鹿野郎! 何故!!」
 氷の板に掴まり、ノアルはテッカマンブレードを見上げてそう叫んだ。
ソルテッカマンで倒せる相手じゃない!」 
「くっ」
本当はDボゥイに戦わせない様に、Dボゥイを守る為に出撃したはずなのに、結局ブレードに頼る事になった事を、ノアルは歯噛みする。
「兎に角ここは、俺に任せろ!」
「逃がすかっ!」
 ブレードは二人に害が及ばぬ様に飛び上がってエビルを誘う。エビルにしても、これ以上雑魚を相手にするつもりは無いと言った感じでブレードを追い、先程の高速移動を使ってブレードの背後に回った。
「であぁっ!!」
「くぉぉっ!!」
 振り下ろした槍を槍で受け止めるブレード。初撃は何とか受け止めたが、その速度は急激に上がっていく。ブレードが受け止められなくなるのも時間の問題だった。
「あ! どうやら此の先の様ね!」
 丁度エビルとブレードの交戦が始まった時、テッカマンソードはアラスカに到達し、二人の精神感応波を頼りに、急行した。
「うおぉぉぉっ!!」
エビルの猛攻は果てしなく続く。遂にブレードはその剣戟を受け止められなくなり、
「ぐ! が! うぉあっ!!」
 右に殴られ、左に蹴られ、更に槍の柄で打ち下ろされる様に殴られた。
「昔はよくこうして稽古をしたねぇ!? 兄さぁんっ!!」
「ぐぅっ!! シンヤァっ!!」
 エビル、相羽シンヤは楽しんでいた。その気になれば直ぐ様致命傷を負わせる事も難無く行えるはずのエビルだったが、敢えてブレードをいたぶった。
「子供の頃から敵わなかった俺が……こうして兄さんを追い込んでるなんて……!」
歓喜の絶頂にエビルはいた。仮面の下は恐らく恍惚の表情をしているに違いなかった。そして防御の要であるブレードの槍を弾き飛ばし、腹を凪ぐように強かに蹴った。
「どぉわっ!」
吹っ飛ばされたブレードを追うエビルはそのままブレードに激しく体当たりする。その勢いでブレードは氷山に磔にされてしまう。これでは先程と全く同じ状況だった。大の字で磔にされたブレードを見ながら、エビルは傍らに突き立っていたブレードのランサーを拾い上げる。
「今まで梃子摺っていたのが嘘の様だ……それとも俺が強くなり過ぎたのかなぁ!?」
「う……くぅっ……」
ブレードは失神寸前だった。一歩一歩二本の槍を携えて近付くエビルを朦朧としながら見る。
強い。久し振りに再会した弟は脅威的な強さを伴って自分の目の前にいた。Dボゥイはこれまで何度も死を予感した事はあったが、ここまで圧倒的な死を感じた事は無かった。
「畜生ぉ……くっ!」
「う! いつも大事な時にぃっ!!」
ようやく穴から這い出た二人のソルテッカマン達は、ブレードに迫るエビルに照準を合わせたが、撃てない。ノアルのフェルミオン砲は先程の攻撃で機能障害を起こし、バルザックの一号機はそもそもフェルミオン砲の発射装置自体が無くなっている。二人は戦力外にいる事を痛感して悔しがった。
テッカマンエビルは、振り上げた槍を十字手裏剣に変えると、ブレードの装甲の無い腹部に目掛けて動けない様に氷壁に突き立てた。ブレードはランサーの内側の刃で腹部を傷付けられ痛みで絶叫を上げる。
「ぐぉぉっ!!」
「兄さん? 自分の武器で死ぬなんて、この裏切り者には相応しい死に方とは思わないか?」
更にエビルは、ブレードのランサーを二つに分離すると、
「ミユキと同じ運命を辿らせてやるよ!!」
「ぐぉぉっ!! があぁぁあっ!!」
双剣になったランサーをブレードの両腕に突き刺し貫通させた。これで氷壁に完全にブレードは縫い込まれたも同然となった。
「くぅはっはっはっは!」
まるで子供の様な無邪気な笑み、いや、邪悪な嘲笑を浮かべるエビル。そして飛び上がると、
「これで遂に俺は越える事が出来るんだよ! 兄さんをねぇぇっ!! サァイボルテッカァァ!!」
「Dボォォイィっ!!」
 ノアルが絶叫した直後、PHYボルテッカは確実にテッカマンブレードに命中した。鎧が全て消え去り、エビルのランサーもブレードのランサーも、ブレードが縫い付けられた氷壁すらも蒸発した。数十メートル規模のクレーターが出来上がるがしかし、当のブレードはその中心で浮かび、完全に消滅していない。
「何っ!?」
異様な光景だった。それを見てエビルは激しく動揺する。クレーターの中心で浮いているその黒い人型は、正にブレードの素体とも呼べる姿だった。
「な、何が起こったんだ……!?」
そうエビルが言った直後、ブレードに異変が起こる。素体部分を中心にして、鎧が再構成されていく様をエビルは目撃した。白い重装甲が纏われるその異変を目にして、エビルは戦慄する。
「へ、変身!?」
「エビルぅぅ……うおおぉぉぉっ!!」
ブラスター化を終えたブラスターテッカマンブレードが吼える。そしてエビルがいる空中に突進した。
「ば、馬鹿なぁぁっ!?」
 エビルは今までに見た事が無いテッカマンを目の前にして動揺してはいたが、冷静にその攻撃をかわそうとした。しかしブラスターテッカマンブレードの超速はエビルの動きを圧倒していた。刹那の間に頭部を掴まれると、そのまま背後の氷山の中腹に激突する。
「ぐぁっ! がぁああぁあっ!?」
 氷雪に塗れ、エビルは何とか氷山から脱したモノの、直ぐ様上空から超速で飛来したブレードに押し潰された。ブラスターブレードテッカマンエビルの頭部を掴み引き摺り押し潰し、何度も地を舐めさせた。
「あれはっ!?」
 氷山の山々が崩れ去る異様を遠巻きにしたテッカマンソードは、改めてその場が二人の交戦場所だと悟った。しかし、ボルテッカフェルミオン光無しで、一瞬にして数個の氷山を崩落させる様な戦況を彼女は目にした事が無かった。
 ようやく引き摺り攻撃が止み、テッカマンエビルは精神的にも身体的にもボロボロだった。そして白き白鳥の様な重装甲を纏ったテッカマンが目の前に立ちはだかっている。
「うおおぉぉぉっ!!」
 ガコンとボルテッカ発射口を顕わにするブラスターテッカマンブレード。16個モノフェルミオンレセプターを目にしたエビルはやはり驚愕し、戦慄し、恐れた。
「くぅっ……はぁっ!」
 だが、テッカマンランスの様に恐怖の淵に立たされて混乱する様なエビルではない。冷静にエビルは自分の能力の最大を使ってそのブラスターボルテッカを回避しようとした。
「ボォルゥテッカアアァァっ!!」
 爆発する様にブラスターブレードが叫ぶ。ボルテッカを超える超ボルテッカではあるが、以前ランスに放ったそれとは違っていた。
「なにぃぃっ!?」
 面で襲ってくるブラスターボルテッカではない。まるでそのフェルミオン光は誘導する様な、まるで誘導ミサイルの様にエビルの退路を断ち、恐ろしいエネルギー量で両側から飛来した。
 ブラスターボルテッカは面で放出する砲撃と、全方位に撃つ事が出来る誘導する様な砲撃を使い分ける事が出来る様だ。誘導するボルテッカと言えば、エビルのPHYボルテッカも似た様な事が出来るが、エネルギーの量は段違いだった。
 エビルは退路を断たれブラスターボルテッカを受ける寸前だったが、間一髪超音速で飛来したテッカマンソードがエビルに体当たりする様に抱えてその砲撃から救った。そして直ぐ様撤退する。行き場を失った超ボルテッカのエネルギーは、氷山の山々にぶち当たって光の柱の爆発を起こす。
 テッカマンソードは、エビルを抱えたまま背後を見た。フェルミオンの光が止んだ後に、氷雪が数百メートル上空に巻き上げられ、白一色になっている。まるで大自然が起こす、火山の爆発の様な、マグマの放出の氷雪版と言った状態だった。
 ソードはブラスターテッカマンブレードの姿を一瞬、目撃しただけだったが、この力はラダムにとって、いやオメガであるケンゴにとっては確かに最大の脅威になるだろう。そんな風に痛感した一瞬だった。
「うぅ……っ!」
 エビルを討ち漏らしたブラスターブレードは、そのまま地面に突っ伏して意識を失った。
 次に意識を取り戻したのは、基地のメディカルルーム内だった。
「チーフ、Dボゥイが目を覚ましました!」
 ミリィが傍らにあった通信機でフリーマン達を呼んだ。
「う……くっ……ミリィ?」
「良かったぁ! あ……」
 全身包帯だらけになったDボゥイは起き上がって傍に置いてあった花瓶の花に意識が向いた。
 じっとDボゥイが花瓶に生けてあったアマリリスを見る。その直後フリーマン達が病室に入って来た。
「あ……ごめんなさい」

 Dボゥイがその花をじっと見ているのを見て、アキは思わず謝ってしまう。
「いけない……あたしったらつい……」
部屋に一瞬、気まずい空気が流れた。
 アマリリスと言う存在が、Dボゥイにミユキを連想させると思い、メンバー内ではどちらかと言えばその花をDボゥイの前に出すのをはばかっていた所があった。だがミリィもこの花が好きだったからか、思わずDボゥイの見舞いに持ってきてしまったらしい。
 しかし、Dボゥイの反応は今までとは違った。
「綺麗な花だ……」 
「え?」
「この花を見ていると、何だか気持ちが安らぐ……」
「ディ、Dボゥイ……」
「アキ? この花の名前、何て言うんだ?」
 アキはそう問われても絶句して応えられなかった。代わりにノアルが逆にDボゥイに尋ねる。
「憶えてないのか?」
「それは……ミユキさんの……」 
「……! ミユキの……」
 ミリィに言われて、Dボゥイははっとなった。
 そして一瞬だけ絶句したアキではあったが、彼女は直ぐに笑みを浮かべながら言う。アマリリス花言葉さえ知っていたDボゥイが今、記憶の混乱と喪失の渦中にいる。そんな最中にDボゥイがいたとしても、それを支えようと意を決した様に、優しく、諭す様に言ったのだ。
「これは、アマリリスって言うのよ」
「アマリリス……」
「ミユキさんが好きだった花よ……」
「ミユキが……」
そう言うとDボゥイはミユキの姿を思い起こした。だが、胸の前に持っていた花が、まるで空白で消された様に、どうしても思い出せなかった。
そして狼狽しながら、アキの肩に掴み掛かりながら叫ぶ様に言った。
「どうしてアキが、ミユキの好きな花を知っているんだ!?」
「……あなたから聞いたの」
「なにっ!?」
――――これ以上テッカマンになったら、お前は記憶を失っていくんだぞ!?
 先程の、ノアル達との言葉は何とか憶えている。テッカマンになれば記憶を失う……これがブラスター化の副作用であり、自分が人に教えたと言う事実を完全に思い起こせない状態をDボゥイは認知した。
「俺は……」
「その通りだ。ブラスターテッカマンに進化する事により、君は肉体の組織崩壊を免れた。だが……
崩壊は頭部に集中し神経核は麻痺して、君は徐々に記憶を失い始めている」
 病室に数瞬沈黙が流れた。
そして突然ドアが開いてレビンが歓喜満面の表情で本田と一緒に病室に飛び込んできた。
「みんなぁ! ブルーアース号が完成したわよぉ!!」
「ブルー……アース?」
 Dボゥイはまた、聞き慣れない言葉を聞いて怪訝な表情をした。
「まさか! ブルーアース号まで!?」
 ノアルがそれを聞いて動揺した。ブルーアース号、Dボゥイ達がそのスペースシップで何度も宇宙へ上がった事を憶えていないと言う事は、今まで戦ってきた事実までが曖昧になってしまうと言う事を意味していた。
「ブルーアース……うぅっ!?」
「Dボゥイ!?」
 突然頭が割れる様な衝撃が走る。心配したアキの手を乱暴に振り払うと、
「俺は……俺は……!!」
 Dボゥイは、自分が改めて非常に危険な状態にあると言う事をようやく自覚した。
 そして恐怖した。テッカマンになって戦う事、兄や弟を葬りラダムをこの世から抹消する事、その目標を思い起こせなくなったら、自分はこれからどう戦えばいいのかと、想ったのだった。
 その頃、テッカマンエビルは相羽シンヤの姿に戻って、月のラダム基地に帰還していた。ブラスターブレードの脅威的なパワーにねじ伏せられ、彼は左腕や身体のあちこちに傷を負っていた。
 本来なら培養球に入って治療しなければいけない所だったが、どうしても可及的に司令官に聞かねばならぬ事があったのだ。
 シンヤはテッカマンオメガの前に辿り着くと、跪いて尋ねる。
「兄さん……ケンゴ兄さんなら知ってるはずだ! ブレードが新しいテッカマンに生まれ変わった事を!」
「新しいテッカマン!? まさか……ブレードが進化したテッカマンになったと言うのか……」
「進化した……テッカマン?」
「そうだ……テッカマンの現在の姿は完成体ではなく、進化の一形態に過ぎんのだ」
「それじゃあ、俺もそれになる事が出来るんだね!」
「うむ……」
 喜ぶシンヤを前にして、オメガは口籠った。
弟の次の言葉を容易に想像出来てしまうからこそ、口籠ったのだ。
「その方法を、教えてくれ兄さん!」
「それは出来ぬ……」
「どうして! 兄さん!!」
「落ち着けシンヤ! 進化したテッカマンになるには、凄まじい体力と精神力が必要だ。その上、成功しても寿命を縮める結果となる」
 彫像の様に動かなかったテッカマンオメガだったが、ここで彼は右腕に持っていた自らのランサー、テックフルートをシンヤの前にかざした。彼を諌める様に、説得する様に。 
「シンヤよ……戦わずともブレードはいずれ朽ち果てる!」
「それなら尚更だ!! 生きている間に、ブレードを倒したいんだ! ブレードが進化したなら、俺も同じく!」
 シンヤは絶叫した。そして寿命が短くなると聞いてもシンヤは止まらないと言う事をテッカマンオメガであるケンゴは熟知していた。
「ケンゴ兄さんは、俺がタカヤより、劣ると言いたいんだね!?」
「違ぁうっ!!」
「だぁったら挑戦さしてくれぇっ!!」
 既に冷静さを欠いて、シンヤの声は裏返っている。ケンゴが幾ら大声で諭しても、厳しく叱ったとしても、絶対に止まる事の無い感情。それ程に今回の敗北はシンヤに大きな傷を残していたのだ。
「一パーセントの可能性でも、俺は構わない!! タカヤを……倒せるのであればぁっ!!」
 両腕をオメガに向かって懇願する様に、自分の命を差し出す様にして、突き出しながらシンヤは叫ぶ。
「ならぬと言ったらならぁんのだぁっ!!」 
「どぉぉしてっ!! どうしてなんだ兄さんっ!?」
「許せシンヤっ!!」
 突如、シンヤの足元に紫色の粘液が染み出して彼の足を絡め取った。それは以前、アックスが使った拘束用の樹液である。
「兄さん! お願いだぁ! ケンゴ兄さん!!」
 シンヤはその樹液で拘束されると共に、徐々に地面に沈みこんでいく。
「兄さぁぁぁんっ!!」
 彼の懇願はずっと続いた。だが、オメガはそれに耳を貸す事は無い。そして完全に樹液に覆われ、地面に埋没すると、辺りに沈黙が流れた。
 そして、地面から染み出した樹液のその表面に、赤いクリスタルが浮かび上がった。
オメガはシンヤからクリスタルを剥奪した。それはつまり、ラダムの侵略作戦の、現場指揮官を罷免したと言う事に他ならなかった。
 だが、彼がそうするのは、弟に対する愛情故である。今回、危うくエビルを失う所だったのだから。
「ケンゴ兄さぁぁんっ!! 出してくれぇぇっ!! 俺は死んでも構わないっ!! このままブレードに勝てずに終わるのは、もぉうイヤだぁぁっ!!」
 幽閉球の中に、全裸で拘束されたシンヤは声の限りに叫んでいる。
「ケンゴにいさぁぁぁん!! 聞いてくれにぃさぁぁぁんっ!!」
 彼の声はもう既に裏返り、涙声になって幽閉球の中で響いた。
だが、その声に応える者は、今の所、誰もいなかった。


☆っはい。せっかく復活した赤い人なのですが、ケンゴ兄さんの過保護っぷりのせいでさっさか途中退場となってしまいました。でもオメガ的にはいずれ朽ち果てるって思ってもそうはいかなかったりするワケで。実際にDボゥイがブラスター化した時点で、ラダム側は詰んでるって言っても過言ではないのですよね。次回からソード編が始まり、やはりフォン、女性テッカマンはしっかり仕事をする人です。今回の作画は正直止め絵が多いですね。せっかく板野作画だと言うのに。と言う事で非常に厳しい評価ですが三で御願いいたします。

第41話 エビル・蘇る悪魔(1992/12/1 放映)

いい顔してるねぇ

脚本:山下久仁明 絵コンテ&演出:吉田英俊  作監&メカ作監:佐野浩敏
作画評価レベル ★★★★★

第40話予告
ブラスター・テッカマンとして蘇ったDボゥイ。
だが、束の間の幸せを打ち砕くように、破滅への足音が迫り来る。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「エビル・蘇る悪魔」仮面の下の涙をぬぐえ。


イントロダクション
進化に成功したブレードは、遂にブラスターテッカマンとして蘇った。
「進化したテッカマンだと!?」
「逃がすかぁっ!!」
「うぅ……あぁっ!?」
「ボォルテッカァァーっ!!」
「うわああぁぁぁっ!!」
そして遂に、ランスを倒す事に成功したブレードであったが。
「Dボゥイ!?」
「Dボゥイは……本来使ってはいけない力を放出してしまったんだ……」
「そんな……! じゃあ、ブラスター化の影響って……」
「何処だ……!? バーナード!! うぉわああぁぁぁっ!!」



 
 

「さすがのラダム樹も、アラスカには根付く事は出来ないようですな……」
 新生スペースナイツ基地を見下ろしながら、輸送用ヘリの助手席からパイロットに語りかけたのは、老年の神経医学博士である。彼はフリーマンの要望でこの極寒の地に召喚された者だが、それはつまりDボゥイの症状の確認を行う為である。
彼らが見下ろす基地の全景は、広範囲に渡る氷の大地のひび割れた姿だった。永久凍土であるはずの数百メートルに及ぶ大地がこんな姿になったのは、ブラスターテッカマンのブラスターボルテッカの影響であろう。
 輸送ヘリがヘリポートに辿り着くと、ヘリの傍に一台の車が近付く。フリーマンがドクターを迎えに来たのである。彼は防寒具を着込み、ヘリから降りたドクターと堅い握手を交わして基地内に案内するとDボゥイを見守る治療室の隣、経過観察室に入って来た。
「……! チーフ……」
「何か変わった様子は?」
「昏睡状態が続いたままです……」
 ミリィがそう言って顔を曇らせた。治療室でのDボゥイは外傷も無く、ずっと眠りに付いたままだった。
もう既にブラスター化してから二日が経過している。ブラスター化を勧めたフリーマンにしても、神経医学に精通していると言うワケではない。彼にしても、Dボゥイのブラスター化には不確定要素が多く、何故昏睡状態が続くのか、結果がどうなってこの状態が続くのかが判明しないから、このドクターを呼んだのだろう。
彼にフリーマンは、ブラスター化の経緯などの大体の事情を通信で説明してある。勿論、Dボゥイがテッカマンブレードであると言う詳細等は内密に、と言う条件でこの基地に来てもらっていた。
 老年のドクターはコンソールを操作している医師の隣に着くと、
「頭部の断層映像を頼む」
 そう言ってモニターに注視する。CTスキャナーが横たわっているDボゥイの全身をくまなくスキャンした。そんな彼に、アキは声を掛ける。
「ドクター……宜しく御願いします」
 彼女の言葉に、しっかりと頷くドクター。
固唾を呑んで見守る面々。数分が経過した時、本田達が入ってきてフリーマンに尋ねた。
「どんな様子なんだ?」
本田の言葉に応えようとしたその時、ドクターがフリーマンに振り返った。
「ドクター?」
「脳血流に若干の停滞がある様に見えますが、ブラスター化に拠る後遺症なのか、確認できません」
神経細胞の状態は?」
「問題は無い様に見受けられますが」
「……他に、何か?」
「肉体的な異常は、認められないようです」
 フリーマンはそうドクターに言われて動揺していた。彼は椅子から立ち上がると、
「まぁ後は、本人の意識が戻ってからですな」
 そんな風に言って、ドクターは観察室から退室した。Dボゥイの症状が確認されるまでの暫くの間は、この基地に滞在するらしい。フリーマンはコンソールを操作している医師に彼を客室に案内する様に促した。
「どういうことだ……?」
 部屋がフリーマン達だけになると、彼らは疑問の表情を顕わにした。そんなチーフにレビンが尋ねる。
「確かテッカマンが次の段階に進化した場合、Dボゥイの寿命は長くて半年、って言ってたわよね? チーフ」
「シミュレーションでは、ブラスターテッカマンへの進化に、肉体が対応し切れないと言う結果が出たんだが……加え、各神経細胞に組織崩壊の兆候も見られた」
「それが、ブラスターテッカマンになった途端に、肉体的な欠点まで克服しちまった、ってワケかい?」
 本田はDボゥイの状態をそんな風に例える。何故そうなったか、と言う事を深く考えずに。
「チーフ……?」
 ミリィが俯いて考え込んでいるフリーマンの顔を覗き込んで尋ねた。
「……私のシミュレーションミス、と言う事なら良いのだが……」
「取り越し苦労、って奴かい!」
 バルザックが大仰に手を広げてそうほっとした。
「そんな事だと思ったぜ……心配させやがって……」
 本田は安堵するだけでなく涙目になっている。
「そうよねぇ!」
「本当に……良かったわ!」
 レビンも、ミリィもこの結果に喜びの表情をしてそう口にした。
「Dボゥイ……!」
 ずっと観察室の窓から彼の顔を見ていたアキが、感慨深く言った。この数日、最も生きた心地がしなかったのは彼女なのだろう。寝ても覚めても、仕事をしていても彼女の脳裏には後半年しか生きられない彼の事がチラついていた。いつもの精彩が無い彼女に、フリーマンは少し休息する様に命令した程だった。
 イレギュラーなブラスター化はイレギュラーな結果を生んだ。恐らくこの結果はDボゥイが不完全なテッカマンだからこうなったのだろう、と皆が納得し喜んだ。いや、フリーマン一人だけは、まだ怪訝な表情をしたままだったが。 
「シケた面だな、ノアル」
 ソルテッカマンのハンガー内で、キャットウォークに上る階段に腰掛けているノアルの傍に、バルザックがやってきてそう声を掛けた。ノアルはポッド内に収納されているソルテッカマンを見ながら、
「うん? そうか?」
 そんな風に応える。その表情はどこと無く呆けている感じだった。
「Dボゥイが、無事だった割にはな」
アキ同様、ノアルにしてもDボゥイと一番長い付き合いだけに、彼が無事に今後生きられると言う結果を聞いて心から安堵したのだ。緊張を解いたと言っても過言ではない程に。
「……この先、ソルテッカマンしか頼るモノが無くなっちまうって所だったんだぜ?」
勿論それだけでは無い。あのテッカマンと言う脅威にソルテッカマンだけで挑むと言う事を考えると、今後の戦いが気が気でなかったと言うのも安堵する理由の一つだ。
「そいつぁシビアな話だ! ラダムにしてみりゃこんなモノ、ガラクタ同然だもんな」
 本当は親友マルローの形見であるソルテッカマンをそんな風に卑下するのはバルザック的に気が引けたが、現実的にソルテッカマンがテッカマンに敵わないのは身を以て知っているからこその言葉だった。
「本当に良かったぜ……」
「またお宅と一緒に、ブレードの後ろで二人三脚ってワケか」
「あぁ、Dボゥイの足を、引っ張らないようにな?」
 ノアルはバルザックに振り向いて笑みを浮かべながら軽口を叩く。いつもの調子が戻ってきたらしい。
「へっ、お互いにな」
 バルザックもノアルの言葉を受けて、そんな風に笑みを浮かべながら皮肉を返すのだった。
 その頃、月のラダム基地では、シンヤがテッカマンエビルとなって司令官であるオメガに対面していた。
「身体の状態はどうだ?」
「もう完全に回復したよ、ケンゴ兄さん」
「うむ……」 
「今度こそこの手で! ブレードを仕留めて見せるさ」
「私は、この母艦と同化してしまった身体。本来なら同行する所だが……」
確かに、テッカマンオメガは謁見の間の玉座に位置する場所に、まるで彫像の様にそびえ立って動かない。こうしてエビルと会話している間でも、母艦の修復作業に没頭している様が窺えた。
「頼んだぞ、シンヤ……最早頼れるのは、お前だけだ」
「分かってるよ、兄さん。じゃ!」
 そう返すと、エビルは謁見の間を出て行った。その後ろ姿を頼もしそうに見送ったオメガは、たった一人だけしかいないはずのこの母艦で、一人ごちた。
「長い道のりだったが……我々ラダムも、ようやくここまで来た。不完全なテッカマン、ブレードとレイピアを作ってしまったが、我々にはエビルがいる! あいつが、必ずやブレードを倒してくれよう」
 オメガは我々、と言う言葉を使った。それは今生き残っているエビルやソード達に向けた言葉では無い様に見えた。
「我々ラダムが地球に降りる日は近い! 後はこの母艦の修復を待つだけだ……」
 そしてその時ラダム母艦の中枢に位置する場所の水槽で、何かの生き物が蠢いていた。小さい何か、それはラダム獣の様な、或いは別の何かの生命体だった。
 一応の所、Dボゥイに命の別状は無いと判断され、集中治療室から一般の病室に移される。彼の状態を看ようと病室を訪れたアキだったが、
「あ……Dボゥイ?」
 病室のベッドには誰もいなかった。意識を取り戻したDボゥイは既に自分のユニフォームである赤いジャケットを着て、ある場所に来ていた。
数十メートルに及ぶ広いブロック。天井には照明が設置されていて、空気はどちらかと言えば暖かく、人口建造物が密集したこの基地にしては、珍しく土の臭いが充満している場所。其処は様々な植物を育てる為のプラントであり、土のある所はこの極寒のアラスカではその場所しかない。
そんな土のある場所に、数個の墓碑があった。先日テッカマンランスの襲撃を受けて散った防衛軍兵士の亡骸を、フリーマン達が手厚く葬ったのだろう。その墓碑の一つ、大きなサバイバルナイフが供えてある墓の前にDボゥイは訪れていた。手には酒瓶を持っている。
「バーナード……」
 そう一言だけ口にすると、Dボゥイは持っていた瓶を開けて中身を全て墓碑に振り撒いた。それは酒が何よりも好きだった彼への、手向けだった。
――――俺はあんたに誓う。必ず、ラダムを倒してみせる……!
 そんな風にDボゥイは想う。ブラスター化に成功したあの瞬間、バーナードが身を挺して自分を守って散った事を彼は知っていた。バーナードが致命傷を受けたからこそ、怒りの化身ブラスターテッカマンになれた、とも思っている。そんな彼に対して、Dボゥイは恩を感じると共に深い畏敬の念を感じていたのだ。起きたばかりの彼は、まず自分がするべき事はこれだ、と心に決めていたのかも知れない。
「此処に来てたの、Dボゥイ」
 そう背後から声を掛けたのはアキだった。彼女はDボゥイが何処に行ったのかを聞きつけて、このプラントに辿り着いた。しかし、Dボゥイは無言だった。
「まだ寝てなきゃ駄目じゃない?」
 そう続けて言われると、彼はようやくアキに振り返った。 
「アラスカの地下に、こんな植物プラントが残っていたなんて……二百年前に閉鎖された宇宙開発基地なのにね」
 彼女は、この広いブロックを見回してそう語った。久しぶりの二人だけの時間。もう既に彼はしっかりと一人だけで立ち上がっているのを見て安堵し、今度はそんな彼にどんな態度で接しればいいのか分からずに、辺りを見回しながら世間話をしようとした。
 しかし、Dボゥイは怪訝な表情をしている。不思議そうな、物珍しいモノを見る目で、彼女を見ている。
「ね、Dボゥイ……どうかした?」
「俺は、相羽タカヤだ」
 そう、Dボゥイは、はっきりと口にした。
「え……えぇ、知ってるわ」
「だったら、Dボゥイなんて呼ばないでくれ」
 その言葉を受けて、アキはまるで愛の告白を受けた様に感じた。
「Dボゥイ……あ!……タカヤ……さん」
 アキは顔を真っ赤にして、Dボゥイの本名を呼ぶ。彼女はDボゥイが、自分の本名を呼んで欲しいと願っているのだと思った。二人だけでいるこの瞬間だけはそう呼んで欲しい。それは今までの様な、仲間としての関係から脱却したいのだと、Dボゥイがそう想ってくれたのだと、アキは判断した。
 だが、Dボゥイは素っ気無くその場を立ち去ろうとする。彼女を怪訝に見る表情は崩していない。それをアキは、彼なりの照れ隠しだと思う。
「Dボゥイ……」
 立ち去っていく彼を、少し浮かれ気味に、微笑みを絶やさずにアキは追い掛ける。だが彼女はここで、決定的な勘違いをしていたが、そんな事を知る由もなかった。
 丁度その頃、月から離れたテッカマンエビルは騎乗型のラダム獣に乗り、ラダムの前線基地であるORSのラダム獣育成プラントに立ち寄っていた。他のテッカマンと合流する為である。ORSからは時折ラダム獣が降下する様が見えていて、今現在でも地球にラダム樹を生やす事に余念が無い。
育成プラントをモニターする部屋を訪れたシンヤは、シャッター式のドアを開いてソードに声を掛ける。
「ソード」
「エビル様! 傷はもう宜しいのですか?」
 テッカマンソードの人間の姿であるフォン・リー、彼女は注視していたモニターから振り返ると、そんな風な言葉をシンヤに返した。
ラダムのテッカマンはラダム獣の育成や統率を思念波で操作するらしく、彼らにとっての統括は見るだけで行う事が出来る。つまり機械類の補助は必要とせず、モニターで状況を観察するだけでいいのだ。
「ランスはどうした?」
 フォンのその言葉を受けても、シンヤは余計な心配は無用だ、と言わんばかりに話を進める。
「エビル様が到着するまで、待てと止めたのですが」
「……俺に無断でブレードを?」
シンヤはそれを聞いて顔をしかめた。怒気を顕わにしている表情だ。
「それから間も無くして、感応波が途絶えました」
「馬鹿めっ! ブレードは何処にいる?」
 シンヤはランスが死んだ事を受けても、仲間である意識など皆無と言った感じである。命令違反、更に無駄死にした同胞など最早同胞ではないと言った表情で、死者に唾を吐く様なそんな顔をしながら、自分の敵である兄の居場所をソードに尋ねた。 
「詳しくは分かりませんが、アラスカの方角から感応波をキャッチしています」
「アラスカ……? ソード、お前も来い」
「いえ、私は此処に残ります」
「何?」
「オメガ様に、ラダム獣の統率を任されておりますから」
「お前は、兄さんの言う事しか聞けないんだな?」
「はい」
 フォンははっきりとそう応えた。幹部であるエビルに向かって、当然の様に彼の命令に逆らっている。ここでエビルは、オメガに通信してソードを随伴させる様に命令する事も出来たが、
「まぁ、いい」
 と言って一人で出撃する事にした。他のテッカマンの手など借りずにブレードを討ち果たす。それだけの為に今まで自分の身体を鍛え続けた彼にとっては、そんな面倒事を行うつもりは毛頭無かった。
 直ぐにまたテッカマンの姿になって騎乗型のラダム獣に乗ると、エビルは地球に降下し始める。
「ブレード……今度こそこの手で、貴様を地獄に送り届けてやる!!」
 早くブレードと戦いたい。早く自分の力を奴に試したい。そんな心境に支配されているテッカマンエビルは、一刻も早く兄に会う事を、心から渇望していたのだった。
 Dボゥイが復活して喜び合うのも束の間、スペースナイツの面々はブリーフィングルームに集まり、敵ラダムの調査結果などの報告をする会議を行っている最中だった。 
「ラダムはアルゴス号を乗っ取り、乗組員達を素材にテッカマンを誕生させた。恐らく、ラダムと言う生命体は自分自身で侵略行為を行う事が出来ない存在なのだ」
 フリーマンはまずそう切り出した。異星生命体ラダムとは一体どんな生態を持っているか、それらの整理をする為の会議であろう。ラダムの正体を突き止める。それは彼が一番懸念している最優先事項だった。
「しかし、ラダム獣は現実に地球に攻めてきてんだぜ?」
 バルザックがフリーマンの言葉にそう反論する。
「だが、ラダム獣はラダムそのものではない。主人に仕える下等な生命体でしかないのだ」
「ラダム獣を操っている奴が、テッカマンと言うワケか……」
 ノアルがラダム獣もテッカマンも、結局の所ラダムの尖兵である事をフリーマンの言葉で理解した。つまり、今までラダムと戦ってきた彼らでさえ、ラダムの本体と言う部分に触れてすらいない事を悟ったのだ。
「そして、テッカマン達はラダム獣の統率役……言わば、羊飼いとして地球に派遣された」
「相羽一家が犠牲となってしまったんですね……」
 ミリィが顔を曇らせながら、ミユキの事を思い出す。
「しかし、問題はその先だった。ラダム獣とテッカマンとの間に、納得できる接点を見出せなかった」
 同じラダムの尖兵として地球に派遣された彼らではあるが、かたや植物の塊の様な生命体と、機械パーツに覆われ生体改造された強化人間。その両者は余りにもかけ離れた存在だった。精々今現在で分かる事は、ラダム獣はラダムテッカマンの命令に忠実であると言う事だけだ。
「ねぇ……何の為に、ラダム獣を地上に送り込んでいるのかしら?」
 レビンが怪訝な顔で言う。ラダムの目的、単純な事ではあるが、彼らの目的が明確に見えてこない事に、彼らは不安を募らせている。
「ラダム獣は、地上では殺戮を繰り返している。だが、本来の目的は自らが植物として大地に根付く為の、環境作りだったのだ」
「しかし、ラダム樹を地上に生やして、どうするっていうんだい?」
「その答がこれだ」
本田がそう尋ねると、フリーマンは置いてあったリモコンを操作して隣のブロックに通じる窓のシャッターを開かせる。花が開いているラダム樹を目にして息を呑む面々。
「ラダム樹の花……」
ミリィはコレを見るのは三度目になるが、何度見ても慣れない異形だった。もう一度リモコンを操作してライティングされると、クリスタルの中の素体が見えてくる。Dボゥイはそれを見て、直ぐに俯いた。アキもそれを目にした後、直ぐに視線を逸らす。この素体テッカマンになった人間は同じ外宇宙開発機構の職員であるし、ひょっとしたら、ラダム樹の調査を熱心に行っていたアキがこうなる可能性もあったのだ。ラダム樹の花と素体に異常は認められない。ブラスター化の時に増幅器として使ったラダム樹の花はまだ健在の様だ。
「このラダム樹の様に、体内に人間を取り込み、テッカマンにする為……」
「つまりテッカマンを培養する事が目的の、植物生命体と言うワケですね?」
「その通りだ」
 アキの質問に、フリーマンが応える。そう、つまりラダム樹とは、相羽一家を襲ったモノと同一の、簡易テックシステムと呼ぶべき存在だった。
「ミユキさんが言ってた、ラダム樹の花が咲いた時、地球侵略は達成されるって、この事だったんですね」
「参ったな……ラダム樹は地球全体に広がっちまってんだぜ! 生き残った人間は一人残らずテッカマンにするってワケかい!」
 ミリィもバルザックも、ラダムの目的が見えてきて戦慄した。地球人の総テッカマン化、それがラダムの目的だったのだ。
/「でもぉ、あくまでテッカマンはラダム自身じゃないワケでしょう?」
だが、それでもまだ彼らは全ての答えに行き着いてはいない。パズルのピースが全て揃っていても、未だ空白は埋まらない様なもどかしさ。そんな現状をレビンが不思議に思う。
「だとしたら、ラダムにとって地球の人間をテッカマンに変えた所で、何の得になるって言うんだ?」
 本田がその場にいる者達の代弁者になった。ラダムのテッカマンがラダム自身でないと言うのなら、侵略者の目的の根幹は何なのか。地球人類を全てテッカマンに作り変えて無敵の軍隊を作り、新たな侵略を行うつもりなのか。ただ単純にラダムの部下となる同胞を増やす為だけなのか。ラダムの本体、と言うモノを誰も見た事も無く、彼らの侵略の理由が明確に見えてこないのは至極不気味だった。
「それが、今後の課題だ」
 フリーマンがそう、議論を締めくくる。
「そこまで分かれば十分だ」
 椅子に座っていたDボゥイが立ち上がって言った。
「俺はチーフに感謝している。おかげで俺はブラスターテッカマンになれたんだからな」
 ブラスターテッカマン、Dボゥイの新たな力。この力と月へ行く機動力があれば、ラダムと名の付くモノを全て消滅させる事が出来るだろう。それは取りも直さず、Dボゥイの最終目的なのだから。
「でも、今更ラダム獣を全部切り倒すなんて無理だわ」
「要は、月の裏側にあるラダムの本部基地だ。そいつを俺が叩き潰す。そうすれば、全てが終わると俺は思ってる」
 ミリィの不安げな言葉に、Dボゥイは頼もしそうに応えた。勿論、彼の行動原理は復讐だけではない。地球を救うと言う使命も忘れてはいない。それはDボゥイの父、相羽孝三の願いだったからだ。それが例え弟であろうと兄であろうと、ラダムの侵略を推し進めるテッカマン達を全て倒してみせる。殺してみせる。
 だからこそDボゥイは仲間達を見回した。地球を救い、ラダムを叩き潰す。スペースナイツのメンバー共通の目的は、最初から変わりは無い。Dボゥイは共通の目的を持つ同志達を見つつ、改めてラダムへの闘志を再燃するのだった。
 そんな風にメンバー全員が心を一つにしている時、テッカマンエビルはシンヤの姿に戻って、吹き荒ぶ風を受けながらアラスカの大地を踏みしめていた。
――――ブレード……!
 この大地の、何処かに自分の敵、そして兄であるブレードがいる。シンヤの双眸はまだ見ぬブレードの姿を睨みつけていた。シンヤはタカヤの感応波を頼りに歩き出す。此処からそう遠くない場所に、奴はいるはずだ。舗装された道路を、シンヤは一歩一歩、新スペースナイツ基地に向かって歩いていったのだった。
ブリーフィングが終わって、Dボゥイは自室でベッドに腰掛けて休息を取っている。壁に貼ってあるミユキの写真に視線を向けると、ベッドに寝転がった。その写真は、ミユキと再会したばかりのあの時、海辺で少しだけ一緒に歩いた時にノアル達に撮って貰ったモノだろう。写真のミユキは儚げではあるが、微笑んでいる。  
その笑みを見る度に、ラダムに対する怒りと憎しみが沸々と蘇る。本当はブルーアース号が飛びたてるのなら、今直ぐにでも月に行って奴らを叩き潰したい、仇を取りたいとDボゥイは思っている。寝ても覚めても、そんな事が頭の中で巡り、Dボゥイは空き時間を有意義に過ごせずに苛立ちを募らせていた。
その時、突然モニター通信のベルが鳴った。Dボゥイは物憂げにベッドから起き上がると、モニターの向かいに置いてあるリクライニングシート上のリモコンを操作して通信をオンにする。
「ね! Dボゥイ」
モニターに映ったのはアキだった。彼女は何故かタンクトップとショートパンツと言う、必要以上に薄着のままでDボゥイに話し掛けている。特にタンクトップのシャツは胸の部分しか覆っておらず、その姿はどこか扇情的で、極寒のアラスカには似つかわしくない。まるでこれから常夏の島でヒッチハイクして、ビーチバレーでも楽しむ様な姿だ。
 実はこれはアキの精一杯の自己主張とも言える行動だった。Dボゥイは、自分の事を名前で呼んで欲しいと言った。これはアキにとって、自分と彼の距離が近くなった証拠だと思ったのだ。端的に言えば浮かれていると言っても良い。ずっと彼の身を案じ、支えてきた彼女にはそんな風に一般的な恋人同士が行う様な、女性的な自己主張を一度はしてみたいと思っていたのかも知れない。
 勿論、そんな薄着でDボゥイの部屋に行く事は出来ないし、モニター越しの会話が関の山ではあったが。
 そんな彼女をDボゥイは無言で見つつ、シートに腰掛ける。 
「ブルーアース号の修復は、順調な様よ? あ……!」
「なぁ……アキ。何度も言わせないでくれ」
 アキはDボゥイ、と言う言葉を反射的に使ってしまっていた。それに対しDボゥイは怒りもしなかったが、少し不機嫌そうな表情をする。彼女の精一杯の勇気を、まるで気にもせずに、一蹴する様に。これはミユキの事を思い出して苛立ちを募らせていたのにも遠因があった。
「でも……急にそんな事言われたって……」
アキは顔を真っ赤にして、どことなく落ち着かない表情でDボゥイの顔を正視出来なくなる。実の所、彼女は今の年齢に達するまでこう言った恋人同士の付き合いをした事が無く、非常に疎い。それは彼女が男勝りな気性を持っていたからか。自分よりも強く、雄々しい男性を探し求めていたからか。
終始うつむいてもじもじするアキは言う。
「今までずっとDボゥイって呼んでたんだし……」
「俺を……Dボゥイと呼んでいた?」
「え?」
 突然、リクライニングシートに深く座っていたDボゥイが前のめりになってそう聞いてきた。 
「どうして俺を、Dボゥイと呼ぶんだ?」
「あ……どうしたの? 突然?」
「大体、Dボゥイって言うのは、どう言う意味なんだ?」
 その一言は、余りにもアキにとって強い衝撃を伴う言葉だった。 
「Dボゥイ……!」
Dボゥイ、デンジャラスボゥイ。その言葉の意味を彼は全く覚えていない。そう名付けられた記憶を、経緯を、まるでその部分がすっぽりと抜け落ちた様に、彼は自分が相羽タカヤと呼ばれていた様に思い込んでいる。
自分の素性を隠す為に記憶喪失だと偽り、ノアルが彼の行動から揶揄する様にDボゥイと名付けた事の顛末を憶えていない。その言葉はある意味、非常に異常な発言だった。
アキは直ぐに着替えてフリーマンの私室に向かった。
「何っ!?」
息を切らせて彼の部屋に飛び込んできたアキの言葉を聞いて、フリーマンは激しく動揺する。
そしてまたDボゥイの再検査が行われた。考えてみれば、目覚めたDボゥイが全く完治している様に見えたからか、意識が目覚めたら再び症状の確認をすると言う事を誰もが失念していた。
もう何処も悪くないと主張するDボゥイを、万が一の為に検査を行うのだとフリーマンは説得して、再び彼をCTスキャンに掛けた。老年のドクターは頭部の断層映像を見つつ、アキとフリーマンに説明した。 
「記憶中枢に問題があるかどうか……この、僅かな脳波の乱れが、脳細胞の異常を示しているのかも知れません」
「この程度なら、問題は無かったはずでは!?」
「以前、身体の各部に発生していた、神経組織の崩壊が、脳に負担を与えている事も考えられます」
「うっ……!」
 フリーマンはそれを聞いて愕然となった。端的に言えば身体全体の組織崩壊が脳神経に集中する事になったと言う事だ。脳神経の組織崩壊、それは記憶の喪失と言う症状を伴って彼に発現していたのだ。
「今後、ブラスターテッカマンになる度、脳に負担が掛かれば記憶中枢の機能障害が進行することも……そうなれば、視覚異常や記憶の混乱、更に欠如と言う症状が現われる事も充分に考えられます」
 そう、確かにブラスター化が成功した直後のDボゥイは視覚異常を起こして盲目になっていた。記憶の混乱や喪失は、Dボゥイと言う人格自身を崩壊させてしまう序曲でしかないと言う事なのだろう。
 アキはドクターの言葉を聞いて落胆し、フリーマンは目を伏せる様に歯噛みした。現状の医学では彼の脳神経崩壊を食い止める事も出来ないし、Dボゥイにテッカマンになって戦うな、と言えるはずも無い。つまりは現状維持し出来るだけDボゥイを戦わせない様にするしか、症状の進行抑える事は出来ないのだ。  
「ブレード……」
 そんな悪いタイミングで、シンヤはスペースナイツ基地の在り処を突き止め、既に潜入していた。彼が基地の搬入口で感応波を最大限に発すると、それに応える様にDボゥイの額にクリスタルの紋章が浮かび上がる。
「Dボゥイ!」
その時アキが彼の行く手を阻む様に彼を抑えた。Dボゥイは前をしっかりと見据え、目の前にいるアキなど眼中に無いと言わんばかりに、彼女の手をどけて先を急いだ。
「エビルが……」
「あ……なに?」
 アキは、どんどん先を進む彼の腕にしがみつくが、Dボゥイは歩みを止めようとはしなかった。
「エビルが基地に潜入している!」
「待ってDボゥイ! Dボゥイ!!」
 彼に症状の説明をしようとしたが、アキは言い淀んでしまう。例えDボゥイと言う言葉が彼のニックネームだと、テックセットする度に記憶を失っていくのだと、説明してもDボゥイは戦いを止めないだろう。
「俺はテッカマンブレード、相羽タカヤだ! 奴らを倒さなければいけないんだ!!」
「あっ!!」
腕にしがみつくアキを、Dボゥイは振り払った。まるで思い合っていた事など忘れてしまったかの様に。そして走り出した。エビルがいる場所に向かって。
「Dボゥイ……」
一人取り残されるアキ。しかし呆然としている訳にも行かず、敵のテッカマンが侵入してきた事をフリーマンに伝える為に、彼女も走り出すのだった。
搬入口に車でやってきたDボゥイは、照明が落ちた暗がりの中で立ち塞がるシンヤを、ヘッドライトの光で確認すると直ぐに降りて対面する。
「久しぶりだね、兄さん」
「エビル……やはり生きていたか!」
「当たり前さぁ! 兄さんとの決着を付けるまでは、死ねないよ?」
笑みを絶やさずにそう言うシンヤ。Dボゥイは突然怒りを露わにして襟首に掴みかかった。
「俺も! お前達を倒すまでは、死ぬわけにはいかないっ!!」
襟首を掴みながら、シンヤを激しく揺すった。彼らの再会は半年振りになるのか。最後に会ったのはミユキが散華した時の事。それを思い出して、Dボゥイは激情に捉われている。
「はっきり言ってくれるじゃないか……」
そして、掴んだまま側面のドアに押し付けた。ドアが強引に開かれ二人は部屋になだれ込むと、其処は植物プラントを観察する為の展望室であった。狭い展望室それ自体には昇降機能があり、三階程の高さに上昇出来る仕組みになっているらしい。
掴みを振りほどいたシンヤに、右拳を振り上げるDボゥイ。その右拳をすっとかわして両腕で掴むと、Dボゥイを左側面の壁面に強かに叩き付けた。その衝撃でスイッチが入り、展望室は徐々に上昇していく。
「俺達は双子だよなぁ?」
せまい場所で組み合う二人。直ぐにまた襟を掴んで壁に叩き付けるDボゥイ。
「んぅ! 兄さんの好きな兄弟愛はどぉしたんだいぃっ!?」
掴みを振りほどいて兄を押すシンヤ。Dボゥイの右肘が部屋の隅に設置してあった植物観察用のモニターにぶつかって割れる。組み合って壁に叩き付ける二人の暴力が展望室内で何度も巻き起こり、壁や設置された機器がその度に破壊されていった。
「何の話だっ!!」
 また強引に組み合う。Dボゥイには全くためらいが見られなかった。今までシンヤの姿を前にすれば、どちらかと言えば腹を探る為の会話を行ってきたDボゥイだったが、こんな風に激情を顕わにして暴力的になるのは、今までに無かった事だ。
「そう言う事か……」
「俺にあるのは、ラダムへの怒りと憎しみだけだぁっ!!」
「ぬぅぅっ!!」
 シンヤは渾身の力でDボゥイを壁に押し付け、彼の首を掴んで締め上げる。口元がひきつり、シンヤはサディスティックに笑った。それをDボゥイは、空いている足でシンヤの腹を蹴る。倒れこむシンヤだったが、直ぐにDボゥイの目の前に立ち塞がった。
「昔はこうやって喧嘩もしたよねぇ? えぇえっ!? 兄さぁんっ!!」
「あぁあっ!!」
 シンヤもDボゥイの激情に応える様に、彼の両肩を掴んで雄叫びをあげた。シンヤの両腕を振り払い、仇敵の首を絞めようとして壁に押し付けようとするDボゥイだったが、逆に腕を取られ、押し込まれてしまう。
「おわぁっ!!」
 押し込まれた壁面の対面にあるのは、植物プラントを見渡す為の展望ガラスだ。展望室が三階分の高さに上ったその直後、Dボゥイとシンヤは窓ガラスを打ち破って植物プラントへと落下する。
 激しくガラス片が乱れ飛び、押し込んだシンヤも勢い余って落下する。下が土ではあるとは言え、三階分の高さから落ちれば生身のDボゥイ達はただでは済まないはずだった。だが、丁度二人が落下する真下にあったのは照明器具だ。
 屋根付きの照明器具は本来、プラント全体にスプリンクラーによる雨を降らせた時の雨よけ器具だった。その屋根の天板がクッションとなってぶち壊れたおかげで、二人は傷を負う事無くプラントへと降り立った。
うずくまっていた二人は直ぐに立ち上がって睨み合った。
「せっかく昔を思い出させてやろうとしたのに……そう言うつもりなら仕方ない……」
 シンヤはそう言うと、懐から即座にテッククリスタルを取り出して叫んだ!  
「テック! セッタァァっ!!」
 紅い眩しい光が周りに満ちると、テッカマンエビルの輪郭がその光から浮かび上がる。腋に取り付けられた高機動用フィン、ラムショルダーを装備した肩と、凶悪な爪の様な掌。三叉矛を象った冠や全体的なカラーリングは何処と無く毒の花を思い起こさせる血の色の様な赤と暗い茶褐色。そんなテッカマンエビルのテックセットはブレードのテックセットとは正反対な印象を受けるが、それでも尚彼の変身する様は美しかった。
翼を大きく左右に伸ばした様なクリスタルが粉微塵に割れると、エビルのテックセットは完了した。
「くっ! ペガァスっ!!」
「ラーサー!」
 Dボゥイはそれを受けて即座に自分の相棒の名を呼んだ。基地内にエマージェンシー警報が鳴り、ブルーアース号のエンジン調整を行っていたレビンと本田がペガスが出撃していくのを見て驚愕する。
だが、エビルはDボゥイの相棒が到着するまで待ってやるほど親切ではない。エビルは右腕のラムショルダーを構えると、生身のDボゥイに切り掛かった。
「死ねぇっ!!」
 Dボゥイはその凶刃を飛び退ってなんとか避ける。ラムショルダーの刃が、Dボゥイの背後にあった鉄骨を粉々にした。彼はペガスが到着するまでの数分を生身で耐えねばならない。
屈んだ状態のDボゥイにエビルが飛び上がって躍り掛かり、ラムショルダーを振るって彼を切り裂こうとする。地面に刃が突き立てられ深く刺さったとしても、テッカマンの膂力で地面ごと切り裂き刃がDボゥイを追った。執拗に振るわれる刃をDボゥイは土埃に塗れながらも何とかかわしてきた。
Dボゥイも逃げてばかりいるのではない。傍らに落ちていた鉄パイプを拾い上げると、
「だぁぁっ!!」
 両腕で構えてエビルに対し反撃を試みた。生身であっても、哀れな狩られる側ではないと言う意思表示を見せて精一杯反抗した。勿論、テッカマンと言う存在は鉄パイプごときで阻める相手ではない。
攻守を兼ね備えるラムショルダーでDボゥイの鉄パイプを防御すると、空いていた左腕でDボゥイの身体を強かに殴る。辛うじてその攻撃をパイプで受け止めたが、その衝撃でパイプはひしゃげ、もんどりうってDボゥイは倒れ伏した。
「ブレード! これが最後だ!!」
 巨大な鉄扉の前に倒れ伏したDボゥイに、エビルが悠然と叫びながら迫る。武器も無く無防備なDボゥイだったが、その表情に諦めは無い。そしてその直後、Dボゥイの背後にある鉄扉がゆっくりと開いていった。
「ペガス!」
「ラーサー!」
 ペガスがようやく到着して、鉄扉をその怪力で開いていった。Dボゥイの号令を受けると、胸部のバルカン砲が火を吹きテッカマンエビルを怯ませる。この基地に到着してからペガスの武装もラダム獣の爪が加工されたモノが装填されているらしい。エビルはその銃撃が鉛の弾丸で無い事を一瞬で悟り、何とかラムショルダーで銃撃を受け止め凌いだ。
「ペガス! テックセッタァァっ!!」
 その隙を見逃すDボゥイではない。テックセットコードをペガスが受けると、背部パネルを展開しつつ背中をDボゥイに向ける。走り出したDボゥイがテックセットルームに搭乗し、背部パネルが閉められると、直後頭部を展開して射出される様にテッカマンブレードが出現する。
テッカマン! ブレード!!」
 飛び上がったブレードは、エビルの後方に着地すると、そう雄叫びを上げて戦闘態勢を整えた。兄弟の再戦はまだ始まったばかりであった。
 そして丁度その頃、ブリーフィングルームに集まったスペースナイツの面々は警報を受けてフリーマンから事情を聞いている最中だった。
「それで、Dボゥイの身体が、どうしたって言うんだ!?」
「彼は今、記憶の混乱を起こしている」
「自分がDボゥイと呼ばれている事さえ分からないのよ」
 バルザックの言葉を受けて、フリーマンとアキはDボゥイの現状を説明した。
「そんな……!」
 ミリィがそう言いながら表情を曇らせた。つまりこれはブラスター化の影響でそうなったと言う事を、彼らは理解する。
「これ以上戦えば、症状が進行する恐れがある……ノアル! バルザック!」
「ラーサ!!」
 二人が同時にそう応え、スペースナイツはDボゥイの支援に出撃するのだった。
 植物プラントではテッカマン同士の戦いが巻き起こっていた。それは、先程展望室内で起こった暴力の比では勿論無い。両者は突進し両手で組み合うと、力比べで相手を威圧しようとする。しかしここでテッカマンブレードは違和感を覚えた。エビルのパワーが増している様な感覚がある。 
「てぇっ!!」
 このまま組み合うと力で負ける様な気がしたブレードは、組み合いから離れ、空中で槍をランサープロジェクターから取り出し、テックランサーを合体させて構えた。エビルもそれに応じて、両腕を上げると、虚空からランサーを形成して迎撃態勢を整える。
「どぉおりゃああぁぁ!!」
 雄叫びを上げながら走り出し跳躍すると、テックランサーをエビルに向かって渾身の力で叩き付けた。だが、エビルはその攻撃を真っ向から受け止める。ブレードのパワーで土を踏んでいたエビルの爪先が少しだけ埋没した。着地したブレードは、何度もランサー攻撃を行うがエビルは的確にその攻撃を受け止めいなしていった。
 ブレードはここで思った。テッカマンエビルの技能や膂力が今までに遭遇した時のとは、比べ物にもならない事を。激しくぶつかり合う槍と槍。叩きつけられるランサーを時にはテックシールドで防御し、テッカマンブレードはエビルの攻撃を辛うじて凌いでいく。
 叩き付ける槍の攻撃がいつしか押し合いになった直後、テッカマンエビルは押し合いから脱して、ランサーを十字型にしてブレードに投げ付けた。
「とぉぉっ!!」
地面を切り裂きながら迫るランサーを、バク転で何とか回避するブレード。十字ブーメランとなったテックランサーをエビルは軽々と跳躍して空中で回収すると、一瞬でランサーモードに戻し、そのままブレードのいる場所に向かって吶喊した。
「うぉあっ!?」
 ガキィンと鈍い音が鳴って、ブレードのランサーは弾き飛ばされた。同時に体当たりを食らってブレードは地面に倒れ伏してしまう。先程ブレードが行った空中からの振り下ろしを、今度はテッカマンエビルが行い、これをテッカマンブレードは受け止められなかったのだ。
この時点で、両者の実力は拮抗してはおらず、明らかにテッカマンエビルが優位に立っていた。弾き飛ばされたブレードのランサーは、バーナードが葬られた墓碑の直ぐ傍に突き立った。
「……さらばだっ!! ブレードォっ!!」
 倒れ伏して、無防備なテッカマンブレードテッカマンエビルは大きく槍を構えると、一番装甲の薄い腹部、剥き出しの素体に向かってテックランサーを振り下ろす!
「ぐぉわああぁぁぁぁっ!!」
 断末魔が、植物プラントに響き渡った。
テッカマンブレードの命運や、如何に!?






佐野先生原画の凄い回です! この話は前後編で分かれて、次の回になると凄い違和感がある妙な話ですね。月面のイブとかナスカとか思い出します(笑)それにしても誰しもがイケメン&可愛いキャラばっかりでビックリですよ。本田は男前でレビンなんて凄い美形に映っていますね。アキの勇気を出してタンクトップはちょい浮かれ過ぎな感もしますが、まあ半年の寿命から生還したんだから勘弁してあげてください、と言う感じでしょうか。話は別に何一つ進んじゃいませんが、次回でシンヤが休憩してくれないとソードのお話が組み立てられないので、仕方なくまたヤラレキャラを演じてもらう訳です。だから前編は活躍しないとねエビルさんは(笑)
作画見事としか言い様が無い描写ばかり。特にキャラの表現が凄い細かくて、一人一人の表情が一番多彩な話です。この回だけで良いから一度だけ見ておけ! と言う位のお話でした。

第40話 愛と戦いの二人(1992/11/24 放映)

延々とあーだこーだ考えます。

脚本:あみやまさはる(構成) 絵コンテ&演出:殿勝秀樹  作監&メカ作監:井口忠一
作画評価レベル ★★★☆☆


第39話予告
テッカマンとして戦い続けるDボゥイ。戦火の中、その姿を見続けてきたアキの瞳に写るものとは?
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「愛と戦いの二人」仮面の下の涙をぬぐえ。



イントロダクション
テッカマンランスによる、新生スペースナイツ基地への襲撃は、調整を完了させたDボゥイが、進化したテッカマン、ブラスターテッカマンブレードの活躍により撃破する事で収束した。今現在、基地は平穏を取り戻し、月のラダム母艦基地への攻撃作戦を行う準備を、スペースナイツのメンバーは着々と進めていた。そんな最中、ブラスター化の副作用によりDボゥイは昏睡状態に陥り、未だ目覚めていない状況にあった。


 
<新規>新生スペースナイツ基地の指令所でオペレーティングを行うミリィ、それを後ろで指揮するフリーマン。ソルテッカマンの整備を行うノアル・バルザック・レビン。ほぼ修復されたブルーアース号を見下ろす本田。そして、昏睡状態にあるDボゥイをモニター越しに見つつ、自室で休息するアキ。
「ブラスター化したDボゥイは、今も眠り続けている。あれから24時間以上経つと言うのに。神は、Dボゥイにどれだけ過酷な試練を与え続けるのだろう。彼は、いつまで苦しい戦いを続けるのだろうか……」

<第37話>ブラスター化により、寿命は三ヶ月になると説明するフリーマン、調整を決意するDボゥイ。
「もし……その時が来たら、私は……私は一体……」

<新規>窓の外の夜空に、流れ星を見つけるアキ。
「そう……考えてみれば全てはあの日から始まった。あの日……彼が光となって空から落ちてきた、あの日から……」

<第1話>ダガーに突き落とされ、成層圏から落下するテッカマンブレード
「外宇宙開発機構の私とノアルは、あの日もラダム樹の分布調査をする為、テキサス州に立ち寄っていた。突如ラダムに襲撃された地球……人類は、彼らの前に無力だった。街は荒廃し、人々の心には諦めの色が浮かび始めていた。そんな絶望に包まれた地上に、彼は空からやって来た。その出会いが、天与の時になるとも知らず……空から落ちてきた彼、名前も過去も、全てを失っていた彼を、私達はDボゥイと言う愛称で呼んだ。」

<第1話>ブルーアース号を強奪しORSに到達するDボゥイ。ノアル達の前でテックセットする。
「彼の話によると、地球を襲う生命体の名はラダム。そして、それに関する数々の衝撃的事実が彼の口から明らかになるが、私達には全ての事を事実として受け止める事は出来なった。でも……私は彼が嘘をついているとは思えなかった。それは、Dボゥイが私達の目の前で、その姿を、テッカマンブレードに変えたから……!」

<第2話>ORS探索中ダガーに遭遇する三人。交戦するテッカマンテッカマン
「私達は、ラダムと普通に戦う彼を、仲間として受け入れようとした。けれど彼は、私達の助けを必要とせず、いつも孤独な戦いに突き進んでいた。」

<第6話>干渉スペクトル光でテックセット出来なくなり、窮地に陥るDボゥイ。
「何故? 何故……何故! 彼はこうまで頑なに、私達の助けを拒むのか。何故彼は仲間と言うものを信じようとしないのか。その答えは戦いの中で徐々に明かされていった」

<第21話>廃教会でのシンヤとの再会。
「全てのラダム側テッカマンが、Dボゥイの仲間であり、肉親と言う、恐るべき事実がそこにはあった。更に、最も強敵とされるテッカマンエビルは、Dボゥイの双子の弟、シンヤであった」

<第13話>廃墟で激しく交戦するテッカマンエビルとテッカマンブレード
「それにしても、何と言う宿命なのだろう。かつての友が、肉親が、敵となって戦う。そして、決して負ける事は許されない。何故なら負ければ、それが、私達人類の最期だから……」

<第16話>自室のベランダからDボゥイを見つけるアキ。しかし声を掛けられる雰囲気ではない。
「一体私達は、Dボゥイの為に何が出来るのか。私達に出来る事……私達? 本当に私は、Dボゥイを仲間として見ているのか? 私の中に、そんな漠然とした疑問が広がっていくのを感じ始めていた……」

<第18話>テックセットによる不安から戦闘不能に陥るテッカマンブレード
「そんな自分の、Dボゥイに対する本当の感情に気付いたのは、彼が戦闘不能となり、軍に連行された時だった」

<第19話〜第20話>自暴自棄になるDボゥイ、説得するアキ。「貴方の30分を私にちょうだい!」
「暴走の恐怖から心を閉ざしたDボゥイ。そんな彼を目の当たりにした時、私は戸惑った。私は一体、彼の何を見てきたのだろう。私の前にいる青年は、ただ恐怖に怯える、一人の弱い人間の姿であった。そして私は気付いた……そんなDボゥイを、どうしようもなく……愛してしまっている事を……」

<第20話>復活するテッカマンブレード。ラダム獣の群れに必殺のボルテッカ
「貴方は悪魔じゃない……貴方は人間。私達と同じ人間なのよ! その事を忘れないで……」

<第23話>エビルと交戦するレイピア、救出するテッカマンブレードとハイコートボルテッカ。そして再会。
「ようやくスペースナイツのメンバーとして、そして仲間として、心を通わすようになったDボゥイ。その安らぎも、私の淡い想いも……Dボゥイの妹、ミユキさんを追ってきたエビルとの戦いの前に全てが消えてしまった……やっとの思いで再会した兄と妹。けれど、それはDボゥイを更なる苦しみへと送り出す、序曲でしかなかった……」

<第26話>エビルによるスペースナイツ基地への襲撃。テックセットするレイピア、そして散華。
「不完全なテッカマンでありながら、Dボゥイと同じく人の心を持つテッカマンレイピア、ミユキ。その命は、もう後僅かであった。そしてDボゥイの悲しみに追い討ちを掛ける様に、エビルがスペースナイツ基地に猛攻を掛けてきた。全てが終わろうとした時、ミユキさんは命を投げ捨て、レイピアに変身した。私達を守る為、その小さな命を燃やして……」

<第28話>放浪するスペースナイツ。
「スペースナイツもミユキさんも、そしてDボゥイまでも、全てが光の渦に消えてしまった。けれど、ラダムとの戦いは続く。私達生き残ったメンバーは、悲しむ暇も無くトレーラーで世界を移動しながら、ラダム樹の調査と、月面ラダム基地へ向かう為に必要な宇宙船を探し、旅を続けていた。そしてDボゥイが、何処かで生きている事を信じて」

<第28話>Dボゥイとの再会。
「何となく、みんながDボゥイを諦め始めていた。でも私は、信じていた。Dボゥイは必ず生きている! そして何事も無かった様に、また私達の前に現れてくれるって。それだけを信じて……そう思わなければいられなかったのかも知れない。その日は、足音も無くやってきた」

<第36話>アックスとの死闘の決着。
「ようやく再会した私達とDボゥイ。けれど、ラダムは侵略の手を少しも緩め様としなかった。相次ぐラダムとの死闘により、Dボゥイの身体も、心も傷ついていた」

<第37話>組織崩壊で倒れるDボゥイ。
「運命は遂に、Dボゥイの肉体をも侵し始めた。組織崩壊……そしてブラスター化……!」

<新規>オーロラを見上げるアキ。
「私には、後半年の命を燃やして戦い続ける彼を見つめ、彼の為に祈るしかないのだろうか。そして、その時が来たら、私はどうするのだろう? けれどその時が来るまでは……いいえ、その時が来て彼が息絶えたとしても、私は彼の為に祈り続け……愛し続けるだろう。あの、流れ星の様に落ちてきた、あの人の為に。私が出来る事は……それしかないのだから……」


☆三回目の総集編です。この話はアキのモノローグで進んでいきます。しかしアキは皆が皆寝ずの作業行ってるのに何で休憩してるんだろうか、とか思ったり(笑)ああ、交代制なんですね、そう言う事にしておきましょう(笑)タイトルは愛と戦いの二人と書いてありますが、実際に余りDボゥイとアキが急接近したりするお話は省かれていたり(笑)これ何処が愛と戦いの二人なんだ? と首を傾げる感じもします。29話とか32話とか34話とか、二人っきりになったお話とか色々あるはずなのに、何故かそんな描写はすっ飛ばされて延々と今までのお話の総集編でした。愛と死の予感の21話もさらっと通り過ごすだけだし。まあ相羽一家と関わるとヒロインであろうと脇役になるしかない、そんな感じもあるのでしょうね。
新規作画はいたって普通。ベッドに座ってあーだこーだ考えるアキの描写だけと言う。でも、正直な話一週間のアニメ作業を毎週続けるのなら、こう言った総集編入れないとやってられないと言う、そんなスタッフ達の思いが痛い程に分かります。自分ちょっと遅れてたしね(笑)

第39話 超戦士ブラスター(1992/11/17 放映)

ジャキン!!

脚本:岸間信明 絵コンテ:殿勝秀樹 演出:西山明樹彦 作監:敷島英博 メカ作監中村豊
作画評価レベル ★★★★★



第38話予告
生と死の狭間で一人戦うDボゥイ。迫り来るランスの牙の前に一人の男が立ちはだかる。
次回、宇宙の騎士テッカマンブレード「超戦士ブラスター」仮面の下の涙をぬぐえ。



イントロダクション
アラスカに完成した新スペースナイツ基地へと帰還したのも束の間、Dボゥイの肉体の組織崩壊は最早テックセット出来ない程に進行していた。
「不完全な君がブラスター化するには、肉体的に無理がある。仮にブラスター化に成功しても、その命はもって半年。その上、成功の確率は50%だ」
「それでも構わない! やってくれ、チーフ! 俺は戦わねばならないんだ!」
その肉体を、ブラスターテッカマンに進化させる事を決意したDボゥイは、生か死か、50%の確率に全てを賭けるのだった。



スペースナイツ基地に再びラダム獣が襲来する。とは言っても、此処はグランドキャニオンではなく、極寒の地、アラスカである。本来、ラダム獣はエネルギープラント等が無ければ無闇には建造物を襲わない。だが、この元宇宙基地である新生スペースナイツの根城を襲う様に仕向けているのはテッカマンランスであった。彼は、水中ラダム獣が追跡したグリーンランド号の足跡を辿って、この基地に行き当たったのだ。
飛行ラダム獣が繭を投下すると、繭は陸上ラダム獣に変化する。陸と空から無数の敵が襲い来る。獣達は、マイクロウェーブ波を受信するアンテナや地上にある建物を蹂躙し始めた。一部の建物にいたスタッフ達が地下を目指して避難を開始するが、爆発に巻き込まれて死傷者が出る。
そして襲撃の余波は、地下深くにある実験施設にも響いていた。建物が破壊される度に、天井から細かい埃がスペースナイツのメンバー達に降り掛かって来て、彼らに動揺が走った。
「持ってくれよぉ……」
「後一時間だってのに……!」
 ノアルとバルザックがそう言って、この最悪のタイミングで敵の襲来が起こる事を歯噛みする。
「Dボゥイ……」
 アキは、宙吊りにされたペガスを見上げて彼の苦悶の声が聞こえた様な気がした。
「くうぉあぁあぁっ!!」
 実際に、ペガス内部で調整を受けている彼は凄まじい苦しみに必死で耐えている。しかし、この小刻みな振動が彼にどんな影響を与えるか分からない。重傷患者の手術にこういった最悪の状況が良くない結果を生み出しかねない、そう思ってアキは調整作業を行っているフリーマンに声を掛けた。
「チーフ、一度中止した方が良いんじゃ……」
「チーフ……」
「チーフ!」
 Dボゥイを心配する余り、レビンやミリィも同様に声を掛ける。
「それは出来ない」
だがフリーマンは、メンバーに振り返ってそう静かに言った。
「ただでさえブレードのブラスター化には極めて不安定な要素が多い。もし途中で調整を中断したら50%どころではない。ブラスター化の副作用で、Dボゥイの肉体は完全に自己崩壊してしまうだろう」
「……っ!!」
 それを聞いて絶句する面々。もう引き返す事も中断する事も出来ないと言う事を知り、彼らはまた動揺した。
 だが、そんな風に焦る彼らに、元防衛軍特殊部隊軍曹の、バーナードが余裕たっぷりに言う。
「なぁに、要するにあと一時間、ここを死守すりゃあいいんだろ? フリーマンの旦那ぁ?」
「そう言う事になるな」
 もう後戻り出来ないのなら、踏ん張るしかないと言う事を聞いて、レビンが握り拳を振り上げた。
「やるわよぉ! ブレードの為なら、本気で命懸けなんだから!!」
「おうともよぉ!!」
 本田も巨大なスパナを持ってそれに応える様に叫ぶ。
そして、フリーマンは座り込んでいる歴戦の兵に言った。
「バーナード軍曹」
「おう?」
「作戦の指揮は軍曹にお任せします。宜しいですか?」
「あいよ! へへへ……」
 気軽に応えた隻眼の兵士は、持っていたライフルを肩に担いで立ち上がると、自分の部下と、スペースナイツの面々に向かって言った。 
「いつも俺は部下共には何としても生き延びろと言ってきた。戦場じゃ生き残った者が勝ちだからな……」
 常に生き残れ、それはDボゥイにも語り掛けた言葉だった。生き残り、再び仲間の命を助ける。例え軍の命令に背いても、何よりも命を大事にする彼らしい言葉だ。
「だがな、今日は違う。何としてもボウヤを守り抜け! てめぇの身体がどうなろうとな!!」
「おぉっ!!」
 そうバーナードが叫ぶ様に言うと、ノアルが、バルザックが、アキやレビン、そしてミリィでさえも、気合を入れて、拳を高らかに揚げて応えた。この大一番を死守すると言う目的で、彼らは一丸となったのだ。
「よぉーし、じゃここにいるメンバーで三チームを編成する。例え上官でも、文句は言わせねぇぜ?」
「へっ、分かってるさ、元軍曹さん!」
 バーナードがそう言って、バルザックが応える。彼らは同じ軍隊にいた同士ではあったが、その階級は大いに開きがあった。バルザックはオペレーションへブンが失敗した時点での階級は中佐、バーナードは軍曹である。バルザックにしてもバーナードにしても今現在はスペースナイツに参加している義勇兵と言う立場だった。 
軍曹がコンソールを操作すると、このアラスカ元宇宙基地の図面がホログラフィックで表示される。宇宙基地は地下に施設の殆どを埋没させていて、どちらかと言えば台形を逆さまにした様な形をしていた。
「まずソルテッカマンの兄ちゃん達は、バケモノ共の数を、なるたけ減らしてくれ」
「オーライ、毎度毎度の雑魚掃除ってワケね?」
 そうバーナードに言われて、ノアルは応えた。既にソルテッカマンを装着する為のアンダースーツを着ている二人は、いつでも出動出来る様、迎撃体勢を取っていた。
「本田とオカマちゃんは、俺の部下と基地内に侵入する敵を防げ。場所はここと、ここ。二人一組でチームを組め!」
 二人一組、つまり軍隊用語で言う所のツーマンセルで本田とレビンは指名された。バーナードの部下も四名いて、丁度三部隊の編成が出来上がる。ツーマンセルはある意味お互いをフォローし合って生存率を高める有益な戦術である。
しかしオカマと言われたのが微妙に気に食わないのか、
「ちょっとちょっとぉ! ちゃんとレビンって呼んでよぉ!」
「静かにして、レビン。それで? 私は何処を守ればいいの?」
 レビンが抗議の声を上げるが、アキがそう言ってピシャリと黙らせて言った。
「あ、あたしも! 何処ですか?」
「嬢ちゃん達は俺と一緒にここにいろ。ボウヤを守る最終防衛線ってワケだ」
「ラーサ!!」
 アキと、そしてミリィもそれに応える様に胸の前で腕を構えて了解する。これはある意味バーナードなりの美徳である。例え最悪の状況にあったとしても、全滅するかも知れないと言う危機にあっても、女性や子供は最後の最後に死んだ方がいい。それは彼の主張でもあった。
「勿論、フリーマンの旦那にも戦ってもらいますぜ?」
「こう見えても、射撃の成績はAだった……」
 実弾式ライフルを投げ渡され、そう言いながら受け取るフリーマンも元軍人である。彼は弾装を外して弾を確認する。連合地球暦となった現在で、レーザーガンの様な銃器とは違い、火薬式の銃器は珍しい部類にある。
「この銃の弾は特別製だ。ラダム獣の爪を加工して作った弾頭で出来ている。奴らを戦闘不能に追い込む位の威力はあるだろう」
 フリーマンは、ラダムに対抗する為には通常のレーザーガンでは効果が無い事を理解している。そこで、ラダム獣の残骸から爪を回収し、テッカマンソルテッカマンに頼らない歩兵用の武装を模索していたのだ。そこで行き着いたのが、このラダム獣の爪の弾頭だった。
 彼がコンソールを操作すると、様々な武装が収納されているケースが床からせり上がる。
「他にも、ショットガンタイプ、マシンガンタイプ、爆裂弾タイプがある。好きなモノを持って行きたまえ」
「なるほど、目には目を、ラダム獣にはラダム獣の爪ってワケか」
「ありがてぇ!」
 ノアルとバルザック、そしてバーナードの部下達や一番武器に縁遠いミリィでさえも、それらの武装を物色する。レビンや本田、ミリィは本来非戦闘員ではあるがスペースナイツに任命された時点で、ある程度の戦闘レクチャーは受けているのだ。
「よぉーし! ぼやぼやしてる暇はねぇぜ! 野郎ぉ共かかれぇっ!!」
「ラーサ!!」
 各々、武装を受け取ると、バーナードの号令を受けて散開した。
 その頃地上では、自動防衛機構が氷を模した擬装用ハッチから出現し、対空砲撃を開始する。空を埋め尽くす飛行ラダム獣がそれを受けて爆散した。この防衛砲台に装填された弾もラダム獣の爪を用いているらしい。だが所詮動かぬ砲台では雲霞の如く迫り来る陸上ラダム獣の波を止められない。次々と砲台は駆逐され、戦況はやはり芳しくなかった。
 散開したスペースナイツの面々が各々の防衛任務に就いた直後、実験ブロックの入り口に、二重の分厚い隔壁が閉じられた。これでこのブロックから出られる唯一の出口が塞がれ、実験施設は密室になった。
「これでとりあえずは大丈夫だ。この強化単結晶合金の扉なら、ラダム獣の攻撃にも耐えられるだろう」
「ヒュー! そいつはありがてぇや。仮に破られても、死ぬ時ゃ可愛い姉ちゃん二人と同じ棺おけってワケだ」
 フリーマンがそう言うと、バーナードは口笛を鳴らしながら陽気に応えた。
「……ちと色気が足んねぇがな?」
「あぁん!!」
 軍曹はそう、素っ頓狂な素振りで傍に立っていたミリィの尻を素早く触った。ミリィは悲鳴をあげながら飛び上がる。そんな少女の反応がおかしくて軍曹は豪快に笑った。
「んもぉ〜!!」
 また触られては溜まらないと、ミリィは膨れながら助平親父から距離を取る。そんな風の二人を見ていて、アキは緊張を緩めて微笑んだ。とても絶体絶命とは思えない状況だったが、彼がいてくれるからそんな悲観的な現況が払拭されるのだ。
 相変わらず地上部にある基地は蹂躙され尽くされ、壊滅状況に陥っている。そんな時擬装用の隔壁が開いてソルテッカマンの二人が出撃しようとしていた。
「さぁ! ショータイムと行こうぜ、ノアル!!」
「エンドマークまで一時間、果たしてどっちが主役かな?」
襲来する飛行ラダム獣が粘液弾を二人がいる場所に撃つ。
「決まってるぜぇっ!!」
 そんな襲撃を華麗に回避し、バルザックは叫び、バックパックに装備された拡散フェルミオン砲を撃つ。
「生き残った方だろぉっ?」
 ノアルもそう叫びながら、フェルミオン砲を展開し、戦闘を開始した。
「そう言う事ぉっ!!」
 もう何度目の防衛戦だろうか。しかし彼らのフォーメーションは長い旅を経て、極限までに練磨されている。こうしてラダム獣の襲撃の波は、彼らによって一時的に阻まれるのだった。
 そんな彼らの戦いぶりを崖から見下ろす一人の男がいた。
「ふん……」
 赤いコートを着て長い髪を後ろ手に結んだ男の名はモロトフ。またの名をテッカマンランス。彼は先程までテッカマンの姿でいたが、今現在はテックセットを解き、ノアル達の奮戦振りを鼻で笑っている。
そして、ソルテッカマン達が出てきた隔壁のハッチに目を付けたのであった。
「ふふん、レビンとのコンビも、久しぶりだな!」
「そう言えばここんとこペガスとばっかだったもんねー」
 新生スペースナイツの基地通路をレビンと本田がそう言いながら巡回している。普段彼らが持つ事は無い、長大なライフルを携えながら。そう話している時に、また小刻みな振動。レビンは持ち慣れないライフルのせいで体勢を崩しそうになるが、それを本田の大きな腕が受け止めた。
「おぉっと!」
「もぉっ! こんなの持ってたんじゃ、腕も足も太っとくなっちゃうじゃないのよぉ!!」
「いいじゃねぇか。男らしいレビンにイメチェンってのも」
「冗談じゃないわよぉ。進化したブレードには、変わらず美しいあたしを見てもらうんだから!」
 そう、いつもの様にふざけた態度で言った直後、レビンは表情を曇らせる。 
「……生きて……出てくるわよね? 親っさん」
「あぁ! 絶対にな!」
 恐らく、Dボゥイがテッカマンとして出撃しなければ、一蓮托生の状態に彼らはあった。そんな風に不安そうに言うレビンを、本田は微笑みながら元気付ける。
――――必ず出てこいよ……Dボゥイ!
 本田は信じていた。Dボゥイと言う男を。その信念を。そして、仲間としての絆の力を信じていたのだ。
 丁度その頃天板を外し、暗いエレベーター内にモロトフは降り立っていた。階下のボタンを押すと、エレベーター内の電灯が灯り、降下していく。
「ふふふ……」
 テッカマンである彼が、こうして人間の姿になって潜入するのは理由がある。外で戦っているソルテッカマンの二人に邪魔されない様にする為だ。その気になればソルテッカマン達とブレード、三人を相手に戦う事も辞さない程自信に満ちている彼ではあるが、基地防衛にテッカマンブレードがいつまで経っても出撃しない事をモロトフは不審に思った。物事をスマートかつ迅速に処理したい彼にとっては、ブレードが出てくるまでアックスの様に暴れるよりは、基地に潜入しDボゥイの暗殺を行う、と言う方法に出たのだろう。
「待て! 何者だ! この先は立ち入り禁止だ!」
 だが、辿り着いたその階に、エレベーターの前で警備していたバーナードの部下に発見されてしまう。ライフルを向けられ威嚇する兵士に対し、モロトフはあくまでも無表情でエレベーターを降り、彼に歩み寄った。
「き、貴様ぁ……所属部署と姓名を名乗れ!!」
「名前はモロトフ。所属は……ラダムだぁっ!!」
 モロトフは素早くダッシュすると、一瞬の内に兵士の懐に入り、兵士の首を絞め上げた。
「くっぐあぁっ!!」
 バーナードの部下であるその兵士にしても、相当の修羅場を潜った完全武装の男達であるはずなのに、刹那の間、銃撃も出来ずに首を取られた。それも左の片手で軽々と持ち上げられ、兵士はその強力な握力で絞められ、遂には鈍い音が鳴る。首の骨が折れた音だ。
「ふん!」
モロトフはゴミを投げ捨てる様に兵士をコンクリートの壁に投げつけると、絶命した彼は強かに叩き付けられ、壁にめり込んだ。その腕力や素早さ、人としての能力を完全に逸脱している。
妙な方向に首が折れ曲がった兵士をその場に残し、モロトフは通路を進み始めた。しかし、足元に設置されたセンサーが侵入者を感知し、天井に設置された指向性爆弾が破裂する。
 通路に爆裂音が響き渡った直後、更に通路の曲がり角から兵士達がミサイルランチャーを構えて躍り出て、爆心地にいる敵に向かって撃つ。彼らは素手で仲間が殺された所を一部始終聞いていたのだ。最早敵か味方か、等と言う問答は必要ないと言わんばかりに銃撃する。更にレビン達もその攻撃に加勢し、マシンガンやショットガンを乱射した。
「あの世へお逝きぃっ!!」
「狭い通路の中じゃ、逃げ場は無いぞぉっ!!」
 通路が銃撃の弾痕でボロボロになり、最後にまたミサイルを撃ち放たれ爆煙が巻き起こった。
 銃撃を中止して、その結果を見定める兵士達。
「おぉっ!?」
 煙が晴れるより早く、何かが爆煙から出現する。鉈の様な武器が振り下ろされた直後、レビン達の目の前に残ったのは、兵士達二人の下半身だけだった。
 モロトフは天井の爆弾が破裂した直後に、テックセットを完了させていた。今目の前に出現したのは、テッカマンランス。ラダムの尖兵であり非情な殺人鬼であり、スペースナイツや人類にとって最大の脅威である。
「うっ!? おあぁっ!!」
 ランスは一瞬で兵士二人を惨殺し、後ろにいたレビンと本田には目もくれず、もう一人の兵士を捕まえて本田達の前に突きつけた。この間に経ったのは数秒ほどである。恐ろしい程の素早さだった。
「くっ……やめろ! レビン!!」
 本田が慌ててレビンの銃撃を止めた。今撃てば兵士を殺してしまう。
「これも君達クズ共の愚かな弱点だ。いかに勇敢な戦士と言えども、仲間を盾にされると必ず躊躇する……」
 テッカマンランスは流暢な英語でレビン達に語り掛けつつ、歩み寄って来る。
「卑怯よぉっ!!」
「ブレードは何処だ! 私はブレード以外に興味は無い。蟻共を踏み潰したところで退屈なだけだ」
「蟻だとぉっ!! 舐めおってぇ!!」
「ふ、伏せろぉっ!!」
 本田がランスのその言葉を受けて憤慨していたその時、捕まえられていた兵士が突如叫んだ。爆裂弾が詰まったバックパックから何かのピンを抜きながら。
「あっ!?」
 本田とレビンはその叫びを受けて跳ねる様に飛び退り、体勢を低くした。直後、兵士のバックパックが大爆発を起こす。どうやら抜いたピンは、中に詰まった爆発物を着火させる為のモノだったらしい。爆裂弾タイプのラダム獣の爪の弾頭は、周囲に夥しい弾痕と爆煙を残す。
 人質になる位なら、爆発して諸共に果てる。兵士の覚悟は、彼自身の遺体を残さない程に粉微塵になった。 
「や、やったのかしら?」
「分からねぇ……気をつけろレビン!」
 煙が収まり、爆発した場所へと戻る二人。だがその先に見たものは驚くべき光景だった
「はっ!?」
「おぉっ!!」
 テッカマンランスは健在だった。だが立っている場所が明らかにおかしい。彼は壁に直立しているのだ。レビン達から見れば、丁度真横に立っていると言う不可思議な現象で、重力を無視していなければ出来ない芸当だった。
「ふん……原始的な武器だ」
 ランスは自分の右胸に刺さった針を抜いた。零距離で爆裂したラダム獣の爪の弾頭はランスのテックアーマーにほんの少しだけ傷を残していた。その傷を受けて、彼の頭部に付いた鶏冠状のパーツが跳ね上がった。どうやらその鶏冠は彼が怒りに塗れると起き上がる様になっているらしい。
「が……蟻如きが、この私の身体を傷つけるなど断じて許せん。その報い……君達の武器で受けるがいい!」
ランスは破裂した兵士のショットガンを何時の間にか奪って本田達に向けた。それを携えて一歩一歩壁に直立しながら歩いてくる。三連バレルのショットガンにはやはりラダム獣の爪の弾頭が詰まっている。
「死ねぇっ!!」
「レビン! 伏せろぉっ!!」
 本田がレビンに飛び掛る様に押し倒した。直後ショットガンは乱射され、本田達がいた背後の壁を穴だらけにする。すると、経年劣化で脆くなったコンクリートの壁が崩れ落ちてきた。丁度本田とレビンが倒れ伏している場所に降りかかった。二人はその瓦礫を受けて気絶してしまう。
 動かなくなった二人はまだ生きている。そんな二人に対して、ランスは壁に直立するのをやめて床に立った。
「さて、せめてもの慈悲だ。貴様らの武器で死ぬがいい」
そう言いながらランスは引き金を引き絞った。が、ガキンと引き金を引いても弾丸は出ない。二度、三度と引いても出ない。どうやら先程撃ち過ぎて弾が無くなった様だ。
「ふん……弾切れか。運のいい蟻共だ!」
 ランスはその気になれば自らのランサー、テックグレイブを使って本田達にトドメを刺す事は出来たが、何故かそうはしなかった。一度こうと決めたら遣り通す主義なのか、それともただ面倒なのか。ランスは持っていたショットガンを怪力で捻じ曲げ投げ捨てると、背部のスラスター噴射しながらで通路をダッシュし始めた。
「ブレードめ……何処に隠れようと必ず見つけ出してやるわ!!」
 かくしてレビンと本田は何とか生存できたが、これでランスの障害は最終防衛線のアキ達だけとなった。
研究室ブロックでは、アキとミリィが固唾を呑んでペガスを見上げている。
「あと五分……」
 既に数十分が経過していた。フリーマンはモニターを見ながら言った。後たったの300秒なら、敵の襲撃に対して間に合うと思った。だが、壁に張り付いて座っていたバーナードは足音を察知する。
「ん……来たぜ!」
小声で他の者に声を掛ける。
「散れっ!!」
 バーナードに小声で命令され、四人は巨大な扉の両側に配置した。持っているライフルを携えながら。
「敵……だな」
「じゃあ、敵のテッカマン!」
 彼は近付いてくる足音で敵と判断し、アキはラダム獣よりも脅威である敵テッカマンの存在を認識した。
「でも仲間って事も……」
「ンな事ぁねぇ」
「どうしてです? きゃっ」
 ミリィが怪訝に思ってそう尋ねた直後、隔壁を激しく叩かれて瘤のように盛り上がった。
「嬢ちゃん、あんたのダチで、ボウヤの他にこんな真似出来る奴いるかい?」
「で、ですね……」
「ミリィ……下がっていたまえ!」
「ラ、ラーサ」
 最早四人は覚悟を決める時だった。フリーマンが傍にいるミリィを気に掛けた直後、隔壁扉に穴が空く。敵テッカマンによる抜き手で、扉は数箇所穴を開けられ、徐々にその強度が脆くなっていった。
「いいか、扉が破られると同時に一斉攻撃だ……五分だ! 後五分ペガスに近付けさせんじゃねぇぞ!!」
 バーナードが他の三人にそう命じた時、五箇所目の穴が開く。隔壁扉は丁度人が通れる大きさにくり貫かれ、強かに叩かれるとズズンと大きな音と共に倒れ込み、破られた。
「行けぇっ!!」
 両側に配置していた四人は、扉が倒れ込んだ直後に躍り掛かって銃撃する。暗闇に向かって皆腰だめに構えたマシンガンを乱射する。薬莢が辺りに散乱し、数秒の後にバーナードが号令を出した。
「よぉーし、やめろぉ!!」
 撃った暗闇の先は硝煙で火薬の臭いが辺りにたちこめる。ミリィは恐る恐る他の者に尋ねた。
「や、やっつけたんですか?」
「……っ」
アキが暗闇の先に突入する。銃をいつでも撃てる様に構えながら、扉の外側をくまなく見回した。
「誰もいないわ」
「なんだとぉっ?」
 確かに誰かがいたはずだ。現に扉はこうして破られている。銃撃を察知して一度扉を離れたのか。しかし!
「はっ!?」
 アキは気配を感じて上を見た。すると、テッカマンランスは天井に直立しながら余裕の腕組みをしている。
実はテッカマンランスのテックアーマーには、重力制御能力が付随している。この機能を使えば慣性の働く宇宙のような無重力下であっても、障害物や隔壁に降り立つ事も出来るし、重力下の地上でも壁に直立する様な芸当が可能になるのだ。司令官の補佐を行う参謀型としてはある意味上位の装備であり、テッカマンとしては特殊な装備であるかも知れない。
そして勿論、身体の表面に銃弾を歪曲させる様な障壁を張ることも可能である。この機能を使ってレビン達やアキ達の銃撃を回避し続けてきたのだろう。さすがに至近距離で自爆されたら無効化出来ない様だが。
 アキは驚愕して銃を天井に向けようとしたが、それよりも早くテッカマンランスは目にも止まらぬ素早さで彼女の目の前に降り立ち、アキを強かに叩いた。
「ああぁっ!!」
 アキは持っていたライフルでその攻撃を反射的に受け止めたが、テッカマンの怪力で大きく吹っ飛ばされてしまう。常人ならその掌底で重傷を負ってもおかしくは無い、強かな攻撃である。アキの卓越した身体能力があるからこそ、軽傷で済んだのだろう。吹っ飛ばされたアキはバーナードに受け止められるが、遂に実験ブロックに敵の侵入を許してしまった。扉を潜って四人を見ながらランスは言う。 
「君達も救いが無いな……私が此処に来た事実だけで、君達の兵器が私に通用せん事位、分かりそうなモノだが……ブレード如きの出来損ないと違い、私は完全なテッカマンなのだからな」
赤い目を光らせ、目線を上に上げると、ペガスが宙吊りにされて様々な配線を付けられているのを見つけた。
「其処にいたか……だがブレード、不完全な貴様が今更何をしようと言うのだ?」
最終防衛線の四人はテッカマンを前にして固まり、動けなかった。彼の素早さは銃弾さえ回避し、直撃を受けても跳ね返す。しかしバーナードだけは、腰の手榴弾に手を伸ばし、ランスの隙を窺った。
――――後一分……!
 秒数を数えていたフリーマンは無言でそう心の中で呟く。
「くっ……」
 調整は最終段階を迎え、Dボゥイの脳裏には今までに出会ったテッカマン達の残影が蘇る。ボルテッカで消し飛んだダガー、笑みを浮かべながらボルテッカを撃ち放つアックス、仲間達を守る為に散華したレイピア、そして未だ決着の付いていないテッカマンエビル。彼らの姿が繰り返し浮かびあがっては消えていくのを思い浮かべ、Dボゥイは絶叫を上げた。 
「うぉわああぁぁあっ!!」
 その叫びを受けて、アキがペガスを見上げる。遂に調整が終了を迎えるのだろう。
「Dボゥイ!?」
「貴様達! ブレードは何をしている!?」
 ペガスの配線が吹き飛びスパークが走るのを見て、ランスが彼らに威嚇する様に言った。今攻撃を受けたらDボゥイにどんな影響が起こるか分からない。そんな時、突如バーナードが腰の後ろに装着された手榴弾を外しながら叫び、走り出した。
「みんなぁっ!! 伏せろぉっ!!」
「おのれ性懲りも無く!!」
「でえぇああぁぁっ!!」
バーナードは手榴弾を投げずにランスに突進していった。それを受けてテックランサーを構えたランスは、バーナードの胸板を刺し貫く。だが、バーナードは致命傷を負いながらも手榴弾を持ったままランスの首に腕を巻きつかせ、目の部分に直接手榴弾を当てながら起爆した。
強烈な光が迸る。テッカマンランスはその光で右目の視力を失った。
「どぉだぁっ!! 宇宙用信号弾の味はぁっ!!」
 宇宙用信号弾とは、爆発力の無い閃光手榴弾の一種である。テッカマンに対して何一つ現状の武器が効果無いと知っていたバーナードは、時間稼ぎの為に決死の覚悟でランスの目潰しを狙ったのだ。
「ぬぉわぁっ!! ぐぅっ! おのれぇっ!!」
「ぐわああぁぁっ!!」
しがみ付いていたバーナードを強引に引き剥がすランス。致命傷を受けたバーナードは何とかフリーマンに受け止められた。
その時、ペガスが動き出した。
「なに!?」
腕に装着された固定具をその強力な腕部で壊しつつ外し、宙吊りになった状態から脱する。轟音と共にペガスがアキ達の目の前で着地する。
「Dボゥイ!」
「危ないアキさん!!」
 駆け寄ろうとしたアキをミリィが抱きつきながら止めた。ペガスが着地したとは言っても、まだ固定具が降ってくる恐れがあったからだ。
「や……やったか!?」
 フリーマンはペガスの状況を見て成功の可否を見定めた。すると、ペガスの頭部が開き出現する人影が。
「あれは……」
 その人影はテッカマンブレードだった。ブレードは碧の眼光を煌かせ、腕組みをしつつランスを睨み付ける。
「あれが、進化したテッカマンなの!?」
「進化したテッカマンだと!? 馬鹿な、何一つ変わっていないわ!!」
 ミリィの言葉を受けて、テッカマンランスはそう声を上げた。テッカマンが進化出来る等、彼は聞いた事も無かったからだ。その時、テッカマンブレードは突如雄叫びを上げた!!
「うおおぉぉっ!!」
 突如ブレードに変化が起こった。全身が碧の光、フェルミオン光に包まれ、外装のテックアーマーがまるで燃え上がる様な現象が起こると、その煌きの中から巨大なテックアーマーが出現する。ボルテッカ発射口を兼ね備えた巨大な肩は更に大きくなり、斜め上に鋭角的な外装を施す。腹部が見えていたボディのテックアーマーも同時に巨大化し、素体部分が見えなくなり、腋のフィンもそれに伴い装甲に覆われていく。勿論、下半身の装甲も隙間無く強化され、装甲の脆弱なテッカマンブレードがマッシブに変化していく印象があった。
「おおぉぉぉわあああぁぁっ!!」
 そして頭部の装甲形状も変化しガッシリとした仮面を装着し、最後に背部から巨大なフィンスラスターが伸長して変身を完了させた。これがDボゥイの、テッカマンブレードの新たな姿だった。
「こ、これが……!」
「進化したテッカマン、ブラスターテッカマンの姿だ」
 フリーマンがそう、アキに言った。その威容を形容するなら、翼をはためかす美しき白鳥の様であり、無慈悲な侵略を行うラダムに対しての、恐ろしい怒りの鬼神でもある。
その名もブラスターテッカマンブレード
「ブラスターテッカマンだと!? ば、馬鹿な! 我ら以上の完全体など存在しない! これでも喰らえぇぇっ!!」
 ランスは目の前に起こった現象を深く理解出来ずに、動揺しながらもブラスターブレードに奇襲を仕掛けた。両肩の三つの穴からレーザー光が迸る。フェルミオンの光の矢を無数に撃ち放つテックレーザーと称される武装だ。それはダガーのコスモボウガンと同種の武装であるが、速射力と連射力は桁違いの威力だった。
 両肩から放たれたテックレーザーは見事にブラスターブレードに集弾し直撃して爆風を起こした。通常のブレードならその攻撃を受けただけで戦闘不能になってしまう程の威力だといえるだろう。だが、
「ふん、他愛も無い……うん!?」
 ブラスターブレードは爆風から突如飛び出してきた。
「何っ!?」
 そしてテッカマンランスの首を掴むとそのまま壁に叩きつける。いや、そのまま壁を貫通し、まるで掘削するように各階の頑丈な床を打ち破って地上を目指していった。物凄いパワーだった。
「ブラスターテッカマンか……凄ぇじゃねぇか……」
 両テッカマンがいなくなった実験ブロックで、フリーマンに支えられたバーナードは急所を刺し貫かれ、瀕死だった。
「目が見えねぇのが残念だが……そ、そのパワー……ビンビン身体で感じるぜ……」
 力無く、既に視力すら侭ならないが、彼はDボゥイの生命力を、ブラスターブレードのパワーを肌で感じ取っていた。そして懐からウィスキー瓶を取り出し、
「これで一安心……ぐっぅう」
 栓を口で外し一口呷ると、呻き声を上げて瓶を取り落とす。
「バーナード!」
「バーナード軍曹!!」
 決死でランスに特攻した時間稼ぎは無駄では無かった。 
「ボ、ボウヤぁ……」
 アキとフリーマンに看取られ、バーナードは今わの際にそう一言告いで絶命したのだった。
「うぉわああぁぁっ!!」
 雄叫びをあげながら上昇する両者。ブラスターブレードは基地の隔壁すら軽々と打ち抜いていく。
「むぅっ!?」
「な、なんだ!!」
 丁度交戦していたバルザックとノアルがいた足元を打ち破ると、ブラスターブレードはランスを掴んだまま地上に躍り出た。 
「あれはっ!! ブレードっ!?」
 テッカマンブレードの形状がどう見てもいつもの姿とは違う。それを見てノアル達はDボゥイが調整を成功させて生まれ変わったのだと悟る。
「は、放せっ!! ボルテッカァァっ!!」
 超スピードでまだ上昇するブラスターブレード。ランスはブラスターブレードの掴んでいた右腕を両腕で何とか引き剥がした直後、首部に装備されているフェルミオン発射口を展開させ、ボルテッカを撃ち放った。
「ふん、幾ら進化したと言えども、この至近距離からのボルテッカではひとたまりも……」
 ランスのボルテッカ発射口は三門しかなく、ある意味テッカマン中では最も威力の低い武装であるが、ほぼ零距離からの反物質粒子砲はどんなテッカマンであろうとも消滅を免れないモノである。しかし!
「何っ!? まさかっ!!」
 赤い光の中からスパークを迸らせながら、ブラスターブレードが出現する。進化したブラスターテッカマンの装甲表面には、不可視の強力なフェルミオンバリアが施されている様だ。
ブラスターブレードは、背部スラスターを全開にして、ランスに掴みかかった。
「うぉわぁっ!?」
「クラッシュっ! イントルードっ!!」
 真上に何とか上昇し、回避したランスだったが、ブラスターブレードはすかさず特攻攻撃クラッシュイントルードでランスを追う。
「うおぉっ!! くあっ!!」
 音速の体当たりすらも凄まじく強化されている。ランスは重力制御能力を最大限に使用して特攻攻撃を跳ね返そうとしたが、逆に弾かれる始末だった。パワー、スピード、防御力、全てにおいて圧倒されているテッカマンランスは、ラダム獣の群れに混じって撤退を行おうとした。
「逃がすかぁっ!!」
 ブラスターブレードはガシンと音を立ててボルテッカ発射口を展開した。だが通常のブレードとは大いに違う。胸の前で両腕を水平に構えると、両肩と両肘の装甲がスライドする様に外側に展開した。肩と腕に三門ずつ、更に両腰に二門ずつ。計18門のボルテッカ発射口が顕わになった。
「うぅっ!! あぁあっ!?」
 それを目にしてテッカマンランスは恐れおののいた。自分自身の六倍モノ火力を想像する事が出来ずに、ランスはブラスターブレードから必死で距離を置いた。つまり死の恐怖を感じて怯え、逃げ惑ったのである。
 ごぉんと虚空が振動する。ブラスターブレードのエネルギーの集約する音だった。スパークを走らせながら、胸の前の空間が湾曲した。それに伴い、ブレードを中心にして重力波の変動が起こる。重力波とは通常で言えばブラックホールが存在する様な空間で起こる事象のはずだった。つまり、マイクロブラックホール並のエネルギーの集約が、ブラスターブレードに起こりつつあったのだ。
 それを受けて、周りに散在していたラダム獣に変化が起こった。陸上ラダム獣はまるで重力の塊に押し潰される様に圧壊し、空を漂っていた飛行ラダム獣さえも衝撃波で消し飛ばされた。これは全て、ボルテッカを撃つ前の余波である。余波だけで周囲にいるラダム獣を撃滅してしまう程に、そのエネルギーの集約は長大で強大だった。
「こりゃあやばそうだぜ!? ノアル!!」
「危ねぇっ!!」
 重力波が自分達に及びそうなのを見て、地上から見上げていたバルザックとノアルは危機を感じた。もう既に避難している時間が無い二人は、ラダム獣達が蹂躙した基地の残骸に隠れた。
「はあぁぁあぁっ!!」
 呻く様に、野性を剥き出しにする仮面の中のDボゥイは絶叫した!!
「ボォルゥテッカアアァァっ!!」
 ボルテッカを越える超ボルテッカ、ブラスターボルテッカが放たれた。発射される瞬間、ブレードのテッククリスタルが集約されたエネルギーの象徴となり、粉々に砕け散ると、暴風の様なエネルギーの奔流が巻き起こる。それはノーマルテッカマンボルテッカの比ではない。それは射撃する様な攻撃ではなかった。碧の光が面で襲ってくる、まるで天災の様な現象と言っても過言では無かった。
「うわああああぁぁあっ!!」
 目の前に迫る、碧の光のヴォルテックス。その渦が自分を呑み込んだ瞬間、テッカマンランスは断末魔の絶叫を上げた。反物質の台風とも言えるエネルギーが彼の全身を消滅させていったのだ。
 そして爆発。テッカマンランスとラダム獣の一群はその光に呑まれた瞬間巨大な火柱を上げた。そのエネルギー量は、テッカマンレイピアがその命を使ってエビル達を撃退させたあの時のエネルギーとほぼ同等だったと言える。
 全ての敵を撃破し、勝利したスペースナイツではあったが、ソルテッカマンの二人は建物に隠れたモノの、ブラスターボルテッカの余波で動けない程のダメージを受け、擱坐していた。
「凄ぇぜ! これが進化したテッカマンのパワーかよ!」
 バルザックはその壮絶な力を見て、頼もしくもあったが、恐ろしくもあった。
「ともかく、これでエンドマークってワケだ……」
「そのようだな……」
 戦闘が終了した時は既に夜になっていて二人は夜空を見上げた。北極圏の近くにあるアラスカには、また美しいオーロラが見えていた。
 崩壊し掛かった実験ブロックに、Dボゥイを収納したペガスが降り立つ。ブラスターボルテッカを撃った直後に発見されたブレードは、元のテッカマンに戻り意識を失っていた。それをペガスがテックセットルームに収納し、スペースナイツのメンバーの前に帰ってきたのだ。
「Dボゥイ!!」
 背部パネルが開き、Dボゥイが出てきたが、直ぐに膝を付いてしまう。アキが彼に駆け寄るが、Dボゥイの様子がおかしい。目は真っ赤に充血している。彼は視覚に変調を来たしていた。
「Dボゥイ? Dボゥイ!! チーフ……これは……」
「Dボゥイは……本来使ってはいけないパワーを放出してしまったんだ……」
 フリーマンが静かに、そう言った。まさか、目が見えなくなるとは思ってもいなかったらしい。
「そんな! じゃ、ブラスター化の影響って……!?」
 アキはそれを聞いて不安に思った。まさかこのまま更に他の感覚が消失していくのではないか、そんな風に動揺したのだ。
Dボゥイは確かに組織崩壊の危機から免れた。だが、ブラスター化に成功しても余命は三ヶ月となった。更に言えばこれは誰も成しえていない調整の成果であるから、今後どんな影響が起こるか、誰にも、分からないのだ。
「何処だ……みんな!? アキ……バーナード!」
 Dボゥイは立ち上がって、暗闇を歩く様に手を出して探した。
「何処だ……何処にいるんだ……!?」
 そんな目の見えない彼の姿が他の者達にとっては哀しく、辛い結実だった。
「何処だ……バーナード……」
 Dボゥイの足が、バーナードの遺体に触れる。彼が既に亡くなった事実を言うのが辛くて、堪らなくなって、アキは目を背けた。
「うぅっ!! うぉわああああぁぁぁぁっ!!」
 絶句するメンバーの前でDボゥイは絶叫する。確かにテッカマンブレードはラダムの襲撃に完全勝利したが、その代償は大きかった。バーナード軍曹の死と、Dボゥイの視覚の変調である。
残りのラダムテッカマンは三人。だが、これから彼の身に何が起ころうとも、Dボゥイは戦いを選ぶだろう。例え目が見えなくなろうが、四肢が千切れようが、戦いが行えるのなら、戦い続けるのだろう。
全てのテッカマンを葬り去るまで、その戦いには果ては無い。



☆っはい。さてもさても、ようやく出来た初のブラスター化の回でしたが……どうなんだろう、ちゃんと表現出来ているのでしょうか。やっぱり映像の迫力には負けるよなー。それでも無い頭捻って何とか作り上げたんです。コレを読んで、ブラスターテッカマンの迫力が追体験出来たらイイナ、と思っております。
 作画はやっぱり最高。41話の原画も勿論良いんですが、やはりブラスター初回は何度見ても最高の原画だと思います。後、サブリミナル画像(笑)オウム事件が起こって以来、そう言う画像は自粛されて言ったんだとか。これも時代ならでは、ですね。